※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

51 / 102
(5)再会

(5)再会

 

いつの間に、そこに控えていたのか、小銃を抱えた百人近い男達が、木陰から姿を現した。

皆、それぞれ、農夫や漁師と言った領民(かなめのたみ)達の姿をしていたが、楽土兵や同盟紅軍の革命家達である。

更に、彼等の間から…

『辰三!』

『平次!』

『ドブ、来てたのか!』

『伝七、久しぶりだな!』

『サブ、イチは元気か!』

『奴は殺されても死なねえよ!』

鱶背摂社領(ふかせのせっつやしろのかなめ)や末社領(すえつやしろのかなめ)に散る目明組達が、続々と姿を現した。

そして…

『右門、飯伍、駿介…』

社領医師(やしろのかなめのくすし)である義隆が、長い顎鬚を撫で、煙管を吹かせながら、目明組達と共に姿を現す弐十手衆の中から、見知った顔の名を挙げて行くと…

『お目当ての連中がやってきたな…』

社領楽師(やしろのかなめのがくし)である勇介が、何処か寂しげな微笑を湛えて言った。

私は、二人に何も答えず、黙って見知った顔を見つめていると…

『おおっ!名無し!』

考え深げに黙り込む右門の傍で、駿介の方から気さくに声を掛けてきた。

『やはり、お前達が弐十手衆に加わったと言う噂は、本当だったのだな…』

私が言うと…

『俺は、奥平殿が貴様達を此処に呼んだと聞いた時は、度肝を抜いたぞ。何しろ、北天の明星国と結ぶ注連縄衆を情け容赦なしに殺しまくった貴様だからな…

だが…

強いて聞かぬぞ、注連縄衆の事は和邇雨上層部以上に嫌悪してきた貴様が、何故、同盟紅軍の誘いに乗ったのかはな。

ただの殺戮集団に過ぎぬ注連縄衆とは、根本的な志が違う。だろう?』

駿介は、漸く何か探し求めてきたものに辿り着けたような、晴れやかな顔をして言った。

旻朱(みんしゅ)山脈に暮らす山童(やまわら)の中で固く守り続けられてきた、正当神道…旻朱道(みんしゅとう)。

霞衆は、和邇雨一族の信奉する神民道(じみんとう)に忖度し、捻じ曲げ、旻神道(みんしんとう)の教理に変えてしまった。

霞衆、風間組組頭の娘と、和邇雨一族名門の神職家(みしきのいえ)の間に生まれ、熱血漢あふれる純粋な男であった彼は、苦しみながら生きてきたのを、私は知っている。

殊に…

障害を負った仔兎神(ことみ)を助けようと望んだ時…

霞衆によって生きながらに鱶の餌食にされた。

その事が、私と彼との人生を、大きく変えてしまったのかも知れない。

『私は、強いて聞く。何故、北の楽園に逃れなかった?何故、此処にとどまった?』

『軽信殿に感銘したからだ。彼女は、異国(ことつくに)の女でありながら、自国での権勢栄華に走る事なく、楽土統一戦争、旧植民地の楽園化、未だ洋上帝国の軛にある旧植民地南部の奪還、かつて自国を犯し、多くの同胞を殺されながら、洋上帝国の植民地と化した皇国(すめらぎのくに)の解放…

常に、未だ圧政に喘ぐ他国に渡り、その国々の為に戦う勇姿に打たれたのだ。

どんなに歪み汚れきっていても、幽国神領(かくりのくにかむのかなめ)は俺の故郷…

異国(ことつくに)の人間が、必死に救おうと戦ってくれてる故郷を、幽人(かくりびと)の俺が捨ててどうするのだとな…』

彼が、双眸を輝かせて熱く語る傍で、右門は考え深げにむっつり黙り混んでいた。

右門…

昔から、殆ど言葉を発する事なく、常に考え深げに、周囲の言葉に耳を傾けている男であった。

私の母の出自である朧衆の者であり、私が兄のように慕っていた男である。

朧衆近藤組若頭筆頭であった彼は、旻朱道(みんしゅとう)の伝承教理を神領(かむのかなめ)に広め、神民道(じみんとう)によって歪んでしまった神道を正す事を夢見、使命ともしていた。しかし、霞衆を抜け、北の楽園に逃れたがる、親友の駿介の為に、生涯の夢と使命を断念して、共に北の楽園に逃れる道を選んだ。

その彼が、旻朱道(みんしゅとう)の教理とは、凡そ相容れない社解道(しゃかいとう)信奉者に身を置いている。その胸中を推し量る事は、むっつり黙り込む表情からは、測り知れない。

右門同様、顎鬚を撫で、煙管を吹かせながら、沈黙を守り続ける義隆が、思慮深く見つめるのは、飯伍であった。彼は、かつて、鱶見総社領大岡町産土宮司忠高(ふかみのふさつやしろのかなめおおおかまちうぶすなつみやつかさただたか)に仕える、町与力組組頭であった。忠高の息子にして、総社奉行職忠相(ふさつやしろのぶぎょうしきただすけ)配下の神漏衆大岡組小頭(みもろしゅうおおおかくみこがしら)であった義隆とは、竹馬の友であった。

その昔…

飯伍の父、源次郎が兎神子(とみこ)達の惨状を占領軍元帥に直訴し、黙殺される事件に連座して、一族諸共皆殺しにされそうになった事があった。その時、飯伍一人は、忠高・忠相親子の力で助命された。しかし、その為、忠高は自害に追い込まれ、人望厚く、複雑な権力抗争の中で、殺すわけにいかなかった忠相は、鱶獲摂社宮司(ふかとりのせっつやしろのみやつかさ)に昇進と言う形で、左遷させられた。

この事件が引き金となり、後に飯伍は同盟紅軍と接触し、弐十手衆となった。更に後、鱶見本社(ふかみのもとつやしろ)の社領医師(やしろのかなめのくすし)となっていた義隆に接近した。この事が元で、智子の頼みで美香に法被を着せた事を口実にされ、義隆は失脚の憂き目を見る事になった。

『飯伍…』

義隆が、漸く重い口を開きかけるより先に…

『右門、お前には、わかってるな。これは茶番だ。手を引け…』

勇介は唐突に言った。

『何だと!』

いきり立つ駿介を、右門は軽く手で制すると…

『弾頭型原子爆弾…』

胡乱な眼差しを俯かせたまま、一言呟いた。

『やはり、わかっていたんだな。』

勇介が言うと、右門は哀愁漂う笑みを浮かべて大きく頷いて見せた。

『何だ、そんな事か。』

駿介は大きく息を吐いて言うと、カラカラと笑い出した。

『洋上帝国が、聖宮司(ひじりのみやつかさ)と連んで、神妣島(かぶろみしま)に機密砦を建て、新兵器を開発してる事は知っている。これを阻止し、機密砦と開発中の新兵器を破壊する事は、革命の大きな目的の一つでもある。

洋上帝国は、かつて天領(あめのかなめ)の旧帝国が目論んだ東亜支配の野望を、この地に新兵器を置く事で実現させようと目論んでいる。それが、弾頭型の原子爆弾だ。その野望を挫き、東亜の平和を守る。何が悪い。

神領(かむのかなめ)に楽園を建設した上、皇国(すめらぎのくに)を洋上帝国から解放し、東亜の平和をも実現する。更に洋上帝国の軛に置かれた分離国を奪還し、楽園の統一を図れれば、一石二鳥どころか、三鳥にも四鳥にもなるではないか。』

『右門、これは、弾頭型原子爆弾の争奪戦だ。楽土は…周恩来(チョーエンライ)は、神領(かむのかなめ)の領民(かなめのたみ)も兎神子(とみこ)達も、解放する気などない。ただ、弾頭型原子爆弾と、その機密砦として神妣島(かぶろみしま)が欲しいだけだ。東亜の覇権を握る為にな。』

勇介は、相変わらず、駿介を無視するように右門に言うと…

『黙れ!楽土を…周恩来(チョーエンライ)先生を、洋上帝国や旧帝国と一緒にするな!』

駿介は、今にも掴みかからんばかりに激昂した。

『黙るのはおまえだ!俺は、右門に話してる!』

勇介は、駿介を一括すると、更に言葉を続けた。

『美香と言う赤兎の一件、おまえも知ってるな。智子と言う白兎に頼まれ、義隆が隠れて法被を着せてやった事が発覚し、拷問じみた仕置を受け、死んだ赤兎だ。

かねてより、和幸と言う黒兎に、救いを求められていたのを黙殺見殺しにしただけじゃない。法被の件、童衆(わらべしゅう)に嗅ぎつけさせたのは、同盟紅軍だ。どうしても、飯伍に協力はしても、弐十手衆に加わろうとしない義隆を、総括する為にな。』

『貴様…弐十手衆を抜け、裏切ったばかりか、そこまで…』

駿介は、歯軋りしながら、腰の刀に手を掛けた。

勇介は、構わず話し続けた。

『周恩来(チョーエンライ)は、人民の解放者でもなければ、東亜の庇護者でもない。彼は、紛争と搾取しか齎さぬ、帝国主義者だ!目を覚ませ、右門!おまえだけでも、革命から手を引けば、お前に心酔する目明組紅兎達は手を引く!こんな茶番に巻き込み、子供達を死なせるな!』

そして…

『話はすんだ、切りたければ切れよ。』

愛刀・鬼殺しを振り上げる駿介に、勇介は振り向きもせずに言った。

『目明組…ここの紅兎達を、そう名付けたのは、お前だそうだな。彼らに、自分達と同じ同心の証しとか言って、弐十手を持たせたのも、お前だそうだな。』

『だったら、何だ…事実、あいつらは、俺達の仲間…同心だ。』

『いつか、周恩来(チョーエンライ)の野望に利用されただけだと知った時…誰でもない、お前に心酔して目明組になり、死んで逝った子供達の顔を忘れない事だな。

俺は…

美香ちゃんの笑顔を忘れられん。だから、早く、あの子の側に行って謝りたい。

さあ、切れ!さっさと切れよ!』

と…

駿介が、まさに鬼殺しを振り下ろそうとした時…

『やあ、やあ、みんな、よく来てくれた!』

奥平が、大仰に手を叩きながら、そこにやって来た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。