(7)思春
私は数日間、目明組の紅兎達と過ごした日々を思い返しながら、
革命決行の日は、数日後に控えていた。
同盟紅軍や弐十手衆を交えた会合が続く間、勇介と義隆は、顔馴染みの弐十手達、私は和幸と平次を通じて、紅兎の子供達と話を続けていた。
勇介と義隆は、顔馴染みの弐十手達の何人かだけでも革命から手を引かせようと説得を続けていた。
紅兎を引き抜く方法は、
一年程かけ、黒兎との間に十分な信頼関係が結ばれると、弐十手達は、同盟紅軍幹部と引き合わせ、紅兎の一員に加えるのである。
和幸の場合、少々、手が込んでいた。
まず、
智子が、前の
前任の
しかし、義隆は親身に治療しただけでなく、傷が良くなるまで、診療所に置き、飽くなき
以来、度々、美香を連れて飛び込んで来る智子と親しくなった。
和幸自身が、
一方、義隆は、智子の話から、和幸の事を詳しく知るようになった。まず、智子と和幸が恋人関係にある事。他の
やがて、遠目にではあるが、和幸を気にかけるようになり、義隆は、時折和幸に声を掛けるようになった。
そこに目をつけたのが、義隆とは竹馬の友であった飯伍であった。
飯伍は、義隆の元を訪れては、まず、前の宮司の目を盗んで訪れる、智子と美香に親しく声をかける事から始めた。そして、
軽信もまた、最初は、智子と美香に親身に接するところから始め、智子と美香の口から、和幸に軽信の事を知らせた。やがて、智子と美香を介して、和幸と接触を果たしたのである。
そして…
軽信が見事引き抜いた和幸に、殺人に特化した武芸を仕込んだのは、勇介であった。
義隆は、最後まで弐十手衆には加わらなかったが、飯伍を介して、かなりの頻度で、接触を繰り返していた。
勇介は、美香の死を機に抜けるまで、どっぷり同盟紅軍に浸かっていた。彼自身の手で葬られた、和邇雨一族の数も、両手の指では数えきれなかった。
いずれにせよ…
二人とも、紅兎達と、最初に関わった弐十手や同盟紅軍革命家との結びつきの強さを知り尽くしていた。
革命そのものを阻止する事は不可能であり、そもそも、そんな気は毛頭ない。大人同士、独善的な正義を振りかざして、勝手に殺し合う事に何ら興味はない。
ただ…
哀れな白兎や赤兎達を守りたい、救いたいだけの子供達を、大人達の身勝手な殺し合いに巻き込むのは防ぎたかった。
一人でも、二人でも、革命から手を引かせたかった。
それには、彼等と関わり深い大人達に手を引かせるのが一番だと思っていた。
勇介と義隆が、見知った弐十手達を説き伏せる事が出来れば、少なくとも、彼等と関わり深い紅兎達は、革命から抜けさせる事が可能だと思っていたのである。
私は…
と、言えば、どうしたかったのだろう。
一つには、和幸達を紅兎や革命から手を引かせたかった。
私に悪戯して、悪さして、知恵の限りを振り絞って困らせて…
愛に怒られ、そっぽ向かれて、落ち込んで…
やっと子供らしい姿を垣間見せるようになった彼等を、大人同士の身勝手な正義のぶつけ合いで死なせたくなかった。
彼等を失いたくなかった。
彼等を失う事で、彼等と女の子らしい恋愛をするようになった白兎達を、悲しませたくなかった。
それだけなら、何故、和幸に求められるままに、革命決行を話し合う会合に顔を出したのだろう。
命がけで、彼等を
私は、ただ、会いたかったのだ。
父の命令で、前の
私は、その事をもみ消した。たまたま、一度は壊滅させた注連縄衆の新手の刺客が、私を襲撃する事件が起きた。刺客達を悉く始末した後、彼等を下手人に仕立て上げて、一見落着としたのである。
すると、今度は、紅兎なるものの探索を命じられた。ただ、調べるようにとだけ命じられた。
私は、愛が既に八歳を過ぎてる事を理由に、赤兎ではなく白兎として受け入れる方針で検討する許可と引き換えに応じた。
そして、調べて行くうちに、和幸達に辿り着き
正直、どうでも良かった。元々、
東亜の覇権を誰が握ろうと、
ただ…
その渦中に、幼い子供達が巻き込まれている事を知り、胸が痛かった。
抗旧帝国戦争の最中…
自由と人権に目覚めた、和邇雨一族の若者達は、そんな日々に苦しみ続けていたのである。
そんな中…
楽土と楽園と明星国に向けられた新兵器が、
楽土と楽園の防衛もさる事ながら、東亜の平和を守る為、新兵器を密かに破壊する事を望んだ。
ここで、目をつけたのが、黒兎と呼ばれる少年達であった。
当初、黒兎たちは、白兎達に性技を仕込む為の練習台であった。それが、時代の変遷と共に、男娼をさせられるようになった。しかし、中身は男であった。それも、多感な思春期の少年達であった。
中身は、多感な思春期の少年達である黒兎達には、純粋に年頃の少女達である白兎達への恋心があった。幼い赤兎を愛しく思う心があった。何より、男として、目の前で弄ばれ、子を産まされ、その子を奪われ涙する少女達を守りたいと願う心があった。
そして、彼等を革命に引き込むと、殺人に特化した武芸を仕込み、間者とすり替えたい
おそらく…
西天の浄土の首相ネールに心を寄せ、彼と共に東亜の平和を実現させたいと望む
三諸島で開発中の新兵器も、彼は奪うのではなく破壊しようと考えたのも本当だろう。
新兵器破壊を図る過程の中で、哀れな兎神子達の存在を知り、本気で救いたいと望みもしたのであろう。
しかし…
私は、理由はどうであれ、多感な思春期の少年達である黒兎達の心を、殺人に利用しようとする事に嫌悪感を抱いた。
それでなくても、薄汚い大人達の欲望の捌け口に利用されてるのだ。
そして…
楽土の情勢は、また変わっていた。
内心では東亜の覇権を手にしたい
そして、東亜の覇権を狙う
同時に、
自然、同盟紅軍の革命のあり方も、加担する弐十手衆や紅兎の扱われ方も、変わろうとしていた。
私は、どうしても、このまま、紅兎の少年達が、革命に使われて行くのを、黙って見過ごす事が出来なかった。
ただ、白兎や赤兎達…
いや、多感な思春期の少年達は、愛する少女達、恋する少女達を、救いたい、守りたい、幸せにしたい、それだけなのだ。
そんな、年端の行かぬ少年達が、革命の美名の元に行われる殺し合いに利用されるのを、黙って見過ごす事は出来なかった。
さりとて…
私に、彼等に革命から手を引けなどと言う資格はあるだろうか?
殺しに手を染めるなと言う資格があるだろうか?
そう言いながら、一方で、今尚、私は彼等を大人達の欲望の捌け口にさせているのだ。
私の何処に、彼等に革命から手を引け、殺しはもうするな…などと言う資格があるだろう…
私は、ただ、彼等と話がしたかったのだ。
初めて出会い、襲撃を受けた時の貴之の目を忘れない。
あの憎悪と怨念に満ちた眼差しと異様な殺気を忘れない。
徹底的に暗殺を仕込まれた彼等は皆、憎悪と怨念を吹き込まれているのだろう。
目の前の少女を守り救いたい…
多感な思春期の純粋な少年達に、そんな憎悪と怨念を抱かせたまま、その殆どが死に逝くであろう革命、殺しあいに身を投じさせたくない。
私は、無性に彼等と話がしたかったのだ。
ただ、話がしたくて、和幸について行き、束の間の数日間を過ごしたのだ。
しかし…
結局、彼等に何も齎せてはやれなかった。
ただ、私が想像していた以上に、純粋で汚れない心を持ったまま、死に逝こうとしている少年達の眼差しだけが、私の脳裏に永遠に焼き付くだけで終わった。