卿が忽然と姿を消してからどれ程経ったのかしら……日に日に母港の活気が死に絶えていくのを目にするのは辛いわ。
研究に没頭して気を紛らわすのも……もう、限界ね。
鉄血のあちこちからも失踪者が増え卿の後追いかと噂される始末。
……オイゲンも消え、ハインリヒも消えた。
ローンを始めとした主力打撃部隊も姿を見せなくなり……母港には暗雲が立ち込める一方。
平穏は訪れたのに……私達の心はまるで真逆……
「指揮官……私も、流石に疲れてきたわ」
誰も居ない部屋の中、研究資料に埋もれて……気だるさに身を任せ、瞼を閉じる。
照明を消せば真っ暗……今夜は、新月だったわね。
今の私の気持ちと……一緒、先が見通せない闇の中……
――――会いたいわ、愛おしい我が指揮官
その日を境に指揮官が元々所有していた母港のKAN-SEN一同……忽然と姿を消したのだった。
まるでそこに居なかったかのように、忽然と……指揮官が姿を消した時と同じく。
その遺産も……なにも残さず。
一人一人ではない……全員が……だ。
木々のざわめき……?おかしいわね……室内でこんなに聞こえる?
風速は予報だとそこまで無かったはず。
そもそもだけど……私、研究資料に塗れた床で寝ていたように思うのだけど……
頬を……そよ風が撫でている……どうなっているの?
あぁ、酷い……身体も頭も重いわ、徹夜続きだからしょうがないわね。
吐きそう……こんなに無理をしたら指揮官が諌めに来るかもしれない、そんな淡い期待をしてたけど……
夢にしては随分と情報量が多いわね……重力も風も匂いも……
目を開けてみれば……見知らぬ川辺に居た。
丸石が転がり、土も混ざり……どこかの山の川と推測される。
山奥じゃない、中流付近……だけど人気は少ない、遠くに見えるのは……廃村かしら?
家屋の形式は重桜式に近いわね、木造の一軒家が並ぶ……
指揮官の田舎がこんな家々が並ぶ場所だと言っていたわね……
「……軍帽もコートも無くなってるわね、鉄血の指導者らしからぬ有様に追放でもされたかしら?」
ほぼ身ぐるみ剥がされているも同然。
軍刀も無い、鉄血の指導者から一介のKAN-SENに戻った……といった所かしら。
鉄血対ロイヤルの喫茶対決をした時の服装ね……あの時も楽しかったわね。
……それも全て、指揮官が居たから。
「惨めに感傷に溺れてしまえたら……どれだけ良かったかしらね」
あまり感傷に浸っている訳にもいかないわね。
ともかくどうにか何処か……人気がある場所に向かわないと。
どこまで行けるかは不明だけど……この川を下れば良いのかしら?
大荒れだけど航行出来ないわけじゃないわ、火砲は無いからまるで力が出ないけど。
「指揮官……貴方は一体、何処へ行ってしまったの……?」
恋しいわ、指揮官……何度貴方に抱かれる事を切望して……
っと……川の流れは急ね、所々ジャンプして超えないと危ないわ。
海の時化よりも難しいかもしれないわね……
……電線の張り方も重桜式ね、となればここは重桜?
にしてはコンクリートも敷かれていて妙にユニオン的ね……形式も何処か違う。
交通案内の表示ね……あれは……変ね、知らない地名が使われてるわ。
私も完璧に村まで暗記しているとは言えないわ。
けれど……こういった案内板に出る主要な街は覚えているつもり。
……まさかね。
私は、別な次元に飛ばされていたと言うの?
「ん……!?何がっ……!」
足元の川の水が……畝り、足に登って……!?
その川の流域は妖魔、とりわけ擬態に特化した妖魔の生息域として閉鎖されていた区画だった。
水に同化して苗床に適した雌や食糧になる雄を待つのだ。
そしてお眼鏡に適う雌……ビスマルクという魅惑溢れる女性を労せず手中に収めた。
ここに居たのは特に海洋生物に分類されるはずのイカのような物だった。
知性は然程無くただただ己の力を増やすためだけに襲う。
活動中の妖力は独特で直ぐ様に感知される。
退魔師側にも、他の妖魔達にも……
あっという間に逆さ吊りにされ何が何だか。
スカートを押さえながら足元を見ても不可解な現象に襲われていて私が発狂して幻覚を見ているのかと思うほどだわ。
少なくともこうして脳内で分析出来ているから発狂しきってはいないと思うわ。
これが幻覚だったりしたならば擁護不能だけど。
その水だと思っていたものがどんどんと形を成していく。
太く大きな……イカの足になっていった。
水面下に映ったのもそう、大きなイカの本体が見えた。
確実に私を捕食しようとしている、死物狂いで抵抗しようとしたけれども……
私の抵抗する腕はすり抜け、逆に向こうからの干渉はしっかりと届く。
両腕も絡め取られ……逆さ吊りの磔みたいになった。
さながら……聖者の処刑みたいね……私は聖者でもなんでも無いけれど。
「……興味深い現象だけど1ミクロンも笑えないわね」
水面下の巨大な目と合ってしまった。
不可解な事に……イカは人間のように笑うことなんてあり得ないのに……
私の目が確かなら……いやらしく、ねっとりと笑ったかのように見えた。
次の瞬間には水面からさらにイカの足が伸びてきて衣服に引っ掛けてきた。
スースーとする……そんな感覚にもう何度目になるか、何事かと目を凝らした。
「……なっ!?」
私の衣服から……乳房を引き出し、ショーツを奪っていっていた。
破廉恥な……ま、まさかと思うけど……私をそういう意味合いで食うつもり!?
「冗談じゃないわ、私の純潔を捧げる相手はしっかり私が決め……がァッ!?――――――――ァァァァアアアアァァァアッッ!!!」
私の意思は無視され、辱められ……純潔も奪われた。
指揮官も理不尽な運命に奪われて……女としての尊い物も奪われて……私は、何が……
神よ……私は何かこの様な恥辱を味わう罪を犯したと言うの?
無惨にも引き裂かれ妖魔の触手が悲嘆に荒んだビスマルクに襲いかかる。
とりわけビスマルクは負の感情を抱えていた。
それが妖魔の呪詛を早く染み渡らせる。
妖魔の基礎は人々の負の感情だ、当然……ビスマルクの内心に燻るそれもかなりの養分になることだろう。
――――酷い臭い、酷い感触、酷くぐちゃぐちゃな心……
泣き叫べるものならば恥も外聞もなく泣き叫んでいたと思うわ。
一周回って冷徹に居られるのは幸運であり不幸だわ。
私の初めては人間ではなかった……バカでかいイカの化け物が初めての相手?
ハッ……三流の官能小説でも見ないことだわ……こんなフィクションの様な事を味わったなんて誰が信じる?
私だってコレが夢だと思いたいわ、でも……どれだけ考えても、冷えた頭が夢でない事を告げる。
ヌメリ気を帯びた触手が私の乳房を揉み回し、口にも入り込んで何かを飲ませてくる。
生臭く、酷い味……噂に聞くスペルマみたいだわ。
そして痛みを生む股の触手……こっちの心境も身体も考えていない乱暴で一方的なピストン。
身体が揺らされ、内蔵もめちゃくちゃに押しつぶされていく。
私が混ざって消えていくかにも思える……酷い体験。
もっと腹が立つのは……触られた肌の上が妙に熱い事。
発情していく我が身体が……憎たらしい限りだったわ。
殺して欲しい、こんな辱めを受けて生きていくのは……辛いわ。
悔しさに目に……涙が浮かんでいく、風景が滲んでいく……
ぐぷっ……ぐぷっ♥
頭蓋に響く水音、耳には股から響く物が飛び込んでくる。
快楽を感じている身体が勝手に震える……イヤね、本当に嫌だわ……
「ぐむ……ぅぅっ……」
触手が這い回る乳房から明確な快楽が来る……
膣はもう……痛みが無くなってきている、ロストヴァージンしたのは数分前なのに……
あり得ない、あり得ない事なのに……!
『美味……感情も、身体も……お前はオレの物だ……』
昏く粘着質な声が響く、同時に……私の穴という穴に飛び込んでいる触手から何かが弾けた。
ごぷっ、どぽ……ごぷごぷ♥♥
熱くドロっとしているそれを精液と認識するのは……一瞬だったわ。
お腹の奥に注がれていくそのおぞましい感覚に襲われながら……私は、失神した。
次に意識が上がったのは……身体の強烈な熱を感じてのこと。
そして、とてもひどい……私の出すことのない甘い悲鳴が出たのを覚えてる。
でも……それ以外はすぐに……感じれなくなった。
ぷつんと……全部、どうでも良くなった。
なにせ、目に映る物が触手で埋め尽くされていたのだから。
ビスマルクが発見された時、それはもう酷い有様であった。
ディアンドル風の喫茶店制服は見るも無惨なボロボロの姿。
出るトコ出て締まる所締まった完璧な美を現していた身体は……やはりと言うべきか妖魔の苗床に適した身体に作り変えられていた。
乳房は当たり前のように頭以上に大きくさせられ……子を安定的に産ませるべく骨盤も頑丈に。
街ゆく雄に襲われさらなる淫欲を産ませるべく身体はいやらしく変えられて行っていた。
母乳もまた数リットルと搾り出るほどになり……
検知され捜索、救助が試みられ……実際に助け出されるまでの大凡6時間を触手により凌辱されつづけていた。
ビスマルクの罅入ったメンタルはもう……ボロボロで助け出されたときは呆然と……空を見上げていた。
……ただうわ言のように一つの単語をつぶやき続けていた。
「しきかん……どこ……?」
かつて慕っていて、その指揮下で活動した……自身の指揮官の事を探すだけ。
他になにも……反応を示さなかったのだ。
過剰なストレス反応の後の防衛反応かとも思われる。
迎えに行き、妖魔を滅ぼして来てからその……ビスマルクが収容されたという支部に向かった。
先にオイゲンが向かっていたが……かなり憤っていた。
あんなにも表情に出してキレているオイゲンはおいそれと見れたものではない。
「指揮官……どう?」
「大きくなる前に滅した……ビスマルクはどうだ?」
「……ひどくやつれてるわよ、指揮官を求めてるわ」
「わかった……」
随分と酷い負の気だ。
部屋の戸越しであって重くのしかかってくる。
……辛かったろう、フォーミと同じだな。
「失礼する……ふぅ、これはこれは……」
「しき……かん……」
濁った瞳が天井を見上げている。
身体は私達と同じ様に妖魔に好き勝手されたのだろう。
こうしている合間にも乳房からは母乳が垂れて居る。
私が知る限りではサラサラとしていて艷やかな金髪であった筈の物が……枝毛も酷くなってる。
目元には深く刻まれた隈、よほど徹夜していたな?
「辛かったろう……あぁ、歯がゆいな……私に出来ることはなんと少ないことか……」
心を癒やす事は我が身には適わぬ。
恐らくは……見知った指揮官である、信濃の身になる前の私を求めておろう。
……ただ、今は……撫でることしか出来ぬ。
「……ん、どうし……」
強く手を握られた……?手首を見れば蒼白な手が。
さらにビスマルクの顔を見れば……信じられないといった様子でこちら射抜いていた。
「貴方、誰?どうして指揮官と同じ行動をとってるの……?同じ仕草をしているの?」
「……イチから順を追って説明しよう、少し落ち着くと良い……」
説明しくじれば私が襲われるな、コレ……明らかにヤバイ目をしている……