(16)三巴
『三つ、二つ、一つ…』
上下交互…
空に二の字を描くように振り翳す、伝七の万力鎖は、遂に風を切る音だけ響かせ、その姿を消す程に速度を早めた。
次の刹那…
『デャーーーーーーッ!!!!!』
気合いの声と共に、
凄まじい勢いで、大きく左右に飛び交う万力鎖は、かすめた者を切り裂く剃刀の如き突風を起こす。
辛うじて交わした
伝七は錘を引き戻すと、今度は弧を描かせ、竜巻の如き突風を起こさせながら、正面垂直に投げ放つ。
万力鎖が空を舞う度に、無数の
『北神龍王拳鎖術奥義波動砲発射拳…星雲鎖、角鎖、円鎖…か…』
昴田組組頭の
『北神流鬼道拳術の開祖、
最近、阿片畑を荒らす鼠を追ってきたつもりだったが…
鼠は鼠でも、とんでもない鼠を釣り上げたようだな。』
十字型の灰色兜、灰色の鎧に腕当てと脛当て、青紫の帷子をつけた巨漢…
『それに、あの仮面…やはり、噂の紅兎は実在したと言う事か…』
絲志郎連は何も答えず前に進み出し…
『絲志郎、一人で片付けるなよ。俺にも楽しみを残しておけよ。』
ニヤけて言う
『伝七、もう良いだろう。』
新五は、更に万力鎖を放とうする伝七の肩に手を乗せると、軽く顎をしゃくって見せた。
『そうだな。早く行かねえと、朝までに調合して、コトちゃんに塗ってやれねえからな。』
頷く伝七は、右手に十手を構えたまま、万力鎖を懐に仕舞い込み、引きの体制を取り始めた。
次の刹那…
『昴田の…』
『絲志郎…』
突然、目の前に現れた姿に、伝七と新五は、仮面の下で蒼白になった。
最初は緩やかに…
次第に風車の如く速度を速めてゆく。
『行けっ、伝七!』
新五は、再び万力鎖に手を伸ばす伝七を後ろにやると、合気の構えを取り始めた。
『馬鹿を言うな!俺達は、一心の志を分つ…』
『そんな事を言ってる場合か!周囲を見てみろ!』
伝七は、言われるままに辺りを見回し、更に色を失う。
『おまえは、コトちゃんへの想いに囚われて、ヘタを打ったんだよ。』
『新五…』
『左門さんに繋ぎを取れ!今は一心がどうとか言うより、革命を潰えさせぬ事が優先だ!それと…』
新五は、言うなり懐に仕舞い込む風呂敷包みを伝七に差し出した。
『おめえの可愛い妹に、薬もな…』
『すまねえ!』
伝七は、風呂敷包みを受け取るなり、迫りくる
新五は、
二人睨み合う事、既に一寸四分…
その間にも、黒い三連星の布陣を敷きなおした昴田組は、新五との間合いを詰めてゆく。
『やはり…俺を生捕りにする気だな…』
新五は心の中で呟きつつ…
右脇を詰める三連星に、地面の礫を蹴り付けた。
最初の三連星が動く。
新五は、下段から湾曲刀を振り上げる
すかさず左逆手に十手を引き抜くや、上段から振り下ろさんとする三人目の脇を突き刺し、そのまま真一文字に腹を切り裂いた。
『グゥッ!』
三人目が飛び散る内臓を抑えながら前のめりに倒れるのと同時に、新五は最初に腕を練り上げた一人目を、
『今だ!』
新五は、切り付ける
しかし…
『ウグッ…』
呻きを上げてくず折れる新五の頬に、更なる蹴り…
皮一枚の差で巧みに急所を外されながら、新五は次第に全身を切り裂かれて血塗れになって行った。
多量の失血から、朦朧となる意識の中…
肩膝ついて、必死に両手に抜いた十手を身構える新五は、生捕るべく迫る三連星の一人目の鳩尾を左逆手に持つ十手で突き刺し…
右手の十手で二人目の眉間を貫き…
最後の力を振り絞って、三人目の胸と腹を二振りの十手で突き刺し持ち上げるや…
『テャーーーーーーーー!!!!』
凄まじい奇声を発して、
この一瞬の隙をつき…
『最早、ここまでか…』
新五は覚悟を決めると、最後の気力を振り絞り、両手の十手で自らの胸を突こうとした。
その時…
何処からとなく、無数の苦無が昴田組の上に雨の如く降り注ぐ。
『ウゥゥッ…』
『グゥッ…』
『アァァッ…』
周囲でバタバタと部下達がくず折れる中…
すると…
『チャァーーーーーッ!!!!!』
凄まじい奇声と同時に、風を切る飛び蹴りが、
紺装束の長身細身な忍は、後転して交わすや、左拳を大きく前面に出し、右手刀を頬脇に引いて身構えた。
周囲では、暗闇から湧き出る忍達と、昴田組の死闘が始まっている。
『チョーーーーーッ!!!!!』
紺装束の長身の忍は、奇声と共に、両脇から迫る二組の三連星の一人目の喉笛を手刀で突き、二人目の脛骨を叩き折ると…
『チャーーーーーーーーッ!!!!』
と、更に凄まじい声を上げて、三人目の胸板を横蹴りで、四人目の顔面を拳で粉砕し…
『アターーーーッ!!!!』
五人目と六人目は、纏めて回し飛び蹴りで、脛骨を砕いた。
『柴田の優作…
新五は、思わず目を丸くして、紺装束の長身の忍を見つめていると…
『俺が呼んだ。』
不意に何者かの声がすると、新五は近くの草叢に引っ張り込まれた。
『奥平さ…』
新五は、叢の影でその顔を見るなり声をあげようとすると…
『シッ!』
新五を引っ張り込んだ青装束の男は、唇に人差し指を当てた。
『シャーーーーーーッ!!!!』
紺装束の長身の忍は、両手を大きく広げ、空に大きく円を描く掌を、前に突き出しながらゆっくりと握り締めてゆき…
両手に一本ずつ突き出す人差し指に、全身の気を集中させていった。
互いに睨み合いう事一寸五分…
紺装束に長身の忍…柴田の優作は、一瞬だけ、
優作は右口元を引き攣らせて笑みを浮かべると…
『チョェーーーーーーーーーッ!』
と言う奇声と共に、右頬近くまで惹きつけた、右手人差し指を、一寸の隙に向けて突き入れようとした。
次の刹那…
優作の左手脇腹に激痛が走る。
思わず当てた掌には、ベットリとドス黒い血が拭われた。
『何じゃい、こりゃーーーーーー!!!!』
優作は、叫びながら振り向くと…
背後から二尺の牙狼棒を突き入れた
周囲では、優作の配下達が、次々と新手の三波組の襲撃を受けて倒れている。
『
愕然とした眼差しを向ける優作の脇を、
『おのれ…図り…やがった…な…』
優作は、血塗れの手を伸ばし、凄まじい形相で
やがて、前のめりに倒れ込んだ。
『紅兎の次に、今度は鱶原軍団の七曲組…こいつは臭うな。』
『此奴、まだ息がある。捕らえて吐かせるかな…』
すると…
『やめておけ。』
それまで一言も発しなかった
『我が
長年に亘る、
『だからこそ、何処のどいつが、何を企み仕掛けようとしてるのか吐かせるのよ。』
真相を突き止めると言うよりは…
この屈強の忍を痛めつける事を楽しみにしているらしい…
しかし…
『だからこそ、此奴は此処に放置する。
迂闊に鱶原の手の者を抱え込めば、それこそ敵の思う壺かも知れぬ。
今宵は何もなかった…何も無かったのだ。』
『チッ!久しぶりに楽しめると思ったものを…
また、