俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
夏を迎えた龍明の夕方。自分はとある高校の前で、“一人の女子生徒”と待ち合わせをしてあった。
龍明高等学校。龍明の駅から歩いて十分ほどの場所にある公立の学校であり、龍明にある高校の中でも特に治安が悪い学校として有名だ。
先日にも、この学校に通う一人の生徒が隠し持っていた銃を校内で発砲したとして逮捕されていたため、自分は「さすがは龍明高校……」という感想を抱きながら現地に訪れていた。
……かくいう自分も、この龍明高等学校を卒業した卒業生という身分。故にその手の事件もある意味で聞き慣れてしまっているがために、「なんだ、ただの発砲事件か」という謎の安堵で校門前の木陰に佇んでいたものだったが……。
直にして、下校時刻となった学校からは大勢の学生達が姿を現してくる。
鼠色のブレザーに白色のシャツ、赤と白のチェック柄ズボン兼スカートという制服姿の面々。そして、夏を迎えた時期であるために多くの生徒が腕まくりをしている様子を自分は眺めていると、その中に混じるよう歩いていた“その女子生徒”がこちらを発見するなり、ガラの悪い鋭い目つきで真っ直ぐとこちらへ歩み寄ってきた。
右手に持つ学校の鞄を右肩に掛けるようにしつつ、左手をブレザーのポケットに突っ込んでいるその少女。ただひたすらに気に食わないといった調子の不機嫌な表情や、掠り傷や青あざといった顔面の痛々しい傷跡が未だ健在である。また、白色のルーズソックスに腰丈程度の茶髪ロングヘアーという身なりと、巻いてある赤色のリボンはだらしなく緩めていて、シャツのボタンも三つほど開けていたことで白色のアンダーシャツが丸見えになっている。
そして、灰色の運動靴でこちらに歩み寄ってきたその少女。百六十二ほどの背丈であるその女子が見上げるようにしてこちらへガンを飛ばしてくると、黒色の瞳である少女の気迫に自分は気後れしてしまいながらもその言葉を掛けていく。
「どうもこんにちは、
平常心を意識してそれを喋った自分。共にして手を差し伸べることで握手を求めていくのだが、これに対して少女こと蓼丸菜子は微動だにしない。
それどころか、一層と鋭く睨まれてしまった。これに自分は、差し出した手の行き先に困るようにそれを後頭部にあてがいながら、気まずい空気の中で苦し紛れにそれを提案していく。
「あー……まぁとりあえず、歩きながら話そっか。菜子ちゃんの引っ越し先のアパートまで俺が案内するから、ついてきて」
と言ってから、向かう方向へと歩き出した自分。
ここは流れで押し切るしかない。という気概の下で自分は歩き始めていくのだが、そんな必死な自分とは裏腹に菜子は、無言でありながらもこちらの背中を追うようにちゃんとついてきてくれたものだった。
見慣れた龍明の駅前を二人で歩くこの道中。自分は、目的地である菜子の新居を目指しながらも、繋ぎとしてその会話を切り出していく。
「初めて会ったあの日の帰り、ユノさんが運転する車の中で菜子ちゃん、今いる家を出たいって言ってたよね。あれから俺とユノさんで話し合ってさ、それじゃあ自分らで菜子ちゃんを預かろうって話になったことは把握しているんだよね?」
「…………」
「今、菜子ちゃんを預かっている親戚のお宅に、俺とユノさんが二人で訪ねていった話も聞かされているのかな。そこでユノさんが親戚の方々を説得してさ、なんとか自分らで菜子ちゃんを預かる運びになったものだから、多分これで心置きなく家出ができると思うんだ」
「…………」
横に並ぶよう一緒に歩いていた隣の菜子は、終始ムスッとした不愛想な顔で前を見つめ続けていく。
返事どころか、目も合わせてくれない。これに自分は言葉を選ぶように思考を巡らせて、思い付いた会話を片っ端から投げ掛けてみることにしたのだが……。
「あー……でも確かに、家出をしたくなる気持ちも分からなくはなかったよ。あちらのお宅の親父さんけっこう厳格な人だったから、血縁者でもない部外者のユノさんの話を最初はまともに聞いてくれなかったものだし。それを考えるとさ、菜子ちゃんは本当に毎日よくやっていたと思う。家に居ても気持ちが落ち着かなかったんじゃないかな。ちょっと同情しちゃったよ」
「…………」
「……あーっと、実は俺もさ、龍明高校の卒業生なんだ。だから、学校内の実態とかもよく知っているよ。いつ思い返してみても、ろくでもない学校だったことは覚えてる。あの学校を一言で言い表すならば、一丸となって強きを助け弱きを挫く、だろうね。だから、龍明高校に通っている間は毎日が命懸けだった記憶があるな。菜子ちゃんはー……その、自衛しているタイプかな。俺は群れていないと生き残れないタイプだったから、本当にダメなやつだった。そう考えると、菜子ちゃんはすごいよ」
「…………」
「えっと……こ、このあとさ、菜子ちゃんの新生活に備えて買い出しをしておこうって考えていたんだ。色々と必要だよね? お布団とかカーテンとか。あと、ユノさんと同棲する話にもなっているじゃん? ユノさんも今はご友人のお宅に住まわせてもらっているらしいけれど、この機会に菜子ちゃんと一緒に家を出るってさ。だから二人分の買い出しを済ませるのにちょうどいいと思っていたんだ。それと、賃貸契約の名義人になってくれた
「…………」
貫かれた沈黙。
無視とまではいかないのかもしれないものの、まるで空虚と会話しているかのような気分で自分は言葉を失ってしまう。
なんか、自信を無くすなぁ……。
ホステス達と関わるようになってから、コミュニケーション能力に勝手な自信を抱いていた自分。だが、よくよく考えてみれば彼女らは接待で食い繋いでいる対人のプロでもあるために、自分はこの時にも己の未熟さを改めて思い知らされたものだった。
と、そうしてひとりしょげている間にも表通りから逸れるよう脇道へ曲がった自分ら。これによって人通りの少ない静寂の裏道を辿り始めていくと、自分はふと思いついたようにとある共通の話題を投げ掛けてみた。
「……菜子ちゃんのお姉さんには、よく絡まれていたもんだよ。蓼丸家と近かった親戚の家に俺が移り住んで以来、なんかやけに目をつけられていてね。それで事ある毎にヒイロ姉さんが家に上がり込んできてさ、人様の家なのに盛大な足音を立てながら俺に飛び付いてきてたもんだった」
蓼丸ヒイロ。突如と失踪してしまった彼女の名を出してみると、実の妹である菜子は反応するようにこちらへ振り向いてくる。
そして、ガラの悪い目つきはそのままに静かな声音で喋り出してきたのだ。
「アンタのこと、よく喋ってた。ゲームばかりしてて、構ってくれなかったのが気に食わなかったみたい。自分のことは眼中に無いんだなって思うと負けた気分になるって。だから、絶対に振り向かせてやるって意気込んでたのを、まだ小さかったアタシに話してくれてたのを覚えてる」
「うわぁ……ヒイロ姉さんらしい。物事が自分の思い通りにいかないと、思い通りになるまで絶対に諦めないんだよなあの人」
「アタシは、そんなお姉ちゃんも大好きだった」
ふと、菜子はそのセリフを口にするなりハッと息を呑んでそっぽを向く。
これに自分は、不思議に思って首を傾げながら訊ね掛けてみたものだ。
「? どうしたの? 何かあった?」
「……別に、なんでもない」
「もしかして俺、なんか良くないこと言っちゃったかな。だとしたらごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「別に。だからそんなんじゃないって」
ちょっとイラついた様子でそう返してくる菜子。だが、視線を落として何かに迷う様相を見せてくると、次にも彼女はこちらの顔色をうかがう目でそれを切り出してきたのだ。
「……アンタもどうせ、内心でバカにしてるんでしょ」
「え?」
「お姉ちゃんが好きって、普通じゃないから。みんながそれをバカにしてくる。アタシが間違ってるんだ。だから、アンタも好きに嘲笑えばいい。ただ、そん時はアンタをぶっ殺す。親戚だろうと知ったこっちゃない。気に食わないヤツは力ずくでねじ伏せる。アタシも、お姉ちゃんのように」
静かな声音に秘めた、怒りと切なさ。二つの感情が入り混じる複雑な音に自分は暫し黙りこくると、そんな彼女を見遣りながらも、優しく接するようにその言葉を掛けていった。
「菜子ちゃんは間違ってるって俺は思えないな。身内の人間が好きであることを、俺は特に変だとは思わない。俺からすればむしろ、それをバカにしてくる周りが変だなって思えてくるんだ。別にいいじゃんな、自分が誰を好きでいてもさ。まあ関係性によっては限度もあるけれど、それでもなお俺は菜子ちゃんのそういう一面は気にならないかな。力ずくでねじ伏せるのも、なんかもう別に良いと思う。だって、龍明ってそういう場所だし。俺も高校でそれを痛感させられたよ」
「…………」
こちらの返答を耳にするなり、菜子はちょっと意外そうに眉を上げてこちらを眺め遣っていたものだ。
そんな表情を向けられるような世の中に、なんだか憂いを感じてしまえる。ひとり内心で残念に思いながらも、自分は菜子と目を合わせながらそんなことを話していく。
「身内が好きであることを許容した上で、俺の持論に菜子ちゃんも疑問を抱いたようであるならば、俺もまた世間や菜子ちゃんとは別方向で間違った人間なのかもしれないね。自分の考えを普通だと思われない、世間の常識から外れた異端の変わり者。だとしたら、俺達は間違った人間仲間だな。お互いに、周囲から理解されない思考で生きている、変なヤツ仲間。今思えば、親戚の家に預けられてきた境遇なんかも、ちょっと似てると思わない? それも傍から見れば普通じゃないだろうし、だとしたら尚更、俺は菜子ちゃん寄りの人間なのかもしれないね」
こちらの返答に対し、菜子は呆気にとられるような顔で見遣ってきた。
……否定から入らないその答え。信じられないといった顔を向けてくる彼女が返事に困る様子を見せてくると、次にも菜子は若干と笑みながらそれを口にしてきたのだ。
「ううん、アタシはアンタに同感するよ。つまり、アタシにとってアンタはなにも間違ったことを言っちゃいない。よく分かるんだ、アンタの言葉の意味がね」
「それじゃあ、俺は菜子ちゃんと同類の人間ってわけだ。まぁ、結果として仲間であることに代わりないね」
「ホント、この血筋は呪われてるでしょ」
「世間にとっての普通になれない呪いね」
フッ、と笑うように鼻を鳴らした菜子。自分もまた、親父だったり蓼丸ヒイロだったりと思い当たる人物が脳裏に浮かび上がってきたことから、自分で言っておきながら思わず苦笑してしまう。
尤も、この会話によって菜子とは打ち解けたような気がしたものだった。
そうして、次第と菜子が会話に応じてくれるようになってきたこの関係性。途端にして話が弾むようになった彼女との会話を自分は楽しんでいると、その最中にも進めていた二人の足並みは目的地である菜子の新居に到着する。
駐車場に踏み入れて、自分はその建物を見上げていった。
……うん、本当によく見慣れたアパートだ。それもそのはずで、自分が住んでいるアパートと全く同じ建物であるものだから……。
「ここが、菜子ちゃんの新しい家になるアパートだよ。既に話してある通り、俺もここに住んでいるんだ。あぁ、同じ部屋で住むってわけじゃないから安心して。ユノさんと部屋を探し始めた時、ちょうどタイミングよくこのアパートの部屋が空いたもんだったからね」
「ここ、ユノさんが務めてるってお店と近いんだよね。名前なんだっけ」
「
「ふーん」
興味無さそうな相槌を打っていく菜子。だが、黒色の瞳でアパートを真っ直ぐと見つめるその視線はどこか、何か考えを巡らせているように思わせる。
そんな彼女へと振り向きながら、自分は次の提案を投げ掛けた。
「取り敢えず、今日は場所の下見って感じだね。あとは、先ほども名前を教えた
「ん、分かった」
打ち解けてから、素っ気ない声音でありながらも素直に返事をしてくれるようになった菜子のそれ。何よりも、自分についてくるその姿が次第と小動物のような可憐さを感じられるようになっていたために、自分は先ほどまで抱いていた気まずさとは異なる、ちょっと意識してしまうやり辛さを胸に秘めながらも菜子をお店へ案内したものだった。
そういうことで、お店の前まで訪れた自分と菜子。そこでは、従業員のホステスがキャスター付きの看板を店前に用意していたりなどの開店準備が行われていて、時間帯も夕暮れであるため特に忙しい様子から、顔を出すのはまた後日にしようという話を菜子と決めていく。
で、次にどうするかという話になり、自分は引っ越しに備えて雑貨店で買い物を済ませておこうと当初の予定を提案した。すると彼女は、ガラの悪い目つきや着崩した服装のまま、とても素直な声音で「うん」と答えて頷いてきた。
その道中、菜子を気遣う場面が数度と訪れる。
彼女の真後ろから自転車が迫ってきた時にも、自分は思わず菜子の肩に手を回してしまいながらも、自身へ寄せるような形でそれを避けさせていく。これに菜子は若干だけ戸惑いを見せながらも、言い慣れない調子で「……ありがと」と小さく呟いてきた。
また、道路と歩道の間に生じた段差においても、自分は「段差があるから気を付けて」とお節介を口にしてしまう。これに菜子は「……ん」と端的に答えてくるのだが、低い声音であったことから自分は内心で「余計だったかな……」と不安になりながら歩を進めたものだ。
だが、凝りもせずに随所で手を差し伸べてしまったりと、自分はホステスと一緒に歩くノリで菜子に干渉してしまったものだった。これには、肩に掛けるよう右手で鞄を持ち、左手をブレザーのポケットに突っ込んでいた菜子が不思議そうな顔で見遣ってくる。その度に自分は「ご、ごめん」と謝りながら手を引っ込めて……というやり取りを何度も繰り返していた。
これらの気遣いはすべて、ユノと同伴した際にも彼女から入念に仕込まれたエスコート術だった。しかし、いつ、どの場面でそれらを活用するべきなのかといった応用がまだまだ未熟であることを、この時にも身にしみるほど思い知らされる。
……そうして、龍明の駅前の雑貨店を二人で回っていき、買い物袋を提げた自分が次に菜子と向かったその場所が、行きつけのファミレスというもの。
夕食も済ませようという話になったものの、この場所はメーと来た記憶が真新しい……。
なんていう以前のプレイを思い出してしまいながら、扉を開けて菜子を中へ通していく。そして彼女をソファの席に勧めて腰を下ろしていくと、向かい合う形で菜子と顔を合わせながら自分は、首を傾げてそれを訊ねていった。
「本当にファミレスで良かったの? せっかくだから、お寿司とか焼肉とかでも問題なかったんだけど……」
「ん、いいの。アタシはファミレスで十分だから」
「ならいいんだけど……」
高いご飯を奢らせてくるラミアと比べて、だいぶお財布に優しいお食事になりそうな予感。
これに内心ホッとしながら、自分はメニューを開いて菜子へと見せていく。だが、そうしてメニューを差し出された菜子は次にもこのようなことを喋り出してきたのだ。
「……アンタさ、何を企んでるわけ?」
「え?」
企む?
思わぬ言葉に自分は唖然としてしまった。そんなこちらの様子に菜子は訝しげな目を向けながら喋り続けてくる。
「ぶっちゃけさ、アタシの身体が目当てなんでしょ。それか、油断させたところを拉致して不良の連中に売り渡すつもり?」
「え、なに。何の話……?」
「とぼけなくてもいいから。アンタもどうせ、どうやって女を犯すかしか考えてないクチなんでしょ。少なくとも、アタシに近寄ってきた男はみんなそーいう連中だった」
警戒するような視線で、軽く腕を組みながら淡々と喋る彼女。その反応に自分は何が何だか分からずに困惑していくと、菜子は鼻でため息をつくようにしながら話を続けていった。
「どいつもこいつも、舐め腐った男共はみんな上っ面だけの紳士な態度でアタシを狙ってくる。アタシさ、そうやってなめられんの大嫌いなんだよね。だから最初に断わっておくけど、もしアタシとヤりたいなら“ホ別五十、ゴ有り”が最低条件。それが無理なら諦めて」
けん制、とでも呼べるのだろうか。
テーブルに両肘をつき、挑発的に睨みつけてくる菜子。その突き刺すような眼差しを受けて自分は暫しと圧倒されてしまったものであるが、これに対して残念に思う気持ちが無かったことから、困惑のままにその言葉を返していく。
「……いやいやいや。まぁ、俺も男である以上はそういった欲に駆られる時もあるけれどさ、さすがに菜子ちゃんのことをそんな目で見ることはできないよ」
「そうやってアタシに好印象を与えようとしているんでしょ。ハッ、見え透いた嘘。じゃなきゃ他人が、アタシに対してここまで優しくするわけないじゃん。バカじゃないの」
……あぁ、そういうことか。
彼女の言葉を耳にして、自分は合点がいったような感覚で何となく悟っていった。
それと同時に、尚更と自分は蓼丸菜子という少女のことを大事にしなければという想いに駆られていく。
小さい頃にも、大好きだった姉が突如と失踪して大きなショックを受けたことだろう。それに加えて、姉の失踪をキッカケに家庭は崩壊。自身は親戚に預けられる形で両親と離れ離れになり、住んでいる地域も犯罪の温床と呼ばれるだけあって、日々、過酷な人間関係に晒され続けてきたのだろうか。
成熟もしていない子供の内にそんな壮絶な経験をしてしまえば、他人を信用することができなくなるのも当然だった。だからこそ菜子は今も、自衛のためにこちらへけん制を掛けてきているのかもしれない。
すべては、龍明という無法地帯を自分の力で生き永らえるために……。
「まぁ、俺に対する印象は菜子ちゃんの思うように任せるよ。それで、何を頼む?」
自分はそんなことを企んでいない。今すぐにでも訴え掛けたいこの本音も、今の彼女には届かないことだろう。
弁解を放棄した自分は、差し出してあったメニューをそのまま菜子へと寄せていく。これに対して彼女は僅かに眉を上げ、意外性を垣間見せながらもこちらを睨み続けていたものだ。
尤も、そんな目の前の菜子を無視して、自分はメニュー表のページをめくっていく。そして目についたオムライスの写真を指差しながら、彼女の目を見てそれを問い掛けた。
「俺はこれを頼むつもりだけど、菜子ちゃんはどうする?」
「……なに、逆ギレしないの? ヤれないって分かって、黙って帰ったりとかしないの? それとも、そういう戦略? ハッ、新しいね」
挑発的な声音で、菜子はそんな返事をしてくる。
まぁ、だから何だという話ではあるのだが。
「キレる要素なんかどこにも無いし、黙って帰ったりしたらあんたの帰り道が危ないだろ。もう日が暮れてんだ、こんな時間にあんたを一人で歩かせるわけにはいかない」
「……なにそれ。アタシの心配なんかしてんの? そーいうの要らないんだけど」
「そっか、じゃあ一人でも帰れるか。安心した。……まぁどっちみち、俺はここで夕食を済ませるつもりだったからさ、今なら菜子ちゃんのご飯を奢ったりすることができるし、時間が遅くなっても俺が家まで送り届けることもできる。それらも踏まえてさ、良かったら一緒にご飯を食べていかないか。親戚のよしみとしてもさ」
「は?」
その一瞬だけ、本気のトーンで怒りの聞き返しを行ってきた菜子。だが、今も自分が向けている真っ直ぐな目を彼女はじっと見据えてくると、どこか気に食わないサマを見せていきながらも不機嫌な眉間で「……まぁ、奢りなら付き合うけど……」と答えてきたのであった。
料理が届くまで菜子は、脚を組んだ状態で両手をブレザーのポケットに突っ込みながら不機嫌そうに座っていた。だが、注文したオムライスが届いてそれを口にしていくなり、彼女は黙々とそれを食していって真っ先に平らげてしまう。
……めっちゃお腹減ってたんじゃん。
内心で思ったこちらの視線に対して、ムスッとした表情で睨み返してくる菜子。これに自分はメニューを差し出していくと、「他になんか頼んでいいよ。ぜんぶ奢るから」と言葉を投げ掛けていった。
と、自分からメニューを受け取った菜子は、不機嫌そうな顔でメニューを眺め遣るなり手羽先を指差していく。そうして注文した手羽先がテーブルに届くと、菜子はそれを黙々と食していってすぐにも完食してしまった。
……めっちゃ食べるじゃん。
内心で思ったこちらの視線に対して、どこか物欲しげな目を向けてじっと見遣ってきた菜子。これに自分はメニューを差し出していくと、「他になんか頼む?」と言葉を投げ掛けていった。
テーブルに届けられた、野菜のスープ。加えて、ドリンクバーのジュースだったりフライドポテトだったり、どんどんと追加オーダーがかさんでいく目の前の食い意地に自分は、内心で静かな焦りを感じていく。
……あれ? なんかめっちゃ食べるじゃんこの子……。
店員が何度も皿を下げに来てくれるこの状況。終いにはパフェの写真に見惚れるような目を菜子は見せていくと、あの不愛想だった顔から一転として、瞳をキラキラ輝かせた困り眉でこちらを見遣ってきたものであったから、自分は内心で「あぁーいいよーどーぞどーぞ」と呟きながら何度も頷いていったものだった。
こうしてテーブルに届けられた大きなパフェ。イチゴの乗った白色の至福に菜子は静かな高揚を抱いていくと、届く前から用意してあったスプーンを右手に彼女は、それをゆっくりと味わい出していく。
不良系の女の子が、パフェに食いついていくその絵面。この光景だけでも謎のありがたみを感じてしまうギャップの要素に自分は癒されていると、なんだかほっこりとした気持ちで眺めるこの視界の中央にて、捉えていた目の前の少女が突然と涙をボロボロ零し始めたのだ。
パフェを頬張りながら、その膨らませたほっぺに流した大粒の涙に自分は焦り出す。そして「だ、大丈夫!? 喉に詰まった!? 水あるよ!?」と急ぎでコップを差し出していくのだが、こちらの問い掛けに対して菜子は口いっぱいのパフェと共に、涙ぐんだ声音でそれを喋り出していったのであった。
「っ…………はじめで……ッ、はじめで……ッ、ごんなに、だれがにやざじぐざれだの……っ。……ッおねえぢゃん以外の、ひどがら、ごんな……っだいじにざれだごど……ッながっだ……っ。ぎょうッ……ずっど……ッずっどやざじぐざれでてッ……裏があるっで、ッ、だぐらんでるって、ッ、ずっど、ずっど、うだがっでだ……ッ!!! ごめんなざいッ……!! ごめんなざい……ッ!!! あだじ、いま……ッ、すっごぐ、ッ、幸ぜだっで思えでる……ッ!!! ぎょうまで生ぎでで良がっだ……ッ!!」