果たしてこれは、誰かの夢なのか。
それとも、画面の前のあなた自体、誰かの夢なのか。
カラーン、カラーン。
式場の鐘が鳴り、五人の新婦がドレス姿で現れる。
「風太郎君、緊張してる?」
「あぁ、皆に見られてるからな。特にメディア」
「気にする事無いわよ。なにせ、国の公認なんだから。」
「そうだよフータロー」
「そうもいかないだろ…」
「風太郎をいじめる輩は、私が始末してやります!」
「過激派だなおい」
「上杉君は、何も気にしなくていいって事ですよ。」
「それくらい分かりますよ、上杉さん」
「…何だかその響き、素敵です。」
☆★☆
「パパパパーン。パパパパーン。」
お決まりの歌を歌いながら目玉焼きを作るのは、新郎の妹、らいはだ。
意気揚々と料理を続ける中、らいはの携帯電話に着信が入る。
「はーい。もう会場に着いた?」
『いや、それが…忘れ物をだな。指輪だ。』
「えーっ、何でそんなもの忘れるの!もう!持っていくけど!」
『すまん、頼んだ。』
「もう大人なんだからしっかりしてよ、お兄ちゃん。」
怒りのままに電話を切り、そのまま料理を再開しながら今日の計画に付いて考える。
だがしかし、こういう所に一番口を挟んでくるのがこの男、勇也だ。
「なんだ、風太郎から電話か?」
「結婚指輪を家に忘れたんだって。こんな新郎他にいないよ。」
「ふっ…血は争えんな」
「もう一人いるんかーい」
「おじーちゃん、おばーちゃん、久しぶりー。」
「らいはちゃん、大きくなったわねぇ」
久方ぶりに会う親族に、らいはの気分もうなぎ上りだ。
「おい勇成!何だその恰「ご無沙汰っす」い!話に被せるな!」
「済まない、聞き取れなかったよ、耳にバナナが詰まっててな」
「お父さん、それ読者に知ってる人いないよ」
「読者って誰だよ。」
「あっれーーーー?」
「勇也!さっきから何の話をしているんだ!」
途中から置いてけぼりにされているのは、きっと彼らだけでは無いだろう。
「そ、それにしても、あの風太郎君が結婚なんてねぇ」
「そう、そうだよな。未来ちゃんも、可愛かったしな。」
「あ、そういえば未来ちゃんはどこに行ったんだろう。…お父さん、ちょっと探してくるね。」
「おう。」
「あ、そうだ。ついでに指輪も渡しちゃおっと」
らいはは未来を探しながら、同時に式場の散策も並行して行う。
豪華な装飾、見た事も無いシャンデリア、正直大きすぎるシャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア…
「駄目だ、シャンデリアのインパクトが強すぎる。お城みたい…」
これが式場なのかと、らいはは感嘆の息を漏らす。
そして廊下を歩いていたらいはは、大量にあるドレスに気付いた。
「うわ、何着あるんだろ…部屋の奥までドレスで一杯だ」
それもその筈。
ドレスは一日で何度も着替えるので、それが五倍となるともうそれは凄いお値段だ。
「私もいつかこれを着るのかな…なんて。」
☆★☆
『私だ』
「おいおい先生、今日が何の日か忘れたのか?」
『さてね。確認してみた所、店番以外の予定が見つからないよ』
「それマジ?」
『冗談だ。…分かっているよ、今仕事を片付けた。これから向かう』
「おぉ、流石だな先生。話が分かる男、嫌いじゃないぜ?」
『嫌いじゃない、と言う事は、話が通じない奴の方が趣味なのかな?よし、今日は娘たちの親離れを阻止するべく、重火器を持って式に乱入しようじゃないか』
「もしかして疲れてるのか?」
『…否定出来ない』
その声は、どこか悲壮感に満ち溢れていた。
☆★☆
「あー!らいはおばさんだー!」
「私の年齢で叔母さんはちょっと傷つくかな。…でも、それを加味してもまだ有り余るこのプリティさ!」
「わきゃー!」
DX日輪刀(善逸)で式場のスタッフのお姉さんの太ももをぺしぺししていた所をらいはに連行された未来は、らいはにほっぺすりすりを受けている真っ最中だ。
「未来ちゃん、お父さんどこに居る?」
「てきは、3つのみせのなかのどこかだ…」
「そうくるかー。…えっと、椰牟茶はどこにいったかな?」
「むこうのへやにいる。…あいてはじゅうにきづきかもしれない。きをつけろ!」
「はいはい。」
椰牟茶とは風太郎が未来とごっこ遊びをする時に使う名前だ。
ちなみに血鬼術は『太郎風風拳』。これが言いたかっただけである。
「ここ…?」
未来に促され、扉のドアを開ける。
そこにいたのは、寝ている風太郎だった。
「あーいたいた。こんな所で何やって…って寝てるのか。はぁ。今日が特別な日だって分かってるのかな」
らいはは寝ている兄に対し、ぷりぷりと怒りながら説教を続ける。
だが、その怒りも腕に着けられていた『ある物』で消え去った。
かなり昔に作ったミサンガだった。
「懐かし…これ、いつ作ったんだっけ。まだ持ってたんだ。」
こんなに昔の物を持っていてくれた兄に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「…結婚おめでとう、お兄ちゃん。」
☆★☆
「新郎、入場」
式場の鐘が鳴った。あらかじめ練習した動作で入場する。
ドアの前で一礼、作法はばっちりだ。
神父の前へ歩みを進めると、誰かに話しかけられる。
「おいコラ」
「上杉くーん」
「…前田か」
「二人ともね。」
「三人とも、じゃ駄目か?」
前田の隣にいる女性のお腹が少し大きい。
そうか、暫く会わないうちに前田も…
これじゃ、武田に怒られるかもしれんな。
「それも素敵ね。」
夢を見ていた。
あの日の思い出を。
あの時の事は、正直よく覚えていない。
だが、災難続きだった俺の高校生活には、不思議と嫌な覚えも無かった。
「新婦、入場___」
親族の手によって、一人ずつベールが外されていく。
並んだ五人の花嫁は、綺麗だ。
ほろ苦い思い出さえ幸福に感じるのは、多分皆がいたから。
今なら、今だから言える。
あの日言えなかった、今になっては何万回数えても足りないくらい言っている一言。
「…なぁ、皆」
「…どうしたの?風太郎。」
「…傍にいてくれて、ありがとう。」
☆★☆
「お疲れさまでございました。披露宴開始まで暫くお寛ぎください。新婦様達のお色直しが済みましたら、またお声かけさせていただきます。」
「分かりました。」
ふーぅ、それにしても疲れたな。
そういえば、未来や乃愛達はどこ行ったんだ?
武田に面倒見とけって言ったけど、どうかな。
「お父さーーーん!」
「うぶふぉぐへぇ!?」
椅子に座っている所を、未来にタックルされた。
こいついっつもタックルだな。
「おじさんがぁぁぁ、遊んでくれないぃぃぃぃぃ!!」
「あーもう、こんなに泣いて…ほら、ティッシュ。」
「ふうぅ…あのお兄さん、宇宙の話ばっかり!飽きた!」
「そうかい、朝陽君は興味津々だけど、ね」
朝陽と乃愛を抱えてこちらに話しかけてきたのは、御存知残念イケメンこと武田だ。
4歳に泣かれている事で、残念度は加速している。
「君、本当に凄いんだね。…頭脳で勝っていても、人間として負けてるよ。」
「そうそう、育児は大変なんだ。」
「なんだー!」
俺に抱っこされながら可愛く叫ぶ未来。
こいつ、よっぽど武田が嫌いなんだな。
「あと、朝陽は別に興味がある訳じゃないぞ。ただお前の顔を見つめているだけだ。顔になんかついてるんじゃないか?」
「僕に味方はいないようだね。…全く、君たちは子供までこうなのかい」
「残念、こいつら俺の子供なんでな。」
「ケッ、リア充が」
あ、こいつ僻んでる!
「いいよ、僕は将来宇宙飛行士になって、そのまま女優と結婚するんだ。例えば「お父さん、トイレ行きたい。」とかだね。後は「あぁ、分かったぞ」っと!さっきから話を被せないでもらえるかな!?」
「お前、このサイトの利用規約よんd」
「おっと、これ以上はNGだ。」
☆★☆
「えー!?もうこの人やだ!」
「安心したまえ、僕もだ。」
嫌がる未来をなんとか武田に預け、再度休憩をとる。
しかし、それを神は許さなかったようだ。
「新郎様、御親族の方がお越しくださいました。」
お、誰だろう。
まさか、おじいちゃんの亡霊か…?
「まさかな、亡霊なんて、はははは!」
「誰が亡霊だって?」
マルオさんだった。
やっべ。
「お、お父さん!」
「君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いね。」
「お越しくださってありがとうございます!てっきり僕は会ってくれないものかと…」
「上杉君。…単刀直入に聞く。」
「は、はい。」
「娘達は心から喜んでいるかね?」
「!」
…そんなの、決まっている。
「はい。僕も同じく。」
「…そうか。ワインを、頂こうか。」
「えっ、あ…はい、ただ今。」
☆★☆
「えーっと、風太郎の控室は…おっ、開いてる。」
恐らく、ここがあいつの部屋だろう。
入ろうとすると、中から話し声が聞こえてきた。
「母が死んだのは、十年以上前の事です。」
「…」
風太郎と…ハッ、マルオじゃねぇか。
全く、あいつも中々の奴だな。
「事故が起きたのは、母の夢であった自分の料理店を出した直後でした。家に残ったのは、開業資金の為に借りた多額の借金だけ。」
「…」
「親父が二乃と三玖にあの空き店舗を貸したのも、半分はあいつらを助けるため、そして半分は母の夢を託す為だったのかもしれません。」
「…一人の女性を一生を掛けて愛する。不誠実で強欲な僕には、それが出来ませんでした。ですが、その愛に負けないくらいの愛で、五人を、家族を愛する。…俺は、そんな男になりたい。二人の父を目指して。」
「…よしてくれ。」
「あっ、すみません」
「慣れてないんだ、父と呼ばれる事に。」
お酒が入り、少し顔を赤らめたマルオがそう呟やいた。
その目は、どこか遠い記憶を見つめているようだった。
「新郎様、新婦様方がお呼びですのでお越しください。」
「えっと…」
「行きたまえ」
「…」
風太郎はマルオに礼をして去っていった。
「けけけ。マルオよぉ、何度も思うな、俺らも老けたモンだ。」
「あぁ、全くだ。」
その目は、さっきまでのようでは無く、嬉しそうなただの青年の目だった。
「酒、飲んでるな。」
「君もどうだい?酔わない程度で。」
「お、いいじゃねぇか。」
その後、彼らが何を話したのかは、誰にも分からない。
☆★☆
「来たぞ。」
「はーい。お待たせしちゃってごめんね。」
カーテンで仕切られた向こうで、彼女達が着替えている。
…なんか興奮するな。
待て、落ち着け。流石にこんな所で発情は猿以下だ。
「もうすぐで着替え終わるから、ちょっと待ってて下さい!」
「おう。」
そういや、今朝も夢を見たな。
あの日を何度夢に見るのだろう。
そんな脳裏に深く刻まれるほど、とんでもない悪夢だ。
「お待たせー」
「…俺はまだ夢を見てるのか?」
そこには、同じ格好、同じ髪型の五つ子がいた。
「五つ子ゲーム、ファイナルだよ。」
「愛があれば、見分けられるよね?」
次回、本編ラストです。