空路を行くのも海路を行くよりは幾分マシ……それがこの世界。
欧州では魔物が駆逐された……と言っても陸上から駆逐されただけに留まる。
空中ではその脅威は未だ健在……下手につつけば返り討ちにあう。
お互いに不干渉を貫いているというのが正しいやもしれぬ。
日本よりは随分とイージーモードと言えような。
「予定通りに到着したか、この世界、この姿で見えるのは初となるか……」
「ふふ……そうですわね。ずぅっと……お会いしたかったです、指揮官様」
私をアズールレーンというゲームに引きずり込んだ女と言っても過言ではないな。
清楚、深窓の令嬢と形容するほか無い雰囲気を持ち……男を魅了する大きな乳房。
それでいながら顔立ちはどこか幼気なのだ。
喋る言葉はどこまでもお淑やか令嬢、纏うドレスは穢れ無き白。
しかし……欲情を誘う大胆さを見せる、奇しくもコレはイラストリアスという女を如実に示していると言っても良い。
「ふふふ、なんだか初めて指揮官様とお会いした時と同じ様な視線の動かし方ですわ」
「……左様か……んむ、どうした?」
「……いえ、同性になられたのはちょっと残念ですが……こうして距離を感じなくなったのは良いかと思いまして♪」
どこまでも受け入れてくれる女。
きっとどんな乱暴者、破綻者であれどこのイラストリアスという女は一度……指揮官として慕った相手を見捨てない。
それだけ懐が深く……一度気を許した相手には蠱惑的なちょっかいをかけだす。
オイゲンよりも直球の好意で仕掛けてくるから靡かないのは……まず、無いな。
実際……私も危うかった、イラストリアスの存在で始めたものの信濃の存在を識ってから随分と迷った。
二人に渡せばいいとも思ったがそれではズルズルと……沼に堕ちていく。
そう思ったが故……それに、専属艦とは?と首をかしげたのも……
思い耽っていると手を取られギュッと握り合い……見つめられる。
確かに、男時代では出来そうにないスキンシップかもしれぬ。
間違いなく手を取られたら……その胸に……
「……イラストリアス、お主も」
「えぇ、実は指揮官様と同じ様なモノです。至った道のりも」
「……よくぞ、堪え忍び……欧州を護ってくれた」
オイゲンもいくらか不覚を取る事があっても乳をいじられる程度だったと言う。
しかし……イラストリアスの肢体は……私と同じように感じた。
乳房には欲望が宿り集い……命の奔流がイラストリアスの肚より溢れる。
そして……微弱ながら、私と同じ生命の信仰を宿している……
護りの信仰もあるが……人間と魔物、両方より信仰されているのか?
「始まりは……退治した魔物に改心を求めた時でした」
不覚を取ったわけではない、そう……イラストリアスは言い……博愛とも言えるその行動を語った。
信じる心が魔物にも通用し人に害を成す存在で無くなると……
争いを何より嫌うイラストリアスらしい考えの下で魔物を打倒した後に説得を続けていた。
無論、魔物にそんな心は無く……イラストリアスは何度と無くその体を弄ばれた。
処女を失ったのも伏せられ退けては犯される……向こうの協会では博愛の性女……民衆には救国の聖女と言われた。
魔物共にもイラストリアスは都合の良い女と見られ……微弱な信仰を集めた。
まぁ、向こうはキリストが主要な信仰先なのもあってこの程度に収まっているのだろうな……
ブリテンに出現したイラストリアス……ドイツに出たプリンツ・オイゲン……そしてアメリカではエンタープライズにエセックス。
あまり数は多くないが基本的に出てくるのが空母ばかりだな……これはこちらと変わりない。
空母……母というのがキーなのだろうか……?
「まさか指揮官様も経緯はどうあれ同じようになっているとは思っていませんでした」
「……ちと、心が痛いな」
「まぁ、では……癒やしてさしあげましょうか?」
「私はイラストリアスのような慈愛の末ではなく単純に押し負けたり欺かれて身体を貪られただけだ……同じでは、ないよ……」
イラストリアスの胸部はそれはそれは……見事なまでに大きく実っていた。
私と並び立って全く同じと言って良い。
どれだけの回数、西洋の魔物に身体を弄ばれたのか……
幸いな事は……イラストリアスの力がそもそも浄化一辺倒というのもあって……
母乳を飲んだ魔物が軒並み浄化され、性行為した段階で一般的な動物に変わった事か。
お陰で繁殖することもなく、イラストリアスがそうして犯されることでもどうにか出来たのか……
「して、かなり……渋られたと思うが?」
「……ちょっと、押し切って来ちゃいました♥」
イラストリアスの存在はかなり向こうにとっては大事とは思うが……
残る怪異、人類の脅威は日本に集約してきている。
それ故……か……?考えてみれば押し通すのも容易か。
「それに、向こうの協会の方々からは私は……あまり良い印象は無いご様子ですから」
「……」
「指揮官様、あまり怖い顔なさらないでください」
……むぅ、イラストリアスの瞳に映り込む私は……
信濃らしからぬ憤怒に牙を剝きかけていた、無責任な向こうの人間には呆れと怒りが湧き出るが……
自覚している以上に……事、KAN-SENをけなされるとキレやすいのかもしれぬ。
「そうそう、折角のお顔を険しくされてはよろしくありませんわ、指揮官様には笑顔が似合っていますもの」
「……して、西洋はもう脅威が無くこうしてやって来れたが……こちらの妖魔と西洋の魔物は勝手が違うぞ?」
「覚悟の上ですわ、オイゲンさんの体験もしっかりと聞いていますし……」
「ならば止めはしない……くれぐれも私の二の舞いにはなってくれるな」
強力な妖魔の母になるのは……中々堪える。
同じ境遇はなるべく避けたい……だが、今日に至るまで押しては押されを繰り返している。
イラストリアスの参入が良い風となれば良いな。
そんな西洋の聖女と東洋の孕巫女が会合している最中、大陸より流れた魔物が驚くべき情報を持ち込む。
人間の手ではない不自然な魔物消失、浄化が急速に広がっている。
人間を食い殺すなどのヒマはない。人間に認知されている範囲に居なければ消される。
ほんのすこし残っている力の残滓からも原因はただ一つ。
『なんじゃと、神め儂らを狩りにきおったか……!』
不要になった穢れを排除し、不穏分子は適当に世界の外へと弾き出し……この世界の絶対的な支配者。
自称神を名乗る傲慢な意識体が動き出したのだ。
ミズホの神でも救世主キリストなどでもない……低俗で傲慢でしかない力だけはソコソコ持つ者が……
妖魔も魔物も生き延びるにはこの土壇場で人間とどうにか折り合いをつけ必死にしがみつく他にない。
座して死を待つか……それとも、なりふり構わず……神格を宿している女に泣きつき庇護下に収まるか……
神も妖も人が居なければ存続出来ない、人は妖魔に脅かされ続けた。
妖魔が今、再び世に出た真の理由……神によるマッチポンプを謳ったとして人間は聞く耳を持たないだろう。
そうなればどうなるか……もう神の出来レースになるだろう。
少しでも可能性があるのは……信濃に頼る他にない。
人であり、神でもある……色欲と母性の女神、信濃に……
世界は大きく、急速に動き始めた。
ぼちぼちと終わりに向かっていきます