T-34が初夢で父親の姿を見たという。彼女の父親はミハイル・コーシュキン技師。彼女が生まれた直後、精神的、身体的に成熟する前に亡くなったと聞いている。そして副官任務からの帰りで公園を通りかかったとき親子連れの家庭を見てもし自分が試作されたあと、もし父が生きていたらああなっただろうかと失った父親像を探しているらしい。これに関しては本人の口から聞いた話ではなく、KV-85から聞いた話なのだけれど。
一つ思った事があってバーに行ったときにT-34を連れて行こうと思った。バーテンダーがいる事を考えると特に深入りして話すことはないつもりだったが、彼女の影のある表情を見るとそうも言っていられない気がした。
「はあ……。」
予想通りの反応で安心した。いきなり上司からお前、「父親」という存在について知りたいのか?と聞かれればそうなるだろうな。
「確かに俺は父親はどういう存在なのかわからない……俺にはわからないんだ。写真と文献にしか居ないから……。」
弱音を吐く彼女は普段以上に弱々しく見えた。
「同志代理人には家族が居たか?」
「いや、どうだろうな……記憶が無いもんでな。」
「……すまん。」
「構わんさ。ゆっくりと思い出すよ。」
バーテンダーのBf109には離席してもらっている。流石にね。
「そうだ、私が父親になろうか?」
昔から酒に酔うと突拍子も無いことを言い出す。理性のタガが外れる前から。どうせ今度こそ殴られて笑い話になるだろうと思った。思ってた。
「……それも良いかもしれない。」
「ははは!そうだよな!って、あれ?」
T-34、なんて言った?
「俺としては……悪くないかも知れん。父親は男の代理人しかできない。俺の知っている範囲内ではな。もちろん、代理人が嫌ならそれでいい。」
「そうか……わかった。なれるかはわからないけれどやってみよう。」
こうして偽の父娘の関係が始まった。始めはよく頭を撫でてやることだった。反発を押し殺して撫でられる彼女を撫でていると少し申し訳なく感じた。転機は作戦の合間に公園に遊びに行ったことだった。親子連れを観察して父娘とはなんだろう家族とはなんだろうと探求しようと思っていたから行ったのだけれど……
「……同志代理人、高い高いってできるか?」
「んー?できるよ。やってほしいの?」
「いや、気になっt」
返事なんてものは待たない。気になったことはやってみるべきだろう。
「たかーいたかーい」
彼女はとても軽かった。こんな身体で大きな敵と戦っていると思うと自分は無力だと思う。せめて戦闘以外の面でサポートできれば。
「軽いな。何回でもできるぞ。」
「お、降ろせ!早く!」
「高所恐怖症?」
後で殴られるかもなと思いながら少し大きすぎる子供を高い高いした。
その後はポカポカポカポカといつもよりかなり軽く早く叩かれながら帰った。
翌日。KV-85からT-34の翳りが少し薄くなったと聞いた。
「そうか。」
「ええ。以前よりアルコールの摂取量も減りました。」
少し強いノックの音が響き渡る。たしか今日の副官はKV-85だった気がするのだが……
「入るぞ、同志代理人。」
少し威圧的で不機嫌なT-34が返事を待たずして入ってきた。
「どうした、T-34?今日は非番だろ?」
「……。非番だと来ちゃいけないのか?」
「いや、まあ……構わないが。」
スタスタと歩いて私の脚の上に座るT-34。
「T-34、同志代理人の邪魔をしてはいけません。」
こっちを見ないでくれT-34。
「すまないKV-85。仕事はこの状態でもできる。今回だけ見逃してやってくれ。」
「……わかりました。」
勝ち誇ったような顔をするT-34。父親に対する娘とはなんだろう?
「所属不明のDOLLSの集団が極東重鋼学連の領域で災獣の大群を排除した……整備会と灰燼教会の両者は関与を否定、DOLLSの同定が急がれる……今日のニュースはなかなか面白い戯言だな。整備会と灰燼教会以外に運用している所はいないのに。」
「今日もまた忙しいな。」
「極東重鋼学連も大変ですね。」
また後日。今日は休暇日。整備会と学連に許可を得て前線からも、職場からも離れた休養のための砂浜にやってきた。上空には周辺警戒の為に交代で重戦闘機型DOLLSが巡回している。
「暑いな。」
「そうだね……父さん。……あ。」
「今、父さんって言った?」
「父さん、暑いね。」
「ああ。暑い。」
ちょっとだけ縮まった距離。
「父さん、泳ぎを教えてくれないか?」
「泳げないのか?」
「生粋のカナヅチなもんで。」
スクール水着を着たT-34。雪と氷の赤色十月同盟学連では絶対と言っていいほど見られないだろう光景。
「バタ足から始めてみるか。」
「手を離さないでね。」
手を引きながら歩いていると気づいたことがある。T-34はとても可愛い。なぜ気が付かなかったのだろうか。部下としてみてきていたからだろうか。
「そうそう。今度は足を静かに上下に。水飛沫はあまり立てずに。」
だいぶ良くなった。バタ足は。クロールは……いかんいかん、T-34の事は娘と思うことにしたんだ。
「どうしたの?お父さん?」
「いや、何でもない。」
お腹はとても柔らかく、それでいてしっかりと引き締まっている。ぷにぷに。あぁ……記憶にないお父様、お母様、仮初めとはいえ娘であり部下であるDOLLSに欲情してしまいそうにしまった息子をお許しください。
「本当に大丈夫?おっぱい揉む?」
「どこで覚えたんだ……」
「内緒。」
禁断の行為。わかっている。熱のせいだきっとそうに違いない。誰も見ていない。たぶん。
上空で巡回しているDOLLSがこちらをじっと見ていたように見えたけれど気が付いたらいなくなっていた。
とても柔らかい。熱を帯びた吐息が私を煽る。もっと、もっと。
「お父さん……もっとしても良いよ……」
その時だった。
「……T-34。それ以上はいけない。すまない……」
ふと我に返った。私にとって初めての特別な異性にするところだった。それはいけないことだ。人間とDOLLS。交わってはならない。
「……うん、ごめんなさい。お父さん。」
互いに顔を見れずに基地に帰った。
その後、何回か出撃任務をこなしてもらったが以前より少しぎこちない。協調が取れていない。もとから数は質を凌駕する、突撃思考の持ち主ではあったけれど……
「みんな、解放作戦お疲れ様。KV-85、みんなの盾となって確実に弾を防いでくれた。ありがとう。T-70も神出鬼没な奇襲作戦、見事だったよ。La-7、Yak-9、Il-10M、良いドッグファイトだった。T-34-85、攻城槌としての能力、見惚れたよ。では、みんな休んでくれ。」
いつもよりも激しめの戦闘となったけれどみんな無事帰ってきた。心做しかメンバー達の表情は明るい。
「あー……解散指示を出したあとですまないが、T-34-85だけ残ってくれ。提出してもらった書類に少し疑問点がある。」
T-34にだけ残ってもらう。
「……お父様、俺がなにかやってしまったか?」
「うーん?いや、特に?ただ……そうだな……少し聞きたいことがある。」
「そうか……。なんだろう。」
「……私は、君を娘として見れないかもしれない。」
「……。」
「その……殴ってくれても良い。私は君にあの……欲をぶつけようとしてしまった。いや、ぶつけてしまった。」
「……。」
「すまない……。私には謝る事しかできない。」
「お父さん……。」
なぜか身体が言うことを聞かない。逃げようとする。引き止めないといけない。いけない……。
学連では戦術と戦略、戦闘に関することだけを習ったわけではないが、保健体育については不十分ではあった。もっとも、そんなことを気にする間もなかったし、規則では上司である人間との恋愛は禁止されていた。人間にとってあくまで兵器として映るようにするために。
Cityには色々なものがある。DOLLSには禁止されている本とか。その内容は……
「同志KV-85!後生だからその本を返してくれ!」
「駄目です。」
かなり過激なものであったり……とか。
「同志T-34。この本は赤色十月同盟学連では禁止されている禁制品です。」
「わかっている!同志KV-85!辞めろ!読むな!」
「ふむふむ……父親と娘の禁断の恋ですか。」
「辞めてくれー!」
「同志代理人を父親、同志T-34を娘とする……はぁ……同志T-34。私はこれを処分しようと思います。でも、処分しない代わりに交換条件を出したいと思います。」
「……なに?」
「同志代理人を探してきてください。あの人は今、苛まれています。貴女をこの本のように愛してしまった罪の意識とやらに。」
「……わかった。探してくる……」
「お願いしますね。……本だと最後に二人は心中するけれど二人はどうなのかしらね。」
なにか聞こえたけれど無視。
見つかってしまった。この施設は積雪の激しい地域に立地している以上、隠れられるような所はない。いつかは見つかる。
「お父さん……」
「……来るな。来るんじゃないT-34。」
「お父さん、大丈夫だよ。大丈夫。」
「辞めろT-34。私は……貴女を傷つけたくはない!」
「お父さん。」
逃げ道なんてない。……大人が逃げてはいけない。
「お父さん、良いんだよ。私に欲情して。」
「お父さん、いや、お父様。おいで。」
手を広げて待つT-34。弱い父親でごめん。
「そう、よしよし。」
頭を撫でられ続けている。甘やかされている。甘やかすのはこっちの仕事の筈なのに。
「私にあまり胸はないけれど、代わりに音が聞こえるでしょう?」
心臓の音とは違う異質な音。これがT-34の心音。これがT-34の音。
お腹が鳴った。とても可愛らしい音が。
「……お父様、ごめんなさい……お昼ごはん……作ってくれる?」
「わかった。何が食べたい?」
親子とはなんだろうか?娘とは?父親とは?それは二人で探し求めるものなのかもしれない。
「同志代理人、お話があります。」
「なんだろうか、同志KV-85。」
「廊下でお話するような内容ではないのでどうぞこちらに。」
「手短に頼むよ。T-34、執務室で待ってて。」
「わかった。」
「同志代理人、実はこのような本をT-34のベッド下で見つけまして。」
「……禁制品だね。」
「そこでお願いがあります。」
「なんだい?」
「同志代理人、T-34をよろしくおねがいします。T-34の同室の同志として。」
「わかった。」
「逃げないであげてください。彼女は同志代理人の愛がなければ耐えられなくなっていますから。」
「官給品と配給品でこんなにも味が違うなんて。」
「補給部隊に少し掛け合ってちょっと良いものを取り寄せてもらったんだ。」
「お父様、これは?」
「KV-85と分け合って食べなさい。」
「はーい。」
星屑連邦学連の友軍(仕事の関係で知り合った良い奴。確か名前がコルセアとか、階級は大尉とか言っていたような?)からもらった材料でクッキーを焼いてみた。食べてもらえるかどうかはわからないけれど、とりあえず。約束を果たすという姿勢の提示を兼ねて。
「T-34。」
「なーに?」
「ん……んんん……」
とても長い口づけ。
「お父様、積極的……」
柔らかい唇。ほっぺに口づけなんて段階はもう置いてきた。
「T-34、今は君が欲しい。」
「お父様、今日のお仕事はここまでにいたしますか?」
「そうしよう。」