執務室前、ノック3回。
「どうぞ、入って。」
『失礼します。』
ガスマスク越しに代理人とT-34を見下ろす。お呼びでしょうか?代理人。
「来てくれたか。」
「こんにちは。
『同志代理人のお呼びとあらば。』
「今回呼んだのは……君に航空部隊の育成を任せたいんだ。」
私……何かしたっけ?まあいいや。作戦がやりやすくなる。まず、誰から堕とすかな。
『はい?私ですか?』
「君の能力を買いたい。」
『わ、わかりました……すぐに準備します……』
緊張と期待と様々な感情を悟らせないように下がり、執務室を出る。
『えー……この度、訓練の指揮を執るように言われたIl-10Mです。新参者ですがよろしくおねがいします。文句は同志代理人にどうぞ。』
「お久しぶりです……TB-3です……」
「……。」
明らかな敵意と警戒心。
『では、皆さん。まず、お近づきの印にこちらをどうぞ。』
「こちら、同志代理人から賜りましたクッキーでございます。」
お近づきの印に(実は私も)代理人(なので)手作り(しました胞子入り)クッキーをどうぞ。と出されて警戒しない人は居ないはず……だと思ったけれども
「で、では……頂きます。」
ニコニコしながら見守る。と言ってもガスマスクで表情は見えないはずだが。
この部隊の中で私の正体を知っているものは一人だけ。TB-3。私がこの部隊に来て最初に撃墜した重爆撃機型DOLLS。使い捨ての駒とは流石に思ってない。とはいえバックアップデータもあるから設備があればいつでも再生できるようにはして、時には見捨てることもあるだろう。
「たくさん頂いておりますので。」
胞子を混ぜているとはいえ流石に味が変わるほどに入れていない。耐熱性胞子様々だ。掌握が上手く行ったら後で
「美味しいですね。」
TB-3、ありがとう。
「すいません……ちょっと外に……」
(何かが倒れたのか音がする)
La-7がダウン。その調子。
「Il-10M……まさかと思うが何かしたか?」
『いいえ?』
「なら貧血か。働きすぎだから。」
『そうかもしれません。』
うーん……警戒されてしまったな……こうなったら奥の手かな。
『
通称ファミパン。Cityで流行りのホラーゲームに出てきた敵の打撃技を真似してみた。
Yak-9の頭部に強い衝撃を与える。連携技ならここでストンプだけれど殺害したい訳ではないからしない。
『よいしょ……っと。』
あらかじめ、胞子嚢から取り出しておいた胞子の粉を鼻の近くに。動物としては卵胎生、植物(菌類の可能性あり?)としては雌雄同株である、そんな私の正体は見せるわけにはいかないので昏倒させる必要がある。寄生蜂になった気分だけれど……確か、寄生蜂は気絶させないんだっけ?
『いっぱい吸ってくださいね〜』
「私は何をすれば?」
『同志TB-3……にはLa-7とYak-9を寮に運んでもらいましょうか。どちらをお願いしましょうかね。』
「では、Yak-9をお願い。」
『了解です。』
Yak-9を肩に担いで寮の部屋へ。少しずつ情報が書き換えられているのか少し体温が高い。現状、順調。このままいけば朝の訓練は間に合いそう。
「La-7、集合完了。」
「Yak-9、集合完了。指示を待つ。」
『皆さん、お疲れさまです。では……今回の訓練内容を説明します。』
目つきが違う。さらに敵意は私に向いていない。仮想敵の写真に対して向けられている。
『今回、交戦すると思われる敵勢力はこちらです。整備会のお抱え大隊"ATLAS"……その副官と……』
『A-20G……』
灰色の
『Bf110G……P-38F、B-17E……』
ある意味脳筋な双発重戦、
『そして地上をマウスが攻勢を仕掛けます。』
制服を灰色に染めた
「えらく空に偏っていますね……」
『ええ、La-7。その通りです。』
『対してこちらは……La-7、Yak-9、Il-10M……つまり私ですね。それにKV-85、T-34-85、整備会から借りてきたヤークトティーガーが対峙することになります。あぁ……同志TB-3は管制機として戦場を監視するのでカウントに入っていません。』
「管制機の存在は問題ないのですか?」
『公的なルールでは規定されていません。やってはいけないとは書いていないので。』
ただ運用するコストを考えると普通は使わないってだけ。
『敵の地上部隊は一部隊のみですが、
以前、VR演習の様子を見たら……一人で十数体で構成された重戦車大隊を壊滅させていて少し恐ろしくなったことがある。
『今回提案させて頂く航空部隊用の作戦はこちらです。諸事情により口頭では説明できないので書きます。』
うまくいくかはわからない。賭けに近い。
『……以上ですが、いかがですか?』
「むむ……代理人はこの作戦についてなにか意見を出してた?」
『検討するとのことです。』
任命されてすぐに提出したので嘘ではない。
「なるほど……やってみよう。」
『ありがとうございます。』
偶像劇はまだ続く。操られている本人も正直には言えない。意識があるかはわからないけれど。
『では……訓練を始めます。ARMSを装備して第2滑走路へお願いします。』
この部隊の練度は高い。編隊が綺麗だ。射撃精度も上々。ブレなく撃てている。
『Yak-9は……照準器を覗かずに撃った方が良く当たるようですね。』
吹き流しに対しての練習を見ながら思う。
『では……演習弾使用の模擬空戦をお願いします。』
まあ、言い換えれば相手を戦闘不能にしろって訳で。
「了解。」
「えっ……はい。」
一瞬、La-7が正気を取り返しかけたけれど押し戻して解決。
2つの蒼い影が目の前をすれ違って遠ざかる。その間の距離およそ1km。視界ジャックで監視するとYak-9がLa-7の行く先を牽制するように45mm機関砲を近づきながら単射。La-7は持ち前の出力で逃げている。弾切れを狙っているのかもしれない。
「その身を穿つ!」
翼を翻して連装20mm機関砲を乱射するLa-7。当たりはしないが、行動に制限が加わる。
「照準よし、捉えた。」
45mmが左翼端に命中。演習弾ではあったものの、衝撃でLa-7はバランスを崩してしまう。
「くうッ……」
バランスを崩したLa-7は姿勢を直すことをせず、20mmの照準を合わせ……
「これも任務だ、悪く思うな。」
右翼の内側に被弾したYak-9は錐揉みしながら落ちていく。幸い、失速状態に入ったから回収が間に合った。
『勝者はLa-7。』
ふらつくLa-7も回収しながらメニューを考える。
「同志Il-10M、お手合わせ願いたい。」
『私ですか?良いですけど。その前に修理が……』
「降りてからお願いします。」
『了解しました。』
いつものやり方で良いのかな?
地上でLa-7のARMSを交換、ついでに自分も
『では……よろしくおねがいします。』
「こちらこそ。」
高度およそ3000m。互いにすれ違って相対距離1.5kmで振り返り、演習開始となる。
「……先程、クッキーを頂きましたが……同志Il-10Mが焼かれたものでしょう。」
『……なぜそうだと?』
「同志代理人は同志T-34にしか菓子を焼きませんから。」
『なるほど……浅はかでした。』
「この勝負、負けた方が勝った方の言うことを聞く……そんな賭けをしませんか?」
『賭けですか……』
根が真面目な彼女にしては少し珍しい。副作用として好戦的になるというものが挙げれるがこう出るとは。演技の可能性も捨てがたい。要警戒……要警戒。
『わかりました。喜んでお受け致しましょう。』
「よろしくおねがいします。私が勝ったら……どうしましょうかね?同志代理人に告発しますかね?」
『お手柔らかにお願いします。』
離れていき、離れ、振り返る。戦闘開始。
『まずは逃げる……か。雲はあるね。』
少し高度を下げながら雲に入っていく。雲中の視界は悪いが……同調すれば対象は見えないこともない。
まだ追ってこないLa-7。こちらが上がってくるのを待っているのだろう。互いに旋回を続け、ただだだ時間が過ぎる。耐えかねたLa-7が高度を下げる。なるほど。
『無理に追えば釣り上げられる、追わなければあとあと上昇力で追い詰めてくる。賢い。実に賢い。こんな敵は嫌だな。』
装甲強度からして……多少撃たれてもそこまで問題にはならない。翼を畳んで降りるか。
追跡不可能な速度で高度を落としていく。機銃を構えつつ追い越して
23mmが彼女の羽根を穿つ。いくら演習弾と言えど23mmは23mm。ラボルチキンの精鋭はあっという間に羽毛を失った鶏肉一塊になった。
「参りました……あぁ……」
『ほら、背負いますから……』
La-7の軽いがしかし体重をしっかりと感じる身体を背負いつつ高度を落とす。RATOは廃棄。23mmを定位置に。
『ふー……真面目は真面目でも禁欲主義者にはこう働くのか。……同志La-7、アルコールを摂取しましたね?』
「どうしてそれを……」
『アルコールの香りがしますから。』
「あぁ……バレた……」
『よく酔っ払いながら飛行できますね。』
「馴れてますので……」
『なるほど……これは?』
『ごめんなさいね、こうするしかなかった。』
改造型ウェルロッドを頸部に一発。麻酔ダーツが制御系に麻酔を導入する。
『ふぅ……帰って再教育だー……』
「……まだ……まだ終わってません……」
『……えぇ……』
耐えられるの……赤色十月同盟学連舐めてた……
「まだやれます……」
『しょうがないなー……はい、これ。』
覚醒作用のある修復剤Bを手渡す。翼にも一本振りかけておく。
「…これは……?」
『これはこうやって使うんだよ。』
無理やり口を開けさせて流し込む。およそ350ml、ジュース缶サイズ。
「げほっ……げほっ……うぇぇぇ……」
『うちの隊ではなるべく使わずに済むように血の味がする物を採用している。血を飲みたくなければ死ぬなとね。』
「貴官は一体……?」
『うーむ……まあいっかぁ。どうせ死ぬし。』
『"整備会"からやってきた単なるIl-10Mだよ。うん。ちょっとばかしARMSに手を加えられた……ね。』
翼から
『じゃあ、もう一戦しよっか。行ってらっしゃい。』
抱え込んだLa-7をゆっくりと手放し、急降下。おや、下に代理人とT-34か。
「ま……まぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇ」
落ちてくるLa-7。翼の大きさからくる空気抵抗的に彼女の方が早く落ちてくると予想。
『よいしょっと。』
翼を一度、収納して加速……風切り音が煩い……ここで展開、フルフラップ、引き起こし……もうここで殺しちゃう?ウェルロッドを構えてみる……
20mm榴弾を避けながら横旋回で格闘戦に誘うも上昇されて回避される。そのまま上から覆い被さるから今度は横滑りしながらスロットルを開く。斜め縦旋回。斜め縦旋回の頂点。捻りこみ。前に押し込んで23mmの雨。
『お疲れさまです。』
「また負けた……」
『あそこで縦旋回に引き込まれくれてなければ負けてましたよ……』
これは事実。隙だらけだったと思う。
あとから教えてくれたけれど、射撃練習用の吹き流しがくっついていたらしい。外し忘れてたな……。
要求:T-34、代理人、その他、部隊員全員の抹殺。
方法:大規模演習時に誤って実弾を使用、事故に見せかけて始末。
報酬:新装備の融通。結婚式場の用意。