※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(14)明日

(14)明日

 

真秀(まほろ)…

綺麗な場所…

好きな人と良い事をする場所…

どんな所なのだろう…

何をするのだろう…

あの人と…

志津は、貝殻の薬箱を眺めながら、同じ事を思い続けていた。

あの人と出会った、いつもの場所…

境内裏の片隅で…

今日も、三波連(みつなみのむらじ)親子に死ぬ程弄ばれた。

三波連(みつなみのむらじ)親子だけではない…

今は、拔巫女(ぬいみこ)の身体(からだ)を求めて訪れる、社領(やしろのかなめ)中の鱶背和邇雨家(ふかせわにさめのいえ)の男達の相手をさせられていた。

血と白穂の乾く間のない股間は、今日もズキズキと疼いている。

連日、数多の男達の前で着物を剥ぎ取られ、肌を晒される事だけは、少しずつ慣れ始めている。

それでも…

やはり、完全に羞恥が消える事はなく、志津は辺りを見回し確かめる。

誰かが見ている気配はない…

志津は、何度も何度も注意深く確かめると、漸く緋袴を降ろし、裾よけと腰布を捲り上げた。

血と白穂に塗れた股間を拭う…

白穂はすぐに拭いきっても、参道から流れ出る血はなかなか止まらない。

それでも、最初の頃よりは早く出血が治ると、発芽の兆しすらない神門(みと)のワレメは、まっさらな姿を晒す。

未だ、ヒリヒリと痛むそこに、ひんやりとした風があたるのが心地良い…

『平次さん…』

志津は、貝殻の薬箱を見つめながら、剥き出しの股間に手を伸ばす。

あの人を想いながら、そこを指先で弄ると、あの薬を塗った時と同じ効用があると知ってから、毎日そうするのが習慣となった。

『アッ…アッ…アッ…アッ…』

最初は、そっと指先で神門(みと)のワレメを弄りながら、遠慮がちに漏らす声は…

『アンッ…アンッ…アンッ…アンッ…』

次第に、参道の内側が湿り出し、むず痒いような心地良い疼きが広がり出すと、次第に大きくなってゆく。

『アンッ!アンッ!アンッ!アンッ!』

これを始めた当初こそは、誰かに見られるのを恐れて、始終、遠慮がちにそこを弄りながら、極力声を抑えていたが…

『アーンッ!アンッ!アンッ!アンッ!アーンッ!』

誰もいない事、こない事が分かると、日に日に声も大きくなり、動きも派手になってきた。

『アンッ!アンッ!アーンッ!アンッ!アンッ!アーンッ!』

志津は、青草繁る地面に寝そべると、緋袴も裾よけや腰布をすっかり脱ぎ捨てて、神門(みと)のワレメを弄り回しながら、何度も腰を跳ね上げた。

やがて、腹の奥底から暖かいもの…

いや、今は、熱いと言った方が良いものが込み上げてくる。

同時に、真っ白になりゆく視界の先から、爽やかな笑顔を傾けるあの人が近づいて来る。

『平次さん…』

志津が、薄れゆく意識の中で呼びかけると、あの人は両腕を広げて待ち受ける。

志津は、その腕の中に思い切り飛び込んで行き…

次の刹那…

『アァァァァーッ!』

思い切り腰を跳ねあげた状態で、金縛りにあったように制止する。

しかし…

『アッ…』

我に返った志津は、思い切り赤面した。

神門(みと)が漏らしたようにぐしょ濡れになる事はもう知っている。

だからこそ、緋袴も、裾よけや腰布も脱ぎ捨てているのだが…

この日は…

本当に、噴水が噴き出すように放尿してしまったのだ。

志津は、不安気に当たりをキョロキョロ見回し、誰もいない事を知ると、安堵したように、懐紙で尿塗れになった神門(みと)のワレメを拭った。

どうしよう…

こんな所を見られてしまったら…

平次さんに、嫌われてしまうかな…

志津は、神門(みと)のワレメを濡らす尿を拭いながら、目を瞑る。

瞼の奥の平次は、そんな志津を慰めるように、一層、爽やかな笑みを浮かべて見せた。

『平次さん…』

志津もまた、瞼の少年に笑みを返すと、また、地面に寝そべって、股間を指先で弄り出す。

志津の身体(からだ)を求めて訪れる男達にそうされるのは、とても恥ずかしくて、怖くて、痛いのに…

彼を思いながらそうしていると…

何故か、気持ち良く、安らかになり…

宙に浮かび上がるような心は、とても自由になり、決して出る事の許されぬ社(やしろ)の外、遥か彼方まで飛んで行けそうな気がして来る。

あの人と行く美しい場所とは、どんな所なのかしら…

あの人とする良い事って、どんな事なのだろう…志津はまた、同じ事を思いながら、もう片方の手で、まだ腕を逆さにしたような小さな乳房を弄り出す。

何故か、股間だけではなく、胸にもムズムズとした疼きを感じ始めてきたからである。

『アァァ…アァァ…アァァ…』

乳房を揉み、神門(みと)のワレメを弄りながら、再び喘ぎ声を漏らし出す。

『アンッ…アンッ…アンッ…』

次第に全身が火照らせ、参道の奥を潤ませながら、また、あの人に思いを馳せる。

『アンッ…アンッ…アァァ…平次さん…』

あの人に、お会いしたい…

あの人と、お会いして…

あの人と、素敵な場所に行きたい…

それで…

あの人と…

しかし…

あの人とする良い事…

あの人とする楽しい事…

どのような事をするのだろう…

どのようにして過ごすのだろう…

ただ、脳裏の笑顔だけが眩しく、そこから先がどうしても思い浮かばず考え込んでいると…

『これ…』

少しずつ帯紐を緩ませ、襟がはだけ、今やすっかり剥き出された小さな乳房を揉む手に、何かが触れた。

それは、懐深く閉まっていた小さな錦の巾着に入れられたもの…

『御弾(おはじき)…』

志津は、神門(みと)のワレメを弄る指先の動きを止めぬまま、薄紅に紅潮させた顔の前に巾着をぶら下げると、ニッコリ笑った。

思い出されるのは、家で大切にされてきた日々…

毎日のように、父や母、兄達や姉達と御弾(おはじき)をして遊んだ時の事…

あの綺麗な硝子玉を指先で弾くと、胸の中でも何かが弾けるような気がして、とても楽しかった…

志津は、家族と遊ぶ中でも、御弾(おはじき)が一番好きであった。

志津の脳裏の中で、笑顔だけが眩しかったあの人が、漸く次の動きを見せ始める。

社(やしろ)に奉幣される事に決まった時、両親が特別に買い求めてくれた御弾(おはじき)…

まだ、一度も誰とも遊んだ事のない御弾(おはじき)を、あの人の指先が初めて弾いて見せる。

側では、志津が手を合わせ、目を輝かせながら、弾かれた硝子玉の行先を見つめる。

硝子玉は、見事に狙いの玉に当てて、心地よい音を立てる。

思わず志津があの人の顔を見上げると、あの人も輝くような眼差しで見つめ返す。

あの弾かれた硝子玉と当てられた硝子玉のように、二人の眼差しも重なり合う。

次第に高鳴る鼓動の音…

その時…

『あっ、君は…』

不意に、聞き覚えのある声が、耳の奥底に響いて来た。

『あっ、貴方は…』

志津は、身体(からだ)を起こして声の主を見返すと、忽ち胸の奥底が熱くなるのを覚えた。

そこに立っていたのは、もう一度会いたいと、ずっと待ち焦がれていた少年の姿だったからである。

再会する互いの目を見つめ合う二人の間に、沈黙の時が止まる。

それが、どれ程の時であったのかはわからない。

一瞬であったのか…

四半時近く過ぎていたのか…

ただ、志津は永遠にも思われた時の中…

あれだけまちこがれた少年を前に、何を話し、どう声をかけて良いか分からず、只々、胸だけが熱くなり、鼓動だけが高鳴り続けた。

最初に口を開いたのは、少年の方であった。

『アッ…』

少年は、改めて志津の姿に目を留めると、思わず声をあげ、慌てて顔を背けた。

『すまん!』

『えっ?』

漸く金縛りが解けたように我に返った志津もまた、顔を真っ赤に、片手で胸を抱き、片手で股間を抑えると、慌てて後ろを向いて蹲った。

白衣こそ羽織っているものの…

帯紐は落ち、前は完全にはだけ、緋袴どころか裾よけも腰布もつけてない志津は、殆ど丸裸同然である事に、今更気づいたからである。

『本当に、すまん…』

少年は、顔を背けたまま、申し訳なさそうにもう一度言うと、そのまま駆け出して行こうとした。

『あっ…待って…』

志津は、何とか白衣の前だけは重ねて身体(からだ)を大いに隠すと、慌てて少年を呼び止めた。

『あ…あの…あの…』

志津は、何とか後ろを向いたまま立ち止まる少年の背中を前に、暫し口籠らせると…

『この前は、ありがとうございました…あの…本当に…みんな、喜んでました。』

『みんな?あの薬、仲間達にも分けてやったのか?』

少年は鸚鵡返しに呟くと、漸く少し顔をこちらに振り向けた。

『はい!みんな、あの薬はよく効くって…痛みが引くだけでなくて…何か、とても心地良くなって…懐かしいお父様やお兄様と過ごした時の事が思い出されるって…』

『でも…それじゃあ、あれっぽっちの薬、すぐに無くなってしまっただろう…』

『はい。でも…その…みんなも、とても痛がっていたから…痛くて辛いのは、同じですから。』

志津が、尚も口籠らせて言いかけると…

『一心の志だ!』

少年は、忽ち目を輝かせて声を上げると、志津の方を振り返った。

『一心の…志?』

志津が鸚鵡返しに首を傾げると…

『そうだよ!僅かなものでも独り占めせず、みんなで分かち合う志だよ!そうか!そうか!君には一心の志がある!僕達と同じ心を持つ同心何だ!』

少年は更に声をあげると、志津の身体(からだ)をがっしりと抱きしめた。

『それで…その…今日も痛むのか?その…』

やがて、志津が着物を着直し、二人は大木を挟んで背中合わせに腰掛けると、少年は遠慮がちに口籠らせて尋ねた。

『いいえ…今日は…拔幣されてもう一月、そろそろ慣れて来ました…』

『でも…俺の仲間の兎達で、君よりだいぶ大きくなった子でも、終わった後、痛がって泣き止まぬ子もいる。まして、君はそんな小さな身体(からだ)で、その…まだ、神門(みと)に発芽すら…』

『それでも、私は十二…もう、御祭神様も御目覚めになられました。それに…』

『それに…?』

『痛みを鎮める術を知りました。』

『痛みを鎮める術?』

『えっと、あの…あの…』

志津はそこまで言いかけると、先程まで一人でしていた事を思い出し、頬を真っ赤に俯いた。

少年は、志津の方に振り向けた顔を一瞬傾げて見せたが、志津が恥ずかしそうに俯いたまま口を閉ざすのを見ると、それ以上聞こうとはせず…

『これ、持ってお行き…』

少年は、また、あの薬の入った貝殻の薬箱を差し出した。

『あ…ありがとうございます!これでまた、みんなが喜びます!』

志津が貝殻の薬箱を抱きしめて言うと…

『君は、本当に、根っからの同心なんだね。どんな時も、片時も仲間達の事を忘れない…』

少年は、如何にも感心したと言うように、何度も何度も頷いた。

そして…

『だって…みんな、私が拔幣されてばかりの頃から優しく、仲良くしてくださり…今では、姉妹と同じですもの…』

『成る程、君達は姉妹か…それを言うなら、俺達兎も、兄妹姉弟(きょうだい)だからな…

だのに…すまん…』

『えっ?』

『そうと知っていれば、もっも薬を持ってきてやったのに…今日は、君がいる事すら知らなかったから…』

『そんな…これ一つだけでも、大事に使えば、三日はみんなの痛みが治まります。』

『三日だなんて…君達は、今、何人いるの?一人に一箱と言いたいけど…薬じたいが、今は少ししかない。それでも、三人で一箱ずつくらいなら、もって来てあげられる。そうすれば…十日…いや、半月くらいは持つだろう。』

『えっ!それでは…』

『明日もおいで!俺、此処で待っているから!』

少年が大木越しに背中を向けたまま言うと…

『わあっ!本当にございますか!』

志津は、忽ち目を輝かせて、少年の方を振り返った。

『明日だけじゃない。薬は月一で手に入る。そうしたら…できるだけ、一人に一箱用意してあげよう。』

平次もまた振り返って言う言葉に、志津は更に胸をときめかせる。

また、少年と会えるのだ。

明日も…

これから先も…

月に一度、同じ日に…

『あの…』

志津は、少年が立ち去ろうとすると、今一度、呼び止め…

『私は、志津。』

『俺は…』

『平次さん!』

少年が名乗るよりも早く、その名を口にした。

すると…

『俺の名を知ってるのか?』

『あーっ!やはり、貴方は冨美姉様の仰られてらした、平次さんでらしたのね!』

『冨美…さん…』

『はい!冨美姉様、仰られてました。平次さんは、生まれて初めて、お父様やお兄様達以外で、心暖まる男の方であられたと…』

『そうか…冨美さんがそのように…』

平次は、冨美の名を耳にして、一瞬、悲しげに表情を曇らせて俯いたが…

『平次さん、どうなされたのですか?』

『いや、何でもない。それで、冨美さんは今どうして?元気でいるのか?』

『はい。とても優しくて、親切で…私達、いつも良くして頂いています。』

『そうか、それは良かった。』

志津が満面の笑みで話すのを聞くと、また、あの爽やかな笑みを浮かべて大きく頷いた。

『それじゃあ、明日また此処で…』

『はい!』

平次が去って行くと、志津はやや暫くの間、その場に立ち尽くし、彼が消えた方を見つめていた。

胸元にまた、手を忍ばせる。

先のように、幼い乳房を弄る為ではない。

疼きは、とっくに治まっていた。

むしろ、あの薬を塗った時、彼の笑顔を思い出して神門(みと)のワレメを弄った時と同じ暖かなものが込み上げて来るのを感じる。

ただ、いつものように腹の奥底からではなく、胸の奥深くから…

それは、鼓動の響きと共に、次第に全身へと広がって行く。

ふと、また、懐にしまった小さな巾着袋に手が触れる。

結局、御弾(おはじき)はしなかったなと、思う。

でも、良いのだ…

今日できなくても…

明日も訪れれば…

一月後はずっと先まで訪れる。

明日…

今まで、思いを馳せてみた事など一度もない。

明日の訪れが怖かったから…

明日に待ち受けるものと言えば、欲情した眼差しの前で着物を剥ぎ取られ…

剥き出しに晒された小さな身体(からだ)を貪ろうと、群がり迫る野獣のような男達…

明日など来なければ良いと思っていた…

永遠に…

でも…

今は違う。

明日は、あの人と御弾(おはじき)をしよう…

錦の巾着を高く掲げて見つめるとと、脳裏の奥で、彼が弾く硝子玉が志津の硝子玉を射止めて、心地良い響きを立てる。

早く来ないかな…

明日が…

早く会いたいな…

あの人に…

彼と交わした小さな約束が、明日へと、遥か未来へと、心を誘ってくれるのを感じていた。

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