魔宝戦姫はふたなりチンポにガチ恋する 作:人の心を捨てないと書けない
犬丸 美羽【1】
「…あ、ご…ごめん皆んな! 今日は帰るよ、用事あるの忘れてた!」
「…ちょっと、真央!」
「へ? どうしたの、涼葉」
部室から出ようとする真央の足を涼葉が止める。
「いや…その…ね? 明日とか…出かけない?」
「え…デ、デートのお誘い?」
「へ……ち、違うわよ! その、いや…買い物よ! 荷物持ちがいた方が楽じゃない!?」
真央の返しに虚をつかれたような涼葉は顔を真っ赤にする。こういう冗談を言う奴だったかと一瞬考えると、羞恥心の方がその考えを上回った。
「あ〜ごめんね? 明日は用事があって…」
「あ…そう…、……そっか。じゃあ、美羽…付いてきなさい」
「え、え〜!? 何で自分なんすかっ!」
荷物持ちが欲しいと言った傍ら、否定するわけにはいけないと思い美羽を巻き込む。美羽にした理由としては、蒼依は先輩なので誘い辛く、陽菜はそもそも来る気がしない。詩織は変な男子を連れてきそうだったので、消去法だ。
「犬丸さん…ごめんね! 暇だったら僕の代わりに一緒にいったげて?」
「行くっす! 自分は真央先輩の代理としてついて行くっす!」
「はぁ…ちょろ」
美羽は真央にお願いされ、忠犬のように従う。無いはずの尻尾をぶんぶん振り回すのが見える。そんな光景に陽菜は嘆息する。
「それじゃあ皆んな、また明日ね!」
一人、足早に部室から去る真央。
「っていうかぁ、大胆ですねぇ涼葉せんぱぁい。ヘタレるのやめたんですかぁ?」
「だ、誰がヘタレよ!? っていうか、そもそも何にも無いわよっ!」
「はぁ〜本当は先輩と行きたかったっす〜。あ、涼葉先輩も嫌いじゃ無いっすよ!」
「はぁ…私もあんたの事嫌いじゃないわ」
「百合営業…乙」
「ゆり…? 何っすかそれ?」
「何でもない」
「食い気味に否定するわね…なんて言ったのよ」
「何でもない」
そんな部室のいつもの光景を眺めながら、蒼依は微笑む。が、先程出て行った少年のことを思い浮かべる。
(猫宮くん…もう表情に迷いは無い。なのに…なんだろう、この胸のざわつきは)
あれだけひどい表情で思い悩んでいた真央が立ち直ったのならば、とても喜ばしいことだ。だというのに、蒼依はどこか不安を覚えていた。
「…皆んな、今日は私も帰るとするよ」
「はぁい、じゃああたしも帰りまぁす」
「…じゃあ部室閉めるわ。皆んな出てって」
帰路に着く各々。涼葉と美羽は自転車通学なので駐輪場へ向かう。
「…あ、やば。忘れ物しちゃったっす…」
「早くとってきなさいな、それじゃあね」
「はいっ、また明日っす〜」
涼葉は自転車にまたがり、校門を出る。そして美羽も忘れ物を取りに帰ろうとしたが、ある事に気づいた。
「あれ…先輩の自転車…あれ?」
この先輩というのは、真央のことだ。真央も自転車を使っている。
そして、先に帰った真央の自転車が残っているというのはどう言うことだろうか。
「……ん〜〜? どこかにいるんすかねぇ…」
ピカッと、美羽の宝石が光を放つ。
「……え、学校で……『ジュエルアルター、セット』っす!」
全身が光に包まれて、学生の美羽のもう一つの姿。魔宝戦姫『スピネルウルフ』へと変身する。
自分達の学校に現れたとなると、只事では無い。自分達の素性がバレた可能性が浮かぶ。そして、まだ学生や教師が残っているとなると守らなければならない。
救援を呼ぼうかと携帯電話を一瞬取り出そうと思ったが、忘れ物というのはそれなのだ。
迷ってる暇は無かった。足早に、校舎内へと駆け出すスピネル。
「スンスン…なんすか…この匂い…?」
魔宝戦姫と化した美羽は鼻がよく効き、怪人の匂いも探知できるのだが…嗅いだことのない妙な匂いで上手くいかない。
「生臭っ…やな匂いっす…」
とりあえず、その匂いのする場所へと向かう。
「…反応が消えてる、でも、やな気配はまだ……っ!」
悪臭が漂う部屋の前へと来たが、宝石の反応は消失している。しかし、どこか悍ましい気配を、野生的な直感で理解していた。そして、部屋を開けようとした時、背後から足音が聞こえる。
「ん、あ…えーっと」
足音の主は…生徒だ。同じ制服を着た、大柄な女子生徒。スピネルの姿を見てキョトンとしている。学校にコスプレのような服装の女子がいればそうなるのは自然だろう。
「…あ、いやぁー、そのぉ…怪しい人とか、見なかったっすか? あと、青い髪の男の子…あはは」
「み、みてねぇけど…?」
お互い、どう接すれば良いかと距離感を掴みかねている状態。
「し、失礼するっすー」
正体がバレる訳には行かないと、そそくさと去ろうとするスピネル。その場に残された女子生徒。
「じゃないっすよ」
スピネルは拳を放つ。
先程の女子生徒へ向かって。
「おいおい、危ねぇなぁ…アタシが普通の女子じゃなかったらどうしてたんだよ?」
「普通じゃないから殴ったんすよ、バレバレっす。怪人臭いっす」
「そいつはショックだなぁ…これでもアタシ、身だしなみに気遣ってるんだぜ?」
そのスピネルの拳を腕力で抑え込み、軽口を叩く女。スピネルは、この女が怪人か、それに近いものだと察知していた。不意打ちのつもりだったが、こう悠々と抑え込まれるとは思ってはいなかった。
「にしても悪趣味っす。なりすましだなんて」
「んぁ? ちげーよ。アタシはここの生徒だぜ? 紛れもなくな。3年の鬼城だ。よろしくな、後輩」
「…その方が悪趣味っすね。溶け込んでいるだなんて…他にもいるっすか?」
「こんなかには…そうだなぁ、あと…一人いるかもな?」
「そっすか!」
問答無用で拳を放つ、しかし、それも容易く受け止められるが直ぐに蹴りを放ち、それは鬼城の腹へと入る。
「うがっ……! …へへっ、戦いってのはこーでなくっちゃなぁ?」
血の混じった痰を窓の外へ吐き出す。微笑を浮かべながら、楽しむようなその姿勢が、スピネルの緊張感を引き出す。
こいつ…強いっす…
ピリピリと、強者のオーラを感じる。もう、一瞬も油断できない。
「はっ…楽しいなぁ、拳と拳のぶつけ合い…血が滾るぜぇ!」
「ちっ…! 負けねぇっす!」
綺麗さの、優雅さのかけらもない殴り合い。超人的な力を駆使した、大喧嘩。
「舐めんじゃねえっ…っす!」
「うおっ…っっ…いっでぇ!」
蹴りを横腹へ貰い、窓から校庭へと叩き落とされる鬼城。その体は茂みへと投げ出された。
「ふっ…ふーっ…あいつ、やばいっす…。…あ、学校…壊しちゃったっす…」
どう後始末したものかと頭を抱えるスピネル。しかし、背筋が凍るような、恐ろしい気配を窓の外から感じる。
「っ……まだ、生きてるっぽいっすねぇ…」
自身も校庭へと降りて、拳を構える。
そして、ガサガサと音を立てて茂みからゆっくりと体を起こす鬼城。
「つっっ…ええな、お前。気に入ったぜ! げほっ…ア、アタシが貰っちまいたいぐらいだぜぇっ…」
脇腹を抑えながら、豪快に笑う鬼城。確実にダメージは負っていると、スピネルは判断する。
「自分、強いっすよ、その怪我じゃきついと思うんすけど」
「へっ…舐めてもらっちゃ困るなぁ。アタシの、本当の力…見せてやるよおっ!!」
ただならない気迫を感じる。暴風が鬼城の周囲で荒れ狂い、スピネルも飛ばされそうになる。
「っ……来る!」
そして飛び出してきた。先程までとは比べ物にならない圧倒的なスピードで。
「ぎっ…ああっ…!」
繰り出してきた拳を腕で受け止めるも、その反動で身体は大きくのけぞらされる。そして、その隙を突いて、もう一撃。スピネルの身体は校舎の窓ガラスを突き破って、また室内での戦闘となる。
「へっ…どうだい? アタシの力は」
スピネルを追って校舎内へと現れた鬼城の姿は、先程とは打って変わっている。
制服はいつの間にか着物のような和服へと変化している。そして何よりも目を引くのが、2本の聳え立つ角。
「オーガの力、舐めんじゃねぇぜ!」
待ってなどくれない。また猛攻が始まる。
「うぅっ…? …この匂いっ……!?」
「ボサっとしてんじゃねえぞぉ!!」
教室へと体を投げ飛ばされるスピネル。ドアを突き破り、机を薙ぎ倒して壁に叩きつけられる。
「へっ…終わりかい。ま、なかなか骨が……っ…!?」
圧倒的なスピードで砂煙の中から飛び出し、鬼城の頬を裂いた人影。鮮血が滴り始め、数滴の赤が床を染める。
「さっすが…魔王様が目を付ける訳だねぇ…ただじゃ終わらないってか?」
鬼城はスピネルの未知の力に戦慄するも、それを楽しく思うオーガの性に従わずにはいられないと、舌舐めずりをする。
「……っす」
暗がりの校舎から、鬼城の元へ足を運ぶスピネル。
「あん、なんだよ」
ブツブツと小さな声で何かを呟きながら、ゆっくりと歩を進める。
「お前っ…お前っ…!」
怒り、それを感じ取り、気を引き締める鬼城。こいつはヤバいと、本能が危険を察知する。
「お前から先輩の匂いがするっす! お前っ…先輩に何をしたぁっ…!」
「っ…鉤爪っ!?」
普段は、「重いし、血とか飛び散ってきもいっす」と言って、自前の運動神経と反射神経を駆使した格闘で闘うのだが…ブチ切れている今のスピネルは容赦がない。
しかし、重いと言っても自在に操るのがスピネル、いや美羽という女だ。持ち前のフィジカルで相手を圧倒する。
「ちっ…受け止めようにも裂かれちまうっ…!」
その猛攻を避ける鬼城であったが、スピードはスピネルの方が上だ。少しずつ、体に赤い線を刻んでいく。
「それに速すぎるなぁっ…! 室内で戦うのは分が悪すぎるぜっ…」
壁を、天井を自在に跳ね回り、ありとあらゆる角度から襲い掛かるスピネルに、鬼城は手を出すタイミングを見つけられない。
「っち! 上等じゃあねえか!」
それでも、この戦いが楽しいという性質上、鬼城の胸はワクワクでいっぱいだった。