※この作品はR-18です。

本田はおにぎり   作:らかん

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出逢ってくれてありがとう

 咲が学校に戻っても、周りは入院の原因をほとんど追究してはこなかった。

 どうやら事件はまったく周知されていないようで、僕の家に近い生徒だけが辛うじて「なにかあった」ということだけ知っている状態だった。

 ちなみに、いきなり学校から消えた当日の件は、僕が嘘の説明をして収めた。まさかほんとうのことを言えるわけがなし。

 

 それから一か月あまりが経過した。

 窓から見晴るかす青空はどこまでも透き通っており、仰げば飲み込まれそうとすら思えた。ただ一筋、飛行機雲だけが青いキャンパスに白い線を横断させていた。

 サマーシーズンだ。

 そういえば、今日は夏祭りがあるらしい。

 

 

「なるほどな……やっと付き合い始めたのか」

 

 祭りへの道中、話を聞いていたありさがうんうんとうなずいていたと思ったら、

 

「しっかし……花島に先を越されたのがショックすぎて死にたくなってきた……彼氏作るの絶対遅いタイプだと思ったのにぃ……!」

 

 頭を抱えてうずくまってしまった。

 僕らは今、遅ればせながらというか、付き合っている報告を透とありさにしていた。

 付き合ってから報告まで一か月もかかってしまったが、その原因は単純だ。僕に心構えができていなかっただけ。

 初恋の幕を下ろす心構えだ。

 透たちは大して驚きもせず、互いに顔を見合わせて笑っただけだった。

 

「私ははなちゃんが蓮司くんのことを好きだってずっと知っていましたよ」

 

「具体的にどれぐらい前から?」

 

「半年も前からですっ!」

 

 最近じゃねーか。

 

「あたしは十年前ぐらいから知ってたぞ」

 

 魚谷、堂々と意味わからん嘘をつくな。

 ……まあ、少なくとも、まったく驚かれないていどには前ということになるのだろう。

 

「や、やっぱりお付き合いをされていると……なにか違うのでしょうかっ?!」

 

 期待に満ちた目をしている透に、僕と咲は顔を見合わせる。

 変わったことは……ない、としか言いようがない。

 思い返せば、出会ったときからずっと距離が近かったような気がするし、なによりも裸を見せ合うような不純な関係だった。むしろ、こうして付き合うことでやっと自然体になれたのかもしれない。

 それが違いだろう。とはいえ、こんなことを説明できるわけもないので、愛想笑いでごまかす。

 

「あはは……どうだろうね」

 

 と笑った僕の腕を、咲がへし折らんばかりにぎゅっと抱いた。

 

「甘えても前より拒否されなくなったわ」

 

「少しは拒否されてんのかよ」

 

 ありさの呆れも意に介さず、咲は猫のように体をこすりつけている。

 甘えというよりはダル絡みに近いが、たしかに以前よりも無碍にするような態度はとっていない自覚がある。

 わりなし、彼女を説得できないので半分は諦めもあるが……。

 

「でも、おふたりが倖せそうでよかったです……」

 

 透の微笑みに、心がぽかぽかと温かくなった。

 彼女を好きだという気持ちが消えたわけではないが、未練はない。たぶん、この好感は別のものに変化したのだろう。親愛、友情……それに類する、なにかに。

 

「たくさん大変なことがあったのは知ってます……それはもう、私なんかには推し量れないぐらいのことが」

 

「透……」

 

「おふたりとも、つらいことがあるたびに何度も折れそうになったと思います。それでも、前に進もうと決めてくれたことが私には嬉しいです。こうしてお友達になれて、笑顔を見せてくれて……」

 

「透のおかげだよ」

 

 僕は純粋な感謝を伝えたかった。

 

「何度も消えてしまいたくなったけど、キミがいたから踏みとどまれたんだ」

 

「そ、そんな大それたことは……」

 

「ひどいことをたくさんしたのに、それでも僕を気遣ってくれたでしょ?」

 

 思えば、中学生のころにあれだけ透に執着していた理由も分かる気がする。彼女を手放してしまったら、自分が壊れてしまうからだ。

 咲も「そうね」とうなずいた。

 

「私だって、あの日透くんが『一緒にいたい』って言ってくれたとき、とても嬉しかったわ。生きていていいんだ、って思えたんですもの」

 

「あたしだってなぁ!」

 

 と、ありさも負けじと語りだした。

 今日子が目当てで透と出会った、というなんとも彼女らしい経緯から、ふたりが仲良くなっていく過程、そして今日子に救われるまでを、彼女は早口で言い切った。

 僕らの体験にもおさおさ引けを取らない内容だ。

 

「あたしだって透がいたおかげでちょっとはまともな人間になれたんだ……」

 

「うおちゃん……私も、みなさんがいてくれたおかげで救われてますよ。私にはもったいないぐらい、いろんなものをみなさんからもらってます」

 

「透ぅぅぅぅ……いい子だなぁぁぁ……!」

 

「はわっ……う、うおちゃんっくすぐったいですっ」

 

「よーしよしよしよしよし」

 

 ありさが透の頭を愛おしそうに撫でているのを見ながら、くすくすと笑いをこぼす。

 それにしても、なんと数奇な日々だっただろうか。

 ひとつでもボタンを掛け違えれば、二度と繋がることはなかった縁が山のようにある。その中心にはいつだって透がいた。

 彼女がみんなを明るく照らしてくれたおかげだ。

 咲は、たとえ僕がいなくても透とありさによって救われていただろう。そう確信できる。

 

「そろそろお祭りも近いわよ、蓮司くん」

 

「人も多くなってきたね」

 

 喧噪のなかに踏み込み、はぐれないように咲と手をつなぐ。

 透たちとはここで一旦別れることになっている。恋人同士、水入らずで楽しめということなのだろう。

 屋台のぼんやりと明るい光と、香ってくる料理のにおいが非日常感を煽る。

 人垣の中を、土を掘りぬくかのように進むうちに、ふと脳裏によぎったことがあった。

 

「そういえば、思い出したことがあるんだ」

 

「思い出したこと?」

 

「みんなで初めて一緒にお祭りに行った日の花火……覚えてる?」

 

「あなたと透くんをくっつけようといろいろやってたときのことかしら?」

 

「えっ、そんなことしてたの!?」

 

 まさかの衝撃の事実に動揺してしまったが、話の重要なところはそこではない。

 

「えっと……まあ、それは置いておくとして」

 

「えぇ、続けて」

 

「あの頃の僕は自分の感情すらよく分かってないようなヤツだったからさ、いまさらなんだけど……」

 

 僕は空を仰いだ。

 黒と紫の濃淡が美しい、夕闇の空。これから花火の映える真夜中になる変わり目だ。

 

「あの日から、僕は咲のことが好きになってたのかもしれない」

 

「え……」

 

「花火に照らされた咲がすごく綺麗で、でもそれだけじゃなくて……うまく言葉にしづらいんだけど、目を離すことができなかったんだ」

 

「……っ」

 

「どう? ドキドキしちゃった?」

 

 からかい半分だが、事実も半分。

 咲は戸惑った様子だったが、白皙(はくせき)の顔に朱色を滲ませて、目を背けた。

 

「……もっと早く言ってほしかったわ」

 

 そう言って、僕と繋いでいる彼女の手の指が、僕の手の甲をもじもじと撫でた。

 ふだんこそマイペースな猫のような彼女であったとしても、その恋心を揺さぶられれば少女の色を見せるものだ。

 

「早く、か。言っていたら、今とは違ってたのかな?」

 

「なかった世界のことなんて分かるわけないわね」

 

 それもそうか。

 自分の恋心をどちらに転ばせるのか、最近までその去就に迷っていた自分に、そんな早い段階での決断は不可能だっただろう。

 

「そろそろ花火が始まるね」

 

「蓮司くんってそんなに花火が好きだったのかしら」

 

「祭りに来ておきながら、花火を楽しみにしないものおかしな話だけど……」

 

「あら、私の楽しみは屋台の食べ物なのだけれど」

 

「食い気しかないな、この子は……」

 

「さあ、焼きそばのついでに花火鑑賞と行きましょうか」

 

「モーレツに帰りたくなってきた……」

 

 人ごみから離れて、ベンチに腰を下ろす。

 咲がモニョモニョと焼きそばを頬張るのを眺めながら待っていると、

 

 ヒュ~~~~……バァンッ

 

 七色をまとった大輪が、夜空に華々しく散った。

 パラパラパラパラと弾けるような音とともに虚空へと消える光を追って、第二第三の花火が打ちあがる。途絶えることを許さない爆発の光は、その下にいる者をあまねく照らした。

 隣の咲も、焼きそばを食べる手を止めて、花火に見入っていた。照らされている彼女の顔は相変わらず綺麗で、花火よりも彼女ばかりを見てしまう。

 

「……咲」

 

「ん、なにかしら? 蓮司くん……んぅっ」

 

 彼女の頬を支えながら、その唇にキスを落とす。

 花火が一生を終えるよりも短く打ち止めをして、顔を離した。

 

「……っ~~~!」

 

 完全に不意打ちを喰らった咲は、口を押さえたまま固まってしまっていた。

 

「驚いた?」

 

「……ま、待って……私、焼きそば食べてる最中だったのよ?」

 

「うん、焼きそばのソースの味がした」

 

「う……うぅぅぅぅぅ~~~~!」

 

 顔を赤くしてサイレンのように唸り始めた彼女がおかしくて、僕は笑いが止まらなくなった。

 普段の彼女では絶対にしない表情。僕にだけ見せる姿。

 これからもたくさん、こんな咲が見たい。独占したい。

 

 花火は続く。

 夜の闇に()の花を満面に()かせながら――。

 

「今年もきれいだね、咲」

 

「えぇ、とっても……」

 

「来年も来ようね」

 

「あら、来年だけじゃなくて、その先もずっと一緒よ?」

 

「もちろん」

 

 途方もなく遠い未来の果てまで誓う。

 そして祈りたい。

 この誓いが永遠であることを。

 

          ◇

 

 夏休みが終わりを告げた頃、透はおじいさんの家を出て、由希……草摩の家に居候することになったと、咲から聞いた。

 未だに嫉妬のひとつでもするかと思ったが、なにもなかった。友人として、由希ならば信用できる。

 それから頭がオレンジ色をした夾という、由希の親戚?が転校してきて、それを境に草摩家の人間がどんどん学校にやってくるようになった。

 けれど、僕はその家系にほとんど関わることはなかった。

 透と由希という共通点があれど、僕自身にはなんら関係のないことだったからだ。

 

 いつの間にか、透とも接点が少なくなっていた。

 彼女の周りはいつも草摩の人間がいて、咲たちが少し寂しそうにしていたのを覚えている。

 そして、なにやら透を巻き込んで草摩の家が大ごとになっていると知ったのも、すでに事が終わったあとだった。

 彼女が病院に運び込まれたときは、かなり焦った。脳裡には透の母――今日子の死が連想されて、心臓の鼓動が早くなったものだ。打ちどころが良かったようで、大事には至らなかった。

 

 僕は彼女の活躍を、知人を通してでしか知らない。

 それは僕の物語にも、透の物語にも、お互いが必要ではなかったからだろう。

 

「透、帰るぞ~」

 

「はい! あっ! 夾くんっ、少しだけお待ちくださいっ」

 

 卒業式の日。

 夾に呼ばれた透が、慌ててこちらを振り返った。

 

「うおちゃんっ、はなちゃんっ、蓮司くんっ!」

 

 パタパタと駆け寄ってくる透を見て、咲がくすくすと笑う。

 透くんは変わらないわね――と、彼女の目が告げていた。

 そうだ。たくさんのことがあったのに、透の優しさも性格も挙措も、なにひとつ良い意味で変わっていない。ただ、最近の彼女に些細な変化があったことはなんとなく分かっていた。

 以前よりも今日子の遺影に目を向ける回数が減ったことだ。

 

「最後に、一緒に写真を撮りませんかっ!?」

 

 そう言って、透はスマホを取り出した。

 ……少し前まではガラケーだったな。

 使わなくなったガラケーは母からもらったものだからと大切にしまってあるらしい。なんとも彼女らしいことだ。

 

「あたしらじゃなくて、夾も入れてやれよ」

 

「そうね。せっかくなのだから、夾くんも入れてあげるべきではないかしら」

 

 ありさと咲がほぼ同時に言うと、離れたところにいる夾が嫌そうに顔をしかめた。

 

「だっ、誰が女に囲まれて撮るか!」

 

「あら、蓮司くんもいるのだけれど」

 

「じゃあ、蓮司とだけ撮る!」

 

 妙なところで強情なヤツだな……。

 

「男子より女子の比率が高いのが嫌なんだろうね」

 

 僕の言葉に、女子三人が「あー」と納得した。

 

「イヤね、小学生かしら」

 

「ガキなんだよなぁ」

 

 ふたりの口撃に夾が「あーもう!!」と頭をくしゃくしゃしている。今まで何度となく見た光景だ。

 

「まあまあ」

 

 と、僕は彼を宥めながら、透にたずねた。

 

「で、どうして僕ら四人なの?」

 

「中学生のころから、ずっと一緒でしたから。たくさん助けてもらいましたし、なんだか特別感があるような気がするのですっ」

 

「僕らは小学生からの付き合いだから、もう十年? ぐらいはたつよね」

 

「これはもう、腐れ縁というものかもしれませんねっ」

 

「腐れ……は余計だね」

 

「そ、そうですね。えへへ。ならば、幼馴染でしょうかっ?」

 

「それもまた意味が……まあいいや」

 

 そして、透が夾にスマホを渡して、四人で並んで写真を撮った。

 ポーズもなにもない、自然体のまま僕らは小さな画面に収まった。青春を切り取った画像を、透は僕らのスマホに送ってくれた。

 

 記憶をたどれば、僕が今日こうして笑っていられるのは奇跡のようなものだ。

 それを起こしてくれた三人と、こうして一緒に揃う機会はこれからどんどん減っていくのだろう。

 

「そろそろ……行きますねっ」

 

 名残惜しさを感じながら、透が背を向けて去っていく。

 そのとき、僕はとっさに背を突き飛ばされるような衝動に駆られて、叫んでいた。

 

「透!! ありがとう!! キミに出会えてよかった!!」

 

 これだけは言っておかないといけない。そう思った。

 振り返った透はニッコリと笑うと、頭を下げて、校門の陰へと消えていった。

 

「…………」

 

 ふと、咲がじっとりとした目でこちらを見ていた。

 

「もしかしたら透くんを追いかけるんじゃないか、って思ったわ」

 

「し、信用なさすぎない?」

 

「フフッ、冗談よ? 電波なんかなくても、それぐらいは分かるもの」

 

「ちょっと心臓に悪い……」

 

 こんな冗談を言うあたり、彼女の中でもまだ不安だったのだろう。僕が透のことをまだ好きなのではないか、と。

 得てして初恋というのは実らないものだ。それがポジティブな経緯でもネガティブな経緯でも関係ない。

 でも、最初に透を好きになってよかった。

 その想いは一生消えることはないだろう。

 

          ◇

 

「ママ~! パパがまだお仕事してる~!」

 

「あら、いけないパパね。今日は遊びに行くって約束だったのに」

 

 僕の部屋の外から、息子と妻の声がする。

 パソコンのウインドウには、英文とそれを訳した文章がずらりと並んでいた。

 そこに書かれているのは、奇妙に開けられた窓について、旅客と少女が話している様子だった。その家で起きた悲劇が、だんだんと恐ろしい結末へと繋がり……最後には、逃げ出した旅客を少女がからかっていたことが分かってエンドマーク。

 昔の小説だが、新たに翻訳を頼まれており、短い文章なので先に片づけようとしているのだ。

 

「ちょっと待ってて! あと少しだから!」

 

 筆耕作業をキリのいいところで終えて、慌てて立ち上がる。

 夜のとばりが降りた街の向こうから、ドンドンドンドンと太鼓の音が響いてくる。すでに祭りは始まっているらしい。

 

「パパ!」

 

「はいはいっ」

 

 バタバタと慌ただしく玄関を飛び出す。

 夏の夜風が涼しい……とはいえ、昼間熱されたコンクリートの余熱がまだ生きているせいで、風は生ぬるかった。

 妻は美しい模様の描かれた黒い浴衣を着て、長い黒髪を垂らしていた。ほんのりと施された化粧は、学生のころよりも健康的に見えるように使われている。

 僕は彼女に目を合わせて、言った。

 

「きれいだよ、咲」

 

「ありがとう。蓮司くん。何度聞いても飽きない言葉ね」

 

「ふふ、飽きても言うから」

 

「もー! パパ! ママ!」

 

 息子が地団駄を踏んで、口をとがらせていた。

 彼は僕らにそっくりだが、性格はあまり似ていない。やけに活発な子になっていた。

 

「早く行こ! みんな来てるんでしょ!?」

 

「そうだね。行こっか」

 

 三人で手をつなぎながら、街灯に照らされた夜道を往く。

 あれから何年もたつのに、地元はあまり変わっていない。もちろん、建物は朽ちては建てられを繰り返しているが、それでも町そのものが変わったとは思わない。

 そこにいる人が変わらなければ、いいものは永遠に残る。

 

「ねえねえ! 早く! はーやーく!」

 

「ああもう! 引っ張るなっての! ったく、ほんとに誰に似たんだか……」

 

 心当たりがまったくない僕に、咲が微笑んだ。

 

「たぶん、あなたね」

 

「なんで!? そんなにヤンチャじゃなかったと思うんだけどなぁ……」

 

「けれど、あの子のあの姿が、本来のあなたの性格のような気がするのよね。まあ、ただの勘なのだけれど」 

 

「そう……なのかな?」

 

 そういえば幼いころの僕はどうだったか。ああやって笑顔いっぱいに動き回るような子だったっけ。

 ひとりで数歩先を行く息子の背を眺めながら、僕はつぶやいた。

 

「ねえ、咲」

 

「なに?」

 

「僕は立派に親をやれているのかな」

 

 虐待されていた子は親になったとき、自分の子を虐待するという。

 僕はそうならないように努めてきた。咲を二度と不幸にはさせないと、この命の代えても誓ったからだ。

 今の僕は冷静になって、父のおこないを責める心を持てる。

 母は未だに許せない。だが、逮捕後になんやかんやあって亡くなったという報告があったので、もう憎む気持ちもかなり薄れてきた。死んだ人を恨んでも、しかたのないことである。

 

「やれているに決まっているでしょう?」

 

 咲は「つまらないことを訊くのね」と話を続けた。

 

「あの子があんなに幸せそうなのに、自身をなくすなんて」

 

「……そうだね」

 

 僕が間違ったことをすれば、咲は必ず止めてくれる。ならば、疑う必要なんてない。

 お祭りの会場に到着すると同時に、

 

 ダーン――――…………

 

 花火が上がり、夜空に無数の光を生み出した。

 僕らはそれを見上げて、顔面に七色の光を受け止める。チカチカとした消えざまに、夏の趣を感じ取った。首筋を撫でる冷風の気持ちよさを感じながら、次々上がる花火――ではなく、咲の横顔を見た。

 あの日から変わらず綺麗な顔だった。

 

「……咲」

 

「……ん?」

 

「出逢ってくれてありがとう」

 

 僕の言葉に、

 

「…………ふふっ」

 

 咲は満面の笑顔で応えた。

 

 僕らの夏も、人生も続いていく。

 今までたくさんの苦労も嫌な経験も忘れたい過去もあったけれど、それを乗り越えて、歩いていく。

 背負ってしまった、覆いかぶさってきた、被ってしまった過ち。それも全部ひっくるめて、足を引きずってでも前へとのめりこんでいく。

 振り返れば、歪な轍が延々と続いているのが分かる。途中で何度か転んで、僕の顔を象った穴まで生まれている。それでも立ち上がってきた。手を引っ張ってもらった。

 汚らしくて、デコボコな轍。

 それが僕らの足跡――人生だ。

 

「咲、あっち行ってみようか。三人で」

 

「えぇ。一緒に」

 

 僕らは今日も前へと進んでいく。




お、お、終わりました~~~~(*´▽`*)
一年半!ありがとうございました!
投稿ペースが遅かったり、誤字脱字があったり、「ここは後で書こう」と思ってそのまま忘れてたところもあったりとひどいガバガバっぷりでしたがなんとか完結にたどりつきました!
絶対に失踪すると思って匿名にしてたのになぁ…(ボソッ)
これもすべてみなさまの応援と私の忍耐力のおかげですね!
本来の予定だと本編時空に入るつもりだったのですが、草摩家と深く関わらない都合上、作劇がすごくやりづらくなると思ってその前に終わりにしました。
一応、本編後に蓮司くんは夾くんとも仲良くなっている感じです。
あと、エッチなのが少なくてすみませんでした。一話の話がアレなのとグロ描写があるのでR18にした次第でして、エッチについて考えてませんでした。無理やり入れた割に本編にまあまあ絡ませられたのでオッケーだと思います!
序盤の曇り空で鬱々とした感じがだんだんと晴れていく空気感は再現できていたでしょうか?蓮司くんはcivilianのメシアという曲のイメージで作ったので、鬱くて序盤読むの辛かった人はごめんなさい。あと興味ある方は曲を聴いて歌詞に注目してみてください!ぶっちゃけるとイメソンです!
ここまでありがとうございました!感想と、できたら高評価もよろしくお願いします!
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