魔宝戦姫はふたなりチンポにガチ恋する 作:人の心を捨てないと書けない
「…ここ、どこ…?」
ふかふかのベッドの上で、僕は目を覚ました。特に寝具にこだわりのない僕でも、自分の家のベッドがぺちゃんこに感じられる程の凄く良いものだとわかる。
「なんで、こんなとこ……にっっっ!」
起きあがろうと体を起こした瞬間、背中に痛みが走る。どこかにぶったような、ズキズキとした痛みだ。
「……! ここはっ…まさかっ…!?」
「はい、お察しの通りです」
「……っ!」
声のする方角へ顔を向けると、そこには女性が立っていた。いや、女性と言って良いのだろうか。シルエットは紛れもなく女性なのだが、その体は半透明に透き通っていた。
「私はライム。スライムのライムです。覚えやすいでしょう」
「そ、そうですね…」
敵意は全く感じない。だけどここは、間違いなく敵地だ。油断はできない。
「背中が痛むのですね。…では、少しひんやりしますよ」
「へ…? ひゃっ!」
ライムが僕の背中に手を入れた。湿布を貼った時のような感覚がする。
「あっ…な、何してっ…」
そのまま背中をモゾモゾと弄るライム。ちょっとだけ痛気持ちいい。
「はい、終わりましたよ」
「……? あ、あれ、痛く…ない」
「それでは行きましょう」
そう言って、混乱する僕に有無を言わさず何処かへ連れ出すライム。
ここは…おっきなお城みたいだ。そして、その中には今までに僕達が倒したような怪人達がいる。
「ら、ライムさん…ここは…」
「いずれわかります」
ライムはただ、僕をどこかへ連れて行く。そして、大きな扉の前に辿り着いた。…どこか、緊張感を感じる。
「それでは、私はここで。準備ができたら、中へお入り下さい」
「じゅ…準備って…」
そう言ってライムはどこかへ行ってしまった。
心の準備って事だよね…
後ろには怪人達が大勢いる。逃げる事はきっとできないだろう。もう、この扉を開ける以外の選択肢は僕には残されていない。
…ギィィッと重い音を立てて、扉が開いた。中へと一歩を踏み出す。そうすると、扉はひとりでに閉まった。
「よく眠れたか、人間」
この大部屋の真正面の一番奥の、大きくて豪華な二つの椅子。玉座、のようなものだろう。僕に向けて声を発したのは、その片方に座っていた女性。
その少女の頭に生えている大きく捻れた角と青い肌が、彼女が人間ではないと物語っている。
「あっ…あなたっ…は…?」
重圧、というものだろうか。見えない何かに圧倒されて、上手く声が出せない。
「クク…私の名はレヴィアジック。魔族の長である」
「魔族の、長…?」
「主らの世界では、怪人と呼んでいるのだったか?」
つまり、この人が怪人達の首魁…
自然と、拳に力が入る。矢を魔力で練って、
「不用意な事はしない方が良いわよ。…これ、あなたのために言ってるのよ?」
「き、君はっ…ウィッチ…!」
僕を打ちのめした張本人、ウィッチがいつの間にか立っていた。…そうだ、落ち着かなければ。ここで僕が暴れたって、すぐに取り押さえられるだけだ。
「そんなに驚かなくたって良いじゃ無い。あと、ウィッチってのは種族名よ。私はドロシーって言うの。よろしくね」
よろしくって、あんな目に合わせて置いて…良く言うよ。
「あら、嫌われちゃった?」
「ドロシー、私がこの者と喋っておるのだ」
そう言って、レヴィアジックはドロシーに睨みを効かせる。はぁーい、魔王様。と、ドロシーは軽々しく答えて静かになった。
「なに、少し話をするだけよ。それが済めば向こうの世界へ送り返す」
…僕を捕まえて、話をしたら返す…?そんな虫のいい話があるのだろうか。…少し、こっちから行動を起こしてみよう。
「あ、あの! ど、どうして、僕達の世界を襲うんですか…」
「貴様、不敬な…!」
隣に控えていた真っ黒な甲冑を着込んだ騎士が、僕の首筋に剣を当てる。
「…ククッ、よい。私を前にしておきながら、その不遜な態度…俄然興味が湧いてきた」
魔王は玉座から立ち上がり、僕に向けて歩を進める。そして僕の頬を撫でながら、瞳を合わせる。
「襲ってほしく無いか? 自分の世界を」
「うぁっ………はっ…はいぃっ…!」
彼女の瞳は、ドロドロで真っ暗な深淵をのぞいているようだ。体の震えが止まらない。思わず目を逸らしたくなるが、それなのに見つめてしまう。底なし沼にハマったように、沈み込んだらもう戻れない気がして…
「そうか、では条件を出そう」
妖艶な笑みを浮かべながら、みずみずしい唇を開いてこう言った。
「お主の仲間をここへ連れてこい」
「は……へ?」
「お主の仲間、魔宝戦姫…と言ったか。それを連れてくるのだ」
「なっ…そ、そんなこと…!」
「なに、難しい話ではあるまい」
仲間たちをこの敵地へ差し出せだなんて、到底飲める条件では無い。信頼してくれる皆んなを裏切るなんて、できるわけが無い。
「…断るか? しかし、主らの世界への侵攻は続けるがな。そら、妾の目を見て答えよ」
「ひっ…い、嫌ぁっ…」
恐怖で押し潰されそうだ。この魔王の瞳は怖くて、不気味で…なのに、どうしようもなく美しい。僕の意識は、その瞳を見つめてはならないと警鐘を鳴らし続けている。
それなのに…見つめたい、もっと見ていたい、ずっと見ていたい、一生見ていたい。どこまでも、どこまでも、その瞳の奥まで沈み込みたい…と、本能が屈服してしまっている。
「うぁぁっ…や、み…見ないっでっ…!」
「そぉら、疾く答えよ。条件を飲むか、飲まないか」
「は、はいっ! ぼ、ぼくはっ、その条件っをっ…!」
彼女の言葉は、ぼくの頭の中にすいすい入り込んで行く。疑問や、抵抗などは全く浮かばない。彼女の全てを肯定したくなる。全部正しいって、考える必要は無いって、そんな考えが頭を支配していく。
「っ…飲まないっ…! 仲間を売るなんてっ、僕にはできない!」
意識をしっかり持つんだ。こんな、怪人なんかに負けちゃダメだ。少なくとも精神面では、絶対に!
「…あは♪ フラれちゃったわね。魔王さま?」
「…ククッ、そうか。それもまた選択だ。私はその意志を尊重しよう。ドロシー、連れて行け」
はぁーい、とドロシーはまた僕を中心にして、床に魔力を刻んでいく。きっと、僕を元の世界へ連れていくのだろう。そして魔王は玉座へ戻った。
「…ま、待って! そのっ、まだ話は! お、終わってない…で、す…」
強い語勢で意志を強く表明しようとしたが、そんな荒い言葉は失礼だよね……うっ、また…こころがまけてるっ…! 敵に向かって、そんなこと考えなくたって良いのに…!
「ぼっ…僕を好きにすれば良い! 僕が皆んなの代わりになる!」
「…ほう? 大きく出たな。お主一人の命が、仲間たち、ましては世界の代わりになると?」
「……っ! な、何でもしていいから! だから、皆んなはっ…!」
「クハハっ…! 面白いことを言う。ハッ…フハっ…ははっ! お主、そんなに妾が怖いか? お主のそれは提案ではない。懇願だぞ?」
…わかってる。でも、この魔王には、レヴィアジックには勝てっこない。戦っても無いけどわかる。あのドロシーとは比べ物にならないって。六人の力を合わせても、勝てないって。
「お、お願い…しますっ…!」
「聞く価値もありません。ドロシー、早くこの者を…」
黒騎士は僕を魔法陣の中へ連れ戻した。そして、ドロシーに転移させるよう促す。
「よかろう」
「……はい?」
黒騎士が僕の心の声を代弁するように、素っ頓狂な声を上げる。…僕が言い出したことだが、僕としてもこんなにあっさり聞き入れてくれるとは思わなかった。
「何を呆けている? お主が言い出したことであろう」
「えっ…あっ、いや…その」
「魔王様!このような人間を城に置くなどっ!」
「女王は寛大だ。その者の懇願に答えてやるのも王の度量よ。それとも何か、お主は私の決定に不服か? 黒騎士、ジュリアよ」
女王がジュリアと呼んだ黒騎士にそう問いかけると、その者は押し黙った。…やっぱり女性だったんだ。ごつい甲冑を着込んでいるから、一見は女の人に見えない。
「しかし、ただでとは言わん。無論、条件はあるがな」
条件…いや、どんな物でも受け入れなければならない。きっとこれが、魔王にできる最大限の譲歩なのだろう。どんな厳しい物でも、耐えなければ…!
「私の伴侶となれ」
「きゃっ…♪ レヴィちゃんったら情熱的ぃ♡」
…はん、りょ? はんりょって、あの伴侶?
「…は、はぁっ…!? なっ…、何を考えていらっしゃるのですか!? このような矮小で脆弱で愚かな人間とっ…けっ、結婚するなどっ!いくらなんでも、それだけは認められませんっ!」
「なっ…何を言って…」
「わからんのか?」
魔王は手招きをし、僕を側へ寄せる。
「お主が、私を満足させてくれるのだろう? …どう言う意味か、わかるな?」
そう言って、ニヤリと笑う魔王。 ……つまり、僕に飽きたら侵攻を再開する、と言うことなのだろう。
「…わかった。僕は、魔王の…痛っ……! ……魔王様の、伴侶に…なります」
後ろからジュリアに刺されかけたが、これで僕は、魔王の…レヴィアジックの物になった。
…でも、これでいいんだ。これで皆んなが救われるんなら…
「ついてこい。ドロシー、お主もな。ジュリアは戻れ」
「はぁーい」「なっ……! くっ…御意…!」
そう言って、魔王は玉座の裏の扉へと招く。…何が待っているのかはわからない。でも、僕が耐えなきゃ…皆んなが襲われる。僕は負けない!