※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(14)襲撃

(14)襲撃

 

『ドブ、今、何隠しやがった?』

次郎吉は、ドブが何やら急ぎ懐にしまい込んだのを見逃さなかった。

『な…何も隠してねえよ。』

ドブは、慌てて懐を抱きかかえると…

『そう言えば、おめえこそ、今袖口から何か取り出そうとしてやがったな。』

そう言って、ニッと笑って見せた。

『えっ?何も取り出そうと何か…』

今度は、次郎吉が慌てて惚けようとすると…

『良いから、良いから、おいらにも見せろって…』

ドブは、すかさず次郎吉に飛びつき、袖口から取り出そうとしたものを横取りにかかった。

しばし、二人でもみ合ううちに…

『おーっと、簪!』

最初に声をあげたのは、次郎吉であった。

揉み合う隙をみて、ドブの懐からスリとったのだ。

『おいおい、これ、誰にやるつもりだったのよ。』

次郎吉がにやけて言うと…

『そーゆーおめえこそ。』

と、今度はドブが、次郎吉の袖口から掠めとった櫛をちらつさせて見せた。

『まさか、仙にやろうってんじゃあ、ねえだろうな?』

『そう言うおめえこそ。』

二人は、互いにジーッと見つめあった後…

クククク…

と、笑い出し…

『あのオタフク顔に、簪と櫛…』

『さぞや、見ものだろうな?』

遂に、大爆笑した。

『でもなあ…こうして、長い事離れてみると、妙に懐かしいと言うか、寂しいと言うか…』

ドブは、ゴロンと寝転がると、簪を空にかざして呟いた。

『惚れてるのか?』

次郎吉も隣に寝そべって言った。

『どうなんだろうなー。ただ、あいつに追い回されてる時は、正直閉口してたけどよ。今は、町に出ると、何処からとなく顔を出すあいつに、無性に会いてえ。』

『俺もなあ…十も歳上のくせして、お兄ちゃん、お兄ちゃんとまとわりつくあいつが、妙に可愛い時があってな。』

『俺達だけでなくて、腹すかせてる社(やしろ)の兎神子(ことみ)達に、よーっく食い物持ってきてくれたなー。』

『赤兎の結衣ちゃん…あいつによく懐いてたな。ボロ切れみてえになって、使い物にならなくなった結衣ちゃん…赤子を産んだ事にされて、聖領(ひじりのかなめ)に送られる時、あいつ、娘が連れて行かれるみたいに泣いて、何処までも追っかけてたっけ…』

『なあ、どうする?』

『どうするって?』

『仙、兎神子(とみこ)を解かれたら、一緒に暮らそうとか、言ってたじゃねえか。』

『あれか…悪くねえかも知れねえな。』

『毎朝、あのオタフク顔を見る事ができりゃあよ、笑いに事かくことはねえな。』

二人でまた、ククククと笑った時…

『要するに、二人とも、あいつが好きなんだな。』

芋汁をよそりに来た、弐十手の新三郎が、上から二人の顔を除き込んで言った。

『先生!』

『おっ!うまそう、うまそう。』

二人は飛び起きるや、新三郎が運んできた芋汁に飛びついた。

『仙はな…昔、一つ上の兄と、一つ年下の弟がいたんだ。仲の良い兄妹でな。

それが、十五の時にな…町中で、神漏兵(みもろのつわもの)の子弟達によってたかって虐められている白兎を助けようとしてな、逆に殺されかけたんだ。それを、助けに入った、兄と弟が、まとめて殺されてしまった。

あの時の兄と今の次郎吉、あの時の弟と今のドブが丁度同い年だったんだよ。兄の方の顔は、何処か次郎吉に似てたしな。』

新三郎が言うと…

『なーるへそ…』

と、ドブが口を尖らせた。

次郎吉は何も言わず、ただ、遠い彼方に、凡そ美人とは言い難い仙の面影を追いかけた。

『革命が終わったら、一緒に暮らしてやれ。両親も早く亡くし、ずっと寂しかったんだ。』

新三郎がしみじみ言った、その時…

一発の銃声…

『先生!』

『先生!』

新三郎は、声もあげず、血飛沫をあげて倒れた。

更に、十数発の銃声が響きわたり、何事が起きたか理解できずにいる周囲の弐十手と目明達が、断末魔の声を上げて、バタバタと倒れた。

『神漏(みもろ)衆…』

『何故…』

愕然とする間もなく、小銃を構えた無数の神漏兵(みもろこつわもの)達が森の陰から周囲を取り囲むように姿を現し、次々と小銃を撃ち放ってきた。

忽ち、銃声と断末魔が交差する、阿鼻叫喚の世界が広がっていった。

『先生!先生!』

『野郎!』

ドブが、両手にニ振りの十手を構えた時…

『あぶねえ!』

ドブを懐に庇った次郎吉が、数発の銃弾を受けて倒れた。

『次郎吉…』

『ド…ブ…これを…これを…仙に…』

次郎吉は、ドブの腕の中で、櫛を差し出しながら言った。

『馬鹿野郎!てめえで渡せ!』

『一緒に…暮らし…たかった…兄貴に…なって…やりたかったと…』

次郎吉はそれだけ言うと、ニッと笑って首をうなだれた。

緑の帷子の上に深緑の胸甲、右肩に楯、左肩に棘付きの肩当て、緑の鉄兜…

神漏(みもろ)衆江頭組の兵(つわもの)達が、更に小銃を構えて粛々と迫ってくる。

『チクショウ!』

ドブは叫ぶなり、草叢に伏せ、転がりながら、巧みに神漏兵(みもろのつわもの)の一人に近づき、その首筋にニ振りの十手を突き刺した。

『ウッ…』

神漏兵(みもろのつわもの)が低い呻きを漏らして倒れるや、ドブは更に右に十手を振り翳し、左に突きを入れて、まとめて二人の神漏兵(みもろのつわもの)を屠った。

三人の神漏兵(みもろのつわもの)達が、ドブに銃口を向ける。

すると…

漸く我を取り戻した目明達が、いつの間に身を潜めたのか、草叢の陰から踊り出て、神漏兵(みもろのつわもの)達の背後から飛びつき、首筋に十手を突き刺して行った。

『目明達、引け!引けっ!』

白い鉢巻と襷をかけた弐十手達が、短槍を数本背負い、一本掲げながら駆けつけるや、一斉に神漏兵(みもろのつわもの)達に向かって投げつけた。

五人の神漏兵(みもろのつわもの)達が倒れ、更に五人の神漏兵(みもろのつわもの)達に小銃を構える間も与えず、新たな短槍が投げつけられた。

神漏兵(みもろのつわもの)達は、小銃を担ぎ、抜刀して短槍部隊に踊り掛かって行った。

すると…

『ドブ!引くんだ!引けっ!引けっ!』

長い髪を一本に結わいた弐十手が、短槍をクルクル回して、神漏兵(みもろのつわもの)達を次々と突き倒しながら、声を上げてきた。

『忠弥さん!次郎吉がやられた!次郎吉が…』

涙声で叫び返しながら、格闘を続けるドブに、数人の神漏兵(みもろのつわもの)達が、湾曲刀を振り翳す。

ドブは、右に左に十手で躱すと、一人に飛び蹴り、更に一人に回し蹴りを浴びせた。

『良いから引けっ!引くんだ!』

忠弥は、更に短槍をクルクル回しながら、ドブの方に駆け寄ろうとする。しかし、荒れ狂う乱戦の中、思うように前に進む事はできなかった。

『ドブッ!ドブッ!』

その時、新手の一段を引き連れた神漏(みもろ)衆が、長太刀を抜き、左腕に嵌めた十連装の機関銃を仕込んだ丸盾を構えて迫ってきた。

『まずい!吉本組だ!率いるのは、隆明!』

藤色の菱形冑、藤色の帷子の上に青紫の胸甲と肩当てを装着した一団…

先頭に立つ、赤布を首に巻いた吉本組組頭の隆明は、指揮棒代わりに、長太刀を振りかざした。

やがて、凄まじい銃声と共に、丸盾機関銃が一斉に火を吹いた。

『あー、さっぱりした。』

河原近くの小屋で、漸くオシメを替え終えて貰った千代は、ニコニコ笑って言った。

隣では、樽いっぱいに汲まれた湯で、春が右門に神門(みと)を洗って貰い、気持ち良さそうに笑っている。

右門は、尿まみれになっていた、春の神門(みと)を洗いながら、また胸が疼きだす。

七つの時から、絶え間なく穂供(そなえ)された春の神門(みと)と内側の参道は、凡そ十歳のものではなかった。

どれほど貫かれればそうなるかと思えるほど黒ずみ、何度も無理やり捻り込まれ、パックリ裂けた神門(みと)付け根の傷跡が、痛々しかった。

参道内側のヒダや肉壁は変色して黒ずんでいる。

ガタガタの股関節は、気をつけて触れなければすぐに外れ、悪くすれば折れてしまうであろう。

連日連夜、股裂きにも近い荒っぽさで押し広げられ、重たい大人達の身体にのしかかられ、何度も外れたり折れたりを繰り返してきた。

しかも、ろくな手当もされないまま、更に男達の玩具にされ続けてきた。

もう二度と、股関節は治らず、次に脚の何処かを折れば、二度と歩く事は出来ないと言う。

しかし、それにも増して酷く痛めつけられてるのは…

『アッ…』

春は、声を上げるなり、涙ぐんだ。

『ごめんなさい…』

『良いんだよ、良いんだよ。』

右門は、洗ってる最中に、また粗相をしてしまった春に、優しく笑いかけて、もう一度洗い直してやった。

絶え間なく、大人の穂柱を捻り込まれ続けただけでなく、指や異物を入れられ、掻き回されてきた。参道の筋力は失われ、緩みっぱなしであった。最早、尿意すら感じ無くなっていたのだ。

多少は尿意を感じ、数回に一度は、まだ自分で用を足せる千春は、シクシク泣きじゃくる春を見て涙ぐんで小屋を出た。

『伝六兄ちゃん…』

小屋の外では、伝六が二人の汚れたオシメを洗っていた。

千代は、忽ち羞恥に苛まれて拳を握り、唇を噛み締める。

ついさっきまで、いつか、この人のお嫁に行くのだと言う話に花を咲かせていたのが、今はとても痛く感じる。

『千代ちゃん…』

伝六は、呼び掛けようとした声を、すぐに飲み込んだ。千代が、自分のオシメを洗われているのを見て、薄っすら浮かべる涙に目を止めたからであった。

千代は、小屋の裏側に回ると、一人シクシク泣き出した。

お嫁になんか行けない。とても、伝六と一緒になどなれない。一生、伝六に自分のオシメを洗わせるなんて、とてもできやしない…

その時…

『千代ちゃん…』

不意に、呼び掛けられて振り向くと、伝六がニッコリ笑って、小さな花を千春の髪にさしてやった。

『これ…』

『あそこの河原で咲いてたんだ。千代ちゃんに似合うと思ってね。』

『伝六兄ちゃん…』

伝六は隣に座ると、千代の肩を抱いた。

『おいら達、こんな所に暮らしたいな。河原近くに小さな家建てて、魚を釣ったり、山菜を摘みに行ったりして過ごすんだ。小さな畑も欲しいな。』

『私…伝六さんのお嫁さんには…』

『今日みたいにさ。』

伝六は、千代が何か言いかけるのを遮るように言葉を続けた。

『美味しい弁当、毎日作ってくれよな。』

『良いの?私なんかがお嫁さんで、本当に良いの?』

涙ぐむ千代を、伝六は答える代わりに優しく抱きしめた。

『あーらら、お熱い事。』

漸く新しいオシメをつけて貰った春は、漏らして泣いていたのも忘れたように、小屋を出るなり、二人を見てニーッと笑った。

『コラッ!このオマセさんが!』

千代が拳を上げて言うと、春はクスクス笑って、千代の隣に座った。

『こんな所に家を建ててかあ…良いなー。私も一緒に暮らして良い?』

春が首を傾げて言うと…

『勿論だよ!』

伝六は力強く言った。

『それから…』

春は、ちょうど中から出てきた右門の腕にしがみつくつと…

『右門さんも!だって、私、右門さんのお嫁さんになるんだもん!』

『勿論だよ。』

伝六は、また、大きく頷いた。

『でも、そうなると、小さいお家じゃだめね。だって、私、右門さんの赤ちゃんいっぱい産むんだもん。それと、お姉ちゃんは、伝六兄ちゃんの赤ちゃん、産むんでしょ。だったら、お屋敷みたいなお家にしないとね。』

『まあ!この子ったら!』

千代が笑い出すと、伝六と春も笑いだした。

ただ、右門だけは、何処か寂しげな眼差しを傾けていた。

子供…

千代も春もまだ知らない。

二人とも、大人になっても子供を産めないのだ。

特に、春は、完全に御祭神が潰れてしまい、そもそも女の兆しすら訪れないだろう…

『伝六、ちょっと…』

右門は、二人から少し離れた場所に伝六を呼ぶと…

『何ですって!』

伝六は、右門に言われた言葉に目を丸くした。

『おいらに、此処へ残れってんですか!』

『おまえだけじゃない。辰三も残すつもりだ。』

右門がうっそり言うと、伝六は大きく首を振った。

『冗談じゃありませんぜ!おいら、右門さんについて行きますよ!死ぬも生きるも、右門さんと一緒だ!』

『そうか…それじゃあ、おまえは三人の女の子を、戦場に連れて行こうってんだな。』

『それは…』

『それとも何か?三人を此処に置き去りにする気か?』

『でも…』

『まあ、聞け。此処は、軽信さんの力で、神領(かむのかなめ)の者は誰も近づけない事になっている。今後、負傷した者、敗退した場合、此処に引き上げ、体勢を立て直す。その時、御前達に皆の世話を頼みたい。』

『まさか、その為に…おいらとタツを此処に残す為に、千代ちゃん、春ちゃん、花ちゃんを此処に連れてきたんですかい?』

伝六の問いに…

『頼むぞ。』

右門は、一言そう言って、伝六の肩を叩いてニッと笑った。

その時…

『何だ、あの音は!』

伝六は、思わず立ち上がり、声を上げた。

遠くから銃声の音…

同時に、阿鼻叫喚の声が響いてきた。

突如、右門は厳しく眼差しを光らせるや…

『伝六!千代ちゃんと春ちゃんを連れて逃げろ!』

叫ぶなり、両脇に差した二振りの刀を、逆手に抜いて、突如抜刀して襲いかかる二人の神漏兵(みもろのつわもの)を斬り殺した。

『右門さん!』

声を上げる伝六は、更に次々と姿を現わす神漏兵(みもろのつわもの)達を見出すや、千代と春の元に駆け寄り背に庇い、二振りの十手を構えた。

『一二三四五六七八つ(ひふみしごろくななやっつ)…』

乱戦が次第に広がりゆくなか…

駿介は、腰を低め、刀を八相に構えながら、呼吸を整え数を数えた。

『九つまでは、息を潜め…』

側では、サブが二振りの十手を振り翳し、イチは居合刀を逆手に抜いて、背中合わせに戦っていた。

飯伍は、大助を背中に庇いながら、二振りの刀を十文字に交差させながら、周囲を囲む神漏兵(みもろのつわもの)達に身構えていた。

『十を数えて、風の狭間を切る!』

駿介は、突如見開く眼光を鋭く光らせるや、小銃を傾ける神漏兵(みもろのつわもの)十人を、引き金を引く間も与えず、まとめて斬り殺した。

『霞流風間疾風剣(かすみりゅうかざましっぷうけん)!』

『風間(かざま)の駿介(しゅんすけ)か!』

神漏兵(みもろのつわもの)達の間にどよめきが湧いた。

飯伍は、駿介の登場に動揺する一瞬の隙ついて、忽ち五人の神漏兵(みもろのつわもの)達を切り、大助は、小刀手裏剣を投げ放ち、更に五人の神漏兵(みもろのつわもの)達の眉間を割った。

駿介は、更に風の如き太刀さばきで、小銃を構えようとする神漏兵(みもろのつわもの)達に切り込み、引き金を引く間を与えず、次々と斬り殺していった。

と…

少し離れた所から、別の銃声…

『花ちゃん!』

辰三は、抱きつくように庇う花が、銃弾に血飛沫をあげると、叫び声をあげた。

『辰三…兄ちゃん…』

花は、辰三の腕に抱き上げられると、その頬に手を伸ばした。

『やっと…守って…あげられた…辰三…兄ちゃんを…やっと…やっと…』

『おい!しっかりしろ!花ちゃん!花ちゃん!』

辰三は、花を強く強く抱きしめると…

『おのれ!』

小銃を撃ち放った神漏兵(みもろのつわもの)達に、怒りとも悲しみともつかぬ声を上げて、踊り掛かって行った。

同時に、凄まじい銃声と共に、神漏兵(みもろのつわもの)達の構える小銃が一斉に火を吹いた。

『タツ!』

血飛沫をあげて吹き飛ぶ辰三を目にし、思わず声を上げる駿介の腕にも、銃弾が掠めた。

『ウッ!』

一瞬声を上げ、しゃがみ込んだ駿介は、再び眼光を光らせ、新手の小銃部隊に切り込んで行った。

『イチ!しっかりしろ、イチ!』

サブは、無数の湾曲刀に斬られ、血塗れに倒れるイチを腕に抱き上げ、声を上げた。

『兄貴…俺、目明に…同心に…』

『ああ!おめえは立派な目明、十手持ちの同心だよ!』

サブが言うと、イチは胸に拳を当てて…

『同心…』

一声漏らして、ニッコリ笑って首をうな垂れた。

『イチッ!イチッ!』

イチを抱きしめ、泣きじゃくるサブに、更なる銃弾の雨が降り注いだ。

『ザブッ!』

声を上げる飯伍の傍で、大助が神漏兵(みもろのつわもの)二人に斬られて倒れた。

『大助!』

飯伍は、大助を小脇に抱えながら、ジリジリとにじり寄る神漏兵(みもろのつわもの)の抜刀隊に身構えた。

『これは、一体どう言う事だ!何故、此処に神漏(みもろ)達が来る!軽信さんが、抑えていてくれてるんじゃないのか!』

すると…

『グフッ、グフッ、グフッ、グフグフグフ…』

何処からともなく、不気味な笑い声が聞こえてきた。

『簡単な話だ。我々…いや、毛沢東(マオツートン)主席は、親楽土派和邇雨一族と結ばれた。それだけの事だよ。』

声の主は、そう言うなり、また薄気味の悪い笑い声をたてながら、のっそりと姿を現した。

青い帷子の上に濃紺の胸甲、両肩に青い棘付き肩当て、青い槍状頭立付き冑…

『馬…馬鹿な…』

飯伍は、目庇の陰から覗かす顔を見るなり、愕然となった。

奥平剛三は、人の良さそうな顔と打って変わって、酷薄な笑みを浮かべながら、右手甲に仕込まれた五連装銃を向けてきた。

『何故…何故…』

尚も戸惑いの色を隠せぬ飯伍は、情け容赦なく咆哮する銃弾の前に、血飛沫をあながら吹き飛んだ。

『奥平さん…貴方が何故、ジャイアント派に…』

駿介もまた、八相に身構えたまま、信じられぬ風に口走ると…

『ジャイアント派?最初から、野火多(のびた)派もジャイアント派もない。和邇雨一族に顔が効く軽信を欺く方便よ。』

奥平はまた、グフグフと不気味に笑いながら言った。

『我等同盟紅軍は、生温い周恩来(チョーエンライ)など遠の昔に見限った。毛沢東(マオツートン)主席と共に、東亜武装革命を実現させる。』

『信じていたんだぞ…我等は貴方を…おまえを…心底、信じ心酔していた…それを…それを…』

駿介が、怒りとも絶望ともつかぬ全身の震えが止まらぬ中…

『悪いな、革命には多少の犠牲は必要なのだ。』

奥平は言いながら、手甲銃の撃鉄を引いた。

『一二三四五六七八つ(ひふみしごろくななやっつ)…』

駿介は、滾る怒りを鎮め呼吸を整えながら、心の中で数え始めた。

 

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