――ベッドの上につる子を降ろす。
すると『ぽすん』とかわいい音を立てて、枕に顔をうずめられた。
「助手くんのまくら、良いやつになってる」
買い替えたばかりのホテルスタイル。少し高くはあったけど、睡眠の質を高めることは研究の質をも高めることに――……じゃなくて。
「すー……はー……」
「あっこら、枕のにおいを嗅がない!」
「だって助手くんのまくら、いい匂いするんだもん。……ラベンダーかな?」
とろんとした表情に、思わず胸がどきっとする。
「……ピローミストの香りですね。まだ使ってないの、あとで一本あげますよ」
「いいの? やったぁ」
……さっきまでの妖艶な雰囲気はどこへ行ったのか、つる子は無邪気に喜んでいる。
「……ところでつる子さん、服はそのままでいいんですか?」
……急かすような言い方になってしまったかな。
いや、ここではっきり言い出さないと、今にもお昼寝しちゃいそうだし。……それはそれでいいのかもしれないけど、問題を先送りにするだけに過ぎないわけで……。
「ふあぁ……」
――小さくあくびをしながら、つる子がこちらへ寄ってくる。
そのまま僕の隣に腰掛けて、肩に頭を乗せるようにしてくっついてきた。
……さらりと流れる金髪が、とても綺麗だ。
いつもなら、このくらいのスキンシップは日常茶飯事。
だけど、今は――。
「助手くん」
「は、はい」
「……助手くんが脱がして」
耳まで真っ赤にして、つる子がそう言った。
「……つる子さん」
「……うん」
「……本当にいいんですか?」
「……うん」
「……後悔しませんね?」
「もー……助手くん、セーブデータ消すんじゃないんだよ?」
頬を愛らしく膨らませて、つる子がじっと見つめてくる。
……恥ずかしさを誤魔化すように、僕の肩にぐりぐりと額を押しつけながら。
そんな彼女の頭にそっと手を添えると、ぴくりと反応して顔を上げる。
目が合うと、彼女はまた顔を赤く染めながら、まぶたを閉じた。
そして、唇を少しだけ突き出してくる。
――ああもう、かわいい。
キスしたい。抱きしめたい。
押し倒してめちゃくちゃにしてしまいたい――。
「助手くん、またえっちなこと考えてる」
つる子が目をつむったまま指摘してくる。
例のスマートウォッチのおかげだろう。……これ、ひょっとして視覚に障碍を持つ人でも、相手の表情が感じ取れるようになったりするんじゃないか?
「……さすが、つる子さんは天才ですね」
得意げに両端を持ち上げた唇に、自分のそれをゆっくり重ねる。
あどけない幼さを有した、ぷにゅっとやわらかな可愛い唇。……こうして触れているだけで、胸がじんわり温かくなる。
「んふふ」
つる子が嬉しそうに微笑みながら、僕の胸に顔を埋めてきた。そのまま甘えるように、すりすりと頭をこすり付けてくる。
……そっと抱き寄せて、髪を撫でる。
しばらく続けていると満足したのか、つる子は「んー」と伸びをして、こちらの顔を見上げてきた。
「じゃあ、助手くん……おねがい」
つる子はそう言って、僕から少し距離を取った。
……そして、ゆっくり両腕を広げる。
腕を白衣の袖から抜いて、胸のリボンをしゅるっとほどいて……。
――そうしているうちに、とうとう下着を残すのみになった。
おそらくジュニア用のパッド付きキャミソールに、同じデザインの小ぶりなショーツ。どちらにも青いリボンがあしらわれているのがつる子らしい。
「助手くん、ずっと見てくる……」
「……よくお似合いだな、と思って」
正直に答えると、眉毛をハの字にして困ったように頬を染める。
「うれしいけど……うぅ……」
もじもじとした様子が可愛らしくて、たまらずつる子を抱きしめてしまう。
「はわわ、助手くん……!!?」
……いい匂いがする。
年齢だけでいえば、彼女はとっくに成人のはずなのに……つる子の匂いは、あの頃からずっと変わらない。
――小さな子供特有の、ミルクのような甘い香り。
牛乳ばかり飲んでるからだろうか。いや、それならもう少しくらい発育が良くてもいいんじゃないのか。
……つる子の体つきは、いまだに幼い。
華奢な肩幅に薄い胸板。
腕の中に収まってしまうサイズ感。
……彼女が大きな病気もなく、今日まで元気に生きているのは、奇跡みたいなことだと思う。
だからこそ――。
「本当に、いいんですか……?」
自分のせいで、すべて台無しにしてしまうのではないか。……それが気掛かりでたまらない。
「……助手くん、だいじょうぶだよ」
僕の不安を察したかのように、つる子がそっと語りかけてくる。
「よしよし……助手くんは本当にワタシのことが大好きだよね。ふふ……」
……子供をあやすようにして、僕の頭を優しく撫でてくれる。
まるで天使のようだ、なんて気持ちの悪い言葉が浮かぶ。
「……ねえ助手くん、心配だったら検証して。ワタシが子供か、大人なのか……」
……やっぱり悪魔かもしれない。
「助手くん、えっと、えっと…………助手くん」
「……はい」
「えっとね……ちゅー、しよう?」
そう言って、つる子が目を閉じて唇を尖らせる。
「ん~」と催促してくる姿が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「……仕方無いなぁ」
――軽く触れるだけのキスをして、つる子の頭を撫でる。
「んもう、また子供扱いする……」
「すみません。でも――」
つる子の目をまっすぐ見つめて、言葉を続ける。
「……大丈夫ですよ。これからいっぱい、大人扱いしてあげますから」
「はわ……」
期待と羞恥とが入り混じったような、なんとも言えない表情を浮かべながら、つる子が僕を見上げてくる。
「……ど、どうしたんですか? もしかして、やっぱり恥ずかしくなってきた、なんてこと……」
「べ、別にはずかしくなんかないもん! ……助手くんこそ、お耳まで真っ赤にしてるくせに……」
「……そ、それは……」
つる子の言うとおり、耳の先までずっと顔が熱くてたまらない。……傍から見れば、きっと茹で蛸のように赤く染まっていることだろう。
――そんな僕を見て、つる子が嬉しそうに微笑んだ。
「……ふふ、助手くんも服脱ごっか。ワタシがボタン外してあげる」