(15)不器
闇夜の獣道を、紅い兎の仮面が二つ駆けて行く。
既に一刻…
追っての追跡が緩む気配はない。
また一振り、追っての一人が湾曲刀を振り翳す。
十字型の頭巾のような黒兜、黒い鎧や紫の帷子…
紅い兎の仮面の一つは、
数件先の岩石に激突し、兜と頭蓋骨の砕け散る音が響き渡る。
『おのれ!』
また一人、
更に迫り来る二人の切り付ける腕を捻り上げ、一人は投げ飛ばし、一人は地面に叩きつけると、その場に立ち止まり、後ろに振り返った。
『新五!何してる!』
紅い兎の仮面のもう一つは、激しい金属音を立てて、先の尖った十手で応戦しながら声をあげる。
『伝七、行けっ!』
立ち止まる紅い兎の仮面は、指関節を鳴らして合気の構えを取りながら、叫び返す。
『馬鹿な!お前だけ置いて行けるか!』
と…
もう一つの紅い兎の仮面に、三人の
下段、中段、上段に構えた
昴田組が得意とする黒い三連星の攻撃を、紅い兎の仮面は軽やかな動きで巧みに交わす。
黒い紋付の羽織を着込み、蝶の舞にも似た動きをする紅い兎の仮面…
黒紋蝶の伝七は、黒い羽織の袖を羽根の如くひらひらさせて空高く飛び上がると、蜻蛉を切りながら、三連星の一人に蹴りを食らわせた。
更に迫り来る一人の眉間を投げ放つ万力鎖の錘で割り、鎖はそのまま、もう一人の首にまきついて行く。
『
叫ぶ最初の一人は、何処からとなく、コマの如くクルクルと投げ飛ばされた
『新五!』
伝七は、最後の一人の首を締め上げる鎖に、一層力を込めながら振り向くと…
身の丈、六尺三寸…
一見細身に見えるが、迫り来る重装な甲冑を着込む屈強な
コマ形の新五は、既に十人の
首に鎖を巻かれていた
伝七は、すかさず十手を突き入れ、
『何してる!早く、行かんか!』
新五が、更に一人の
『行けるわけねえだろう!一心の志を忘れたのか!俺達は、生死も分かつ同心だろうが!』
伝七は、新五に迫る
『完全包囲…って、奴だな…』
伝七が、万力鎖をクルクル回して身構えながら、ニヤけて言うと…
『馬鹿野郎!二人一緒に、ここでくたばってどうするよ!そもそも、俺は反対した筈だ!昴田組が管轄する阿片畑を狙うなんざ、自殺行為だとな!』
新五は、怒鳴り返しながら、合気の構えをとった。
『仕方ねえだろう。コトちゃんの
あいつが、仲間の白兎や会った事もねえ
『ケッ!また、コトちゃんかよ!おめえは、コトちゃんの事となると見境がつかねーんだな。
小春ちゃんって人がいるってのによ!』
『小春ちゃんは俺の女、コトちゃんは俺の妹…どっちも泣かせられねー。
ついでに言やー、おめえはどっちにとっても大事な兄貴よ。おめえが死ねば、二人とも泣く。だから、おめーも死なさねー。』
『だったら…こんな面倒に巻き込むんじゃねえーよ!』
『巻き込まれたのは、おめえの勝手。俺は、邪魔だからついてくるなと言った筈だ。』
二人が延々と言い合っているうちにも、昴田組の
しかも…
三人一組ずつ、黒い三連星の構えをとりながら…
そして…
三人一組の連星が、更に三つ一組みの三連星の布陣をとりながら、緩やかに二人に迫って来る。
何処から攻めたものだろう…
一人を狙えばば、後の二人が…
一組を狙えば、別の二組が…
なまじ武芸に長けて、相手が次に仕掛ける一手が読める故に、身動きとれぬ二人は、次第に紅い兎の仮面の下で脂汗を流し始めた。
最も…
それは、
阿片畑で既に十数の犠牲を出し…
ここまで追い続ける最中、二十近くの
相手は二人…
これだけの人数と厳重な陣で取り囲めば、必ずや討ち取れるだろう。
しかし…
最初の一撃を加える者…
最初に仕掛ける一組は、必ずや命を失う。
最初の一人…
最初の一組となる覚悟を決められる者はまだいない。
それに…
彼等はまだ知らない…
仮面の中身は、未だ十四の少年だと言う事を…
『で、もって…女と妹と両手に花の色男さんよ、この状況をどうしてくれんだよ。二人を泣かせねー以前に、俺が泣きてーぜ。』
『まあ、任せておけって…』
尚も悪態つく新五に、伝七は仮面の下でニンマリ笑うと…
『奥平さん直伝の北神龍王拳奥義、波動砲発射拳を見せてやるぜ…
十、九つ、八つ、七つ、六つ…』
数を真逆に数えながら、空に二の字を描くように、万力鎖をゆっくりと…
次第に速度を上げて、振り翳し始めた。
通常、その温泉に人は近づかない。
この付近には、古に封印された物の怪が暮らし、彼等が浸かるからだと言う。
故に、
山の民達は、
要するに、山林に暮らす獣達が、何故か湯に浸かる事を覚え、此処にやってきて危険だから、人は近づかないのである。
しかし、此処に敢えて訪れる人影が二つあった。
『さあ、ついたよ。』
平次は、長い山道を背負ってきた全裸の少女に言うと、ゆっくり降ろしてやった。
少女は、湯の近くの草地に座ると、ごく自然に両手を後ろの地面につかせ、脚を広げて見せる。
赤兎として兎幣される事が決まった時から、絶えずこうして相手に全身が見えるようにするよう、厳しく仕込まれてきたからである。
『可哀想に…今日もこんなに…』
平次は、少女の
その日も、何処で何をされて来たのか…
白穂と唾液と尿の入り混じったような、鼻をつく臭いを漂わせる少女は、全身傷だらけであった。
特に…
白穂と血にベタつく
外側の
恐る恐る中を見てみれば…
参道の肉壁は、一面赤剥けに剥離している。
しかも、そこが真っ赤に染まっているのは、出血しているからだけではない。
相手をした男達に、どんな逆鱗に触れたのか…
粗塩と唐辛子を、練り辛子とワサビで混ぜ合わせたものを塗りたくられたせいでもある。
『辛かったろう…痛かったろう…可哀想に…可哀想に…』
平次がとうとう感極まったように声を滲ませると…
『ううん、平気。だって、終われば平次兄ちゃんとまた、此処に来れるもん。
少女は、苦痛に引き攣りそうな顔に、必死の笑みを浮かべて言った。
しかし…
『今、綺麗にしてやるからな。』
平次もまた、今にも溢れ出そうな涙を必死に堪えながら、懐紙で
『ウゥゥッ!』
琴絵は、思わず顔を剃らせて呻きをあげた。
『す…すまん!コトちゃん、痛かったか?』
慌てる平次に…
『だ…大丈夫…痛く…な…』
琴絵はまた、引き攣る笑みを浮かべて見せるが…『ウゥゥッ!ウゥゥッ!ウゥゥッ!』
平次は懐紙を揉み解し、文字通り腫れ物に触れるように、最大限そっと拭ってやりながらも、琴絵は始終苦悶に顔を引き攣らせ、呻き続けた。
そして…
『アァァァァーーーーーーッ!!!!』
平次が
遂に堪えきれず、琴絵は身を仰け反らせて叫び声をあげた。
『コ…コトちゃん…』
平次もまた、股間の苦悶に悶える琴絵を前に、どうしたものかと途方に暮れていると…
『平次兄ちゃん!何してるのさ!』
後ろから、男勝りな少女の声が、平次を咎め立てた。
『こ…小春ちゃん…』
振り向くなり、平次は思わず縮み上がる。
『全く…あんた、何年、女を扱ってるのさ!女は心も
小春と呼ばれた、平次より一つ年下の少女は、ツンと顔を背けて言うなり、平次を押し退けて、琴絵に近づいた。
『可哀想に…ロクでなしどもに散々な目に遭わされて…惚れた男にも酷い事されたのね…よしよし…』
小春は、琴絵の側に寄るなり、平次に対するのとは打って変わって優しく言うと、優しく抱きしめ…
『そんな…小春姉ちゃん…私…』
『良いの良いの…辛かったね、痛かったね…お姉ちゃんの側にいる時はね、うんと泣いて良いんだよ。思い切り泣いて良いだよ。』
言いつつ、琴絵より先に、オイオイと声を上げて泣き出した。
『そんな…私、辛くないわ。お兄ちゃんやお姉ちゃん達が優しくしてくれるから、辛くない。だから、泣かないで…』
『まあ!何て優しい子なんでしょう。こんな優しい子が、どうして、平次兄ちゃん何て唐変木に惚れたんだろう…うちの伝七兄ちゃんだって、あんなに思っているのに…』
『だって…伝七兄ちゃんは、小春姉ちゃんの事で頭がいっぱいなんですもの…私みたいに臭くて汚い子…』
『まあ…まあ…まあ…この子ったら、そんな…伝七兄ちゃんが、私に夢中だなんて、何て物分かりがよくて、お利口さんなんだろう。でもね、コトちゃんは、一つも汚くもなければ臭くもないわ。本当、可愛い子よ。だのに、平次兄ちゃんのロクでなしは…』
小春は、側ですっかり肩を窄めて項垂れてる平次を他所に、緋袴を脱ぎ捨てるや、白衣の裾をはだけさせ、剥き出した肌襦袢を切り裂いた。
『小春姉ちゃん…それ…』
『コトちゃん、これは柔らかい絹だからね。拭っても痛くないからね。』
『でも…でも…それ、小春姉ちゃんのお父さんとお母さんが…』
忽ち、今度は琴絵の方が涙目になるのも構わず、小春は肌襦袢の切れ端を、軽く湯に浸して冷ますと、琴絵の
成る程…
絹でできていると言う肌襦袢の切れ端で拭われるのは、柔らかくて、痛くないばかりか、心地よい。
しかし…
小春が兎幣される時…
殆ど全財産を叩いて、両親が買い求めてくれたと言う肌襦袢だと知ってるだけに、琴絵は拭われている間中、泣き続けていた。
小春もまた、そんな琴絵を見て、何て優しい子だと、またも泣き泣き…
しかし、こんな優しい子に、肝心の男は何て役立たずなと、くどくど、平次に聞こえよがしな文句を言いながら、傷だらけの
『伝七…おまえはまた、何て女を…』
この小春にベタ惚れな仲間を思いつつ、平次は思わずため息をつく。
正直…
平次は小春が苦手であった。
黒兎の役目は、白兎の田打相手となる事。
早い話が、男に抱かれる練習台になる事なのだが…
小春は、十で兎幣された時から、その道は平次より遥かに長けていて…
扱いが粗雑だの、抱き方がなってないの、参道におさまるべきものがちゃんとなってないの…
言いたい放題言われた挙句…
穂柱が小さいの、萎びてるの、稲毛が薄いの、少ないの…
当時、漸く穂柱の皮が剥けかけたばかりの平次に、男の誇りをズタズタにする事を言いまくったものである。
その時の事が未だにシコリとなって、彼女が側に来るだけで、萎縮してしまうのだ。
しかし…
『ほらっ!平次兄ちゃん、どいた!どいた!』
小春に輪をかけて苦手な少女が、そこに駆けつけた。
『小春姉ちゃん!川の水、汲んできたよ!柔らかい川の水をね!
と…
満タンに組み上げたデカイ桶を四つに、空桶を四つぶら下げた棒を軽々担ぎ、最近、新五と出来上がった、二つ年下の小夜が駆けつけて来た。
『まあまあ、ご苦労さん!小夜ちゃん、相変わらず気が効くねー!』
『だーって、男の平次兄ちゃん、全然ダメなんだもん!相変わらず、熱いまんまのお湯で洗おうとしたでしょう!』
『そうなのよ!そうなのよ!こんな傷だらけの
『まあ!コトちゃん、熱かったでしょう!可哀想に!』
と…
小夜は、吊るしあげた目を平次に向けるなり…
『平次兄ちゃん!何度言えばわかるの!女の子の大事なところはね!何でもなくても、敏感なの!お兄ちゃんの穂柱だって、同じでしょう!何だったら、今すぐ出しなさい!私、熱湯ぶっかけてあげるから!』
『あ…いや、その…小夜ちゃん、その…』
『全く…その上、コトちゃんの
と…
人差し指を大きく振り立てながら、延々と説教を始め出した。
小夜は、兎幣されて早々…
琴絵の扱いで、小春に散々やり込められている平次を見て、平次を完全に舐め切るようになった。
更に、男として、惚れた女である琴絵の扱いが、まるでなってないのを見て、放っておけないと思うようになり…
ついでに言えば、男は何でもデカくて強くなければならんと…
彼女自身、長身な少女であるだけに、それは信念にも等しく…
青白い顔したやさ男で、自分よりも背が低い平次を、年上の男とは見られず、何処か弟感覚で見てしまってもいる。
と…
更に更にそこへ…
完全に萎縮する平次にとどめをさすように…
『オラッオラッ!どいたどいたっ!』
と、痩せぎすで小柄な少女が濁声張り上げ、平次の尻を蹴飛ばし押し退けた。
『あんた達!何、もたもたしてるんだい!早く、コトちゃんを洗っておやり!
早く綺麗にして、湯に入れてやらないと可哀想じゃないか!』
濁声の少女は、琴絵の側に寄るなり言うと…
『ほらっ!コトちゃんの
小春!小夜!無駄口きく暇があったら、一編、素っ裸で一日お過ごし!この子、どんなに寒い思いして過ごしてると思ってるんだい!その上…こんな…』
荒っぽい物言いとは裏腹に、手際よく湯と水を混ぜ合わせて程よい温度にするや、優しく琴絵の
彼女の名は灸。
しかし…
平次は、いつも笑顔で優しかった姉の事は今でも慕っているのとは逆に、灸の事は苦手を通り越して正直怖い。
琴絵がそこにいなければ、彼女が来た途端に逃げ出していたであろう。
灸の濁声は、まだ響く。
『ほらっ!小春!コトちゃんの背中洗っておやり!』
『小夜!あんたはコトちゃんの
小春と小夜も、平次には強く出られても、灸には弱く…
『はいっ!』
『はいっ!お姉ちゃん!』
と、ひたすら顎で動かされ続けている。
そして…
『やいっ!平次っ!何、ぼさっと突っ立てんだよ!水が足りない!水が!さっさと汲んで来な!』
最早、身の置き所などとっくに失った平次に目を留めるなり、灸は怒鳴り飛ばした。
『あっ…は…はいっ!』
忽ち縮み上がる平次は、直立不動で返事をすると…
『ほらっ!佐七も一緒に行っておやり!こいつは、傷を洗うのに良い水がわからないからね!あんたは、人魚の佐七…水にだけは詳しいだろう!』
『あいよー、姉貴!』
と、それまでそこにいた事すら誰も気づかなかった、小さな少年が悪戯っ子な笑みを浮かべて姿を現した。
『さあ、平次!行こうぜ!』
『なっ…行こうぜ、平次って…』
平次は、忽ちムッとした顔をするが…
『ほら、行くよ!』
小さな少年が、それまで灸に担がされていた十個もの空桶を当然の如く押しつけてき…
『さっさと、とお行き!』
灸にもう一睨みされると、重い足取りで小さな少年の後をついて行った。
『うーん…この辺りの水も硬いな…』
『この水もキツ過ぎて傷を洗うのはちょっと…』
川沿いを歩き、時々立ち止まって手を突っ込んでは、また歩き出す佐七の姿を見続ける事、小半刻…
平次の苛立ちは、次第に頂点に達する。
佐七は平次より三つ年下の十一歳…
小柄な彼は、琴絵と同い年に見えなくもない。
にも関わらず、平次に対等どこらか、始終、上目線で声をかけてくる。
『ほら、平次!ぐずぐずすんなよ!』
『さあ!早く歩いた歩いた!』
佐七は、黒兎に兎幣されて早々、何故かいち早く灸を慕って、始終、側をまとわりつつくようになった。
当初、灸はそんな佐七を疎ましく思い、邪険に扱っていたのだが…
毎晩、素っ裸になって寝床に転がり込んではオネショをして泣き出す佐七の世話を焼くうちに、情がわき、可愛がるようになった。
そうなると…
皆から姉御として一目置かれている灸の弟分気取りに、仲間の黒兎達の間で大きな顔をするようになった。
虎の威を借る狐…
力有る者の後ろ盾で威張り散らす者を生理的に嫌う平次は、佐七が大嫌いだったのだが…
佐七は何故か、妙に平次を気に入り、何かと言っては側に置き、引っ張り回したがっていた。
『平次、何ちんたら水組んでるんだ!早くしないと日が暮れちまうぜ!』
灸への遠慮から、いつも大人しく従っていた平次だが…
目ぼしい川を見つけては、平次一人に水を汲ませ…
組んだ水は、平次一人に担がせ…
見れば…
人魚の佐七とはよく言った者で、さっきから一人、川で泳ぎ回っている。
しかも、汗だくで十杯目の水を汲みかけた時、何処からとなく良い香りがしてきた。
何だ?
と、振り向けば…
こっ…
こっ…
こいつ…
平次の顔は、赤血がのぼるのを通り越して蒼白となり…
額には今にも切れてしまいそうな程に、青筋がたってきた。
何と、そこでは…
いつのまに捕ってきたのか、呑気に鼻歌を歌いながら、川魚を焼き出している。
もうダメだ…
もう我慢ならん…
佐七め!
佐七め!
佐七め!
『佐七、てめえーっ!さっきから大人しく言う事聞いてやってれば良い気になりやがって!ちょっと、こっちに…』
遂に堪忍袋も尾が切れかけた平次が怒鳴りかけた時…
『あいよ、食いな。』
佐七は、焼きたての川魚を二匹、両手に持って平次に差し出した。
『食いなって…』
『腹、空かせてるんだろう。』
平次は、返事をする代わりに腹を鳴らせた。
思い出せば、もう何日、まともにものを口にしてないのだろう。
逃亡や反抗する気力を奪う目的が一つと…
太って見栄えを悪くさせないのが一つ…
しかし、何よりも、飢えさせていた方が、
特に、赤兎に至っては、口の中に放たれる白穂を食事代わりにされる時もあった。
仲間の幼い
平次は、それを黙って見ていられず、ついつい、自分の分を全て、彼ら彼女達に与えてしまうのである。
『おまえも、少しは食いな。でないと…』
『でないと、何だ。』
『コトちゃんも、食えないじゃないか。』
『えっ?食えないって…コトちゃんは、灸姉や、小春ちゃん、小夜ちゃん達に食わせて貰ってるからって、俺に…』
『わかってねえな。そう言わねえと、みんな人にくれてやって、最後に残った一口まで、コトちゃんに食わせようとするから、そう言ってるだけだよ。
コトちゃん…灸姉貴達がいくら食わせようとしても、平次が食わねえから要らねえって、食おうとしねえんだよ。
わかったら、さっさと食いな。』
佐七はそう言うと、出てくる憎まれ口とは裏腹に、片目瞬きをして見せた。
『チッ!』
平次は軽く舌打ちすると、引ったくるように焼き魚を取って食べ始めた。
一旦、食い物を口にして仕舞えば、止まらない。
平次は、あっという間に、皮も骨も残さず食べ尽くす。
すると…
『もっと食いなよ。』
と、佐七は更に二匹差し出し…
気づけば、十匹近く平らげていた。
と…
『姉ちゃん達とコトちゃんに、こいつを見せたら、喜んでくれるかな…』
佐七は、魚籠いっぱいの川魚を見つめながら、悪戯っ子の笑みを浮かべていた。
『まず、姉ちゃん達とコトちゃん達に食わせてやったら…ちっとずつでも、
一心の志だもんな、平次。』
『佐七、おめえ…』
この時になって、平次はふと思う。
そう言えば…
佐七は、平次に食べさせるだけで、自分ではまだ一匹も口にしてないな…と…
『平次は良いな。姉ちゃん達に好かれててさ…』
佐七は、魚籠を眺めるだけ眺めると、それをひょいと肩に掛けながら、ポツリと言った。
『えっ、俺が?』
『なーんだ、知らねえのか?みんな、平次の事が大好きなんだぜ。最初の田打の時、本当は平次に参道を開いて欲しかったんだ。でも、平次の穂柱がまるっきし勃たなくて…結局、
今じゃあ、小春姉貴は伝七兄貴に、小夜姉貴は新五兄貴に、でもって、急姉貴は俺に夢中だけどな。』
そんな馬鹿なと、平次は思う。
いつも、てんでガキ扱いしてくる灸や小春や小夜が、自分の事が好きだった何て…
本当は、自分に参道を開いて欲しがっていただなんて…
『みんな不器だよな。平次も姉貴達も、みんな不器だよな。
でも、俺は好きだぜ、そう言う不器な平次や姉貴達がな。』
佐七はそう言うと、また悪戯っ子な笑みを満面に浮かべ、平次に背を向けて一気に駆け出して行った。
『わあ、すっかり綺麗になったねー。』
『やっぱり、こうやって
『そんな、私なんて…小春姉ちゃんや小夜姉ちゃんの方が…』
『なーに、言ってるのよ。私達が美人なのは、今更言われなくてもわかってるけどさ…
コトちゃんは、本当、美人さんよ。こうやって綺麗に洗い流せば、女の私達でも、惚れ惚れしちゃうわ。』
『そうそう。平次兄ちゃん、また、穂柱をピーンッとオッ勃たせるよ、綺麗に流し終えたコトちゃんを見たらね。』
『本当…あんなちっこいキノコがさ、コトちゃんの
肩まで垂れ下がった髪の射干玉が、ほっそり色白な肌に冴えている。
瞳は円で顎は細く、それでいて、赤みがかった頬の上辺りは仄かにふっくら丸みを帯びている。
小さな口元には、笑うと大きな笑くぼができる。
今日も、可愛いよ…って、言ってくれるだろうか…
みんなに美人だと言われるのも嬉しいけど…
平次に頬擦りされながら、可愛いと言われるのが一番嬉しい。
それから…
琴絵に着物を着せてやれない代わりに、自分も裸になる平次の腕に抱かれて、一時の安らかな眠りにつく。
その時…
まだ、乳房のない真っ平な胸と小さな乳首を撫でさせながら、すっかり膨らんだ穂柱を揉んでやる。
その時、次第に高鳴る鼓動と息遣いは、やがて、琴絵の小さな掌いっぱいに白穂が放たれると穏やかになり…
気づけば、安らかな寝息に変わる。
琴絵は、心地よさそうな平次の寝顔に口付けをして、暖かな胸板を枕に眠りにつくのが、一日の一番の楽しみであった。
でも、最近…
もっと違う事を望むようにもなりかけている。
小春は伝七と…
小夜は新五と…
すっかり出来上がった姿を見ると…
本当は…
本当は…
その時…
『小春、小夜、佐七の奴、うまいこと、平次の奴を遠くまで引き離したよー。』
暫しの間、その場を離れていた灸が駆け戻ってくるなり、したり顔に笑って言った。
『よーーーーしっ!』
『あのチビ、なかなかやるじゃない!』
小春と小夜は、思わず手を打った。
『これで、平次兄ちゃん見られず、最後の残りをコトちゃんに…』
『そうそう…コトちゃんの為に使い果たすのを見せたら…平次兄ちゃん、ヤバイ事をしそうだからね…』
『最後の残り?平次兄ちゃんがヤバい事?』
琴絵が、二人の会話を聞きながら小首を傾げていると…
『コトちゃん、もう一度、脚を拡げて見て。』
『あの薬を、塗ってあげるからさ。』
言うよりも早く、小春は琴絵の脚を拡げさせ、小夜は懐から何やら取り出そうとし始めた。
『えっ…あの…それ…』
琴絵は、差し出された薬を見るなり、思わず声を上ずらせた。
『知ってるよ。コトちゃん、もう一月も薬塗るの我慢してるんだろう。
平次の奴が、一年近く前から面倒見てやってる
灸が何度も頷きながら感心して言うと…
『でも、痛かったよね、辛かったよね…』
『本当は、もっとたくさん薬を残してあげたかったんだけどね…兎幣されたばかりのチビ達も、毎日、あのクソ野郎達に
小春はメソメソと、小夜は感極まったように号泣して言った。
『小夜、何してるんだい!早く、塗っておやり!』
『はい、灸姉ちゃん。』
灸に怒鳴り促されると、小夜は尚も泣きながら、琴絵の腫れ上がった
『駄目よ!だって…お姉ちゃん達だって…』
首を振り、声を震わせて言いつつ、琴絵は小夜の指先の薬に目をやり、生唾を呑み込む。
今も、立って歩くのも辛い程、股間に激痛が走っている。
それが、ほんの一時であっても、この薬を塗られれば消えてなくなる…
ばかりか、夢のような心地よさも味わえる…
それでも…
『駄目よ…駄目…駄目…お姉ちゃんだって痛くて辛いのに…私だけ…だって…一心だもん…嬉しい事も辛い事も…みんなで分け合う…一心だもん…』
琴絵が必死に脚を閉じ、涙声で言うと…
『馬鹿におしでないよ。私達はね、もう散々鍛え抜かれてるんだ。あんな、ジジイの萎びたもん、百や二百、食らったって、蚊が刺したほども感じないさね。』
灸は鼻を鳴らして笑って言い…
『私達もよ。私はもう十三、小夜ちゃんは十二の大人よ。胸も膨らんでれば、御祭神だってちゃんと目覚めた大人何だからね。』
『それにね…私には、新五兄ちゃんがいる。新五兄ちゃんに抱いて貰ったら、こんな薬塗るより、よっぽど気持ち良くなれるんだからね。』
小春と小夜も、涙を拭いながら、笑って言った。
『コトちゃんもさ…今夜一晩だけでも楽になって、平次の奴を参道に通して、パンパンに腫れ上がった穂柱を楽にしておやり。』
『灸姉ちゃん…』
『コトちゃんだって、本当はもう、掌なんかじゃなくて、御祭神で受け止めてやりたいんだろう?平次の御白穂さんをさ…』
灸の言葉に、琴絵は頬を赤くして頷いた。
『さあ!そうと決まれば、薬を塗って傷の痛みを楽にして…』
『湯に浸かって暖まった
小春は琴絵の肩をもう一度抱き、小夜は漸く開かれた股間に薬を掬った指先を伸ばす。
すると…
『だったら、それっぽっちじゃ足りねーな。』
『コトちゃんは、一月も我慢したんだ。その分、たっぷり塗ってやろうぜ。』
声と同時に、後ろから大きな風呂敷包みが投げ落とされた。
『伝七兄ちゃん!』
『新五兄ちゃん!』
小春と小夜が同時に振り向くと、そこには、満身創痍の伝七と新五が互いに肩を支え合って立っていた。