俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
ピンポーン。部屋のインターホンが鳴らされたことで、就寝の準備を進めていた自分は何事だと思いながらそれの映像を確認したものだ。
時刻は午前零時ちょっと過ぎ。寝間着姿でベッドに寝転がりながらスマートフォンを操作していたところで呼び出され、それも住んでいる地域が犯罪の街こと龍明市であることから、自分は十分な警戒をしながら玄関の様子を眺めていく。
すると、そこには一人の少女らしき存在が映し出されていた。服装は、暗めの赤と暗めの青のボーダーというだぼだぼなシルエットのパーカーに、紫色の短パンというラフなもの。加えて、黒色のソックスに、パーカーと同色の靴。それとパーカーと同じく赤と青のキャスケットを被ってその少女はちんまりと佇んでいたものだ。
だが、自分が真っ先と意識した部分は、彼女の身体的な特徴にあった。それは、肩甲骨あたりまで伸ばしたヴァイオレットカラーのサラサラとした長髪と、くりくりとした人形のような紫色の瞳というもの。
彼女の存在を何となく知っていた。それは、まだまだいたいけな風貌が拭い切れないながらも、キャバレーで働くホステスとしての立派な姿を見たことがあったものだから。
黒色の鞄を提げて、自分の部屋の前でじっと待ち続ける彼女。その表情も疲れのようなものがうかがえて、ただただ扉が開くのを待ち続けているその様子。
出ないわけにはいかないか……。そう思って自分は玄関まで移動し、鍵を開けて扉を開いていく。
すると、自分が「どうしたの?」と訊ね掛けるその前にも、開いた瞬間の扉に向かって彼女はうんざりな顔を見せながらそう喋り出したのだ。
「もー、ナニやってるんですかー!! 遅いです!! か弱いレディを外で待たせるなんて、オトナの紳士として失格じゃないですか!? そんなんじゃモテませんよ!?」
え?
突然ダメ出しされた。想定し得ない言葉に自分の頭が真っ白になっていくと、そんな自分の脇を通り抜けるように彼女は玄関へと踏み入ってくる。
「まーいいです。今はこーして最寄りの宿屋ができたコトに感謝ですねー。というワケでお邪魔しますよー」
「な、なになに!? え、入るの!?」
驚くこちらの様子に、彼女はとても意外そうな顔で見上げてきた。
「なんですか?? なんで入っちゃダメなんですか??」
「いやいやいやいや!!! 入るもなにも、ここ俺の部屋だから!!」
「だから来たんじゃないですか。ナニ言ってるんですか??」
「俺からしたら、君が何言ってんのって状態なんだけど!?」
ああ言えばこう言う。そんな内心を感じさせる彼女の面倒くさそうな表情が垣間見えると、次にも彼女は流れで押し切らんとばかりに上目遣いで喋り出してきた。
「まー細かいことはイイじゃないですか。こーしてわざわざオンナのコが泊まりに来てあげているんです。なので“カンキさん”にはむしろ、ウチに対する感謝を示してもらいたいモノなんですが」
「いや頼んでないし、来るなら来るで事前に連絡くらい入れてもらいたかったんだけど……」
どうしても引かないこちらの反応に、彼女はむすっと不機嫌そうな顔を見せてくる。
かと思えば、閃いたようにして突然とからかうような視線を向けてくると、作り笑いでニヤニヤしながらそんなことを言い出してきたのだ。
「あー、カンキさんもしかして、今の今まで“お楽しみ中”でしたか?? だから、そんなに焦っておられるんですね?? まー、お一人様でいそいそと励みに励んでおられる真っ最中だったんでしょうけれど、でしたらすみませんねー、お邪魔しちゃって。ですけど、ウチ、そーいうのにも手慣れておりますから、よろしければ宿代の代わりとして続きをお手伝いしましょうか?? ね、それで手を打ちましょうよー??」
「え? ……え!?」
この子、本当に何言ってるの……。
どう言葉を返せばいいのかが分からない。そんなこちらの顔を、彼女は作り笑いから一転とした平然なサマで見遣り始めてくる。そして暫しその視線と見つめ合っていくと、次にも彼女は外へと向きながらそれを話し始めたのだ。
「ウチの住まい、ココから電車で四十五分ほどの場所にあるんですよ。それで、ウチの職業柄、こーして夜遅くに帰るコトも決して少なくありませんし、何せココは龍明ですよ?? ココは犯罪の温床とも言うべき危険な街じゃないですか。なので、帰り道にどんな危険と遭遇するのか、分かったもんじゃないです。既にレイプ未遂で何度か襲われた経験もありますから、尚更ですよ」
「そ、そうなんだ……。なんかそれを聞かされちゃうと、追い出すわけにはいかなくなるような……」
「そーでしょう?? なので、今日は意地でもお世話になりますから、そのへん覚悟しておいてくださいよ??」
上目遣いはそのままに、彼女は手を後ろにやりながら天真爛漫な微笑を見せてくる。
自分の武器を熟知している……。客商売の腕も侮れないと思わされる彼女の甘えに自分は仕方なく頷いていき、彼女を玄関に入れ、扉を閉めながらそんなことを口にしたものだ。
「まぁ、これからは事前の連絡を入れてくれると助かるかな……。そうすればご飯とか用意できるから」
「わー、ウチを気遣ってくださるんですか!! しかも、ご飯付!! ホントに宿屋さんみたいですね!! なんですか、カンキさんってもしかしてお人好しさんですか??」
「そこは気配り上手って言ってほしかったけど……」
「まー、とにかく今日のトコロは助かりました!! いやー、ホントに便利ですねーカンキさんという存在は。だって、偶然にも“お店から歩いて十五分ほど”の場所に住んでいらっしゃったんです。そりゃあ最寄りの宿として活用しなければ損ですよ」
「そうだね……」
先日、友人らと会食してから気が付いた事実。見慣れない道だったものだから新鮮な景色にひとり冒険心をくすぐられていたものであったけれど、改めてマップで確認してみたら、まさかこのアパートから歩いて十五分の場所にレストラン&キャバレーの
変な汗を流す自分を横目に、彼女は靴を脱いでさっさと部屋に上がり込んでいく。そして鞄を投げ捨てるようにベッドへ放り投げていくと、そこから着替えの寝間着を取り出してきて洗面所へと歩き出したものだった。
「シャワーお借りしますからー。あ、覗いたら、宿代とは別に料金を取りますからね」
「覗くなとは言わないんだね」
「見せるコトには慣れてますから。ウチ、キャバレーで働く前はカラダ売ってましたし」
「へぇ、俺には想像できない世界だなぁ……」
「まー、今もお客の要望がございましたらカラダを売ったりしてますし、やってることは昔とそんな大差ありませんけどねー。ただ、従業員の待遇で言えば現在の職場は相当恵まれているんじゃないでしょうか?? そーいうワケで失礼しまーす」
そう言って、彼女は洗面所の扉を閉めていった。
ちゃんと着替えを用意していたということは、最初から泊まりに来るつもりだったんだな……。そう思いながら自分はベッドに腰を掛けていき、残された彼女の鞄を他所にしてボーッと照明の光を眺めていく。
……
当時の記憶を呼び起こす。眠りにつくように意識を脳内へ巡らせて、ゆっくりと目を瞑って過去の出来事を思い返していく…………。
アパートの部屋の中。お茶が入ったコップが乗っているテーブルを挟んで、自分は
既に、彼女からある程度の話を聞かされていた。それを自分なりにまとめて理解していき、それらの情報を整理するかのように彼女へと確認をとっていく。
「では……俺の親父は死ぬ前、
向かい合うユノは、凛々しい表情で「えぇ」と頷いていく。
今まで知ることもなかった親父の素性。明かされることのなかったその正体を亡くなった後に伝えられたことで、自分は「だったら、最初からそう言っといてくれよ……」と小声で呟いてしまう。
親父を亡くしたことによって、柏島家は自分一人になってしまったのだ。
幼い頃に謎の失踪を遂げた母を始めとして、兄は大学に通うと言って家を出たきり音信不通になって数年が経過した。幸いと家族の親戚が今の自分を面倒見てくれていることから、自分は今もこうして何とか生き永らえることができている。
ただ、唯一の心残りがあるのだとするならば、親父との関わりが少なかったことから、親父の死を悲しもうにも心から泣くことができなかった自分に対する怒りが湧いてきてしまうこと。それもきっと、親父は家族であるという実感を持てていなかったからなのかもしれないと思えてしまう。
……そう考えると、俺の家族って一体何だったんだ……?
自分は孤独であるという実感が押し寄せてくる。それは、友人や親戚といった身近な存在がありながらも人肌を恋しく感じてしまえる、心が愛に飢えてしまっている証拠とも言えるのだろうか。
……沈黙が流れるこの空間。俯く自分が言葉にならない思考をぐるぐると巡らせていくその最中、向かい合うユノはおもむろに立ち上がるなりこちらへと声を掛けてきたのだ。
「柏島くん、私についてきなさい」
「……え?」
顔を上げた自分。その先へと投げ掛けた視界の中には、自分へと手を差し伸べるユノの姿が映し出されている。
直にも、ユノはこちらを見据えながら凛々しい表情でそう喋り出してきたものだ。
「私達の店は、貴方のような人を救済するために在るものなの。いいから準備を済ませなさい。私と一緒に、
「は、はい……」
言われるまま、自分はユノに連れ出される形で外に出た。
徒歩十五分。レストランを後にしてふとマップを確認してみたら、店と自分の住むアパートが近かったことで友人らと変に盛り上がったあの日のことも、なんだか懐かしくさえ思えてしまえる。
そんなことを考えている間にも到着したレストラン&キャバレーのお店。時刻はお昼というランチタイムである故にそれなりと客が入っている様子を横目にして、自分はユノに案内されるまま二人用の席へと腰を下ろしていった。
黒色のオシャレな丸テーブルに、丸っこいシルエットが可愛らしいイス。それに腰を掛けて落ち着いていくと、ユノは近くの従業員を呼び止めて、手に持つメニューを指差しながらも小声で何かを指示し始める。
その間も、自分は周囲のホールスタッフに視線が向いていた。
凛々しく気高い美を象徴するかのようなタキシード姿。この店の制服なのだろう女性スタッフの格好は男でもカッコいいと見惚れてしまえる着こなしであり、昼間でありながらもどことなくキャバレーらしさを匂わせる演出としては最高の雰囲気づくりになっているなと思えてくる。
共にして視界に入ったのは、男性スタッフの存在だった。屈強でガタイの良いタキシード姿の男性もまた、客の視界になるべく入らないよう陰で見回りを行う様子をうかがえたものだった。男性のスタッフさんが居たんだなという発見と、夜はキャバレーをしているお店だもんねという納得でひとり頷いていく自分。
と、呼び止めていた従業員が離れていく光景を脇にして、ユノがこちらに向きながらそう喋りかけてきたものだった。
「すぐにホステスの子を寄越すから、柏島くんはこのままくつろいでいてちょうだい」
「え、あの、今はレストランを営業しているんですよね……?」
まるでキャバレーみたい。そう思った自分の疑問に対して、ユノは微かな笑みでそう答えてくる。
「今の貴方には、可憐で人懐っこい女の子の成分が必要よ。大丈夫、安心して。指名料は取らないし、今日の食事代は私が立て替えておくから」
「あの、答えになっていないような気がしますけれど……ありがとうございます……?」
「私としても、貴方のお父様である柏島オーナーには少なからずの恩義を感じているの。それは、このお店で働く女の子達の総意でもあるのよ。そんな柏島オーナーの息子さんがいらしているんですもの、こんなにも特別なお客様を私達がもてなさずにしてどうするのというだけの話」
女神の如き美貌で、柔らかな笑みを見せてくるユノ。これに自分は言葉を失っていくと、次にもユノは「それじゃあ、ごゆっくり」と言い残して歩き去ってしまった。
途中、数人の女性客から呼び止められて会話に応じていくユノの姿。大人のグレードの更にワンランク上を往くだろう彼女の存在感が多くの女性客の目に留まっていく様子を眺めていると、直にしてこちらに歩み寄ってくる足音に気が付いてそちらへ意識を投げ掛けていく。
するとそこからは、先日にも顔を合わせた小柄の女性スタッフがこちらに料理を運んできてくれていた。タキシード姿に紫色のシャツという格好に加えての、ヴァイオレットカラーの長髪とあどけない風貌が特徴的なその彼女は、料理を乗せた銀色のお盆をテーブルに置きながらそう喋りかけてくる。
「コチラをどーぞ。全く、それにしてもイイご身分ですねーアナタ。なんですか、柏島オーナーの息子さんだからという理由で、お昼ご飯一食分を奢ってもらえるチョー特別待遇で迎え入れてもらっちゃって。こんなことならウチも柏島オーナーの養子になっていれば良かったなーって思ったりしましたよ、ホント」
「一食分でそこまで言う……?」
素朴な疑問を彼女に投げ掛けていく中で、その彼女はうんざりそうな調子とは裏腹にケロッとした表情で向かいの席に腰を掛けてくる。
「そこまで言うに決まってるじゃないですか。ウチはビンボーでチョー貧困層の生活をイヤというほど経験してきましたからね。ご飯一食分が無料? すっごくありがたいコトじゃないですか。ご飯を食べられる、それだけでどれだけ幸せなコトなのか、アナタにはそれを噛みしめてもらいながらコチラを味わってもらいたいモノですね」
ぱちくりとした目で、肘をついた手に顎を乗せてじっとこちらを見つめてくる彼女。
彼女に差し出された料理は、食欲をそそる絶妙な香りと色合いのチキンと、その周囲に添えられたシャキシャキの新鮮な葉っぱの野菜というもの。申し分程度に付属するレモンが視覚的にも爽やかさを演出する料理を前にして、自分は生唾を呑み込んでしまう。
だが、料理と同じくらい気になる存在が目の前でじろじろと見遣ってきている。そんなこちらの疑問が視線となっていたのだろうか、直にも彼女はちょっと生意気そうな調子でそう喋り出してきた。
「まー、そーいうワケで本日、柏島オーナーの息子さんのお相手を任されました“ラミア”と申します。ホステスとしましては勤務時間外なものですから、お呼ばれされた瞬間こそはすっごくイラッとしましたけれど、お相手はあの柏島オーナーの息子さんですから、今回は大目に見てあげています。まー、コチラのお仕事もオーナーに拾われたからこその食い扶持ですから、天国で見守ってくださっているオーナーのためでございましたら、ウチにできることはウチにできる範囲でやらせてもらうつもりです」
胸ポケットから取り出した名刺。それをテーブルに置いて差し出してきたものだから、自分はそれを受け取ってサッと眺めていく。
ラミア。名刺に書かれた彼女の名前と顔を照らし合わせていく。
「親父のやつ、俺の知らないところでいろんな人を助けていたってことなのかな……。とにかく、よろしく。ラミア」
「ハイ、よろしくおねがいします。そーいうワケでアナタのお相手をさせていただく関係上、まずはお話を盛り上げるためにいろんな情報が必要になってきますので、アナタのコトを隅々まで知り尽くすつもりで、ウチの方から根掘り葉掘りといろんな質問を投げ掛けていきます。なので、覚悟しておいてくださいね」
上目遣いとテキトーな調子を織り交ぜた、独自の雰囲気を纏う彼女ことラミア。そのセリフに自分は「お、お手柔らかに……」と返答していきながらも、その日の昼食はラミアと楽しく談笑するたわいない時間を過ごしたものだった。
……過去の記憶から意識を呼び戻し、時は現在に戻る。
目の前には、暗めの赤と暗めの青のボーダーというもこもこなルームウェアを着用するラミアが、床に化粧水や乳液といった美容グッズを散乱させながらドライヤーで髪を乾かしていく様子が展開されている。
自分が住んでいるアパートが、ここから十五分ほど歩いた場所にある。ラミアと交わした会話の中でふとそんなことを口にしてみたものだったけれど、まさかこんな展開になるとは思いもしていなかった……。
と、ドライヤーの音をガンガン立てながらラミアはこちらに言葉を投げ掛けてくる。
「カンキさん、アイスってあります??」
「アイス? いや、今はないけど……」
「えー、なんでですか」
「いやなんでラミアが残念がるの……」
「だって、アイス食べたいじゃないですかー」
「まずここ、俺の部屋なんだけど……。まぁいいや、今からコンビニ行って買ってくるよ」
ガタッ。ドライヤーの線で美容グッズを押し倒しながらラミアは振り向いてくる。
「ホントですか!? なんですか、さすが柏島オーナーの息子さんですね!! あ、ウチ、リンゴ味でおねがいします」
「さり気無く味のリクエストまでしてきたな……」
尤も、ラミアもこんな夜遅くまでお勤めしてきた後なんだと考えると、そんな彼女を労りたいという気持ちが先行して、勝手に身体が動き出してしまうというもの。
髪を乾かすラミアを部屋に残して、ひとりコンビニへと赴いた自分。そしてアイスを購入して部屋に戻り、二人でアイスを頬張りながら午前三時ほどまでテレビを観ていたものだった。
……まさか、こんな生活がこの先も続いていくとは思いもしていなかった。それも、ラミア以外のホステスも集い始める、まさに道の宿と言わんばかりの状況になるなど、この時には夢にも思っていなかった。