※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(18)青衣

(18)青衣

 

どれ程の時が過ぎたのであろう…何年も過ぎてしまったようにも思えれば、まだ、一日も経っていない気もする。

軽信の脳裏には、同じ光景ばかりが過って行く。

『噛みました…噛みました…噛みました…』

真っ赤に焼けた畳針を目の前に翳され、赤兎の少女は、首を振り立てて蓄音機のように同じ言葉を繰り返した。

『よしよし、良い子だ良い子だ。よく、素直に認めた。』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は、畳針と火鉢を下げさせると、少女の頭や頬を撫で回して言った。

『ところで…』

と、今度は有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)がしゃがみ込み、少女の顔を覗き込んで言う。

『赤兎が絶対にやってはいけない事は、何かな?』

『着物を着てはいけません…』

赤兎は、促されるままに、涙声で言い始めた。

『それから?』

『身体(からだ)を隠してはいけません…』

『それから?』

『穂供(そなえ)を拒んではいけません。』

『それから?』

『穂供(そなえ)中、何をされても、何をするように言われても、嫌がってはいけません…』

『それから?』

『上の参道を通られてる途中、噛んではいけません…』

『よしよし、よく言えた、よく言えた、偉いぞ。』

有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)は、全て答え終えた少女の頬を撫で回しながら…

『それじゃあ、もし、それを一つでも破ったら、どうするのかな?』

思い切り猫撫で声で言うと、少女は忽ち蒼褪め震え出した。

『申し訳ありません!申し訳ありません!』

『だから、どうするの?』

『もう、しません…噛んだりしません…絶対に噛んだりしません…』

少女は怯えきった表情で、ひたすら首を振り続けた。

『わかってるよ、ちゃんとわかってるとも。静は良い子だからね、もうに二度と噛んだりしない事はわかってるよ。今度だって、間違えて噛んだんだもんね。』

『申し訳ありません!申し訳ありません!』

『でも、噛んじゃった事は、もう変えられないんだよ。そうしたら、どうするの?』

有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)は、少女の頬から首筋、胸、腹、股間へと手を伸ばし、撫で回しながら、ニヤニヤと嬲るように言った。

『お願いします!許して下さい!許して下さい!許して…』

『あれ?赤兎が、人様に何かお願い事をしても良いのかな?さあ、もう一度聞くよ、やってはいけない事をしたら、どうするのかな?』

『許して…許して…許して…』

『仕方ないな…おい、誰かさっきの畳針と火鉢を…』

有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)が言いかけると…

『どんな痛い罰も…』

少女は、思わず血の混じった尿を漏らしながら、口走らせた。

『おやおや、粗相をして悪い子だ。まあ良い、まあ良い…で、どんな痛い罰も、どうするの?』

『どんな痛い罰も、喜んでお受けします…』

『よーし、よし、言えたじゃないか、偉い偉い。』

有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)が、髪をくしゃくしゃになる程頭を撫で回すと、少女は啜り泣きを始めた。

『奥平さん、この子も、こう申しております。どう致しましょう。』

今度は、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)が奥平の方を見て、ニンマリ笑って言った。

『子供を躾けるには、体罰と言うものが必要だな。』

『作用でございます。子供は褒めたり甘やかしたりしては、まともに育たない…厳しい体罰が子供を鍛え、虐めが子供を強くする。

我らが本社宮司(もとうやしろのみやつかさ)…戸塚淀卓(とづかよどすぐる)様の口癖でしてな。』

『それじゃあ、これを使え。』

奥平もニンマリ笑うと、取手に釦がついた鉄の棒を差し出した。

『これは?』

『これか?これはな、楽土の偉大なる毛沢東(マオツートン)主席が、言う事を聞かない異民族の少女を躾ける為に作られた道具だ。言う事を聞かない男の目の前で、そいつの娘に使う時もあるんだぞ。』

奥平は、ニヤけて言いながら、取手の釦を押すと、鉄の棒は鈍い電流音を発した。

『やめて!』

少女の代わりに、軽信が叫んだ。

『お願い!この子、まだ子供よ!ほんの子供よ!お願い!やめて!やめてーーー!!!』

『おいおい、まだ子供って…その子供を使って、散々殺人をやらせたのは、何処のどいつだったかな?』

奥平は言うなり、少女の腕に、それを押し当てた。

『キャーーーーーーッ!!!!』

凄まじい電流音と共に、少女は絶叫した。

奥平は、今度は少女の足に押し当てた。

『キャーーーーーーーーーーッ!!!!』

少女は、前にも増して声を張り上げた。

『お願い!やめて!もうやめて!私が変わるから…私が変わるから!お願い!』

軽信も、鎖に繋がれた身体を激しくもがかせながら泣き叫んだ。

奥平は、少女と軽信と双方交代に眺めてニンマリ笑うと…

『やれ…』

鉄の棒を、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)に手渡した。

『で、この子の何処にこれを?』

『俺が噛まれて、何処が痛かったと思う?』

『なーるほど…』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は、ニィッと笑うと…

『おい、こいつをしっかり押さえて、足を広げさせろ。』

神漏兵(かむろのつわもの)数人に、少女を抑えつけ大股開きをさせた。

『嫌っ!嫌っ!やめてーっ!お願い!お願い!やめて!やめて!嫌っ!嫌っ!』

何をされても、一言も言葉を発さず、抵抗しなかった少女も、此の期に及んで遂に泣き叫びながら激しく踠き出した。

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は、そんな少女の腹部に膝を乗せ、無情に押さえつけると、神門(みと)のワレメを開き、先端の包皮をめくり上げた。

少女は、包皮の中から剥き出しにされた突起を抓り上げられると…

『キャーーーーーーッ!!!!』

絶叫と同時に、また、噴水のように血尿を漏らした。

『また、粗相をしたな。この分も、しっかり仕置しておかんとな…』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は、酷薄な笑みを浮かべて、声も枯れんばかりに泣き叫ぶ少女に笑いかけ…

鈍い電流音のする鉄棒を剥き出しの突起に近づけた。

そして…

『ギャーーーーーーーッ!!!!!!』

凄まじい電流音と、耳を劈くような絶叫が交差した。

それが、どれだけ続けられていたのか思い出せない。

ただ、永遠とも思われた地獄の責め苦のような仕置が終わると、そこに敷き詰める何十人いるとも知れぬ男達が代わる代わる殺到した。

少女の口と表裏の参道には、絶え間なく男達のいきり勃った穂柱が押し込まれ、白濁した生臭い軽穂が尽きる事なく注ぎ込まれた。

『やめて!お願い!もうやめて!やめてよ!やめてよ!』

軽信は、まるで幼子のように泣きじゃくって哀願した。

『何でも言うこと聞くから…何でもするから…お願い、もうやめて!やめて!やめてーーーーー!!!!』

あの時…

軽信の心は、おそらく赤兎の少女よりも幼かったのであろう。

幼子が、可愛がっている子犬や子猫が虐められたように、ひたすら泣きじゃくり続けた。

記憶が何処で途切れたかはわからない。

眠ったのか、気を失ったのかもわからない。

ただ…

長い事同じ悪夢が軽信を蝕み続けた。

それは、少女よりは少しだけ年上だった頃…

まだ、乳房がやっと膨らみかけたばかりの軽信は、やはり大勢の男達に絶え間なく弄ばれていた。

彼女達の人種を三等国民と呼び、人間とすら見なさなかった軍人達が手足を押さえ、チョゴリを引き裂き、全裸に剥いて犯し続けた。

口と表裏の参道に、絶え間なく怒張した穂柱を押し込まれ、生臭く白濁した白穂を流し込まれた。

あの忌まわしい記憶…

同じ光景が、繰り返し繰り返し、夢幻となって現れ続けた。

漸く意識を戻した時…

軽信は座敷牢に鎖で繋がれていた。

格子の向こうには、小さな広間が広がっていた。

此処が何処かを知っている。

御種倉の地下室…

なかなか羞恥が抜けず、人前で裸になれない稚兎(おさなうさぎ)を、全裸にして晒しものにする部屋…

何日も何日も、十歳か十一歳の稚兎(おさなうさぎ)を、全裸で鎖に吊るし、見世物にして楽しむ部屋…

身動きとれず、泣き叫ぶ事しかできない少女を、よってたかって田打する部屋…

天領(あめのかなめ)の和邇雨一族の幹部になりすまし、神領(かむのかなめ)で活動していた頃…

軽信は、そうして晒し者にされた兎神子(とみこ)達の泣きじゃくる姿、それを涎垂らして見物したり、貪り弄ぶ神職(みしき)や、神漏(みもろ)、神使(みさき)達を数限りなく見続けていた。

その度に、過去の忌まわしい記憶に苛まれながら、いつか、この子達を解放しようと心に誓い続けていた。

母国が旧帝国から解放されたように…

いつか、この子達も…

だのに…

だのに…

『ウッ!裏参道の締め付けたまらん!』

また、真上の御種部屋から、男の声が聞こえてくる。

『表参道と上の参道、裏参道を同時に三人渡るのはなかなか…』

『ほれほれ、何急に舌の動きを止めておる。さあ、しっかり舐めろよ、ほれほれ…』

口と表参道と裏参道と…

同時に貫かれている少女は、もはや泣き叫ぶ事はなかった。

只々、苦悶に満ちた呻き声ばかりを発していた。

随時、数十人の男達に貫かれ、白穂を流し込まれ、激痛と生臭さに、少女は精一杯耐え続けていた。

にも拘らず…

『俺の事、噛みやがった!』

『この前、あんなに仕置されて、まだ懲りねえんだな。』

『今度と言う今度は、徹底的に仕置してやらないとな。』

『おい、思い切り脚を拡げさせろ!それと、神門(みと)を開いて、神核(みかく)の包皮をめくるんだ!』

本当にそうされたのか、幼い中に白穂を放つだけでは飽き足らず、いたぶりたい為に言いがかりをつけてるのか…

とにかく、無慈悲な声が飛び交うと…

何をされてるのか、悲痛きわまりない絶叫や、啜り哭く声が、下まで響いてきた。

軽信は、悲痛な声が聞こえる度に、顔を背け、唇を食いしばり、首を振り立て身を捩って踠き続けた。

『さあ、飲め、ぐいぐい飲めよ。』

『ほらほら、あと十杯は飲むんだぞ。』

また、無慈悲な声が聞こえてきた。

軽信は、ハッとなった。

何が行われているか、嫌と言うほど知っている。

少女は、冷えた濃茶を浴びる程飲まされているのだろう。

『アッ!アッ!アーッ!イギッ!イギッ!ウグッ!アーッ!』

しばしの間、また、いつもの苦悶に満ちた呻き声が続く…

『ウゥゥーッ!ウゥゥーッ!ウゥゥーッ!』

声を聞くだけで、少女が何をされてるのか手に取るようにわかる。

身体(からだ)中舐めまわされてるのか…

乳首や参道を乱暴に弄り回されているのか…

いきり勃った穂柱を捻り込まれているのか…

『ウゥッ!ウゥッ!アウッ!アーーーーーーッ!!!』

耳を塞ぎたかった。

絶え間ない苦悶の声から逃れたかった。

しかし、鎖に両手を繋がれ、どうしようもなかった。

『やめてよー!もうやめてよー!お願い、もうやめてよー!!!!』

まるで、旧帝国の軍人に引き摺って連れ去られ、連日弄ばれ続けたあの頃に戻ったように、泣き続けた。

そんな彼女に、更に無慈悲な声が聞こえてきた。

『か…厠に…厠に…行かせて下さい…』

蚊の鳴くような少女の声…

始まった…

軽信は思った。

『何だと?』

『漏れちゃう…漏れちゃう…』

今にも泣きそうな声で訴える少女の頬を思い切り叩く音が聞こえた。

『なーに、甘ったれた事言ってるんだ!おまえ、あと二十人満足させないと、何処にも行かせないと言っておいた筈だぞ。』

『お願いします!お願いします!厠に…行かせて…下さい…もう…もう…』

すると、障子が開く音がして…

『あー、スッキリした。』

『おまえ、今日は近過ぎるぞ。何回用足しすりゃ気がすむんだ。』

『こう冷え込むと、どうも近くなってな…静ちゃんや、用足ししたモノを上の参道で綺麗にして貰おうかな。』

『ウッ、何か俺も催してきたぞ。』

『行ってこい、行ってこい。厠は出てすぐそこだ。』

少女に当てつけるような、無慈悲な声が飛び交った。

『お願い…します…厠に…もう…漏れちゃう…』

少女は、いよいよ啜り泣きながら訴えた。

『何?厠に行きてえだ?舐めた事言ってねえで、俺が用足したこれ、早く上の参道で綺麗にしろ!』

今戻って来た男が言うと…

何かを叩く鈍い音と同時に…

『ウッ!』

少女の苦しそうな呻き声が聞こえてきた。

恐らく、下腹部でも思い切り叩かれたのであろう。

そしてまた、延々と男達の喘ぎ声と少女の呻き声が交差する。

これと同じ光景も、何十回見せつけられてきた事だろう。

最初に、利尿作用の強い飲み物を大量に飲ませる。

その後、わざと尿道を刺激し下腹部を押しながら、延々と弄び続ける。

やがて、尿意を訴える少女に、厠に行く事も、勿論そこで漏らすなど絶対許さず、更に激しく尿道を刺激し下腹部を押しながら、弄び続けるのである。

そうやって、激しい尿意を延々と我慢させながら弄ぶ事によって、参道の締め付けを鍛錬するのだと言うが…

何て事はない。少女を虐める口実を作りたいだけである。

『フーッ、スッキリした。さあ、俺の用を足したモノも、上の参道で綺麗にして貰おうかな…』

男達は、入れ替わり立ち代り、これ見よがしに用足しに行って戻ってくると、汚れた穂柱を、少女の口にねじ込んだ。

ほんの少しでも歯を立てれば、凄まじい仕置が待っている。

少女は、歯をくいしばる事も出来ず…

『ウゥゥ…ウゥゥ…ウゥゥ…』

と、涙声で呻きながら、必死に尿意を堪えていた。

しかし、そんな少女を嘲笑うように、男達は、少女の神門(みと)を弄り、いきり勃った穂柱を参道に捻じ込み、わざと下腹部を強く押し続けた。

もう、限界であった…

『アァァー…』

少女が、悲痛な声を上げた時…

『おや、何かやけに濡れてきたぞ?これは、何かな?』

それまで、喘ぎ声をあげ、明らかに少女の中に白穂を放っていたと思われる男が、わざとらしい声で言った。

『うわっ!臭え!おい、漏らしたのか?』

『お願い…厠…厠…』

少女は、尚も最後の力を振り絞って溢れ出しそうなものを堪え泣きじゃくりながら、必死に哀願していた。

『俺は、そう言う事を聞いてるんじゃねえぞ。この濡れてるものは何かと、聞いてるんだよ!』

男は、無情にそう言い放つと、また、何かを叩きつける鈍い音がした。

すると…

『アーーーーーーッ!!!!』

少女の絶望に満ちた叫び声と同時に…

『わあっ!こいつ!俺にかけやがったな!』

男の怒鳴り声が響いてきた。

『おやおや、どうしましたか?』

続けて、待っていたような、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)の猫撫で声が聞こえてきた。

『こいつ!俺に、小便をかけやがった!』

『お許し下さい!お許し下さい!お許し下さい!』

少女は、泣きじゃくりながら、悲痛な声を上げていた。

しかし…

『おまえ、また粗相をしたのかい。しょうのない子だねえ…』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は言うと…

『さあ、足を広げるんだよ!』

『お許し下さい!お許し下さい!お許し下さい!』

一層、激しく悲痛な声を上げてもがく少女を、男達が押さえつけてるのであろうか、激しい物音が響きわたった。

『やめて!お願い!嫌っ!嫌っ!嫌ーーーーーっ!!!』

それから、少女が何をされてるのかは、定かではない。

ただ…

『さーて、神門(みと)をよーっく開いてと…最初は、このヒダにと…』

『ヒッ!ヒッ!ヒッ!キャーーーーーーッ!!!!』

『ほらほら、ちゃんと足を開いて!さて、今度は、この包皮をめくりあげて…この神核(みかく)にと…

今日は、行儀の悪い此処に、徹底的に仕置してやらないとね!』

『キャーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

耳を劈くような少女の絶叫と、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)の残忍な声が交差し続けた。

『オムニ!』

軽信は、いつしか旧帝国軍に連れ去られようとする自分を守ろうとして死んだ母の名を叫んでいた。

『オムニ!助けて、オムニ!オムニーッ!』

いつも優しかった母…

長女である自分を含め、五人の娘全てに同じ愛情を注いだ母…

妹達を守る為、一人生贄になろうとした自分を、最後まで必死で守ろうとした母…

結局、誰も守れなかった…

母だけでなく、妹達も最後まで自分を守ろうとして、旧帝国軍に殺されてしまった。

生き残った自分は、生け捕られ、旧帝国軍の侵略する地に連れ回され、陵辱され続けてきた。

たまたま、自分を連れ回していた旧帝国軍を打ち破った八路軍に救われるまで…

その後、周恩来(チョーエンライ)の養女となり、全く違う名と過去をいくつも与えられ…

最後に辿り着いたのが神領(かむのかなめ)であった。

神領(かむのかなめ)で、自分と同じ…いや、もっと陰惨な目に遭わされている少女達を目の当たりにした時、この子達も救いたいと思った。

かつて、八路軍に…

周恩来(チョーエンライ)に救われ、新たな人生を与えられたように、彼女達も救いたいと思った。

その時…

男の身でありながら、少女のような美貌を持つ少年が、男を捨て、男色家の宮司に自ら身を委ねて、かつての自分と同じ少女達を守ろうとする姿を見た。

彼は和幸と言った…

彼を紅兎として育てる事にした…

それも、何処か自分と重ね見ながら、彼を育てようと思った。

『和幸君…』

その名を口にした時…

また、気をうしなったのであろうか…

或いは、眠ってしまったのであろうか…

上から聞こえてくる悲痛きわまりない少女の声も、少女を責め苛んで喜ぶ男達の声も遠のいてゆく。

ただ、まどろむような意識の中、急に胸が温かくなり、脳裏には束の間の美しい景色と光景が過ってきた。

まだ、あどけなさの残る幼い笑顔と笑い声…

優しく純粋な眼差し…

黒兎と呼ばれる少年の兎神子(とみこ)達…

共に暮らす白兎や赤兎達を救いたい、守りたい…

少年らしい真っ直ぐな思いから、仲間に加わった子供達…

殺人に特化した武芸の過酷な訓練と、暗殺と言う非情な任務の合間、軽信はよくおむすびを握って、彼らに振舞った。

十二歳で旧帝国軍に連れ去られ、軍隊付きの慰み者にされて以来、ずっと闇の世界を生きてきた彼女である。

まともな料理など何一つ作る事は出来なかった。おむすびと言っても、炊いた米を適当に握るだけである。三角に結ぶどこらか、大きさも形も統一性がなく、お世辞にも旨そうなどとは言えなかった。

それでも、紅兎の子供達は、皆喜んで頬張ってくれた。

『軽信さんの握るおむすびが一番旨い。』

そう言って、両頬を大きく膨らまし、満面の笑みを浮かべて頬張ってくれた。

家族を皆殺しにされて以来、久し振りの暖かい時であった。

あの子達に、せめておむすびだけでも、まともなものを握ってやりたいと思い、必死に練習した。来る日も来る日も、ひたすら握り、練習した。しかし、どうしてもうまく握れず、泣きたくなった時があった。

すると…

不意に、隣から手を添えて、一緒に握ろうとする少年が現れた。

一瞬、少女かと見間違えた彼の美しさは、兼ねてより知っていた。しかし、こうして二人きりで間近に見ると、改めて鼓動が高鳴り、緊張が走る。男色で名が知れた眞悟宮司(しんごのみやつかさ)ならずとも、男が彼に懸想するのも頷ける。

少女らしい乙女心、女らしい恋心、ときめきなどとっくに忘れていた。男を皆嫌悪していた。

だのに、この気持ちは何だろうと思った。

少年に手を添えられて握ったおむすびは、とても形良く出来上がった。形だけでなく、固さも程良ければ、感触も心地よかった。

いくつか出来上がった時…

『姉さん、食べてみて…』

少年は、ボソッと言った。

軽信は言われるままに頬張ってみた。

『あ…美味しい…』

『小さい頃、母にならいました。今度また、一緒に握りましょう。』

そう言うと、少年は微かに笑った。

今まで、表情と言うものを全く見せた事のない子であった。笑う事も、怒る事も、泣く事もなく、能面のような顔をした子であった。

その彼が、ほんの一瞬見せた笑顔は、何ともあどけなく、無邪気に思えた。

それから、訓練の為、暗殺任務の為、連れ出す度に一緒におむすびを握った。軽信の握る腕は、日に日に上達していった。子供達も、本当に旨いと言って感激してくれるようになった。

一方…

最初は一緒におむすびを握るだけだった彼が、連れ出す度に、彼女の周りをまとわりつくようになった。

別に、ベタベタしてきたり、馴れ馴れしくしてくるわけでもない。ただ、ふりむけば、何となく側にいた。

それでも、時折見せるあの微かな笑顔から、何処か人恋しさを感じさせられた。

殊に、一度だけ周恩来(チョーエンライ)に会って以来、軽信が彼の養女と言う理由で、本当の姉のように慕うようになった。

そして、ある夜…

少年は、軽信の寝床に潜り込んできた。

軽信も、自然と彼を寝床に入れた。

肉体関係は結ばなかった。

十二歳から、連日、数え切れない程、男達に弄ばれてきた軽信である。今更、貞操感など微塵もなく、女である事は武器や道具でしかなかった。必要と見れば、誰にでも身体を開き続けてきた。

しかし、何故か、少年とそうなりたいとは思わなかった。

軽信の寝床で丸くなって眠る少年は、とても暖かく心地よい温もりであった。

兎…そう呼ばれている彼は、まさしく子兔のように優しく暖かく心地よかった。愛しかった。

気づけば、彼とおむすびを握る時、添い寝する時が、一番の楽しみにもなれば、幸せな時にもなった。

軽信が、いつ頃から、鬼道流鬼南派南聖水鴎拳を教え始めたかは覚えてない。

ただ…

何でも、一度目にしたもの、耳に聞いた事をすぐに覚えこむ少年は、砂に染み込む水のように、拳術も教える側からすぐに身についていった。

気づけば、少年は、軽信と互角に戦えるほど腕を上げていた。

『和幸君、見事だわ!』

ある日、和幸が拳術を使っての暗殺を成功させて見せた時、軽信は思わず声をあげた。

相変わらず無表情な和幸は、微かではあったが、はにかむような笑みを浮かべた。

『和幸君、知ってる?私と剛三が、いつも青い服を着ている、鬼道拳術の使い手である事から、鬼道拳士の青い巨星と呼ばれている事。』

『はい。あと、青い双星とも呼ばれてる事も…

僕は、青い双星の方が好きです。その…お二人は、本当にお似合いですから…』

『コイツ!子供の癖に生意気だぞ!』

軽信が軽く頭を小突くと、和幸はまた、はにかむように笑った。

『それにしても…』

軽信は、改めて、マジマジと和幸を眺めた。

和幸もまた、いつの頃からか、青い着物を身につけるようになっていた。

自分に対する憧れからである事を知っている。

幼い子が、憧れのお兄ちゃんやお姉ちゃんの事を何でも真似たがるように、和幸もまた、軽信の事を何でも真似たがっていた。

軽信が、扇子を集めるのが趣味だと知れば、自分も扇子を集めたがる。いつも髪を腰まで伸ばしてるのを見れば、自分も髪を腰まで伸ばした。

和幸は、神楽舞を得意とする。それも、軽信が北の楽園に伝わる舞踊と中原の楽土に伝わる舞踊を得意とする影響であった。

鬼道拳術を学びたがったのも、軽信への憧れ。同じ鬼道拳術でも、奥平の鬼北(おきた)派ではなく鬼南(おなみ)派…それも、鬼南一刀(おなみいっとう)を創始とする、水鴎(すいおう)拳を選んだのも、全て軽信の影響であった。

そして…

着る物まで、軽信を真似て、青一色に統一するようになっていた。

軽信は、そんな和幸が愛しくてたまらなかった。

年の離れた、本当の弟のように思うようになっていた。

『和幸君、本当に青い着物が似合うわね。』

『そんな…』

和幸は、微かに頬を赤くした。

そんな表情を見せるのも、軽信にだけであった。

『ううん。剛三も言っていたわ、自分なんかより、和幸君の方がずっと青が似合うって…』

『そんな…僕なんかより、奥平さんの方がずっと素敵ですよ。それと、姉さんの方が…』

和幸は言いかけ、また、頬を赤くした。

『ありがとう。それでね…』

軽信は、和幸の頬を撫でながら…

『今、同盟紅軍の間では、和幸君の事も、青い巨星って呼ばれてるのよ。』

ニッコリ笑って言うと、和幸は目を丸くした。

『僕が?』

『そうよ。だって、今ではもう、私や剛三と同じくらい…いいえ、ひょっとしたら、私達を凌駕するかも知れない程の使い手ですもの。』

『そんな、僕何て…』

言いかける和幸の頬を撫でながら、軽信は大きく首を振り…

『いいえ。今はともかく、和幸君は、遠からず私達を遥かに凌駕する使い手になるわ。

だから、こうも呼ばれてるの。ブルー・スリーってね。』

『ブルー…スリー…』

『そう。鬼道拳術、第三にして最強なる青い巨星…ブルー・スリーよ。』

そう言うと、和幸はまた、はにかむような笑みを浮かべた。

『キャーーーーーーッ!!!!!』

また、耳を劈くような少女の声が、軽信を現実に引き戻した。

『ヒィーーーーーッ!!!!』

『ほらっ!もっと足広げろ!足!』

『もっと、尻を上げるんだよ!』

凄まじい声で泣き叫ぶ少女に、さっきとはまた別の男が怒鳴りつけていた。

短い間に、いったい何十人の男達が、飽きもせずに少女を嬲り弄んでいるのだろう…

『さあ、どうして欲しいか言ってみろ!』

『参道を…お通り下さい!』

『参道って、こっちか?それとも、こっちなのか?』

男の一人が怒鳴りつけると…

『アーーーーーーッ!!!!』

少女は、答える代わりに悲痛な叫び声をあげた。

無駄な事は知っている。

それでも、軽信は鎖を引きちぎろうと必死に引っ張り、踠き暴れた。

こんな事の為に、弄ばれる少女達を横目に見ながら、ひたすら和邇雨一族に潜り込んだのではない。天領(あめのかなめ)の幹部になりすましてきたのではない。まして、和幸達に手を血で汚させてきたのではない。

これまで、どんなに酷い仕打ちを受けてる少女達を見ても、素知らぬ風を装ってきた。和幸が妹のように可愛いがっていた、美香と言う子が死んだ時も、和幸と共に涙を呑んで堪えてきた。それもこれも、いつかは、神領(かむのかなめ)中の兎神子(とみこ)達を解放する為であった。

いや…

兎神子(とみこ)達だけではない。兎神子(とみこ)達を当てがわれながら、兎神子(とみこ)達の養育料にかこつけた、玉串と初穂と言う名の重税に喘ぐ領民(かなめのたみ)達をも解放する為であった。

だのに…

解放するはずの奥平の手で、今は、まだ九才かそこらの少女が嬲りものにさらている。

許す事も、見逃す事もできなかった。

鎖に繋がれた軽信の腕は、血まみれになっていた。

軽信は、構わず更に暴れ続けた。一層、この腕を引きちぎれれば良いとさえ思っていた。

その時…

『全く…あいつら、よく飽きもせず、あんな小さい子を…』

『他の穂供(そなえ)部屋でも、まだ幼い兎達相手に乱痴気騒ぎだ。』

『狂ってる…神領(かむのかなめ)は、狂ってる…』

『もう嫌だ!なんだって、俺は神職(みしき)の家に…神漏(みもろ)になんか生まれてきたんだ!何処か行きたい!こんなところから逃げ出したい!』

長い廊下を歩く音と同時に、数人の男達の声が聞こえてきた。

見れば、緑の立無し丸兜に緑の帷子、深緑の胸甲に腕脚当て、右肩に盾、左肩に棘付き肩当てを身につけた兵士が四人降りてきた。神漏兵(みもろのつわもの)達である。

どうやら、何処に行っても幼い兎神子(とみこ)達を嬲る光景に辟易して逃れてきたらしい。

と…

『おや、此処は…』

『こいつは、軽信とか言う女革命戦士じゃーねえか。』

二人の神漏兵(みもろのつわもの)は、鎖に繋がれた軽信の姿を見出すと、舌舐めずりをした。

『噂には聞いていたが…良い女だなー。』

三人目の神漏兵(みもろのつわもの)も、生唾を飲み込みながら格子まで近づいた。

『おい!何する気だ!』

四人目は、三人が格子の鍵に手を伸ばすと、慌てた声で言った。

『こいつは、役得ってもんだぞ。』

『そうそう…犯るなら、あんなガキじゃねえ。こう言うのをやらねえとな…』

一人目と二人目が、互いに顔を見合わせると、ニンマリ笑った。

『バカな!それじゃあ、上の連中と同じじゃねえか!』

四人目が、必死に抑えようとして言うと…

『馬鹿言え、こいつは不穏分子…犯罪者だ。何したって構うもんか。』

『それに、元々、慰安婦とか言う、軍隊付きの売女だ。今更、何されても嫌がる筋合いじゃーねえだろう。』

『嫌なら、おめえはそこで見てろ。本当の男って奴を、おめえに教えてやらあ。』

三人は四人目の若い兵士を突き飛ばして、格子の中に入り混んできた。

『しめた!』

軽信は、内心ほくそ笑んだ。

言われるまでもない。

十二の歳から二年間…連日連夜弄ばれ続けて涙を呑み、ある日、御祭神から大量出血をして、子を産めなくなって割り切るようになった。

周恩来(チョーエンライ)に解放されて養女となり、彼に心酔して革命に加わってからは、女である事を最大限、武器や道具にして利用するようになった。

今更、簡単に捻れそうな男三人ばかしに何されたって、どうと言う事はない…

しかし…

『嫌っ!やめて!お願い!嫌っ!』

軽信は、敢えて怯え震えて見せた。

こう言う場合、なまじ色仕掛けするより、嫌がり抗って見せた方が、男達は余計に欲情する事を知っている。

それに…

『おらっ!大人しくしろ、このアバズレ!』

『散々、軍人相手に良い思いしてきたんだろう?』

『たんと、可愛がってやるわ!』

泣いて抗う女を、無理やり押し倒し、服を引き裂いてくる男達の方が、殺しても後味悪くない。

『やめて!やめて!許して!嫌ーーーっ!』

鎖に繋がれ、身動き取れない軽信が、身を捩って泣き叫ぶと、案の定、男達は甲冑帷子を脱ぎ捨てながら、軽信に殺到してきた。

次の刹那…

骨が折れる嫌な音が鳴り響くや、一人目の神漏兵(みもろのつわもの)が、脊髄のあたりから真っ二つに折られて、絶命していた。

同時に…

『この鎖の鍵を外せ!』

軽信は、腕で二人目、足で三人目の首を絞め上げながら言った。

『ウグググ…』

『ググググ…』

軽信は、二人の男を絞め上げながら、初めて旧帝国軍に連れ去られ、何十人もの兵士達に弄ばれた時の事を思い出していた。

あの時、まだ十二だった自分は、こう言う男達に嬲りものにされたのだ。

『外すのよ!早く!でないと、この首、へし折るよ!』

更に更に強く締め上げながら、軽信は、彼女の腕と足の中で踠き苦しむ二人の男達と、十二だった自分を弄んだ兵士達を重ね見続けた。

二人の神漏兵(みもろのつわもの)は、呻き声を漏らしながら、軽信の手足に繋がれた鎖の鍵を外した。

同時に、軽信は、ゆるゆると二人の首を絞め上げる手足の力を強めていった。

男達は、命乞いする声すらあげられず、口から泡を吹かせていた。

あの時の自分も、上で嬲りものにされてる少女も、別の穂供(そなえ)部屋で弄ばれてる少年少女達も、許しを乞う事も抗う事も許されなかったのだ。

この二人に、命乞いの声を上げる事すら許すつもりはなかった。

ただ、ジワジワと首を絞めあげてゆき…

『地獄に落ちろ!』

ゆっくりと首を後ろ向きに捻り上げ…

骨の砕ける鈍い音をさせて、二人同時に絶命させた。

『助けて…助けて…助けて…』

軽信は、最後まで三人を止めようとした四人目の男に、両手の指関節を鳴らしながら、ゆっくり近づいて行った。

四人目の若い男は、腰を抜かして立ち上がれぬまま、後退りをしていた。

『助けて…助けて…助けて…』

若い男は、全身震わせ、首を振り立てて命乞いを続けた。

軽信は、酷薄に細めた目で、若い男をジッと見おろすと…

『神領(かむのかなめ)になんか…神職(みしき)の家、神漏(みもろ)になんか生まれてきたくなかったのよね、可哀想に…』

更に両手の関節をならしながら、冷たく言い放った。

『お願い…助けて…殺さないで…殺さないで…お願い…お願い…』

男は、泣きじゃくって命乞いをしていた。

見れば、まだ、十八か十九と言ったところであろうか…

『坊やは、一思いに逝かせてあげるわ。次に生まれる時には、神職(みしき)の家、神漏(みもろ)になんか生まれて来ない事ね…』

軽信は言うなり、まだ少年とも言える若い兵士の首を鷲掴みにすると、断末魔の声を上げる間も無く瞬時に捻り殺した。

『なんだ!』

『何か、音がしなかったか?』

廊下の彼方より、複数の男達の声が聞こえてきた。

軽信は、動じる様子もなく、今殺したばかりの男達が携帯していた拳銃四丁を懐に、湾曲刀二振りを両腰脇に差すと、まっすぐ声の方へ向かって行った。

さっきと同じ、緑の甲冑帷子に身を固めた神漏兵(みもろのつわもの)五人が、玻璃を翳しながら近づいてくる。

『おまえ!』

『軽信!』

神漏兵(みもろのつわもの)二人が声を上げる刹那に、軽信は二振りの湾曲刀を同時に鞘走らせ、二人の神漏兵(みもろのつわもの)を瞬時に斬り殺した。

残り三人の神漏兵(みもろのつわもの)達は、慌てて抜刀した。

『スーッ…ハァーーーーッ…』

軽信は、深い深呼吸を一つすると…

闇雲に斬りつける三人の神漏兵(みもろのつわもの)の湾曲刀を、飛び交う鴎ごとき身のこなしで受け流し、横薙ぎに斬りつけながら、クルクル回って間を縫って行った。

静寂…

軽信が湾曲刀を鞘に収めると同時に、三人の神漏兵(みもろのつわもの)達は、首筋から噴水のように鮮血を迸らせて倒れた。

と…

何が起きたのであろう…

気づけば、ついさっきまで、少女の泣き叫ぶ声が響いてきた穂供(そなえ)部屋から物音一つ聞こえ無くなっていた。

『和幸君…』

軽信は、ハタと我に帰ると、血相を変えて駆け出していた。

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