※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第18話 Tomber dans l'obscurité 《闇に堕ちる》

 レストランの姿である昼のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)。そこでいつものように昼食を終えた自分が、外に出ようとエントランスを歩いていた時のことだった。

 

 お見送りをしてくれていたホステスが、「またご来店くださいませ」と慣れた調子で口にしてくる。それと共に頭を下げてきたものであったから、自分も「また来ますね」と返しながら軽く会釈して、出口へと振り返っていくのだが……。

 

 そうして歩き出した自分の前からは、とあるのっぽの男性が店の扉を開けて入ってきた。

 百八十八くらいの背丈であるそのシルエット。彼は、頭部の七割が金髪のショートヘアーというもので、残る三割が黒髪の刈り上げというイカした髪型でサングラスをかけている。服装は灰色のスーツに黄色のYシャツというもので、スーツは前を全開にしていて、Yシャツもまたボタンを三つほど外した非常にラフな着こなしをしていたものだ。

 

 そんな彼は、三十代を思わせるイカした色気を放ちながら真ん前のこちらを見遣ってきた。すると、次の時にも彼は陽気に口角を吊り上げながら指を鳴らし、直後に両手の人差し指と親指を立ててビシッと指差しながらそれを喋り出してきたのである。

 

「んぉっ。よ~ぅカンキちゃん! ナーイスタイミーング!! ちょうどいいトコロだったぜ!」

 

「ど、どうも、荒巻(あらまき)オーナー」

 

 荒巻オーナー。以前にも少しだけお会いした人物であり、このレストラン&キャバレーLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の二代目オーナーを務めている。

 

 そんな彼は、以前にも龍明で活躍していたとされる探偵であり、自分の親父でもある柏島長喜という人物の元相棒という経歴の持ち主だった。その縁が故に今は亡き親父の店のオーナーを引き継いだ荒巻は、その責務を全うするために度々とこの店に顔を出しているみたいであるのだが……。

 

 外見のビジュアルと高身長に気後れする自分。こうして前方から掛かる存在感の圧に一歩だけ退きながら挨拶していくと、そんなこちらの返事と共に荒巻は歩き出し、こちらの肩に左腕を回してきてはぐるりと回り込むようにして寄り掛かってくる。

 

「な~ぁカンキちゃん、この後ってヒマかなぁ? もしもお時間があるのなら、ちょこ~っとだけオレちゃんの用事に付き合ってくれないもんかねぇ?」

 

「あ、荒巻オーナーの用事に、ですか? それ、俺に務まる用事なんでしょうか……?」

 

「あ~ぁダイジョブダイジョブ、そんな心配なんかしなくてもいいから。カンキちゃんはただ居てくれればイイだけのことよ。要は、立会人をしてくれりゃイイだけな話さ。だから、な? 頼むよ。少しだけオレちゃんに付き合ってくんねぇかい?」

 

「わ、わかりました……」

 

 唐突すぎる話に戸惑いを隠し切れない自分。だが、そんなこちらの返答に荒巻は「そ~か! そいつぁ良かった!! じゃ、オレちゃんと一緒に店の奥まで移動するぞ~」と陽気に喋っていくと、彼はこちらの肩に腕を掛けたまま歩き出すなり、自分は連行されるような形でエントランスの関係者専用トビラの廊下へ通されていく。

 

 その際にも、見送りをしてくれていたホステスに苦笑いされながら、出口とは反対方向の通路へ見送られたものだった。

 

 

 

 

 

 表の華々しい店内とは裏腹に、最低限の照明で照らされた静寂の関係者専用通路を歩いていく自分。奥にある突き当たりの壁が不気味に思えるその光景と、一本道の壁に所々と見受けられる扉というその様子が、店の裏側と呼ぶに相応しい雰囲気を醸し出している。

 

 その通路を荒巻と共に進んで、突き当たりに左へ曲がっていく。するとその先には両開きのドアが待ち構えており、荒巻はその扉を開け放つように開いていった。

 

 開かれた扉の先。最初に落ち着いた赤色の絨毯が視界に入ってくると、次には焦げ茶色の壁と、それに沿うよう設置された大量の本棚という空間に自分は迎え入れられる。

 

 共にして見受けられたのは、視界の左端へ寄せられた長テーブルに、空いた右側の空間にポツリと置かれたイスというその光景。そして、部屋の奥で存在感を放つ事務机という様子から、ここがオーナーの部屋であることを察することができたものだ。

 

 と、部屋の左端で密かに佇んでいた二人の人物と目が合っていく。

 それぞれ、私服姿のユノとクリスだった。ユノはいつもの黒色ライダースジャケットに赤色のシャツ、そして黒色のバイクパンツに膝丈までの黒いブーツという格好であり、クリスもまた、ボロボロになったノースリーブの赤色ロングコートに、灰色のシャツと黒色のダメージジーンズ、そして黒色のブーツにドクロの銀色ネックレスという個性が溢れたものとなっている。

 

 部屋に入ってきた双方を見遣る二人。それでいて、部屋に顔を出してきたこちらを見てユノが意外そうに声を掛けてきた。

 

「柏島くん?」

 

「ユノさん? どうも、こんにちは」

 

 軽く腕を組むように佇むユノ。その視線は奥の事務机へと歩いていく荒巻へと向けられるのだが、すぐにもこちらへ向き直ってはそのセリフを掛けていく。

 

「オーナーの身勝手な都合に巻き込まれてしまったのね。なんて可哀相なのかしら。連れてこられてしまった以上はせめて、私の隣にいてもらえると助かるわ。さぁ柏島くん、私の下にいらっしゃい」

 

「は、はぁ、わかりました」

 

 状況は呑み込めないものの、美麗なユノに優しく招かれたことで自分は意図せずとも彼女の隣まで歩み寄っていく。

 

 最中にも荒巻は、「ユノちゃんの、オレちゃんをぞんざいに扱うその態度。実はオレちゃんキライじゃないんだぜ」と陽気に口にして、事務机のイスに腰を掛けていった。これにユノはあからさまな嫌悪の表情を見せながら彼を見遣り、左隣に来たこちらの背に優しく左手を添えてくる。

 

 で、クリスはクリスで暇を持て余すように、拳銃の引き金部分に右手の人差し指を入れてクルクル回していたものだった。この光景にヒヤヒヤするような視線を向けていると、これに気が付いたユノがこちらを庇うようにしながらクリスへ言葉を投げ掛けていく。

 

「射程距離に柏島くんが存在する以上は、殺傷武器の扱いに厳重な注意を払いなさい。万が一の可能性で柏島くんを傷付けでもしたら、貴方もタダでは済まされないわよ」

 

「それならそれで、店の人間全員を敵に回した鬼ごっこをするのも悪くはないかもね。ただ、さすがの僕もそこは冷静に見極めているよ。何せ、発砲も人殺しも制限されている不自由極まりない今の暮らしにおいて、彼の護衛という任務でのみそれらが許可されている。ならば、僕としても彼に生き延びてもらわないと困るんだ」

 

「貴方の都合なんて訊いていないわ。今すぐにその武器をしまいなさい」

 

「ふふっ」

 

 ブライトピンクの無造作なショートヘアーで、土器のような質感である灰色の肌で不敵に微笑んだクリス。共にして、暗めの赤い瞳と長めのまつ毛、そして中性的な顔立ちの容貌で覗き込むようにこちらの顔を眺めてくると、彼は拳銃を腰に差しながら猫背で呟いていく。

 

「彼に巡っている柏島の血も“前のオーナー”に含まれるのであるならば、今この場に揃っている面子は店の最古参とも言える顔ぶれになるのかもしれないね。尤も、他の最古参メンバーは店を辞めたり殺されちゃったりして、初期の面子は僕達だけになっちゃったものだけれども」

 

 事務机のイスに座る荒巻が無言で眺めてくるその視線。また、隣で佇むユノがクリスを見遣りながらそれに反応を示していく。

 

「貴方も過去を重んじるだなんて。貴方にもまだ人の心が残っていたのね」

 

「僕は誰よりも人間臭く生きていると自負できるよ。あれが欲しい、これが欲しい。何を成し得たい、何を与えられたい。それを求めていて、それを求められていて、食べたい時に食べて、寝たい時に寝る。そうして付き纏う衝動に身を委ねた生活へと日々身を投じている僕のどこに人間らしくない要素なんかあるのだろうか。僕だって皆と同様に、この世界で生きていたいと願っている、至って普通の人間と代わりない無垢の存在なんだ。つまり、僕は人間さ。皆と一緒だよ。だから僕達、これからも仲良くしていこうね」

 

「……これは私が言葉を慎むべきだったわね」

 

 彼の返事を耳にして、ユノは頭を抱えるように俯いていった。

 

 と、そんな会話を交わしていると、次の時にも部屋の扉が三回ほどノックされていく。

 来客かな? 不思議に思う自分が音の方へと見遣る中、事務机にいる荒巻が「おぅ、入っていいぞー」と陽気な調子で答えていったのだ。

 

 そして彼の合図の後にも、扉の奥からは少女らしき声の「失礼します」という言葉が掛けられる。

 

 直後として、開かれた扉からは高校の制服姿である“少女”が入室してきた。

 

 ……菜子ちゃん? 自分は内心でそれを問い掛けていく。

 脇から注がれる三人からの視線。これに気が付いた菜子がこちら側を向いていくのだが、その真剣な眼差しはすぐにも部屋の奥の荒巻へと戻されていき、入室のマナー通りに扉を閉めてお辞儀を一つ、そしてイスの横まで歩いていっては立ち止まっていった。

 

 荒巻から何も知らされていない、蓼丸菜子の訪れ。だが、この雰囲気から見るにどうやら、いま行われているのはお店の採用面接のようにうかがえる。

 

 と、一連の流れを見ていた荒巻、これに「ほぉ~」と意外そうに声を漏らしながらも菜子へと喋りかけていった。

 

「第一印象は良しだな。んじゃまぁ、表社会における必要最低限のルールは身に付いているようだしよ、後はまぁいつもの自然体でよろしく」

 

「……自然体?」

 

 不思議そうに訊ね掛けていった菜子。これに対して荒巻は右手で頬杖をつきながら答えていったものだ。

 

「オレちゃんはな、別に表社会での礼儀を見ているワケじゃないのよ。ってのも、オレちゃんないしこの店が最も重要視している人材ってのはな、合格するためにわざわざ取り繕ってくるような、今日一日かぎりの律儀な姿を演じる偽善者なんかではないってコトなのよ」

 

「……え、っと、じゃあアタシは……?」

 

「余計な偽善なんか不要ってなこった。とりま座りな、菜子ちゃん」

 

「あ、うん……」

 

 困惑が垣間見える菜子ではあるが、荒巻からの催促によってイスに腰を掛けていった彼女。

 

 その最中にも、事務机にいる彼は資料の束を手に取って、ページをめくるようにパラパラと流し読みしていく。この間にも、圧し掛かるような静寂の空気が菜子に一層もの緊張をもたらしていく中で、資料から顔を上げた荒巻が手に持つそれを机に置いていくと、少女へと視線を投げ掛けながらそれを喋り出していったのだ。

 

「オレちゃんこれでも十年は探偵してたモンだからよ、実は既に素行調査として、菜子ちゃんのことを個人で調べ上げてあるのよねぇ」

 

「そう、なの……?」

 

「オレちゃん、手際がイイからなぁ~。んまぁそーいうことで、菜子ちゃんの評判だったり過去の素行だったりの、人から聞いたり、データとして残っているようなある程度の情報なんかは、既にオレちゃんの手元に揃ってるワケなのよ。つまり、本人から聞く必要がねぇってこったな」

 

 陽気な調子で口角を吊り上げながら話す荒巻。こうして彼はイスの背もたれに寄り掛かってはキキィッと音を鳴らしていくと、かと思えば上半身を前に倒していって、机に肘をつきながら菜子へと言葉を続けていった。

 

「っつーコトで、オレちゃんが知りたい情報は残るところ一つだけだな。そいつは一体なんだと思うかな? ん? 考えてみ」

 

「え、っと……?」

 

「答えはな、動機だ。動機ばかりはな、どんなに周辺をくまなく調査しようとも、本人から聞き出さねぇ限りはその真相に辿り着くことが叶わねぇ。そいつはな、本人にしか知り得ない情報なのよ。つまり、今のオレちゃんが欲しいと思っている菜子ちゃんの情報はただ一つ。菜子ちゃんが何故、この店のホステスになりたいと思ったのか、っつー動機だけなのよ。そいつだけを教えてくれるだけで今は十分だ。それでこの面接は終了さ」

 

 緊張感のある空気とは思えない陽気な調子で、面接における一連の流れを告げていく荒巻。これには菜子も唖然として暫し黙りこくってしまったものだ。

 

 そんな少女の様子に彼は、眉をひそめながら両手を持ち上げて、「お手上げ」のようなジェスチャーを見せてくる。この動作に菜子は尚更と困惑したようだったが、それでも真剣な眼差しで荒巻を見つめながら動機を喋り始めた。

 

「アタシがこの店で働きたいと思った理由。それは……このお店で働いていれば、失踪したお姉ちゃんに関する何かしらの情報が手に入るかもしれない、と考えたから……です」

 

「動機はお姉ちゃん、か。んま、予想通りだな。つまるところ菜子ちゃんは、数年前にも失踪した“蓼丸ヒイロ”を見つけ出すために、このお店を利用しようって魂胆でいるワケだ」

 

「まぁ大体そんなかんじ……です」

 

 不慣れな敬語を思わせる菜子の喋り。尤も、荒巻はそんな表社会の礼儀を気にする素振りなど見せず、ついていた肘で頬杖をつきながら思考に耽っていたものだ。

 

 と、思考する彼をうかがうように見ていた菜子を他所に、荒巻はボソボソと呟くようにそれを口にしてくる。

 

「ヒイロちゃんの行方に関する情報は未だ皆無ではあるモンだが、この店自体は裏と繋がりのある曰く付きの組織なモンだからな。現に、失踪した人間についての噂や情報なんかが勤務中に垂れ込んでくるこの環境は、人探しには打って付けだな。加えて、オレちゃんを始めとして、クリスちゃんやレダちゃんも彼女とある程度の面識があるモンだし、カンキちゃんは実の親戚で、ユノちゃんに関してはヒイロちゃんと“恋人関係”にあった。……店の環境に留まらず、ヒイロちゃんと関わりのあるメンツが都合良く揃いに揃ってんだ。よって、この店を選ぶ動機にはなり得るな」

 

 ……ん? 恋人関係?

 自分は思わず、真横にいるユノを見遣ってしまった。尤も、本人はこちらの視線になんて気付きやしない。

 

 いや、ヒイロ姉さんは同級生だったって聞いてはいたけれど。え?

 めちゃくちゃ気になる疑問を内心に巡らせていく自分。だが、次の時にも見受けられた目の前の動きに、自分は疑問をそっちのけに意識を前方へ向けていく。

 

 荒巻の呟きを耳にして、菜子は希望に満ちた瞳と声音で「じゃあ……!」と声を掛けていく。これに彼は「うむ」と頷いていくと、姿勢を正した至極真面目なその調子で荒巻はその合否を下していったのだ。

 

「菜子ちゃんの動機は、オレちゃんにもよくわかった!! その上で、この合否を言い渡そう!!! 菜子ちゃん! 君は“不合格”だ!!!」

 

「!! …………不合格?」

 

 期待からの唖然。一瞬、聞き間違えたのかという菜子の聞き返しに対しても、荒巻は容赦なく「あぁそうだ! 不合格だ!!」と追撃の如く言い渡してくる。

 

 これに対して、菜子は「な、なんで……!?」と思わず立ち上がりながら彼に問い掛けたものだ。

 

「ど、どうして!? どうしてアタシはここで働けないの!? ……せ、接客のスキルとか、そういう心配? だ、だったらアタシ、ここで働きながら頑張って身に付けていくから……!! そ、それに、アタシ……う、歌! 歌とか、ギターとか弾ける!! お姉ちゃんが昔やってて、アタシそれに憧れて、お姉ちゃんの真似して両方できるようになったんだよ!! たまに路上ライブとかやったりして、歌もギターも上手いって褒められたりしてた!! これきっと、キャバレーのショーでも活かせると思うの!! だから……!」

 

「悪いな、菜子ちゃん。オレちゃん、人間性も含めた菜子ちゃんのポテンシャルには、磨けば光るものを見出してはいるのよ。でも、違うんだな。問題はそこじゃないのよ」

 

 イスの背もたれに寄り掛かる荒巻。彼の返事に菜子は、「じゃあ、アタシの何がいけないの……!?」と感情的になりながら聞き返していく。

 

 それを耳にした荒巻は次にも、陽気な声音のままそれを口にしてきたのだ。

 

「そもそもとして、菜子ちゃんはウチの店で働く資格が無いのさ」

 

「し、資格……? それって、何の……? 勉強したりするもの……?」

 

「いんや、そーいう大真面目な資格なんかじゃないのよ」

 

 首を横に振る荒巻。その彼に菜子は、焦りを隠せない様子で「じゃあ、アタシの何が足りないの……!?」と訊ね掛けていく。

 

 すると、次の時にも荒巻は音を立てながら立ち上がった。

 イスの音と、床を力強く踏みつけた不意のそれ。これに菜子がビクッと身体を跳ね上がらせていくその中で、荒巻はスーツのポケットに両手を入れながら少女の下へと歩き出していく。

 

 先ほどまでの陽気さをうかがわせない、物々しい雰囲気を醸し出した彼の歩み。そうして荒巻は首を若干と傾げ、サングラスにその高身長で目の前の少女を圧倒するように立ち止まっていくと、次にも彼は低くした声音で脅すようにその言葉を口にしてきたのだ。

 

「あのな、菜子ちゃん。オレ達はな、お遊びでここにいるワケじゃねぇのよ」

 

「……あ、アタシだって、遊びと思ってここに来てないし……!」

 

「わかってるぜ。菜子ちゃんも本気だもんなぁ。大好きなお姉ちゃんを探すため、それに最も適した環境を見つけてきて、そんでもって未知の世界に臆することなくそこに飛び込んでいける菜子ちゃんの度胸ばかりは、オレも認めざるを得ないモンさ。だがよ……」

 

 右手でサングラスの位置を直す仕草を交える荒巻。その右手を再びポケットにしまっていくと、暫しと間を置いてから彼はそれを言い放っていったのだ。

 

「菜子ちゃん、君には“犯罪経歴”っつー資格がねぇのよ。そいつがねぇ限りはな、菜子ちゃんがどんなに意気込もうとも、オレは菜子ちゃんをこの店に迎え入れることは決してできねぇ。……カタギの人間をこの世界に招き入れるこたぁ、初代オーナーであって、オレの元相棒でもある柏島さんの理念に反するのよ」

 

「……なに。だったらじゃあ、アタシこれから事件を起こしてくる……!! それで、アタシはなにをすれば認められるの!? 窃盗!? 詐欺!? 暴行!? この際だから、なんでもしてやるから!!! ……もう、アタシには失うものがないの。だから、唯一大切だったお姉ちゃんを見つけるためなら、なんだってやってやる!!!」

 

 声を荒げる菜子は、昂った感情のままに荒巻へとそれを口にしていった。

 これを耳にした荒巻は、無言を貫いてその場に佇んでいく。これに菜子は冷や汗を流しつつも睨みつけていくと、しばらくして荒巻はこちら側へ視線を投げ遣るなり、猫背で手の爪を眺めていたクリスへと言葉を掛けていったのだ。

 

「クリスちゃん。今まで手を掛けてきた対象(ターゲット)の数を教えてくれないか」

 

 唐突に投げ掛けられた問い掛け。これにクリスは顔を上げて、不敵な喋りでそう答えていく。

 

「僕が“殺し屋”だった時の話だよね。だったら今でもよく覚えてるよ。引き金を引いてきたこの指がね、今までに殺してきた人達の表情を記憶しているんだ。だから、こうして手を眺めているとね、自然と脳裏によぎってくるんだよ。僕がこれまで殺してきた人達の顔が、脳みそから滲み出るようにつらつらと溢れ出してくる。……一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、二十一、三十三……八十一。僕がこれまで殺してきた人達の数は、八十一人だ」

 

「クリスちゃん、少なくとも三桁は殺ってるからな」

 

「あれ、そうなんだ。じゃあ他の殺された人達はどこに行っちゃったんだろう。とにかく、忘れられた人達は実に気の毒だったね。可哀相に。同情するよ」

 

 淡々とそれを語ったクリス。彼の言葉に菜子が引き気味な表情を見せていくその傍で、荒巻は佇んだ状態のまま喋り出していく。

 

「クリスちゃんもクリスちゃんだがよ、ユノちゃんも大概なモンだ。如何せんユノちゃんはな、犯罪の温床とも言われる龍明を拠点とした、関東一のヤクザ組織と呼ばれる“銀嶺会(ぎんれいかい)”っつー組織の若頭補佐まで上り詰めた極道だったモンだからな」

 

 荒巻の言葉に対して、ユノは無言を貫きながらその場に佇んでいた。

 しかし、その視線はどこか途方を見遣るようなものでもあった。まるで、菜子から目を逸らすかのように……。

 

 そんな彼女の反応にも構わず、荒巻は菜子へとそれを聞かせていく。

 

「元銀嶺会本部若頭補佐。あるいは、元銀嶺会直系葉山組組長。そいつがユノちゃんの経歴だ。それも、菜子ちゃんも通う龍明高等学校に入学直後、ヒイロちゃんの知り合いのツテでヤクザになったバリバリのろくでなしだな。そこから五年ほどで若頭補佐まで上り詰めたユノちゃんだが、そこに辿り着くまでにもいろんな業を背負ってきたモンだろうよ。何がとは言わねぇが噂じゃあ、燃やしたり埋めたり、溶かしたりバラしたりが上手かったらしいなぁ?」

 

 曰く付きの人間が辿り着くとされるこのお店。以前にもラミアから聞かされたその所以を、この時にも改めて思い知らされたものだった。

 

 荒巻の紹介に、ユノは沈黙を決め込んで一切と反応を示さない。

 それでいて、ユノとクリスの経歴に菜子が言葉を失っていると、その二人に気を取られている間にも荒巻は屈み出してきて、菜子に顔を近付けながらそれを告げていった。

 

「この二人が桁外れにヤベェだけではあるんだがよ、この店はな、そーいうどうしようもねぇろくでなしの罪人共が、罪を清算するべく身体を資本に汗を流す場所なんだよな。だから菜子ちゃん。この店で働くためにはよ……どんなことでも身体を張って、自分の罪を死ぬ気で清算するための犯罪経歴と覚悟が必要になるのさ」

 

「…………ッ」

 

 間近に迫った荒巻の顔。上から覆い被さるようにしてこの言葉を掛けてきた彼の圧に、菜子は泣きそうな顔を見せながらも踏ん張るようにその場でじっと堪えていく。

 

 そして、菜子は繕ったような強気の表情で「……アタシも、それくらい……!」と言ってみせた。

 この返答に荒巻、無言を貫いて佇んでいく。その前方からのプレッシャーに菜子は次第と唇を震わせて、両脚もガタガタとさせながら荒巻と向かい合っていたものだ。

 

 と、次にも荒巻はドスを利かせた声音で小さくそれを言い放つ。

 

「じゃあ、見せてもらおうじゃねぇか。お前の覚悟とやらをな」

 

 背筋を伸ばした荒巻。おもむろに右手を上げて「拳銃!」と言葉を口にしていく。

 これを聞いたクリスは、腰に差していた銃を取り出すなり荒巻へと投げつけていったのだ。

 

 これを何気なく受け取っていった荒巻。

 そして、手に持って構えたその銃口を、躊躇いなく菜子の額へと突き付けていく。

 

 引き金が引かれれば、瞬間にも自身は絶命する。

 直面した命の危機。これを前にして菜子は引きつるような息で後退っていくのだが、そうして離れようとした菜子の動きに合わせるよう荒巻は、彼女の額に銃口をピッタリくっ付けながら一緒に動いて全く離れない。

 

 引き金に掛けられた指。逃げることもかなわない目の前の現実。これに菜子が涙を滲ませていくと、それを見た荒巻は銃の構えを解いていくなり、それを軽く上に投げてから銃口部分を掴むようにしてキャッチして、持ち手の部分を少女へと差し出してきたのだ。

 

 一体、何が起きているというのか。眼前のやり取りを静かに見守るユノとクリスの脇で、菜子だけでなく自分も汗を流しながら、次にも荒巻が言い放ってきたその言葉に耳を傾けていく。

 

「菜子ちゃん。こいつを持ちな」

 

「ぇ、ッ……」

 

「早くしろ。こいつは試験だ」

 

「……は、はぃ……」

 

 伸ばした菜子の右手が、ガタガタと震えていた。その表情も極度に追い詰められた恐怖の念に囚われてしまっており、ボロボロに流した涙とぐしゃぐしゃにした顔で彼女は、荒巻から拳銃を受け取っていく。

 

 そうして菜子が拳銃を受け取ると、荒巻は淡々とした調子で「おう、これで銃刀法違反だな」と告げてきたものだった。これに菜子が余計と深刻な表情で泣き出していくと、そんな少女にもお構いなしといった具合に荒巻は、「そいつをオレに向けな」と菜子へ指示を出していく。

 

 これには菜子、「ぇ……?」と言葉の意味を理解できていない様子を見せていった。

 自分も同じ気持ちだった。しかし今は、遠目から見守ることしかできない状況でもあった。そのことから自分も静かに心臓を打ち鳴らして見守っていると、すぐにも菜子が荒巻の腹部へと拳銃を向けていくその光景が展開されていく。

 

 と、そうして菜子が拳銃を突き付けると、次にも荒巻はあろうことかそれを指示してきたのだ。

 

「これから十秒数える。オレがその十秒を数えている間に、菜子ちゃん、お前はそいつで“オレを撃て”」

 

「え…………?」

 

 尚更と言葉の意味が理解できない。

 呆然とした菜子の目。ありとあらゆる恐怖に染まったそれを荒巻へと向けている間にも、少女の視界の中では荒巻が容赦の無いカウントダウンを始め出したのだ。

 

「じゃあ数え始めるぞ~。十、九、八、七」

 

「え、なに、まって。やだ。やだ、やだやだやだ……!!!」

 

「六、五、四」

 

「やだ、やめて。やだやだおねがいやめて……!!!」

 

「三、二、一」

 

「やめて。やだ……やだやだやだやだ!!!」

 

「ゼロ」

 

 手を伸ばした荒巻。それが拳銃を持つ菜子の手に掴みかかり、引き金に引っ掛けられた少女の指を自ら弾いていく。

 

 

 

 直後、部屋中に銃声が響き渡った。

 発砲の衝撃で床を転げ回った菜子。彼女は悲鳴を上げ、制服姿であられもなく床でひっくり返っていくと、先の衝撃で手放した拳銃が床に落ちて滑っていく音と共にして少女は、泣き崩れるように身体を丸くして床に突っ伏してしまった。

 

 目の前の光景を目の当たりにして、自分は思わず菜子の下へと駆け出してしまう。

 すぐに駆け寄った自分が、大号泣する少女に手を添えていく。それを受けて菜子はこちらの懐に潜り込んでくると、言葉にならない声でギャンギャン泣きながらしがみ付いてきたものだ。

 

 号泣する少女の頭を撫でながら、抱きとめるようにした自分。同時に視界を荒巻の方へと向けていくと、そこには未だ立ち上る拳銃の煙と共にして、佇んだままの状態で穴の開いたシャツを捲った荒巻が、腹部の“それ”を取り出すなり実に呑気なサマで“それ”を眺めていた。

 

 ……それは、生々しい弾痕が刻まれた分厚い漫画の週刊誌。深々と穴を空けたそれが殺傷武器の威力を証明していくのだが、荒巻はその穴から弾を床に落としていくなり、その週刊誌を脇に挟みながら陽気な調子で菜子へと拍手を送ってきたのであった。

 

「銃刀法違反と、殺人未遂及び傷害罪! ウチからすればまだまだ軽度な犯罪ではあるモンだが、ウチで勤務するに十分値する程度の罪を、菜子ちゃんはたった数分で重ねることができてしまった!! よって、菜子ちゃんがLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の一員になることを、オーナーであるオレちゃんが直々に認めてやる!! おめでとう!!! これで晴れてより、菜子ちゃんもホステスの仲間入りだ! 菜子ちゃんの加入を心から歓迎するぞ! ようこそ、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)へ!!」

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