つる子は、人間の性にまつわるあらゆる事を日々研究する理系女子。
小さいころから研究熱心で好奇心旺盛。見た目通り子供っぽい部分もあるけど、心から尊敬できる幼馴染だ。
――幼馴染。
僕とつる子は、幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない、はず……。
だよな……?
「ええと、つる子さん。もう一度お願いします」
思わず、自分の耳を疑った。
色恋や性愛に関してはわりと奥手で初心なつる子が、そんなことを言うはずない。
……けど。
「だ、だから……助手くん、助手くんのカラダで『検証』してほしいの」
つる子は言った。
……名前に違わずつるつるぺったんな胸を、片手でぽんと叩きながら。
「……なにも自分で確かめなくたって、被験体を募集すれば――」
つる子の開発した、その名も『性器スキャナー(仮)』。
女性器、ないし腸などの内部を手軽に素早くスキャンし、その構造がすぐさま専用アプリに表示される……という、画期的な発明品だ。
これが実用化されれば、今までになかった新しい性のあり方が生まれるだろう――そう、つる子は言っていた。
……確かに、これは画期的かもしれない。
だけど、つる子自身が実験台になる必要は……正直、まったく無いんじゃないだろうか。
しかも、その『検証』相手に僕をご指名ときた。
検証、すなわち性交渉。
……なんだか韻を踏んでしまった。僕はよっぽどこの現実を直視したくないんだろうか、しょうもない思考が脳をかすめてしまう。
ひとまず落ち着こう。
カップに入ったカフェオレを飲み干して、ソファに腰掛けた姿勢も正す。ついでに眼鏡もかけ直して――。
「……セックスって大変なんですよ? つる子さんもよく知ってるでしょ。ていうかお互い経験無いのに……研究データがあれば大丈夫、なんて言わないでくださいね」
「……どっちか経験者ならいいの?」
「そうじゃなくて……つる子さんは体も小さいし、なにかあったら心配だからです。それに、お互い付き合ってもいないのに――」
……つる子は不満げに、頬をむーっと膨らませる。
「助手くん、すぐそうやって子供扱いするんだもん……。ワタシ、もうハタチだもん。立派なオトナだもん」
「立派な大人は『〜だもん』なんて喋り方しません」
「むぅ……」
『立派な大人』はこんなにかわいい顔で不服アピールなんてしないし、ホットミルクでおひげも作らない。
こんなに背丈がちっちゃくないし、つるぺたロリロリ体型でもない。
香水に頼らずともうなじから甘いにおいを振りまくことだって無いし、ましてや自然にまつ毛がくりっとしていて髪の毛もつやつやで、手のひらまでこんなにミニマムで旧式スクール水着なんかもよく似合いそうな、そんな見た目はしていないはずだ。声もこんなに幼くないと思う。
成人していてなおこの特徴が全部当てはまるとしたら、それは天使か妖精さんだ。
「とにかく駄目です。お子様には早すぎます」
「あー! また子供扱いして!」
ぷんすか、という擬音が聞こえてきそうだ。
「……じゃあいいもん、助手くん以外の人に頼んじゃうもん」
「つる子さん、親しくもない殿方に『えっちして!』なんて頼めるんですか?」
「……そ、それは……」
つる子が言葉に詰まる。
「ふえぇ……」
「もう、つまらない見栄張るから……」
憐れな幼子をよしよしと撫でてやると、むぎゅっとこちらに抱きついてくる。
……本当に子供っぽい。
「助手くん……」
……まずい。
やめろ、この流れですがりつきながら上目遣いで見つめてくるのをやめろ。
「……あのね、つる子は大人になりたいの。だから、つる子が自分で確かめたいの。……ダメ、かな?」
「う……」
つる子は天才だ。
……だから、自分の武器がなんなのかも、ばっちりしっかり把握している。
「……こ、子供が無理して背伸びする必要ありませんよ」
「ワタシ、ほんとは子供じゃないもん……」
「……年齢上はそうですね」
「大人だもん……」
「……そういうところですよ」
「大人なんだからぁ~!」
つる子が、僕の胸に顔を埋めてぐりぐりと押しつけてきた。
「ちょ、ちょっとつる子さ――」
「んー!!」
――そして、そのまま唇を押し当てられた。
ぷにゅっとした感触が、ひときわ彼女の未成熟さを物語っている。
「い……いきなりこんなことして、恥ずかしくないんですか?」
「べ、別にはずかしくなんかないもん」
「そのわりにはお顔が真っ赤ですけど」
「……助手くんも赤いでしょ」
言われてみれば顔が熱い。
……それもそうだ。
こんなにかわいい女の子に、ファーストキスを奪われたんだから。
「じょ……助手くん、初めてでしょ。女の子とちゅーするの」
「……つる子さんも初めてでしょ」
お互い様だけれど、一応言っておく。
すると彼女は、 ぷいっと顔を逸らしたかと思うと、そのままぽつりと言った。
「……うん。だからお互い、セキニン……取ろっか?」
策士だ。
この幼女、僕が断れないように仕向けてきた。
「ええと、それはどういう意味でしょう……? 責任って……」
「んー……わかってるくせにぃ」
つる子が、僕の首筋に腕を巻きつけて、抱きついてくる。
「つる子は、大人だから……わかるよ?」
耳元でささやく。
「……ねぇ助手くん。助手くんは、小さい女の子でしか興奮できないヒトだよね?」
「っ……!?」
「こないだの実験のスコア――ううん。……あのね、ワタシ……助手くんとね、ずっと一緒にいたから分かるよ。……ワタシのこと、本当はすっごい大好きなんだよね。大事に思ってくれてたからこそ、ワタシに恋愛感情とか、性欲とか、そういうの向けちゃダメって思い続けて……そしたらすっかりロリコンさんに」
「〜〜〜〜〜〜っ!!?」
「あ、バレてないと思ってたんだ。……まだまだ甘いな〜、助手くんはお子様だなぁ〜」
……すっかり得意げなつる子の唇を、今ここで奪い返したらどんな顔をするだろう。
そんなことを考えていると、バイブ音が微かに聞こえた。
「……助手くん、いま変なこと考えたでしょ」
「な、なにも」
「……このスマートウォッチ、さっきからたまーにぶるぶる震えてます。一体なんででしょーか」
まさか不埒なことを考えるたび、つる子がそれをキャッチしてるとか……。
……いいやハッタリだ、そんな突拍子もない非現実的なこといや待てつる子ならあるいは……?
「……つる子さん、あなたはいったい何を言ってるんですか?」
「あれれぇ? しらばっくれるんだぁ」
つる子がにやりと笑う。
「じゃあ証拠見せちゃおっかなー」
そう言うと、彼女は僕の手を掴んで――自分の胸に、押し当てた。
「ちょ、ちょっとつる子さん!?」
「ほ……ほら助手くん、ごっ……合法ぺたんこおっぱい、だよ……?」
……恥ずかしいならやらなきゃいいのに。
こちらに胸を押し当てたまま、つる子がじっと見つめてきた。
……顔、真っ赤だ。目尻に涙まで浮かんでいる。
……ああもう、本当にずるいなぁ。
そんな風にされたら、我慢できなくなりそうに――。
「あ」
再び、微かにバイブ音がした。
「……これはね? 直接身に付けなくても、相手の心拍数とか……いろんな数値が測れる機械で……規定の数値に達するとね、こうしてお知らせしてくれるの。あのね、まだ理論上の数値だけど、インプットしてるものがあって……つ、つまりどういう使い方ができるか、もう助手くんにはわかるよね……?」
つる子が耳まで赤くしながら、早口でまくしたてた。
――彼女の細い指先で、僕の股間をまさぐりながら。
ズボン越しに撫でられただけで、思わず声が出そうになった。
「……あ、おっきくなってきた、かも……」
布越しながら初めて触れる男性器に、恥ずかしさよりも興味のほうが勝ってきたらしい。
「ふふ……よしよし。助手くんのおちんちん、助手くんよりも素直だね。いいこ、いいこ……」
愛おしむような優しい声が、耳の奥へと染み渡っていく。
……つる子が僕の股間をさするたび、甘い痺れが頭の中をだめにしていくようだ。
「つ、つる子さん――」
「……まさか助手くん、この期におよんで『これは男なら誰でも起こる生理現象だ』みたいなセリフ、言わないよね……?」
使い古された言い訳すら、今のつる子は許してくれない。
「……じょ、助手くんは……ワタシのおなかに、おちんちん……入れたいって、思わない……?」
「……っ!」
瞬間、不埒なイメージが浮かぶ。
紛う事なきこども体型。
つるぺたぷにぷにのその身体は、どこをとっても未成熟で。
それはきっと、膣内(おなかのなか)も例外ではなくて――。
「……たしかめたくなってきた?」
僕の股間を撫でながら、つる子が上目遣いで見つめてきた。
……つる子はズルい。
僕がどういう人間か知っている上で、こんなことを言っているのだから。
つまりこれは――つる子なりの告白。
……そしてある意味、彼女からの挑戦状でもある。
下手に理性を失っては、つる子を傷付けてしまう。
かといって……子供扱いし続ければ、じきに彼女は離れて行ってしまうだろう。
……それは嫌だ。
そんなことになれば、僕はもう生きていけない。
「……つる子さん」
なんとか身体に力をこめて、彼女をそっと抱き上げる。
「わ、助手くん……?」
「……ソファは『検証』に向きませんから」