※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(21)父親

(21)父親

 

渾身一撃…

空高く舞い上がり、逆手に振り下ろされた奥平の長太刀は、地中深く柄際まで突き刺さった。

周囲に土煙の煙幕が立つ。

間一髪…

真横に躱した和幸は、土屑に塞がれた目を擦りながら、急ぎ上体を起こしかけた。

奥平は、容易に引き抜けぬ長太刀を見捨て、空かさず和幸に横蹴りを入れる。

吹き飛ばされる和幸に、起き上がる間も与えず回し蹴り。

返す足で、後ろ回し蹴り。

手を地につけ、四つ足に立ち上がろうとするや、更に腹部を激しく蹴り上げた。

『どうだ、和幸。これが、本物の鬼道拳士…青い巨星の拳術の味だ。男色共を垂らし込み、尻の穴を抉られ、イチモツをしゃぶる男娼風情が、小手先器用に俄仕立てで会得した拳術とは一味違うだろう?』

奥平は、地を転げ回る和幸を、嬲るように見下ろしながら、ひたすら蹴飛ばし、踏みつけ続けた。

『青い巨星…三人目にして最強の男、ブルー・スリーの名を欲しいままにする、お前の名声を耳にする度に…

たかが使い捨ての手先、殺し屋のお前が、同盟紅軍の間で、褒めそやされる声を耳にする度に…

こうやって、お前を嬲り殺す日を夢見て来たぞ。』

和幸は、最早どのような嘲笑や挑発の言葉にも動じる様子を見せず、踏蹴されるに任せながら、奥平の動きを見据えて次の攻撃の機会を伺っていた。

『さあて…お前の何処から折ってやろう?手が良いか、足が良いか?それとも背骨が良いか?』

言いながら、奥平は…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

不気味な声をあげて、足を思い切り振り上げようとした…

今だ…

一瞬、鋭い眼光を放つ和幸は、突如足払いの蹴りを放った。

奥平は、思わぬ不意打ちに、仰向けに倒れ込んだ。

和幸は素早く跳ね起き飛び上がり、十手を突きつけた。

奥平は、左腕の長盾で十手を受け止め、そのまま和幸を跳ね飛ばした。

和幸は、コマの如く身体を回して空を舞いながら着地。曲線を描き、水面を飛び交う鴎のような構えをとった。

奥平は、足先から跳ね起き、両手で昇龍の如き構えをとると…

『アチョーーーーーッ!!!!!』

奇声を発し、身体を横向きに回転させながら手刀を放ち、躱されると肘打ち、蹴り、拳と連打した。

和幸は、羽毛の如く軽やかな身のこなしで、受け流すように躱した。

奥平は、飛び上がりながら、突き上げる拳と膝蹴りを同時に放つ。

和幸は、拳と膝蹴りの方角に合わせて身を引き翻して躱し、袈裟懸けに十手。

奥平は、左腕の長盾で受け止めて蹴り。

和幸は軽やかに受け流すように躱して、逆袈裟に十手。

『アチョーッ!アチョーッ!アチョーーーーーン!!!!』

蜷局を巻いて昇天する龍の如き構えをとりながら、突き上げるような拳と、返す腕の肘打ちと…

龍の打ち振るう尾の如き後回し蹴り…

『貴様、鬼道拳術を習い始めたんだってな?』

牙を剥いて襲い掛かる龍の頭の如き手刀突きを躱しながら、平次の言葉が脳裏を過る。

『凄いなー!朧忍術(おぼろしのびじゅつ)の他に、鬼道拳術まで…本当に、和幸は凄いなー!』

真っ直ぐに向けられる澄み切った眼差し…

憧れと尊敬に満ちた純粋な眼差し…

『俺も、鬼道拳術習いたいなー。

習うなら、俺は鬼北(おきた)派が良い!北神龍昇拳が良い!

俺、奥平さんみたいになりたいんだ!だってさ、奥平さんって、やっぱり…』

蜷局を巻く昇龍の如く、飛び上がりながら放つ、突き上げる拳と膝蹴り…

何処までも勇壮雄大なる奥平の拳は、正に一尾の龍。

時折、暗殺任務完了後の座興に見せた、奥平の演武を見つめる平次の眼差しは、恋する乙女に似ていた。

憧れていた…

身も心も捧げ、命など何百何千回捨てても惜しくない程、平次は心酔しきっていたのだ。

和幸は、そんな平次が好きだった。

好きと言うより、自分を重ね見ていた。

自分もまた、周恩来(チョーエンライ)に同じ思いを抱いていたから…

奥平は、横蹴りを後ろ一回転して躱されると、胸甲に忍ばせていた二節棍を取り出し…

『ハァーーーーーーーーッ!!!!』

大きく息を吐き出しながら、両手に握り、正面真一文字に突き出すように構えた。

和幸もまた、空に曲線を描きながら、水面を飛び交う鴎の如き構えをとる。

奥平は二節棍をに両手巧みに持ち替え、左右上下自在に回しながら…

『アチョーーーーーン!!!!』

耳を劈くような奇声と同時に、和幸の頭上に振り翳した。

和幸は、右脇に受け流すように躱す。

すると、躱した右脇下段から、逆袈裟に二節棍…

和幸がコマの如く身を翻して後方に躱すと…

左脇から横真一文字に二節棍…

右脇上段より袈裟懸けに二節棍…

『アチョーッ!アチョーッ!アチョーーーン!!!』

奥平の絶え間ない奇声と共に、予測不能な方角からの二節棍の連打が続いた。

『アチョーーーーーーーーーーーッン!!!』

一際甲高い奥平の奇声が上がるや、弾くような鋭い音が鳴り響き、和幸は後ろに吹き飛ばされた。

『アチョーッ!!!!』

更に続けて、二節棍が和幸を打ち据える。

倒れ込む和幸の腹部を奥平は蹴りあげ…

『アチョーッ!アチョーッ!アチョーッ!!!』

立ち上がって体制を整えようとする和幸に、容赦ない二節棍の連打…

奥平は、逆手に構える二刀の十手で二節棍を躱されると、脇を狙って中段蹴りを入れた。

頽れる和幸に、正面蹴り…

更に絶え間ない二節棍の連打…

二刀の十手で躱す和幸の腹部に蹴り…

『アーーーータタタタターーーーッ!!!!』

奥平は、漸く立ち上がる和幸に、情け容赦ない二節棍の連打を浴びせた。

『立て、和幸。まだ、終わってないぞ。』

片膝を付き、肩で息をする和幸を、奥平は嬲るように見下すと…

『グフッ、グフッ、グフフフフフ。』

また、不気味な笑い声をあげた。

『でも、何だって貴様は北神拳で無くて、鬼南(おなみ)派の南聖拳を選んだんだ?』

薄れゆく意識の中で、また、明るい平次の声が聞こえてくる。

『いや、野暮な事は聞くまい!どうせ、軽信さんが理由なんだろう?』

真っ直ぐに見据える眼差しが、眩しく輝いている。

『でも、変な気を起こすなよ!軽信さんには奥平さんと言う素敵な人がいるんだからな!もし、奥平さんの大事な人に、変な気を起こしやがったら、俺が許さないからな!』

何一つ汚れを知らず、純粋な彼の発する言葉の一つ一つが、耳に心地よかった。

『俺、奥平さんの何もかもが大事なんだ。奥平さんのものなら、髪の毛一本の為にでも死んだって良い!だから、奥平さんが命より大事にしてる、軽信さんに手を出すなよ!』

笑って言う言葉も、怒って言う言葉も、全てが心地よかった。

全ては、奥平への憧憬と崇敬。

平次もまた、父を知らずに育っていた。父親がどんなものか知らなかった。父親を欲しいとずっと願っていた。

奥平に、父親を見ていたのだ。

そして…

『それにしても…奥平さんと軽信さんも言っておられたけど、貴様、本当に青が似合うな。』

奥平の恋人である軽信の弟のような存在であった和幸に、歳は同じなのに、兄のような思いを抱いていた。

和幸が、ただ、周恩来(チョーエンライ)の養女と言う理由で軽信を姉と慕ったように…

平次は、奥平の恋人である軽信の弟分と言う理由だけで、同い年の和幸を兄と慕っていたのである。

『軽信さんの仕立ても良いんだろうけど、綺麗な顔した貴様には、青がよく映える。』

脳裏を掠める奥平の面影は、満面の笑みと共に消えていった。

気づけば、平次が、飽きる事なく触りながら眺め回していた青い着物が、既にズタズタに斬り裂かれ、血塗れになっていた。

和幸は、二節棍の飛ぶ方角に身体を逸らす事で、どうにか打ち据えられる衝撃を緩めながら、左右に視線を動かし、反撃の機会を狙い続けた。

更なる二節棍の一撃…

和幸は、激しく横転しながら飛ばされた。

ふと、後方の彼方に目を留める。

せせらぎの音を立てる川の流れ…

和幸は、意を決したように、相変わらず動じない眼差しを奥平に向けた。

『ただでは殺さん。まず、手足と背骨を砕き、身動きできぬおまえの前で、あの気の触れた赤兎がよってたかって穂供(そなえ)られる姿を見せてやろう。』

奥平は、言いながら、また激しく和幸を打ち据えた。

『赤兎だけじゃないぞ。此処の白兎達も、妹のように可愛いがっていた赤兎が、寄ってたかって穂供(そなえ)られるのを見せつけてやった後、全裸にひん剥いてやりまくってやる。』

嬲るような言葉と連打が続く。

『そうだ…ここの黒兎達にも、あの赤兎や白兎達をたっぷり穂供(そなえ)させてやろう。おまえ達同様にな、ここの黒兎達も、兄妹姉弟、恋人のように、白兎達と仲が良いんだぞ。あんな白穂臭い赤兎、少しでも暖めてやろうと、抱きしめて頬擦りなんかしやがるんだ。』

和幸は、一瞬激しい胸の疼きと反撃の欲求に駆られながら、十手を握る手に力を込めて必死に堪えていた。

『存分に白兎と赤兎をやらせてやった後、俺の部下や楽土兵、神漏兵(みもろのつわもの)達に寄ってたかってまわされるのを見せつけながら、黒兎達にも穂供(そなえ)てやろう。』

奥平はそう言うと…

『グフッ、グフッ、グフフフフ…』

と、不気味な声で笑った。

そして…

『どうだ?思い出すだろう、あの美香と言う赤兎の事。懐かしませてやるぞ。あの時、美香の為に歯軋りしかできなかったおまえ達同様、仲間の白兎や赤兎がまわされている横で、彼女達をまわしたのと同じ手で穂供(そなえ)られる黒兎達の姿を見せつけてな。』

奥平は、不意に和幸の胸ぐらを掴んで顔を近づけると…

『面白い事を一つ教えてやろう。美香に法被を着せてやるよう、義隆に話を持ちかけたのは俺だ。その義隆を、童に密告させ、法被を着る美香の写真を眞悟宮司(しんごのみやつかさ)に送りつけさせたのも俺だ。』

『童…どう言う事ですか…』

『簡単に言おう。我等は、楽土の毛沢東(マオツートン)主席を指導者と担ぐ一方で、洋上帝国とも…明星国とも通じていると言う事だよ。紅王様の為にな。』

『紅王…?』

『正当なる男系男子の血脈と、旧帝国の崇高なる精神を受け継ぐ、我等が真の宮様。

全ては紅王殿下の為に…

男子の数を減らし、国際協調などとほざき、旧帝国覇業の足を引っ張り崩壊させた現皇室を排し、紅王殿下を皇籍に復帰させ皇位に奉戴する為…

楽土のチャンコロ共に築かせた世界機構を掠め取り献上する為…』

『それでは、革命は…』

『茶番だよ。誰が、三等国民…チャンコロ共の欲惚けジジイの指導者などに従うものか。

紅王殿下と共に、旧帝国の復興と覇業の完遂を実現させる前の茶番劇だよ。

紅王殿下と旧帝国の栄光の前に、烏合の衆の革命も、お前達の命も、塵芥に過ぎぬわ。』

言い終えると、奥平は和幸を突き飛ばし、更に飛び蹴りを食らわせた。

和幸は、敢えて避ける事なく、数間先までふきとばされた。

すると…

次第に白々と明けてくる薄闇の中、激しい飛沫の音が鳴り響いた。

川の浅瀬に投げ出された和幸は、ゆっくり起き上がると、片膝をつけた格好で、奥平をじっと見据えた。

『さあ、和幸、何処から折って欲しい?足か、腕か?』

奥平は、全身節々の関節を鳴らしながら、川に足を踏み入れながら言った。

『赤兎、白穂臭さが鼻につくが、なかなか良い味してるな。あの締め付けに、身体(からだ)を隠せない羞恥心と、苦痛を口にできない苦悶の表情が実に堪らん。』

和幸は、何も答えず、その顔に何ら表情も表さず、二刀の十手を構える手を水面に沈めた。

『本当は、手足の指先、一本ずつ折ってやりたいところだが…早く、お前の見てる前で、赤兎や白兎達をまわしてやりたくて、股間が疼きまくってる。一思いに手足と背骨を砕いてやろう。』

奥平はそう言うと、再び二節棍を振り回し始めた。

『言う事は、それだけですか?』

和幸は、目線で二刀十手の切っ先と奥平の距離を測りながら、ようやく言葉を発して言った。

『他に何がある?』

『もう一度だけ、お聞きします。平次は父を知りませんでした。父に憧れていました。父親が欲しいと、ずっと願ってました。奥平さんを、漸く出会えた父親だと思ってました。

せめて一言、平次にかけてやる言葉は、何もないのですか?』

『俺が父親?尻の穴や口を連日白穂まみれにさせた男娼の?気色悪い…』

奥平は、和幸の言葉に露骨な嫌悪感を露わにした後…

『あ、そうそう…お前にも死ぬ前に少しだけ良い思いをさせてやるぞ。身体(からだ)を動かせぬお前のモノを、あの赤兎にしゃぶらせてやろう。丹念にしゃぶらせ、舐めさせて、口の中いっぱいに放たれた白穂を、赤兎が飲み込むの眺めながら、ゆっくり首の骨を折ってやる。』

そう言うなり…

『アチョーーーーーーーッ!!!!』

再び耳を劈く奇声を発して、二節棍を振り回し和幸に向かって行った。

次の刹那…

和幸は、不意に立ち上がると同時に、二刀十手を突き上げた。

一瞬…

波立つ飛沫が、和幸との距離と視界を遮る。

構う事なく二節棍を振り下ろそうとする奥平は…

『水鴎拳…斬波刀(ざんばとう)か…』

飛沫が消えると同時に静止して、呻くように呟いた。

和幸は、相変わらず感情を表さぬ眼差しで、奥平を見上げていた。

『俺とした事が…』

奥平は、頭上に振り上げた二節棍を落とすと、その手を腹部に回した。

ドス黒い血がべっとり染み付いてくる。

『青い巨星、鬼道拳士至強たるこの俺とした事が…』

和幸が、突き刺した二刀の十手を、左右真横一文字に広げ切り裂くようにして引き抜くと…

『不覚…何たる不覚…』

奥平はゆっくり膝をついて倒れ込んだ。

腹部からは、ドス黒い血だけではなく、内臓まではみ出させている。

和幸は、暫しの間、苦悶と敗北の屈辱に呻きのたうち回る奥平を冷徹な眼差しで見下ろすと…

『待て!何処へ行く気だ!俺は負けん!薄汚い男娼風情のお前などに負けやせん!待つんだ、和幸!待てーーーっ!』

興味が失せたよう、苦悶より屈辱に顔を歪めて叫び続ける奥平に背を向け、その場を去って行った。

私の前に絲史郎が倒されると、事は一気に終息に向かっていった。

同盟紅軍…いや、今となっては、藤子連合紅軍派の革命戦士達と楽土兵達は、幹部である森脛夫はじめ、いつの間にか全員姿を消していた。

平蔵は、私の無事な姿に安堵の吐息を漏らすと…

『我等は、敵国内通と謀反を企てし、宮司(みやつかは)と権宮司(かりのみやつかさ)を捕縛に来た!身に覚えのない神漏兵(みもろのつわもの)達は去れ!お前達に用はない!』

再び切り結びを始めながら、怒鳴り声を張り上げた。

尚も宮司(みやつかさ)と権宮司(かりのみやつかさ)に忠義立てているのか、一連托生だった疚しさからか、最後まで抵抗する者もなくはなかったが…

殆どの者達は、蜘蛛の子を散らすように去って行った。

朧衆の忍達も、逃げて行く者を追って行こうとはしなかった。

『へへへへへ…ようこそ、ご参拝下さいました。どうぞ、参道をお通り下さい…へへへへ…』

赤兎の少女は、貴之が側に近寄ると、口から涎と流し込まれた白穂を垂らしながら、脚を大きく広げ、ヘラヘラ笑いながら言い…

『参道は、こちらにございます…へへへへへ…』

見るも無残な血と白穂塗れの参道を、指先で乱暴に掻きまわそうとし始めた。

『もう、良いんだよ。終わったんだよ。』

貴之は、少女の手を握り、参道から離させると、ニッコリ笑いかけた。

『よ…よ…よろしければ…上の参道を…中で、綺麗に清めて…差し上げます…』

少女は、貴之を怒らせ、仕置でもされると思ったのか、カタカタ震えだした。

『着物をきません…

身体(からだ)を隠しません…

穂供(そなえ)を嫌がりません…

穂供(そなえ)中、何をするように言われても、何をされても嫌がりません…

上の参道をお通り中、決して噛んだり致しません…』

少女は、首を振り立てて咽び泣き出すと、血の混じった尿を漏らした。

『よしよし、もう大丈夫だよ。怖かったね、辛かったね。よしよし…』

貴之は、脱いだ羽織を少女の肩に掛けてくるんでやると、優しく抱いて頭を撫でてやった。

すぐ傍では、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)が、腰を抜かして後退りをしていた。

貴之は、忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)に目を留めると…

『マサ、この子を頼む。』

側に立つ政樹に少女を委ね、まっすぐ忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)の方を見上げて立ち上がった。

『た…た…助けてくれ…』

『わしらは、奥平に命じられただけだ…奥平に命じられて、仕方なしに…』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)は、咽び泣いて後退りしながら、二人揃って尿を漏らした。

貴之は、側に倒れている神漏兵(みもろのつわもの)達が握りしめている湾曲刀を二振り拾いあげると、二人に近づいていった。近づくにつれ、その顔は怒りと憎悪に引き攣り歪んでいった。

『お願いだ…助けてくれ…助けてくれ…』

『何でも言う事をきく…頼むから、殺さないでくれ…』

貴之は、拾った湾曲刀を逆手に持つと、有無を言わさず振り下ろした。

『ギャーーーーーーーッ!!!!』

『ギャーーーーーーーッ!!!!』

二人は、同時に足の甲に湾曲刀を突き刺されると、凄まじい絶叫をあげた。

『脱げ!』

貴之は、突き刺した湾曲刀を引き抜くと、二人の首筋に突きつけて言った。

『素っ裸になれ!』

二人は、怒鳴りつけられるままに、着物を脱ぎ捨て、全裸になった。

『穂供(そなえ)参拝に来てやったぜ、どうお出迎えするんだ?』

貴之は言いながら、また、二人のもう片方の足の甲に湾曲刀を突き刺した。

『ギャーーーーーーーッ!!!!』

『ギャーーーーーーーッ!!!!』

二人が絶叫すると…

『何、ビービー喚いてんだよ!穂供(そなえ)参拝がするこたあ、喜んでお受けするだろう!』

叫び様、今度は二人の足の小指を同時に切り落とした。

『ヒィーーーッ!!!!!』

『ヒィーーーッ!!!!!』

二人が悲鳴をあげると…

『黙れ…』

貴之は、二人の首筋に湾曲刀の切っ先を突きつけ、低い声で言った。

『てめえら、一度でも兎神子(とみこ)達にやめてくれと哀願する事を許してやったのか?痛がって泣く事を許してやったのか?

これから一言声でもあげてみろ、その度に指を一本ずつ切り落としてやるぜ。』

二人は絶句すると、また尿を漏らした。

『さあ、穂供(そなえ)参拝だ、お出迎えしろ。』

貴之が睨みつけると…

『よ…ようこそ…ご参拝下さい…ました…どうぞ…参道を…お通り下さい…』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)は、蚊の鳴くような声をあげ、恐る恐る脚を広げて見せた。

『何だ?聞こえねえ!それと、もっと脚を広げろ!』

貴之が首筋に湾曲刀の刃先を突きつけ、一際凄んで見せると…

『ヒッ!』

『ヒッ!』

二人は声をあげ、脚を目一杯広げ…

『ようこそ、ご参拝下さいました!どうぞ、参道をお通り下さい!』

涙声を張り上げて言った。

『よく見えねえ、何処が参道か教えろ。』

『参道はこちらでございます。』

貴之は、暫し二人が萎びたモノを弄り回すのを冷たく見据えた後…

『手を退けろ…』

二人の首筋に湾曲刀の刃先を当て言った。

『ヒッ!』

『ヒーッ!』

二人が、言われるままに、股間から手を退けると…

『何か、邪魔なモノがぶら下がっていて、通れねえな。切り落としてやろう。』

言うなり、貴之は、二人の萎びた穂柱に向けて、湾曲刀を振り下ろそうとした。

その時…

『貴之、待てい!』

平蔵が叫びながら駆けつけ、貴之の腕を抑えた。

『平蔵!邪魔するんじゃねえ!』

貴之が、平蔵に凄みながら手を振り解こうとすると…

『安心しろ!こいつは、敵国内通の謀反人…磔は免れねえ!』

『だから、何だってんだ!』

『お前に非道な真似はさせられん!お前を息子のように思う男の前でな。』

『俺を息子?誰だ、そいつは?』

平蔵は、答える代わりにニッと笑い…

『それにな、こいつらには少しばかり聞きてえ事がある。』

どうにかして貴之を宥めると…

『これはこれは、摂社宮司(せっつのみやつかさ)様に、権宮司(かりのみやつかさ)様。随分と良い格好されておりまするな。』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)の方を向いて、ニィッと笑った。

辺りは既に静まり返っている。

最後まで歯向い続けた神漏兵(みもろのつわもの)達は悉く討ち取られていた。

他は、既に何処へともなく去っていた。彼らからすれば、所属する社の宮司(みやつかさ)が宮司(みやつかさ)である間だけ、忠実に従う義務がある。宮司(みやつかさ)として失墜すれば、最早何の義理も義務もない。まして、謀反人として捕らわれたとすれば、そんな輩に義理立すれば、自分の尻にも火がつきかねない。

次の宮司(みやつかさ)が決まるまで、彼らは謹慎し続けるであろう。

『おいっ!平蔵!此奴らを捉えて、わしを助けろ!』『何をぐずぐずしておる!早うせんか!』

忠衛宮司(ただえのみやつかさ)と有三権宮司(ありみつのかりのみやつかさ)に、状況を把握する頭はない。既に、自分は宮司(みやつかさ)と権宮司(かりのみやつかさ)を失墜したなどとは微塵も思わず、平蔵の顔を見るなり、命令口調で喚き散らした。

『どうした!早くせい!』

『早うせねば、お主も謀反人と見做すぞ!』

『謀反人は、貴方様にございます。』

平蔵がわざとらしく、うやうやしい態度で言うと…

『何じゃと!』

『貴方様方が、同盟紅軍と結び、楽土と内通して謀反に加担せしは既に明白にございます。神妙になされよ。』

『平蔵っ、助けろ!わしは、本社宮司(もとつやしろのみやつかさ)に命じられ、奥平達に無理強いされて謀反に加担させられただけだ!』

『摂社(せっつやしろ)が本社(もとつやしろ)に背けないのは、お前だって知ってるだろう!』

漸く状況を呑み込めた二人が、必死になって言うと…

『そうか?若様は、再三に渡って、兎神子(とみこ)達への酷使と虐待をやめるよう、諸摂社(もろつせっつやしろ)と諸末社(もろつすえつやしろ)に通達を発しておられるが、どの社(やしろ)一つとして指示に従わんがな。それどころか、若様が在家一族(ありついのいちぞく)や産土社(うぶすなやしろ)が赤兎を兎弊する事を固く禁じる触れを出された事に抗議して、本社宮司(もとつやしろのみやつかさ)罷免を申し出る騒ぎまで起こしておる。とても、本社(もとつやしろ)に背けないなどとは思えんがな。』

『それは、鱶見本社(ふかみのもとつやしろ)の統治能力の無さであろう!それと、祭事(まつりごと)の基盤である兎弊と兎神子の穂供(そなえ)に水をさされては、いかに本社(もとつやしろ)の意向とは言え…』

『黙れ。お前は、総宮社(ふさつみやしろ)の爺社(おやしろ)様のご子息にして、暗面長(あめんおさ)様の御統治、祭事(まつりごと)に対する姿勢、誤り劣っている…と、こう申すわけだな。』

平蔵は物言い静かに、凄み睨み据えた。

『い…いや…』

『それは…』

忽ち蒼白になって黙り込む二人は…

『まあ、良い。ところで、おめえに聞きてえんだが、紅王って誰だ?』

『紅王…?』

平蔵の問いに、目を丸く見開いた。

『紅王だと?』

未だ怒りと興奮の冷めやらぬ貴之も、突然聞きなれぬ名を耳にすると…

『紅王って、何だ?』

『さあ?楽土の偉い人?』

思わず政樹と顔を合わせた。

『奥平は、紅王とやらの為にこの馬鹿騒ぎを起こしてるとほざいておったぞ。』

『馬鹿な…』

『我らは毛沢東(マオツートン)主席の為に…』

二人は言いかけ、慌てて口を押さえた時は遅かった。

『成る程…やはり、おめえ達は強いられて、馬鹿騒ぎに加わったわけじゃーねえんだな。』

ニンマリ笑う平蔵は、ここに至って、わざとらしい丁重さもかなぐり捨てて言った。

『いや…』

『それは…』

『まあ、良い。それより、おめえ、随分と面白え玩具を持ってるじゃねえか。』

平蔵が、二人の着物の中から、『薬』と称される赤い物を詰め込んだ壺と、釦を押すと電流が流れる鉄の棒を取り出して言うと、二人は忽ち蒼白になった。

『こいつは、穂供(そなえ)られまくって傷だらけになった兎達の参道に塗るんだそうだな。練り辛子と練り山葵に、粗塩と一味唐辛子を混ぜ合わせ…こいつはよく効きそうだ。』

平蔵は言うなり、その『薬』を指先いっぱい掬い上げると…

『や…やめろ…』

『やめてくれーーーーっ!!!!』

泣き喚く二人の、貴之に長太刀を貫かれた傷口に指先を突き刺し、抉るようにして中に塗り込んだ。

『ギャーーーーーーーッ!!!!!』

『ギャーーーーーーーッ!!!!!』

またもや、耳を劈く絶叫がこだました。

平蔵は、次に電流の流れる鉄の棒を取り出すと…

『でもって…こいつは、この釦を押して電流を流し、兎神子(とみこ)達の参道に押し当てると…』

言いながら釦を押し、二人の股間にぶる下がる萎びた穂柱に押し当てた。

『ギャーーーーーーーッ!!!!!』

『ギャーーーーーーーッ!!!!!」

更に凄まじい絶叫を上げる二人に、何度も何度も鉄の棒を押し当てると…

『成る程、こいつはよく効くな。続きは、長谷川屋敷でな。紅王の事、しっかり思い出して貰うぞ。』

言いながら、二人の両腕を後ろに組んで縛りあげた。

『お頭!』

『お頭!』

そこへ、平蔵配下の忍達が駆けつけた。

『良いか、こいつらをこのまま先頭に押し立てて、屋敷まで歩かせろ。途中休む時もな、脚を広げて外に縛りあげて晒しておけ。赤兎の味わってきた思いって奴を、存分に味合わせてやれ!』

『ハッ!』

『ハッ!』

平蔵配下の忍達は、早速二人を立たせると…

『さあ!歩け!』

足の傷の手当てもせぬまま、蹌踉めく二人を引き摺るように歩かせて行った。

『これでは、気が済まぬか?』

平蔵が言うと、貴之は苦飯噛み潰したような顔をして俯き、押し黙った。

『気が済まねー顔してるな。だがな、お前にも息子がいると聞いたぞ。』

『俺の息子?』

『そうだ。今は、天領顕国(あめのかなめのうつしのくに)で何処の誰かに貰われている、早苗との間に生まれた息子だ。その子が大きくなり、もし、今お前がしようとしていた同じ事をしたら、お前、嬉しいか?』

貴之は、何も答えず、拳を強く握りしめた。

『嬉しくないな、悲しいな。父親の気持ちは皆同じだ。お前の父親を悲しませるなよ。』

平蔵は、貴之の肩を叩いて言うと、赤兎の少女に目を留めた。

少女は、平蔵と目を合わせるなり、恐怖に顔を痙攣らせて震え出し…

『着物を着てはいけません…

身体(からだ)を隠してはいけません…

穂供(そなえ)を嫌がってはいけません…

穂供(そなえ)中何をされ、何をするよう言われても嫌がってはいけません…

上の参道を通られている時、決して噛んではいけません…』

言いながら、せっかく肩に包んで貰った羽織を取ると、両脚を広げて、神門(みと)のワレメを指先で押し広げて見せた。

『ようこそ、ご参拝下さいました。どうぞ、参道をお通り下さい。』

少女は、平蔵が近づくと一層震え出し…

『参道はこちらにございます。』

言いながら、傷だらけの参道を乱暴に掻き回し始めた。

『終わったんだよ。』

平蔵は側にしゃがみ込むと、手を参道から引き離して、両手で包み込むように握りしめてやり…

『もう、参道は開かなくて良い。

着物着ても良い。身体(からだ)を隠しても良い。嫌な事をされたら、嫌だと言えば良い。』

そう言って、もう一度肩に羽織を掛けてやった。

しかし、少女には平蔵の言葉が理解できず…

『へへへへへ…宜しければ、上の参道をお通り下さい。へへへへ…舌で綺麗に清めて差し上げます。へへへへ…』

涎を垂らしながら言うと、ヘラヘラと笑い出した。

『名無しさん…やっぱり、来て下さったのですね…』

私の腕の中で、暫し息を吹き返すと、平次は満面の笑みを浮かべた。

『当たり前じゃないか。君は、私を紅兎の一員に加えてくれたのだからね。』

『名無しさん…凄いですね…あの絲史郎を、一瞬で倒すなんて…本当に強いんですね…』

『君達ほどでは無いさ。私は驚いたよ、たった四人で、百人近く倒していたじゃ無いか。』

『そんな…俺達なんて…そんな…』

平次は、薄れゆく意識の中で、照れ臭そうに笑った。

何とあどけないのだろうと思った。

これが、和幸達が駆けつけるまでに、たった四人で百人近い神漏兵(みもろのつわもの)達を屠った少年達とは思えなかった。

『平次…』

自らの血と返り血とで、全身血塗れの和幸が駆けつけると…

『和幸…これで、革命は成功するな…貴様達が来てくれて…名無しさんまで加わって下さるんだ…必ず…必ず…俺達が…』

平次は、和幸の方に手を伸ばした。

『平次!勝てるとも!我らの大勝利だ!』

和幸は叫ぶなり、平次の手を握った。

平次は、微かに指先を動かしかけたが、最早握り返す力はなかった。

『これで…もう、赤兎達は着物を着られる…もう裸でいなくても良くなる…白兎達も、男達の玩具にされて、自分達で育てる事のできない子供を産まなくて良くなる…

みんな、好きな男と結ばれ、その男の子供を産んで、幸せに…』

『そうだよ、平次!みんな、小さな幸せを夢見て暮らせるようになるんだ!それで、君は北の楽園に行くんだろう!コトちゃんを連れて、北の楽園に行くんだろう。』

和幸が言うと、平次は静かに目を瞑り…

『コトちゃん…一緒に北の楽園に行こう…北の楽園で…チョゴリを着せてやるぞ…』

そう、呟くように言うと、次第に意識を遠のかせていった。

『軽信、良く見ろ!これが、お前の言う多少の犠牲とやら達の姿だ!』

私は、あたりを見回しながら、呆然と立ち尽くす軽信を見上げて言った。

『お前達に心酔し、お前達を信じた挙句、裏切られていった、多少の犠牲達…

みんな、まだほんの子供達だぞ!

平次君は十六!他の子達も皆十五かそこら…佐七君に至っては、まだ十三だぞ!

お前達の革命ってのは、こんな犠牲を必要とするのか!こんな犠牲を出さなければ、達成できないものなのか!」

聞いているのかいないのか…

軽信は、あたりに倒れる紅兎の少年達一人一人の顔を見つめ続けていた。

平次の顔…

伝七の顔…

信五の顔…

佐七の顔…

いつまでも、無言で見つめ続けていた。

その眼差しからは、何を思い、考えているのかわからなかった。

『姉さん、これ、父さんとは何の関係もないですよね。』

和幸は、不意に立ち上がると、軽信に悲しげな笑みを傾けて言った。

『父さんも姉さんも、奥平さんに騙され、裏切られたのですよね。』

軽信は、固く唇を引き結んだまま、何も答えず、むっつりと黙り込んでいた。

『父さんと姉さんは、僕達の事、裏切ってないですよね。僕達の事、本当に同心だと思って下さっているのですよね。

姉さん…』

『当たり前じゃないか。』

私は、尚も何か言いかける和幸に、押し黙り続ける軽信の代わりに答えて言った。

『これは、周恩来(チョーエンライ)とは何の関係もありはしない。周恩来(チョーエンライ)も軽信も、君達を裏切る事は絶対ない。あり得ない。』

和幸は、軽信に向けていた眼差しを私に向けた。

その双眸からは、止め処なく涙を溢れさせていた。

『周恩来(チョーエンライ)は、君の父親なのだろう?だったら信じろ。

親は、何があっても子供を愛し続ける。ならば、子は何があっても親を信じるんだ。

親子とは、そう言うものだ。特に、父と息子とは、そう言うものだ。』

私が言うと、和幸は尚も涙を溢れさせながら、大きく頷いて見せた。

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