(6)勧誘
『おや?これは、何の騒ぎですかな?』
奥平は、今にも勇介に鬼殺しを振り翳さんとする駿介を見て、惚けた物言いで言った。
『見ての通り、あなた方の言い方に従えば、裏切り者を総括しようとしているところだ。』
私が言うと…
『それは、また、物騒な!』
奥平は、彼特有の大仰さで、驚いた顔して見せた。
『駿介さん、刀を納めて下さい!勇介先生は、義隆先生同様、私が無理に願って、お越し頂いたのですよ!』
『だが、此奴…弐十手衆を捨てたばかりか、あろう事か…』
駿介が言い終えるのも待たず…
『私は、勇介先生の事を、裏切り者とも弐十手衆や同盟紅軍を捨てたとも思ってません。可哀想な美香ちゃんを見殺しにしたばかりか、義隆先生の事を嵌め、命まで狙った、
そう言うなり、またも、大仰に土下座して見せた。
『奥平殿!』
『駿介さん!どうしても許せない…勇介先生をお切りになる、総括すると仰るなら、まず、この私をお切り下さい!全ては私の責任!
駿介は、地面に額を擦り付ける奥平を前に、刀を鞘に納めると、踵を返してその場を去った。
右門は、やはり、むっつり黙り込んだまま、何かもの言いたげな眼差しを私達に残して駿介を追った。
始終、義隆と見つめ合っていた飯伍は、一瞬、何か言いかけたものの、奥平を見て思い留まり、その場を去って行った。
『飯伍…』
義隆は、急ぎ、飯伍の後を追った。
『悪い事は何でも
全ては社会のせい、体制のせい、権力者のせい…そんな教理の
勇介は、怒りとも憂いともつかぬ一瞥を奥平にくれて去った。
その場には、私と奥平のみが残された。
いつまでそうやってるつもりなのか…
いつまでも地面に額を擦り続ける奥平に、底知れぬ嫌悪感を抱き始めた時。
『剛三、話はついたの?』
軽信の声が、後ろからしてきた。
『話す事など何もない。』
私は、振り向かぬまま答えた。
相変わらず口笛混じりな彼女の顔を見たら、この嫌悪感は更に大きくなるだろう。
『私は、お前達が、革命を起こそうが、大筒を使わず飛ばせる爆弾を奪おうが興味ない…』
『なら、何故、和幸君について来たの?偉大な
軽信は、馴れ馴れしく私に抱きついて言った。
目明組や弐十手衆の間では、理想の恋人同士として知られる、奥平の前で…で、ある。
『父にそのような命令は受けてない…』
『じゃあ、どうして?』
『紅兎を解散させろ。これ以上、子供達に殺しをさせるな。』
私が言うと、軽信はクスクスと可笑しそうに笑い出した。
『そんな、怖い目で見ないで頂戴な。』
軽信は言いながら、甘えるような悩ましい眼差しで、私を見上げた。
『子供達に人殺しね…
幼い子供達の手を、血で汚させるのと、欲情した男達のナニで汚させるのと、どんな違いがあって?』
私は、答える代わりに、拳を握りしめた。
『ねえ。和邇雨一族に産まれると、男の子は夢精が起きると同時に、
軽信は、私の首筋や頬を撫で回しながら言った。
『小さい子とやるのって、気持ち良いの?お・し・え・て…』
最初は拳…
次第に全身を震わせながら、私は今にも嘔吐して蹲りそうになるのを必死に耐えた。
脳裏にはまた、幼い頃、目の前で父に見せられて来た事…
父に命じられるままに、私自身がして来た事が蘇り…
耳の奥底には、幼い少女達の呻き声が響いてくる。
『愛ちゃんと、お山に遠足するのが大好きなんですってね。
楽しみね。もうすぐ、愛ちゃんと一緒に暮らせる事になるんですものね。そう、すっぽんぽんにしてね。
毎日、毎日、大勢のおじさん達に、お口と、小さなお股とお尻の孔に、大根みたいなモノを捻り込まれるのを、目の前で眺めて過ごして…
さぞかし、楽しいんでしょうね。』
私は、思わず腰の胴狸を握りしめる。
『どお?ここが、ムズムズしてきたかしら?
昔、百合ちゃんって子が、一度に十何人もの
その百合ちゃんのお股の孔とお尻の孔とお口に、今度は自分のモノを捻り込んだ時の事を思い出してさ…』
胴狸を握りしめる手は、更に硬直する程力が込められ、今にも抜き放ちたい衝動に震え出す。
しかし…
抜き放った刃で、切り刻みたい相手が、果たして、軽信なのか自分自身なのかわからない…
軽信は、そんな私の青褪め歯軋りする顔を見上げると、舌舐めずりしながらニマッと笑い出した。
『百合ちゃん、どんなお顔をしていたのかなー?
どんな声を漏らしてたのかなー?
触られただけで、火がついたように痛くなったところを、大好きなお兄ちゃんに抉られて…
思い出しただけで…
フフフフ…』
軽信は、尚も嬲るように言いながら、私の股間に手を伸ばすと、公認の恋人の目の前であるのも憚らず、穂柱を扱きだした。
『それで、百合ちゃんの中に何回、白いモノを放ったの?お股の孔に何回?お尻の孔に何回?お口に何回?
十回?百回?あーんまり、いっぱい出し過ぎて、もう覚えてないのかしら?』
私の首筋や頬を舐め回しながら、穂柱を握る軽信の指先の動きは、細やかさとしなやかさを増しながら、次第に加速させてゆく。
『こうして見ると、名無しさんって、素敵な顔をしてるわね。
ほら、勃たせなさいな…
遠慮なく勃たせて良いのよ。
今夜は特別に、私が相手を、し・て・あ・げ・る…
からさ…
それとも、勃たないの?
勃たないわよねー。
小さくてツルツルしたアソコと、まだ膨らんでないここでないと、勃たないんですものねー。
ほーんと、楽しみねー。
もうすぐ、百合ちゃんにしてきた事を、今度はだーい好きな愛ちゃんに、毎日できるようになるんですものねー。』
私は、いよいよ握りしめた胴狸を抜くのを堪え切れなくなりかけた時…
『房枝、それくらいにしておいてやれ。』
奥平は、ククク…と喉元鳴らして笑いだし…
『核弾頭を奪う…さすがは、
我等の事も、我等の背後の事も、お詳しいようですな。』
立ち上がり、膝の土を払いながら言った。
『忘れても良い。子供達から手を引くなら…』
私が言うと…
『忘れてくれなくて結構ですよ。いや、むしろ、覚えておいて頂きたい。』
奥平は、つい先刻まで見せていた号泣顔は何処に行ってしまったのか、満面の笑顔で、大仰に首を振って見せた。
『名無しさん。あなたには、率直に言いましょう。愛ちゃんを赤兎になどせず、普通の女の子のままでいさせたいと思いませんか?』
私が、思わず見開く目を向けると、奥平は、大仰に頷いて見せた。
『貴方に、革命の大義や理念などを求めは致しません。ただ、愛ちゃんを傷つけるのを防ぎたい、普通の女の子のままにしておきたい。それで良いと思ってます。』
奥平が言うと…
『さっきは、ごめんね。名無しさんに、辛い事を思い出させる事を言ってしまって…』
軽信が、口笛混じりに、クスクス笑いながら言った。
『でも…
赤兎にされた子って、一糸纏う事も出来ず、手で隠す事も許されないで、家の中でも外でも、すっぽんぽんでいなきゃならないんでしょう?求められれば、いつでも誰にでも玩具にされなくちゃいけないんでしょう?
裂けても、擦れて赤向けになっても、来る日も来る日もされ続けて…』
『もうよせ、房枝!』
『いいえ、やめないわ。だって、こう言う人にははっきり言ってやらなくちゃわからないもの。
お腹壊して、赤剥けになったお尻を擦られたり、塩水かけられたら、どんなかしら?
貴方の目の前で、貴方の父親達にされた子達、父親の言いなりに、貴方にされた子達の痛い思いって、そんなもんじゃないのよ。
どんなに裂けて、擦りむけて、触られるだけで火がついたみたいになっても、来る日も来る日も汚いもので抉られる子達の痛み、男の貴方にはわからないわよね。
その上、人からは、汚い、臭い、穢れてるって言われ続ける。一生ね。
そんな思いを子供達にさせておいて、人殺しをさせるな…
随分と笑わせてくれるじゃないのさ。』
一言もなかった。
私は、言われるままに聴き入りながら、父達に弄ばれ、呻き声を上げる百合の姿、この手で百合を
『率直に言うわ。私、貴方を軽蔑してる。
自分は持って生まれた体制側に身を置き、飽くなき搾取を続けながら、上目線な綺麗事を言って、善人ぶる。そう言う奴が一番許せないわ。』
軽信は、一気に捲し立てると、さっきまでの悩ましく誘いかけるような眼差しを一変させて、蔑みきった眼差しを向けてきた。
『子供に人殺しをさせるな…美香ちゃんを見殺して、可哀想の一言で片付けるな…
だったら、貴方はどう片付けてくれると言うの?
今も、裂けて、赤剥けになって、血塗れになったアソコを、貴方の同族の男達の汚いもので更に抉られる赤兎さん達を、どう救ってくれるの?
幼い身で、来る日も来る日も、貴方の同族達の玩具にされて、繁殖用動物のように子供を産まされ、その子を奪われ涙を枯らす白兎さん達は…
そんな子達を目の前に、血の涙を流す黒兎君達は…
和幸君から聞いてるわ。
和幸君達、何が何でも愛ちゃんに皮剥させたがってる、康弘って奴や、登って奴達を、何度も殺そうとしたのを、名無しさんが止めたのよね!
自分が、必ず、愛ちゃんの皮剥を阻止するからって言って…
でも、できなかった!
結局、愛ちゃんは三月後には皮剥される事が決まってしまった!
それで…
もうすぐ、百合ちゃんや美香ちゃんと同じ目に合わせる愛ちゃんの事は、可哀想の一言ではなくて、どう済ませると言うの!
教えなさい!さあ!あれだけ、捲し立てた私に、納得行くように教えなさい!』
言いながら、軽信は、また私の股座を弄ると、一層蔑んだ眼差しを向けてきた。
『それにしても…
私の指使いで、あれだけ扱かれながら、反応すらしない…随分と情けないものをぶら下げているのね。
まあ…貴方は男じゃないから、仕方ないか…
でも、黒兎君達…男色連中に女みたいに扱われてるけど、中身は立派な男なのよ。お父様は、そこを見抜かれて、見込まれたわ。
和幸君達は、立派な男…そんな彼等が、どんな気持ちで、姉や妹みたいに思っている白兎さんや赤兎さん達がされる姿を見ていると思うの?
その、姉や妹みたいに思っている、白兎さんや赤兎達さんを弄んだ同じ手で、どんな気持ちで弄ばれてると思うの?
私は、お父様は、女のように扱われながら、心は誰よりも男の黒兎君達に、愛する者を守る方法、奪い返す方法を教えてあげたのよ。
ただ見てるだけ…いや、見てるだけでなくて、自分もあの子達を弄んで役立たずになった貴方に、人殺し扱いされる言われはないわ。』
『それで…
これまで、ご貴殿方は、どなたか救われたかな?』
突然、間を割るように言ったのは、いつの間に戻ってきた飯伍であった。
『飯伍さん…』
『それがし、ご貴殿方が、どなたか救われたのを拝見した事がござらぬ。
拝見したのは…
ご貴殿方が、悪の権化と言われる
『だから、それは、ジャイアント派の…』
『ジャイアント派…まあ、率直に言わせて頂こう。それがしも、長年、弐十手衆をしてござる。ご貴殿方の本国にも、東亜の覇権を狙う
それを言うなら、
『知ってるわ。だから、志ある和邇雨一族を、私達は仲間に受け入れた。』
『そうではござらぬ。
その後押しをされてるのが、ご貴殿が軽蔑して止まぬ、この名無し様…
かつて赤兎どころか、全ての
忠高様のご意思を受け継ぎ、
忠相様は、それがしが革命に身を投じた事を知って尚、与力組に加えようとして下さろうとしてござる。』
『何を言ってるの?それは、権力層が大衆を誑かす為の…』
軽信が何か言い返そうとした時…
『俺は、末端ながら、
義隆が、割り込むように話し出すと…
『義隆さん…』
『その逆に…』
何か言い出そうとする軽信を、更に遮り、言葉を続けた。
『美香ちゃんを、寄ってたかって玩具にする貧困町人、乞食達も多数見ている。
田打の為、毎朝、全裸で家の庭先に立たされている愛ちゃんを、からかいながら、面白がって見に来たり、卑猥な事をするよう要求する貧困町人や乞食達も、この目で見ている。』
『まあ、良いわ…』
軽信は、軽く首を振ると…
『それで、飯伍さんは、弐十手組を抜けるの?革命から手を引くの?良いわよ。我々、
義隆には目もむけず、飯伍に言った。
『いや…』
飯伍は、大きく首を振った。
『それがしは、革命に参加する。』
『飯伍!』
日頃、何事にも動じない義隆が、目の色を変えた。
『義隆、わかってござる。この革命の本質、よくわかってござる。貧民を救う為でも、
あいつらも馬鹿じゃない。紅兎の子供達の中にも、薄々勘付いている子達もいるでござろう。
だが、他に、望みはないのだ。彼らには革命しか残されてござらん。抜けて、生き延びたとして、どんな希望があいつらにござろう。
それがしは、あの子達にない夢を与えて、革命に引き込んでしまった。他に生きられぬのなら、共にない夢を追いかけるしか、それがしにはできぬのだ。』
飯伍が言うと…
『よく言ってくれたわ!』
軽信は、満面の笑みを浮かべて言った。
『飯伍さん!よく言ってくれたわ。それで良いのよ。革命に、大それた大義だの理想、志だの無くて良いの。
他に生きられない子供達と共にいよう、それで良いのよ!
でも、約束するわ!この革命が成功した暁には、必ず、加わって良かったと思える世界が来る!今は、何の希望のない子供達に、明るい希望の光が差す世界が訪れる!私の祖国のように!』
飯伍は、自嘲するような笑みを軽く浮かべると、その場を去り…
『飯伍…』
義隆は、煙管の吸い殻を捨てながら、その後を追った。
『アソコも、革命にも、男として役立たずの名無しさん。此処に来ただけでも褒めてあげるわ。革命成就後も、生かしておいてあげる。
精々、目の前で父親に犯されて呻いていた女の子達、父親に言われるままにその手で犯してきた女の子達の事を一生引きずって、役立たずのまま生きて行くと良いわ。』
軽信は、もう一度、蔑んだ眼差しを私に向けると、それだけ言って、そっぽを向いて去ってしまった。
『房枝を許してやって下さい。』
奥平は、また、大仰に首を振りながら、神妙な顔をして言った。
『詳しい事は、お話できませんが…
十二までに子を成す者は、三割に満たない…どころか、幼い身での連日絶え間ない陵辱に耐えきれず、多くは、十二を待たずに命を落とすと言われてる赤兎。
軽信は、無事に生き延びあの歳を迎える事ができた、数少ない赤兎のようなものだと思って下さい。そう言う人生を送ってきたのです。それも、旧帝国軍によって…』
『慰安婦か…出自は楽園の…』
『だから、詳しくは、お話できぬと…』
『聞く気はない。彼女を責める気もない。私とて、彼女の言う通りの人生を生きてきた男だ。
ただ…
子供達を巻き込まんで欲しいと願う。嘘の夢と希望で、ただでさえ傷ついている子供達に、これ以上、手を血で汚す真似をさせないで欲しい。』
『これは異な事を…』
奥平は、また、大仰に驚いた顔をして見せた。
『我らの動機はどうあれ…あの子達の夢と希望が嘘だと何故、お決めになられる?
我らの動機は動機…
だが、あの子達はあの子達の望みのままに革命に加担し、それが現実にならないと誰が言えるのですか?』
『お前達の狙いは、核弾頭と
早い話、旧帝国が、かつて解放協和の美名の元に、東亜にしてきた事を、
『いけませんか?
まあ…
旧帝国を真似ねようとされてる
敢えて、その事は申しますまい…
ただ…
貴方は、あの子達の望みの小ささも、民の願いの細やかさも理解されてない。
あの子達の望みはたった一つ…姉や妹のように愛してる白兎や赤兎達を、普通の女の子に戻してやりたい。
普通の女の子として、幸せにしてやりたい。それだけですよ。
でも、それは、貴方とて同じではありませんか?
愛ちゃんを、赤兎にせず、普通の女の子のままにしてやりたい。
あの子に恋する太郎君と、焦れったい、甘酸っぱい恋をさせてやりたい。
ご自身が、百合さんとできなかった事を、愛ちゃんと太郎君にさせてやりたい…
違いますか?』
答える代わりに、私が彼の顔を見据えると、奥平は満足そうに笑って、小刻みに頷いた。
『夢の全ては叶うかどうかはわかません。幼い恋の行方など誰にも予測できません。だから、愛ちゃんと太郎君がどうなるかは、誰にもわからない…
でも、愛ちゃんを赤兎にせず、普通の女の子のままにしておく事は可能なんですよ。
革命が成就する事でね…
この小さな望みをかけて、革命に参加しませんか?
即答は求めません。革命決行当日まで、ゆっくりお考えになられると良いでしょう。
愛ちゃんを傷つけぬ為に、今、この瞬間に出来る事をね…』
奥平は、そう言うと、もう一度満面の笑みを浮かべて頷きながら、その場を去って行った。