※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(10)裏切

(10)裏切

 

鱶背一之摂社領(ふかせいちのせっつやしろのかなめ)一之摂社(いちのせっつやしろ)。

境内は、外来馬車で敷き詰められていた。

睦夫大祝(むつおのおおほり)を始めとする鱶背本社(ふかせのもとつやしろ)の神職(みしき)達と、英明宮司(ひであきのみやつかさ)を始めとする聖領中筒島二之摂社領二之摂社(ひじりのかなめなかつつしまにのせっつやしろのかなめにのせっつやしろ)の神職(みしき)達は、既に集まっている様子であった。

参集殿内で、鱶背本社(ふかせのもとつやしろ)と聖領中筒島二之摂社領二之摂社(ひじりのかなめなかつつしまにのせっつやしろのかなめにのせっつやしろ)の両社神職(ふたつやしろのみしき)達が、いかなる談合をしているのか、誰も知る者はいない。

談合中、何者も寄せ付けてはならないと厳命されていたからである。もし、近付く者があれば、鱶背一之摂社(ふかせいちのせっつやしろ)の神職(みしき)でも、切り捨てよとも厳命されていた。

社(やしろ)の境内外は、何処も彼処も、神漏兵(かむろのつわもの)達が警備の目を鋭く光らせていた。

西境外を警備する神漏兵(かむろのつわもの)の一人が、何かの気配を察したのか、近くを流れる川に不審な眼差しを向けた。

『嘉瀬、どうした?』

隣に立つ神漏も、同僚に倣って、同じ方角にの龕灯の明かりを向けた。

静寂と暗闇…

ただ、川面に微かな波紋…

本当に微かな波紋…

恐らく、特殊な訓練を施された神漏兵(みもろのつわもの)でなければ、気づかなかったであろう。

神漏兵(みもろのつわもの)二人は、互いに頷きあうと、用心深く龕灯を掲げながら、ゆっくりと川岸に近づいて行った。

刹那…

川面に生えた手が、最初の神漏兵(みもろのつわもの)の足元を捉え、声を上げる間も無く水中に引きずり込んだ。

『嘉瀬!』

もう一人の神漏兵(みもろのつわもの)は、突然水中に消えた神漏の名を叫ぶや、腰の湾曲刀を抜き放とうと手を伸ばした。

突如、音もなく首に巻き付く鎖。

神漏兵(みもろのつわもの)は、微かな呻きを漏らしながら、後ろを振り向く。

紅い兎の仮面が、先の尖った十手を片手に、鎖を手繰り寄せて行く。

神漏兵(みもろのつわもの)は、敢えて争う事をせず、湾曲刀を構えたまま、ゆっくりと間合いを詰めていった。

やがて、二人の間合いが半間まで近づいた時…

紅い兎の仮面は、正に振り下ろされようとする湾曲刀を握る腕を鎖を握る腕で防ぎ、もう片方の手に握る十手を、神漏兵(みもろのつわもの)の眉間に突き刺した。

『どうした!田窪!田窪!』

眉間を貫かれた神漏兵(みもろのつわもの)が、声もなく倒れると、先に彼が水中に消えた神漏兵(みもろのつわもの)を呼ばわった声を聞きつけ、数人の神漏兵(みもろのつわもの)達が駆けつけた。

紅い兎の仮面は、自らの手にかけた神漏兵(みもろのつわもの)の側に佇んだまま、動じぬ眼差しを、新手に向けた。

『貴様!』

『何奴!』

神漏兵(みもろのつわもの)達は、叫びながら、一斉に湾曲刀ではなく懐の拳銃を抜き放った。

身構えようとも、逃れようともせず、神漏兵(みもろのつわもの)達に目線を向け続ける紅い兎仮面の後ろから、新手の紅い兎の仮面…

左手に握る十手を逆手水平に構えるや、右手で何やら投げ放った。

忽ち、拳銃を構えた神漏兵(みもろのつわもの)達は、発砲する間もなく、銭形手裏剣で眉間を破られて卒倒した。

少し離れた場所から、異変を察した神漏兵(みもろのつわもの)は、こちらに龕灯を向ける。

『誰だ、おまえ…』

しかし、驚愕の眼差しと同時に発せられようとした声は、声となる間もなく後ろから首を締め上げられ、鈍い音を立ててへし折られた。

『おい!俺達だけか?』

信五は、神漏兵(みもろのつわもの)の折れた首から腕を離すと、仮面を脱ぎ、胡乱な眼差しを仲間達に向けた。

『駿介さんと右門さん達は何処にいる?』

伝七も仮面を脱ぎながら、辺りをキョロキョロ見渡した。

川面に血潮が広がると、既に仮面を脱いだ佐七が、川岸に上がり、怪訝そうに辺りを見渡した。

『解せぬ…辰造が遅れる筈がない!奴は、刻限に細かいから、時刻の辰って呼ばれてるんだ!』

平次は、思わず声を上げる佐七を手で制し…

『今は、詮索してる時ではない。』

言うなり、後ろを振り向き、銭形手裏剣を投げ放った。

声を聞きつけ、こちらに向かってきた神漏兵(みもろのつわもの)が五人、眉間を破られて倒れた。

別の方角から、高鳴る呼子…

すかさず、伝七は投げ放つ鎖の分銅で、吹き手の神漏兵(みもろのつわもの)の頭をかち割った。

『曲者!曲者!』

『出会え!出会え!』

忽ち、数多の神漏兵(みもろのつわもの)達が、各々、湾曲刀や拳銃を抜き放って駆けつける。

信五は、神漏兵(みもろのつわもの)の一人の喉笛を掴み、首の骨をへし折るや、その死骸を盾に発砲された銃弾を交わしながら、拳銃を構える神漏兵(みもろのつわもの)達数人に踊りかかって行った。

伝七は、更に上下交互水平に振り翳す鎖で、敵の得物を叩き落とし、足を払いながら、突きを連打する十手で、五人の神漏兵(みめろのつわもの)達を貫き殺した。

平次は、両手に二振りの十手を構えて敵中に飛び込み、佐七は、手に持つ十手を腰に差し、投網を放ち、背中の銛を取って一度に五人の神漏兵(みもろのつわもの)達を突き殺した。

乱戦の音を聞きつけ、新手の神漏兵(みもろのつわもの)達が現れ囲み、小銃を構え、それまで戦ってた神漏兵(みもろのつわもの)達が引き下がる。

『平次、行けっ!』

佐七が、平次を背にして言った。

『馬鹿な!貴様を盾にして行けるか!』

平次が言うと…

『コトちゃんを北の楽園に連れて行くんだろう!』

『平次行けっ!』

信五と伝七も、平次の前に立って叫んだ。

その時…

闇夜を照らす月影が、二陣の切っ先を煌めかせた。

瞬く間に、左右から小銃を構えた神漏兵(みもろのつわもの)達が、呻きを上げて倒れた。

更に、後ろに引いた神漏兵(みもろのつわもの)達を、二人の弐十手が次々と斬り伏せて行く。

『左門先生!』

『新八郎さん!』

目明達も、再び反撃を開始した。

伝七は、仲間達を巻き込み兼ねない鎖をしまい、二振りの十手を構え、交互に突きを連打して、次々と神漏兵(みもろのつわもの)達を屠っていった。

佐七は、銛を投げ放って、拳銃を構える五人の神漏兵(みもろのつわもの)達を一度に貫き仕留めた。

信五は、手当たり次第に、神漏兵(みもろのつわもの)達の胸ぐらを掴むや、同じく拳銃や小銃を構える神漏兵(みもろのつわもの)達に向け、コマの如くクルクル回して投げ飛ばした。

三人の目明達が乱戦を繰り広げる間を抜い、平次は、両手の十手を、巧みに順手と逆手に持ち替え振り翳し、神漏兵(みもろのつわもの)達を叩き或いは突き殺して行った。

『左門先生!貴方は、北壁から侵入される筈ではありませんでしたか!』

平次は、神漏兵(みもろのつわもの)の一人を締め上げ、延髄を突き刺し殺すと、漸く左門に近づいて言った。

『平次、謀られた!引け!』

剃刀と渾名された左門は、音も血飛沫もなく、鮮やかに二人の神漏兵(みもろのつわもの)を斬り伏せながら、言い放った。

『何ですって!』

『今は、多くを語るゆとりはない!引くのだ!』

驚愕する平次に、左門は更に言い放った。

『しかし!ここで、睦夫大祝(むつおのおおほり)達を仕留めねば、革命が…』

平次が言いかけた時…

『革命はでっちあげだ!』

新八郎は、切ると言うよりは、叩きつけると言った方が良さそうに、荒々しく刀を振り翳しながら、吐き捨てるように言った。

『ここに、睦夫はおらん!いるのは…』

更に言いかけた新八郎は、遠方からのっそりやってくる一人の神漏兵(みもろのつわもの)の姿を目に留めるや、脇差を逆手に抜いて、一層の緊張を走らせた。

『昴田組頭絲史郎(すばるたくみがしらいとしろう)…』

左門も低い声を上げて言うと、鋭い眼光を光らせ、刀を正眼に構えた。

『平次!此処は兎に角引くんだ!行け!』

新八郎の刀と絲史郎の湾曲刀がぶつかり合う鈍い音が響くなか、左門は厳しい口調で言い放った。

『しかし…しかし…』

『絲史郎はおまえ達が束で掛かっても叶う相手ではない!良いから行け!』

左門は、静かに刀を振り翳し、絲史郎と激しくぶつかり合う新八郎に加勢しながら、更に厳しく言い放った。

小柄小太りの絲史郎は、鈍重そうな見た目に反し、小回りよく湾曲刀を正面左右交互にグルグル回しながら、巧みに二人の攻撃を交わし押して行った。

天吹流(てんぷくりゅう)駒多凪網(こまたなもう)…

四方から迫る騎馬の攻撃を交わして脚を凪ぎ、網にかける如く捉えて屠ると言われる必殺剣…

新八郎と左門の厳しい表情とは真逆に、冷たく残忍な笑みを浮かべている。

不意に、正面上段から斬りつける湾曲刀を右に交わし、新八郎は横薙ぎに切り返した。

凄まじい金属音…

車輪の如くクルクル回す湾曲刀に、新八郎の本差しは真っ二つに斬られた。

絲史郎は、新八郎が投げつける折れた本差しを交わすと、身を低くして、脇差を持ち替える隙をついて袈裟懸けに斬りつけた。

新八郎の右脇から左肩に掛けて着物が切り裂かれ、血が滲み出した。

『どう言う事だ!』

『右門さんと駿介さん達はいつ来るんだ!』

『同盟紅軍と楽土軍はどうしてる!』

三人の目明達は、平次を真ん中に庇うように集めながら、焦りの色を滲ませて言った。

『どうして、誰も来ないんだ!』

既に、何十人屠ったのであろう。

次第に疲労の色を浮かべながら伝七が叫んだ時…

『幾ら待っても誰も来ん!観念しろ!』

闇の中から、聞き覚えのある声が酷薄に言い放った。

『馬鹿な…』

『何故…』

『貴方が…』

忽ち、目明達は蒼白になった。

一番、当てにしていた同盟紅軍の革命戦士達と楽土兵達が小銃を向けて近づいて来る。

『グフッ、グフッ、グフッ、グフフフフ…』

その中心には、奥平剛三が冷たく笑って立っていた。

『お前達の仲間達は、既にあの世で待っている。』

『安心して地獄に落ちるが良い。』

続けて言い放ったのは、奥平剛三の隣に立つ鱶背一之摂社宮司忠衛(ふかせいちのせっつやしろのみやつかさただえ)と権宮司有三(かりのみやつかさありみつ)であった。

『奥平さん!これは、一体どう言う事ですか!』

愕然と立ち尽くす平次に…

『口で言うより、わかりやすい説明をしてやろう。』

奥平剛三が言いながら、顎をしゃくりあげると…

恐怖に震え、目を真っ赤に泣き腫らした、九才くらいの全裸の少女が引き摺られてきた。

『赤兎…』

声を震わせる平次の前で、神漏兵(みもろのつわもの)達は少女を、奥平剛三と忠衛宮司の前に突き飛ばした。

『さあ、静(しずか)、穂供(そなえ)参拝者だよ。どうするの?』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)が猫なで声で言うと…

『参道を…お通り下さい…』

静と呼ばれた少女は両脚を大きく広げて座ると、しゃくりあげ、涙声で言いながら、指先で神門のワレメを押し広げた。

『や…やめて…奥平さん、やめて下さい!』

震え声をあげながら、思わず駆け寄ろうとする平次を、佐七と信五が急ぎ抑えた。

『静ちゃん、参道は何処にあるのかな?暗くてよく見えないよ。』

奥平剛三は、ニンマリ笑って言うと、直前までどれだけ穂供(そなえ)されたか知れぬ状態の参道を、静は激痛に呻きながら、指先で弄り始めた。

『やめて、下さい…奥平さん、お願いです、やめて下さい…』

目の前の少女と、琴絵の姿を重ねみて、平次はまた泣きじゃくりながら哀願した。

奥平剛三は、これまで見せてきた、明るく優しげな彼とうって変わって、酷薄な笑みを満面に浮かべると…

『これが、何か知ってるか?』

懐から取り出した壺の中身を、指先に掬いとりながら言った。

『和幸に消された、鱶見本社(ふかみのもとつやしろ)の神職(みしき)達が、兎神子(とみこ)の仕置用に作った薬だよ。粗塩と唐辛子を練り辛子と練り山葵で混ぜ合わせてな。』

静は、忽ち蒼白になり、思わず血の混じった尿を漏らした。

『さ…参道をお通り下さい…どんな事にも従います…』

赤兎は、いつかなる時も、着物を着るだけではなく、身体(からだ)を隠す事を厳禁されている。同時に、相手にどんな事を要求されても、何をされても、拒む事も許されていなかった。

『お望みでしたら、上の道からお通り下さい…』

静は、目を真っ赤に泣きはらし、嫌々をしている。

だが、される事を、『嫌』とか、『やめて』とか、拒絶する言葉を発する事も許されてなかった。

『決して噛んだり致しません…綺麗に舌先で清めさせて頂きます…頂いた白穂はきちんと呑み込みます…』

神漏兵(みもろのつわもの)達は、身を捩って尻込みし、次第に振り立てる首を激しくする静を、情け容赦なく押さえつけた。

『相変わらず、よく、漏らすな。』

奥平剛三は、少女の脚の間にしゃがみ込んで言うと…

『全く…その都度、しっかり仕置してやってるののに、クセの悪さがなかなか治らぬのう。』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)も、ニヤニヤしながら言った。

『本当、悪い子だな。それじゃあ、まず、此処を綺麗にしてやろう。』

奥平剛三は言うなり、まだ、血の混じった尿を滴らせている処に、壺から掬ったものを塗りつけた。

忽ち、少女は、腰を浮かして、凄まじい絶叫をあげた。

『平次君、どうするかね?』

後方では、絲史郎に斬り伏せられた新八郎の呻き声が、少女の絶叫に掻き消されていた。

既に、満身創痍の傷を負った左門が、劣勢ながら、尚も絲史郎と切り結んでいる。

『奥平さん、やめて!もうやめて下さい!』

声はあげても、やはり、静は、苦痛を訴える言葉は発しなかった。やめて欲しいとも、許して欲しいとも言わなかった。

ただ…

『着物を着ません!身体(からだ)を隠しません!どんな事にも素直に従います!可愛がって…』

赤兎になる時…

連日、全裸で大衆の前に立たされ、言わされ続けてきた言葉を、繰り返し続けた。

それが、理不尽な行為を免れる為に、唯一許された言葉なのであった。

代わりに…

『もう、許してやって下さい…その子を…その子を…もう…』

平次が、泣きじゃくりながら、哀願した。

『なら、どうすれば良いか、わかっているな。』

奥平剛三がニンマリ笑って言うと…

『平次!』

『何をする!』

伝七と信五が、武器を捨てて首を差し出そうとする平次を、慌てて抑えた。

『そうか、そうか…』

奥平剛三は言いながら、更に壺の中身を掬い取ると、また、静の方を見て…

『静ちゃん、君は良い子だね。素直でとっても良い子だ。君は、一つも悪くないんだよ。悪いのはね…』

猫撫で声で言いながら、掬い取ったものを、乱暴に少女の参道に捻り込んだ。

静は、再び、身を捩り、首を振り立てて泣き叫んだ。

『そう、悪いのは、素直に降参しないお兄ちゃん達なんだよ。あのお兄ちゃん達のせいで…可哀想に、可哀想に…恨むんなら、あのお兄ちゃん達を恨むんだよ。』

奥平剛三は、悦に入ったように言いながら、既に声も枯れかけた静の中を掻き回した。

『やめろーーーーっ!』

伝七と信五が必死で平次を抑える傍から、とうとう堪え切れなくなった佐七が、二振りの十手を抜き放つや、奥平剛三に向かって行った。

すると、奥平剛三は、振り向きもせず、少女の中を掻き回す手とは逆の手に抜いた拳銃を撃ち放った。

佐七の身体が、鮮血を飛び散らせながら、吹き飛んだ。

『奥平さん!何故ですか!何故…』

『まだ、わからんのかね?』

目の前に、血塗れで落下する佐七を見つめながら、泣きじゃくる平次の前に、小太りの小男が姿を現した。

『森脛夫(もりすねお)…』

『奥平さん…手を結んだのですか…』

目の前で起きてる事を、未だ全く理解できぬように、伝七と信五が声を震わせると…

『我々は、最初から対立などしてなかったのだよ。本気で、俺と張り合って踊っていたのは、房枝くらいなもんだな。』

森脛夫がカラカラ笑う傍で…

『もののついでに教えてやろう!』

奥平剛三は、一度引き抜いた指先に、更に壺の中身を掬いとりながら言った。

『我々は、既に親楽土派の神職(みしき)達と手を結んだ。親占領軍派神職(みしき)達を制圧し、神妣島(かぶろみしま)と核弾頭を楽土に奪わせる為にな!』

『何故…何故…我々は、同心ではなかったのですか?同じ心を持つ仲間ではなかったのですか?』

平次が、絶望と悲しみの入り混じった涙に声を滲ませると…

『何してる!早く引かんか!』

既に敗色濃厚な左門が、最後の力を振り絞るように叫んできた。

『早く、コトちゃんの所へ…早く…』

『コトちゃん…』

平次は、琴絵の事を思い出すと、思わず目を見開いた。

『コトちゃんが…仕置される!』

叫びながら、目の前の小銃を構える楽土兵五人に銭形手裏剣を投げつけ眉間を割り、真っ直ぐ、奥平剛三に向かって行った。

奥平剛三が、先に佐七を撃ち抜いた拳銃を平次に向けると、すかさず、伝七の投げ放つ鎖が、その腕を絡めた。

間近にいた神漏兵(みもろのつわもの)二人を抱え上げ、続け様に小銃を構える革命戦士達に投げつけた信五は、鎖を引き合い睨み合う、伝七と奥平剛三の間を縫って、静の元に駆け寄った。

『平次!この子を連れて逃げろ!』

静を平次に託して叫ぶ信五に向けて、無数の銃声が鳴り響いた。

『信五!』

『平次…行けーっ!』

駆け寄ろうとする平次を突き放し、もう一度叫ぶ信五は、更に四方から浴びせられる銃弾に血飛沫を挙げて、その場に倒れた。

『信五!』

静を片腕に抱き、信五の名を叫ぶ平次に…

『行くんだ、平次!行けーっ!行けーっ!』

奥平剛三を鎖に捉えたまま、一斉に向かってくる神漏兵(みもろのつわもの)達の湾曲刀に全身を貫かれながら、伝七は断末魔のような叫び声をあげた。

後方では、満身創痍の左門が、遂に袈裟懸けに切りつける絲史郎の湾曲刀に呻きもあげず倒れていた。

『伝七!左門先生!』

叫びながら、必死に投げつけ、向かいくる敵を遮二無二に眉間を割り続けた平次の銭形手裏剣も、遂に尽きた。

平次は、正面に立つ小銃を構える革命戦士に十手を投げつけ、その眉間を貫いた。

小脇に静を抱え、残された武器は一振りの十手のみ…

『コトちゃーん!』

最後に、未来の幸せを共に掴む事を夢見た少女の名を絶叫する平次に、情け容赦ない一斉射撃の銃声が鳴り響いた。

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