(19)不正
『
恒彦は、
十二までに子を産んだ赤兎は、
そのさい、清浄の証として青い絹の着物を着せられ、青兎と呼ばれる。
青兎は、赤子が里子に出されるまでの一月から三月の間、生き神として祀られた後、
そこで、死ぬまで
一方、十二までに子を産めなかった赤兎や、産めない
いずれにせよ、赤兎に自由になる術はなく、死ぬまで、何処かの地で誰かの慰み者となるのが定めであった。
この、青兎や
そこで、いかに高く売りつけるかは、
ばかりか…
彼らの商取引が、今後の
殊に、青兎を売りつける時の
それだけに、
中でも、最たるものは、
しかし、この諸々の特権は、拐かし、人身売買、禁制品の密貿易と言った、数多の不正の温床ともなっていた。
その不正を取り締まるべく設置されているのが、
『だが…これでは、案山子と同じだな…昔、渡の兄貴が案山子の半兵衛と馬鹿にされていたわけだ。』
と、恒彦は、目の前の光景を眺めながら、自嘲する。
中には…
『お役目、ご苦労様にございます。』
と、何処から攫ってきたとも知れぬ全裸の少女達を鞭打って歩かせながら、不敵に笑って恭しくお辞儀までする者もいる。
『奴も、
恒彦が、また吐き捨てるように自嘲すると…
『コラッ、ぐずぐずするな!』
『さっさと歩け!』
『早くしろ!』
また一つ、
緋色の三度笠に引廻合羽を着込み、帯に鷹の根付…
兎津川東宝本流の支流、
『鷹爪衆か…』
恒彦は、顔を横向け渡瀬人達を目に留めると、目を鋭く細めて一言呟いた。
腰布一枚身に付けさせられず、全裸で引き摺られる少女達は皆、乳房も小さく、
一人の渡瀬人は、時折自身の引き摺る少女を振り向いては、ニンマリと笑って舌舐めずりをする。
渡瀬人の股間の膨らみと、少女の
『おいっ、早くしろよ。』
すぐ前を歩く別の渡瀬人が、いつまでも少女を眺め回して涎を垂らす仲間に言ったかと思えば…
『ここに来るまで、散々楽しんだんだろう。』
別の渡瀬人も振り向きニンマリ笑って言う。
しかし、この二人の目線も少女の血塗れの
恐る恐る顔を上げる少女は、三人の渡瀬人と目が合うと、忽ち震えだした。
此処に来るまでの間、少女が三人にどのような目に遭わされ続けてきたのか容易に知れる。
そんな光景が、
それにしても…
あの少女…
胸は殆ど平らで、
『いったい…幾つなのだろうか…』
恒彦がふと思った時…
『待ていっ!』
配下の刑部二人が、渡瀬人達の前を遮った。
『この娘達は、何だ!』
『何で、着物を着せてねぇっ!』
二人の刑部が咎めるように言うと…
『へぇ、このモノ共は、石女の赤兎にござんす。』
渡瀬人達の船頭が、揉み手をしながら愛想笑いを浮かべて言った。
『石女の赤兎…だと?』
『へぇ…子を産めぬ兎は、仔を産めぬ雌牛や雌鳥よりタチが悪うござんすからねぇ。こうして、壊れモノとして、
『にしても、何故着物を着せて…』
言いかけ、刑部の一人は愚かな事を口にしたと言わぬばかりに口を閉ざす。
案の定…
『それは、異な事を…』
船頭と、周囲に並ぶ渡瀬人達が含み笑いを浮かべ出した。
『赤兎は、最初の子を産むまでは、布切れ
『それとも…刑部様も、
『黙れ!なれば、赤兎と言うには…』
思わず激昂する刑部は、またも言いかけ口を閉ざした。
ニヤニヤ笑い出す
『赤兎にしては、やけに肌が綺麗じゃねえか?』
もう一人の刑部が涼しい顔して尋ねると…
『それはもう…鱶背では、
船頭は、またニヤけて答えた。
これには、それまで冷静だった二人目の刑部…淳一が激昂して声を荒げた。
『ふざけるねぇ!あっしら、鱶背における
『この十年、
続けて先の刑部、明も栓を切らしたように声を上げた。
『ほほう…では、あくまでも、このモノ共は赤兎ではない、カタギの生娘…そう、もうされるのでござんすねぇ。』
船頭は、相変わらず含み笑いを浮かべて答えると…
『さあ!これをご覧くだせぇ。』
刑部の追及を待ち構えていたように、離れた所から三人の
見れば、あの
『ウッ…』
『ウグッ…』
明と淳一は、少女の血塗れた
赤兎の荒らされつくされた
今更驚く程のものでもないが…
付け根が裂け、真っ赤に腫れ上がった
しかし、三人の
『さあ、刑部様方も、ご覧くださりませ!』
三人の一人は、近くから落ちた小枝を集め出し、もう一人は、既に手にした小枝を少女の
『やっ…やめてっ!やめてっ!』
少女は、これから何が始まるか察すると、叫び声を上げた。
『お願い!やめて!やめて!やめてーーーーっ!』
男の一人は、そんな少女を見て益々ニヤけると…
『さあ、さっきみたいに、気持ち良くしてやるからなー。』
舌舐めずりしながら、小枝を思い切り
『ヒィッ!ヒィッ!キャーーーーーーッ!!!』
少女の凄まじい絶叫が、辺りに響き渡る。
『やっ…やめろっ!』
『よせっ!やめるんだっ!』
明と淳一は、急ぎ止めに入ろうとする。
先頭の渡瀬人は、その前に立ちはだかり…
『如何ですかな、このモノはまだ十歳そこそこにして、もう、こんなにも参道が開かれておりまする。それでも、まだ生娘だと…』
そう言うのを合図に、少女の参道に小枝を捻り込んだ渡瀬人は、更に中で掻き回し出した。
『キャーーーーーーーーーッ!!!!』
少女は、左右に激しく首を振り立て身を捩りながら、一段と凄まじい声を上げた。
それでも、小枝を捻り込む
『どうだ、さっきよりも良いだろう?凄く良いだろう?』
舌舐めずりして言いながら、一段と激しく掻き回し続けた。
そして…
『さあて、もっとたくさん挿れてやろうかね…』
それまで、小枝を集めていた
『痛い!痛い!痛い!やめて!やめて!もうやめて!痛い!痛い!痛い!』
少女は、抱え上げる
『わかった!あいわかった!』
『わかったから、もうやめよ!』
明と淳一も、最早堪え切れぬとばかりに目を背け、少女と同じく悲鳴を上げるように言った。
しかし…
『何を仰られる。此処までご覧くだされたのでしたら、これもご座興…うちの若い者十人ばかしが、このモノの御祭神に白穂を捧げる所までご覧くださりませ。』
船頭がカラカラ笑いながら言うのを待っていたかのように、側に控えていた別の
その時…
『私を…私をお家に返してください!私…私…赤兎ではありませぬ!』
後方で事の成り行きを見つめながら、ジッと堪えていた少女が、遂に耐え切れなくなったように、飛び出して叫んで言った。
『私は…私は、父さんの畑仕事を手伝いに行こうとしていたところを、この人達に無理やり連れてこられました!でも…でも…まだ、何もされてません!』
すると…
『それは、真か!』
それまで一言も発する事なく様子を見つめていた恒彦が、突如、少女の方を向いて声をあげた。
『はいっ!本当です!私は、赤兎ではありません!』
『偽りを申せば、そなただけでなく、そなたの親族にも罪が及ぶぞ!そなたに幼い妹あらば、
『どうか…どうか、お確かめ下さい!』
名乗り出た少女は叫ぶなり、その場に座り込んで、小さな脚を広げて見せた。
確かに…
股間を走る小さな
これで、参道内に
と…
恒彦が更なる詮議をするべく少女の前に進み出ようとすると…
『おーっと、何か催してきたぞ。』
『そう言えば俺もだ。』
『俺も、したくなってきたな…』
側に立っていた
『やっ…やめっ…やめっ…嫌っ…やめて…やめて…』
忽ち蒼白になって震えながら、尻込みする少女に、最初の
『きっ!貴様っ!何をするか!』
恒彦が急ぎ止めに駆けつけようとすると…
『おっと、邪魔は困りますな、邪魔は…』
更に別の
『赤兎に
それを、
『何だと!』
『赤兎に
船頭は、思わず歯軋りする恒彦の顔を見て、また、ほくそ笑んだ。
『嫌っ!嫌っ!やめて…やめて…』
泣き声を上げる名乗り出た少女の手足を二人の
『イギッ!イギッ!イギッ!アァァァァーーーーーッ!!!!!』
凄まじい絶叫と同時に、血飛沫あげる少女の参道を貫いた。
『これで、詮議のしようがなくなりやしたな。』
『舐めた事を…俺を誰だと思っている。
『では、どうあっても御詮議を…と…』
『諄い!退けっ!』
恒彦が眼光鋭く船頭を押しのけようとすると…
船頭は、ここぞとばかりに、懐から一枚の書面と鑑札を取り出し、差し出してきた。
『これは…』
恒彦は、書面を一眼見るなり押し黙った。
『左様…これは、我が大船主様が、
『それで…』
『あっしらの積荷を疑るは、
恒彦は何も答えず、暫し書状を手に無言で見つめた後…
『あいわかった。』
冷たく乾いた声を発した。
『な…何をっ!』
『お頭!』
思わず声を上げる、恒彦の配下の明と淳一を嘲笑うように、赤兎でない事を名乗り出た少女を弄んでいた男達はニンマリ笑って立ち上がり…
『さあ、立て!』
『おめえは、やっぱ、
『わかったら、さっさと歩きやがれ!』
股間を血と白穂でベットリ濡らし、疼くまる少女を蹴り上げ出した。
そして…
『さあてと…生娘を偽称して逃れようとした
船頭は、最早興味すらないと言うように恒彦の前を素通りして少女の前に立つと、その前髪を鷲掴んで睨み吸えた。
『お…お…お許しを…お許しを…』
少女は、忽ちワナワナと震え出し、後退りする。
『許せるわけ…ねえな。』
『おめえを、無傷のまま高値で売り捌くお頭の目論見を台無しにしやがってよ。』
それまで、少女を弄んでいた男の二人が言いながら、少女を両脇から羽交締めると…
『あめえを売るのは延期だ。後で、きっちり落とし前をつけてやる。その後で…』
船頭は、白穂と血に塗れた、少女の小さな
『イッ…イギッ!イギーーーーーッ!!!』
『おめえの五つの妹も、裸にひん剥いて引き連れて…おめえの前で、俺達の玩具にしてやるぜ。』
『イヤッ…イヤッ、ヤメテ…ヤメテ…』
『改めて、おめえが売られた後、あめえの妹が、家族が、どんな扱いを受ける事になるか…わかってるよな。』
『イヤッ…イヤッ…イヤーーーーーーーッ!!!』
激痛の為とも、これから家族に待ち受ける凄惨な運命にともつかぬ絶叫を上げる少女の参道を、乱暴に掻き回し出した。
すると…
『ところで、船頭。おめえの積荷にゃ、阿片が混じっていたが、それも、
恒彦は、不意に振り向くなり、船頭に向かって言った。
『阿片?そりゃー、一体、何の話でござんす?』
船頭は、尚も泣き叫ぶ少女の股間を掻き回しながら、振り向きもせず、惚けた口調で答えた。
『白ばっくれちゃーいけねーよ。おめえが、兎どもを引き連れ大名行列してる間に、別の道を行こうとする積荷を改めさせて貰ったぜ。』
『何ですと!』
漸く言われている事の重大さに気づいた船頭が振り向くと、今度は恒彦が口元を引き攣らせ、皮肉な笑みを浮かべ…
『カメさーん。例のブツを出してくんなー。』
言い終えるよりも先に、それまで近くの林に隠れ潜んでいた刑部衆の一隊が、荷車五台分の積荷と、既に数珠繋ぎにされた
そして…
『さーて、こいつは、同じ阿片でも、御禁制中の御禁制…
こいつも、
刑部衆の先頭で指揮する恒彦の腹心、亀四郎が素っ頓狂な声を上げて言うや、船頭はそれまでのニヤけ顔と一転して蒼白になった。
『さあ、答えには気をつけろよ、船頭さんよー。もし、
そうなれば…主家を貶めたおまえの家族は、今後どんな目に合わされるか…わかっているな。』
『ただし…船主の目を盗み、おまえの一存でやった…そう、答えれば、おまえの一家が
亀四郎の言葉を継いで恒彦が言うと、船頭は何も答えず、益々あおくなり、その場に震えながら座り込んだ。
亀四郎は、そんな船頭の側に寄って肩に手を乗せると、追い討ちをかけるように耳元近く囁きかける。
『安心しろって…俺の配下にも好き者は大勢いてな、前から目をつけていたおめえの娘、しっかり面倒みてくれるからよ。』
『頼む!あっしはどんな裁きもお受けしやしょう!どんな酷形で処断されてもええ!あっしの娘に手を出すのはあっしの娘に手を出すのだけは、堪忍しておくんなせぇ!』
船頭は、ついに堪えきれなくなったように、まるで幼児のように泣き噦りながら、亀四郎の足元にしがみついた。
『それは、虫が良過ぎるってもんじゃー、ござんせんか?おめえは、罪もねえ幼い子をこんなに掻っ攫ってきて、散々傷物にしてよう!おめえの娘は許してくれって、そりゃー、聞けねー相談だよ。』
亀四郎は、怒ると言うより、嬲り楽しむように言葉を続けた。
『ささ、ここは一つ観念して…おめえの娘が俺の配下の好き者達に皮剥されるのを見届けて、死んで行くが良い。』
『お慈悲でござんす!どうか、どうか、お慈悲でござんす!あっしの娘は…あっしの娘は…』
『諄い!』
尚も泣きじゃくってしがみつく船頭を、遂に冷たく突き放すと、亀四郎は配下達に合図を送る。
亀四郎の配下の者達は、待ち構えていたように、一切に鷹爪衆の
『良いか!此奴に付き従った
亀四郎が、絡め取られてゆく
『お願ぇでござんす!あっしらは命じられただけでごぜぇやす!』
『どうか、家族はお許しを!』
『娘は堪忍しておくんなせぇ!』
『お慈悲にごぜぇやす!』
『どうか、どうか、お慈悲を!』
その声は、やがて咽び声から慟哭へと変わってゆく。
すると…
『船頭、一つだけ、おめえに良い話をくれてやろう。』
それまで、一言も発する事なくこの光景を見据えていた恒彦は、急に口を開いて言った。
忽ち、それまで泣き叫んでいた
皆、一斉に恒彦の方を向く。
『俺も、この際細けぇ事は何も言うめぇ。おめえが、ここで何も言わず、この娘達を解き放つと言うなら、俺もお前達を何も言わずに解き放ってやろう。』
『ほ…本当でごぜぇやすか?』
『男に二言はねえ、本当だ。阿片の件も、召し上げるだけで、何もなかった、見なかった事にしてやろう。』
恒彦が言うなり、何やら合図を送ると、亀四郎も大きく頷いて配下の者達に合図を送った。
忽ち、船頭はじめ、鷹爪衆の
『ありがとうごぜぇやす!ありがとうごぜぇやす!』
『恩に着やす!』
『この恩、一生忘れやせん!』
今度は、歓喜に咽び泣く
『行けっ!』
恒彦が一声発すると、彼らは蜘蛛の子を散らすように、その場を立ち去って行った。