※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

65 / 102
(19)決戦

(19)決戦

 

『平次、何故…』

あたりは森閑と静まり返っていた。

生ける者の姿は一つも見られなかった。

弐十手達も、目明達も…

援軍に駆けつける筈の革命戦士達や楽土兵達も…

厳重に警護してる筈の神漏兵(みもろのつわもの)達の姿すら見られなかった。

ただ…

そこには、壮絶な戦いの痕跡だけが残っていた。

数多の神漏兵(みもろのつわもの)達の骸が転がり、中央には、平次、伝七、新五、佐七、左門、新八郎が血塗れになって倒れていた。

『カズ!様子が変だぜ!』

貴之が、血相を変えて駆けつけてきた。

『カズ兄!何処の外壁にも、人っ子一人いねえ!警護の神漏(みもろ)共もいなければ、同心達が襲撃した痕跡もねえ!』

続けて、政樹が狼狽した様子で駆けつけてきた。

『いってえ、どうなっちまってるんだ!』

低く唸りを上げる貴之の袖を、秀行が無言で引っ張った。

『ヒデ、どうした?』

秀行は無言のまま、眉一つ動かさぬ眼差しで、まっすぐ一点を見つめていた。

『これは…』

貴之と政樹は、目の前の光景に漸く気づくと、愕然と眉を釣り上げた。

和幸は、静かに眼差しを遠くに移すと…

『これは、どう言う事なのでしょうか?』

鬱蒼と生い茂る林の樹木の狭間に一陣の風が吹く。

闇の靄の中から、濃紺の袖なし外套をはためかせ、一人の人影がうっそりと姿を現した。

先の尖った頭立て付きの青い丸兜…

青い帷子の上に濃紺の胸甲と腕脚当て、両肩には棘付きの肩当てを身につけ、左腕当てに長盾をはめ込んだ男…

『奥平さん、わかるようにご説明下さい。』

和幸が、切れ長の眼差しをまっすぐに向けて尋ねると…

『平次同様、おまえにも、言葉よりわかりやすい説明をしてやろう。』

奥平は、ニィッと笑って指を弾いた。

すると、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)は、平次に身をもって庇われ、辛うじて生き延びた全裸の少女を引き摺ってきた。

少女には、平次が最初に見た時のような怯えた様子はなく、ヘラヘラ笑っていた。

股間を見ると、血尿を垂れ流している。

『さあ、静ちゃん、穂供(そなえ)参拝が来たよ。どうするの?』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)が、猫撫で声で頭を撫でてやると…

『へへへへ…ようこそ、ご参拝下さいました…へへへへ…どうぞ、参道をお通り下さい。』

少女はヘラヘラ笑いながら、脚を広げて座り、尿と刈穂に塗れた神門(みと)のワレメを指先で押し広げて見せた。

『てめえ、これは何の真似だ…』

忽ち激しい怒りと憎悪に目を光らせ、背中の釣竿を取って進み出ようとする貴之を、秀行が眉一つ動かさずに押し留めた。

『静ちゃん、このお兄さん達、暗くて参道が見えないそうだよ。』

奥平は、尚も怒りに満ちた眼差しで睨み据える貴之を意に介する様子も見せず、少女に向かって言った。

『へへへへ…参道は、こちらにございます。へへへへ。』

少女は、既に痛みも感じないのか、荒らされに荒らされた参道に、自ら乱暴に指を突っ込んで引っ掻き回し始めた。

『静ちゃん、良い子だねえ。』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は、また少女の頭を撫で回し…

『ところで、参道はここにしかないのかな?』

相変わらずの猫撫で声で言うと…

『へへへへ…宜しければ、上の参道もお通り下さい。へへへへ…綺麗に清めて差し上げます。へへへへ…』

少女は、血が滲む程参道を掻き回す手を休める事なく、ヘラヘラ笑いながら言った。

『よしよし、良い子だ良い子だ。』

今度は、有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)が言いながら、袴を下ろして下半身を剥き出すと…

『ささ、それじゃあ、上の参道を大きく開けて、アーンして。』

少女の額を反らせ、大きく開けた口の中に、いきり勃った穂柱を押し込んだ。

『やめろ…』

政樹は、不意に思い出す美香と少女を重ね見て…

『やめてくれーーー!』

取り乱したように、駆け出そうとした。

秀行は、貴之を抑えたまま、政樹の腕も抑えた。

『ヒデ、何故止める!こいつら、ぶっ殺す!』

貴之も、完全に頭に血を上らせて、少女を嬲り弄ぶ、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)に襲い掛かろうと乗り出していた。

秀行は、相変わらず眉一つ動かさず、目線を周囲に向け、見回して見せた。

いつの間にそこに立っていたのか、緑の甲冑や紫と黒の甲冑の神漏兵(みもろのつわもの)達が、十重二十重に取り囲み、小銃や砲銃を身構えていた。

『要するに、裏切ったと言う訳ですか?』

和幸が物静かに尋ねると…

『厳密には違うな。』

『これが裏切りではないのでしたら、何だと仰るのでしょう?』

奥平は、答える代わりに、また指を弾いた。

すると…

『用が済んだから、切り捨てると言うのが正しいでしょうかね。』

神漏兵(みもろのつわもの)達の間から顔を出す、頬のこけた瘦せぎすの男は、和幸にではなく奥平に答えて言った。

彼もまた、今やすっかりお気に入りとなった、全裸の白兎の少女を小脇に抱え、胸や股間を弄り回していた。

『森脛夫…二人は、初めから?』

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

奥平は、不気味な声で笑い出すと、満足そうに大きく頷いて見せた。

『奥平さん、何故こんな真似を?皆、貴方を信じ、貴方に心酔し、貴方について行こうとしていました。だのに何故?』

和幸は、相変わらず物言いは沈着冷静であったが、声をやや震わせて尋ねた。

『革命を成功させる為だよ。』

奥平は、平然と言うと…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

また、不気味な笑い声を上げて見せた。

『革命を成功させる為?』

和幸は、微かに眉をしかめながら、目線を少女の方に移した。

いつの間にか四つん這いになって有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)の穂柱を丹念に舐め回す少女の股間に、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)は後ろからいきり勃った穂柱をつきたてていた。

『幼い少女を廃人になる程陵辱する…そんな真似を嬉々としてやらせる事…それも、革命を成功させる為ですか?』

『大事の前の小事だよ。我々の革命は、神領(かむのかなめ)などと言う僻地の因習など問題にならぬ程、巨大な計画に向けられている。

楽土と浄土を提携させ、反共帝国にも明星国にも対抗しうる東亜条約機構を結成。更にアフリカにも革命を引き起こし、アフリカ条約機構を結成。東亜条約機構とアフリカ条約機構を提携させて、反共帝国・明星国両者共に打ち破り、アジア・アフリカ条約機構の力を持ってして、世界革命を実現させるんだよ。』

『その為に、神妣島(かぶろみしま)の弾道型原子爆弾が欲しいと…』

『欲しいのではなくて、必要なのだよ!君にはわかるまい!これからの世は、原爆をより多く持つのは勿論、どの地域に確保するかで、世界の趨勢が変わる!

神妣島(かぶろみしま)の原爆は、たった三発で世界を握れるのだよ!

その価値、あんな、白穂まみれのガキの一人や二人など到底比になどならんのだ!』

奥平が、甲高い声を張り上げて、一気にまくし立てると、和幸は、表情こそ変えなかったが、拳をグッと握りしめた。

『あの子達の未来こそ取り戻したいと願っていた者達が、貴方の革命に心酔しました。あの子達をこそ守りたい、救いたいと願った者達が、見た事も聞いたこともない…恐らく一生目にする事のない地の人々をも幸福にすると言う、貴方の革命に胸を高鳴らせ、心を躍らせていました。』

『だから、何だ?』

『平次にも、あの子を嬲りものにするのをお見せしたのですか?』

『見せてやったさ、死ぬ前に現実を教えてやろうと思ってな。幼子のように、ビービー泣いて、やめてくれと哀願しておったわ。』

『それが、奥平さん…貴方の革命の本質ですか?幼子のような心で慕ってきた者達が、一番大切にしようとしてるもの、一番守りたいと思ってるものを、目の前で踏み躙る…挙句、貴方を幼子のように慕ってきた者達を、散々利用した挙句に惨殺する…それが、貴方の革命の本質なのですか?』

いつしか、和幸は両拳をワナワナと震わせていた。

脳裏には、奥平を本当の兄のように慕い、纏わり付いていた、平次達の姿が過っていった。

『平次達以外、誰も来ていない…三百人からいた弐十手と目明達…他の皆はもう…』

『じきに、お前も送ってやるさ。』

『貴方を慕ってついてきた者達を皆…胸は痛まないのですか?神妣島(かぶろみしま)の原爆に、どれ程の価値があるかはわかりませんが…その為に、こんなにも貴方を慕ってついてきた者達の血を流して、何の痛みも感じないのですか?』

和幸が、声を震わせながら、今一度尋ねると…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

奥平は、一段と不気味な声を上げて笑い出した。

『革命に犠牲はつきものだよ。』

『犠牲?』

『そうだ。我らの革命の向かう先は、実に大いなるところにある。

大いなる革命を成功させる為には、多少の犠牲は必要なのだ。

お前達も、我が革命の肥やしとなって死ぬが良い!』

そう言うと…

『グフフフフフ』

奥平は、また不気味な声を高らかに笑い出した。

その時…

『私の兎神子達の命、多少などではないぞ!』

何処からとなく、新たなに別の声がこだましてきた。

間に合った…

林の彼方に、和幸の声を聞いた時、心の中で安堵の吐息を漏らした。

しかし、本当に息などついている暇はなかった。

こうしている間にも、和幸達は殺されるかも知れないのだ。

一人も死なさない…

一人たりとも失ってなるものか…

和幸にも、秀行にも、貴之にも、政樹にも、待っている人が、私の社(やしろ)にいるのだ。

いつも偉そうに振舞っているけれど、彼らを待っている子達は皆幼いのだ。

彼ら無しでは生きられないのだ…

闇夜を疾駆する遥か前方に、朧な人影の群れが見えてきた。

紫と黒の甲冑…

兜は十字の形をしている。

名の知れた、鱶背社領(ふかせのやしろのかなめ)名物、昴田組神漏(すばるたくみみもろ)衆…

私は、疾駆しながら、居合刀・胴狸の柄に手を掛けた。

神漏兵(みもろのつわもの)達の彼方から、奥平の甲高い声が響いてくる。

『大いなる革命を成功させる為には、多少の犠牲は必要なのだ。

お前達も、我が革命の肥やしとなって死ぬが良い!』

私は、胸の奥底に滾るものを感じた。

いや…

痛みと言う方が正しいかも知れない。

あの日、純粋に澄み切った眼差しで、私の話に気に入り、無邪気に喜んでいた、目明組の少年達一人一人の顔が、脳裏を過って来る。

皆、かけがえの無い命だ…

一つたりとも欠けて良い命などないのだ…

多少なんかであるものか…

『私の兎神子(とみこ)達の命、多少なんかではないぞ!』

気づけば、私は叫んでいた。

忽ち、目の前の神漏兵(みもろのつわもの)達の気づくところとなり、一斉に砲銃を向けて振り向いてきた。

私は、構わず真っ直ぐに駆け続けた。

ただ、和幸達のいる所に向かって、ひたすら駆け続けた。

神漏兵(みもろのつわもの)達が、砲銃の引き金を引こうとする光景が、実にゆっくりとした動作に見えてくる。

私は、まさにすれ違う刹那に、胴狸を鞘走らせた。

砲銃は、空を向けて発射され、瞬く間に、十数人の神漏兵(みもろのつわもの)達が、バタバタと血飛沫をあげて倒れた。

抜刀隊が、私の前に立ちはだかってきた。

黒い三連星…

昴田組得意の、三位一体攻撃である。

下段、中断、上段に構えた三人一組の兵達が、次々と私に襲い掛かってきた。

最初に逆袈裟に薙いで一人、返す太刀で一人、再び逆袈裟に薙いでもう一人…

ひたすら、向かい来る敵を斬り伏せながら、和幸の声を目指して駆け抜けていった。

後にして思えば、一瞬にも等しい間の事であったような気がする。

しかし、この時は、永遠かと思われるほどの時を駆け、漸く和幸達が小さく見えるまでに視界が開けてきた。

貴之と政樹が、何か信じられないものでも見るような目で、私の方を見つめていた。

『待っていたぞ、名無し!いや、暗面長(あめんおさ)!』

奥平は、私を見出すなり…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

不気味な笑い声をあげ、左腕の長盾の下から長太刀を抜くと、大きく振って合図を送った。

すると…

黒い三連星の攻撃を展開していた抜刀隊は引き下がり…

昴田組の砲銃隊と江藤組の小銃隊が素早く複雑に陣形を変え、私と和幸達を一斉射撃できる体制を整えた。

『隠密御史(おんみつぎょし)筆頭、暗面長(あめんおさ)!見事に罠にかかりおったな!全ては、おまえを消す為の絵図だったのだ!』

奥平は、勝ち誇ったように言うと…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

と、また不気味な笑い声を上げた。

『それは、どうかな?』

私は、周囲を一巡して見渡すと、居合刀を金剛に身構えた。

刹那…

各地で、砲銃隊と小銃隊達達が、次々と低い呻きを上げて倒れた。

私は、地に倒れ込み、数間先の小銃隊に向かって転がりこむと、下方から続け様に十人切り倒し、更に起き上がると同時に、目の当たりにした砲銃隊十人を立て続けに斬り伏せていった。

各地で、砲銃隊と小銃隊達が倒れ込んだ所からは、紫装束を身に纏う朧衆の忍達が姿を現し、神漏兵(みもろのつわもの)達と斬り合いを始めていた。

奥平は、一瞬、目を細めて今起きた光景を見渡した後、スーッと左手をあげ、真横に向かって薙いて見せた。

神漏兵(みもろのつわもの)達は、再び素早く陣形を変え、新たな小銃隊が、粛々と迫ってきた。

その時…

遥か前方より、一人の男がうっそりと姿を現した。

『奥平、成長のない奴…』

男は言いながら抜く太刀を、右横真一文字に薙いで見せたかと思うと、切っ先を裏返し、月影に反射させた。

刹那…

周囲を囲む樹々の上から、無数の朧達が舞い降りて、小銃隊達を次々と屠っていった。

『おまえは、中村組の主水!生きていたのか!』

さすがに、奥平が目を向いて叫ぶと…

『あんな、やわな太刀で死ぬ俺ではないわ。』

主水は面白くもなさそうに呟き、向かい来る神漏兵(みもろのつわもの)達を他愛なく斬り伏せながら、私の方に向かってきた。

『主水!おまえは寝てろと言った筈だ!』

私が、背中合わせになった主水に言うと…

『ジッとしているのは性に合わん。何より、俺は隠里の奥方様にお仕えしてる。貴方に命じられる筋合いはない。』

やはり、面白くもなさそうに、ぶっきら棒な物言いで答えて、再び斬り合いを始めた。

と…

何処からともなく、鉄傘が旋回して飛んでくるや、忽ち私と主水を囲む神漏兵(みもろのつわもの)達数人の首筋を切り裂いた。

『息吹!』

今度は、主水が目を剥いた。

戻る鉄傘を握り閉じると、開閉を繰り返し、踊るような動作をしながら、こちらに向かって駆けてきた。

『お前達は来るなと言った筈だ!』

主水が叫ぶと…

『先程仰られた主水様のお言葉、そっくりお返ししやすぜ!』

聾唖の息吹に変わって、いつの間にか側近くで杖の仕込みを逆手に切り結んでいた里一が、ニィッと笑って言った。

『何だと!』

『あっしらは、親父さんの息子であって、主水様の配下ではござんせん!』

『チィ…』

舌打ちする主水の傍で…

『この反抗息子!私も来るなと言っておいた筈だ!』

私も怒鳴りつけると…

『そいつありやせんぜ!』

里一は、見えない目を向けて、あんまりだと言う顔をした。

『親子喧嘩は、後になされい!』

続けて顔を出したのは、主水同様、包帯だらけの平蔵であった。

『火盗組組頭、平蔵である!貴様達の、敵国内通と謀反の罪は明白!神妙に縛につけっ!』

平蔵が叫ぶなり、配下の火盗組朧衆達が、神漏兵(みもろのつわもの)達に立ち向かって行った。

『平蔵!おまえは、私の配下の筈!休んでろと命じた筈だ!何しに此処へきた!』

私が叫ぶと…

『俺は、従うのではなく、守役を仰せつかっておる。若君の事を案じておられた、若君の御母堂様にな。母君様の事と言い、叔母君様の事と言い、親不幸も大概になされよ。』

平蔵は、私と主水と背中を合わせるように身構えながら、説教がましく言った。

突然始まった戦闘に、暫し呆然としていた和幸達は…

『何、ボサッとしてるの!反撃するのよ!』

拳銃を射ち放ちながら叫ぶ、女の声に我に返った。

和幸は両手に握る鉄扇を開くや、神楽舞の如き身のこなしで神漏兵(みもろのつわもの)達の間を縫い、その首筋を切り裂いて行き…

秀行は、斬りかかる神漏兵(みもろのつわもの)五人を続け様に蹴り、背負い投げ、張り倒し、その首筋に簪を振りかざした。

貴之は、鞭の如く鉄製の釣竿を振り翳しながら、仕込みを抜いて、組み合う神漏兵(みもろのつわもの)の首筋に突き立て…

政樹は、手槍を身構え、迫り来る神漏兵(みもろのつわもの)達に踊り掛かって行った。

和幸達の背後で、軽信は二丁拳銃の火を吹かせ続けた。

私は、深まる混戦の間を抜いながら、漸く、和幸達との合流を果たした。

『親社(おやしろ)様…』

私と見合わせる和幸の顔には、表情はなかった。

ただ、切れ長の眼差しは、悲しみとも絶望ともつかない不可思議な色を滲ませていた。

『カズ君、ここは私達に任せろ。』

私がボソッと言うと…

『えっ?』

和幸は、一瞬戸惑うように首を傾げた。

『君は、奥平を切れ…』

尚も不可思議な目で私を見つめる和幸に…

『無残に裏切られた、無二の仲間達の仇を討て!』

私が叫び声をあげると…

『はいっ!』

和幸は大きく頷いて、更に向かいくる神漏兵(みもろのつわもの)達を鉄扇で斬り伏せながら、まっすぐ奥平の方に向かって行った。

『親社(おやしろ)!あんたも、行ってくれ!』

鞭の如き釣竿を振り翳しながら、貴之が側に寄って言った。

『タカ君…』

『カズの野郎、あれでもかなり気が立ってやがる。援護なしには近づけねえ。』

貴之は言うと…

『あんた、強えんだな。見直したぜ。』

出会って初めて、私に笑って見せた。

顔をくしゃくしゃにして笑う貴之の笑顔は、まだ十六歳らしい…いや、もっと幼くすら見える、あどけないものであった。

『安心しやがれ!おめえが、カズの野郎と仲良く殺られたら、俺が後で仇をとってやらあ!』

私は、また一人切り倒しながら、大きく頷くと、和幸の後を追って行った。

和幸は、神楽舞を舞う如く向かい来る神漏兵(みもろのつわもの)達の間を縫いながら、まっすぐ奥平の方へ向かって行った。

ヒラヒラと宙を舞う鉄扇は、一薙ぎする毎に、確実に一人の首筋を切り裂いた。

三位一体の黒い三連星が、和幸を襲う。

和幸は、神楽舞の形をとりながら、クルクル回って、三連星の攻撃を受け流すと、次の刹那には、三人同時に首筋を切り裂いていた。

私もまた、和幸に迫る神漏兵(みもろのつわもの)達を、着実に斬り伏せて行った。

両脇より、六組の三連星が、同時に迫ってきた。

『カズ君、奥平まであと数間…まっすぐに進んで行け!何も顧みるな!』

叫ぶなり…

私は、脇に構えた胴狸を切り上げ様に一組、返す刀で一組、更に切り上げる刀でもう一組、続け様に斬り伏せて行った。

残る三組の三連星に私が斬りつけて行った時…

和幸は、何を思ったか、不意に鉄扇をしまい込むと、腰に吊るした銭形手裏剣に手を伸ばした。

奥平の両脇を守っていた革命戦士が、銭形手裏剣に眉間を割られて絶命した。

和幸は、続け様に銭形手裏剣を投げつけ、更に四人の護衛革命戦士の眉間を割った。

残り二人の革命戦士が太刀を抜き、唸りを上げて斬りかかってきた。

和幸は、すかさず腰に刺していた二振りの十手を同時に抜きはなって突き入れた。

十手で眉間を貫かれた二人の革命戦士達が、声もあげずに、前のめりに倒れ込んだ。

『よく来たな、和幸。おまえだけは、この手で倒したいと思っていたよ。グフッ、グフッ、グフフフフ…』

私が、最後の三連星を斬り伏せた時…

不気味な笑い声をあげる奥平の前に、漸く、和幸が両手の十手を二刀に構えるのが目に入ってきた。

その時…

『わーーーっ!!!何だよこいつは!!!』

『とんでもねえ化け物だーーー!!!』

彼方より、貴之と政樹の叫び声が聞こえてきた。

振り向くと…

『天伏流駒多凪網(てんぷくりゅうこまたなもう)か…』

呟く私の目線の先で、正面左右交互に、凄まじい勢で湾曲刀を旋回させる小太りな小男の姿を見出した。

昴田組組頭絲史郎(すばるたぐちくみがしらいとしろう)が、貴之、政樹、秀行に襲い掛かろうとしていたのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。