妖魔に危うく孕まされる所だった次の日。
吸われた霊力・魔力は回復しきっていたし何なら総量が増えてさえいた。
より妖魔にとっては美味しい餌と進化を遂げてしまっていた。
喋り方も若干ながら違和感があって……あまり言葉を交わしてない他の退魔巫女からも指摘された。
だが、私としてはこの喋り方が正しい……そう思っている。
妖術もしっかりと祓われていて妖魔の術の可能性は低い……
「次の妖魔討伐か……昨日ああも良いように弄ばれたというのに……」
"犯されたがりの淫乱娘め"
「ッ……違う、私は……いや、オレ、は……」
フラッシュバックする老齢な妖魔の罵り……正確ではないが……
それに、うっすらと思い出した……私なんて一人称は使ってない!
これ、催眠術……催眠があのたった数十分の合間で深く浸透しかけていた……?
事実に気がつけたからまだ戻れたけれども……本当に酷い、な……
強く作用するタイプの催眠だと術で祓われる事が多いと聞く。
あえて効きが遅く浅いタイプを使ったのは……違和感を感じさせずに書き換えを?
そうやって術で意識の根底を書き換えて都合のいい女を作ろうと……?
少し自分の事をしっかりと纏めるために日記をつけておこう。
後々で自分を見失っていることに気がつけるかもしれない……
そういえば、幸いだったのは衣服の用意は既にされていることだ。
信濃の着物はかなり造形凝っていて制作には時間を要するとの事だが……
一応ながら替えのモノとして用意してくれる。
それまではこの世界で一般的な退魔巫女の装いで我慢する他無い。
しかしその退魔巫女の戦闘衣装が……
「どうみてもAV撮影用の巫女服……」
普通の巫女服から打って変わりへそ出し腋出しの露出過多の白衣、ミニスカートになってしまった緋袴
赤色が眩しいニーハイソックス、札を収納するレッグポーチ……
飾り程度にしかならない付け袖がくっついてなんとか巫女風を保っている。
……これで一応霊力的な補助があって妖魔に引き裂かれることはない頑丈な衣になっている。
左腰には破魔の術が仕掛けられた刀を下げるためのアタッチメント。
まだ駆け出しも駆け出しなオレには配給されていないし適正があるかも不明だからお飾りだな。
「胸元は締まらないし……余計に……AVコスだ」
通常ありえるサイズであれば普通に胸元は確り閉まる。
しかし信濃の身体にくっついている胸はそれはもう巨大が過ぎる。
いくら頑張って詰めようとしても……別な巫女の助力を得ても詰め込むことはできなかった。
通常であれば術である程度の物理的干渉は防げるが……こうも無防備だとそうにもいかない。
物理的にも弱く術的にも防御は紙に等しい巫女がここに誕生してしまった……
当然今日も退治には出なければならい、妖魔はいくら退治しようと産まれてくる。
人の負の感情や邪な意思から形取ってこの世に受肉する。
今日オレが退治するのは妖魔の中でもとりわけ数が多く被害的には結構な数が出る……
妖獣、妖魔の妖気に当てられ変容した獣達の退治だ。
妖獣になりかけ、なりたてだったら普通の猟友会の面々で対処可能らしい。
しかし妖獣になって日が経つほどに体質は妖魔のそれと変わらなくなる。
体毛は鉛弾を弾き返し牙は鉄板なぞ容易く噛みちぎってしまう。
そして副器官として手足のように使役できる触手が生えてくる。
男はそんな化け物に喰らわれる餌になってしまうし女は芳醇な霊力を吸われ次世代の妖獣の苗床として使われてしまう。
そんな性質は変わらない……妖獣となった動物は皆巫術で滅さなければならない。
幼魔とならぶ駆け出し巫女が主に相手をする雑兵も雑兵。
術を使う相手は確認されていない物理的にコッチを翻弄して組み敷こうとしてくるだろう。
普通の妖獣の場合は群れで行動することが多く……その数は20位が並。
多くなればその倍は軽く越えてくる。そこで退魔巫女が現れた妖獣を滅する。
そうしなければその近辺の住人が危ない……気合を入れていこう。
妖魔の活動域と人間の生活圏は結構隣接している事がある。
今回の妖獣の確認された地域は……まさしくそれ。
人の住む街の近隣の森林。山の麓というべきか。
「夜の帳が降りた……退魔の時間か」
基本的に妖魔は夜中にその姿を現して人を襲ったり人の生活圏を荒らしていく。
近隣住人は一応避難してもらって……オレが妖獣を滅したらまた結界が解除される。
妖獣になりかけのモノは結界をすり抜けるから念の為の措置だ。
入れば濃ゆい妖気がオレを出迎えて包んでくる。
妖獣の基本戦術だ……退魔巫女が来たと判断すると群れで妖気を濃ゆく放出する。
これで結界内の妖気をかなり濃ゆくして妖気の発生源を探知できなくする。
頼りになるのは耳と目だけ……胸元の勾玉はもう真赤っかだ。
元々は獣であり気配の隠し方はそれはそれはそれは周到だ。
「視線に敏感になったのは……女になったから、か?」
ゆらりゆらりと揺れる尻尾の奥、まだ胸ほど熱烈に触られたことはない尻に視線が集まっている様に思う。
視線にねっとりとした熱を感じるのはこの身体の獣的な要素に惹かれてのことか?
……獣憑きの女性は妖獣に好まれるとも聞いたな。
オレ以外の獣憑きの女性は見たこと無いが……獣の要素がどうなるのかもマチマチらしいな。
たまたま今回相手する妖獣が同じ系統なのかもしれないな。
犬科の動物が元の妖獣だったらオレは格好の獲物となるか。
「ッ……シッ!!」
――――ギャウンッ!グゲゲゲ……
焔火はもう咄嗟に出せるくらいにはなったか。
術的には無駄がかなり多く消費する霊力は割増されているが出ないよりかはマシだ。
火力は十分、術一発の火で妖術で燃やし尽くされていく……炭にもならずサラサラと塵になっていく。
これは小手調べの一匹だろう。まだまだ他に居そうだ。
奥へと駆けていく複数の足音……誘っているのか逃げているだけなのか……
全部滅さなきゃオレも帰れないし悪いが全員滅する。
「ッ……走りづらい!」
足回りはかなり自由が効くし振り袖が煩わしいなんてことはない。
今まで走ったのと言えば恐慌状態で走った妖魔との最初の遭遇のあの時ぐらい。
冷静かつ自分の状況をよく理解できている状態で走るのは始めてだ。
大きく弾む胸、骨格の違いからくる力の入り方の差異に惑わされてしまう。
苛立ちに狐耳や尻尾も反応して動くからさらに……慣れなければならないか。
「ぅっ……こういうのはあの着物じゃなかったのにな」
走っていると防御力が皆無に等しい胸元がさらに広がり先端で引っかかっていた所だったのが……
激しい動きに当然耐えきれずにこぼれてしまう……これでも巫術の応用で脱げにくくなっているんだが……
再施術はオレには無理だからこの先退治が終わるまではこのポロリと戦わなきゃならんか。
……当然ながら晒し続けはよろしくない。妖獣だけとは限らないし……
妖獣の妖気に当てられた他の動植物が妖魔化していてもおかしくはない。
それらが天然の罠としてオレを襲う可能性だって否定しきれないんだ。
「そう考えると、この先憂鬱だな……」
再施術できるように、他の巫術も学んでおかないとな……
片手でしっかりと胸元を握りながら足音が消えていった森の奥へと歩を進める。
もう走って捕捉はできないだろう……オレはこれから妖獣の狩場へと入る。
一層気を引き締めなければオレはまた……慰み者になってしまう。
もう二度とはごめん被る。
随分と手入れがされていない森だ。草木は背を高く伸ばし放題。
妖獣が通ったと思わしき獣道がハッキリと見れるくらいには……
人が足を踏み入れた様子は無い、現代日本でそんな森は……よっぽどな過疎地じゃないか?
少なくとも人が住む近辺でここまでのは無いと思う。
妖獣を退治した後は草刈りくらいはしたほうが良いと思う……
――――グワァッ!
――――ガウゥッ!
挟撃か!草木の影が揺れたと思えば飛び出してきた。
数は2匹、さらに奥に4匹!確実にオレを仕留めにかかってきているな!
後ろに飛び退きつつ……あぁくそ、胸が!ポロリしたがそれを気にしては居られん!
こういう時は……待てよ、巫術で大事なのはイメージだ……
「炎よ、壁となれ!」
焔火が起点となる場所に燃えろと念を飛ばしているのならば……
自分周囲を囲って燃え盛るようにと念じたら……と思ったら実際にそうなった!
飛びかかってきていた妖獣はそれで悲鳴を挙げる間もなく塵へ……
飛びかかろうとしていた4匹のウチ2匹は頭を失って倒れた……残りは方向転換をして下半身を失いながらも逃走。
気配はまだまだある……この付近が奴らの狩場……
よくよく茂みの中には白骨化した遺骸がちらほらと見える。
最悪なのはこれらがさらに妖魔として動き出すことだ。
早い所妖獣を狩り尽くさないとな……この骸達も弔ってあげないと。
耳朶にパァンと弾ける音が飛び込んだ。
何事かと思えば次の瞬間には胸に何かが巻き付いて……足にも何かが巻き付いていた。
「ぇ?」
ジュルジュルと吸い上げられる感覚とスルスルと足を登っていく感覚に呆然となる。
その伸びてきたモノは内蔵が化けたような触手だった。
その根本はといえば……頭が無くなってしまった妖獣……仕留めたと思ったヤツら。
しっかりと生きていて……オレの油断を誘うために死んだフリをしていたのか。
胸から変換されて出ていく霊力と魔力……巫術の行使は、まだ出来る!
「くたばってろ……!」
胴体を完全に燃やしきるため焔火の行使……なんだこの、虚脱感……
一気に力を持っていかれたような……霧散、したのか?
一応、拘束した2匹は燃やせたが……捕まったらまずいっていうのは、こういう事が原因か?
すぐには回復できないし……次は無いものとして見ないとな……
ざわめく木々がオレの不安をさらに煽っていた……
評価、感想ありがとうございます。
本当に励みになってハゲになっちゃいますね。
モチベの光で一人EDMフェスできちゃいますよ。