「いいかアゼル。強くなりたければ喰らえッ! 朝も昼もなく喰らえッ! 食前食後にその肉を喰らえッ! 飽くまで喰らえッ! 飽き果てるまで喰らえッ! 喰らって喰らって喰らい尽くせッ!」
「いきなりどうしたのレックス」
エバンス城、厩舎。
秋の空は程よく晴れているも、冬の寒冷が徐々に差し迫っており、それなりの冷え込みを見せている。
しかし、熱い息を吐きながら修練に臨む若者達にとって、それは大した問題ではない。
この時は、ヴェルトマー公子アゼル、そしてドズルのいい男ことレックスが、日課である朝駆けの準備をしていた。
「禁欲の果てにたどり着く境地など高が知れたものッッ!」
「いや禁欲もなにも僕そんな相手いないし」
「イヤミか貴様ッッッ!!」
「それこっちの台詞だよ。なんなの朝から……」
朝から持論を振るう地上最強のいい男に、アゼルは「顔面神経痛かな?」などと適当な相槌を打ちながら馬具の点検を続ける。
気心知れた幼馴染。こうして雑談をしながら何かをしている時は、アゼルにとっても気楽な時間となっていた。
「……」
そのような二人を見つめる一人の若者の姿。
エバンス城城主であり、グランベル聖騎士、並びに属州領総督であるシグルドだ。
「禁欲か……」
そう呟くシグルド。
聖騎士である以上、自身もまた愛馬の世話をしようとしていたのだが、この時はなかなか厩舎へと入れなかった。
いい男の言葉。それが、シグルドの中で反芻される。
「私はやりすぎているのだろうか……」
酒や煙草、美食など、人生の背徳を覚えた者は、覚えたての時分は過度にそれを求めるものである。
当然、性交もまた然り。
個人差もあるだろうが、主に男性側がそれに顕著になるのは、世の理といっても過言ではないだろう。
この場合は無論、愛妻であるディアドラとの情事であった。
「やりすぎて……いるのかなあ……」
結婚してから季節がひとつ変わった。
その間、ほぼ毎晩、シグルドがディアドラを求めない夜は無かった。
嫋やかな銀髪を揺らし、己の下で白く、淫靡な肉体を震わせるディアドラ。
我慢できるはずがない。
「う……」
昨晩も散々妻の蜜壺に自身の精を注ぎ込んだ。生々しい射精の感触、そして喘ぐディアドラの姿を想起したシグルドは、己の下半身が熱を帯びて来るのを自覚する。
聖騎士であるのにこのような体たらく。恥を知れ、シグルド。
そう思うも、肉体は主の意思に反し、春気を漲らせていった。
「子供かぁ……」
とはいえ、貴族夫婦の性交は、義務でもあり責務だ。毎晩の営みは、快楽を求める以上に、必要不可欠な政務でもあった。
無論、後継者を作るという意味である。
だが、毎晩多量の膣内射精を受けているディアドラには全く懐妊の兆候は現れなかった。シグルドは預かり知らぬ事だったが、ディアドラは自身の不妊を、それとなくレンスター王太子妃エスリンへ相談している。
エスリンは兄夫婦の赤裸々な性生活を聞き頬を染めつつも、流石にこれで妊娠しないのはおかしいと思い、ディアドラ、もしくは兄シグルドに不妊の気があると疑っていた。
もしそうならば、これは由々しき事態だ。だが、後継者は近縁から養子を貰えば、とりあえずはバルドの血統は維持される。
そうなれば、元から定められた通り、シアルフィ家はオイフェが継ぐ事となるだろう。そして、オイフェがバルド血統を組む女子と結婚すれば、聖剣ティルフィングの継承者も遠からず生まれる寸法だ。
『となれば……キュアンともっと頑張らないと……!』
故に、自身がもっと子作りを頑張れば良いと、エスリンは夫であるキュアンをより深く求めるようになるのだが、これは後日詳細を語るとする。
ちなみに娘アルテナをオイフェの嫁に充てがう案も考えられたが、これは当のオイフェがきっぱりと断っていた。
『そのような心配をせずとも、お世継ぎは必ずお生まれになりますよ』
何か確信を持ってそう言ってのけたオイフェ。エスリンはそれ以上何も言えなかった。
この少年軍師がこのような言い方をした時、大抵はそれが事実であるのを理解していたからだ。
エスリンはその後、ディアドラへ『あまり焦らずに』と、差し障りないアドバイスを送るに留めていた。
「ディアドラ……」
そのようなやり取りがあったのを露知らず、シグルドの懊悩は続く。
たとえ子が作れぬとしても、ディアドラとの交ぐわいは、それまで女を知らなかったシグルドにとって、甘美極まりない至極の体験。
今この時も、許されるならディアドラの肉体を、思う存分喰らいたかった。
もちろん、快楽を求めるだけではない。
愛しているから。
誰よりも愛するが故に、その肉体ともっともっと深く繋がり合いたい。
シグルドはこのような原始的な恋愛感情に支配されていた。
「シグルド様?」
「うわぁっ!?」
懊悩していると、突然ディアドラの声が聞こえた。
すぐ後ろに現れたディアドラに、シグルドは素っ頓狂な声を上げる。
「ご、ごめんなさい、驚かせてしまって……」
「い、いや、大丈夫。大丈夫だよディアドラ」
そう言って取り繕うも、シグルドはやや前かがみで愛妻に応える。
時折夫が愛馬の世話を見に来るディアドラ。この時は少しだけ首をかしげるも、直後に香る夫の性の匂いに敏感に反応した。
「あ……♥」
視線の先に、下履きを貫かんばかりに幕営する夫の分身があった。
「あ、いや、これは!」
更に狼狽を見せるシグルドは、何かを弁明するように下半身を隠そうとする。
「……」
「ディ、ディアドラ」
しかし、シグルドの腕をひしと掴むディアドラ。
陶然とした瞳を愛する夫へ向けた。
「こちらへ」
すると、ディアドラはシグルドの手を引き、厩舎の影へと誘う。
人目が無い事を確認すると、ディアドラは意を決してシグルドの下履きに手をかけた。
「ディ、ディアドラ? 何を」
「シグルド様は、そのまま……♥」
腰をかがめ、ややぎこちない手付きながらも、シグルドの下履きを脱がしたディアドラ。
当惑するシグルドだったが、下着から主張する己の分身にディアドラの細い指が触れると、鈴口から透明の液体を垂らし、腰が砕けるような感覚に陥る。
「はぁ……♥」
下着も脱がすと、直後に放たれる夫の濃厚な香りが鼻孔を突き抜ける。
ディアドラは陶然とした表情を浮かべつつ、ゆっくりと鈴口へ鼻を近付けた。
「スゥ……はぁ……♥」
屹立する剛直へ頬ずりしながら、その匂いを丹念に嗅ぐ。
そのままちろりと鈴口を舐め取った。
「うあ……!」
シグルドはそれだけで強烈な射精感を覚える。
切ない声を上げ、ディアドラの口淫を甘受していた。
「んっ♥」
ディアドラはそっと男の半身を口に含んだ。
口中に広がる愛しい男の味。そして匂い。
とめどなくあふれる唾液と共に舌を絡ませ、徐々に口淫を強めていった。
「ディアドラ……もう……!」
そう言った後、シグルドはびくりと腰を震わせる。
それから、鈴口から精液がとめどなく溢れ出した。
「──ッ♥」
口内が青臭い精液で満たされる。
ディアドラは懸命に嚥下し、男の精を零す事なく己の胃に収めていった。
「……はぁ♥」
やがて吐精が終わると、ディアドラは濡れた唇を半開きにし、陶然とした表情で夫を見上げた。
「ディアドラ……!」
「んぅっ♥」
己の体液で濡れた唇にも関わらず、シグルドはディアドラの口を貪った。
舌を絡ませ、愛する女と更に体液を交換する。
そうしていると、シグルドの脳裏に、先程のいい男の言葉がよぎった。
“強くなりたければ喰らえ”
女体、それも愛する女性の性を喰らう。
そうすることで、雄という生き物は、己の雌を守るために必死になって成長せしめるのだ。
外敵から守り、更にその肉を喰らい、味わう為に。
強くなりたければ喰らえとは、そのような強烈な“意”であり、雄の本能であった。
「ディアドラ……」
「シグルドさま……♥」
やがて唇を離した二人。ディアドラはドレススカートの裾をたくし上げると、ゆっくりと自身のショーツに手をかける。
女陰を守るものが無くなると、乙女は厩の衝立に手を預け、夫へ白磁のような尻を差し出した。
「来て……♥」
雫を一筋垂らした淫らな女性器が、シグルドの前に現れる。
それを見ただけで、剛直は先程よりも強靭に屹立していった。
「ディアドラ!」
「あっ♥」
後ろから抱えるように、自身の男根を挿入するシグルド。
ディアドラは下腹部に感じる力強い存在を受け、嬌声を必死で抑えていた。
「ディアドラ、ディアドラ」
「~~ッ♥」
荒い呼吸に交り、尻肉が打ち付けられる音が鳴る。
同時に、淫靡な水音も響く。
乙女は普段とは違う性の営み──野外という非日常的な状況に、極度の興奮を覚えていた。
必然、快楽が波のように肉体を貫く。
一突きされる度に、唇を噛み締めながら必死で声を抑えていた。
「あ、あぅ♥」
強い抽挿は乙女の膝を震わせる。
生まれたての子鹿のように脚を震わせたディアドラは、ほどなくして地に這いつくばるような姿勢となった。
「ディアドラ、ディアドラ……!」
シグルドはディアドラに覆いかぶさるように身体を重ねた。
貴人の性交とは真逆の、動物の交尾のような激しい営み。
だが、シグルドはかつてない程の興奮を覚えていた。
「シグルド、さまぁ♥」
そして、ディアドラもまた、得も言われぬ快感を覚えていた。
女陰から滴る愛液の量が、それを物語っていた。乙女が膝をつく土は、艶めかしく湿り気を帯びていった。
「ディアドラ、いくよ……!」
抽挿が早まり、睾丸から粘ついた精液が迫り上がる。
雄が雌を孕ませるという、生物の本能による行動。
それが、今まさに果たされようとしていた。
「愛している、ディアドラ!」
シグルドは自身の男根を根本までディアドラへ突き入れた。
入れた瞬間、水門が決壊したように、精液が噴出した。
「──ッッ♥♥♥」
既に何度もオーガズムに達していたディアドラ。
だが、膣内の奥深くに、熱い精液が流し込まれた瞬間、乙女はそれまで味わった事のない絶頂を感じた。
「くぅ……!」
「──♥♥」
ディアドラの細い身体を思い切り抱きしめ、蠕動を繰り返しながら精を吐き出すシグルド。
ディアドラも、シグルドの律動に合わせて肉体を震えさせる。
静かに、深く精を注入する青年。
深く、静かに精を受け入れる乙女。
涙を流しながら強烈な多幸感、そして快感を覚えていたディアドラを、シグルドは決して離そうとはしなかった。
「ディアドラ……」
「シグルドさま……」
繋がったまま、互いの名を呼ぶ。
シグルドは愛する妻の頬に口づけを落とし、いつまでも抱きしめ続けていた。
ディアドラは、愛する夫の腕に包まれながら、幸せな余韻に浸り続けていた。
「あ、シグルド総督にディアドラ様。おはようございます」
行為を追えたシグルドとディアドラは、気恥ずかしそうに互いに衣服を改めると、厩舎からそそくさと立ち去ろうとする。
が、ちょうど馬を牽いたアゼルといい男に出くわしてしまった。
「お、おはよう、レックス公子にアゼル公子。朝駆けとは精が出るね!」
「お、おはようございます、レックス様にアゼル様。性が出ますね!」
「はあ……どうも」
不自然極まりない夫婦の姿に、アゼルは訝しむような視線を送る。
今しがた精を出していたのは自分たちであるのを棚に上げたこの挨拶に、アゼルは生返事を返すのみであった。
「むっ!」
しかし、いい男は僅かな不自然を見逃さなかった。
両人のやや乱れた服装。汗で張り付いた乙女の銀髪。上気した二人の表情。少しばかり土で汚れた両人の衣服。
そして、隠しきれない性臭、特に乙女の下腹部から漂う精子の匂い。
敏感にそれを嗅ぎ取ったいい男は、一瞬だけ野獣の眼光を浮かべた。
「やりますねぇ!」
「えっ、いや、その……」
「……♥」
そして、全てを察したいい男は食い気味にそう言った。
親指を人差し指と中指の間に挟み、いい笑顔でサムズアップする姿は下品極まりないが、何故かいい男がやると爽やかなものに見えた。
当然、シグルドとディアドラは頬を染めてうつむくばかりである。
「なにが……?」と当惑するアゼルだけが、この場で初心な感情を見せていた。
それから、その日の政務を終えたシグルド。
寝室にディアドラを連れ込むやいなや、汗だくになりながら猛烈なセックスを敢行せしめたのは、強くなりたければ喰らえという、雄の本能による行動と言えた……かもしれない。
レックス「お外でヤる時はデリケートゾーンが汚れないよう工夫が必要だゾ」