呪いは形を変えて私に定着したようだ。
子を為す確率は低くなったものの為してしまった場合……私の霊力を喰らって急速に成長する様になってしまった。
検査薬などで妊娠が発覚した頃には中絶不可とも言える程に大きく育ってしまう。
それほどに早い速度での生育……異常と言えるがある意味では都合が良いとも言える。
胎内にいる間だけなのか……それともまた別なのかは判断しかねるが……戦線離脱している期間は格段に減る。
なによりそれだけ霊力を吸い上げたとなれば優秀な退魔師の子が産まれる可能性が格段に上がる。
将来の担い手が産まれると思えば悪くは無いのかも知れない。
「指揮官、ちょっといい?」
「ん、今向かう」
声をかけてきたのは西洋の魔物専門家であり……同じくペラ紙防御仲間のオイゲンだ。
オイゲンの方の身体に染み込んでいたゴブリンの精液という劇薬も抜けてきた様だ。
ただ才覚はかなり多彩であり私並のノーガードから翔鶴程度の防御力は持ち始めていた。
一息入れてから呼ばれたほうへと向かえば……ドレス姿のオイゲンがそこに居た。
黒を基調とした……確か指輪コラボの衣装か、ゲームには実装されていなかったはずだが。
ふむ、その衣装もあるというのならコレまでにコラボした際の物はあるというのだろうか?
「もしかしたらだけどヨーロッパ式の術でなんとかならないかって思って」
「……あぁ、呪いの事か……どうしてそう思う?」
「私も実はあの爺妖怪に変な術を掛けられて、ほら……私自身には無理だったけど指揮官相手ならって思って」
「ふむ……」
聞けばオイゲンも私と同様の術を掛けられていたらしい。
というのも妊娠を確実な物にする術と生育を促進させる術、そして雌乳牛化の呪い。
私のと完全に同じではなかった様子だ……だが優秀な母胎とする類の呪いなのは間違いない。
ふむ、ゴブリンがいくら繁殖能力高い種族とは言え半日程度であそこまで……というのは不可解ではあった。
この話しでその謎というのがはっきりしたな……今もその呪いに苦しめられていて乳房は……私同様に非情に実っている。
私にも掛けられていたらと思うとゾッとするな、時間があれば私も掛けられていたのだろう。
「否、オイゲン自身で試して解呪出来ないのであれば不可能であろう」
「試すだけでも」
「オイゲンの評価は相当高いと聞く、向こうではほぼ敵なし……だったのだろう?」
「えぇ、そうだけど……」
「そんなオイゲンが試して無理となれば私で試しても無理であろう?それに程度は違えど同じ枷を背負う同じ視座に立てる
自分だけ完全に楽になろうとは思わんよ」
これは私の偽らざる本音である、確実な解呪か軽減が可能ならばやるが……
私の解呪も結局は偶発的な物、オイゲンで再現出来るとは限らんし何処の馬の骨とも知らん男に抱かれるのは……精神的によろしくなかろう?
「今日は私と共に行くのであろう?」
「えぇ、コッチで言う退魔巫女の入試みたいな所よ」
「一応ではあるが大鳳と翔鶴が後釜につく……以前私はこれで酷い目に遭ってな」
「聞いてるわよ、こっちの術を使えるようになったらギッタギタに処してやろうじゃない」
「……頼もしい限りだな」
ふわりと尻尾が揺れてしまうな、感情がもろに出やすく自覚すると尚の事恥ずかしくあるが……
本当に頼もしく、共に居るだけで心が暖まる娘ばかりだ。
自身の呪いや格下も格下のゴブリンによる陵辱で負った傷も見せず奮起してくれている。
……だというのに、私は……どこか、妖魔から受ける陵辱を好しとしていて……
未だに淫夢に魘される事があったりする、浅ましい事だ。
此度討滅依頼があったのは乳呑餓鬼という種付けの危険性が非常に低い妖魔。
女性の乳に異常な執着を持ち母乳を啜っては分裂を繰り返す、危険度は少ないが女性の性被害が多い。
そして一度吸い立てられればしばらくは母乳が溢れ続けるという二次被害もあるため……お鉢が回ってきた。
女性であれば何でも襲う為に退魔巫女が出向くほか無い……男の退魔師であればずっと逃げまわられる。
結界を張って探そうにも探知能力はかなり高い上に足も早い。
新人の退魔巫女にやらせる方が向こうから突撃してくる上に討滅も容易で安上がりだ。
懸念事項があるとするならばコヤツを餌に私達を釣って種を仕込もうとしている妖魔が居るかも知れないということか。
故に私とオイゲンが動く場合は保険として誰かがつくことに……
少しでも防御の術への適性があればこうはならなかっただろうに……翔鶴程度の防御でも欲しかったものだ。
「炎を扱う術っていうのが一番最初なのは一緒ね」
「ほぅ、西洋でも同じか……魔を祓うにはやはり火というのが印象強いか……」
「動物避けっていうところからも来てるんでしょうけど」
戦闘となれば私達の標準衣装と思いきや……オイゲンは悠々とドレス姿のまま戦っていた。
得意という剣での攻撃は封じたまま、私よりも効率的に最小限必要な火力で屠っていく。
その鮮やかな討滅は歴戦の勇士と表現しても良いと思う。
既に妖気を探知するに至っていてその才覚は天賦の物だろう。
一直線に向かってくる餓鬼達を片手間程度にささっと燃やしていっている。
私の出る幕は無さそうだ、第2の綾波となれるやもしれんな……末恐ろしい。
「ッ……」
「どうかしたか?」
「呪い……」
「……なんと、斯様な」
順調に潰していき既に10は餓鬼を潰したオイゲンが歩みを止めて両手を胸に……そして苦しげな声を漏らした。
何事かと心配してみれば……仄かに香る乳の匂いと芳醇な霊力、魔力……恐らくは乳牛の呪いが原因と思われる。
些細は聞いていないがざっくりとした話しでは妖魔をこれでもかと養育する乳を漏らすようになるという。
指向性を持たない妖魔にとっての餌となる霊力を多量に含んだ母乳が漏れ出ているのだろうな。
体質的には私もその傾向があるが……西洋にて母乳体質に改造されていたオイゲンはさらに拍車がかかっている。
呪いが強く作用し始めてドレスの胸元に大きなシミが生まれていく。
「指揮官、ごめんなさい……」
「良い……少し休むが良い」
動けぬ程に魔力を吸い出されていくオイゲンを護りながらの討滅か。
滾る、少しは良い所を見せねばなるまい。
餓鬼の見た目は見間違えることはあり得ん、私も妖気の探知は出来る。
向かってくる餓鬼は片っ端から燃やして燃やして燃やし尽くしてやろう。
「いざ、参る」
手始めに乳の匂いに釣られてやってきた餓鬼共に遅れを取るわけにはいかん。
オイゲンが漏らした乳の匂いに触発されやってきた餓鬼の勢いはそれはスゴイ物があった。
私も必死に術で焼き払いながらその物量、勢い、そして執念というものに圧されたものだ。
なんとかオイゲンが復帰するまでは護りきり、今日の任務というものは無事終えることが出来た。
オイゲンの評価もまずまずといった所……やはりネックになるのは呪いからくる霊力漏出か。
私は豊富な霊力とそれに支えられた大火力を有するが……防備がネックであるし母乳になって出てしまう霊力も多い。
どうにもクセが出てしまうな……
「して、その呪いの波というのは?」
「体感的に4時間おきに来る感じね、おかげで魔力も霊力も回復力っていうのが増えた気がするわ」
「ふむ……暫くは一人での任務は封じられるであろうな」
「そうよねぇ……指揮官も同じだったんでしょ?」
「んむ、今回は危険度が低いとの事で組んだのだがな」
帰りの道中ゆるりと徒歩で行っていた。
警戒していた翔鶴も大鳳も別件の任務に向かったようだ。
大鳳は相当抵抗したらしいが……翔鶴が上手いこと丸め込んだのだろうな。
……のんびりと帰っている最中ではあったが、どうやらまだ仕事は来る様子だ。
ざわざわとする感覚が……
「……分かっているな?」
「えぇ、もちろん」
「……向こうも分かっているな!」
「統率の良いことね!」
身構えれば現れてきたのはどうやらこの付近に埋葬されていた遺骨……と思わしき死人憑だ。
行ってしまえばスケルトン、オイゲンにとっては狩りなれた相手であるのは間違いない……
しかしながら得意とした得物、剣は置いてきている……そも、今の乳房で格闘戦が出来るかと問われるとNOだ。
巫術は相性が悪いものばかりしかない……大丈夫かと問われると……これまた疑問が浮かぶな。
それでもやる他あるまい。ここで捕らえられたらどうなることか。
肉体は在らずともその代替手段なぞありふれている……
骨が主体というのが厄介極まるこの妖魔には私やオイゲンが行使できる巫術では対抗しきれなかった。
徐々に追い詰められていき……道を大きく外れどんどんと人が寄り付かぬ領域へと追いやられ……
そしてたどり着いた先はといえばズタボロの廃病院……怨霊渦巻く妖魔が生まれやすい環境下に追い込まれた。
最悪とも言える、捜索の手も届きづらい場所に追い込まれた上に新人と新人から毛が生えた程度の巫女二人……
そして廃病院そのものがある意味妖魔とも言える様相に変わっている。
あちこちから怨霊が発する妖気が飛び交っている……死人憑が追いつくのも時間の問題とも言える。
何よりは私の頭にこっそりと聞こえてくる……
――――ヒ、ヒヒッ……女、極上の女……!
――――少し待っておれ坊主……先にあの西洋女を犯しておくと良いわ
私にとってのトラウマの声が聞こえてきていた。