※この作品はR-18です。

つるぺたリケジョの共同検証   作:すこやかおにぎり研究所

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総括:今回の検証と研究の展望に関して

「おはようございます、つる子さん。お風呂にします? ごはんにします?

 ……いや、今のは忘れてください。えーと…………まずトイレ行きましょう。ほら、抱っこしますよ」

「ん……」

 瞼をぽやぽやとさせながらもなんとか両腕を伸ばしてくれたつる子を抱え、便座の上へと座らせる。

 稀によくあることながら――同居人への態度というより子育て、あるいは介護だな……なんて思いつつドアを閉めて、脱衣所からお子様用水泳タオルを持ち出し待機。

 あ、なにか飲ませた方がいいかな。麦茶か野菜ジュースか……入浴前の糖分補給を兼ねて後者か。本当は菓子パンでも食べさせた方がいいんだろうけど、寝起きにすぐはもたつきそうだし…………それに昨日の今日なわけで。

「じょしゅくん」

「あ――すみません、上の空で……」

 水洗音もノイズキャンセリングされるほど脳が落ち着きを欠いている。寝起きコーヒーのバフ効果が切れるにはまだ早いんじゃないだろうか。

「すっぽんぽんですから、とりあえずタオル(これ)巻きましょうか。お風呂沸いてますけど、その前に水分と糖分をちょっと……野菜ジュースでいいですよね?」

「ホットミルク……」

 目の前のてるてる坊主、もといつる子が未だ眠そうな声で呟く。……いつもより、砂糖を多めにしてあげよう。

 

◆

 

「……どうしてこんなことに」

「えー、だっていつも助手くんとお風呂入らないもん」

「付き合ってもいない男女が一緒の湯船に浸からないでしょ……。混浴とかなら別ですけど」

 浴槽に腰を沈める僕。胸へ寄りかかるようにして背中をこちらに預ける、すっかり眠気の覚めたつる子。

 ……顔は直接見えないけど、悪戯っぽく笑っているのが声の調子から伝わってくる。

「今は違うもーん。えへへ、髪の毛と身体はたまに洗ってくれるけど、お風呂は本当にはじめてだね。ふふ……」

 見た目こそ幼女だけれど、二十年――僕と出会ってからは十数年の歳月をたしかに生きてきたんだ。……思わずそう感じるような、柔らかく微笑む声がする。

 もし彼女がネオテニー体質でなかったとしたら、どんな女性になっていたのだろう? 性格は大きく変わらなくとも、ロリロリした挙動や言動は鳴りを潜めていたかもしれない。体つきも年相応で、僕が世話を焼く必要も……いや、集中すると身の回りが疎かになるつる子のことだ、結局今と変わらないかもしれないな。

「ん、……えへへ、きもちいー」

 ぺたりと湿った髪を梳かすように撫でれば、子猫のようにすり寄ってくる。素肌に少々くすぐったくもほこほことした熱がじんわりと染みて……。

 湯気とともに立ち上るシャンプーの香りに、ちゃぷちゃぷと揺れる水面の音。……ここに来てようやく気が抜けてきたのか、なんだか眠くなってきた。

「……助手くん? じょーしゅーくんっ、おーい、寝たら死ぬぞー」

 雪山かここは。

「……すみません、大丈夫ですよ。少しうとうとしたくらいですから――いやもう大丈夫ですから、大丈夫……いやほんと大丈夫ですから、だいっ………………

 こら! 腕をそんなにぺちぺちしないっ!」

「んひひ」

 覆い被さるようにして強制ストップ。

 そうすればくすくすと肩を震わせて――まったく、本当にこの人は。

 ……ああでも、今日はこのままずっとこうしていたいなあ。

 いつも通りのささいなじゃれ合い。だけど――いつも以上に晴れやかな気分だ。拗らせ続けた彼女への想いをようやく吐き出せたからだろうか。

 しかも裸で触れ合っているというのに、やましさや照れよりずっと幸せなくすぐったさが勝っていて……。

「ふふ……。ワタシたち、オトナになったはずなのに――なんだか子供に戻ったみたい」

「……そうですね。ふふ、つる子さんの策略でオトナにされてしまったのに…………変だなあ、おかしいですね?」

 びくり、と大きく震える身体。正面から顔を覗けば、見慣れた赤面はわわフェイスがきっと拝めることだろう。

「じょっ、助手くんがワタシをオトナにした、んでしょぉ……」

「あれー? なんか電波悪いですねここ。なんだかつる子さんの声が震えて掠れて聞き取りづらく」

「っ、…………もー! 助手くん調子のりすぎ! 助手くんドーテーじゃなくなったら急(きゅー)にイキるタイプだったんだー! へえぇー! みそこなったなぁー!」

 つる子の頭突き! 色々と急所に当たったし効果も僕にばつぐんだ。

「……すみません。流石に調子に乗りました」

「ふーん、それが辞世の句? 字余りだね。最期まで締まらないオトコだったぜ、ぐさぁー」

「グワーッ、サヨナラー! ……ってなんですか、この流れ」

 およそ事後の会話とは思えないやり取りに、どちらともなく笑い出す。

 ――ひとしきりくすくすと笑ったところで、柔らかな沈黙がゆっくりと降りていく。

 心地よい静寂の中、背中越しに伝わるつる子の鼓動。その穏やかなリズムに浸っていれば、やがてぽつりと小さな声でつる子が話を切り出した。

「助手くん、あのね? 『検証』についてなんだけど……」

 愛らしい幼女としてではなく、立派な研究者……の卵としての声。僕も姿勢はそのままに、『助手』として傾聴モードに入る。

「はい」

「なんていうか……すごく『改善の余地あり』って感じだったね。ある意味ワタシが被験者で良かったっていうか…………。ワタシが"ふつうのヒト"だったら、それなりに上手くいってたかもだけど……それじゃダメだと思うんだよね。だって、色んな人に使ってもらいたいもん」

 ――どんな人間でも、性的なことを楽しむ権利がある。そして自分の身体を知る権利も、その健康を守る権利だって。

 ……人一倍、いや百万倍くらいある知的好奇心の裏に、そういう信条があることを僕は知っている。

 自ら進んで、あるいはパートナーと共に自身の"内部"を暴くことによる新しい『性のあり方』への可能性――例えば『中イキ』ができないことにコンプレックスを感じる女性がスキャナーを用いれば、性生活や妊活の一助として。

 コストや人員の都合から現在は女性器のみに絞って研究が進められてはいるものの、ゆくゆくは男性に対しても――コツが要るとされる前立腺の性感開発にもやがて革命が起こるはずだ。

 あるいはもっと単純に――自らの肉体の構造を知りたい、という好奇心を満たすために。

 ……どんな形であれ。

 性への関心は、人間というものを知る入口になる。

 自分の身体がどうなっているのか、何に興奮するのか、どんな刺激を善く思うのか。他人の身体がどうなっているのか、何に興奮するのか、どんな刺激を善く思うのか。

 ――それは自他をいたわることへも、理解することへも繋がるだろう。

 曰く「つまりね? 性にまつわる技術の飛躍的な発展と普及は即ち、人々のささやかな幸福のみならず人類の新たな繁栄と多様な可能性を切り拓くんだよ、助手くん!」とのこと。

 まあ、つる子が自分の興味と研究内容を正当化するための方便も多少は含まれているかもだけど……そういう部分も込みで、彼女は天才なのだと思う。

「スキャナーは特に、精度が上がれば上がるほど病気の早期発見とかにも繋がる道具だしね。……ってことはだよ? ワタシみたいに特殊な体質の人がそこからあぶれちゃうのはすごく良くないことじゃない? 単純に『あなたは規格外です』って言われるのは悲しかったりむかつくし、それに、えっと…………」

 恥ずかしげに俯く彼女の姿は、研究者ではなく愛らしい『幼馴染』の――。

「……す、好きな人と…………そういう人だって、あの、せっ……………………――性的コミュニケーションという手段を通して互いの愛を深めたいって思うこともあると思うのっ!」

 つる子が耳まで真っ赤になっている。……それは決して風呂にのぼせたからでも、怒涛の早口でまくしたてたことによる息切れのせいでもなく。

「かえって恥ずかしい言い方になってませんか、それ」

「べ、べつに恥ずかしくなんかないもん。学術的あるいは文学的な表現によるええっと……えっと、もー!!!!!」

 彼女は僕の腕の中でぐるりと振り向き、ぎゅうと抱きつきながら人類の新たな繁栄と多様な可能性を説き始める。茹でダコみたいな体温をしながら。

「ワタシみたいな体格の人でもからだに異常が無いことと"自分に無理のない範囲"を確認した上で気持ちよくなったりしてもらったり! 直接セックスするのが難しくても内部データをもとにオナホ作るとか! そういうことに! 使えるでしょ!!!! 精密検査しなくてもおうちで自分が直接赤ちゃん産めるか分かるようになるかもしれないよ!!?! そしたらそのまましっぽりねっとりくんずほぐれつ子作りセックスできるでしょ!!?!」

 ……顔を上げたら絶対瞳が蚊取り線香みたいにぐるぐる渦巻いてるやつだな、これ。

「すみません、よくわかりました、わかりましたから……」

「なにがわかったのっ」

 ……これは確実にいつもの癖でほっぺたをむすっと膨らませている表情だろうな。

「えーと…………――つる子さんは天才で、僕の認識している以上に僕が大好きってこと、ですかね……?」

 ――つる子の喉から声にならない悲鳴、そして浴槽から大量の水しぶきが上がる。

「も、もうお風呂出るっ! のぼせたもん、冷たい牛乳飲みたいもん!」

「あー、つる子さん? それ、お風呂でのぼせたんじゃなくて……」

 

 よじよじとバスタブを乗り越える彼女。

 そして去り際に一言……人間の性にまつわるあらゆる事を日々研究する理系女子、小さいころから研究熱心で好奇心旺盛で、見た目通り子供っぽい部分もあるけど心から尊敬できる、つるぺたガールフレンドが叫ぶ。

 

「べ、べつに恥ずかしくなんかないもん!」




話としてはまとまったので完結扱いに設定するけどあとから番外編的なエピソードを1つか2つ放出する可能性あり。
(いったん休憩したいのでとりあえず投稿時点では追加しません)

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