※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

13 / 82
Chapter 2
第13話 Un petit monde 《狭い世界》


 この日も夜のle goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に顔を出していた自分は、今日の相手であるタキシード姿のラミアといつもの談笑を交わしながらその時間を満喫していく。

 

 もはや、ホステスである彼女の話を聞く立場に置かれた自分の状況に、これって逆なのでは? という疑問を抱いてしまう。

 

 そんな中でラミアの愚痴に共感を示していると、ふと彼女の下にやってきたボーイがラミアに耳打ちをするなり、彼女はボーイに「すぐ確認しますねー」と言いながら向かいの席のこちらへそう喋りかけてきたものだった。

 

「すみませんねー、所用でちょっとだけ席を外します。あー、すぐ戻りますから、カンキさんはそれまでゆっくりしていてくださーい。ではではー」

 

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 手を振ってラミアの背を見送る自分。そうして彼女がスタッフ室に入っていくのを確認していくと、自分は持て余した暇で暫し呆然としていたものだった。

 

 この後にも、業務を終えたラミアとメー、それとレダの三人でアパートに帰る予定があった。加えて、自分は親父の関係で命を狙われる立場であることから、夜の街を迂闊に出歩くこともできずにお店で待機することしかやることがないこの状況。

 

 話し相手がいないと暇だなぁ。呑気にもそんなことを考えながらボーッとしていると、ふと歩み寄ってきた靴音と共にして、低く淡々とした男性の声音でその言葉を掛けられたのだ。

 

「おきゃくさま、スマートフォンの着信に気付かれていないご様子ですね」

 

「え?」

 

 どこか不敵な声音を耳にして、自分は振り返ってその姿を確認する。

 百八十一ほどの身長であるその男性は、黒色のタキシードに白色のシャツというごく一般的なボーイの格好をしている人物だった。しかし、無造作なショートヘアーはブライトピンクの暗めなピンク色であり、土器のような質感をうかがわせる灰色の肌と、暗めの赤い瞳に長めのまつ毛、そして中性的な顔立ちの容貌が何とも印象的。

 

 そのボーイは、穏やかな細い目でこちらの上着を見遣っていた。その視線に自分は「ど、どうも……?」と言いながらパンツのポケットに手を入れていくのだが、この動作を見たボーイは不敵な静けさでそう教えてくれたものだ。

 

「上着の右ポケット。そこでマナーモードの震動が聞こえている。既に七回は震えているかな。これから八回目だ」

 

「あ、上着のポケットか。……え、震動の音とかも聞こえているんですか? 騒がしいこの空間で、その距離で……?」

 

「僕との会話に励むより、着信に応じた方が君のためになると思うよ」

 

 淡々と喋るその調子が、なんだか裏を感じられて少しばかりと不気味に思えてしまえる。

 

 初めて見るボーイに自分は、うかがうような視線を向けてしまいながらも「ありがとうございます……」とお礼を口にして、上着のポケットから端末を取り出した。

 

 そして、画面に映し出された名前に自分は「親戚のおばさんからだ……」と呟くと、店のエントランスへと駆け出しながらその着信に応答したものだった。

 

 

 

 

 

 静寂に近しい空間のエントランス。そこで出迎えのホステス二人が会話をしているその脇で、自分は通話を切るなり「参ったな……」と頭を掻いてしまっていた。

 

 ……親戚の女の子が行方知れずになった。歓喜くんはその子の行方を知らないだろうか?

 要約すると、そんな内容の会話だったものだ。これに自分は心当たりがあるはずもなく、力になれないことを悔やみながら会話を切り上げて、無力感に苛まれながらメインホールへと歩き出していく。

 

 行方が分からなくなったその女の子は、この年から高校生になったばかりの女子高生だった。自分もその子の存在自体は認識していたものであるのだが、その子との接点はほぼ皆無に等しく、顔も合わせたことがないために、自分にとってその子はほぼ赤の他人のような人間だったものだ。

 

 むしろ、その失踪した女の子の“お姉さん”だった人物のことを、自分はよく知っている。

 現在は女子高生である妹さんと、九歳も離れているそのお姉さん。彼女は、自分が知る限りで最も破天荒な性格である暴風のような人間だったことは覚えていた。住んでいる自宅がその親戚の家と近かった時なんかは、そのお姉さんが事ある毎にこちらへ押しかけていたものだ。

 

 ……振り回されてばかりだったけれど、誰よりも頼れる姉御のような存在だったな。と、そんなことを思っていく自分。しかし、共にして巡ってきた不安の感情が、そのお姉さんに対する感慨深さを打ち消してしまう。

 

 あのお姉さん、今はどうしているのだろう。いや、そもそもとして彼女は生きているのかすらも分からない。それもそのはずで、そのお姉さんはある時を境にして“行方不明”となってしまったものだから……。

 

 

 

 ホールに戻ってくると、自分の席にはラミアとあのボーイが待っていた。

 向かいの席に座るラミアが、足をぶらぶらさせながらボーイの彼と会話している。そこに自分が歩いてくると、こちらに気が付いた彼女は適当な調子で言葉を投げ掛けてきたものだ。

 

「あー、カンキさんおかえりなさーい。なんですか、カンキさんにも電話できる相手っていらっしゃったんですねー」

 

「ラミアは俺のことを何だと思っているんだ……」

 

 汗を流しながら椅子に座る自分。それから、着信を知らせてくれた不敵なボーイへと先のお礼を伝えていく。

 

「電話が来ていること、教えてくれてありがとう。おかげで、割と大事な話を聞き逃さずに済んで本当に助かった」

 

「どういたしまして。それで君は、行方不明になった女の子についてだいぶ疎いようだったね。このままじゃあその子、龍明という有象無象の邪悪が蔓延るこの街で、言い様に食い物とされてしまうんじゃないのかな」

 

 絶句。ホールから、エントランスまでのあの距離の会話が聞こえていたとでも言うのか。

 盗聴器でも仕込まれている? なんていう疑念が表情に表れたこちらの様子に、ラミアは頬杖をつきながらそれを説明してくる。

 

「あー、カンキさんは“クリスさん”のコトをご存じないみたいですねー?? カレ、ものすごい地獄耳をお持ちなんですよ。なので、ココから控室のウチらの会話なんかも聞いていたりして、ホントに心底から気持ち悪いなと思っちゃうモンですよ。あ、もちろんイイ意味でですよ??」

 

 クリスというボーイへと振り向きながら喋るラミア。これに対してクリスは「お褒めいただき光栄だね」と淡泊な調子で答えていく。

 

 その上で彼はこちらに向いてくると、次にも不敵な声音で淡々と喋り出してきたものだった。

 

「人探しなら僕に任せてくれないかな。今までの人生、請け負った依頼を達成することしかしてこなかったものだからね。こうして平穏な暮らしに迎え入れられてしまった今、生きていることがただ退屈で仕方がないんだ」

 

「そ、そうなんだ……?」

 

 ホステスのみんなは変わり者だと思っていたけれど、ボーイも大概だなぁ……。

 それを思いながらクリスを見遣る自分。そこで彼と目が合っていくのだが、その瞬間にも不思議と全身に悪寒が巡り出したことによって、自分はクリスの提案に躊躇してしまう。

 

 そんなこちらの様子におかまいなし。クリスは真っ直ぐな瞳でこちらを見据えながら、淡々とした調子で喋り出してくる。

 

「それじゃあ、話だけでも聞かせてくれないかな。高校の名前は、龍明高等学校って言ってたね。だから、それ以外での彼女の特徴……例えば、名前とか髪の長さ、それとほくろの位置なんかを教えてもらえさえすれば、あとは僕が勝手に探し出してくるからさ」

 

「とは言っても、俺もその子のことはほとんど知らないんだ。その子のお姉さんとなら親密に関わっていたもんなんだけど、その頃は妹さん、まだ小学校に上がる前とかの大きさだったものだから、今の妹さんの特徴とかはまるで知らないんだ……」

 

「そう言えば、話の中で“菜子(なこ)”って名前が挙がっていたね」

 

「そうだね。いなくなった女の子の名前。ここ二週間、菜子ちゃんが家に帰ってきていないらしい。このことを警察に相談したりしたみたいなんだけど、如何せんその菜子ちゃん、警察の間でも有名な問題児らしくって、その関係でまともに取り合ってくれなかったみたいなんだ」

 

「尤も、龍明の警察は迷子の捜索程度で腰を上げたりしないさ。彼らは銃撃事件やストライキの鎮圧で手一杯だからね」

 

 これ本当に日本?

 改めてそんな疑問が思い浮かんでくる。もはや当たり前になっていたその日常に自分が内心でドン引きする間にも、クリスは淡々とした調子でそれをこちらに訊ね掛けてきたものだった。

 

「じゃあ、苗字だけでいいよ。外見の特徴があればもっと早く見つかるんだけど、探し出すなら本名だけで十分さ。その分、発見が遅れて既に死体になっている可能性も上がるけれどね」

 

「嫌なこと言わないでくれ……。それじゃあ、苗字を教えればいいんだね……」

 

 警察がまともに取り合ってくれない以上は、このクリスってボーイに頼るしかなさそうだ。

 

 なんだか、悪魔に魂を売るような気分だった。

 そんな面持ちで彼と向き合っていく自分。そして、今も細く光らせた紅の瞳と向かい合うように彼の目を見据えながら、自分は行方不明であるその少女の本名を伝えていった。その時のことだ……。

 

「蓼丸菜子(たでまるなこ)。それが、いなくなった女の子の名前だね」

 

「蓼丸?」

 

 苗字を聞くなり、クリスはわずかながらに見開いてきた。

 そして、何やら思考を巡らせ始めたその姿。これに自分とラミアが首を傾げて様子をうかがっていくと、次の時にもクリスは不敵にニヤつきながら淡々とそれを喋り出してきたものだった。

 

「どうやら僕の出る幕は無さそうだ。この件はユノに伝えてあげると良いかもしれないね」

 

「ユノさん? どうしてそこでユノさんの名前が?」

 

「彼女に訊ねれば分かるよ。そして、そのお姉さんか。なるほど」

 

 ひとり納得した彼の様子に、尚更と疑問がよぎってしまう。

 挙句には、クリスは興味を無くしたように踵を返していくと、去り際にもその言葉をこちらに投げ掛けてきたものだった。

 

「今回は手柄をユノに譲るとして、もし他の件で困ったことがあったら是非とも僕に教えてよ。特に、殺しの案件なら喜んで引き受けるよ。身近に憎らしく思う人物でもいないかい? それを僕に教えてくれれば、殺しから死体の処理まですべて引き受けてあげる。それを頭の片隅に入れておいてくれるとたいへん嬉しいな。じゃあそういうことで、またお話をしようね。柏島オーナーの息子さん」

 

 

 

 

 

 真夜中になり、キャバレーとしての姿も閉店した穏やかなメインホール。業務を終えたホステスやボーイが和気藹々と会話を交わしていく様子を光景にして、自分は引っ付いてくるラミアへと言葉を投げ掛ける。

 

「いや、ラミアはついてこなくて大丈夫なんだけど……」

 

 ユノの下へと向かうその道中、どこかワクワクとした様相のラミアがついてくるこの状況。これに先の言葉を掛けていくのだが、一方として彼女はムッと振り向きながら真剣な眼差しでそう返答してきたものだった。

 

「なんでですか?? どーしてウチもハナシを聞いちゃいけないんですか?? クリスさんのあんな態度、ウチ初めて見たんですよ?? あんな意味深な対応を取られてしまいましたら、部外者のウチでもついつい気になっちゃうモンじゃないですか!?」

 

「いやいや、見世物ってわけでもないんだけど……。まぁいいか……なんか、ユノさんの近くにメーとレダもいるし……」

 

 向かう先で佇むタキシード姿のユノの傍には、同じくタキシード姿のメーとレダが会話を交わしていたその光景。

 

 まぁ、聞かれても問題ないか。そんなことを考えている間にも自分らはユノの下に到着すると、歩いてくるこちらにメーとレダが手を振ってきて、彼女らの反応に一歩遅れてユノが振り返ってくる。

 

 そして、彼女は凛々しい佇まいでこちらへ右手を差し伸べてくると、次にも男女問わず魅了する大人の麗しさでその言葉を投げ掛けてきたものだった。

 

「こんばんは、柏島くん。今宵も私達の店を楽しんでもらえたかしら。貴方の心が満たされれば、それだけ私達は報われるの。だから、またいつでもいらしてちょうだい。貴方の来訪を、私達は心から歓迎するわ」

 

 あぁ、自分は今ユノさんと会話している。そんな実感が湧いてくる彼女節に、自分は変な汗を流していく。

 

 それは置いといて、自分は「あの、ちょっと相談があるんですけど……」と切り出していくなり、ユノにこれまでの経緯を説明したものだ。

 

 探している女の子がいて、その女の子は蓼丸菜子(たでまるなこ)という名前であるということ。それを説明して、「捜索の方、協力していただけないでしょうか?」と自分はユノに訊ねていく。

 

 だが、そうして自分は申し訳なく思いながらユノを見遣っていくと、そこで目にした彼女の様相にこちらが衝撃を受けてしまったものだった。

 

 今までの凛々しいサマからは考えられないほどの、呆気にとられたその表情。暫しと放心に近い雰囲気で彼女は呆然と立ち尽くすものだったから、これには自分とラミア、それとメーが揃って首を傾げながらユノをうかがっていく。

 

 一方、ユノの傍にいたレダは、軽く腕を組んだ佇まいでユノを見遣りながらも、彼女の顔色をうかがうようにそれを口にし始めたのだ。

 

「蓼丸(たでまる)って、あの蓼丸という認識で良いのかしら~? だとしたらユノさん。この話、あなたにとっても他人事ではないんじゃないの?」

 

 どういうことなんだろう。それを視線で問い掛けると、レダの言葉に反応するようユノが喋り出していく。

 

「どういった内容であろうとも、柏島くんの頼みであるならば私は断るつもりなんて毛頭ないわ。柏島くんに否定を突き付けるということは、柏島オーナーに対する不義理を働くことにもなりかねない。今は亡きオーナーへのご恩に報いるためにも、柏島くん、その少女の捜索を私に任せてもらえないかしら」

 

「ちょっと大げさに聞こえますけど……急な頼みであるにも関わらず快くお引き受けくださったユノさんの温情に、自分は感謝しかありません」

 

 何はともあれ、蓼丸菜子(たでまるなこ)という女の子の捜索に希望が見えてきた。これに自分は勝利を確信するかのような気分でいる中で、ユノは改まるようにこちらへそう訊ね掛けてくる。

 

「それでなんだけど、柏島くん。ひとつ、貴方から聞かせてもらいたい話があるの」

 

「なんでしょうか?」

 

「貴方の言う、“お姉さん”、という人物に関しての質問なの」

 

「あはい、それがどうかしましたか……?」

 

「彼女の名前についてなのだけど、もし私が思い描いている人物と同一であるのならば、彼女はきっと“ヒイロ”という名で呼ばれていたはずよ。この名前に心当たりはあるかしら?」

 

「あ…………」

 

 図星。思わずキュッと縮まった心臓の感覚に、ユノは確信するかのような頷きを見せつつそれを訊ねてきたものだった。

 

「……柏島くん。“ヒイロ”という人物とは、どういった関係の仲だったのかしら?」

 

「いやそんな、大した仲では……。ただ、ヒイロ姉さんは俺の“従姉”でしたので、住んでる家が近かった頃なんかは毎日のように姉さんに振り回されていたもんですけど……」

 

「……その時の話、良かったら私に聞かせてもらえないかしら」

 

 穏やかでありながらも、しみじみとした声音で喋るユノの調子。これに自分は「わかりました」と答えていくと、そのヒイロという人物とのエピソードで何気なく記憶に残っているその話を、ユノを始めとした周囲のホステス達に話し始めていったのであった。

 

 

 

 

 

 小学生か、中学生くらいの頃だろうか。そんな曖昧な記憶の中に残る、親戚の家のリビングというこの空間。この頃から親父は、探偵という身分を隠してこちらと距離を取っていたことから、自分は親戚の家を転々と移動する形で住まいを移していく引っ越し生活を余儀なくされていた。

 

 そうして、親戚の家の広いリビングでテレビゲームをしていた時のこと。ふかふかなソファに座って、大きな画面に釘付けとなるよう無心でゲームをしていると、玄関扉が開く音の直後にもドカドカ走ってくる音と共にして、“彼女”は躊躇いなくソファへと飛び込んでくる。

 

「うらぁぁああああーーーーー!!!!」

 

「う、うわあぁぁああああ!!??」

 

 書き起こすと途端にして、知能の低下が著しくなった双方のセリフ。これによって驚いた自分が飛び込んだ彼女に押し倒されていくと、次にも彼女は、無垢が故にキレ散らかすこちらを力強く抱きしめてきたものだった。

 

 鼠色のブレザーに白色のシャツ、そして赤と白のチェック柄スカートという高校の制服姿であるその彼女。巻いていた赤色のリボンはだらしなく緩めていて、シャツのボタンも三つほど開けていたことで灰色のアンダーシャツが丸見えになっている。

 

 そうして、脱げかけた白色のルーズソックスも気にしない彼女がこちらをムギュウっと抱き抱えてくると、ふわっと扇状に広がる腰丈程度の茶髪ロングヘアーをぐしゃぐしゃにしながら、彼女は無邪気な調子でそれを喋り出してきたものだった。

 

「捕まえたぞー少年!! さぁ、観念してアタシの抱き枕となるが良い!! ほらアタシにかまえ~!」

 

「な、な、ヒイロ姉ちゃん邪魔!!! 今ゲームしてたんだけど!!!」

 

「ゲームなんて何年経ってもできるもんっしょ~? それよか、現役JKのアタシの相手をする方がよっぽど有益だと思うんだけど?? その辺どうなんよ~?」

 

「やだ! 邪魔!! いいとこだったんだから離して!!」

 

「ちぇー、ノリの悪いガキんちょだこと」

 

 悪びれる様子もなくニヤッと見せてきた彼女の笑み。一方で今も抱き抱えられる自分がゲーム機のコントローラーで彼女を殴りまくるのだが、そんなこちらの反応に彼女は、黒色の瞳をキラキラ輝かせながら愉悦の笑みを浮かべて眺めてきたものだ。

 

 今思うと、百六十八くらいはあっただろう彼女の背丈。性格は粗暴で行動がいちいち豪快であるその人物は、ソファの上であぐらをかきながらも、ゲームをプレイするこちらの様子をまじまじと見つめていく。

 

 どのタイミングで仕掛けようか。背後からの視線でその言葉が伝わってくる彼女の気配に、子供ながらも自分は冷や汗を流しながらゲームを進めるその状況。

 

 だが、ここで彼女は「あ、やべ!」と言いながら思い出したように学校の鞄の中を漁り出していくと、取り出した携帯電話を開いて確認して、そのままおもむろに立ち上がってドタバタ歩き出しながら騒ぎ立てていく。

 

「やーばい! かれピッピとの待ち合わせ!! 急いで風呂済ませねぇと!!」

 

「お風呂? まだ夜じゃないよ?」

 

「あん?? ……あぁ。お風呂っていうのはね~、何も夜に入るものってわけではないのだよ歓喜(カンキ)くん。必要があれば、お風呂は朝でも昼でもいつでも入っていいものなのさー」

 

「??? どこか出掛けるの? いま夕方だよ?」

 

「あぁ違う違う、夜になるからお出掛けするんだよ~? じゃないと、大好きな人とイチャイチャできないからね。まぁさ、歓喜くんもお姉さんみたいな年齢になれば分かることだから」

 

 そう言って彼女は、ソファに座るこちらに近付くなり頬にキスをしてきた。これに自分は子供ながら頬を拭いていくと、そんなこちらの真横に彼女は腰を下ろしてきては、肩に腕を回してきて寄り掛かってくる。

 

 そして、彼女はこちらの頭を撫でながら、あろうことか耳元でそんなことを喋り出してきたのであった。

 

「アタシはね、これから大好きな彼氏くんとらぶらぶえっちをしてくるんだぞ~??」

 

「えっち? って……えっちなこと?」

 

「そう!! えっちなこと!! お互いの愛を確かめ合う神聖なる行為で、人間が寂しさや欲望を紛らわすために励んでいく大人のお遊びのことを言うんだよ~。いい、歓喜くん。これはね、セ〇クスっていう名前の遊びなんだ。よく覚えておけよ~?? 歓喜くんも彼女ができたら絶対にする、とっても気持ち良いお遊戯だから、可愛い彼女ちゃんを失望させないためにも、今の内によく勉強しておけ~?」

 

「セ〇クス?」

 

「そうそう!!! セ〇クス!!! うわぁ歓喜くんかしこ~い!! 今の内にセ〇クスを覚えちゃうなんて歓喜くん将来は有望だね! よ! 未来のヤリ〇ン男!!! 時代の最先端を往く全自動人類繫栄マシーン!!! あ、何だったらアタシでセ〇クスの練習でもする?? 帰ってきた後にでもしよっか??」

 

「????」

 

「てか歓喜くん、ちゃんとおち〇ち〇剥いてる?? 今の内に剥いておかないと立派な大人になれないよ? ほら、ちょっとお姉さんに見せてみなさい??」

 

「え。え。なに。待って。どうして脱がしてくるの!? ヒイロ姉ちゃん!! 待って、やめ」

 

 

 

 

 

 ……これ以上を話してしまうと、何故だか自分の尊厳が失われるような気がしてしまえた。

 

 場面は現在に戻り、自分は話を途中で止めるようにして「まぁ、そんなこともありました……」と無理やり締めていく。この話に対し、横で聞いていたラミアとメーが「うわぁ……」とドン引きする眼差しをこちらへ向けてきたものだった。

 

 いや、その目を自分に向けられても困るんだけど……。

 という言葉を内心で呟くこちらの目の前では、ユノは何かに納得したかのように何度も頷きながらしみじみと喋り出してくる。

 

「龍明高等学校の制服に、突拍子も無い衝動的な行動、それにふしだらな言葉遣いに髪型の様子など、当時の彼女が兼ね備えていた特徴と見事に一致するわね。柏島くんの話から、その人物が私の知るヒイロと同一人物であることが分かったわ」

 

「本人曰く、小学生の時点で性交渉を経験していたらしいです。また、彼女が語ってくれた武勇伝も中々にぶっ飛んでおりまして、教卓を振り回して廊下の窓をすべて割り尽くしたり、学校の屋上から飛び降りて校庭の花壇に突っ込んだり、喧嘩を売ってきた大人をバイクに縛り付けて引き摺り回したなどの話を散々と聞かされたもんですよ……」

 

「えぇ、よく知っているわよ。ヒイロが語った武勇伝の一部分は、私も目にしたことがある事実に基づいているのですもの」

 

「あぁ、やっぱり本当のことだったんですね……。…………ん?」

 

 私も目にしたことがある?

 その言葉に、自分は驚きを隠せない顔で彼女を見遣ってしまったものだった。そんなこちらの視線を受けてユノは、凛々しいサマで清々しくそう答えてくる。

 

「ヒイロとはね、小学校に入学した頃からの長い付き合いなの。家柄の関係で周囲から孤立していた私に対しても、彼女は何の疑問も抱くことなく話し掛けに来てくれたものだわ。それ以来、私はよくヒイロと行動を共にしていたものよ」

 

「……ユノさん、ヒイロ姉さんと同級生だったんですか……?」

 

「世間って狭いものね」

 

 そう言って苦笑してみせたユノ。だが、すぐにも真剣な表情に変えてくると、ユノは低い声音でこちらにその言葉を投げ掛けてくる。

 

「ヒイロの足取りとか、貴方は掴めているものなの? 彼女と親戚であるならば、ヒイロが失踪した理由についても何か聞いていたりしないのかしら」

 

「それが、ヒイロ姉さんが失踪した理由は俺達にも分からなくて……。あまりにも急に姿を消してしまったものですから、親戚の間でもしばらく問題になりましたし、何よりもヒイロ姉さんの失踪がキッカケで“蓼丸家は崩壊”しましたから、それ以来の情報がこちらの耳に入ってこなくって……。期待にお応えできなくてすみません……」

 

「いえ、貴方が謝罪する必要はないわ。それよりも今は、目先の問題に取り掛かることが先決ね」

 

 本来の目的は、二週間ほど前から行方不明になってしまっている蓼丸菜子という少女の捜索。ユノの協力を仰ぐべく昔話に興じていたものであったものだが、ここで話を聞いていたレダが、話の本筋へと導くようユノへとそれを話し出してくる。

 

「わたしも一応、ヒイロさんのことを少しだけ知っているわよ。だからこそ、ユノさん。あのヒイロさんの妹ちゃんを探し出すために、“彼ら”の協力を仰ぐべきだとわたしは思うんだけど」

 

「“彼ら”ね。あまり気は進まないけれども」

 

「手段を選んでいられない状況だとわたしは思うし、ユノさんのお願いであれば“彼ら”は快く協力してくれると思うのよ。動くなら早い方が良いわよ。そうでしょ?」

 

 “彼ら”?

 それを視線で問い掛けるのだが、ユノはレダを凝視していてこちらに全く気付かない。そして直にもユノはひとり頷いていくと、「そうね、協力を仰いでみましょう」と言うなり尻ポケットからスマートフォンを取り出しながら他所へと歩いていってしまったのだ。

 

 そこで自分は、レダに「彼らって、誰のこと?」と訊ねてみる。だが、この問いに対して彼女は「あらあらぁ、オンナのヒミツに詮索はご法度よ~?」と適当にはぐらかしてくるなり、先までの緊張感とは相反するサマで、豊満な乳を擦り付けるようにこちらへ抱き付いてきたものだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。