※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第12話 La tentation du bleu foncé 《紺の誘惑》

 メーとの同伴当日。朝から龍明の駅前で彼女を待つ自分は、付近の柱に佇みながら逐一と腕時計を確認していたものだった。

 

 隣には、護衛としてついてきてくれたレダがこちらの腕に絡みついていた。それもベッタリ引っ付いた恋人ムーブをかますその様子から、今日が誰との同伴なのかが分からなくなってくる。

 

 直にも、駅のホームからいつもの私服姿であるメーが歩いてきた。

 袖を持て余しつつ、ダボダボで膨らんだシルエットの黒縁紺色マウンテンパーカー。ストリート系を思わせるそのアウターに合わせるよう、白色をベースとしたネイビー色の牛柄ワイドパンツに、その前開きのパーカーからは白色のへそ出しタンクトップがチラ見えしているメーのファッション。

 

 履いているアイボリー色のヒールは、サンダルのような大きな穴飾りが特徴的だった。そして同色のカバンを肩に掛けた彼女は「おまたせー!」と言葉を掛けながら、佇む自分とレダに合流してくる。

 

 勝気なネイビー色の瞳に、目の下に薄っすらとつくった黒色のクマ。これに自分は「大丈夫? 具合でも悪い?」と訊ね掛けていくと、次にもメーは苦笑いしながらそんなことを話し始めたのである。

 

「え、えへへ……いやぁ~、やっぱ分かっちゃう? 隠すために化粧室で頑張ってきたんだけど、やっぱファンデーションじゃ隠せないか……」

 

 心なしか、ちょっと恥ずかしそうに目を逸らしてきたメー。そんな彼女の様子に自分が首を傾げている最中にも、こちらの腕に抱き付いていたレダが淡々とそれを口にしてくる。

 

「だから、余裕を持ってノルマを終わらせておきなさいってあれほど言っていたのよ~?今になって慌てて同伴を増やすんだから、肝心な時に醜態を晒すことになるんだからぁ」

 

「いやぁ~……まさかここまでギリギリになるなんて思わなかったからねー……。まぁおかげで、あとはカンキ君との同伴さえやっちゃえばノルマは達成になるんだけど……あれだね。学校の夏休み最終日に、終わっていない宿題に急いで取り掛かっていくあの感覚。それを久しぶりに思い出したもんだね~」

 

「ほんと、あんたっていつになっても呑気よねぇ。夏休みの宿題なんて初日に全部終わらせてたから、そんな感覚わたしが知る由も無いわ」

 

「え、うそっ。夏休みの前半に宿題を終わらせる子供とか、本当に実在するの!? うわーすごい。さっすが、見た目によらずお店で一番真面目なホステスなだけあるわ~……」

 

「ちょっとなにそれ。今の言葉、あまりにも失礼じゃない?」

 

 今までこちらを誘惑し続けていたあのレダが、夏休みの宿題を真っ先に終わらせるタイプの人間だったなんて……。

 

 メーに共感していた身として、今も腕に抱き付いているレダに思わず感心さえしてしまったものだった。そうしてメーとレダの会話を聞いている自分が呆然とそこに突っ立っていると、ふとこちらに視線を投げ掛けてきたメーが、レダから奪い取るようにもう片方の腕を引っ張ってきながらそれを喋り出してくる。

 

「はーい、そういうことだから、ここから先は私とカンキ君のお楽しみタイムでーす。カンキ君のお守りありがとね~レダ。あとは本命の私にお任せちょーだーい」

 

 と言って、メーはこちらの腕に絡みつくなりレダに見せ付けるよう抱き寄せてきたものだった。

 

 これを受けて、腕から離れたレダがムスッとした目でメーを見遣っていく。

 

「あなた、誰がここまでカンキ君を送ってきたと思ってるのよ。ただでさえ命を狙われているカレなんだから、ヘマしてカレに大怪我させたら容赦しないわよ?」

 

「はいはい分かってるって~。それじゃあ行こー、カンキ君」

 

 適当に受け流すような調子で答えるメー。それと共に自分は彼女に駅へと連れていかれると、その歩みの最中にもメーは振り向くようにしてレダへとその一言を告げていったのであった。

 

「ま、感謝はしてるって。わざわざ連れてきてくれてありがとね、レダ」

 

「わたしへのお礼は別にいいから、その分カンキ君を楽しませてあげてちょうだいよ? ……カンキ君~! 次はわたしと同伴しましょうねぇ~!」

 

 

 

 

 

 目指すは東京タワー。事前に決めてある目的地に向かって、自分らは電車へと乗り込んでいく。そして、走り出した車内において自分は、早速メーの様子に気を取られることとなったものだった。

 

 ……隣の席に座るメーが、こちらに寄り掛かる形で爆睡している。

 無防備な寝顔を晒して、スヤスヤと眠る彼女の様子。動き出したばかりの電車に揺られたメーは、つい先ほどまでの同伴の疲れからか瞬く間に眠りについてしまったようだった。

 

 あれほど勝気な瞳を向けていたというのに、眠る時は可憐な寝顔を晒してくるメーのそれ。日頃から目にしている彼女の活発さとは対極にあるその顔を見て、自分は何故だか胸の高鳴りを感じてしまえて仕方がない。

 

 ついさっきまで、メーは他のお客と夜通しで同伴してきていた。ろくに眠る時間も確保できないまま次の同伴に臨んだともなれば、そりゃあ蓄積した疲労が彼女の意識を奪ってもおかしくないことだろう。

 

 だからこそ、自分との同伴の時はゆっくり休んでほしいとも思えてしまった。

 寄り掛かるメーの頭へと、自分もさり気無く寄り添ってみる。今も小さな寝息を立てている彼女に頭をつけてみると、そこから感じ取れたメーの体温に更なる高揚感を覚え出した自分。

 

 ……彼女の顔を近くで眺めてみると、改めてその麗しさに気付かされる。

 日頃から目についていたその長いまつ毛は、メーの引き締まった顔に更なる華麗な印象を与えてくれていた。

 

 ユノとは異なる方向性の美人さんだ。一度でもいいから、メーの着物姿を見てみたい。

 そんなことを悶々と思いながら、間近で眺めていた自分。すると、見惚れていたその顔はふと僅かながらに瞼を持ち上げてきて、そこから細い視線をこちらへ投げ掛けてくる……。

 

「何用かね?」

 

「お、起きてたの……?」

 

「君が起こしてきたんだよ? 寝ちゃってた私に寄り掛かってくるもんだからさ」

 

「ごめん。悪気はなかったんだけど……」

 

「いいよ。その方が私も落ち着くし」

 

 ぎゅっ、とこちらの手を握ってくるメー。そして彼女は「もう少しだけ、このままでいてもいいかな……?」と穏やかに訊ね掛けてくると、再び瞼を閉ざしていくなりメーはそのままリラックスした様子で寝息を立て始めたのであった。

 

 

 

 

 

 電車から降りて、徒歩で移動する自分ら。そうして到着した紅のシンボルを見上げると、メーはこちらの手を引くようにして中へと歩き出していく。

 

 エレベーターで移動することで、遥か上空の展望台に辿り着いた自分とメー。そこから眺める景色は実に圧巻なものであり、人為的に生み出された建物の海が人々の歴史を象っていたものだ。

 

 あまりもの高さに自分は、一瞬だけ立ち眩みを起こしてその場でフラついてしまった。

 気が遠のくような、意識がキュッとしぼんでいくこの感覚。自分は近くの手すりに掴まって気持ちを落ち着けていくその最中にも、すぐ横にいたメーがからかうような目でこちらに言葉を投げ掛けてきたものだった。

 

「あれれ~? カンキ君ってもしかして、高いとこ苦手なのかな~?」

 

「いや……あれ? 前までこんな、高いところは平気だったんだけど……」

 

「大人になって、ダメになっちゃった感じ? おじいちゃんじゃん」

 

「まだそんなんじゃないよ……。というか、メーは高いところ大丈夫なの?」

 

 ケタケタと笑みを浮かべるメーを見て、自分はそんなことを訊ねていく。すると彼女は満面の笑みでそう答えてきたのだ。

 

「私は高いとこ大好きだよ!! あー、いーや、高いとこっていうか~……こう、落ちたら死ぬ!! っていうスリル? が大好きなのかな?」

 

「死ぬっていうスリル?」

 

「そう!! だって、ここから落ちたら絶対死ぬじゃん!? そう考えるとさ……なんかすごくゾクゾクしてこない!? このゾクゾク感が私、大好きなんだよね!」

 

「あー……別世界で生きているタイプの人間だ……。じゃあ、この東京タワーのてっぺんからバンジージャンプができるってなったらさ、メーは参加したいって思ったりするの?」

 

「なにそれ!!! チョーやりたい!!! それって地面すれすれまで落ちるのかな!? だとしたら、どれくらい怖いんだろう!? あ~……考えただけですっごく楽しい……!! やってみたいなぁ……!」

 

 こりゃ完全に別世界で生きているなぁ……。

 目を輝かせて下を覗き込むメーの横顔を見て、自分は変な汗を流しながらそう思ったものだった。

 

 この後にも、メーはガラス張りの床の上でピョンピョン跳ねてみせたりとその度胸を存分に見せ付けられたものだった。彼女自身もこのスリルで恍惚とした表情を見せてきて、その床から退いた後にも、ドクドクと打ち鳴らす胸をこちらの腕に押し付けて響かせてきたものだ。

 

 ラミアやユノとの同伴とは異なって、付き添う側のホステスが大いにはしゃぎ回る今回のデート。東京タワー内のお土産コーナーでもメーは片っ端から気になるものを手に取っていっては購入を悩んでいったりと、もはや同伴であることも忘れて彼女はお出掛けを心から満喫していく。

 

 自分らは東京タワーを後にすると、メーは次にもボウリングをやりに行こ!! と言い出すなり、こちらを引っ張り回すように街中を歩き出したものだった。

 

 そうして自分らは、近くの繁華街に訪れる。そこでメーは蕎麦屋を目にすると「あっ蕎麦! 食べたい!」と突然言い出すなり強引に蕎麦屋へと連れ込まれた。

 

 お座敷で向かい合いながら、共にざるそばを啜っていく昼食の時間。メーはある程度と食べ進めたそのタイミングでつゆに大量のワサビを投下していくと、そのまま蕎麦を口いっぱいに啜っていっては一人で悶絶して、顔を赤くしながら水を流し込んでという様子を見せてくる。

 

 その後にもメーは、涙目ながらも無邪気な笑顔で「辛すぎて死ぬかと思った~!」と言ってみせた。彼女のチャレンジ精神には感心を通り越して呆気に取られてしまったものだったが。

 

 蕎麦屋を後にした自分らは、メーに連れられる形でボウリング場を目指していく。

 だが、付近の大きなゲームセンターを目にすると、メーは「ちょっと遊んでいこうよ!」と言ってはゲームセンターへと連れていかれたものだ。

 

 大音量の電子音が出迎えてくれる建物の中。入口付近にあったクレーンゲームなどのポピュラーなそれらに自分は注目していくのだが、一方でメーはゲームセンターの奥へ奥へと突き進むなり、一風変わった筐体が立ち並ぶ空間へと連れてこられる。

 

 音ゲーと呼ばれる、ちょっとマニアックなゲームを楽しめる空間。そこでメーは空いている台へと指を差しながらこちらへ喋りかけてきたものだ。

 

「カンキ君ってこういうの興味ある?」

 

「音ゲーだよね。あんまり馴染みは無いかな。格闘ゲームなら友人らの相手になったりはしているんだけど……そう言えばメー、いつも俺の部屋でやってるもんね」

 

「スマホでね! でも、やっぱり音ゲーはゲームセンターでやるに限るよ!! この際だから、カンキ君に音ゲーのやり方をレクチャーしてさしあげようではないか!」

 

「ははぁ、メー様じきじきにお教えいただけるとは、ありがたき幸せ」

 

「うむ、くるしゅうない!」

 

 互いに理解し合った掛け合いを行いながら、メーに促される形で音ゲーに臨んでいく自分。そうして覚束ない操作の脇で彼女の指導を受けながら、自分はメーと共にゲームに没頭していったものだった。

 

 寄り道ばかりの同伴だったが、ゲームセンターから出てきた後は真っ直ぐとボウリング場を目指し始めた自分ら。こうして到着したボウリング場では、自分らのレーンに移動するなりメーがそんなことを持ちかけてきた。

 

「じゃあカンキ君、ここらで私とひと勝負してみない?」

 

「勝負?」

 

「どっちがより高いスコアを出せるか勝負しよ! 負けた方は、この後のビアガーデンで全額負担!」

 

「また思い切った勝負だな……」

 

 まぁ、勝負の結果はどうであれ自分が全部負担するつもりではあるけれど。

 そんなことを思いながら、椅子に腰を掛けていた自分は立ち上がっていく。そして、今も張り切ったサマで佇むメーを見据えながら、自分は自信満々にそう答えたものだった。

 

「実は、友人らとよく来るんだ。悪いけど、手加減はできないよ」

 

「へぇ、カンキ君のクセに偉そうなこと言うじゃん。それじゃあ決まりね! この勝負に負けた方は、ビアガーデン全額負担!! そうとなれば、私も遠慮はできないから!」

 

 と言うと、メーはカバンを漁り出すなり紺色のグローブを取り出してきた。

 

 え?

 嫌な予感がよぎり出す自分。これに対して彼女は、ものすごく得意げな顔を向けてきたものだ。

 

「悪いね~。私、ボウリングで同伴相手に負けたことないから。そこんとこヨロシク」

 

「あ……ど、どうも。よろしくっす……」

 

 結果は言わずもがな、自分はズタボロに打ちのめされた。

 メーに四連続ストライクのフォースを叩き出され、圧倒的な格差を見せつけられたこの勝負。こうして敢え無くビアガーデン全額負担の刑に処された自分が悔しがる脇で、メーは清々しい表情で右腕を回すストレッチを行っていたものだ。

 

 マウンテンパーカーを脱ぎ捨てた本気モード。運動中の汗を流す彼女の姿は、勝気な表情も相まってサマになっている。

 

 勝負を終えた中で、勝負なしの投球に励むメーの様子に思わず見惚れてしまっていた。

 それは、ボウリングの上手さに留まらず、程よくついた彼女の筋肉がメーという女性に一層もの磨きをかけていたからだ。そんな彼女の姿には、周囲の人間も堪らず注目してしまう。

 

 直後にも、気持ちの良いストライクの音が響き渡ってきた。

 綺麗な投球フォームを見せ付けて、自信に満ち溢れた表情で振り返ってくる彼女。そして椅子に座るこちらを見遣ると、メーは流した汗と共にニッと笑みながらそう喋りかけてくる。

 

「どーよ? 私の実力、思い知ったかな?」

 

「悔しいけど、認めざるを得ない……」

 

「何なら、もうひと勝負でもする? そうだなぁ~……じゃあ次の勝負に負けた人は、次回の同伴の晩ご飯を全額負担する。ってのはどう?」

 

「しれっと次の同伴の話を持ち掛けてきたな……」

 

「ま、どうせ次もカンキ君が負担することになるから、別に勝負しなくてもいいよね?」

 

 ぐぬぬ……。

 圧倒的優位から見下してくるメーの視線。これも二人の仲だからこそできる掛け合いではあるものの、非常に屈辱的で自分は歯がゆく感じてしまう。

 

 そこで、自分はある悪戯を思い付いた。

 次の投球フォームに入ったメー。ボウリングボールを構え、その綺麗な姿勢と足取りで一直線に踏み出していくその頃合いを見計らい、自分はさり気無い調子でそんなことを口にしてみた。

 

「あ、ラミアも来てたんだ?」

 

「え?」

 

 ガタンッ。という音を立ててガーターに吸い込まれたボール。直後にメーがすぐさま振り返ってくるのだが、そんな彼女に自分は両手を広げて『さぁ?』というジェスチャーを見せていく。

 

 このあと、両方のこめかみにメーのげんこつを食らったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 夜を迎えた東京が、色鮮やかなネオンの光を放っていく。

 ビルの屋上にあるビアガーデン。活気に溢れた人々で埋め尽くされたこの空間には、観葉植物や中に入れるログハウスといった様々なアクセントが用意されている。

 

 視覚的にも楽しい、賑わいに満ちた憩いの場。酒の席で宴を行う大所帯が笑い声を響かせるその中で、二人用の席に座る自分とメーは、テーブルの上に用意されたコンロでバーベキューを楽しんでいた。

 

 今も網の上で音を立てる肉や野菜を他所にして、ビールの入ったジョッキでメーと乾杯を行っていく。彼女の「かんぱーい!」という声と共に二人でビールを喉へ流し込んでいくと、メーは既に赤くしていた頬で陽気にそれを喋り出してきたものだった。

 

「あは~! 今日は本当に楽しい一日だった~!! こんな同伴がずっと続けばいいのにって心から思うわ~」

 

「俺で良ければ、また付き合うよ。んまぁ、まだこの同伴は終わってないから、今は夕食を存分に楽しもう」

 

「ねぇねぇカンキ君!! 次の同伴はどこに行こっか!? そろそろ夏になるからさ~、みんなで海にでも行かなーい?」

 

「みんなと一緒じゃあ、それ同伴にならないんじゃない? でもいいね。海とかプールとか、夏らしい遊びをみんなとしたいね」

 

「とか言いながらカンキ君、実は私達の水着姿が見たいだけなんじゃなーい? うわー! カンキ君ってヘンタイだ~!!」

 

「変態扱いするの本当に好きだな……。いや、水着姿が見たいってのは否定できないけど」

 

 変な汗を流しながらメーを見遣る自分。そうして目の前の彼女が肉を好んで頬張っていく様子を眺めていると、目が合った彼女は悪戯にニッと笑みながら喋り出してくる。

 

「ねぇねぇカンキ君。カンキ君は今日の同伴、楽しかった?」

 

「うわビックリした。またからかってくるのかと思って身構えてたのに、すごいまともなことを訊いてきた」

 

「なにさ~!! 私がまともで何が悪いの!?」

 

「いやいや冗談冗談」

 

「あは、知ってまーす」

 

 だいぶ酔ってるな……。

 内心で呟いた言葉。その言葉通りにメーはベロベロに酔いつぶれると、夕食を終えた後なんかは彼女を背負うようにして、自分は夜の東京を歩いていたものだ。

 

 メーを背負ったまま、電車に乗ってアパートまで帰る。……そこまでいけるかな。

 不安がよぎるこの道中。それを脳裏に浮かべながら歩いていると、今もおんぶしているメーが唸りながらも耳元でそんなことを口にしてきた。

 

「ホテル……」

 

「ホテル?」

 

「右、曲がって……。五分……」

 

「そこにあるホテルがどうしたの?」

 

「予約とってある……」

 

 用意周到だ……。

 元から酔いつぶれる気満々だったのかもしれない。彼女の言葉を受けて自分はメーの案内に従っていくと、五分ほどかけて歩いたその先にて普通のビジネスホテルに辿り着く。

 

 ……てっきり、アッチ系のホテルかと思ってた。

 彼女への不信が申し訳ないほどの普通のビジネスホテルを前にして、自分はメーを一旦下ろしていく。そしてフラつく彼女を連れて中へ入っていくと、そうすぐにも案内された部屋に踏み入るなり自分は唖然としてしまったものだ。

 

「ベッドが一つしかないけど……もしかしてシングル……?」

 

「うぅ~……」

 

 会話が成り立たない。取り敢えず既に限界のメーをベッドに寝かせてあげて、自分はその傍に落ち着くようベッドに腰を掛けていく。

 

 そして、ベッドに横たわったメーの様子を何となく眺めていった。

 顔を赤らめ、着ているマウンテンパーカーが乱れたその姿。心なしか卑猥に感じ取れる彼女の様子に自分は「参ったなぁ……」と頭を掻いていると、ふと上着の裾が引っ張られる感覚で振り返ると同時にして、メーはこちらを思い切り引き倒してきたのだ。

 

 思わぬ力に、彼女の付近に両手をつくような姿勢となった自分。そうして寝転がる彼女と間近で向かい合っていくと、次の時にもメーは悪戯に微笑みながら喋り出してくる。

 

「あは、二人きりになっちゃったね~?」

 

「メー?」

 

「ねぇカンキ君~。えっちしよ~?」

 

「…………」

 

 こちらの首に両腕を回してきたメー。そのままキスしようと顔を近付けてきたものだったから、自分は避けるように顔を離して彼女と距離を空けていく。

 

 その行動にメーは、一瞬だけ思考停止したかのようなポカンとした表情を向けてきた。

 

「カンキ君……?」

 

「ダメだよメー。そういうホテルとかと違って壁が薄いから、近隣の迷惑になる」

 

「やだ。今シたい気分なの。カンキ君が欲しい」

 

「それより休みな。他の客との同伴でろくに眠れてないだろうから」

 

「やだ! シてくれないと眠れない! だからお願い……!」

 

「ごめんねメー。どんなに頼まれても、今のメーとはする気になれないよ」

 

 勝気な瞳を潤ませ始めたメーの様子。物欲しげに見遣ってくる彼女の視線を受けて自分は顔を近付けていくと、そのままメーの頭を優しく撫で掛けながら彼女の説得を試みる。

 

「メーが嫌いなわけじゃないから、安心してほしいんだ」

 

「……やっぱラミア? カンキ君はラミアが好きなの……?」

 

「うーん……いや、どうなんだろう。これが恋愛的な好きなのかどうかは自分でも分からないんだけど、それを踏まえてもラミアのことは好きだよ」

 

「やっぱそうだよね……。カンキ君も、私よりラミアを選ぶよね……」

 

「違う。メーとのえっちが嫌なわけじゃないんだよ。ただ俺が、酔っている女の子に手を出したくないだけ。メーの意識がハッキリしてるシラフの時ならできるから、今はゆっくり休んでくれないかな」

 

「……本当? えっちしてくれる……?」

 

「いずれしてあげるから、今は目を閉じてゆっくり休んでほしいな」

 

 じゃないと、こちらの理性が爆発しかねない……。

 堪えることで精いっぱいだった。何だったら、このまま彼女の望む通りに覆い被さりたい。それでもなお酔っている女の子に手を出すことが、自分にはとてもできずにいた。

 

 こちらの手を取ってくるメー。既に途切れつつある意識の中でその勝気な瞳を向け続けてくると、間もなくして彼女は深い眠りについていった。

 

 そんな眠り姫に布団を掛けてあげ、自分は深いため息をつきながら悶々としていく。そしておもむろに立ち上がって洗面所へ移動していくと、そのままトイレの個室にこもっては暫しと気分を落ち着かせていたものだった。

 

 

 

 

 

 アパートに帰ってきたのは、翌日の朝になってからだった。

 

 玄関扉を開くなり、奥からはルームウェア姿のラミアと私服姿のレダが顔を覗かせてくる。そして、駆け寄ってくるラミアとニヤついているレダの二人に自分とメーは迎え入れられると、次にもラミアとレダからその言葉を掛けられた。

 

「カンキさん!! どーして最初はウチじゃなかったんですか!? 出会った順番からしてウチが最初ですよね!? なんでですか!?」

 

「枯れたような顔をしちゃって、カンキ君もやっぱりオトコなのねぇ? それで、どうだった? 同伴したカノジョのぐ・あ・い」

 

 思わず心で頭を抱えた。

 二人に対して自分は、「いやいやしてないから……」と答えていく。だが、すぐにもレダが「じゃあその顔は一体何なのかしら? もしかして、オンナを連れ込んでまでしてお一人様?」と訊ね掛けてきたものだったから、自分は言葉を詰まらせてその場に立ち尽くしてしまう。

 

 そんな自分の後ろから、メーが通り抜けるように部屋へ上がっていく。そして彼女は「あーあ」と短く声を出していくと、直後にも背伸びをしながらそれを喋り出していったのだ。

 

「残念だった。あー、本当にザンネンだった~。だって、せっかくカンキ君と夜を共にしたっていうのに、私すっごく酔ってたから夜の記憶が全く無いんだよね~。あーあ、勿体無い。本当に勿体なーい」

 

 背伸びするメーへと振り向く一同。そこで彼女は両腕を下ろして身体の後ろにやっていくと、そのままクルッとこちらへ振り返りながら勝気な瞳でそう言葉を続けてきたものだ。

 

「だからさ~? また同伴に付き合ってよね? いいでしょ? カンキ君」

 

「あぁ、うん。またいつでも……」

 

 ……タイミング、逃しちゃったのかな。

 脳裏によぎる後悔に自己嫌悪さえしてしまえる自分。だが、この時にも一瞬だけ目撃したその光景は、ちょっとだけ後悔したこちらの様子にからかうような視線を向けてくるメーの姿というものであった。




【chapter 2に続く…………】
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