ガーディアンテイルズ~騎士とユズの物語~ 作:羊merry羊
「今日もお疲れ様、カンパーイ!」
ここはダンジョン王国のとある酒場。騎士は今、冒険者を目指すサキュバスの少女ユズと卓を共にし、炭酸麦茶を一気に煽っていた。
元々騎士はカンタベリー王国のガーディアンズと呼ばれる親衛隊に配属されたばかりの新米騎士であったのだが、入隊初日に突如インベーダーと呼ばれる襲撃者達に国が襲われるという大事件が勃発。
ガーディアンの隊長と共に、王妃と妹姫を連れて亡命しようとしていたのだが、逃走中追撃に遭い、バラバラになってしまった。
辛うじて妹姫とは離れ離れにならずに済んだものの、本来ならば見習い騎士である自分に王族の護衛など勤まる筈も無いのだが、特別な武器に選ばれた結果、力ある者たちと縁を結び協力を取り付ける能力が備わった。
こうして騎士と姫、二人の国を取り戻す為の旅が始まったのだった。
……のだが、今は知り合った仲間たちとは一旦別行動を取っていた。
ユズが一人前の冒険者として認められる為には、特級冒険者ライセンスという物を手に入れなければいけないのだが、これは二人一組で挑む試験だった事に起因する。
最初はユズのペアを組んで貰いたいという一方的なお願いであったが、いざ組んでみると二人はよく息が合い、今ではアイコンタクトだけで連携が取れる程良きパートナーとなったのであった。
「それにしても今日のダンジョンは変わったギミックが沢山あったね。道を間違えるとワープするしたり、見えない足場を渡るなんて初めて。やっぱり冒険はドキドキのワクワクだね」
全くだと相づちを打ちながらジョッキを更に傾ける。
「でも残す試験もあと一つ、封印されている悪魔を呼び起こそうとしてる悪い奴らの居場所は突き止めたから、明日にでも事件は解決出来そうだね」
今回の試験内容は本来なら違う内容だったのだが、邪神復活を企み暗躍する者たちがダンジョンに確認されたことで急遽これを阻止せよと国からの依頼が出たのだ。
それに伴い、見事解決できた者には特級冒険者ライセンスが与えられる運びとなった。
「そうだ、今日迷宮で拾ったお宝も今確認しちゃおう。ええっと」
ガサゴソとアイテムバッグを取り出し中身をテーブルの上に広げる。ダンジョン王国では見慣れた光景で、剣や盾、宝石やアクセサリーなど様々なものが並び、二人と周囲の客を魅了する。
「あっ、ズルい!私にも見せてよ」
声を上げたのはそれまで周りの客に可愛がってもらっていた妹姫だ。
本来なら姫を危険なダンジョンに連れて行くなど言語道断。
しかし姫本人の強い希望によって、同行を許可してしまった。こっそり後ろからついていくと公言されてしまい、それなら最初から一緒に居た方がまだマシと言うものだ。
「今日も大漁ね。キラキラした石が沢山」
「そうだね、この指輪なんて素敵じゃない?」
自分はこっちの腕輪の方がいい感じだ。
そんなふうに皆で物色していると、姫が変わったものを見つけたようだ。
「この青い石はなあに?」
姫が持っているのは青い宝石のようで、石の中に光を封じ込めた様な模様が見える不思議な代物だ。
三人揃って頭を捻っていると、客の一人が寄ってきた。
「珍しいな。お嬢さん方、それは忘却の秘石と呼ばれるものじゃ」
「忘却の秘石?」
ユズが振り返りながらオウム返しに聞くと、初老の男性がそこにいた。
「ああ、魔物を倒すと魔石が手に入るじゃろう?お前さん方は力を強くする赤い魔石や打たれ強くなる青い魔石などをその身に取り込むことでより強い力を身につけるが、これはその取り込んだ魔石や戦闘の経験そのものを生きた相手から取り出せるという変わった物でな」
「んんん?つまり弱くなるっていうこと?」
「端的に言えばのう」
老人の意見にガッカリといったユズだが、老人の話はこれで終わりではなかった。
「自分に使えば弱くなるが、他人に使えば取り出した物を取り込んで強くなることも可能じゃが……」
「そうなの?なら使えるんじゃん」
「相手が拒絶しないことが条件なんじゃ。極端な例で言うと、気絶させた上で使ったりのう。でも気絶で済む程の実力差があれば大した成果は得られんだろうし、逆に大きな成果を出そうとすれば格上に挑むことになる」
情報量に頭がパンクしかけてるユズに変わって姫が手を挙げる。
「結局の所珍しいだけで使いにくい中途半端な物ってことね」
「そうじゃな、お嬢ちゃんは賢いのう」
頭を撫でられ、えへへと笑う姫を肴に騎士は追加の炭酸麦茶を楽しむのだった。
────そんな三人を遠くから見つめる視線があった。
「何でアイツはこんな所にいるんだ?まあいい、折角だから楽しませてもらおうじゃねえか」
何者かはグラスに注がれた酒を一息に飲み干すと、酒場を後にするのだった。
翌朝、起床した三人は邪教徒を捕まえるべく支度を始める。
そこで騎士から姫に向かって待機が告げられた。
「どうして!これまでずっと一緒だったじゃない!」
そうは言われてもこれから向かうは敵陣の真っ只中、安全を考えると絶対に連れて行くわけにはいかない。
「私も相棒に賛成だよ。今回は相手が相手だし」
今回の敵は邪教徒。通常の魔物と比較して素人同然の相手なぞ騎士とユズにとっては赤子同然の強さだ。
しかしその上で何故待機を命じたかというと、相手が人間であるからこそだった。
戦闘力がない元一般人を相手取りながら姫を護衛することは出来る。が、それを踏まえて立ち回るのではどうしても遅れが出る可能性がある。
何よりも人間相手では姫の持っている特殊な力が反応しないと言うのが一番の問題であった。
この妹姫には王家の血筋によるものか、邪悪な者に反応して発揮される未知数な能力が秘められていた。この力が偶発的に発動したことにより城からの逃亡が叶ったり、魔物を回避してダンジョンの奥深くに忍び込む事を可能としていた。
しかしこれらはあくまで邪な力に発揮されるものなので、人間相手ではそういった力を取り込みでもしない限りはまず無意味なのだ。
「悪意を持った人間は何をしてくるかわからないからね。トラップなんかもあるだろうし、今度ばかりは庇いきれないかもしれない」
「それでも私は付いて行きたい!もう誰かと離れ離れになるかもしれないのは嫌なの!」
私達が死んでも同じことを言えるのか。
「え、それってどういうこと……」
姫を守るために身を投げ出すこともあるかもしれない事、先行するリスク、常に守ることを意識した戦いの結末。
事実だけをただ述べていくと姫様は何も言わず俯いてしまった。
「相棒も姫様が嫌いでこんなこと言ってるんじゃないんだよ。寧ろ好きだからこそ無事でいてほしいって厳しいことを言うの。姫様は相棒のこと嫌い?」
「……大好きよ。わかった、今回はお留守番してる」
納得してくれたようで何よりだ。
この妹姫は見た目や性格は幼いが、思慮深さも持ち合わせている。
皆の幸せを願う、誰よりも優しい未来の君主の姿を騎士は幻視することがある。
今も自分たち二人の身を案じて引いてくれたことを嬉しく思うとともに、無事に帰ってくることを約束した。
「それじゃ、帰ってきたら特級冒険者になるお祝いにパーティーを開いてあげる。待ってるからね」
「楽しみにしてる、行ってくるよ」
行ってきますと手を振りながら、騎士はユズと供にダンジョンへ向かうのだった。
二人が邪教徒のダンジョンに入ってから早1時間になろうとしていた。
敵の施したトラップを潜り抜け、道中待ち受けていた連中も倒して休憩をしようかと提案したところだった
。
「結構順調だね。この調子ならもうすぐ最深部にたどり着いて無事事件解決できそう」
嗚呼、と頷きつつそんな時こそ気を引き締めて行かねばならぬと諭す。
「そうだね、最後の最後で失敗したらこれまでの苦労が水の泡だもん。しっかりしよう」
分かってくれたようで何よりだ。
と、二人で気を新たにすると、背後より何者かが近づいてくる気配がした。
伏兵かと張り詰めた空気が流れる。
コツ、コツ、と靴音が徐々に距離を詰めていき、ついには音の主がその姿を表した。
「あなた達……」
それは宿に置いてきたはずの妹姫のものだった。
何故ここへという疑問が浮かぶが、それ以上に見知った顔であったことに安堵するユズ。
しかし騎士はその表情を緩めることはしなかった。
姫の手は後ろに回され、そこから伸びる縄は後から現れた者へと繋がっていたのだ。
「ようお二人さん、性が出るこったな」
フルプレートアーマーを着込んだ者がそこにはいた。
その者はフルフェイスの部分に手をかけると、留め金を外して顔をこちらに晒す。
「俺の名前はハルバル。知っての通りダンジョン王国の英雄だ」
知ってる?とユズの顔を見るが、こちらも知らないと首を振る。
ピキッと音が聞こえて来そうな程コメカミを動かすハルバルだったが、何とか平静を取り繕って続きを話す。
「最近来たばかりの新人には分からんかもしれんが、とにかく俺がハルバルだ。地位と名誉がある、それだけ覚えとけ」
「その地位と名誉のあるハルバルさんがこんな新人になんの用があるわけ?その娘を連れてるのはどういう理由?」
権力をちらつかせた言い方に二人は警戒心を高めながら続きを促す。
「コイツは単なる人質だ。こっちの要求さえ飲んでくれたらすぐに開放してやるよ」
「小さい子に乱暴するやつなんてどうせろくでもないこと考えてるんでしょうけど、とりあえず言ってみなさい」
「連れねえ事言うなよネエチャン。なあに簡単なことさ、お前と小娘を交換しようって話だ」
ピクリと騎士の眉がひそめられるが、その事には誰も触れずに話が進む。
「こっちのパーティは女っ気が無いんでな。いや、俺の信奉者には沢山いるが、冒険者として力を持った女なんて滅多にいねえからな。そこでお前を加えてやろうってんだ、有り難いだろう?」
「全く有り難くないわね、お断りよ。交渉は決裂、さあ早くその娘を返して頂戴」
不機嫌さを隠さず要求を跳ね除けるユズだが、チッチと指を振りながらにやけるハルバル。
「話を聞いていたのかいネエチャン?コイツは人質、お前と交換じゃなきゃ渡せねえんだよ。それを踏まえた上で断るってんなら、保証はしない。ラー帝国の奴らにでも奴隷として売っぱらおうか」
ガシャッ!剣の柄に手を掛け反射的に飛び出そうとした騎士だが、それを引き止めるユズ。ハルバルはそんな様子を見てニタニタと笑うばかり。
「相棒、ここは堪えるしか無い……姫を盾にされたら手は出せないし、アイツの言い方だとここで何かあっても権力で揉み潰せるって事だもん。ちょっと相手が悪いよ」
それじゃユズ自身はどうなる!そっちが私を呼ぶように、私にとってもユズは相棒だ。妹姫とどっちかなんて選べる物じゃない。
必死に反論しようとするが、ユズの瞳には既に諦観が浮かんでいた。
身代わりとなるのは自分自身なのに、それでも尚意見は曲げないという意志も込めて……
「わかったわ、要求に従ってあげる。その代わり絶対に約束は守りなさい」
「ああ、こちとらこんな小娘どうだっていいんだ。お前が手に入ればな。さあこっちに来い」
一旦目を伏せたユズは騎士に向き直り謝罪を口にする。
「ごめんね、私からパートナーになってほしいって言った癖に、こんなお別れになっちゃって」
違う、謝るなら自分の方だ。妹姫とユズが大変な時に、自分は何もすることが出来ない。何も守れない。
「そんなことない。貴方は一人っきりで踏み出せなかった私とチームを組んでくれた。妄想でしか無かったドキドキワクワクする世界を見せてくれた。それだけで感謝してるよ」
違う、こんな嫌な世界を見せたかった訳じゃない。もっと明るい楽しい冒険があったはずだ。
悔やみきれない思いを顔に滲ませる騎士の手を取り、ユズは別れの言葉を告げる。
「短い間だったけど、キミとパートナーになれて良かった。さよなら、相棒」
引き留めようと手をのばすが、その手をすり抜けてハルバルの元へ歩みを進めるユズ。
目の前まで来ると、ハルバルは黒いリングを取り出した。
「これは服従の環って代物だ。これをつければ俺に対して反抗出来なくなる。そうすりゃ交渉成立だ」
「これで満足?」
言葉少なにさっさと身につけてしまったユズ。それを見て笑みを深めたハルバルは上機嫌に姫の縄を離した。
「ああ、満足だ。もうガキに用はない、どこにでも行っちまいな」
ハルバルの元から離れ、騎士へと駆ける妹姫。騎士はその姫の姿をしゃがみこんで強く抱きしめる。
「ごめんなさい……」
貴方が謝ることなんて一つもない、私に二人を守る力があればそれで良かっただけ。ただそれだけだ。
「要件はこれで終わりだ。まだダンジョン王国にいるならどこかで会うかもな。あばよ」
黙ってハルバルの後ろに付き従うユズは最後に騎士に向かって一瞥をすると、何も口にせず去っていくのだった……
~後編へ続く~
後編はなるべく早く書きます……