俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
レストランの姿である、昼の
とても名残惜しい気持ちがよぎりながらも、内心で『ごちそうさまでした』と呟いていく自分。そして、店を去る前にユノへ一声かけておこうと思って自分は立ち上がったのだが、次の時にもそんなこちらの背後から、“陽気な声音の男性”が声を掛けてきたのだ。
「おうおうおう、随分とキレイに食べるじゃんかよ。粗暴で大雑把だった親父さんとはえれぇ違いなこった」
「え?」
突然かけられたその言葉に、自分は思わず振り返って背後の人物を見遣っていく。
だが、そんな動作を行っている間に“男性”はこちらの肩に手を乗せてくると、そのままポンポンと軽く叩きながらこちらの真横を通り抜けるように歩いていき、そして向かいの席に手を掛けては背もたれを引いていって、男性は当然のように腰を下ろして落ち着いてきたのだ。
その背は百八十八くらいだろうか。かなりの長身でノッポなシルエットが特徴的なその男性は、頭部の七割が金髪のショートヘアーで、残る三割が黒髪の刈り上げというイカした髪型でサングラスをかけている。服装は灰色のスーツに黄色のYシャツというものであり、スーツは前を全開にしていて、Yシャツもまたボタンを三つほど外した非常にラフな着こなしが印象的だった。
そんな彼は、三十代を思わせるイカした色気を放ちながらこちらに向き合ってくる。すると彼は、履いている焦げ茶色の革靴で脚を組み、テーブルの上で手を組みながらそう喋り出してきたものだった。
「親父さんは典型的な熱血漢タイプだったからよぉ、細かい気配りは全くできねぇし些細な変化なんかにも気が付きやしねぇ、マジもんの適当人間だったもんさ。そのクセして、体を張った調査で次々と事件を解決しちまうもんだからよ、今じゃあ知る人ぞ知る龍明のヒーローとして、その名が語り継がれているってもんよ」
「……あの、それってもしかして、
人生で数回しか会ったことのない親父の名前。それをおそるおそる訊ねてみると、こちらの問い掛けに対して男性は、無言で指を差しながらニッと笑みを浮かべてきたものだった。
つまり、そういうことなのだろうか。何とも曖昧な反応に自分は困惑していく中、男性は手でテーブルをトントン叩きながらそれを促してくる。
「この店の連中から話を聞いているぜ。何でも、命を狙われているだとかで苦労しているみたいじゃねぇか。まぁ、ここで会ったのも何かの縁さ。ちょいとばかり、オレちゃんの相手になってくんねぇかい? なぁ? カンキちゃん」
「わ、わかりました……」
全く存じ上げないパリピな雰囲気の男性。そんな彼の言葉に自分は流されるまま腰を下ろしていき、再びイスに座って彼と向かい合っていく。
と、そんなやり取りを交わしている間に響き渡ってきた靴音。それが真っ直ぐこちらへ向かうようにコツコツ鳴らされると、次にもタキシード姿のユノが男性へとその言葉を投げ掛けてきたのだ。
「“オーナー”? こちらに顔を出すだなんて聞いていなかったわよ。一体何の用かしら」
「よぅ、ユノちゃん。そんな邪険そうな顔で見ないでくれよ。オレちゃんだって、れっきとした店の関係者なんだぜ? だからよぉ、ここは一つ手を取り合って、お互いに仲良くやっていこうや」
「貴方を毛嫌いしていたのは昔の話よ。尤も、今も好印象というわけではないものだけれど。それで、どういった用件でここに来たのかしら」
「もしかしてユノちゃん、まだ“現役時代”の時のちょっかいを根に持ってる? まー確かに、オレちゃん本気でユノちゃんに惚れちゃったモンだからさぁ、どーにかして性別の壁を越えられないかと張り切りすぎちゃったトコロも否めないけどよぉ……やっぱまだ、そこが許せないカンジ?」
「たとえ貴方の愚行を許したところで、私はこれからも貴方の人間性を信用することはないでしょうね。柏島オーナーと貴方は器が違うの。だから、彼の座を引き継いだからと言ってそこをはき違えないでちょうだい」
「おっと、恐ろしいくらいの嫌われようだ……。でも、そんなぷんすかユノちゃんもサイコーに可愛いぜ?」
「…………」
傍から見ていても、ユノの言いたいことが何となく理解できた気がしたものだった。
そんな彼は、外見と噛み合うポジティブ具合を見せてきたところでユノへとその説得を試みる。
「まぁまぁまぁ! オレちゃんとユノちゃんの話は今する必要ねぇんだわ。それよりもオレちゃん、今日は目の前にいるボーイに用があってここに来たワケよ」
「貴方と柏島くんに接点が無い以上、彼に近付くことは極力控えてもらえると助かるの。貴方という存在が、柏島オーナーの血を引き継いだ彼に悪影響をもたらしてしまう恐れがあるのだから」
「いやはや、すんげぇ言われようだぜ……」
困ってみせる男性の様子に、ユノは軽く腕を組んだ佇まいで不機嫌そうな顔を見せていく。
だが、次にも彼は困り眉でそれを口にしてきたのだ。
「だけどよぉ、ユノちゃん。オレちゃんがよ、“元相棒”の息子さんに会いに来ることの何がいけないのかね。柏島さんとは伊達に十年来の付き合いであるこのオレちゃんが、その息子さんの顔を見に来ることのどこがおかしいと言うのかな? ん?」
「…………」
「お、言い返せない様子だ。認めざるを得なくてムッとしてるユノちゃんも、サイコーに可愛いぜ」
「無駄口を叩いている暇があるのなら、貴方の言う用事をさっさと終わらせなさい」
「おっ、ユノ様からの許可が下りた。これでオレちゃん、堂々とカンキちゃんとお話しができるってワケだ」
「ただし、貴方が店を去るまで、私はここで見張らせてもらうとするわ。くれぐれも柏島くんに悪知恵を吹き込まないようにしてちょうだい」
「なんだ、そんなコトかい。柏島さんの息子さんとお話しができる上に、ユノちゃんからの熱烈な視線も堪能することができるなんて、オレちゃんこの店に来て良かった~!」
「…………」
この時初めて、嫌悪感丸出しのユノの顔を見た気がする。
二人の会話を前にして、汗を流しながら口を閉ざしていた自分。すると、向かい側の彼はユノへと向けていた視線をこちらに投げ掛けてくるなり、チャラくありながらも大人の落ち着いた声音でそれを喋り出してきたものだった。
「っつーワケで、改めまして自己紹介だ。オレちゃん、この店の二代目オーナーを担当している“
「どうも……。よろしくお願いいたします……」
荒巻と名乗ったその男性は、初代オーナーである親父が亡くなった後の
サングラスで自信あり気な笑みを見せてくる荒巻。その仕草も両手を広げて、少しだけ首を傾げたどこか特徴的なものであったから、自分は内心で「この店って、本当に変わった人しかいないな……」と呟きながら彼と握手を交わしていく。
と、そんな荒巻とのやり取りを交わしている間にも、ユノは尻ポケットからスマートフォンを取り出していた。
そして、着信なのだろうその画面を見るなり、彼女は「失礼」と言って自分らの脇でその通話に応答していく。
……そこで行われた、ユノの相槌。「えぇ」、「分かったわ」、「ありがとう」の端的な返答でその着信を切っていくと、ユノはすぐにもこちらへその言葉を投げ掛けてきたのだ。
「柏島くん、朗報よ。貴方の親戚である“
「え、本当ですか?」
二週間ほど前に姿を消したという、親戚に位置する女子高校生の蓼丸菜子という人物。
その子とは全くもって面識が無い自分であるのだが、その蓼丸菜子のお姉さんである“蓼丸ヒイロ”という人物とは、自分もユノも面識があるという世間の狭さを感じられたその一件。
たった今、その件に進展が見られた。
ユノが指揮する団体に保護されたという連絡によって、ユノは「私はこれから、彼女を迎えに行くつもりよ」とこちらに告げてくる。それに対して荒巻が「ん? 蓼丸って、あの蓼丸?」と、先日のレダのような反応でユノに訊ね掛けてきたものだったから、彼女はそれに対して「詳しい説明は追々するわ」と短く答えていく。
そして、ユノはこちらへと「これから着替えてくるわ。柏島くんもエントランスで待っていてちょうだい。二人で現地へ向かうわよ」と告げるなり、踵を返してスタッフ室へと向かおうとする。
だが、そんな彼女の背へと荒巻はその言葉で呼び止めていったのだ。
「おーい! ユノちゃーん! 客の目の前で堂々と職務放棄するってのかー!?」
「…………」
「と言っても、オレちゃんがオーナー権限を発動したところで止まるワケないもんなぁ!! だったらそんなユノちゃんに、オレちゃんからとっておきのプレゼントだ!!」
荒巻の言葉で振り返るユノ。そんな彼女へと荒巻は何かを山なりに投げつけていくと、それを受け取ったユノは両手でキャッチしたそれを見るなり微笑を浮かべていく。
それは、車のキーだった。おそらく荒巻が所有しているのだろうそれをユノは受け取っていくと、端的に「ありがとう」と言いながらスタッフ室へと駆け込んでいったものだった。
彼女に言われたように、自分もまたエントランスで待機するべく席から立ち上がっていく。
と、そうしてイスの背もたれに手を掛けた自分に対して、荒巻は「ちょっと待ちな」と声を掛けるなり悠々としたサマでそれを喋り出してきた。
「ユノちゃんから詳しい事情も場所も聞いていないモンなんだがよぉ、車のキーが必要になるってこたぁそれなりの距離を移動するってコトになるんだろうさ。そうなるとよ、カンキちゃんの命を狙う不届きな連中のシマに踏み入っちまう可能性が決して無きにしも非ずというワケよ。ここらはオレちゃん達の縄張りが故に軽度のストーカーで済んでいたその気配もよ、場所によっちゃあ武力行使でカンキちゃんを襲いに来る脅威へと変貌し得るっつーコトでちょいとアブねぇ遠征になるやもしれねぇ」
「えっと、つまり……俺はここに待機していた方が良いということでしょうか……?」
「それが可能なら、そうするのが一番さ。だが、ユノちゃんはその判断を下さなかった。ってこたぁつまり、その現場にカンキちゃんが必要不可欠ってコトなんだろうな。そーなると、カンキちゃんをわざわざ敵地へ送り出すのも忍びない。ってコトで、カンキちゃんのボディガードも必要になるな……」
先ほどまでの陽気な調子とは裏腹に、顎に手をつけて真剣な声音でそれを呟き始めた荒巻。その彼を自分は暫し見つめるようにして様子をうかがっていると、次にも荒巻はふと目についた“ボーイ”へと呼び掛けていったのだ。
「んぉ。おぉーい、クリスー! ちょいと任務を任せたいんだがー!!」
任務。という言葉で、すかさず視線を向けてきたそのボーイ。
百八十一ほどの身長で、黒色のタキシードに白色のシャツというごく一般的なボーイの格好。しかし、無造作なショートヘアーはブライトピンクの暗めなピンク色であり、土器のような質感をうかがわせる灰色の肌と、暗めの赤い瞳に長めのまつ毛、そして中性的な顔立ちの容貌が何とも印象的なその彼。
以前にも、少しだけ会話をしたことがあった人物だった。その時はラミアからもクリスと呼ばれていたことから、ボーイもまた彼女らと同じルールに則った源氏名で活動しているのだろう。
そんなクリスは、左手にお盆を提げながらも任務という言葉に釣られて歩み寄ってきた。且つ、「どうも荒巻オーナー。それで任務って何かな」と穏やかながらも不敵な調子で訊ね掛けていくと、次にも荒巻はスタッフ室を指差しながらそれを指示していったのだ。
「あー、そこらの事情はオレちゃんもよく知らんからよぉ、カンキちゃんとユノちゃんから聞いてくれや。んで、その際にカンキちゃんの遠出が必要になったモンだから、カンキちゃんのボディガードとしてついていってくれや」
「それって僕が出向く必要はあるのかな。彼のボディガードならユノ一人で十分だと思うけど」
「そこをどうか頼むぜクリスちゃん……! これでカンキちゃんが事件に巻き込まれて死んじまったなんて言ったらよぉ、オレちゃん天国で柏島さんにシメられちまうぜ……! オレちゃん恩を仇で返したくなんかないからよ、今回の任務は銃の持ち出しを特別に許可してやる!」
「銃を? へぇ、悪くはないね。それで発砲の対象は、彼に仇なす敵対勢力という認識でいいのかな」
「あぁそうだ!! 何ならこの先、カンキちゃんが関わる任務全般に銃の使用を許可してやる!! オレちゃんの大盤振る舞い。コレに乗らない理由なんか無いと思うぜ!!」
「それはいいね。その護衛任務、ぜひとも僕にやらせてくれないかな。彼の傍につくだけで銃の使用と人殺しが許可されるだなんて、参加しない方が勿体無い。いいよ、それで僕はどのように行動したらいいのかな?」
「おぅし!! その意気だぜクリスちゃん! それならまずは、スタッフ室で私服に着替えてから、エントランスでユノちゃんと合流だ!!」
「オッケー。わかった」
なんとも物騒な会話が展開されたものだった。そんな荒巻とクリスのやり取りに自分は、住んでいる世界が違うことを実感させられていく。
とにかく、そうして自分はエントランスで二人と合流していくなり、クリスが同行することに渋々な様子のユノが運転する車に乗ることで、自分の親戚である蓼丸菜子が保護されたというその現地へ急行したのであった。
上質でスポーティな白色の車。荒巻から借りたその車で移動する自分ら三人は、ユノの運転で目的地を目指していく。
龍明の街中を走るこの車は、交通量の多い昼下がりの道路を真っ直ぐと突き進んでいた。その最中にも運転するユノの脇で、助手席に座る自分と、後部座席にいる私服姿のクリスが現地の到着を待ち続ける。
初めて見る彼の私服は、ボロボロになったノースリーブの赤色ロングコートという際立つアウターを始めとして、灰色のシャツに黒色のダメージジーンズ、黒色のブーツにドクロの銀色ネックレスという個性が溢れたものとなっていた。
と、背後のクリスの気配に自分は落ち着けずにいる中で、クリスは猫背の姿勢で何気なく喋り出してきたのだ。
「ユノが運転する車も悪くはないね。これでも君、免許証は持っていないんだろう。この運転技術、一体どこで培ってきたのかな。やっぱり現役時代の賜物?」
「余計な事を口にしないでちょうだい。柏島くんを不安がらせるような言葉は慎むようにしなさい」
え、ユノさん免許証持ってないの?
ぎょっとして、内心で呟きながら真横の彼女を見遣る自分。この視線にユノはルームミラーでクリスを睨みつけながら先のセリフを口にしたものだった。
しかし、彼女の視線に対してクリスは不敵な微笑を見せていたものだ。加えて、ユノが見遣るルームミラーに視線を向けることで、睨みつける彼女と意図的に視線を合わせて笑みを浮かべている。
これに、ユノはため息をついていった。
共にして、赤信号で停止したこの車。そうしてブレーキを踏みながら複雑な心境の顔を見せていたユノであったのだが、そんな彼女へとクリスは喋り続けていく。
「そう言えば、君と行動を共にするのも随分と久しぶりな気がするよ。最後に君と任務を共にしたのはいつだったかな」
「貴方と行動を共にした記憶なんか無いわ。当時は、敵対組織に雇われていた“殺し屋”の貴方と、異なる組織に属していた私、それと探偵の柏島さんと荒巻のそれぞれの利害が一致したことによって、四人はたまたま共闘するハメになった。ただそれだけのことなんですもの」
「あれ、そうだったっけ。僕としては、散々と始末に苦しめられた君と一緒に戦うってなったあの展開に、胸を躍らせたものだったけれどね」
「勝手に言ってなさい」
「それで思い出したんだけどね、僕と君の決着っていつになったらつけられるのかな。今のところ、五分五分の引き分け勝負になっているよね。銃が通用する場面なら僕が君に致命傷を負わせたこともあったけれど、銃が封じられたら僕は君にコテンパンにされてしまう。そんな得手不得手な状況の中でお互いに殺し合ってさ、全身の骨が折れたり風穴が空いたりなんかして、そんな毎日がすごく楽しかったよね」
「独り相撲なら他所でやりなさい。私は今、柏島くんという護るべき対象がいるの。柏島くんを脅威から護るために、必要の無い闘争に身を投じている時間さえも惜しいのよ」
「うーん、つれないな。現役時代の君はもっと血気盛んで冷酷で、道を阻む者は必要以上に痛めつけて排除するその徹底的なスタンスに好感を持てていたんだけど」
「減らず口は程々にしなさい。柏島くんを不快にさせるだけよ」
ただひたすらに嫌悪な雰囲気が充満していた。
しかし、ユノとクリスの間には少なからずの接点がある様子もうかがえたことから、自分の知らない世界の中で二人は相まみえていたんだろうという察しはついたものだった。
そうした二人の会話が延々と続く中、走行する車は蓼丸菜子が保護されたという現場に到着する。
有料の駐車場に車を停めて、降りた三人で指定の場所へ向かっていく。その間にもこちらに引っ付くよう歩いていたクリスが周囲を見渡していると、かと思えばふらっと別方向へ歩き出して建物の陰を覗いていき、そして携えていた銃を躊躇なく発砲していく。
それを何度か繰り返している中で、男性の悲鳴が聞こえてくる場面もあったものだった。
これに自分は、龍明は犯罪の温床と呼ばれる所以を改めて体感していく。これにユノは「気にしないでちょうだい。大丈夫だから」と励ますように声を掛けてくれるものであったから、自分はユノに従うようにして目的地まで移動したものだ。
そんなやり取りを繰り返している内に、自分らは目的地に到着した。
集合場所に近付くなり、付近で待機していたスーツ姿のヤクザ達がこちらに接触を図ってきた。これに自分は怖気づくよう身構えてしまうのであったものだが、次にも彼らはかしこまりながらユノへとその言葉を掛けてきたのだ。
「姉御、遥々までご足労いただきありがとうございやす。例の嬢ちゃんは団地の奥で捕縛しておりやすんで、あっしが案内いたしやす。ささっ、姉御の連れもあっしについてきてくだせぇ」
自分は思わず唖然として立ち尽くしてしまったものだった。
その間にもユノは、彼らに対して「大した働きね。さすがよ。貴方達に頼んで正解だったわ」と言葉を掛けていく。そんな彼女の労わりをヤクザの連中が耳にしていくと、強面の彼らは皆揃って「いやぁ」とデレデレしてきたものだ。
そんな彼らに案内されて、自分らは建物に挟まれた細い道を歩き出していく。この間にも自分は、ユノへと「あの、ここにいる皆さんってユノさんの知り合いなんですか?」と恐る恐る訊ね掛けてみると、この問い掛けに対して隣を歩いていたヤクザが誇らしげにそう反応してきたのだ。
「なんだぁ? 坊主は姉御の偉大さを知らずについてきたというのかい。カーッ! 解せねぇなぁ!! いいか坊主、その耳をかっぽじってよぉく聞いておけ! 姉御はな、我ら『
「ユノさんが、ヤクザ組織の功労者……?」
前を歩くユノの背へと、自分は視線を投げ掛ける。そんなこちらの視線を受けてユノは、隣のヤクザに「彼に余計な情報を与えないでちょうだい。それ以上と無駄口を叩いたらその舌を切り落とすわよ」と低い声音で睨みを利かせていく。
これに対し、隣の彼は戦慄しながら「す、すみません……!!!」と慌てて頭を下げていったものだった。
そんな会話を交わしていると、自分らは建物に囲われた団地へと踏み入れた。
高くそびえ立つオンボロなビルに囲まれた、外界でありながらも閉鎖的なその空間。それに加え、数多くのヤクザが存在することで一層と狭く感じられたこの団地であるのだが、その空間のど真ん中とも言える地べたには、丈夫な縄で手足を縛られた一人の女の子がこちらを睨みつけながら座り込んでいたものだ。
鼠色のブレザーに白色のシャツ、そして赤と白のチェック柄スカートという高校の制服姿。巻いている赤色のリボンはだらしなく緩めていて、シャツのボタンも三つほど開けていたことで白色のアンダーシャツが丸見えになっている。
目つきの鋭さが、ガラの悪さを際立てていた。そして、ただひたすらに気に食わないといった調子の不機嫌な表情には、掠り傷や青あざといった痛々しい傷跡が残されているものであるのだが、その脱げかけた白色のルーズソックスに、腰丈程度の茶髪ロングヘアーという少女の姿は正に、今も自分の記憶の中で破天荒に暴れ回る“蓼丸ヒイロ”を彷彿とさせたものだった。
あのヒイロ姉さんが、もう一人……?
そんな錯覚さえも覚えてしまうほどの似通った雰囲気に、自分は食い入るように少女を眺めてしまっていた。この視線に対して少女は応戦するように殺意を交えた目を向けてきたものであったから、自分は申し訳なさで視線を逸らしながらも、隣で佇んでいたユノへと振り向いてその言葉を投げ掛けたものだった。
「ユノさん。どうやら間違いないみたいですね」
「えぇ、そうみたい。……彼女の顔のパーツや身に纏う雰囲気が、私の知るヒイロの面影ととても酷似しているわ」
「同感です。今こうして目の前にいる彼女は、顔から服装までの全てにおいて、俺の知るヒイロ姉さんの面影と一致しています。……姉妹でも、これほどまでに似るもんなんですね」
自分にとって、これまでユノという人物は遥か彼方の途方に位置する崇高なる存在という印象を抱いてしまっていた。だが、ここに来て自分は初めて、ユノという人物を心で分かり合えたような感覚を覚えることができた気がした。
と、そんなこちらの会話で出てきた「ヒイロ」という単語を耳にして、手足を縛られたその少女は睨みつけながらも疑念の表情でこちらへと喋りかけてきたのだ。
「なに、ヒイロ? アンタ達もなんなの? アンタ達もどうせ、『オマエのお姉ちゃんの居場所はどこだ』だとか言ってアタシを脅すつもりだったんでしょ。なら先に言っておくけれど、アタシだってお姉ちゃんの居場所なんか知らないんだからね」
アンタ達もどうせ……?
ふと引っ掛かった少女の言葉に、自分は疑問に思いながら彼女を見遣っていく。だが、その間にもユノはパンツの腰部分に挟んであった小型のナイフを取り出していくと、ユノはその動作を行いながら少女へと歩み寄り始めたものだった。
これから拷問でもされるのだろうか。自身の危機を予感させる冷や汗を流したその少女。そんな少女へとユノはナイフを向けながら屈んでいくと、これによって身構えた少女の覚悟とは裏腹に、ユノは少女を縛る手足の縄をナイフで切断し始めていく。
あまりにも呆気なく解放された。そうして拘束から解かれた今の状況に少女が呆気に取られて呆然とする中で、ユノは手に持つナイフをパンツの腰部分に戻していくなり、その手を胸の前に添えながら、穏やかな声音で優しくその言葉を掛けていったのだ。
「蓼丸菜子ちゃん。貴女の名を、貴女のお姉さんからそう聞き及んでいたものだわ。初めまして。私の名前はユノ。貴女のお姉さんからは、私の名前をよく妹に聞かせていたとうかがっていたものだったけれども、菜子ちゃんはユノという名前に聞き覚えはあるのかしら」
「え……? ユノ……? あー……まぁ、うん……。小学生くらいの時に、一応……」
「そう、それなら良かった。私が、そのユノよ。あとね、私の後ろには、貴女の身を案じた親戚の柏島歓喜くんが、貴女を探しにわざわざ馳せ参じてくれたものなのよ」
「柏島、歓喜……? あー……弄り甲斐があるって言ってお姉ちゃんが気に入ってた、なんか冴えない顔したあの男……」
「そう、その柏島くんよ」
いや、その柏島くんって言われても何かちょっと……。内心でそうツッコみながら、自分は静かに汗を流したものだった。
何はともあれ、自分らは行方不明となっていた蓼丸菜子を保護することができた。
それからというもの、家に帰りたくないという菜子の意向から、ユノが身元を預かる方針で話が進んでいく。それを含めた親戚への報告も自分が全て担ったことによって、怒り出した親戚の説得に自分はかなりの労力を費やすこととなったのだ。
その間にも菜子は、ユノと打ち解けて意気投合するなり自身の姉について熱心と語り出したものだった。
破天荒な言動から始まり、口にした約束は必ず守り通す義理堅い一面や、兼部していた先々の部活動で様々な賞を受賞していた姉の行動力を、まるで自分のことのように自慢げに話していたその少女。そうして姉について語っている菜子の表情は活力に満ち溢れていて、かつ、無邪気な語り口と輝かせた黒色の瞳がまるで、姉のヒイロと瓜二つな印象を与えてくる。
そんな菜子の姿を見て自分は、ヒイロと菜子は姉妹なんだなぁと改めて実感させられながら、今も記憶の中で暴れ回っているヒイロの姿と菜子の横顔を重ね合わせながらその少女を眺めていたものだった。
……のだが、その一方で暇を持て余していたクリスが、愛用する銃を取り出しては周囲のヤクザに向けて喧嘩を売り始めたために、自分は慌てながらユノへと駆け寄って、菜子と共に店に戻ることを提案したものであったのだ。