遅れて大変申し訳ないです……!
ぼちぼちとか言ってたのに今後の展開どうするかで2ヶ月も悩んでしまいました。
次は劣等生の方を投稿します。
小さい頃。
たぶん、歳が5つになるかならないか。そんくらいちっちゃい時だったと思う。
その頃の俺がよく楽しみにしていたのが、空港へ出かけることだった。
空港に飛行機を見に行く、目的はそれだけ。
大きくて、形がカッコよくて、それなのに空を飛ぶ。憧れていなくても、その機体が空を飛ぶだけで何か胸に込み上げてきて自然と口が開くことだろう。……小町は飛行機の音に驚いてよく泣いてたっけか。
飛行機を見終わると、広い空港内をあちこち歩いて回った。
出発ロビーに到着ロビー。複数に分かれたターミナル。国内線と国際線のふたつがあって、いつ訪れても人流が絶えることはない、小さな頃の俺にとっては夢の国よりも輝いていた場所で——あれ?
……何故俺は過去を振り返っているの?
しかも小さい頃、ってどんだけ前のことだよ。小町もまだ歩けないくらい昔のことで、正直もう忘れかけてたし。ていうかなんで、そんな忘れかけのことを急に思い出したというのか。
何か原因があった? ——いや、思い当たる節なんて何も無い。
…………。
……ん? いや……。
やっぱり何もないな、うん。
俺の中で原因が思いつかないのであれば、……ん?
あれ。
唐突に過去を思い出すって、これ。
走馬灯じゃ————
「……!? んんっ……!?」
はっ、として我に帰る。事故にあった訳でもないのに走馬灯見るとか人生修羅場すぎでしょ。まぁ犬を助けた事故にあった時は走馬灯なんて見る余裕もなかったん——ん?
「はむ、んち、ちゅう……ちゅるっ」
「ふぃ、ふいっふぃき……!?」
そして、意識を手放したわずか数秒で俺はわらび餅ですら味わえないぷるもちな触感の一色にキ……す、を、……さ、れ……っ!?
「……っ、……ふ、ふふ」
「…………く、」
……ベッドに横たわる俺を見下ろしつつ、上目遣いで俺を射抜くその視線は、捕らえた獲物に思考を放棄する事を許さない狩人の眼差し。
狩りをもっと愉しませろと、掌の中で足掻いてみろと言っているかのような嗜虐的な笑みだ。
——或いは。
「…………な」
「っ!?」
「……………………な…………に、……し…………て……る……………………の………………っ!?」
……或いは自分の身は助からない事を知って、1人でも多くの道連れを増やそうとしているのかもしれなかった。
『わたし達、付き合うことになったから』——そんな言葉が一色の口から飛び出して数秒。
平穏でのどかだった毒草の野原に1人の色欲魔が火をつけた。……そして。
轟々と燃え盛る炎の中から、魔物が俺達の前に現れた。
「…………ッ」
瘴気とか禍々しいオーラとか、目にするだけで冷や汗が止まらなくなって身体中の内臓が悲鳴をあげる、おぞましい雰囲気。
そんなものを纏った怪物。まぁ俺の妹なんだけど。
親の仇の小指くらいなら平気で折りそうな目をした小町が、コキリと体を鳴らす。……え、今どこ鳴らしたの?微動だにしてないよね?
「どういう……こと、かな。お兄ちゃんと一色さんが付き合う? 小町、訳わかんないんだけど」
安心しろ。俺も訳わからん。
……なんて言える空気ではなくなっていた。
俺の病室はいつのまにか、薄暗くて湿っぽく、血の臭いだってしそうなくらい殺伐とした雰囲気に変貌していた。死体が転がっていても不思議じゃない。
……おちつけ。ここでとるべきアクションを間違えるな。
恋人になったという嘘を否定する?
ダメだ、小町は収まっても今度は一色が危なくなる。精神的に。
なら、真正面からではなくやんわりと、側面から崩しに出るか。
言いたい事は山ほどある。……しかし、恋人発表なんて、せめて当事者くらいには事前に教えておいてほしかった。……そんな意味を込めて頭上の一色を睨む。……と。
「……、……」
「えっとね、……こ、恋人同士になったんです。……ふふ」
(…………冗談だろ俺)
ちょっと戸惑うように手を握って見せた後に、これ以上口角が上がらないように両手で頬を押さえるこの顔。
……恋人ではないことをちょっと忘れそうな
(……っ)
ただ。
綺麗、とは言っても毒草の花が魅せる綺麗さというか。
悪口でも言っておかないと、簡単に惚れこんでしまいそうな。
理性が働かない魅力、とでも言うべきか。
毒があるとわかっていてそれでもこの笑顔を拒否れるやついるの? なんて思ったりもするが、そういや俺この顔に嫌だって言ったんだよなとか思い出し、目の前の
なんで目を逸らしたか? 決まってる。
「…………」
やばい。マジで人殺しそうウチの妹。
よく聞く舌打ちしそうな顔どころの状態ではなく、それこそ1番美味しいところをほんの少しの横槍で全て台無しにされた悪役のような、自分に咬みついてきた鼠の頭蓋を噛み潰す猫のような激情。それが肩の辺りから見え隠れしている。
「小町ちゃん?」
「……あぁ、はい」
「わかってます」
「一色さんの言い分は聞いたんで」
「お兄ちゃんの話聞きたいんですけどいいですか」
「あ…………うん」
そして完璧に流される一色の宣言。その視線は2度と口を開くなとも言っているようで、えーと、つまり……。
「え……あ、こ……ひゅっ」
噛んだ。思わず。
こっわ! こっっっっわ! 声ひっく!
猫は機嫌が悪い時には何をしても逆効果というのを本で読んだことがあるが、これは機嫌が悪いからどうとかいうレベルじゃない。
一色の気持ちは正直嬉しいけど、ここで小町を煽るのは1番良くない。というか小町を悲しませたくない。
それに、基本的に人の恋路を側から眺めてニンマリするタイプの小町がここまで一色の事を毛嫌いするなんて、一体何があったというのか。もはや性格が変わってるレベル。
「あ……いや小町。その……だな。付き合うと言ってもこれはライクとか好きって意味の付き合うじゃなくて——」
やんわりとでも否定しなければ。……とか考えていると、一色がしなだれかかってきた。
「…………」
「…………っ」
無言のやりとり。視線を交わした時間は僅か数秒。
……しかしその瞳の中に、爆発寸前の感情すらも押し潰しそうな〝怖さ〟が見えた——っ、まさかこいつ。
「…………えへっ」
「!」
……やばい、後がない。
一色は、〝自分の命〟というジョーカーを切りやがった。
どうする!? 間を開けると小町に怪しまれるし、かといって否定すればもう明日の新聞に一色が載ることになるし……くっ!
「……お兄ちゃん? どうしたの?」
「……あ、いやその」
やばい解決策が見当たらん。いやぶっ飛んだ解決法を探している訳ではなくて。
俺を悪役に持ってきて使う案はいくらでも思いつくが、その殆どが一色の存在によって潰えてしまう。
例えば、さも俺が一色に恋人である事を強制しているかのように見せる『弱みを握ったぜぐへへ』案は通るには通るだろうが、それはどんな在り方であろうと付き合うという一色が望んだ終焉の形だ。要するにバッドエンド。
『俺と一色の問題だろ。お前には関係ない』とか言って小町を部屋から追い出すのもアリといえばアリだが、それだと小町の不安を解消したことにはならないから却下。
「…………」
「お兄ちゃん?」
よし、しのう。
「——ラブ。愛してるという意味で、何が言いたいかというとつまり俺達は本気なんだ」
現状、体の自由さえ利かない俺は〝一色と付き合う〟選択を避けられない。
なら、とりあえずは付き合っている事にして、その後は退院してから考えよう。めんどくさいし。…………それに。
『——から、ごめんなさい。今の比企谷とは付き合えない』
……。あの時とは状況も関係も変わった。
『……俺も、最後に告白したのが折本でよかった。もう告白とかそういうのはやめにするよ。悩みが晴れたみたいに気分が良いし。……悪い、時間取らせた』
あの時立てた誓い。……少しだけ、目を逸らすことにする。
『……えっ? ちょ、ちょっとまってよ。何も無いのに恋人を名乗るのも変じゃん? だからさ友達から始めようって話なんだけど、あ、もしかしてお付き合いするなら結婚を前提にしたいってこと? ……大丈夫だよ、あたしと比企谷は最終的には結婚するから。好きっていう気持ちは途切れることはあってもまた湧いてくるものだし。今がどんなに離れた関係でも、赤い糸って切れるものじゃないし。比企谷があたしのことを気遣ってくれてるのは十分、わかってるよ。……あ、ちょっと待っ————』
……だから、許してくれ。
「……ほへ?」
俺の返しがよほど衝撃的だったのか、小町はぽけ、とはてなマークを浮かべた。たぶん言葉の意味を理解していない。
しばらくの間呆然としていた小町は、ゆっくりと口を開き、……そして目の端に涙を滲ませた。
「……お兄、ちゃんが……いろはさん、と……………………?」
震える声に歪む表情。……どれも、俺は見たことがある。小町が本気で悲しんでいる時の顔だ。
「この数日は、答えを用意する為の時間だった。それで、俺は今さっき答えを伝えたんだ」
ゆっくりと諭すように。これ以上小町を傷つけないように、言葉を選んで慎重に。
一色に押し切られた、のではなくあくまでも、俺が一色を選んだ。そう思わせられるように。
「……よくそんな口八丁がホイホイ出てきますね。ひょっとして今言ったのが本音なんです?」
黙っとれ元凶。
……ともかく、これが最善の道だ。
そう信じることに決めた俺は、真っ直ぐに小町を見つめる。
「…………っ」
小町の、肩がふるえた。
「…………じゃ、……い、もん」
「……?」
……何を言っているのか、聞き取れなかった。
「……すまん、なんだ?」
聞き返す——すると小町は顔を上げ、きっ、と
「……、——っ!」
息を吸った小町が、病院中に響くんじゃないかという声量で、恐らくは一色に対する敵意——思いをぶちまけた。
「お兄ちゃんじゃないもん!」
……はい?
「……はい?」
どゆこと? 俺じゃない?
……考えがまとまらない。思考が混乱している。……えーと。こういう時は状況整理だ、状況整理。
俺じゃない。小町はそう言った。
それは、小町の中で〝何かの原因〟が俺ではなくて、その〝原因〟は小町にとっての俺の中では俺になっている、か……?
(……何が?)
考えられるのはやはり一色とのやり取り。ていうか一色が小町に報告した時に彼女のことをがっつり睨んでるし、まず間違いはないはず。
え、俺と一色が交際するということが許せなかったんじゃないの? だから一色を睨ん、
『……お兄、ちゃんが……
————。
あれ。
なんで小町は、さっき一色の事を——
「……だから……っ、こま、ち……はっ!」
肩を震わせながら、
「こまちは、こまちだって……っぐ、一色さん——
————。
…………、……?
……。
え。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?
「いろはさんを横取りしたお兄ちゃんなんかにっ、絶対負けないから————!」
泣きじゃくり、目から溢れる大粒の涙を拭うこともせずに小町は病室から逃げ出した。
「…………」
小町が病室を後にして数秒、いや数分? 俺は動くことができなかった。
しばらく放心してはピリッと電源が点いたかのように意識を取り戻し、事態の大きさに打ちのめされて思考を再び放棄しては、はたと我に返る。
俺が寝ている間に失った4ヶ月という時間の重みを本当の意味で理解したのは、この時だったかもしれない。
「今の、本当なのか」
考えて出た言葉じゃなかった。混乱のあまり口から飛び出ただけの、誰に訊いているのかも曖昧な疑問。だけど質問以外の何でもない。そして、それに答えられる人間はこの場に1人しかいない。
「いえ…………わたしも、初めて知りました。……いや、でもあの態度は」
静かに首を横に振る一色も、驚いている様子。……てことは……。
「……小町は、一色のことが好きなだけ、か」
……場違いなんてのはわかってるけど、とりあえずほっと一息。
凄い勢いで肩の荷が降りた気分だ。まだすごいのが側にいるんですけどね。
内心穏やかになっていたらそれが顔に出たのか、一色が焦った様子で俺の肩に手を置く。
「ちょっ、何落ち着いてるんですか。かわりにわたしの貞操が危ないんですけど。ていうかこのままだとわたし先輩と添い遂げられなくなります。先輩いいんですか、その歳でわたしと一緒の墓に入るなんて」
「かわり?代わりも何も、小町はただ俺達の交際に反対してた訳じゃなかった。それがわかっただけで——って今、結婚と殺人と葬式と埋葬がセットになってなかった?」
「来世でも一緒のお墓に入りましょうねっ」
「嫌だから。……いやだから、小町が実はお前に惚れただけだったっていうのは、結構プラスじゃないか? って話だよ」
そう俺が返すと一色は、げんなり——というよりか不満な顔で頬を膨らます。
「……何処がプラスですか。わたし小町ちゃんに謝らないといけないんですよ。それに弟ならまだしも、妹に彼女取られるってどうなんですか」
「……………………」
どうなんです、か。
ふむ、どう……。
……。
……どう考えてもどう転んでも、バンドエンドになる未来しか見えん。
「何か言ったらどうですか、恋人先輩」
一色と俺との関係を終わらせてからでないと小町と一色の恋愛は始まらないだろうし、妹と元カノ(仮。ていうか偽)の恋愛とか、その事実を知ってるだけで多分死にたくなる。
……1番なのは、俺と一色が分かれて尚且つ一色も小町と付き合わないこと。これなら誰も死者を出さないだろうし。
その為にはまず、俺から一色を剥がさなければ。
「……別に嬉しくはない、いや悲しさがないって言ったら嘘になる」
嘘と妄想で塗り固めた経歴を、まるで体験談のように語る。正直効果があるとは思えんけど、何もやらないよりマシとは思って。
「……先輩? 頭打ったんですか?」
……明らかな選択ミスの実感と共に、こいつしばき倒そうかなとか考えながら、セリフを続ける。
「憤りも不満も感じるだろうな。お前を射止めた小町にも嫉妬するだろうし。多分2日くらいはショックで眠れないと思う」
「あの先輩、それはもしも付き合う事になったらっていう……」
「それは俺がお前にふさわしくなくて、お前を幸せにしてやれなかったって悔恨の証拠だからな」
「……あ、はい。ちょっと先輩、なんですかそのセリフ。どこの小説の何ページ目ですか」
流石に気づかれるか。……まぁ。
我ながら背筋が寒くなってきたところです、はい。
だがしかし、ごり押す。
「……ああ、勘違いはしないでほしいんだけど、一色には俺と一緒にいてほしいっていう思いがない訳じゃない。仮にも恋人にはなれたんだからな」
「……今だから言いますけど、わたしの告白に全力で嫌な顔した先輩がそんなこと言うわけないじゃないですか」
「でも、なんか、普通とは違ったみたいなんだよな。よく行ってみたい場所とかやりたいこととか言うけど、そんな、色々な楽しい事を2人で考えて嬉しくなりたいんじゃなくて、一色に、純粋に喜んで欲しかった」
「ええ違います先輩はだいぶ変ですホントにそえいうふんいきぜろでいわれても冷めるだけというかうにゃがまにゃまにょすっ!」
……どうやら、前後文脈ガン無視の言葉攻め作戦は成功のようだ。頬や耳まで真っ赤にして照れてらっしゃるし。
俺の素人演技でここまで照れられると、なんの為に言葉を選んでいるのかわからなくなるけど。
「一色の嬉しそうだったり楽しそうだったりする顔や姿を見て、そんなお前と一緒にいれる。それだけで俺は幸せだからさ。……それだけしかなかったから、俺はお前を幸せにはできなかったんだろうけどな」
「……そんな先輩っ、先輩がいたからわたしは生きているんですよ!? 先輩と一緒で幸せになれたのはわたしの方なんですから!」
「でも、それでお前が新しい……いや〝本当の幸せ〟を掴めるっていうなら、俺は喜んで送り出すよ。……あぁまぁ、喜んではないけど。束縛なんてする方もされる方も辛いだけだし。それに、今まで俺という鎖に縛られてたお前を解き放つ事ができるんだ。それに対する喜ばしい気持ちも、悲しいかなほんの少しはある」
「……わたしはわたしが望んで先輩と一緒になりたいと言ったんです。逆に束縛大歓迎です。共依存になりましょう?」
「…………」
「あ、戻った。もうお芝居は終わりです?」
……やっぱり失敗だったらしい。
手を顎に優しく当てられて、くい、と持ち上げられる。
誰かを参考にしているのか、彼女のその仕草は、逆に酷いくらい様になっていた。
離れてくれぇ……!
……だめだ、好意的プラス思考に勝てる気がしない。敵対的マイナス思考の方がまだいいんだが……しかたない。
話を前に進めよう。
「……俺、片想いしかしたことないからあまりこういうのはわからないんだが」
「先輩……っ、わたしに片想いしてたなんて今ここで告白しなくても……っ!」
俺の後輩が出会って数日で物忘れが酷い件について。
「一色のことじゃないよ気づけ。……じゃなくて、お前はどうなんだ?」
「はい?」
例えば、一色くらい直接的に告白してくる想いの寄せ方は稀だろう。俺だってその子のことを好きだと勘違いしていて、それでも告白しなかったことなんて山ほどあるし。
ああほんと頭痛い。
「どうなんだ、って小町ちゃんのことですか? ……色々と迷惑をかけたりしちゃいましたけど、わたしが身を捧げると決めたのは先輩だけなんです。小町ちゃんの気持ちは嬉しいですけどお断りしますよ」
「……すまん、言い方が悪かった。……小町がさっきみたいに泣いたりするくらい思い詰めてたのに、それって普段からわからなかったりするのか? 即興で出来る演技とかじゃないだろ、あの小町の声は」
家族にしかわからないこともあるが、一色は何より小町が想いを寄せていた当人だ。
俺にはわからない事を何となくでも察知できるかもしれない。——なんて考えていると、一色はこう宣った。
「え……あ、確かにそうですね。でも、ほんとうに小町ちゃんは先輩の事しか見えてないって感じでしたけど」
「…………は?」
一瞬、一色が何を言っているのか理解出来なかった。
……ああもう、今日は本当に、理解のできない事が起きすぎだ。
「……先輩?」
ほら、一色が何言ってるのかもわからないし。
「……っ」
ずきん、と刺すような痛みと共に、視界が揺れた。
……ああ、くそ。
近くにあるのに、ものすごく距離が開いて見える。
目に見えるものが変わる。……それくらいしか、わからない。
「あ……う」
「すごい熱……っ! な、ナースコールしますよ!?」
……多分、体勢が崩れたんだろうが、皮膚の感触も曖昧で、自分が何かにぶつかったのか、今おれがどんな体勢なのかもわからない。
「先輩っ!? 先輩!!」
泡だらけの視界の中で、何かに包まれたという感覚を最後に、俺の意識は途
☆
病院の廊下。
兄の病室を跡にしたばかりの少女は、壁際に設置された長椅子に座り、頭を抱えていた。
「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……」
本当は違う予定だった。
あの場所で少女は、実の兄に自らが抱えていた想いをぶつける筈だった。
だが。
「……ほんとうに、勇気が出ないんだからなぁ……小町は……」
涙が溢れ、鼻水が垂れるほどぐしゃぐしゃに悲しみを溢れさせている。それなのに破顔しながら、少女は呟いた。
兄に恋人が出来たことが枷になったのではない。少女自身の、心の問題だ。
肝心なところで萎縮してしまった。
実の兄に対し、自分でも良くないと考えている想いをぶつけるなんて。
——兄のことが、異性として好きだなんて。
優しい兄のことだから、少女の想いも受け止めてくれるかもしれない。
しかし、それ以上に兄に拒絶されることが怖くて、想いを口にすることができずにいる。
何故なら、兄のことが大好きだから。
嫌われたくない。兄への気持ちと同時に抱えてしまっているその思いが、少女を内側から苦しめていた。
「……小町は……どうしたら」
そう呟いて、繰り返しているうちに顔に浮かべていた笑みが崩れ、表情までもが悲しみに染まってしまう。
誤解を先に解かないと。あの先輩に想いを寄せているなんて間違っても思わないけど、兄に誤解されたままというのは本当に嫌だ。
(……でも、今日は……)
顔を見るという用事は果たせた。このまま帰って、何か別のことで気を紛らわしたい
——そう思っていると。
「え……?」
肩に手を置かれた。
思わず顔を上げる。すると少女の視線の先には、先程少女が誤って想いを伝えたばかりの、兄の恋人だという先輩がいた。
「……あのっ、ちょっと……っ!」
よほどの勢いで走ってきたのか、呼吸すらもままならない状態でその先輩は少女を睨んだ。
「へ、へえ……っ!?」
訳もわからずに顔を近づけてきた先輩に顔を赤くするも、その先輩が絞り出した一言に、少女の全てが吹き飛ばされた。
「……せんぱいがっ、高熱で倒れたの……!」
「——っ」
兄が倒れた。今はその情報以上に重要なことなんて、ありはしない。
「——すぐに行きます!」
大好きな兄の危機を前にして、少女は大嫌いな先輩と共にかけ出した。
ガハマさんと八幡が休日にイチャラブする話が浮かんできたんすけどR18はしない予定。わたあめみたいなさらりとした甘さで描きたいな。
ちょっと表示がおかしかったので直しました。
モザイク機能使ってみたんですけどなんか合わないので多分もう使わないです。今回だけ。