俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
第1話 le goût du péché 《罪の味》
東京都、
都内である故に建ち並んだビルの群れ。目の前の道路にはクラクションを鳴らす渋滞の車がうかがえて、徒歩である自分からしてその光景に気の毒だなと思えてしまう。
ビルの自動ドアを抜けて、すぐにも歩行者の波に呑まれた自分の身。今日は特に往来が激しいと思える平日の真昼間に、自分と行動を共にしていた男の友人Aが愚痴を零していく。
「おいおいおいおいおいおい、なんでよりにもよって今日こんなに人が多いんだよ! 平日の昼間だからカラオケもゲーセンも快適に過ごせるかと思っていたのにさぁ!!」
黒髪で黄色のシャツを手ではたはたさせながら、彼は逆ギレ気味にぼやいていく。これを自分は聞き流すようにしていると、もう一人の男の友人Bが茶髪の青いパーカー姿でそう返答していった。
「だーから言ったじゃねえか。平日もなにも卒業式とか終わったばかりのタイミングだぞ。そりゃ買い出しで忙しかったり、長期休暇で遊べる時期だったりと、外は混雑するに決まってんだろ。だから家でゲームしようぜって提案したんだ。それなのに、お前のワガママにおれらは付き合ってやって、んでわざわざ外に出てきたってのに結局はゲーセンかよ」
「だっておれがやりたかったゲーム、アーケードだからゲーセンにしかねぇんだもん!」
「だからっておれらを巻き込むんじゃねえよ。一人で来いよ」
「一人じゃ寂しいだろうが!」
「なんでキレてんだよ……」
友人Aと友人Bの会話を、自分は意識もせずに聞き流していた。これに友人Aがこちらの肩に手を掛けてくると、友人Bを左手の親指で差しながら同意を求めてきたものだ。
「なぁ“
「え、俺? 悪い、話を聞いてなかった」
「あー?」
不機嫌そうな顔を見せる友人A。だが、その彼に友人Bが「おい」と小声で呼び掛けると、友人Aはまるで思い出したかのように「お、おぉ……」とどこか気まずそうにしてこちらから手を離してくる。
二人の友人は、こちらに気を遣ってくれていた。それもそのはずで、こうして友人らが自分を遊びに誘ってくれたのも、先日にも自分に降り掛かったある不幸を紛らわすためだったものだから。
通行人の往来が激しい通路の脇。ビルの陰で三人で佇んで少しばかりと沈黙していく中で、友人Aはじっとしていられないといった具合にそう提案してくる。
「まぁよ、とりあえず歩こうぜ! 適当に」
そんな提案を耳にした友人Bは、微妙な表情をしながらもそれに頷いたものだった。
「この人混みを歩くのかよ。……でも、他にねぇな。だったら、飯食いたい。なんか飯屋に入ろうぜ」
晴天の大都会。都心部から離れた位置に存在する、東京の中では田舎な方の小さな地域。
龍明市。巷では犯罪の街とかアウトローの住所とかいう異名で呼ばれるこの地域は、その噂も概ね間違いとは言えないほどの犯罪が毎日のように起こっている。
実際、昨日はこの街で殺人事件が起こったばかりだった。しかも、今も自分らが歩いているこの周辺で起きた事件でもある。しかし、龍明市を歩く周囲の人間は誰もがそれを気にしない。何故なら、龍明という街は、そういう場所なのだから。
良からぬ連中に目をつけられないよう、自分らも万全な対策の下でこの龍明を遊び歩いていた。自分は身長百七十三というその背丈で、青色のアウターに黒色のシャツ、白色のパンツに茶色の靴という無難ながらも清潔感のある格好をしていて、黒髪のショートヘアーで目立たないようにしつつ、肩に提げている黒色の鞄の中には護身用のスタンガンが入っている。
尤も、周囲の友人二人からは、気にしすぎだろとツッコまれてしまったものだ。そんな二人は気楽なのか不用心なのかどうか。どう感じるかは置いといて、今も彼ら二人が並んでだべっているその間も、自分はその後ろからついていく形で龍明の中を散策していく。
人通りの激しい表の道を避け、三人で脇の道へと進んでいく。その道に差し掛かると途端にして人の気配が減り出したものだったから、自分は周囲の目を気にしつつも二人のあとをついていくように前へ進んでいったものだった。
前の二人は、通りすがった女性のおっぱいの話なんかで盛り上がっていた。確かに大きかったけれど、なんていう自分の内心も織り交ぜつつ二人の話を聞いていると、ふと、友人Aは目についた店の看板を指差してそんなことを口にし始める。
「おぉ? おぉ! これかぁ!」
ひとりで納得する友人Aへと、友人Bは呆れたように訊ね掛ける。
「なんだよ突然」
「この店、同僚から聞いてたんだよ! 美人な姉ちゃんがたくさんいるってさ!」
「は?」
「メシもウマいんだってよ」
「ほう……」
いや反応が分かりやすすぎるだろ。
友人Bの興味に内心でツッコみつつ、二人が店の看板へと歩み寄るものだから自分もそれについていく。
友人らが見遣る看板を、自分も眺めていった。
よく見かける、四本の脚で道端に佇む木製のそれ。張り付けられた黒板に店の名前や食事のメニューが記されていることから、ここがレストランであることをうかがえる。
自分は、その店の名前を口ずさんでいった。
「
読みにくいけど、すごいオシャレ。そんな感想を抱いて見上げていくと、そこに映った店の姿に自分は疑問を感じていく。
見た感じは、隣同士の建物に収まる小さなカラオケ店といった雰囲気のそれ。店の名前の看板があって、夜になるとネオンの光源がキラキラと灯るような華やかさを想像させるその外観。
ただ、店の入り口は地下にあるらしい。看板のすぐ脇には下へ続く階段があり、そこに店の入り口なのだろう両開きのオシャレな扉が存在していた。
自分が無言で眺めていくその傍らで、友人Bは友人Aへとそんなことを訊ね掛けていく。
「あ? でもよ、“キャバレー”って書いてあるぞ」
建物の看板に書かれている、キャバレーの文字。しかし、その文字の上には“レストラン”とも記されており、これについて友人Aはそう説明してきたものだった。
「いやいやいや、なんかこの店って昼はレストランで夜はキャバレーしてるらしい。ここにレストラン&キャバレーって書いてあるし」
「なんだそれ。てか、今やってんのか?」
「やってるだろ。値段も高くねぇし、ここにしようぜー」
すごく軽いノリで、二人が階段を下りていく。これに自分も後から続く形で扉を通り抜けていくと、そこで待ち構えていたエントランスに自分らは思わず静かに声を上げていったものだった。
煌びやかな夜の世界。そう思わせる赤色のフロアに、黒色の柱のような壁が閉鎖的な効果を演出する。すぐにして部屋の奥から現れたタキシード姿の女性スタッフがこちらに歩み寄ってくると、友人Aの「三人」という言葉を受けて、「こちらへお進みください」と手で促されていく。
スタッフが促したその先には、平坦な廊下が伸びていた。そのすぐ向こうにも広大なフロアが見えたものだから、今までに踏み入ったことのない世界に三人で「なんかすごいな」と語彙力の無い感想を口にしながら進んでいく。
先で待ち受けていた光景は、まるで劇場とダンスフロアを融合させたかのような空間だった。先へ進むにつれて緩やかな下り坂になるその通路と、段々となって左右へ伸びていく平坦な床。映画館の通路と席のようなイメージだろうか。それがより一層と派手な装飾を施されていて、シャンデリアやミラーボールといった光に晒されて自分らは気後れしてしまう。
あちこちに用意されたテーブルとイス。それらはキャバレーに使用されるものと同等のものだった。だが、そこで食事を行う客層は、女性客が多く感じられる印象。
初めて来る自分らが戸惑いつつ佇んでいると、スタッフなのだろうタキシード姿の女性がこちらに声を掛けてきた。
「どうぞ、こちらに」
モブと言ってしまえばそれまでだが、モブと呼ぶには勿体無いほどに美人すぎるそのスタッフ。
入口のスタッフもそうだったように、顔立ちの良さとタキシード姿という二つの要素が合わさった究極の美を前にして、自分ら男性諸君はしどろもどろになりながら席についていく。
その席も、とても座り慣れないものだった。しかし、カラオケみたいと言ってしまえばそれまでだろうか。そんな感想を抱きながらスタッフからメニューを受け取っていくと、自分らは「店の雰囲気と値段が釣り合っていないよな……」と、非常にリーズナブルな文字列にひそひそと話し合っていたものだ。
注文を行った後は、自分らには珍しくスマートフォンを一切と取り出さずに料理を待っていた。
緊張が勝るというか、この雰囲気にスマホが合わないというか。自分らは声をひそめるようにして会話を行っていると、直にして先ほどの女性スタッフが料理を運んでくる。
友人らが頼んだ、フレッシュな野菜と白身の魚が和えられたパスタ。それと、ホテルの朝食ビュッフェなどに並べられるようなパン。パンに関しては、付属してきたチーズ風味のとろりとしたソースに付けて食べるのだろうか。
まるで、別世界にでも足を踏み入れたかのようなオシャレな料理だった。これには友人らも感嘆を零していく中で、自分だけ違う料理を頼んでいたためか、それらを先に食べ始めていく友人らを羨ましく眺めていたものだ。
そして、自分の下にもステーキの料理が運ばれてきた。
先ほどのスタッフとは異なる、ヴァイオレットカラーの長髪が特徴的な小柄の女性スタッフによって。
「お待たせしましたー。コチラ、鉄板が熱していてヒジョーにお熱いので、ヤケドしないようお気を付けくださいねー。あと、お好みでバジルのソースをドーゾ。アッツアツの内にお肉にかけちゃっても良しですし、ポテトにケチャップを付けるように、ソースにそのまま付けちゃって召し上がるも良しの一品ですから、まーゆっくりご堪能しちゃってくださーい。ではではー」
ラフな調子で、どこか適当な感じがする喋り方の彼女。そのスタッフは百五十八ほどの背丈であり、小柄というよりも少女のような風貌でタキシードを着こなしている。
その瞳もヴァイオレットカラーであり、人形のようにぱっちりと見開いた目は年相応のようなものをうかがわせる。頬の感じもあどけなさを残しておりながらも、黒色のタキシードにヴァイオレットカラーのシャツという格好でこなれた振る舞いを見せながら彼女は歩き去っていったものだ。
……緑色の野菜が彩りを与えてくれる鉄板の上。ついてきたバジルのソースも食欲をそそり、今も肉汁が躍る鉄板のステーキに自分は心を奪われていく。
実際に、極上とも言える最高の一品だった。こんなにも美味しくて、こんなにもお手頃な価格で、こんなにも雰囲気が良いお店があったなんて。そんな感激の言葉が終始、友人らと交わされるこのひと時は、自分にとって最高の気分転換になったものだった。
瞬く間にランチを平らげて、自分は満腹感と充実感の余韻に浸っていく。一方で自分の目の前では友人らがデザートに目を通しており、食い入るようにメニューを眺めていたものだ。
そこで、もうしばらく時間がかかりそうだと察した自分はお手洗いで立ち上がっていく。
「ちょっとお手洗い」
「あいよー」
二人の友人から離れていき、自分はお手洗いの場所を探しに店内を軽く散策する。だが、その肝心なお手洗いの場所が分からなかった。
仕方ないからスタッフさんに訊ねるか。そんなことを思って自分は途方に暮れるかのようその場に佇んでいくと、ふと、こちらへと女性スタッフの一人が声を掛けてきたのだ。
「何かお困りでしょうか、お客様」
落ち着きのある、大人びた女性の声音。その一言だけで耳が敏感になる綺麗なそれに呼び掛けられて、自分は思わず振り返って女性の姿を確認した。
絶世の美女だった。灰色混じりの白髪を腰辺りまで伸ばしたその長髪を、分厚いポニーテールとしてまとめてある髪型。黒色の瞳は大人の落ち着きを体現していて、長いまつ毛や色白の肌、そして彼女の左目に泣きぼくろという女神のような艶やかな存在感を醸し出す。加えて、黒色のタキシードにボタンを二つ外した赤色のシャツという風貌は、美麗でありながらもアブない雰囲気を演出していて実にお美しい女性だったものだ。
いや、それ以上に百七十九という高身長でこちらを見遣るその彼女は、軽く腕を組んだ佇まいでただ者ならぬ貫録を解き放っていた。その圧巻な美貌が織り成す危険な香りに自分は言葉を詰まらせていくと、自分を見遣る女性スタッフは軽く首を傾げながらも、悠々とした表情でそう訊ね掛けてくる。
「様子から察するに、お手洗いでしょうか」
「まさにその通りで……」
「でしたら、あちらに見えます廊下をお進みいただいて、突き当たりを右へとお進みください」
「た、助かりました! ありがとうございます……!」
正直、あまりにも絶世な美貌を目撃したことで尿意が引っ込んでしまった。
しかし、教えてもらった道へと足早に移動した自分。お礼を口にしながら急ぎ足でその廊下へと進んでいく姿は、さぞ情けなかったに違いないだろう。
そのために、自分の後ろで行われたその女性の動作を、この目で見ることは無かった。
男性客を案内し、急ぎで移動する男の背を見送るようにしてから踵を返した女神のような女性スタッフ。だが、すぐにもその足を止めて振り返っていくと、既に姿を消していた男の存在に女性は胸のポケットから一枚の写真を取り出して、それを凝視してから、男が消えた廊下へと再び視線を向けていったものだった。
数日後。龍明市内にある住宅街の一角。
高くも安くもないアパートの一室を借りて生活をしている自分の部屋に、インターホンが鳴らされた。その音で自分はヘッドフォンを首に掛けて歩き出し、ヘッドフォンが繋がったスマートフォンを片手にインターホンの映像を確認していく。
すると、そこに映っていた女性の姿に自分はたいへん驚いてしまった。
忘れるわけがない。あんなにも絶世な美貌を誇っていた彼女の顔を。格好も黒色のライダースジャケットに赤色のシャツと、黒色のバイクパンツに膝丈まである黒色のブーツというクールビューティなもので、なおさらとあのレストランの女性スタッフであることに間違いないことを確信する。
一体、何の用だろう。そう思って自分は玄関の扉を開いていくと、やはりそこに佇んでいたのは女性スタッフの彼女。自分が扉を開けると共にして「急にごめんなさいね」と一言かけてくると、次にも女性はそんなことを切り出してきたのだ。
「“
「あはい、そうですけど……」
「つい先日もお会いしたばかりね。来店してくれて本当にありがとう。何の因果かは分からないけれど、おかげで私は貴方の存在に辿り着くことができた」
「なんの話ですか……?」
「“
その名前を聞いた瞬間、自分は背筋が凍りつくような感覚を身に覚えた。
「…………はい。俺の親父です……」
「お悔やみ申し上げます。貴方のお父様は、私達にとって偉大なお方だったわ」
「あの……俺の親父のことを知っているんですか……?」
「えぇ、そうよ。貴方のお父様も仰っていたわ。自分の素性を息子さんにはお伝えしていない、と」
彼女が言うように、自分の親父はつい先日亡くなったばかりだった。
尤も、自分は幼い頃から父親という存在をあまり詳しく認識していなかった。普段から家に戻らず、泊まり込みで仕事をしているという名目で滅多に姿を見せなかったその存在。結局、実の親父というのに指で数えられる程度にしか会話を交わしたことがなく、最後に話したのもいつだったか思い出せないまま、親父は病気によってこの世を去った。
あの友人らが遊びに誘ってくれたのも、これによって自分が落ち込んでいたためだった。しかし、何の巡り合わせなのだろうか。その親父のことを知るのだろう人物が自分の住むアパートに訊ね掛けてきて、それもその人物が、先日にもお邪魔したオシャレなお店の従業員という不可思議な出会い。
彼女は胸のポケットから名刺を取り出して、それをこちらへ手渡してくる。自分もそれを受け取っていくと、キャバクラやホストクラブなどで使用されるだろう煌びやかなカードに記された『
「ユノさん、ですか」
「そうよ。私はユノ、よろしく」
「まぁ、立ち話も何ですし……よろしければ上がっていってください」
「では、お言葉に甘えようかしら」
自分の部屋に、美女を入れるなんて思ってもいなかった。だが、そんな気持ちよりも先行して巡る感情は、死んだ親父に対する疑問や不信感ばかりだった。
直にして、ユノという従業員から親父の正体を明かされることになる。
かつ、自分があの店に訪れた時点で定められた一つの運命と直面する。この運命はすぐにも形となり、自分という存在もまたあのレストラン&キャバレー『