(11)待人
あの人はまだかしら…
早くいらっしゃらないかな…
あの子を連れて…
早くお会いしたい…
早くお会いして…
今日こそは…
一緒に遊びたい…
あの人と…
境内裏手に広がる山林にて、木陰に一人腰掛け、志津が一人待ち侘びているのは、笑顔の爽やかな少年であった。
側の地面には、色鮮やかな平たい硝子玉が撒かれている。
志津が肩見放さず持ち歩く宝物の
ただ…
通常、
赤や青の彩色が施された透き通った硝子玉に、花や動物の絵が彫刻され、日に翳せばキラキラ輝き、遠目にはまるで宝石にも見えた。
志津が
の、事であった。
貧しくとも子煩悩であった両親は、娘を
良くて
いずれにせよ、
しかし…
これもまた、末端傍系である
娘を
志津の両親が、その
志津は、この
泣く泣く娘を
ただ、ずっと懐に仕舞い込んで抱きしめていたのである。
しかし、あの日…
あの人は、全裸の少女を連れてやってきた。
『わあっ…』
少女は、志津の顔を見るなり一声あげると、呆然と立ち尽くした。
『コトちゃん、この人が志津さんだよ。』
あの人が声をかけ…
『志津です。はじめまして。』
志津がニッコリ笑って挨拶すると…
『あ…はい!琴絵です!』
漸く我に帰った琴絵は、裏返った声を出して挨拶を返すと、また、呆然と志津を見惚れ出した。
『コトちゃん、おいおい、コトちゃんってば…どうしたって言うんだ?』
小首を傾げて見つめ返す志津の前、あの人がもう一度少女に声をかけると…
『何て綺麗な…お姫様みたい…』
少女は呟くように言いながら、尚も暫し志津の顔を見惚れ続けた。
『まあっ…ありがとう。』
思わずクスクス笑う志津は、しかし、改めて少女を見返して口をつぐんだ。
成る程…
末端傍系…
化粧も施せば、香も炊いている。
対し、この少女は…
全身に白穂の臭いがこびりつき、口からは鼻をつくような尿臭混じりの息を吐いている。
一糸纏わぬ
特に、がに股から覗き見える付け根がパックリ裂けた
赤兎…
見るのは、これが初めてと言うわけではないが…
こうして、面と向かって会うと、改めて胸に突き刺さるものを感じる。
殊に…
その少女から、羨むでもなく、妬むでもなく、純粋な憧憬の眼差しを向けられると尚更に…
『志津さん、はい、これ。』
やがて、あの人が貝殻の薬入れを取り出し、志津に差し出すと…
『それじゃあ、平次兄ちゃん…』
『うん、遊んでおいで。』
琴絵は、何かを察したように声を上げ、あの人が頷くと側を離れて行った。
そして始まる、あの人との束の間の時間。
いつも通り渡された薬を、いつも通り木陰の草叢に隠れて
終えると、あの人が持ってきてくれた竹皮のお結を食べながら、他愛無い話をする。
しかし、あの日は、あの人と話している間も、目線は絶えず全裸の少女に向けていた。
見れば、あの人も志津と話しながら、少女に向けている。
その眼差しは、愛し気でもあれば、悲しみに満ちているようでもある。
少女について…
あの人に何か聞こうと思いかけては、口を閉ざす。
聞かずともわかる、あの人の思い…
少女を愛しているのだ…
同時に…
少女を愛するが故に絶え間く疼き続ける胸の痛み…
声に出してしまえば、その痛みは更に激しさを増し、癒し難いものとなるだろう…
お互いに…
少女は、そこらの石ころを集めると、無邪気に指で弾いて遊び始めた。
絶えず股間に激痛が走るのか、がに股で幼子のようにヨチヨチと歩いては、苦悶の表情を浮かべ続けているのだが…
拾い集めた小石を弾いて遊ぶ時だけは、その痛みを忘れたように、何とも言えない笑みを浮かべていた。
志津は不意に立ち上がると…
『
少女の側に行って尋ねた。
『はい、大好きです!平次お兄ちゃんが教えてくれました。』
少女は、遊びの楽しさより、平次と呼ぶあの人に教わった事の嬉しさを強調するように、大きく頷いて見せた。
『そう、平次さんが…』
志津は言いながら、あの人の方を振り向く。
あの人は、また、愛しさと悲しさと痛みの入り混じった眼差しで、少女を見つめている。
志津は、一瞬、目を瞑って俯いた後…
『ねえ、私も一緒に遊んでもよろしくて?』
少女にとも、あの人にともなく、満面の笑みを浮かべて言った。
『えっ!』
あの人が思わず目を見開くのと、ほぼ同時に…
『まあっ!志津様も、ご一緒に!』
少女は、歓喜の声をあげた。
『本当に?志津様、本当にご一緒に遊んで下さるのですか?』
『はい。私も、
と…
志津は言いながら、今まで誰にも見せた事のない、宝物を懐から取り出した。
『わあっ、綺麗!宝石みたい…』
少女は、上品な薄紫の巾着に入れられた硝子玉の
『さあ、これで一緒に遊びましょう。』
志津がニッコリ笑って言い…
『ええっ!良いのですか?こんな…こんな…宝石みたいな…本当に良いのですか?』
『ええ。だって、これは遊ぶ為のものですもの。』
『わぁっ!ありがとうございます!嬉しいなー!平次兄ちゃん、見て見て!こんな…こんな…綺麗な宝石で、お姫様みたいな志津様と遊べるの!嬉しいなー!』
ふと見れば…
一生の幸福全てが、一度に訪れたような声をあげる少女にも増して、あの人は何とも言えぬ笑みを満面に浮かべていた。
あの日以来…
毎日、同じ時間になると、あの人と一緒に訪れる全裸の少女と、志津は
何処で、どれだけの男達に、何をされてきたのだろう…
まだ、十になるかならずの少女の小さな
口の横からは尿混じりの白穂が垂れ流れ、股間の参道と尻の裏参道からは血液混じりの白穂が滴り落ちている時もあった。
この一時が過ぎれば、更にまた、数多の男達に汚されてゆくのだろう。
それでも…
お姫様か天女のような志津と、宝石のような硝子玉で
絶え間なく欲情した男達に汚され続けてるなど嘘のように、無邪気な笑顔を浮かべていた。
何より…
幼い子供らしく、夢中になって遊んでいた。
そして…
振り向けば…
少女以上に、嬉しそうに、幸福そうに、少女を見つめる、あの人の笑顔があった。
志津もまた、この時が一番の楽しみとなった。
束の間…
地獄のような毎日を忘れて、喜び楽しむ少女の笑顔を見るこの一時が…
そんな少女を見つめる、あの人の安らぎと至福に満ちた笑顔を見るこの一時が…
志津にとっても、残酷な日々の苦しみを忘れる事のできる、束の間の優しい一時となっていた。
ただ…
一つ残念な事もあった。
それは、少女が楽しそうに遊ぶ姿に、あの人は安らぎと至福の顔をして見せるが…
あの人自身は、その遊びの仲間に入ろうとしない事…
あの人も、一緒に遊べば良いのに…
あの人も、一緒に遊ばないかな…
同じ事は、少女も思ったのであろう。
『ねえ、お兄ちゃんも一緒に遊ぼう。』
何度となく、遠くで眺める、あの人の元に行っては、
その度に…
『俺は良いよ。』
『どうして?』
『それは、女の子の遊びだよ。』
『そんな…この世に、男も女もない、みんな一緒、同じ人間なのだから、仲良くしよう、仲良く一緒に遊ぼうって、いつも言ってるじゃない。
だのに、どうして?』
『どうしてって…』
何故か、あの人は、この世で一番愛してる筈の少女から目を背けて黙り込み、どうしても一緒に遊ぼうとはしなかった。
それで、志津も、思い切って尋ねた事がある。
『平次さんは、どうして、琴絵さんと一緒に遊ばないのですか?
昔はよく一緒に遊んでくれたのにって…琴絵さん、寂しがっていたわ。
私も淋しい。平次さんと一緒に遊びたい。』
すると…
最初はなかなか口を濁して答えようとしなかったが…
『俺、怖いんだ…』
『怖い?』
『近づき過ぎて、あの子を傷つけてしまう事が…それでなくても、傷つき過ぎてるのに…
あの子は…』
あの人が、漸く重い口を開いて答えると、そのままムッツリ黙り込んで、俯いてしまった。
そしてまた…
あの人は、いつも少女が遊ぶ姿に至福と安らぎの眼差しを向けつつ…
いざ、少女がそばによって話しかけると、何故か目線をそらし続けた。
殊にそれは…
いつものように、
此処に来た時から、辛そうに腹を押さえていた琴絵は、突然、参道から出血をしたのである。
『コトちゃん!どうしたんだ!畜生!きょうもあいつら…あいつら…』
この日も、朝から数多の男達に玩具にされ続けた琴絵は、きっとそれで酷く傷つけられたのだろう…
そう思い込み、蒼白になって駆け寄るあの人は、琴絵の肩を抱きしめ叫び続けた。
琴絵も、同じ事を思い、あの人の胸の中で震えて泣きじゃくっていた。
志津は、そんな二人の側に寄り…
『おめでとう、琴絵さん。大人になったのですね。』
満面の笑みを浮かべて言った。
『大人…』
『大人って?』
ほぼ、同時に志津の顔を見上げて言う二人に…
『御祭神が、御目覚めになられたのですよ。』
志津が、一層の笑みを浮かべて答えると…
『それじゃあ…』
『そう、琴絵さんは、赤ちゃんを産める
『私、赤ちゃんが産めるの!ちゃんと、赤ちゃんを産む事ができるの!』
『ええ、産めますとも。』
『嬉しい!お兄ちゃん、私、赤ちゃんを産めるのよ!お兄ちゃんの赤ちゃん、産める!お兄ちゃんの赤ちゃん、産めるよ!』
歓喜の声を上げる琴絵とは裏腹に…
あの人は、更に蒼白な顔をして、琴絵を抱きしめる手を離した。
その日を境に…
琴絵の
少しずつではあるが…
乳房が逆三角形な膨らみを見せ、まだ発芽の兆しは見られぬものの、ふっくらとしていた
それと反比例するかのように…
あの人は、更に少女から顔を背け、側にも寄ろうとしなくなり、無口にもなった。
そして、ある日…
何故かあの人と一緒ではなく、一人で此処に訪れた少女は、志津の顔を見るなり、その胸に飛び込み、泣き出した。
『琴絵さん、どうしたのですか?何があったのですか?また、男の人達に酷い目に遭わされたのですか?』
志津が、何事かと少女を抱きしめて、頭を撫でてやりながら尋ねると…
『平次兄ちゃん…平次兄ちゃん…私の事、嫌いになっちゃったのかな?私が汚いから、臭いから、いつもいつも、大勢のおじさん達に汚されてるから…嫌いになっちゃったのかな?』
『そんな事、あるわけ…』
『だって…だって…』
少女は、更に大泣きしながら話した事…
それは…
ある夜…
少女は、あの人の腕の中に潜り込み、短い眠りにつこうとした。
それは、昨日今日の話ではなく、少女が皮剥を受け、赤兎に兎幣された日からの事であった。
赤兎は、着物を着るだけではなく、どんなに寒い夜も、毛布にくるまって眠る事も許されない。
例え、布切れ一枚でも、肌を覆い隠す事は禁忌とされ、見つかれば、拷問にも等しい仕置きを受ける。
ならば…と…
あの人は、少女に着物を着せてやる事もできなければ、毛布もかけてやれない代わりに、自分も全裸になって抱きしめ、温めてやっていた。
それが…
いつの頃からか、一緒に裸で眠りはするが、始終、顔は少女から背けて眠るようになった。
殊に、御祭神が目覚めたのを気に、少女の
少女は、あの人にもっと自分を見て欲しいと思っていた。
本当は、綺麗な着物着て、櫛や簪をさした自分を見て欲しかったが…
それが許されないなら、自分の全てを見て欲しかった。
その思いは、御祭神が目覚めて、
膨らむ乳房を、形の整い始めた
女らしくなりつつある
あの人に見て欲しい…
あの人に触って欲しい…
何より…
あの人に抱いて欲しい…
そして…
どうせ、誰かの赤子を産むなら…
あの人の…
少女は、遂に意を決すると…
『お兄ちゃん、こっち見て…お願い、こっち見て…』
あの夜、あの人の腕に潜り込むなり、そっぽを向く彼の顔を、こっちに向けてくるよう、懇願し続けた。
そうして…
『ねえ、お兄ちゃん、私の事、嫌いになってしまったの?私が汚いから?臭いから?おじさん達の白穂と涎に塗れて、気持ち悪いから?』
『そんな事あるわけが…コトちゃんは、いつだって…』
あの人が遂に振り向くと…
『お兄ちゃん、好きよ!大好きよ!』
少女は、満面の笑みを浮かべるなり…
あの人の股間に顔を埋めた。
『コトちゃん!何を…』
少女は、あの人が血相を変えて何か言うのも待たず、埋めた股間のそのにある穂柱を咥えた。
本当は、唇を重ねたかった。
重ねた唇の奥で、舌先を絡ませ合い、膨らみ始めた乳房を揉んで貰い、あの人の穂柱をゆっくり揉み扱きながら、肌を重ねて行きたかった。
しかし、絶えず数多の男達の穂柱を捻り込まれた少女の口からは、白穂と尿の入り混じった強烈な臭いが染み込んでいる。
臭いだけではない…
口腔内は、誰のモノとも知れぬ白穂や尿がこびり着いている。
そんな唇で、とても、あの人の唇を吸う事などできはしない。
ならば…
数多の男達にいつもしているよう、あの人の穂柱を包み込み、舌先を絡ませ合あう代わりに、優しく舌先で愛撫して…
十分に出来上がったなら、参道に導いて…
『お兄ちゃん、来て!私の御祭神様の所に…』
少女は、そう言って、あの人の穂柱の上にまたがろうとした刹那…
『やめろっ!』
あの人は、唐突に少女を突き飛ばすや、後ろを向いてしまい…
以来、怒ったような顔をして背中を向けたまま、二度と少女の方に顔を向けようとしなくなったのだと言う。
『そうでしたの…琴絵さん、平次さんとそんな事が…』
『私、お兄ちゃんに嫌われちゃったらどうしよう…どうしよう…』
いつまでも泣き噦る琴絵を優しく抱きしめる志津には、しかし、あの人がそうした理由がすぐにわかった。
あの人は、少女を嫌ってなどいない。
嫌うどころか…
それどころか…
いつだったか、どうして少女と一緒に遊ばないのか尋ねた時…
少女を傷つけるのが怖いと言ったきり、黙り込んでしまった、あの人の股間にふと目を留めると…
あの人の
絶えず全裸でいる、愛する少女の全てを間近に見続ける中…
あの人の
激しい疼きを伴いながら、訴え続け、求め続けて、限界に達しようとしていた。
されど、疼く
少女の
連日、激しく傷つけられた上…
あの人までもが、
少女の
それだけは…
それだけは…
だから、あの人は少女から目線を逸らせ…
だから、あの人は少女から身を引かせて…
ふと…
耳を澄ませば…
いつもなら、そろそろ、やって来る時刻なのに…
されど…
遠く彼方に向けて目を凝らしても…
待人の姿はまだ見えず…
また、一段と冷たさを増す木枯らしに舞う落ち葉だけが、吹雪いてゆく…
あの人は、いつになったら来るのだろう…
あの子を連れて来るのだろう…
早く遊びたい…
今日こそは…
いつも眺めているだけの、あの人も交えて…
みんなで一緒に遊ぶのだ…
志津は、地面に撒かれた