(1)御弾
(1)御弾
赤兎に寝起きする部屋は与えられていない。そもそも、
真冬でも、用をたすのは境内裏手にある赤兎用の厠であり、
唯一与えられた居場所は、神饌所御贄倉の玄関先である。
その赤兎である琴絵は、しかし、全く別の場所で人を待っていた。
待つのは
静かな屋敷の大部屋で、緑のチマと白いチョゴリを着て、縦鏡に写る自分を眺めながら、幼い恋心を寄せる少年を待ちわびていたのだ。
『平次兄ちゃん、まだかな…早く、帰って来ないかな。』
琴絵はまた、遠く庭先を眺めやりながら、そわそわし始めた。
『もうすぐよ。』
早朝から、琴絵の着付けを手伝い、楽園風に髪を結ってやっていた、十四の少女が優しく言うと…
『志津様、私、似合ってますか?平次兄ちゃん、気に入ってくれると思いますか?』
振り向く琴絵は、もう何十回も聞き返した同じ事をまた繰り返しながら、胸飾りや髪飾りに触れて見せた。
『ええ、とっても似合ってるわよ。まるで、楽園のお姫様みたい。ねえ、富子様。』
志津…
琴絵からそう呼ばれた少女もまた、もう何十回も繰り返した同じ答えを、まるで初めて口にするように言うと…
『本当。こんな素敵なお嫁さんと、遠い海の向こうの素敵な国に行けて、一緒に暮らせるなんて…
平次さんは幸せものね。』
側で、琴絵と愛する人との旅支度をする、富子と言う、やはり十四の少女も、物静かな笑みを浮かべて言った。
『へへへ…
ありがとう、志津様、富子様。』
『コトちゃん、元気でね。平次さんと二人、楽園で幸せになるのよ。』
『そうそう。此処でずっと、辛い思いをしてきた分だけね。』
『はい。』
満面の笑みで頷く琴絵を、志津は優しく抱きしめた。
抱きしめながら…
暖かい…
何て、暖かいのだろう…
何て愛しいのだろう…
この温もり…
この温もり…
あの人が愛した…
この温もり…
ふと、胸襟にしまわれた巾着がジャラジャラと音を鳴らす。
それは…
母から貰った
あの人と束の間遊んだ思い出の音…
『ねえ、志津さん。みんなが来るまで、少し遊ばない?』
『えっ?』
『志津さんが、お母様から頂いた御弾で…』
旅支度を終えた富子が立ち上がり、志津の肩を叩いて言うと…
『わあ!遊びたい!あの、綺麗な宝石で、遊びたい!』
すっかり粧し込んでご機嫌な琴絵も、大はしゃぎして言い…
『そうね、遊びましょう。』
志津も、満面の笑みを浮かべて、懐から御弾の巾着を取り出した。
『平次さん…』
床に撒かれた五色の御弾…
『緑の宝石、緑の宝石…』
琴絵が、大好きな緑の御弾を、嬉しそうに頬擦りしたあと、そっと指で弾く姿を眺めながら、志津は心の中で呟き願う。
幸せになって欲しい…
あの人の憧れた楽園の大地で…
あの人の優しい腕の中で…
決して結ばれる事の許されぬ自分の分まで…
愛しいあの人と添い遂げて欲しい…
すると…
『志津さんも行きなさいな。』
『えっ?』
『平次さんに誘われてるんでしょう?一緒に、楽園に行こうって…』
富子が、優しげな笑みで志津の顔を覗かせて言った。
『いや…私は…
『それでも、平次さんが好きなんでしょう。』
志津は、答える代わりに、頬を赤くして顔を俯かせる。
『だったら、行きなさいな。平次さんも、仰っていたじゃない。人に、兎も
尚も優しく肩を押す富子に…
『それなら、富子様も…』
『私も?』
『だって、富子様も平次さんの事を…』
思わず熱い目線を向けて言う志津に…
『私は行けない…私がいなくなってしまったら、一人ぽっちになってしまう子がいるから…』
富子は言いかけ、寂しく俯くと…
『わあ!琴絵、綺麗!』
不意に、障子が開くと同時に幼い感嘆の声が上がった。
『環奈様!』
振り向く琴絵もまた、新たに姿を表す二つ年下の少女の姿に、思わず顔を輝かせた。
『ねえ、ねえ、琴絵、平次と一緒に、楽園に行くって本当?』
環奈と呼ばれた少女は、側に駆け寄るなり、楽園風にめかし込まれた琴絵の顔を、穴の開くほど覗き込むように見上げながら言うと…
『はい。もうすぐ、平次兄ちゃんが、奥平さんと一緒に迎えに来て、連れて行ってくれるの。』
琴絵は、満面の笑みを浮かべ、大きく頷いて言った。
『良いなあ。私も行きたいなあ。私も、琴絵と一緒に楽園に行って、綺麗なチョゴリを着て、平次の吹く
環奈は、平次からいつも聞かされている遠き楽園の地で、生まれて初めての友達である琴絵と、毎日遊び暮らす日々に思いを馳せ、うっとりして言うと…
『まあ、素敵!環奈様は、とても舞がお上手ですものね!
ねえ、志津様と富子様にも、お誘いしてるんだけど、環奈様も一緒に行きませんか?
私、楽園に行ってからも、志津様や富子様から、いろんな舞をたくさん習いたいです!環奈様と一緒に舞いたいです!』
琴絵もまた、生まれて初めてできた、歳の近い友達の手を握りしめ、熱い眼差しを向けて言った。
すると….
『私、行けない…私が行ってしまったら、お祖父様、一人ぽっちになってしまわれるから…』
環奈は、寂しげに俯いて言った。
『お祖父様って…』
『ねえ、お祖父様もお連れしては駄目?お祖父様もお連れしても良いなら、私も行く。だから、ねえ、お願い。お祖父様もお連れして。』
『それは…』
今度は、琴絵が何か言いかけ、口を噤む。
環奈の祖父と言えば、
七つの時、大衆の面前で全裸に剥かれて皮剥を受けて以来…
絶え間なく受け続ける、
どの
殊に…
『子供は褒めたり甘やかしたりしては育たない。仕置きは子供を鍛え、虐めは子供を強くする。』
『羞恥や貞操は女を駄目にする。凌辱は女を鍛え、輪姦は女を強くする…』
本気でそれを信条としている
隣の
最も…
琴絵も、連日の
糞尿は、常に真っ赤な血に染まり、排泄の度に、焼けるような痛みが走る。
少し触れるだけ、擦れるだけで凄まじい苦痛でり、まともに歩く事もできなくなっていた。
それでも、
それどころか、七つの時から男達を受け入れ続け、未だに傷つき苦痛を感じるのは、鍛え足りないからだと言い、日に何十人もの
日が昇らぬうちから叩き起こされ、夜更けは
血塗れの参道を、怒張した穂柱で抉られ、指や数多の異物で掻き回される日々…
あと一年…
こんな日々が続けば、間違いなく、琴絵は命を落とすだろう。
かつて、北の楽園に渡り、南部解放戦争を戦ったと言う、奥平剛三の語る理想に胸を滾らせたのもあるが…
琴絵を、このまま蹂躙させ、死なせたくはない…
その思いが、平次達を革命に引き立てた一番の動機であった。
しかし…
琴絵をはじめとする、
それに…
ある時期から、琴絵はある事に気づき始めていた。
それは、たまさか、
激しい田打を受ける時も、厳しい仕置きされる時も、確かに中心となる場所にいるのは、
『子供は褒めたり甘やかしたりしては育たない。仕置きは子供を鍛え、虐めは子供を強くする。』
『羞恥や貞操は女を駄目にする。凌辱は女を鍛え、輪姦は女を強くする…』
この信条も、確かに昔、
実際に、その場で彼が何かを実行し、告げるのを目にした事も耳にした事もない。
彼の名の下に、過酷な田打や凄惨な仕置きを実際にするのも、させるのも、彼の息子である
彼自身は、かつて彼自身の口から出たと言う言葉のもと、息子である
しかも、厳しい眼差しで見つめる彼の目は、何処かもの悲しげでもあれば、虚しげでもあった。
『ひょっとして…この人、悪い人ではないのかも知れない…』
琴絵がそう思い始めたのは…
富子に連れられ、環奈の暮らす裏屋敷にやってきた日。
環奈と遊んでいる所に、彼が帰ってきた時からであった。
赤兎の身で、
そんな姿を見られ、どんな仕置きをされるかと思えば…
彼は、無言のまま別室に篭り、始終、無言でこちらを見つめ続けているだけであった。
その眼差しは、鋭く厳しいものであったが、何処か寂しさと切なさを感じさせるものがあった。
その後も、束の間、屋敷に連れてこられた琴絵と環奈が遊んでいる所に、
そんな日々が続いたある日…
連日、誰もが恐れる
彼ら彼女達は、琴絵が中に入れられると、屋敷近くの物陰に潜み、ずっと、琴絵が中から出て来るのを待ち続けた。
すると、そこへ…
『御前達、そこで何をしている!』
そこへ、警護の
『何だ、誰かと思えば、兎共ではないか。』
『クククク…わざわざ兎の方からやってきてくれるとはな。』
『どうした?おじさん達と遊んでほしくてやってきたのか?』
『俺達も丁度、長らくご無沙汰していたところだ。ちょいと遊んでやろうじゃねえか。』
口々に言いながら、震える
その時…
『素奴らは、わしが呼んだのじゃ。』
突然の声に一同が振り向くと、
忽ち平伏す
『入れ!』
それが、
『琴ちゃん、もう少しの辛抱だぞ。もう少しだけ、辛抱して待ってるんだぞ。
もうすぐ、俺達は…俺達の手で、
いよいよ、革命決行が決まった日…
平次は、熱く言いながら、琴絵を抱きしめた時…
『どうした?嬉しくないのか?俺と一緒に楽園に行けるんだぞ。もう、いつもいつも素っ裸でいる必要何てない。可愛いチョゴリを毎日着て過ごせるんだぞ。』
『平次兄ちゃん…
思い詰めたように俯く琴絵は、涙ぐんで言った。
『何だ、そんな事か。』
一瞬、琴絵の思い詰めた様子に、表情を曇らせかけた平次は、忽ちいつもの無邪気な笑顔に戻って言った。
『安心しろ。
『それじゃあ!』
『うん!淀卓さんも、革命に加わってくれる!淀卓さんだけじゃない!他の多くの
しかし…
『ねえ、平次兄ちゃん。私、お願いがあるの。』
『何だい?何でも言ってごらん。これまでずっと辛い思いをしてきたんだ、俺に出来る事なら何でも叶えてやるぞ。』
『ありがとう。それじゃあ、環奈様も一緒に楽園に連れて行っても良い?志津様や富子様達と一緒に、環奈様も。』
『決まってるじゃないか!言われなくても、みんな一緒に連れて行くつもりだよ。』
『だったら、
琴絵がそう言った途端、平次は打って変わって、むっつり黙り込んで俯いてしまった。
『どうしたの?環奈のお祖父様、連れて行ってはいけないの?環奈様の大好きなお祖父様、置いて行ってしまったら、環奈様、とても寂しがられるわ。』
尚も縋りつくように言う琴絵に…
『淀卓さんは、
『それで?』
『それで、恐らくは…』
平次はそこまで言うと、固く口を閉ざし、最早何も話そうとはしなくなった。
琴絵も、敢えて聞こうとは思わなかった。
聞かなくとも、平次の表情から、その先の事は何となく察しがついたからである。
『ねえ、琴絵、お願い。お祖父様も一緒にお連れしてあげて。ねえ、良いでしょ。お祖父様もお連れしても良いでしょう。でないと、私と行けない…だって…だって…私だけ行ってしまったら…お祖父様…一人ぽっちになってしまわれるもの…』
いつまでも肩を揺すり、涙目で必死に懇願してくる環奈に何と答えたものか、益々俯いて黙り込む琴絵もまた、いつしか泣き出しそうな目になりかけていた。
側では、平次からおおよその事情を聞いて知っている志津もまた、環奈に何と声をかけたものか分からず、琴絵同様、今にも涙ぐみかけていた。
それを見て…
『ねえ、環奈さん。今日は、琴絵さんに差し上げるものがなくって?』
不意に話題を変えるように富子が言うと…
『あっ、そうだ!』
環奈は、忽ち思い出したように表情を明るくして、懐を弄りだした。
『琴絵、今日はおまえにあげるものがあるの!』
不意に何かを思い出すと、懐を弄りだした。
『私に?』
『うん。これ…』
環奈は懐の奥から小さな巾着を取り出すと、首を傾げる琴絵に差し出した。
『わあ!これ…』
琴絵は、巾着の中身を見るなり、忽ち溢れるような笑みを浮かべた。
そこには、色鮮やかな御弾がぎっしり詰まっていたからである。
『ありがとうございます!でも、これ、どうして…どうやって…』
『お祖父様に頂いたの。ちゃんとできるようになったから…ご褒美に…』
『ご褒美?』
『うん。』
首を傾げる琴絵に、環奈はニコニコ笑って言うと、不意に煤けるような行燈緋袴を捲り上げてその場に座り込み、大股を拡げて見せた。
そして…
『ねえ、見て…』
環奈は一層、得意げな笑みを浮かべると、股間の中央を走る、白桃色した立て一本線の
『ウッ…』
琴絵は、環奈の
『私ね、もう子供じゃないのよ。大人の女なのよ。』
環奈が言いながら、得意げに見せるそこには、既に乙女を証する膜はなく、鮮やかな桃色をした小さな参道の奥から、仄かに御祭神を覗かせていた。
『ほら、指だって、こんなに挿れられるようになったわ。』
環奈は、更にそう言って、もう片方の人差し指と中指を参道に挿れ始めた。
『アァァッ…アァァッ…アァァッ…』
『ウッ…』
琴絵は、環奈が喘ぎ出すのと同時に硬く目を閉じ、両手の拳を握りしめた。
そして…
『私ね…アァァッ…アァァッ…お祖父様のね…アァァッ…アァァッ…穂柱もね…アァァッ…アァァッ…ちゃんとね…アァァッ…アァァッ…ちゃんと挿れられたのよ…アァァッ…アァァッ…』
頬をすっかり火照らせた環奈が、喘ぎ喘ぎ無邪気に笑って言うと…
『ウゥゥ…』
思わず呻く琴絵の脳裏に、いつも
『ウッ…ウッ…ウゥゥッ!』
しかし、環奈は今にも泣き出しそうな琴絵に気付く事なく…
『イチ…ニィ…サン…シィ…』
と、数えながら下半身に力を込め、挿入させた指を肉壁で締め付け…
『ゴ…ロク…シチ…ハチ…』
更に数えながら、今度は激しく指を上下させ、参道から出し入れを始め…
『どお?凄いでしょう?もう、こうやっても全然痛くないの、凄く気持ち良いの。』
また、得意げに言いながら…
『クウ、ジュウ、ジュウイチ、ジュウニ…』
『ジュウサン、ジュウシ、ジュウゴ、ジュウロク…』
と、参道の中を、左右交互に指で掻き回してゆくと…
『私ね、お祖父様の穂柱を、一晩中、参道にお迎えする事もできるようになったのよ。
お祖父様、何度も何度も私の御祭神に白穂をお捧げして、気持ち良いって、とても喜んで下さって…
ご褒美に、御弾を下さったの。』
クスクス笑って良いながら…
『ジュウシチ、ジュウハチ、ジュウク…』
また、数える数に合わせて、参道の中を指で掻き回し始めた。
すると…
『嫌っ!やめて!もうやめて!』
琴絵は、思わず両耳を押さえて蹲り、カタカタと震えだした。
脳裏にはまた、連日、琴絵に痛い事をする男達の姿が過り出してきた。
『どうだ、琴絵、気持ち良いだろう。こうされると、凄く気持ち良いだろう。』
『どうした?何黙ってるんだ?ほら、言えよ、言ってみろよ、気持ち良いってよ。』
脳裏の男達は、琴絵の小さな脚を大きく拡げ、発芽の兆しもない未熟な
そして…
『そうかそうか、指だけじゃ物足りないか。やっぱり、コイツじゃなきゃ、満足できねえか。』
男の一人が言うなり、褌を脱ぎ、先端から糸を垂らした雫を落とす、怒張した穂柱を剥き出し、琴絵の鼻先に突きつけてきた。
『嫌…嫌…お願い…もう…もう…』
琴絵が思わず首を振りながら、嗚咽を漏らした時…
『さあさあ、おしまい、おしまい。もう、おしまいにして…』
不意に、志津が不意に環奈を立たせ、めくり挙げられた行灯緋袴の裾を下げ整えると…
『コトちゃん、良いの貰って、良かったね。』
琴絵の肩を優しく叩きながら言った。
『コトちゃん、私も、その御弾で遊びたいな。』
『志津様…』
『みんなで、一緒に遊ぼう。』
『はい。』
振り向く琴絵は、物静かに笑いかける志津の顔を見ると、漸く幸せな現実に返り、大きく頷いて見せた。
『志津さん、やっぱり、私は平次さんと行けないわ…』
やがて…
ケラケラと幼い笑い声をあげ、生まれて初めての友達…琴絵と、新しい御弾で遊ぶ環奈の姿を見つめながら、富子は寂しげに言った。
『私は、環奈さんを置いて、平次さんと一緒に行くわけにはいかないわ』
『富子様…』
振り向く志津もまた、無邪気に琴絵と遊ぶ環奈に目を移すと、唇を噛み締め、ムッツリ押し黙った。