ビスマルクの精神状態は非常によろしくない状態だった。
それは承知していたが……ここまでとは思っては居なかった。
「貴方……本当に、本当に……指揮官なの?」
「……こほん、あぁ……こちらもまるで何が何だか分かったものではないがな?」
「……そう……ッ、イヤ!手を離さないで、お願い……!」
「むぅ」
離れようとすれば軽い錯乱状態に陥る。
私の所作、意識して男であった時の口調を出してみれば完全に私を指揮官と認識した様子。
あまり多くは語ってはくれないが……余程……指揮官を、求めていたらしい。
縋るような第一声、口籠り黙考する私を認め……指揮官と問う時の揺れる瞳……
どれ程の時間……その思いを抱えていたのだろうか?
推し測る事は難しいが……ビスマルクを、鉄血の指導者を憔悴させるには十分な時間が過ぎていたのだろう。
身体は私達同様に爆乳と言って良い有様になったが……それ以上に目を引くのは目元の隈だ。
KAN-SENは非常に……頑丈だ、多少の徹夜でこんな隈を作ることは無い……
……追い込まれたか。
何かを忘却するには余程何かに没頭せねばなるまい……ビスマルクであれば……研究か。
「ふぅ……随分と無茶な事をしていたな?」
「……ごめん、なさい」
「あぁ責めている訳では無い……ここまでした私の不徳を許して欲しいよ……」
握られていない手で頭を撫で……頬に添える。
どれだけ泣き腫らしたのやら、あぁ……この目を見るのは堪えるな。
「……なら、今暫く……ぎゅっと抱きしめて」
「然と……」
変わり果てた我が身、こういう時だけは良いと思う。
包み込むには十二分すぎる胸に抱き込み……背中をポンポンと優しく、幼子にするように手で叩き、撫でる。
……どんなに変われど私は私、指揮官である。
それがビスマルクにどう思われるかは推し測る事叶わぬが……耳につく啜り泣く音がすべてを語ろう。
悲哀と歓喜か……
少し落ち着きを取り戻したビスマルクは朗々と転移する前の事を語ってくれた。
事態は突拍子も無い事柄だが……その頭脳の冴えも戻ってきたのだろう。
直ぐ様に噛み砕き飲み込み……優れた才もあるのだろう、魔力を知覚していた。
そう、西洋の……オイゲンがヨーロッパの地で猛威を振るっていた魔術の才だ。
……残念ながら妖魔には効きが悪いが……遠ざける、追い払うだけであれば十分な物だ。
深い信仰を持っている者であれば祈りをもって祓う事もできるそうだが……
それこそ今もヨーロッパ……ブリテンに縫い付けられているイラストリアスが該当するらしいが。
最後まで我が母港にとどまっていたのはそう多くない。
ハインリヒ、長良、樫野……そして雲仙と言う者がいたらしい。
ユニオンの者はエセックスにプレマートン……サンフランシスコか。
「ビスマルク、他には覚えは無いか?」
「いいえ……他は皆本国に戻っていたわ……皆名残惜しそうにはしていたのを覚えてるわ」
「そう……か……こちらに来たとして、酷い辱めに遭う……離れて正解だったかもしれん」
「……そうとも限らないわよ?このメール文章……本土でも行方不明KAN-SENが出ているの」
「……迷い込んでいる可能性は大いにあると?」
思わず天を仰ぐ……どれだけのKAN-SENが居たか数百は居るというのにそれら全てに可能性が?
とはいえ、私がよく作戦に起用していた面々が……というのがキーだろうか?
それとも……有り体に言えば好感度が好きや愛にまでなっていた面々か。
「失踪した面々のリストをくれ……ビスマルクがこちらにとなれば……恐らくは……」
「少し……時間を頂戴、それと……出来るだけ顔を見せてほしいわ」
「ん、善処しよう……目を向けていないとどんな無茶をするか分かったものではないしな」
「ふふっ……そうね」
少し名残惜しいがビスマルクの頭を撫で後にする……
色々と確かめねばならない事はあるし……ビスマルクがこちらの術に適正が無いことも気になる。
オイゲン、ベルが適正を持っているのに……
妖魔の勢いは衰えない……火力に富む我らKAN-SENの退魔巫女をして滅ぼしきれない。
更には爆発的に増えているという報告があがる場所もある。
……そこが怪しく思えた。普通の苗床であれば雑多な弱小妖魔未満が生まれるだけだ。
その凌辱の末に生まれる怨嗟が強大な妖魔を産むが……それはまた別だ。
「ふむ……武蔵、信濃の調子はどうか?」
「武蔵様の火力は抜きん出ています、防備面もやはり人間と比べれば劣りますが……それでも私達の中ではトップクラスですわ」
「……これが資料か?ほぉ、これは……防備と脚力を犠牲に火力にとった綾波と言うべきか」
「信濃様は妖魔と指揮官様との間の子……特異な術適正をお持ちですわ、妬ましいと思う反面指揮官様の子ですので……ぐぬぬぬ」
赤城は本当にそつなく……元より重桜の内政を担っていた者、書類仕事はお手の物か。
データをまとめるのも本当に良くやってくれている……見やすい、端的に纏まっている。
「……赤城ちゃんが着ていたら子と見て共に育むか?」
「ホッヒョ」
「……赤城?赤城……?立ったまま気絶するとは何と器用な……」
さて、ともすれば……戦力としてカウントしない訳にはいかん……
私は私で動くが……うむ、そうだな……信濃とちょうど共に……と思っていた。
街の見回りに出向くとするか……最近また街でも霊騒ぎがあったという……
どれほどの物かを見るには良い試金石になろう。
すぐ近くに武蔵と翔鶴のペアを……うーむ……戦力配分というものが偏るな……
綾波はもっと歯ごたえのあるのを斬りたいと言って前線配置を所望しているし……
「……オイゲン、オイゲンに少し助力を求めるか」
赤城はまだ伸びたままだ……復帰したら知恵を借りるとするか……
……妖魔の動きも何やら企ての気配がしてならぬ。
人の欲望から強大な鬼を撚り合わせ、生み出そうとしたり……
人が居なければ生きていけないハズだが……人をだいぶ駆逐して何を……
日本を食い尽くし妖魔の領土としようとしているのであろうか……?
男を食い散らかし我らをこうも苗床に変えているのも……神の思惑とは真逆だが……
それを良しとしているのだろうか……?
提案として私と信濃での町内視察を出した所全員で賛成された。
……曰く、親子関係になったのにまともにコミュニケーションを取れていない上に私が働き詰め。
いい加減休息をとれ、ビスマルクをどうこう言えた立場ではない、すこしぐうたらしてみろ……とのこと。
「身体の調子は……良いか?」
「……指揮官、汝は?」
急速に成長、発育してもう私と遜色ないレベルに成長した信濃……
これは妖魔の生態だろうか……だが、中身は間違いなく信濃だ。
少々眠そうに目を擦りながら手を握ってくる様子は幼子……否、手のかかる妹か。
ただ言いよどむ素振りがあったのは……私の呼び方を迷ったか……?
母上と呼びたいが……元の信濃の意識がかなり強い、元に戻った同然なのに母上呼びは……と遠慮したか。
「母上と呼んでも良いぞ?」
「……それは、公衆の面前では些か……恥ずかしく……」
「左様か……では、仲良し姉妹と……今まで大事にしすぎて遠ざけていたが、埋め合わせと参ろう」
仮に、私がまだ男であれば……デートだと言って舞い上がっていただろうがな……
本当に人生というのは何があるかわかったものではないな。
嘗ては最推し、唯一のケッコンを申し出た相手……その身体に押し込められ、産み……隣り立って歩む。
「どうか致したか、姉上?」
「んぶっふ……ん、んん……何でも、ない……」
羽休め半分、視察半分なのだ……浮かれてはならぬが……これは、なかなかに……
姉上と言いながらこちらを見る信濃は随分と……美しい。
甘えるような様子もまた、うむ……うむ……
「この街はまだ文明レベルを保っている方だ……あの建物、わかるか?」
「……重桜にあの様な建物は……おそらく、無かったと」
「……あれはゲームセンターと言ってな、遊具がたくさんある……どれ、一つ遊んでいってみないか?」
「喜んで」
この世界は私がよく知る世界と文明状況は似通っている。
置いている筐体も……恐らくは似ておろう。
しかし、二人の爆乳が入り込んだことがきっかけでそのゲームセンターも怪異の巣となる。
遊戯にかまけていた無気力気味だった男どもの欲に火を点けた。
最早信濃が歩けば雄を誘引するも同然という有様になっていたのだ。
次回、信濃親子vsスケベ市民&霊