※この作品はR-18です。

本田はおにぎり   作:らかん

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"好き"よ

 私とありさは透を挟んで、人ひとりが眠るにしてはかなり大きめのベッドに体を預けている。ダブルベッドよりも大きいように見えるが、夫婦で使う用だったのだろうか。

 シーリングライトのスイッチは落とされており、かたわらにある小さなナイトライトがぼんやりとしたオレンジ色の光源を生み出していた。

 横顔を照らされている透が、毛布を鼻まで被りながら言った。

 

「うおちゃん……はなちゃん……」

 

「どうした? 透」

 

 ありさが頬杖をついた姿勢に変える。

 私も首を傾けた。

 

「きょうはいろいろありがとうございました……あ、蓮司くんにも言わないとですね……起きていらっしゃるでしょうか……」

 

「だいじょうぶ。明日言えるわよ。いまは眠ったほうがいいわ」

 

「……言えるだろう、って思ってたんです」

 

 彼女の眼がすぅっと細められ、後悔の色を瞳ににじませる。昼に見せていた嵐のような負の感情ではなく、あるのは過去を過去として認識している諦念の色だった。

 

「お母さんに『いってらっしゃい』を言えなくて……きょうぐらいは平気だろう、って……。テスト勉強なんかより、よっぽど大切なことだったのに……」

 

 身につまされる告白に、私は胸の痛みをこらえて慈愛の心を見せた。透の頭を優しく撫でて、まるで母親がするように寝かしつける。

 

 ――あなたは悪くない。

 

 そう言ってしまいたくなるのを抑えた。

 他人が罪の裁量を決めてしまうなんてひどく傲慢な話だ。それが取り返しのつかないことならばなおのこと。

 そもそも透はその罪から逃れたいとは思っていない。むしろ、罰があるのなら喜んで受ける所存だろう。

 

 彼女は明日を怖がっている。

 事故死した母と同じ状況がまた起きるのではないか、と。

 またなにかを言いそびれてしまうのではないか、と。

 

 どう言えば透の慰めになるのか、私には分からなかった。

 

「んじゃあ、透が目覚めて要件を伝えるまで蓮司を家から出さないようにしてやる」

 

 ふいに、ありさがなにやら突飛なことをのたまった。

 

「あたしも花島も出ねえ。もしあいつが出て行こうとしたら縛ってでも止めてやる。それなら三日ぐらい眠っててもお礼を言えるだろ」

 

 へへっ、と笑ったありさに、私は舌を巻いた。

 不確定なことを約束するしかできなかった私に対して、彼女は絶対に叶えさせてやるという強い意志をあらわにした。

 魚谷ありさという少女の強さと人生観がなせるものだろうか。勝てる気がしない。

 

「だから、いまは眠っとけ」

 

「はい……」

 

 毛布から顔を出した透は、作り物ではない微笑みを浮かべていた。少なくとも、私にはそう見えた。

 

「おやすみなさいです。はなちゃん、うおちゃん……」

 

「おやすみなさい」「おやすみ」

 

 私とありさが返事をして、ライトを消す。暗くなった部屋で三人の吐息の音が広がって、壁に反射する。

 ふいに、毛布の下で手を握られた。透だ。きっとありさにも同じようにしているだろう。

 彼女の暖かくて安心する体温は、まるでお日様のようだ。

 

「……明日は絶対、おはようございますって言いますね」

 

 そう呟くと、透は目を閉じてすぅすぅと寝息を立て始めた。

 どうなることかと思った一日だったが、こうして彼女が安眠できているということは、私たちのがんばりは奏功したらしい。泣き疲れた果てに気絶同然に眠り落ちるなんて結果にならなくて心底よかった。

 

 それから、時計の長針が半周したのを見計らって、私は体を起こした。

 眠ってから三十分たつとノンレム睡眠の深さのピークに到達する、と聞いたことがある。いまのタイミングなら多少動いても透が目を覚ますことはないはずだ。

 時刻は十二時をまわったところ。

 ベッドから足を降ろしてスリッパを履くと、

 

「……言いに行くのか?」

 

 背にありさの声がぶつけられた。

 振り返らずに「えぇ」と答える。

 

「……いろいろ忠告を考えてたが、野暮だよな。透は任せとけ」

 

「ありがとう。きょうこそ蓮司くんを抱くわ」

 

「やめんかバカ」

 

「本気よ」

 

「そこは冗談って言えよ!」

 

 ツッコミを受けながら、部屋をこっそりと辞する。

 遅れてしまったが、蓮司は眠ってやしないだろうか。起こす方法はいくらでも思いついたが、そのほとんどがお説教確実の自爆技ばかりだった。

 冷たい廊下を歩いて、目的の扉をノックする。

 するとすぐに「どうぞ」と応答があった。

 

 ガチャ、と開いて中を覗き込む。

 パジャマ姿の蓮司がベッドに寝転がってスマホを弄っていた。軽快な音楽と一緒にバシバシ殴っているような音が聞こえてくるが、ゲームをやっているのだろうか。

 身を寄せるように隣に座って、画面を覗きこむ。蓮司は若干イヤそうにしていたが、離れたり隠したりはしなかった。

 デフォルメされた派手な服を着た女の子たちが戦っている。パッと見た感じ、ソシャゲのようだ。

 

「それ、面白いかしら?」

 

「ん……まぁまぁ」

 

「私も遊んでみたいわ」

 

「いいけど……」

 

「待ってて、スマホを取りに行ってくるから」

 

「ちょっ走らないで! ドタバタしたら透が起きちゃうでしょうが!」

 

 叱られたので、音を立てないようつま先立ちになりながら早足で部屋に戻り、スマホを取る。

 何事かと起き上がったありさが「なにしてんだこいつ?」とでも言いたげな顔で見てきたが、サムズアップで返した。「いや、意味わかんねーよ」とでも言いたげな顔で見てきたが、またサムズアップで返した。

 

 自分はいったいなにをしてるのだろう。

 本題に入るのが恥ずかしくて、怖くて、必死に「いま告白しなくてもいい」逃げ道を探しているだけだ。

 決意したばかりのことがもう揺らいでいる。今日子の死と透の後悔を肌身で感じておきながら、だらしのない話だ。

 

 廊下を歩きながら、以前観た「生きる」というかなり古い映画を思い出していた。父がモノクロ映画好きだったから、それに付き合わされたのだ。唐突に主人公の葬式が始まって面食らった記憶がある。

 いまの私は、その映画のラストシーンに出てきた人たちと同じだ。

 重い病に侵された主人公が命を賭して人助けをしたのを見た彼らは心を入れ替えるも、すぐに「いまじゃなくてもいいか」と諦めてしまう。結局、ほとんどの人間は切羽詰まった状況に置かれなければ勇気が出ないのだ、というオチ。

 言いたいことを言えなくて後悔している透を目の当たりにしておきながら、未だに勇気を出せない私と同じだ。

 

 今度こそハッキリ言おう。自分の正直な気持ちを。

 そう思ってふたたび蓮司の部屋の扉を開いた。

 

「アイムバック」

 

「なんなんだキミは。変なこと言わないと死んじゃうとかか?」

 

「……………………」

 

 ……言えなかった。

 完全に珍獣を見るような眼をしている彼の隣に座り、ゲームをダウンロードする。進行するバーの後ろでアニメ映像が流れているが、かなり力の入った作品のようだ。

 会話のないまま時間が過ぎて、バーは伸びていく。

 言わないと。

 そう思ってても、黙っていればいるほどに口が重たくなっていく。

 

 時計を見ては目を逸らし、スマホを見ては目を逸らす。時間の経過が分かるものは私の愚かさをことごとく照らし出す。

 ぐるぐるぐるぐる……時計の針のように視線と思考が行ったり来たり。

 

 ゲームがやっと始まった。隣でいろいろ教えてくれている蓮司にうんうんとうなずきながら、

 慣れない手つきで操作する。ゲームなど遊んだことはほとんどない。パズルゲームをちょっと触ったぐらいだろうか。

 とりあえず見た目が好みのキャラを選んでいると、

 

「そういえば、透はどう? ちゃんと眠れてた?」

 

 蓮司がたずねた。

 もしかしたら、私よりも透のほうがずっと気になっているのかもしれない。いまも私なんかの相手をするよりも、すぐに彼女のことばかりを――などと飛躍したネガティブ思考が溢れてしまった。

 そもそも私と彼のあいだに会話がないのだから、他から話題を持ってくるしかないのだ。彼の平然とした面持ちを見れば、世間話ていどのことだと分かる。

 

「えぇ、すぐにぐっすり眠ったわ。よほど疲れていたのでしょうね。朝もあまり眠れていなかったらしいし」

 

「そっか。まあ、眠れたのならよかった。咲は?」

 

「平気よ。なんなら、今から徹夜で遊べるぐらいには」

 

「寝なさい。肌荒れるぞ」

 

「そうね」

 

「…………」

 

 会話が途切れて、蓮司は怪訝な表情で私をじっと見つめた。

 

「……なにかしら」

 

「いや、わざわざ部屋で待つように言われたから夜這いでもされるのかと思ってた……」

 

「えっ」

 

「まさかスマホゲーを手伝わされるとは」

 

「私ってどういう人間だと思われてるのかしら」

 

「おもしろ発言真っ黒電波淫乱女」

 

「失礼ね。私はお笑いキャラではなくってよ」

 

「うん。もっと否定しなくちゃいけないが部分あったよね」

 

 淫らと思われても仕方がないことをしてきたのだから、否定のしようがない。あれは私なりに悩んだ末の行動だったとはいえ。

 

「咲……言いたいことがあるならなんでも言いなよ。キミはいつも、ひとりで考えた末に突飛な行動に出てる気がするからね。アハハ」

 

 と、蓮司は笑いながら私の頭を優しく撫でた。

 甘やかされているような……どことなく、小さい子でも相手にしているような態度を取られている気がしなくもない。

 それもこれも、明け透けな本心を隠してきたツケだ。

 このままでは私はずっと妹のような目で見られ続けて、この恋も終わる気がする。

 

「……蓮司くん」

 

「ん? なにかな?」

 

 優しい兄か父を思わせる、慈愛のまなざし。このままずっと甘えたまま眠りたくなるぐらい、落ち着く表情だ。

 一瞬、息を呑んだ。

 負けてはダメだ。

 すべてを曝け出して、本心を吐き出す。今しかないのだ。“いつか言いたいことを相手に言えなくなる日が来る”という透の生の後悔を肌で感じた今しか、私はきっと勇気を出せない。

 

「わ……わたし……」

 

 ――言え!

 

「……私、あなたがちょっと嫌いだわ」

 

「えぇ……いきなりどうした?」

 

 困惑している彼に、私は続ける。喉がつかえるような感覚を押し込めて、声を絞り出す。

 

「私から透くんを奪ってしまうような気がするもの」

 

「あ、えっと……」

 

「そして、透くんのことも嫌いになってしまうかもしれない」

 

「…………」

 

「もしかしたら、ふたりは付き合うことになるかもしれない。でも、あなたに透くんを取られるのが嫌。透くんにあなたを取られるのが……嫌」

 

 どちらも同じぐらい大切な人だ。もちろん、ありさも私にとってかけがえのない存在。

 もしもふたりが付き合ったりしたら私はふたりのことを嫌いになってしまうかもしれない。まったくもって自分勝手な理屈だと、自己嫌悪すらしてしまう。

 

「永遠に一緒にいられるわけがないことなんて分かってる。私がとてもワガママだということも……」

 

「咲……」

 

「今まで何度もあなたを困らせてきたけど、また困らせるようなことを言うわ」

 

 私は、真剣なまなざしで見つめてくる蓮司の手に恐る恐る触れた。彼の暖かい体温は、糜爛(びらん)した私の心をいつだって癒してきた。

 透たちとは違った方法で、違った視点で、違った言葉で。

 ここで、ずっと誤魔化してきた問題に終止符を打とう。

 

「蓮司くん……」

 

 たとえ失敗するとしても、しないまま後悔するよりはずっとマシだから。

 しなければ、私は一生前に進めないだろうから。

 心臓の鼓動する音が、血管を伝って耳骨を揺さぶる。頭の後ろがぎゅっと引っ張られるような感覚。あごの下が締め付けられている痛みで、呼吸も苦しい。それが私の感情によって生み出された生理現象であることは承知だった。

 それを乗り越えて、伝える。

 彼と出会ってからの二年余り。変わらなかったこの想いを――

 

 

「……“好き”よ」

 

 

 吐息がこぼれるようなか細い声で、けれどハッキリと、私は言った。

 情緒もなにもない……異性の寝室で、隣り合って座りながらの告白。漫画やドラマならきっとシチュエーションも最高だっただろうが、私にはそんな豪華なものを求める資格も度胸も無い。

 今日でなければ、いまこの瞬間でなければ、私は一生この想いを伝えられなかっただろうから。

 

「…………」

 

 蓮司の眼瞼に浮かんだのは驚きよりも、安堵や納得といった色だった。穏やかで、慈悲深い瞳。それは暗に「知っていたよ」と言っているかのようで、事実そのとおりなのだろう。

 私は彼がとっくに辿り着こうとしていた答えを無理やり先延ばしにしてしまっていた。自らの力で彼の考えを封印して、ぎゅうぎゅうに縛って動けなくした安穏の上に体を横たえていただけの日々だった。

 どうしようもなく自分勝手な所業である。

 そんな私が彼に愛を求めてもいいのか?

 幾度となく繰り返した自問。

 

 ――構うものか。こうなったらわがままになってやる。

 

 人生の大半を我慢することに割いてきた。

 これからは好きに生きてやるのだ。

 因縁をふっかけてくる相手には電波でお仕置きしてやるし、体育のマラソンなんてサボってトランプをしてやるし、墓地でお弁当を食べてやるし、もし学園祭で劇をすることになったら台本を思いきり無視してやる……はさすがに周りに迷惑がかかるが、それぐらいの覚悟だ。

 

「あなたが透くんのことが好きなのは……知ってるわ……」

 

「……うん」

 

「だけど……でも……っ」

 

 私は寛恕(かんじょ)を請うように頭を下げて、ぎゅっと彼の手を握る。

 

「私とっ……つ……付き合って……くださぃ……」

 

 最後のほうの声は尻すぼみになってしまった。ほかにもいろいろ言おうと考えていたが、頭から抜け落ちていた。

 それぐらい今の私はギリギリで、顔が熱くてたまらない。蓮司の顔をまともに見ることもできない。

 涙袋にじわりと水の感触があった。涙がこぼれそうだ。私は必死に目に力を込めて、涙をせき止める。

 ずっと抱えていた重たい感情を表に出した衝撃は大きく、この弱い存在では許容量をオーバーしていたに違いない。

 覚悟を決めたばかりだというのに、様にならない。

 

「えっと……」

 

 蓮司は困ったように頬を掻いていた。

 あまり芳しくない反応だった。

 

「答えって、いますぐほしかったりする?」

 

「……そうよね。いきなり言われても、すぐに透くんを諦めることなんてできないわよね」

 

「ごめん。僕にも考える時間が欲しい」

 

「いいのよ。むしろ、すぐにオーケーをくれたら逆に気分が悪くなったでしょうし……それに」

 

「それに?」

 

 私はパジャマのボタンの一番上に手をかけて、ゆっくりと外した。順に、パチンパチンと音をたてて、その内にある白い肌と膨らんだ胸を晒していく。

 

「さ、咲……!? 落ち着いて、ね!?」

 

「やっぱり、あなたの心を透くんから奪って完全勝利しないとダメよね。もし透くんに負けたとしても、私が恨むのは蓮司くんなのだけれど……」

 

「え、もしかして咲の中での僕の順位って低い?」

 

「安心して。透くんとありさの次ぐらいよ」

 

「高いのかなぁ!? それ!? いやまあ高いんだろうけども!」

 

 するすると服を脱いで、下着姿になる。花の模様がある黒いレースの、どこにでもあるブラだ。

 現在、私は恥ずかしさの絶頂にあるが、告白をした影響かテンション爆上がりで脳みそハイになっており、微塵もやめようという気は起きなかった。

 あの日と同じだ。

 羞恥や倫理観というブレーキを失った私は、無限に開放的になれる。……終わったあとにひどく後悔すると分かっていても。

 

 握っていた蓮司の手を引いて、自身の胸に押し当てる。淫靡な小悪魔のようにしたかったが、いまのは彼の手で私の胸に張り手を食らわせたような不格好な形だった。

 

「……咲、前より大きくなってない?」

 

「そうかしら」

 

 以前はそうではなかったはずだが、いまの私の胸は彼の手にも全然おさまらない大きさだ。十人が十人とも巨乳だと認めるだろう。

 ごくり、と蓮司がつばを飲む音が聞こえた。

 目の前の雌を手籠めにして、貪りつくしたい。生の獣欲の電波が伝わってきて、否応なく私の下腹部をじわじわと熱くしていく。

 

 ――めちゃくちゃにされたい。

 

 片方のブラをずらすと、薄桃色の乳頭が顔を出した。

 その豆のようにぷっくりと丸い性感帯を、蓮司は親指と人差し指で挟んで、こねるように刺激した。

 

「んっ……くぅっ……」

 

 ビリビリとした小さな快感が連続して放たれて、乳房から脳へと電撃が伝わる。

 久しぶりの感覚だった。自分で慰めたことはあったが、好きな人にされたほうが何倍も気持ちがいい。

 ふっと力が抜けた私を、蓮司が軽い力で押し倒した。

 

「キミは……ほんとうに……」

 

 蓮司は頬を染めて、息を荒くしていた。その内面が私には手に取るように分かる。私のすべてを奪ってやりたいという本能を、理性が必死に押さえつけている。

 以前にも彼が言ったことだ。女の子の貞操を奪うことの重大さと責任。付き合っているわけでもないのに、そんなことはできない、と。

 だが、いまは違う。

 一言「付き合う」と言えば、こんな苦しみからは解放されるのだ。己の獣に任せていいのだ。

 それをしないのは、彼の中にある透の存在が大きいから。

 

「お願い蓮司くん……私と……シて……?」

 

 残酷な決断を迫っているのは重々承知だ。

 母を失ったばかりの透のことを忘れて、私を受け入れることはできまい。

 私が蓮司をずっと想っていたように、彼も透をずっと想っていた。

 それならば、最後までするのは()()である必要は無い。

 

「本番までは……しないからね……」

 

「えぇ……そうね」

 

 ……でも、私はわがままになると決めたから、これだけは最初にもらっていくわ。

 

「……んっ」

 

 私と蓮司のくちびるを、そっと触れ合わせる。風に舞う羽が肌を一瞬浚っていくような、柔らかく溶けるようなキス。感触があったことすら忘れそうになるほど淡い、雪解けのようなキス。

 

「ファーストキス……」

 

 私がそう言うと、蓮司はくちびる同士が触れた箇所を確かめるように触れた。

 

「……僕も」

 

「よかった」

 

 ふたたび、口づけを交わす。ちゅっ……ちゅ……っと、小鳥のようについばんでいるあいだに、私は下着を脱いだ。

 一切の着物をまとわない柔肌が、LEDの照明に照らされて病的に白く輝く。

 私は全身をベッドに投げだして、手足を艶めかしく動かした。極上の肉叢(ししむら)であることを必死にアピールして、いままさに自分を喰らおうとしている雄にアピールする。

 生物が何万年と続けてきた、原始的な行為だ。

 

 こんなことなら、下の毛をきちんと剃っておくべきだったと少しだけ反省。濃いわけではないが、中学生のころとは違ってしっかりと生えていて恥ずかしい。

 

「綺麗だよ、咲の全部」

 

 そんな私の考えを見透かしたように、蓮司は褒めてくれた。

 懸念するようなことはなにもなかった。ありのままを曝け出す行為の前に、つまらない虚飾はいらない。

 言葉で飾った想いもいらない。

 ただのひとことで済む。

 

「…………来て」




30話ぐらいで終わる予定です
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