(18)孤独
賑やかだった夕食会が終わり、和幸と希美と、部屋に三人きりになると、菜穂は無性に寂しいものを感じた。
今までなら、ここにもう一人いる筈であった。
朱理…
兎幣された当初から、片時も離れた事のなかった一番の友達が、初めて別の部屋、別の男と共に寝る。
和幸を挟んで、川の字で寝るのが日課であったのに…
『今夜は、進次郎様と寝るでごじゃるよ。』
部屋の前まで一緒に来て、朱理はそう告げて、一緒に中にはいらなかった。
『まあ、どうして?今夜は、希美ちゃんと夜更かしして遊ぶんじゃなかったの?』
『遊ぶ、ない?』
菜穂と希美が、同時に同じ格好で首を傾げると…
『そうでござるよ。カズさんも潰れてござるし、ナッちゃん一人に任せるのは、大変でござろう。アケちゃんも一緒に介抱して進ぜるが良かろう。』
進次郎も、菜穂と一緒の部屋に入る事を勧めた。
すると…
『それでは、進次郎様が可哀想でごじゃる。みんな、それぞれ好きな子と添い寝するのに、進次郎様だけ一人は寂しいでごじゃる。』
朱理は、指で鼻の下を擦りながら言うと、進次郎の腕をギュッと抱きしめ寄りかかって見せた。
『いえいえ、拙者は太郎と…』
進次郎が言いかけた時…
『そう言う事か…』
『そう言う事なのね…』
進次郎と菜穂は、同時に朱理を見て、はたとなった。
『では、今宵は拙者と添い寝しよう。』
『そうね。シンさん、アケ姉ちゃんを宜しくね。アケ姉ちゃん、こう見えても気が小さくて、怖がりの泣き虫さんだから、優しくしてあげてね。』
『わかってるでござるよ。』
進次郎はそう言うと、朱理の肩を優しく抱いて、自分にあてがわれた部屋へと去って行った。
朱理は、希美の肩を抱いて、酔い潰れた和幸を見つめながら、寂しそうにため息を吐いた。
朱理が、和幸に思いを寄せてるのとは別に、進次郎の事も慕っている事は、菜穂だけが知っていた。
菜穂が兎幣される大分前…
初めて貰ったお小遣いで、着物を縫う生地を買いに出かけた時、
以来、進次郎にも仄かな思いを抱くようになり、彼の独特な物言いや仕草を真似し、今のヘンテコな喋り方になった。
『アケ姉ちゃん、やっと思い叶ってよかったね…』
心の中で呟きながら、しかし、本音のところでは寂しかった。
兎幣された当初…
菜穂は、男の子にほんの少し触れられただけで、メソメソ泣きだす子であった。
本当であれば、兎幣される事に決まった少女は、遅くとも一年前から、家族の男達に基本的な事は仕込まれてくる。少なくとも、俗に田打部屋と呼ばれる参籠所の大浴場で、黒兎達と混浴して
しかし…
男ばかり四人兄弟であった中、五人目にして初めて生まれた女の子の菜穂は、父と兄達に、それこそ舐めるように可愛がられていた。菜穂が兎幣されると決まった時、父と兄達は、最後まで頑強に拒み続け、兎幣されるのが一年以上も伸びてしまったのである。
その為、半ば強引に兎幣されてきた菜穂は、何も仕込まれてはいなかった。
白兎の田打は、田打部屋と呼ばれる大浴場で混浴する、黒兎達の身体を洗いながら、自身の
菜穂は、初めて田打部屋に連れられ、黒兎達の見てる前で着物を脱がされそうになった途端、ベソをかき出してしまった。
特に…
『怖がる事はねえぞ、みんな優しいからな。それに、裸になっちまえば、みーんな同じさ。さあ、ぱぱっと脱いじまおうぜ。』
と、貴之が半ば強引に脱がせようとした途端、菜穂は大泣きしてしまったのである。
『辞めなよ!』
尚も、必死に宥めすかせながら、菜穂を脱がせようとする貴之を、後ろから薪木でぶん殴って止めに入ったのは、亜美であった。
『うわっ!何すんだ、鬼娘!』
貴之が、叩かれた頭を抑えて叫ぶと…
『タカ兄ちゃんって、何て無神経なの!この子、ますます怖がってるじゃない!』
『でもよう、今から慣れちまわねえと、一年もしねえうちに…』
『だからって、怖がる子をいきなりはないじゃない!それじゃあ、前の鬼畜な
亜美はそう言って、貴之を渋々引き下がらせた。
『ごめんね。菜穂ちゃんだっけ?』
菜穂が頷くと…
『それじゃあ、ナッちゃんだね。私は亜美…今日は良いから、そこに座って、みんなの事見てると良いよ。すぐにみんなと同じにしなくて良いさ。徐々に大丈夫そうだと思ったら、混ざれば良いよ。』
亜美はそう言って、菜穂を仕切りなしの寝室に残し、他の
『ささ、こっち向いて…前も洗ってあげるからさ。』
雪絵が竜也を振り向かせ、穂柱を洗い始めたあたりから、本格的にはじまった。
『フフフ…リュウ君、また大きくなったわね。どお、気持ち良い?』
『ハァ…ハァ…ハァ…良いよ、ユキ姉…凄く良い…』
すると…
『マサ兄ちゃん…』
茜は、背中を流す政樹の方を振り向くと、政樹の穂柱を揉み扱きながら、泡だらけの
『茜ちゃん…』
政樹はトロンとした目で見上げてくる茜と唇を重ねながら、小ぶりな乳房を揉み始めた。
隣では、互いの
秀行の手は、亜美の若草の生え染めたばかりの
『アァァ…ユキ姉…』
雪絵が、それまで丹念に洗いながら揉み扱いていた穂柱を口に含み出すと、両手を床につける竜也が顎を上げて声を漏らし…
『アーン…ソコ…ソコ…マサ兄ちゃん…ソコ…ソコ…』
政樹が片手で乳房を揉み、口に含んだ乳首を舌先で転がしながら、もう片方の手で股間を弄りだすと、茜がうっとりした声を上げ始めた。
『アーッ…アッ…アッ…アッ…』
股間にのしかかる秀行の、軽やかな腰の動きに合わせて、亜美が喘ぎ出すと…
『アンッ…アンッ…アァァ…マサ兄ちゃん、もっと…もっと…もっと…アァァン…』
『ウゥゥ…ユキ姉…良いよ…良いよ…ユキ姉…凄く良いよ…』
続けて、参道を貫かれた茜と、穂柱を包み込まれた竜也が、譫言のように口走り…
大浴場一帯が、絡み合う
湯殿と敷居なしに連なる寝室の寝台に腰掛け、身を固くして目の前の光景を見つめていた菜穂は、次第に震え出し、顔を伏せて、また泣き出してしまった。
すると…
『みんな、凄いでごじゃるのう。』
隣から、素っ頓狂な声がした。
振り向くと…
『ジャジャーン!朱理ちゃんでごじゃりまーす』
いかにも、風呂から上がったばかりの女の子が、手拭いで
『菜穂ちゃん…でごじゃるよね。』
『はい…』
菜穂が、涙目を擦りながら答えると…
『じゃあ、ナッちゃんだ。』
先に現れた亜美同様、その呼び方が当然であるかのように言って、朱理は指先で鼻の下を擦る仕草をして、また笑った。
『いやもう、参るでごじゃるよ。後ろでも、両隣でも、みーんな節操なく、イチャイチャ絡みあってくれちゃって…ゆっくり身体洗う事も、湯に浸かる事もできやしない…』
朱理が、´д` ;←こう言う顔してため息吐くと…
『なーんだ、アケ坊。おめえ、誰からも相手にされねえからって、新入りの女の子と乳繰りあう気か?』
これまた、あらぬものを丸出しにのし歩く貴之が、冷やかすように朱理に声をかけてきた。
『フン!お生憎様でごじゃるよ!私にはね、カズ兄ちゃんってステキな相方がちゃーんといるでごじゃる!』
『おめえ、まーだわかってねえんだな。カズがおめえなんか、本気で相手にするわけねえだろう。一人前の
『違うでごじゃる!私とカズ兄ちゃんは、生まれる前から、結ばれる運命にあった、相思相愛の相方でごじゃる!そんな事言って、タカ兄ちゃんこそ!』
『何言ってやがる。俺には、ちゃーんとチビって子がいるんだよ。おーい、チビ、行くぞー。』
すると、まだ湯船に浸かっていた早苗が、ニコニコ笑って出ようとするより早く…
『ダメーーーーー!!!!』
血相変えて飛び出して来た亜美が、何処から持って来たのか、ブッ太い薪木で、思い切り貴之の頭を殴りつけた。
『うわっ!痛え!何しやがる!』
『何度言ったらわかるの!サナちゃんの
この悪魔!ケダモノ!人で無し!あんた何か死んじまえ!』
『うわっ!やめろ!やめろ!この鬼娘!』
貴之が悲鳴をあげて逃げ回るのを、亜美は更に追い回して、何度も殴りつけようとした。
『あの二人、またやってらあ!』
政樹が言うと、心配そうに見つめる早苗を除いて、皆一斉に爆笑した。
それまで、ずっと怖がっていた菜穂もつられて笑い出し、朱理と顔を見合わせると、また、声をあげて笑い出した。
『ねえ?誰もいなくなった事でごじゃるし、一緒に入らない?』
皆、湯から上がり、更に寝室の寝台で銘々絡み合った後、田打部屋から去って行くと、朱理が菜穂を誘って言った。
菜穂は、一瞬、尻込みする。
『大丈夫でごじゃるよ。幾ら可愛いからって、ナッちゃんを食べないでごじゃるよ。』
朱理は、言いながら、クスクス笑い出した。
『それに、私には、カズ兄ちゃんって人が、ちゃーんといるでごじゃるよ。』
『うん。』
菜穂は漸く頷くと、ゆっくりと着物の帯を解き始めた。
『綺麗な
朱理は、菜穂の肩や背中を撫でながら言い…
『アカリ…さんも…』
『アケちゃんで、良いでごじゃるよ。みんな、そう呼んでごじゃる。』
『アケ…お姉さん…も…』
『だからあー、そんか改まった呼び方しないでも、~ちゃんで良いんだって…』
『じゃあ、アケ姉ちゃんも、とっても綺麗だわ。』
菜穂が、だいぶ砕けたように笑って言うと…
『それ程でも…ごじゃるわ。』
朱理も、(●´∀`●)←こう言う顔して笑った。
そして…
『エッヘン!どーだ、凄いじゃろう!』
朱理は、菜穂の手をとるなり、自分の胸に触らせて…
『カズ兄ちゃんもね、凄く形が良くて、立派だなって、いつも褒めてくれるのよ。』
まあ…そこそこに膨らみ始めてはいるが、凡そ豊かとも大きいとも言えない乳房を、思い切り自慢してみせた。
『アケ姉ちゃん…』
菜穂は、思わず顔を真っ赤にして俯くと…
『ほーら、遠慮しない、遠慮しない。カズ兄ちゃん何て、可愛い、大好きだって言いながら、いつも優しく撫でたり揉んだりしてくれでごじゃるよ。』
『えっ…』
『カズ兄ちゃんに撫でたり揉まれたりすると、凄く気持ち良いでごじゃる。』
朱理は、益々、菜穂が赤面してるのも構わず、得意げに話して聞かせながら…
『さあ、おいで、私が洗ってあげるでごじゃる。』
と、菜穂の手を引いて、浴室に引っ張って言った。
そして…
『ナッちゃん、私達、友達でごじゃるよね。』
指先で鼻の下を擦りながら、照れ臭そうに言う朱理に…
『うん!』
菜穂は、元気よく頷くと…
『これから先、私達は、何があっても一緒でごじゃるよ。約束でごじゃるよ。』
言いながら、差し出された朱理の手を…
『うん!』
もう一度、満面の笑みで頷きながら、強く握りしめた。
あれから、いつだってずっと一緒だったのに…
今夜は、別の部屋に行ってしまった。
早苗が逝き…
智子が逝き…
愛と愛の産んだ赤子も、もうすぐ連れられて行く…
だのに…
今、一番抱きしめて欲しい人は、酒の臭いをプンプンさせて、大いびきをかいている。
「お父さん、起きて、お父さん、起きてってば…」
「お父さん、起っき、起っき。お父さん、起っき、起っき…」
希美が、菜穂の真似しながら、一緒になって、和幸の身体をゆすっていた。
「もう!しょうがない人ね!」
菜穂が腕組みして口を尖らせると…
「もー!しょーない人ね!」
希美も真似して、同じ格好をして見せた。
菜穂は、思わずクスクス笑いだすと…
「希美ちゃん、良い事!大きくなっても、絶対、お酒は飲んじゃダメよ!」
「はーい。」
希美は、意味も分からず、満面の笑みで返事した。
「大きくなって、お嫁さんになったら、旦那様に、絶対お酒呑ませちゃダメよ!」
「はーい。」
希美は、また、意味も分からず、笑顔で返事した。
「お利口さん。希美ちゃんだけよ、ずっとお母さんの側にいてくれるのわね。」
菜穂が言うと、希美は益々笑顔になった。
やはり、意味は何もわかってない。ただ、菜穂が嬉しそうな顔をすれば嬉しいし、悲しそうな顔をすれば悲しくなるのだ。
この時になって、菜穂はずっと忘れかけていた肝心な事を思い出した。
希美と出会って、一月以上が経つ。
その間、見る見るうちに元気になっていった。
出会った当初、数歩歩いただけで息が切れ、苦しそうに胸を押さえてうずくまっていた。一日中、殆ど寝たきりであった。
それが、少しずつ、長い距離を歩けるようになった。
同時に、出会った当初は、粥や雑炊を一杯か二杯食すれば良い方だったのが、こんな小さな身体の何処に入るのかと思う程、沢山食べるようにもなった。
しかし…
それも長くは続かない。
残された時間は、長く見て後二月だと言う。
拾里で一度だけ倒れ、昏睡状態になった。それが、出発を遅らせもした。
次に同じ事が起きれば、もう二度と起きる事はないだろうと言われている。
今まで、その事を深く考えた事はなかった。
ただ、希美を引き取る事が出来ただけでうれしかった。自分をお母さんと呼んで慕ってくれる子が出来ただけで、毎日が幸せであった。
それが、今頃になって、先が短い意味を思い知らされるようになったのである。
「希美ちゃん、大きくなれたら、お酒呑んでも良いよ…」
菜穂が、優しく希美の頬を撫でながら言うと、希美は不思議そうに首を傾げた。
「お嫁さんに行けるなら、相手が大酒飲みの酔っ払いだって構わない…」
益々首を傾げる希美を、菜穂は強く強く抱きしめると…
「大きくなれるんだったら…ずーっと、今のまんま、中身が三歳児でも、赤ちゃんのまんまで良いの。大きくさえ、なってくれたら…お母さんの側にさえいてくれたら、もう、何もいらない。」
そう言って、シクシクと泣き出した。