※この作品はR-18です。

兎神伝〜紅兎   作:和心

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(19)不正

(19)不正

 

『兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)のお役に付いて早九年…』

恒彦は、鱶背本社(ふかせのもとつやしろ)の港湾に居並ぶ異国船(ことつくにふね)を眺めやりながら溜息をついた。

十二までに子を産んだ赤兎は、領民(かなめのたみ)の禊を果たしとされ、漸く着物を着る事が許される。

そのさい、清浄の証として青い絹の着物を着せられ、青兎と呼ばれる。

青兎は、赤子が里子に出されるまでの一月から三月の間、生き神として祀られた後、聖領(ひじりのかなめ)へと送られる。

そこで、死ぬまで領民(かなめのたみ)の穂供(そなえ)を受け、清い身体(からだ)の子を産み続ける事を運命づけられる。

一方、十二までに子を産めなかった赤兎や、産めない身体(からだ)となった赤兎は、禊の役目を果たせず、領民(かなめのたみ)の罪咎を帯びたままの存在と見做され、穢兎(けがれうさぎ)と呼ばれる。

穢兎(けがれうさぎ)は、着物を着る事を許されぬまま、社領(やしろなかなめ)中を引き回され、更なる凌辱を加えられた後、異国(ことつくに)に売られて行く。

いずれにせよ、赤兎に自由になる術はなく、死ぬまで、何処かの地で誰かの慰み者となるのが定めであった。

この、青兎や穢兎(けがれうさぎ)を、聖領(ひじりのかなめ)や異国(ことつくに)に運ぶ船の港を兎津(とつ)と言う。

兎津(とつ)と兎津(とつ)を結ぶ川を兎津川(とつがわ)と言い、兎津(とつ)の宿場を治め、青兎や穢兎(けがれうさぎ)の運搬を担う者を渡瀬人(とせにん)と言う。

渡瀬人(とせにん)の役目は、単に異国船(ことつくにのふね)や聖領船(ひじりのかなめのふね)が待つ、海港(わたつみなと)まで運ぶだけではない。

そこで、いかに高く売りつけるかは、社領(やしろのかなめ)全体の収益に直結する。

ばかりか…

彼らの商取引が、今後の社領(やしろのかなめ)の通商外交の運命すら左右する。

殊に、青兎を売りつける時の聖領(ひじりのかなめ)との商取引は、神領(かむのかなめ)における社領(やしろのかなめ)の立ち位置すら一転させ得る重要な取引であった。

それだけに、渡瀬人(とせにん)には、他の行商人には与えられていない多くの特権が与えられていた。

中でも、最たるものは、社領間(やしろのかなめのあいだ)の通行勝手と、他領(よそのかなめ)を通過する際の通行玉串と積荷初穂の免除であった。

しかし、この諸々の特権は、拐かし、人身売買、禁制品の密貿易と言った、数多の不正の温床ともなっていた。

その不正を取り締まるべく設置されているのが、刑部職(ぎょうぶしき)である。

『だが…これでは、案山子と同じだな…昔、渡の兄貴が案山子の半兵衛と馬鹿にされていたわけだ。』

と、恒彦は、目の前の光景を眺めながら、自嘲する。

異国船(ことつくにのふね)が待つ海港(わたつみなと)を目指して進む、渡瀬人(とせにん)の行列は、禁制の積荷を隠そうともせず、恒彦の前を通り過ぎて行く。

中には…

『お役目、ご苦労様にございます。』

と、何処から攫ってきたとも知れぬ全裸の少女達を鞭打って歩かせながら、不敵に笑って恭しくお辞儀までする者もいる。

刑部職(ぎょうぶしき)の役人が、そうと知っても手出しできない事を、百も承知しているからである。

『奴も、社(やしろ)の鑑札と委任状をぶら下げてるんじゃー、手も足も出せやしない…

神職(みしき)自ら加担してる不正を前に、何の刑部職(ぎょうぶしき)だ…』

恒彦が、また吐き捨てるように自嘲すると…

『コラッ、ぐずぐずするな!』

『さっさと歩け!』

『早くしろ!』

また一つ、異国船(ことつくにふね)に向けて、少女十数人を数珠繋ぎに引き摺る渡瀬人(とせにん)達の一行が姿を現した。

緋色の三度笠に引廻合羽を着込み、帯に鷹の根付…

兎津川東宝本流の支流、支根間川(しねまがわ)一体を縄張りとする渡瀬衆…

『鷹爪衆か…』

恒彦は、顔を横向け渡瀬人達を目に留めると、目を鋭く細めて一言呟いた。

腰布一枚身に付けさせられず、全裸で引き摺られる少女達は皆、乳房も小さく、神門(みと)の若草も薄い年端の行かぬ者達ばかりであった。

一人の渡瀬人は、時折自身の引き摺る少女を振り向いては、ニンマリと笑って舌舐めずりをする。

渡瀬人の股間の膨らみと、少女の神門(みと)のワレメから流れ落ちる白穂混じりの血…

『おいっ、早くしろよ。』

すぐ前を歩く別の渡瀬人が、いつまでも少女を眺め回して涎を垂らす仲間に言ったかと思えば…

『ここに来るまで、散々楽しんだんだろう。』

別の渡瀬人も振り向きニンマリ笑って言う。

しかし、この二人の目線も少女の血塗れの神門(みと)を、余韻を楽しむように眺めやりながら、股間を膨らませていた。

恐る恐る顔を上げる少女は、三人の渡瀬人と目が合うと、忽ち震えだした。

此処に来るまでの間、少女が三人にどのような目に遭わされ続けてきたのか容易に知れる。

そんな光景が、異国船(ことつくにふね)に向かう一団のあちこちで見られた。

それにしても…

あの少女…

胸は殆ど平らで、神門(みと)は発芽の気配すら見られない…

『いったい…幾つなのだろうか…』

恒彦がふと思った時…

『待ていっ!』

配下の刑部二人が、渡瀬人達の前を遮った。

『この娘達は、何だ!』

『何で、着物を着せてねぇっ!』

二人の刑部が咎めるように言うと…

『へぇ、このモノ共は、石女の赤兎にござんす。』

渡瀬人達の船頭が、揉み手をしながら愛想笑いを浮かべて言った。

『石女の赤兎…だと?』

『へぇ…子を産めぬ兎は、仔を産めぬ雌牛や雌鳥よりタチが悪うござんすからねぇ。こうして、壊れモノとして、異国(ことつくに)に売るしかあござんせん。』

『にしても、何故着物を着せて…』

言いかけ、刑部の一人は愚かな事を口にしたと言わぬばかりに口を閉ざす。

案の定…

『それは、異な事を…』

船頭と、周囲に並ぶ渡瀬人達が含み笑いを浮かべ出した。

『赤兎は、最初の子を産むまでは、布切れ一枚身体(からだ)に覆う事は禁忌でござんしょう。まして、此奴らは、子を産んで領内(かなめのうち)の禊も果たせず、罪咎を負ったままの穢兎(けがれうさぎ)。死ぬまで、布切れ一枚身に帯びる夢すら見る事も許されねえ。』

『それとも…刑部様も、穂供(そなえ)を受ける時以外は、赤兎にも着物を着せてやれとか言われる異端者でござんすか?あの、崇堂鱶腹(すどうふかはら)様の御曹司…義隆様のように…』

『黙れ!なれば、赤兎と言うには…』

思わず激昂する刑部は、またも言いかけ口を閉ざした。

ニヤニヤ笑い出す渡瀬人(とせにん)達に…

『赤兎にしては、やけに肌が綺麗じゃねえか?』

もう一人の刑部が涼しい顔して尋ねると…

『それはもう…鱶背では、東堂鱶腹(とうどうふかはら)様の御曹司様でもあられる暗面長(あめんおさ)様のご指導の賜物にて、赤兎も含め、兎共の扱いは、それはそれは手厚くなりましてねぇ…』

船頭は、またニヤけて答えた。

これには、それまで冷静だった二人目の刑部…淳一が激昂して声を荒げた。

『ふざけるねぇ!あっしら、鱶背における兎神子(とみこ)への扱いを知らねぇと思うてか!』

『この十年、鱶背全社領(ふかせのすべてのやしろのかなめ)で、如何程、兎神子(とみこ)が不審死をしてるんでぇ!』

続けて先の刑部、明も栓を切らしたように声を上げた。

『ほほう…では、あくまでも、このモノ共は赤兎ではない、カタギの生娘…そう、もうされるのでござんすねぇ。』

船頭は、相変わらず含み笑いを浮かべて答えると…

『さあ!これをご覧くだせぇ。』

刑部の追及を待ち構えていたように、離れた所から三人の渡瀬人(とせにん)が、見るからに幼い少女を抱え上げて、大股に脚を広げさせた。

見れば、あの神門(みと)を血塗れにしていた少女と、少女を眺めてニヤけていた三人であった。

『ウッ…』

『ウグッ…』

明と淳一は、少女の血塗れた神門(みと)を見るなり、思わず声を漏らす。

赤兎の荒らされつくされた神門(みと)や参道など、数え切れぬ程見てきた二人である。

今更驚く程のものでもないが…

付け根が裂け、真っ赤に腫れ上がった神門(みと)と、剥離まみれの参道を目の前に見せつけられれば、やはり、正視に絶えぬものがある。

しかし、三人の渡瀬人(とせにん)達は更に少女の脚を大きく広げさせると…

『さあ、刑部様方も、ご覧くださりませ!』

三人の一人は、近くから落ちた小枝を集め出し、もう一人は、既に手にした小枝を少女の神門(みと)に近づけた。

『やっ…やめてっ!やめてっ!』

少女は、これから何が始まるか察すると、叫び声を上げた。

『お願い!やめて!やめて!やめてーーーーっ!』

男の一人は、そんな少女を見て益々ニヤけると…

『さあ、さっきみたいに、気持ち良くしてやるからなー。』

舌舐めずりしながら、小枝を思い切り神門(みと)に捻り込んだ。

『ヒィッ!ヒィッ!キャーーーーーーッ!!!』

少女の凄まじい絶叫が、辺りに響き渡る。

『やっ…やめろっ!』

『よせっ!やめるんだっ!』

明と淳一は、急ぎ止めに入ろうとする。

先頭の渡瀬人は、その前に立ちはだかり…

『如何ですかな、このモノはまだ十歳そこそこにして、もう、こんなにも参道が開かれておりまする。それでも、まだ生娘だと…』

そう言うのを合図に、少女の参道に小枝を捻り込んだ渡瀬人は、更に中で掻き回し出した。

『キャーーーーーーーーーッ!!!!』

少女は、左右に激しく首を振り立て身を捩りながら、一段と凄まじい声を上げた。

それでも、小枝を捻り込む渡瀬人(とせにん)は些かの憐憫も見せず…

『どうだ、さっきよりも良いだろう?凄く良いだろう?』

舌舐めずりして言いながら、一段と激しく掻き回し続けた。

そして…

『さあて、もっとたくさん挿れてやろうかね…』

それまで、小枝を集めていた渡瀬人(とせにん)が戻って来ると、差し出された小枝を次々と少女の参道に捻り込み、掻き回していった。

『痛い!痛い!痛い!やめて!やめて!もうやめて!痛い!痛い!痛い!』

少女は、抱え上げる渡瀬人(とせにん)の腕の中で暴れまわりながら、一際声を上げると、血で真っ赤に染まった尿を吹き出させた。

『わかった!あいわかった!』

『わかったから、もうやめよ!』

明と淳一も、最早堪え切れぬとばかりに目を背け、少女と同じく悲鳴を上げるように言った。

しかし…

『何を仰られる。此処までご覧くだされたのでしたら、これもご座興…うちの若い者十人ばかしが、このモノの御祭神に白穂を捧げる所までご覧くださりませ。』

船頭がカラカラ笑いながら言うのを待っていたかのように、側に控えていた別の渡瀬人(とせにん)二人が、袴を脱いでそそり勃った穂柱を剥き出した。

その時…

『私を…私をお家に返してください!私…私…赤兎ではありませぬ!』

後方で事の成り行きを見つめながら、ジッと堪えていた少女が、遂に耐え切れなくなったように、飛び出して叫んで言った。

『私は…私は、父さんの畑仕事を手伝いに行こうとしていたところを、この人達に無理やり連れてこられました!でも…でも…まだ、何もされてません!』

すると…

『それは、真か!』

それまで一言も発する事なく様子を見つめていた恒彦が、突如、少女の方を向いて声をあげた。

『はいっ!本当です!私は、赤兎ではありません!』

『偽りを申せば、そなただけでなく、そなたの親族にも罪が及ぶぞ!そなたに幼い妹あらば、咎畜(とがかい)の赤兎にされるぞ!』

『どうか…どうか、お確かめ下さい!』

名乗り出た少女は叫ぶなり、その場に座り込んで、小さな脚を広げて見せた。

確かに…

股間を走る小さな神門(みと)のワレメは遠目にもまっさらで、幼児らしくふっくらとした、丘のようなワレメは、仄かに薄紅かかっていた。

内神門(うちみと)の肉壁が、外に盛り上がってはみ出す様子もない。

これで、参道内に神膜(みまく)が張っていれば…

と…

恒彦が更なる詮議をするべく少女の前に進み出ようとすると…

『おーっと、何か催してきたぞ。』

『そう言えば俺もだ。』

『俺も、したくなってきたな…』

側に立っていた渡瀬人(とせにん)三人が、おもむろに袴を脱ぎ捨てるや、小さな脚を広げて座る少女に迫って行った。

『やっ…やめっ…やめっ…嫌っ…やめて…やめて…』

忽ち蒼白になって震えながら、尻込みする少女に、最初の渡瀬人(とせにん)の手が伸びる。

『きっ!貴様っ!何をするか!』

恒彦が急ぎ止めに駆けつけようとすると…

『おっと、邪魔は困りますな、邪魔は…』

更に別の渡瀬人(とせにん)二人が、前に立ちはだかった。

『赤兎に穂供(そなえ)するのは、神領(かむのかなめ)の民全てに与えられた権利…

それを、兎津川刑部(とつかわぎょうぶ)様と言う立派なお役を頂かれた方が邪魔だてされるとは、いかなる了見でごぜえますかな?』

『何だと!』

『赤兎に穂供(そなえ)する権利は、例え河原者の賎民共であっても等しく与えられ…宮司(みやつかさ)と雖も、取り上げる事はできぬ…そうで、ありましたな。』

船頭は、思わず歯軋りする恒彦の顔を見て、また、ほくそ笑んだ。

『嫌っ!嫌っ!やめて…やめて…』

泣き声を上げる名乗り出た少女の手足を二人の渡瀬人(とせにん)が押さえつけると、もう一人の渡瀬人(とせにん)がいきり勃つ穂柱の先を小さな神門(みと)のワレメ押し当てて…

『イギッ!イギッ!イギッ!アァァァァーーーーーッ!!!!!』

凄まじい絶叫と同時に、血飛沫あげる少女の参道を貫いた。

『これで、詮議のしようがなくなりやしたな。』

『舐めた事を…俺を誰だと思っている。

東映渡瀬人(とうえいのとせにん)、兎津川刑部役(とつがわぎょうぶやく)の恒彦が、参道の傷つき具合を見て、これが初めてであるか否かもわからんと思うてか?』

『では、どうあっても御詮議を…と…』

『諄い!退けっ!』

恒彦が眼光鋭く船頭を押しのけようとすると…

船頭は、ここぞとばかりに、懐から一枚の書面と鑑札を取り出し、差し出してきた。

『これは…』

恒彦は、書面を一眼見るなり押し黙った。

『左様…これは、我が大船主様が、本社(もとつやしろ)の擬大祝(こりのおおほり)様より直々に賜りし、渡瀬(とせ)を仰せ付けられし委任状。こちらの積荷の壊れ兎共も、全ては擬大祝(こりのおおほり)様より直々に預かりしものにござんす。』

『それで…』

『あっしらの積荷を疑るは、擬大祝(こりのおおほり)様を疑るに等しゅうござんす。それとも、刑部様は、擬大祝(こりのおおほり)様が不正を働いてらっしゃる…そう、仰るのでござんすか?』

恒彦は何も答えず、暫し書状を手に無言で見つめた後…

『あいわかった。』

冷たく乾いた声を発した。

『な…何をっ!』

『お頭!』

思わず声を上げる、恒彦の配下の明と淳一を嘲笑うように、赤兎でない事を名乗り出た少女を弄んでいた男達はニンマリ笑って立ち上がり…

『さあ、立て!』

『おめえは、やっぱ、穢兎(けがれうさぎ)だとよ!』

『わかったら、さっさと歩きやがれ!』

股間を血と白穂でベットリ濡らし、疼くまる少女を蹴り上げ出した。

そして…

『さあてと…生娘を偽称して逃れようとした穢兎(けがれうさぎ)が、どうなるかは知ってるな。』

船頭は、最早興味すらないと言うように恒彦の前を素通りして少女の前に立つと、その前髪を鷲掴んで睨み吸えた。

『お…お…お許しを…お許しを…』

少女は、忽ちワナワナと震え出し、後退りする。

『許せるわけ…ねえな。』

『おめえを、無傷のまま高値で売り捌くお頭の目論見を台無しにしやがってよ。』

それまで、少女を弄んでいた男の二人が言いながら、少女を両脇から羽交締めると…

『あめえを売るのは延期だ。後で、きっちり落とし前をつけてやる。その後で…』

船頭は、白穂と血に塗れた、少女の小さな神門(みと)のワレメに二本指を捻り込み…

『イッ…イギッ!イギーーーーーッ!!!』

『おめえの五つの妹も、裸にひん剥いて引き連れて…おめえの前で、俺達の玩具にしてやるぜ。』

『イヤッ…イヤッ、ヤメテ…ヤメテ…』

『改めて、おめえが売られた後、あめえの妹が、家族が、どんな扱いを受ける事になるか…わかってるよな。』

『イヤッ…イヤッ…イヤーーーーーーーッ!!!』

激痛の為とも、これから家族に待ち受ける凄惨な運命にともつかぬ絶叫を上げる少女の参道を、乱暴に掻き回し出した。

すると…

『ところで、船頭。おめえの積荷にゃ、阿片が混じっていたが、それも、擬大祝(こりのおおほり)様からの預かりものかい?』

恒彦は、不意に振り向くなり、船頭に向かって言った。

『阿片?そりゃー、一体、何の話でござんす?』

船頭は、尚も泣き叫ぶ少女の股間を掻き回しながら、振り向きもせず、惚けた口調で答えた。

『白ばっくれちゃーいけねーよ。おめえが、兎どもを引き連れ大名行列してる間に、別の道を行こうとする積荷を改めさせて貰ったぜ。』

『何ですと!』

漸く言われている事の重大さに気づいた船頭が振り向くと、今度は恒彦が口元を引き攣らせ、皮肉な笑みを浮かべ…

『カメさーん。例のブツを出してくんなー。』

言い終えるよりも先に、それまで近くの林に隠れ潜んでいた刑部衆の一隊が、荷車五台分の積荷と、既に数珠繋ぎにされた渡瀬人(とせにん)を引き連れ姿を表した。

そして…

『さーて、こいつは、同じ阿片でも、御禁制中の御禁制…美国(うましくに)だ。

こいつも、擬大祝(こりのおおほり)様からの預かり品かね?』

刑部衆の先頭で指揮する恒彦の腹心、亀四郎が素っ頓狂な声を上げて言うや、船頭はそれまでのニヤけ顔と一転して蒼白になった。

『さあ、答えには気をつけろよ、船頭さんよー。もし、擬大祝(こりのおおほり)様よりお預かりした…などと答えれば、類は、おまえは言うに及ばず、おまえの船主や預けた擬大祝(こりのおおほり)様も処断される。一家一門は悉く兎神家(とがみのいえ)か河原者に落とされ、親類各家の一番幼い娘は皆赤兎だ。

そうなれば…主家を貶めたおまえの家族は、今後どんな目に合わされるか…わかっているな。』

『ただし…船主の目を盗み、おまえの一存でやった…そう、答えれば、おまえの一家が兎神家(とがみのいえ)に落とされるだけで済む。赤兎にされるのも、おまえの四つになる末娘一人で済むだろう。』

亀四郎の言葉を継いで恒彦が言うと、船頭は何も答えず、益々あおくなり、その場に震えながら座り込んだ。

亀四郎は、そんな船頭の側に寄って肩に手を乗せると、追い討ちをかけるように耳元近く囁きかける。

『安心しろって…俺の配下にも好き者は大勢いてな、前から目をつけていたおめえの娘、しっかり面倒みてくれるからよ。』

『頼む!あっしはどんな裁きもお受けしやしょう!どんな酷形で処断されてもええ!あっしの娘に手を出すのはあっしの娘に手を出すのだけは、堪忍しておくんなせぇ!』

船頭は、ついに堪えきれなくなったように、まるで幼児のように泣き噦りながら、亀四郎の足元にしがみついた。

『それは、虫が良過ぎるってもんじゃー、ござんせんか?おめえは、罪もねえ幼い子をこんなに掻っ攫ってきて、散々傷物にしてよう!おめえの娘は許してくれって、そりゃー、聞けねー相談だよ。』

亀四郎は、怒ると言うより、嬲り楽しむように言葉を続けた。

『ささ、ここは一つ観念して…おめえの娘が俺の配下の好き者達に皮剥されるのを見届けて、死んで行くが良い。』

『お慈悲でござんす!どうか、どうか、お慈悲でござんす!あっしの娘は…あっしの娘は…』

『諄い!』

尚も泣きじゃくってしがみつく船頭を、遂に冷たく突き放すと、亀四郎は配下達に合図を送る。

亀四郎の配下の者達は、待ち構えていたように、一切に鷹爪衆の渡瀬人(とせにん)達を絡め取り出した。

『良いか!此奴に付き従った渡瀬人(とせにん)達は皆同罪じゃー!おまえ達の家族も皆、兎神家(とがみのいえ)に…末の娘は赤兎にされるものと観念いたせー!』

亀四郎が、絡め取られてゆく渡瀬人(とせにん)達の周りをぐるぐる回りながら声を張り上げて言うと、渡瀬人(とせにん)達もまた、一斉に咽び声を上げ出した。

『お願ぇでござんす!あっしらは命じられただけでごぜぇやす!』

『どうか、家族はお許しを!』

『娘は堪忍しておくんなせぇ!』

『お慈悲にごぜぇやす!』

『どうか、どうか、お慈悲を!』

その声は、やがて咽び声から慟哭へと変わってゆく。

すると…

『船頭、一つだけ、おめえに良い話をくれてやろう。』

それまで、一言も発する事なくこの光景を見据えていた恒彦は、急に口を開いて言った。

忽ち、それまで泣き叫んでいた渡瀬人(とせにん)達は、口を閉ざして森閑となった。

皆、一斉に恒彦の方を向く。

『俺も、この際細けぇ事は何も言うめぇ。おめえが、ここで何も言わず、この娘達を解き放つと言うなら、俺もお前達を何も言わずに解き放ってやろう。』

『ほ…本当でごぜぇやすか?』

『男に二言はねえ、本当だ。阿片の件も、召し上げるだけで、何もなかった、見なかった事にしてやろう。』

恒彦が言うなり、何やら合図を送ると、亀四郎も大きく頷いて配下の者達に合図を送った。

忽ち、船頭はじめ、鷹爪衆の渡瀬人(とせにん)達は縄を解かれて解放される。

『ありがとうごぜぇやす!ありがとうごぜぇやす!』

『恩に着やす!』

『この恩、一生忘れやせん!』

今度は、歓喜に咽び泣く渡瀬人(とせにん)達に…

『行けっ!』

恒彦が一声発すると、彼らは蜘蛛の子を散らすように、その場を立ち去って行った。

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