イリヤちゃんと立香くん 作:□リ
一通り説明を受けた後、わたしと立香お兄さんはすぐにレイシフトをしました。随分と慌ただしかったけど、あまりのんびりとしている暇はなかったそうです。
ダ・ヴィンチちゃんの通信先から、アビゲイル先輩がどうとか清姫さんがどうとかいう言葉が聞こえたのと、何か関係があるのかなぁ……?
そして、レイシフトが完了したわたしたちの前に硫黄の匂いと共に現れたのは、ものすごく大きくて立派な和風建築物でした。
「よく来まちたね。お二人のことは聞いているでちよ」
「あ、紅閻魔ちゃん!」
ポカンと二人そろって旅館を見上げていると、いつの間にやらわたしより小さな(ここ重要)割烹着姿の女の子が目の前にいます。紅閻魔ちゃんです。
正体は舌切り雀だったり地獄の獄卒だったりするようだけど、詳しくはよくわかりません。小ちゃいのに料理上手で世話焼きな、お母さんみたいな女の子です(わたしのママは料理下手だけど)。
そういえば、旅館の女将をやっているという話でした。前に見た映画みたいです。
「……お前さま、本当に小さくなってちまったんでちね。あちきのこともわかりまちぇんか?」
「ううん……ごめん。全然憶えてないんだ」
「そうでちか。まあ、仕方ないでちね。だいたいお前さまは働きすぎなんでちから、ちょうどいい機会だと思ってしばらくゆっくりと骨休めしていくがいいでちよ」
「それで、いいのかな……?」
「当然でち! こういうときは焦っても仕方ないし、折角お二人のために特別な部屋を用意したんだから、存分に堪能していってもらえると、あちきも嬉しいでち」
特別な部屋。なんかすごそうなんだけど、そんな贅沢していいのかなぁ。
「元々、訳ありのお客様用に拵えた区画なんでちゅが、今のマスターを余人に会わせるのは良くなさそうでちからね。ちょうど良かったでち」
と、ここで紅閻魔ちゃんは居住まいを正し、表情をキリリとさせて、わたしたちへと向き直ります。
「では改めまちて。当旅館にようこそおいでくだちゃいました、藤丸立香様、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン様。従業員一同、誠心誠意おもてなしさせていただきまちゅので、どうかごゆるりとご滞在くだちゃいませ」
そう言って深くお辞儀する紅閻魔ちゃんの所作はとても洗練されていて、大人っぽくて、なるほど本当に女将をやっているんだなと深く実感させるものでした。
小さくて可愛い女の子としか思ってなかった自分が、ちょっと恥ずかしいかも……。
「わあ……! すっごい、広い……」
案内された部屋は、特別というだけあって立派なところでした。
畳敷きで10畳以上の部屋が4つも連なり、板間にはよくわからないけど高そうな陶器や花瓶、掛け軸などがディスプレイされています。あと大きなテレビも。
掃き出し窓の向こうには緑鮮やかな風景が広がってとても見晴らしがよく、また一度に十人くらい入れそうな木製(ヒノキ?)の室内風呂までありました。
部屋の温度は高めなのかな? 少し暑いかも。
「これ、本当に僕たちだけで使っていいのかな……?」
「なんだか、気後れしちゃうね……」
立派すぎて、庶民のわたしたちは場違いな気がしてなりません。
紅閻魔ちゃんは、なるべく部屋から出ないように、用事があるときは呼んでくれればすぐに行く、食事は時間になったら持ってくる等の注意して既に去っており、残されたわたしたちはどうしたものかと、落ち着かない気持ちでいました。
うん。でも、いつまでもこうしているわけにもいかないよね。
隣には立香お兄さんがわたしと同じく所在なさげにしているけど、ここまでとても慌ただしかったため、まだろくに会話できていません。
思い返してみれば、出会ってからずっと緊張していたようにも見えます。当然だよね、立香お兄さんからしてみれば、周りは知らない人だらけで、見たこともないところにいるんだから。
マスターさんのお世話はわたしが任されたんだから、ちゃーんと面倒を見て、安心できるようにしてあげないとね!
そうと決まれば、まずは挨拶からやり直さなくっちゃ。
マスターさんがいつもサーヴァントたちにやっているように、しっかり話して相互理解を深めるんだ!
そうすれば立香お兄さんもきっと、もっとリラックスできると思うんだ。
「えっと、立香お兄さ……じゃなくて、藤丸くん? で、いいかな?」
「あ、うん。いや、立香でいいよ。そっちの方が呼びやすいみたいだし」
「そう? じゃあ、立香くんって呼ばせてもらうね。わたしのことは、イリヤって呼んでね。親しい人は皆そう呼んでくれるから」
「えーと、じゃあイリヤちゃんで」
「うん。なんか大変なことになっちゃったけど、これから暫くの間よろしくね。立香くん」
「うん……こちらこそ、よろしくお願いします。僕のせいで迷惑かけちゃってゴメンね。イリヤちゃん」
「ううん、ぜんぜん迷惑なんかじゃないから! 大丈夫、安心して」
「そうかな。それならいいんだけど……」
「むしろ、こんな立派な旅館に泊まれるなんてラッキーかもしれないし! あとでクロと美遊……妹と友達にも自慢してあげないと!」
「あはは……妹さんがいるんだ?」
「うん。これがもう生意気な妹でねー。……あと、それだけじゃなくて、いつもの立香お兄さんじゃない立香くんと会えたのも、ちょっとラッキーだったかも。できれば、ここにいる間にもっと仲良くなれれば嬉しい、かな」
「うぇっ!? そ、そうだね、うん。僕も、イリヤちゃんと仲良くなれたら嬉しいよ」
最初は申し訳無さそうに顔を伏せていた立香くんも、話してるうちに段々と元気が出てきたみたい。
でも、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかも。
立香くんも顔を赤くしてるし、きっとわたしの顔も、真っ赤になってるよ……。
「あ、そ、そうだ! お茶とお菓子が用意されてるみたいだから、食べてみようよ!」
「そ、そうだね! うん、そうしよう!」
先に言いだしたのはどちらだったか。
ちょっとだけ気まずい雰囲気を誤魔化すように、一休みするわたしたちなのでした。
ちなみに、部屋に用意されていたお菓子は美味しかったです。
雀饅頭だって。どこで売ってるんだろ。
「ふぅーーー……」
「一息ついたねー……」
お茶を飲んで一服。なんとなくマッタリタイムです。
ついでにダ・ヴィンチちゃんへの定期連絡を済ませたけど、まだまだ先の見通しは立ってないみたい。何かあれば改めて指示を出すので、それまではここで生活するようにとのことでした。
これも一種の夏休みみたいなものかなー、などと思っていると、立香くんは立ち上がり、部屋の中の戸棚とかを漁り始めました。
「何を探してるの?」
「うん、これからどうしようかと思って」
「どうしようって、暫くここに居るしかないんじゃないの?」
「そうじゃなくて、ここで何をしてればいいのかな、と思ってさ」
あ、そういえばそうだ。
幾ら立派な部屋でもずっと外に出ないんじゃ飽きちゃうし、オマケに荷物も何も持ってきていない。こんなんじゃすぐに暇になっちゃう。
紅閻魔ちゃんに頼めば何か持ってきてくれるかもしれないけど、まずはわたしも部屋の中を探してみよう。
「あ! イリヤちゃん、いいものがあったよ!」
「え、ほんと!?」
「うん、トランプに花札に、将棋にオセロに……これは麻雀牌か」
「うわぁ、すごいいっぱい入ってる! 麻雀はルールがわからないけど……あ、これ見て!
「これだけあれば、暇を潰す分には何とかなるかな?」
「そんなことしていていいのかなー、って気もするけど、他にできること何もないしねー」
「さっきの子もゆっくり休んでいけって言ってたしね。ちょっと風変わりな夏休みの旅行とでも思うのがいいんじゃないかな」
あはは、わたしと同じこと考えてたんだ。
あ、浴衣も発見。そうだよね、ここ、温泉旅館だもんね。
「ねえねえ、立香くん。それじゃあさ、折角だから着替えちゃわない?」
「え、浴衣に? 別にこのままでも良くない?」
「いいじゃない。温泉旅館にお泊りするんだから、気分だけでも味わおうよ」
大浴場には行けないだろうけど、せめてそれくらいはね。あと、カルデア制服はちょっと窮屈そうだし。
「そっか。じゃあそうしようか」
「うん! それじゃあ、わたしはこっちで着替えるから……覗かないでね? なーんて」
「の、覗かないよ!?」
「じゃーん。どうかな?」
「うん、よく似合ってるよ」
「えへへー」
と言っても、備え付けの浴衣を着ただけなんだけどね。でも、お世辞でも似合ってるって言われるのは、やっぱり嬉しいかな。
「ううん、お世辞とかじゃなくて。イリヤちゃん、すごく自然に着こなしているよね。だから日本人離れした見た目でも違和感が全然なくて、むしろ浴衣の濃い柄が真っ白な髪や肌とよく合ってると思うんだ」
ち、小さくなっても、やっぱり立香お兄さんは立香お兄さんだったーーー!!
普段はトボけた顔をしてても、ここぞというときはさらりと欲しい言葉を言ってくれるんだよね! こんな子供の頃からだったなんて……!
「? そういえばイリヤちゃん、日本語もペラペラだし、こっちに来て長いの?」
「あ! あ、うん! わたし、日本生まれの日本育ちだから! だからごくごく普通の日本人だよ!」
カルデアの言語事情はさておいて、わたしの母語は日本語です。ちょっとだけならドイツ語も喋れるけど。
かくして、すっかりリラックスモードに入ったわたしたちは、備え付けの遊具を駆使して全力で遊びまくるのでした。
「わたしはムサシを使うね!」「じゃあ僕はファンタズムーンで!」「いけ、マジカル☆ヤッパ!」「なんの、空想具現化だ!」「ああっ、全然近づけないーっ!?」
「えーと、これで役ができて、と。こいこい、でいいのかな?」「うーん、初めてやるはずなのに、なんでだろう? なんだかとっても馴染むわ……! 今ならなんか技も使える気がする! カレイドスコープッ!!」「落ち着いて、イリヤちゃん! そんなルールないから!」
「あーっ、また角を取られたーっ!?」「えーと、最初はあまり欲張らないで、相手に不利な位置を取らせるようにした方がいいと思うよ?」「ぐぬぬ……敵に塩を送られる、何たる屈辱……! リズだけでなく立香くんにも勝てないなんて……」
「カプセルさーばんと、ってなんだろう?」「やめよう、それはなんだかとっても危険な気がするー!」
そして、事件はトランプで遊んでいるときに起きたのです。
それは、神経衰弱でどっちの札が正解だったか思い出せなくて悩んでいるときでした。
「うーん……確かこの辺りにハートの3はあったはずなんだけど……、どっちだったかなぁ……?」
畳に手をついて、並べたトランプを覗き込みながら迷っていたのですが、ふと気づくと、視界の端の方に映る立香くんの様子がなんだか変です。具体的には、視線が定まらない感じ。チラチラとあっち見たりこっち見たりしていて、それとなんか顔が少し赤いような。いったい何を見て…………ああっ!?
なんということでしょう、大変なことに気づいてしまいました。
今のわたしは浴衣を着て、大きく前傾姿勢を取っています。さっきからあれこれ遊んでいて少し緩くなっているし、襟元は重力に引っ張られて大きく垂れ下がっています。そして、これが一番大事なことなんですが……実はその、わたしは今、下着をつけていないんです……。
つ、つまり、み……み……見え~~~~~~~~っ!!
あわ、あわわ、どうしようーーー!?
咄嗟に起き上がり胸元を抑え……ようかとも思ったんだけど、でもそんなことしたら見られていたことに気づいたことがバレて気まずくなっちゃうかも? などと考えているうちに、身動きが取れなくなってしまいました。
違うんです、下着をつけていないのにはワケがあるんです!
旅館に来たときから少し暑いかなーって思ってたけど、二人で遊んでるうちに段々と汗をかいてきちゃって、でも中断したくはなかったし、そうだ、サーヴァントとしての服は出し入れ自由なんだから、下着を消しちゃえばいいやって、そんなことを考えちゃって……。いつもなら絶対にこんなことしないから! ちょっとした気の迷いなんだからー!!
そうしている間にも、立香くんの視線を感じます。チラチラと。熱のこもった。
あっ……そっか。
立香くん、ううん、立香お兄さん、わたしの体に興味があるんだ。わたし、見られちゃってるんだ。
ゾクゾクっと、背筋に何かが走るのを感じました。
恥ずかしいだけじゃなくて、もっと心地よいというか、こう、お腹の中がキュッとするような何かを感じたのです。
わたしは、騒ぎ立てることなく、気取られぬよう振る舞うことにしました。もうどこの札が何だったのかなんてまるで思い出せませんが、適当にめくって自分の番を終わらせます。
立香くんも、残念そうな、あるいはホッとしたような表情を浮かべながら札をめくります。でもやっぱり気もそぞろで、見当違いの札をめくってしまったようでした。
次にどこを開くか、うーんうーんと唸りながら考え込んでいる立香くん。そんな姿を見ていると、いたずら心がムクムクと湧き上がってきます。
もう一回見せたら、どんな反応をしてくれるかな?
いつもだったら絶対にしない、とんでもない思いつき。でもこのときは頭もカーッて熱くなっていて、絶好の妙案としか思えませんでした。
わたしはさり気なく帯を緩めると、一緒にトランプを覗き込むように身を乗り出しました。
「難しいねー」
「え……う、うん……」
あ……、見てる、見られてる。
視線はトランプとわたしの胸元を行ったり来たり。顔を赤くしちゃって、なんだか可愛い。
「えっとさ、その……ふ、ふく「え、なーに? どうかした?」……う、ううん……何でもない」
「変な立香くん」
危ない危ない。危うく指摘されてしまうところでした。そんなことになったら、ただ恥ずかしい思いをするだけになってしまいます。
幸いうまく誤魔化せたようで、クスクスと笑えばアハハと返ってきて、二人でしばらく笑っていました。
その間も立香くんの視線はわたしの胸元に釘付けです。わたしの動きにあわせてピッタリとついてくる様が、なんだか可笑しいです。
そうだ、いいことを思いつきました。
「あ、そうだ! ここまでだいたい同じくらいだし、ここから負けた方は何でもお願いを一つ聞くってのはどうかな?」
「同じくらいと言っても僕の方がちょっとだけ勝ってるけど、いいの?」
「大丈夫、ここから逆転するんだから!」
「それなら、まあ……ところで、何でもってどこまでいいの」
「何でもは何でもだよ。じゃあ、決まりだね!」
やだ、立香くんったら何を考えているのかな。フフ。
でもこの勝負、わたしに負けはない。なぜなら。
「この部屋、なんだか暑いねー」
「そ、そうかな?」
「そうだよー」
「……そうかも」
ちょっと胸元を開けて扇ぐ素振りをするだけで、目に見えて動揺しています。
もちろん、めくった札はバラバラです。
ついつい楽しくなっちゃって、上半身を横に傾けて浴衣の合わせ目をずらしてみたり、こっちはどうかな? と座り直しながら裾をはだけてみたり、あれやこれやと色んな誘惑を試すことに夢中になって、うっかりこっちがめくり間違えることまでしばしば。危なく負けてしまうところでした。
……もし負けたらどんなお願いをしてくるのかな? というのも、とっても興味深いけど。
「これは……これ! よし、勝ったー!」
「あー、負けちゃったかー」
まあここまでハンデがあってそんなことが起きるはずもなく、約束された勝利はわたしのものでした。
立香くんが残念そうにしてるのは、負けてしまったからなのか、お願いする権利を得られなかったからなのか、それとも、わたしの……お、おっぱいとか、パンツとかを、見られる時間が終わってしまったからなのか。
わたしも、勝ったのは嬉しいけど、この時間が終わってしまったのは残念です。
「何をお願いしちゃおっかなー」
「あはは……お手柔らかにお願いします」
そうして、もっと続けたかったなー、それとも、何かもっと違うことできる遊びあるかなー、お願いを上手く使えないかなー、それにしてもこの部屋暑いなー、などなど考えていたら、突然とんでもないことを思いついてしまいました。
「なんか汗かいちゃったし、折角の温泉なんだから、お風呂はいってこようかな」
「そう? それじゃあ待ってるよ」
「……えっとさ、立香くんも、一緒に……入らない、かな?」
「え、え……ええぇーーーっ!?」
きゃー、言っちゃった! 言っちゃった!
でももうあれだけ見せちゃったんだし、お風呂一緒くらい平気だよね!?
お兄さんにもまた今度みたいなこと言っちゃってたし、そ、それにわたしもちょっとだけ興味あるし! (ギルくんはノーカウントで!)
「い、いや! それは不味いでしょ、さすがに!」
「不味いって、なんで?」
「だって、もうそんな歳じゃないし、女の子と一緒に入るのは不味いよ、やっぱり……」
「フーン……あれだけ熱心に見てたのに、お風呂は駄目なんだ」
「うぇっ!? き、気づいてたの!?」
「わたしのことはあんなに見ておいて、自分は嫌だなんて、ずるいなー」
「そ、そうじゃなくて!」
「そうじゃなくて?」
「そうじゃなくて……やっぱり、女の子がそんな簡単に裸になるのは良くないんじゃないかと……」
「良くないのに、見たんだ」
「だ、だって、それはイリヤちゃんが」
「あー、わたしのせいにするんだー」
「ううっ……ご、ごめ」
「あ、ウソウソ! 怒ってないから、謝らなくても大丈夫だから。ね?」
ちょっとだけ面白くなかったから軽くからかってみたら、弱々しい立香くんが可愛くて、ついついやりすぎちゃいました。
でもこう、涙目になってる立香くんを見ていると思わず口元が緩んでしまいそうで、もしかして、これが愉悦……? わたし、悪い子になっちゃったのかも。
「だから、一緒にお風呂、入ろ?」
「だからって何が!? 話が戻ってるし!?」
「それじゃあ、これが『お願い』ってことでどうかな? それとも、絶対に嫌? それなら諦めるけど……」
「う、ううん! 嫌なんかじゃないよ! そうだよね、約束だもんね。それなら仕方ない、のかな」
「そうそう、仕方ない仕方ない。そうと決まれば。ほら、行こ!」
「あっ、引っ張らないで!?」
フ、フヘヘ……やっちゃった、やっちゃった。勢いに任せて脱衣所まで連れ込んじゃったよう。
で、でも立香くんも悪いと思うんだ! ものすごくいい反応するし、本当は行きたそうにしてるのも丸わかりだし! あんな風に誘われたら(誘われたわけじゃないけど)、ちょっとくらい強引になっちゃうのも仕方ないと思うんだ!
そんなわけで、今わたしと立香くんは、背中合わせで服を脱いでいます。
と言っても浴衣とパンツだけだから、簡単に脱ぎ終わっちゃうんだけど。うう……、今更ながらすごく緊張してきた。わたし、もしかしなくてもとんでもないことをしようとしてるんじゃ。
浴衣を畳んだところで、背中越しにチラリと立香くんの方を見てみる。
あ、目があった!
お互いに慌てて、視線を前に戻す。立香くんもわたしと同じく、浴衣を脱ぎ終わったところでした。
チラッと見ただけだけど、やっぱり立香お兄さんと違って小さな背中です。全然鍛えてなくて、生白くて、あらためて、今はわたしと同じ年頃の男の子なんだなと感じさせます。
でも、傷跡だけはそのままでした。
……ううん、駄目だよ、イリヤスフィール。今は暗くなってちゃ駄目。
マスターさんは何も憶えてないんだし、変に不安にさせちゃう。せめて今くらいは、楽しい思い出だけでいっぱいにしてあげないとね!
よし、そうと決まれば。
「行こう、マス……じゃなかった、立香くん!」
「う、うん!」
わたしはババっとパンツを脱ぎ捨てると、タオルを持って浴室へと駆け出すのでした。
……ちなみに、立香くんの下はタオルで隠されて見えませんでした。
次回、お風呂回。