俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
全国に渡る夏の長期休暇が終わりを告げるであろうこの時期。お盆もとっくにすぎ、今もアパートの部屋で流れているテレビのニュースからは都心の混雑具合が報道されていく。
それを傍らに外出の支度を行っていた自分は、同じく支度をしていたラミアと軽く会話を交わした後に、暫し部屋に佇んでボーッとテレビを眺め遣っていた。
今も洗面所でおめかしをしているラミアを他所にして、今日にも同伴する彼女の準備を待っている自分。こうして暇を持て余すように壁に寄り掛かっていると、相変わらず自分のベッドを占領していた寝間着姿のメーが、髪をほどいたその姿でひたひたとこちらに歩み寄ってきたのだ。
顔には、からかうようなニヤつきを貼り付けていた彼女。これを見て自分は「な、なに……?」と若干身構えながら訊ねると、メーはこちらの懐に潜り込むようにしながらそう喋り出してきた。
「ねぇねぇ、今日はお二人でどこにお出掛けするつもりなのかな~?」
「あー……それがさ、明確には決まってないんだよね」
「んん? 決まってないの?」
「そう。それ、同伴としてはどうなんだって話ではあるんだけども、とりあえず龍明の駅前を二人で散歩しようって話になっているんだ」
「へぇ?」
「何というかさ、この同伴の目的自体は敢えて決めなかったというか、出先で考えようみたいなノリで決めたとこあるから、どこにお出掛けするかを訊かれるとちょっと返答に困るというか……」
「ふふ~ん? んじゃ、もしかしたら朝帰りになる可能性もあるってことだよね~?」
「だ、だからその顔はなに……?」
ニヤァ。一層とからかってくるような表情に自分が恐る恐ると訊ね掛けていくと、それを耳にしたメーは小声で「ジャーン!」と言いながら、寝間着のポケットから“小さな箱”を取り出してきたのだ。
赤色でコンパクトなサイズの持ち歩きやすいそれ。だが、表記されていた0.01の文字が目に入るなり自分は、一瞬だけ「んんッ」と喉を鳴らしつつメーへと言葉を投げ掛けていく。
「いや、いやいやいや、さすがにそこまでは……ッ」
「コレ、私のオススメ。私のお気に」
「そ、そうなんだ?」
「いろんな種類を試してきた中でも、いっちばんナマに近い感覚でおせっせできる有能なアイテムとなっております」
「へぇ……。お値段は……?」
「こちらなんと、本日限りはタダとなっておりまーす」
謎のノリで手渡された代物。「はい、どうぞ」というメーの言葉と共にそれを受け取っていった自分は、複雑な心境の目で彼女を見遣りつつそう返答していく。
「今日使うとは限らないんだけど、まぁ、ありがとうね……?」
「いいっていいって、そんな。あとは、そうだな~。ここだけの話、ラミアは正常位が好きって言ってたような気がするなぁ?」
「あ、あぁ、そうなんだ? ありがと……?」
「それと、奥よりはGスポ〇トが好きらしいから、入り口に近いお腹側を突っつく感じで腰を動かすといいかもね~?」
「へ、へぇ、そういうもんなんだ。ど、どうも……?」
ひそひそ。今もなお洗面所にいるラミアに聞こえない小声でアドバイスしてくるメー。彼女の助言に自分も記憶の片隅に入れておこうと聞き入るその最中にも、メーは一歩踏み込んでくるなり口元に手をあてがいながらこれも伝えてきたのだ。
「ついでにだけど、私はバックで奥を突かれるのが大好きでーす。オマケで特別に教えてあげたんだから、これも覚えておいてくれると嬉しいな?」
「あー……そうなんだ、りょうかい。それってつまり、メーともそういうのを考えて良いってことだよね……?」
「そういうこと~」
勝気な瞳で終始からかう調子だったメーは、最後に「んじゃ、今日の同伴頑張って!」と気さくに言葉を投げ掛けてからベッドに戻っていった。
そして布団にくるまるなり、何事も無かったかのようにスマートフォンで音ゲーをし始めた彼女。この一連のやり取りの後にも、洗面所から出てきたラミアがひょっこり顔を出しながらそれを問い掛けてくる。
「カンキさーん、準備ができましたよー。そろそろ行けますかー??」
「あ、あぁ、行けるよ」
「はーい。じゃー同伴を開始しましょーかー」
セリフと共に姿を現したラミアは、直にも身体の後ろに両手を回した佇まいで上目遣いを行ってきたものだ。
ふわふわなカールがかけられたヴァイオレットカラーの長髪。光るヘアピンと、メイクやネイルをバッチリと決め込んだあどけない風貌の彼女は、黒色のパーカーから顔を出す白色のフードの上に同じく白色のアウターを着込んでおり、黒色と白色のチェック柄ミニスカートに黒色のルーズソックスといういつもの勝負服姿で地雷風の存在感を醸し出す。
他にも、黒色の小さなショルダーバッグに、いつもの黒い厚底ブーツ。あとは、猫耳のついた黒色キャスケットがラミアの可憐さに拍車をかけていく。
相変わらずその帽子が似合うなぁ。なんて思いながら彼女へと手を差し伸べる自分。これをラミアは手に取っていくと、共にして二人で玄関へと歩き出したことで、この日の同伴が開始されたものでもあった。
それを後ろから眺めていたメーの視線にも、薄々と気が付いていた自分。
帰ってきたら、今日の同伴の話題でまたからかわれるんだろうなぁ。と、そんな風に背後の視線を憂いに思う自分ではあったのだが、一方でこの内心のどこかでは弄ってくれるという期待さえも感じられてしまっていたものだ。
夏の余韻とも言える残暑が漂う外界。これから秋に向かっていくのだろう季節の変わり目を体感させてくれる龍明の駅前にて、自分はラミアと手を繋ぎながら目的もなく歩き進んでいく。
以前までは、何かしらの出掛ける目的が定まっていないと落ち着かない関係だった自分ら。しかし、直にも半年経過する半同居生活の中で互いの理解が深まった今の関係性だと、特にこれといった目的が決まっていなくても、ただ一緒に歩いているだけで楽しめるという領域に達していたのだ。
何だか、老夫婦みたいな感覚だな。
長年と連れ添った特別な存在。こんな感覚を抱きつつ歩み進めていくこの足は、直後にもラミアによって立ち止まることとなる。
駅前付近にある屋台の出店を指差した彼女。共に「あっ!!」と興味津々な声音を上げながらそれを喋り出していく。
「カンキさん!! 見てください!! クレープですよ!! クレープ!!」
「あぁ本当だ。なんか一段と美味しそうに見えてくるね」
何気無く返答する自分。だが、今も隣ではヴァイオレットカラーの瞳を輝かせたラミアがこちらをじっと見遣ってきている。
なんともまぁ、無邪気で可憐な瞳なのでしょう。
無言のおねだりを了承した自分は、「じゃあ、せっかくだし二人で食べよっか」と言葉を投げ掛けていく。それを耳にしたラミアはしめしめといった具合に微笑していくと、「そうしましょうよー!! もちろん、カンキさんの奢りでですよ!!」と言いながら、こちらの手を引っ張るように出店へと歩き出していったのだ。
どうしてもラミアには甘くなってしまう自分。だが、出費以上に隣の彼女が喜んでいる顔を見られることが、何よりも嬉しく思えてしまっていた。
こうしてラミアが、デラックスチョコレートクレープとなる大きなクレープを頼んできたものであったから、相変わらず他人の財布に優しくないなぁと思いつつ自分は小さなクレープを購入して店を後にしていく。
それによって食べ歩き感覚で歩き出した龍明の駅前。二人で並んでクレープを食べながら目的もなく進んでいくその光景の中で、自分はふと思い浮かんできた些細な疑問をラミアへと投げ掛けていった。
「それにしても、ラミアって本当に甘い物が好きだよね」
手を繋ぎながら歩くラミアへと振り向く自分。その視線に彼女も応えるよう向き合いながらこの言葉を口にしてきた。
「それがどうかしました??」
「いや、事ある毎に甘い物を食べているから、何となく思ったんだ。家でもご飯の代わりにクッキーを食べてたりするし、特にお仕事の後なんかは大量のチョコレートやマシュマロを頬張っていたりしてるよね」
「まー、言われてみればそーですねー。何と言いますか、純粋に甘い物が大好きなだけなんだと思いますけど、どちらかと言いますとこの世の中、甘い物を食べてないとやってられないと言いますか」
「なるほどね。ラミアなりのストレス発散方法でもあるってことか」
「そーいうコトになりますかね?? まー、そーいう事情があるワケなんで、カンキさん。ウチがこの先もホステスとして長く活動できるように、これからもこのラミアちゃんにたくさん貢いでやってくださいよ??」
「貢ぐって言い方よ」
「その分のお返しとしましてウチは、お菓子並に甘い甘―いひと時をカンキさんに提供いたします。なので、ね?? この条件でいかがなモノでしょーか??」
「実際に今も十分に甘いひと時を味わわせてもらっているし、確かにこんな時間を過ごせるんならラミアに貢ぎたくなっちゃうよね」
「ムッフッフ、毎度ありがとうございまーす。そーいうコトなんで、どーぞこれからもこのラミアちゃんをどーかごひいきにー」
デラックスチョコレートクレープを片手に、適当な調子で無邪気に笑みを零していくラミア。その笑顔を見る度に自分は、恋人でもない彼女という存在に特別な感情を抱いてしまえたのだ。
世間的に見れば、自分らはとても不可思議かつ不純な関係として映えているのかもしれない。だが、友達以上恋人未満というその関係の中で極めて恋人に近しい位置にあるであろう、性的な欲求を満たし合う仲というこの関係も、自分にとって満更でもなく思えていたこともまた事実。
むしろ、相手が恋人ではない分、気持ち的に非常に気楽なものだった。
友達感覚で接し合える距離感。お互いに性癖や欲求を晒し合ったフリーな関係。”彼女ら”の仕事上、時々は他の男に嫉妬してしまう場面はあるけれど、でも彼女らは別に自分の恋人じゃないしという自らへの言い聞かせによって納得できるのも、この関係性のメリットと言えるのかもしれない。
尤も、特に自分は彼女らと半同居状態でもある立場なため、特別な関係として共に過ごすというシチュエーションよりかは、日常生活を共に過ごしていく場面が多いことで、互いに恋人のような関係を意識せずにいるとも考えられる。
もはや、ルームシェアをしている親友。そんな感覚だった。まぁ、世間はこんな自分らのことを“セフレ”と呼ぶのだろうが、本人達はこうした関係も別に悪く思っていなかったりもするのだ。
恋愛には満たない、親密な関係。互いの欲求を満たし合うだけの性的な繋がり。
今の関係が、自分にとって何よりも心地良く感じられた。そしてそれは、彼女らもまた然り……。
脳裏に巡っていた思考に浸る自分へと、隣を歩くラミアは首を傾げながら適当な調子で問い掛けてくる。
「あの、どうかしました??」
「あぁいや、なんでもない。ただ、何気ない日常をラミア達とこうして過ごせている今の環境が、なんだかいいなって感じていただけだから」
「?? なんですか急に??」
「あー、気を悪くさせちゃったならごめん……」
「別に?? ウチも、カンキさんのような都合の良いお方と出会えて良かったと思いますよ」
「俺からしても、ラミア達はきっと都合の良い人達なんだろうなぁ」
「つまり、ウチらは相性がイイってコトになりますねー」
ぎゅっ。
手を繋いでいた状態から、腕に抱き付いてきたラミア。それに自分は「うおっ」と声を出して驚いていく中で、彼女は特技の上目遣いでこちらを魅了しながら、同調した勢いで次のおねだりを行ってきたのであった。
「ではカンキさん。そんな相性バツグンなこのラミアちゃんに、タピオカジュースを奢るコトも厭わないですよね??」
今回の同伴は、やけに出費が多い気がする。
駅前の出店を巡る旅から、デパートの中へと移っていた現在の状況。今も手を繋ぎながらコーン付きのアイスクリームを食べているラミアと一緒に、自分も同じくアイスを口にしながら店内を歩き回っていく。
若者が多く出入りしている店内の様子から、夏休み終盤の余暇を満喫している人々で溢れた周囲の光景。見渡すかぎり自分らよりも若いだろう男女のカップルが見受けられるその空間において、ラミアはこちらを見遣りながらそんなことを口にしてきた。
「ちぇ、なんだかカップルばっかりで気に食わないですねー」
「それ、俺らが言う?」
「別にウチらはそんなんではありませんよね??」
「まぁそうだけど……」
何も間違ったことは言っていないはずなのに、ラミアの言葉を耳にした時にもちょっとだけショックに感じた自分。
この心境に何かを悟ったのだろうラミア。次にも彼女は身を乗り出すようにしてこちらの顔を覗き込んでくると、悪戯な笑みを浮かべながらそれを訊ね掛けてきたものだ。
「あー、なんですかー?? もしかしてカンキさん、ラミアちゃんのコトを恋人として意識しちゃいました??」
「うぐっ。いやでも、別に俺じゃなくても、ここまで親密にされてもなおラミアに惚れない男ってのもあんまりいないと思うんだよね……」
「ははーん。つまり、ウチのコトが好きってコトなんですよね??」
「好きだよ。というか、バカンスの時にも同じようなこと答えたよね……?」
「カンキさんは解っておりませんねー。こーいうモノは、何回でも相手方に言わせたいモノなんですよー」
猫耳キャスケットを被った小柄の彼女にからかわれる自分。これに自分は顔を赤く染めながらそっぽを向いたものだったから、ラミアは勝利宣言とも言えるだろう高らかな笑みを見せながら、暫しこちらを見遣り続けていたものだ。
飽くまで、友達として好き。
同じく彼女も抱いているであろうその好感。この距離感もまた堪らないと感じる自分が歩き進んでいく最中にも、ラミアはふと足を止めるなりエスカレーターを指差しながらそれを伝えてくる。
「あの、コスメを見てってもイイですか??」
「いいよ。もうじき夏も終わるから、秋の季節に合いそうなコスメを見たいんだよね」
「おやおや?? 随分とウチに詳しいですね?? これはラミアちゃん検定合格ですね」
「おかげさまでね。これで一級になれたかな」
「いえいえ、三級から準二級になったばかりですから、まだまだ気を緩めちゃダメですよー」
「あちゃー、こりゃまぁなんとも手厳しい検定だこと」
「というワケなんで、二級の受験料は今晩のご飯の代金となります」
「結局奢らせたいだけかい」
繋いでいた手を離して、キャスケット越しにラミアの頭を撫でていく自分。それを受けて彼女は無邪気な笑みを零しながら二人でエスカレーターに乗っていき、上の階に上ってからラミアと共に化粧品コーナーを物色し始める。
前にも彼女と訪れたことがあるこの空間も、やはり男という身では緊張を抱いてしまえる。
その気持ちから来る周囲を見渡す視線が、とにかく落ち着かなかった自分。だが、こちらを気にすることのないラミアは付き添う自分を容赦なく引っ張るように連れ歩いてくると、今も店員さんの視線に気まずく思うこちらに構うことなく彼女は、手に取ったコスメの感想を片っ端からこちらへ投げ掛けてきたものだ。
特に彼女は、ネイルについて様々なアドバイスを求めてきた。
主に男性目線の感想を訊ね掛けてきたラミア。彼女の商売も男性客が多いことから、自分という都合の良い存在を上手く活用するようにこの言葉を掛けてくるのだ。
「コチラのネイルとかどーでしょう?? 宇宙をテーマにしているだけあって、メタリックで透明感のある銀色がとても際立っておりますけど、こういったネイルってオトコのヒトから見るとどう映るモンなんでしょーか?? カンキさん、何か感想とかありますか??」
「う、うーん。とても綺麗だなぁって印象は持ったりするし、銀色のネイルってなんだか新鮮にも感じられるから面白いなぁって思ったりするけれど……すごく正直な話、俺は相手のネイルをあんまり見ないから何とも言えないな……」
「……ホント、カンキさんってこーいうトコに無関心ですよね」
ジト目。
期待を下回る回答にテンションガタ落ちなラミア。そんな彼女の様子に自分は「ご、ごめん……」と謝っていくのだが、この言葉とは一方的にラミアはケロッとしながら「まー、そんなカンキさんを魅了できさえすれば、実質ウチの勝ちってトコありますもんねー」と言葉を口にしてくる。
で、顔色をうかがうこちらの様子を逆手にとったラミアがクルッと振り向いてくるなり、必殺可憐な上目遣いを繰り出しながらこちらに寄りすがり、甘えるような声音で渾身のおねだりをかましてきたものだ。
「そこで相談なんですがー。カンキさんを絶対に後悔なんかさせないので、もしカンキさんがよろしければコチラ、ウチに買ってもらえないでしょうかー……??」
あ、甘えてくるラミアの姿が眩しい……!!
お金を払わされてばかりだというのに、全力で甘えてくる彼女を見てしまうと不思議と奢りたくなってしまうこの衝動。
これには思わず、「ちょ、ちょっとお財布と相談させて……」と答えていった自分。
だが、その返答にラミアは微笑を見せながらこう言葉を掛けてきた。
「ジョーダンですよ、ジョーダン。前々から思っておりましたけど、カンキさんってホント他人に甘いですよね?? 一周回ってちょっと心配になります」
「え、ごめん……?」
「謝らなくてもいいですから。まーウチはですね、お相手さんとのお食事など、そのお相手さんと一緒に何かをした時の代金だけ奢ってもらうコトに決めておりますから。なので、こういったジブンだけが使用する消耗品なんかはジブンで支払いますんで、そこんトコご安心くださいね」
「あぁ、そうなんだ……?」
「カンキさんとは関係の無いコスメなんかも奢らせていたら、それこそ貢がせてるみたいじゃないですか。ウチはそんなのイヤです。ジブンのコトは、ジブンで何とかしたいですからね」
適当な調子でありながらも、芯を持った眼差しでそれを話してきたラミア。これを受けて自分は呆然とするように聞き入っていると、すぐにも彼女は踵を返すなり「じゃ、そーいうコトでコチラ買ってきまーす」と言ってカウンターへと走っていったのであった。
ラミアとの同伴も、直に終わりを告げる夜の時刻。残暑が漂う夜の龍明にて、自分はお手洗いを済ませた足で待たせていたラミアの下へと駆け付けていく。
そうして待ち合わせ場所である駅前の木へと近付いていくと、その時にも自分はラミアと会話する見知らぬ男性の姿を目撃した。
黒色のハンチング帽子にサングラスという目の前の男性。男は焦げ茶色のアウターに黒色のパンツという格好でラミアと会話を交わしていくと、すぐにもポケットに手を突っ込みながら彼女から離れていったものだ。
その様子をうかがいながらラミアへと歩み寄った自分。すると彼女は振り返りながらいつもの適当な調子でこの言葉を掛けてきた。
「あー、どーも。やっぱりオトコのヒトっておトイレ済ませるの早いですねー」
「あぁ、まぁね。それよりもラミア、さっきの人は?」
「なんでもありませんよー。カレ、芸能プロダクションのスカウトマンらしいです」
「スカウトマン? スカウトされたの?」
訊ね掛けたこちらの言葉に、ラミアは「まー、そーですね」と淡々とした調子で答えてきた。
その時にも、なんだか自分が誇らしく思えてしまったものだった。しかし、雰囲気からして契約という様子でもない彼女のサマに自分は再び訊ね掛けていく。
「すごいじゃんかラミア。それで返事はどうしたの?」
「モチロン、丁重にお断りしました」
「そうなんだ。でも大丈夫? 後悔とかない?」
「ありませんよ。ヒトから好かれるという点ではイマのお仕事とそんな変わらないんでしょうが、“表”でしか生きられないタレントさんとは違ってウチは、“裏”でしか生きていけないニンゲンなモノですからね」
喋りながらも、どこか遠くを見遣っていくラミア。この彼女の横顔を自分はまじまじ眺めていると、ふとラミアはこちらへ振り返るなり手を取ってきて、かつ急に歩き出したことでこちらの手をグイッと引っ張りながらそれを口にしてくる。
「それよりもホラ、さっさと行きますよー」
「え? わ、分かった分かった! 分かったからそんな引っ張らないで!」
「ボサッとしてるカンキさんがワルいんです。ホラ、行きましょー」
いや、行くにしたって一体どこに行くんだ?
内心で抱いたその疑問。これを胸に秘めたままラミアに任せて歩き出した自分は、次の時にもこちらの腕に抱き付いてきた彼女と共に夜の龍明を巡り始めていく。
二人で歩く夜の街並み。建ち並ぶビルの照明と看板の明かりが煌めくこの空間には、道を歩く人々と走る車が忙しなく行き交っている。
特別な日でもない至っていつも通りの日常。また、大きなビルについた大型ディスプレイからは龍明で起きた事件を取り扱う報道が流れてくる中で、自分はラミアに連れられるままとある建物の前まで案内されていった。
大通りから逸れた脇道。建物の間に挟まれた屋根付きのそこを二人で進んでいくこと数分経過して、ふと急に立ち止まったラミアの様子に自分もまた足を止めていく。
そして、彼女が見遣っていた建物の入り口を見て、自分は静かに息を呑んでいった。
ピンク色のネオンが眩しい看板と、料金表示された電子パネル。そして、目についた『AnAn・In』という文字が店の名前であることを理解していくと、今も立ち尽くすこちらへと振り向いてきたラミアにそう言葉を投げ掛けられたのだ。
「ココ、ウチのオススメです。今晩どーでしょーか??」
「あー……今晩どうかって、二人で泊まっていくってこと……?」
「とぼけちゃってもムダですよー。ココまで来たら、さすがのカンキさんでもわかっていらっしゃるクセに」
こちらの上半身に体当たりするように抱き付いてきたラミア。
それでいて、可憐な上目遣いを遺憾なく発揮しながら、こちらに甘えてくるような猫なで声でその言葉を口にしてくる。
「今さら先延ばしになんかできませんよ?? ココに来てしまった以上は、カンキさんにも腹括ってもらいますから、覚悟してくださいね??」
「……おっけ。分かった。分かった。大丈夫。もう、大丈夫。ただ、ちょっとだけ気持ちを整理させて……よし、もう問題ない。じゃあ入ろうか、ラミア」
「その意気です。往生際が良くて助かりますよ」
腕ごと手を引いてくるラミアに促され、彼女と共に大人の空間へと踏み込んだ自分。
開く自動ドアから一歩踏み入れていく未知の世界。その瞬間にも視界に入り込んできたのは、落ち着きのある黒色とピンク色で統一された高級感あふれるモダンなエントランスという光景だった。
間違えて高級ホテルに入ってしまったのかと錯覚する、大人向けの目的で利用するとは思えないほどの華麗で上品なその内装。現代的とも言えるこの内部は一見するとカラオケ店を思わせるのだが、内装の壁や床はガラスのように透き通っていて、これらを歩いたり触ったりしてしまえばすぐにでも割れてしまいそうな繊細さをうかがわせる。
まるで芸術品みたいだ。
たかが大人向けのホテルと思って侮っていた。このエントランスに自分は緊張を超越した一種の感動さえも覚えていく中で、ラミアはこちらを連れながらトコトコと歩み進んで一つの大きなパネルの前で立ち止まっていく。
それには、監視カメラの映像のようないくつもの写真が映し出されていた。
写真の下には、部屋の番号と思しき数字が刻まれている。これを自分は脳死で見遣っていく脇で、ラミアは「じゃー、ココにしましょーか」とパネルの写真をタッチしてから『宿泊』となる選択肢を選び、そのまま付近のエレベーターへと歩き出していったのだ。
「カンキさん、コチラでーす」
「あぁ、分かった……」
しかし、やっぱり場所が場所なだけに緊張は拭えない……。
自分はこれから、ラミアと“そういう事”をするんだ。先ほどからこの思考がずっと脳裏に巡る中で、自分は到着した四階の狭い廊下をラミアと並びながら歩いていき、彼女が予約したのだろう部屋の前で足を止めていく。
で、ラミアはそのドアノブを捻って開けていき、「どーぞー」と促す彼女に従うまま自分は部屋の中へと入っていった。
最初から点いていた照明の下、自分は細い入り口を進んだその突き当たりへと顔を覗かせる。するとそこには、エントランスのモダンな雰囲気からは一転とした、シックで落ち着きのある空間が広がっていたのだ。
壁や床は、落ち着いた黒色とピンク色の目に優しいボーダーとなっている。だが、店の入り口のような高級感からは一旦隔離された、ビジネスホテルを思わせる無難な雰囲気がまた心休まる空間を演出していた。尤も、部屋の中央にあったダブルベッドがこの店本来の目的を物語っていたものだが。
営みのために用意されたそれへと歩み寄る自分。そしてラミアもまた黒色の小さなショルダーバッグを投げるようにベッドへ置いていくと、履いていた厚底ブーツも脱いで思い切りベッドの上に飛び乗りながらこちらへ喋りかけてきた。
「シャワールームもありますけど、カンキさんはどうします??」
「どうしようかな。ラミアのことを考えたら、今日の汗を洗い流した方がいいんだろうけど。ラミアは?」
「ウチは浴びません。汗は気になりますけど、それよりもメイクが落ちちゃうのがイヤですからねー」
「じゃあ、俺だけでも浴びた方がいい?」
「あー、じゃーもうそのままでイイですよ。汗臭いままくっ付くプレイもウチはキライじゃありませんから」
へぇ、案外こういう感じなんだ……。
入る前の印象とは異なる彼女の発言に、内心で汗を流していく自分。と、そんな自分が立ち尽くしていると、ラミアは適当な調子で「カンキさん、コチラに来てください」と言葉を投げ掛けてきた。
彼女の言う通りに、自分も靴を脱いでベッドの上に乗り掛かっていく。
そして、這うようにしてラミアへと近付いた。その瞬間だった。
おもむろにこちらへ突撃してきたラミア。そして、自分の上着を引っ張るようにしながら彼女は仰向けに寝転んでいくと、この力に引っ張られた自分もまたラミアに覆い被さるように倒れてしまったものだ。
あまりにも急であったのだが、彼女にぶつかるギリギリのところで両手をついていく。
これによって、自分とラミアの顔が一気に近くなったこの現状。しかも、壁ドンならぬ床ドンのような姿勢になったことで一層と気持ちが高ぶってくると、この高揚感を更に刺激するかようにラミアは、甘くも切ない声音でその言葉を口にし始めてきたのだ。
「半年ほど前に初めてお誘いしてから、やっとここまで来ましたよね」
「……最初の同伴のこと、だよね。確かにあの日もラミアにお誘いを受けたもんだったけど……」
「カンキさんは強情すぎです。ウチ、カンキさんがこうして来てくれる日を、あの日からずっとお待ちしていたんですよ??」
「そうだったんだ。待たせてごめんね、ラミア」
心からの謝罪を込めて、こちらから彼女の唇を奪っていく自分。
ベッドに押さえ付けたラミアとキスを交わし、この唇で暫し彼女を堪能していく。その彼女もまたしっとりとした表情で目を瞑ってくると、ベッドについていたこちらの手を取って恋人繋ぎをしながらキスに応じ続けてきた。
いつになっても、この高揚感に慣れやしない。
下が疼いてきた本能からなる興奮。欲求も高まり、本番を目前にした現状から尚更と気分が昂ってくる。
すると、こちらから溢れ出すフェロモンに反応するようラミアもまた頬を赤く染めながら、これまでに見せたことのない蕩けた顔つきを見せつつ、欲望を刺激してくる可憐で甘美な声音でその言葉を掛けてきたのだ。
「カンキさん。もう待ち切れないです。今日のために禁欲してきましたので、一刻でも早くカンキさんが欲しいです。なので、触ってください。愛でてください。好きなだけ舐めてください。ウチを、カンキさんの好きなように使ってください。今日のラミアちゃんは、カンキさんだけのモノなんですからね……??」
「長い間じれったい思いをさせて、本当にごめんね。それじゃあお言葉に甘えて、今日はラミアを存分に貸切るとするよ。ラミアをずっと待たせちゃった分、今日はたくさん満足させてあげるから」
「期待してもイイんですよね?? なら、さっさと始めましょーよ。ウチもう、ムリです。ガマンできません。早くメチャクチャにしてください……」
彼女の服に手を掛けて、アウターから一着ずつ脱がし始めていく。
この手がスカートに触れ、インナーに触れ、そして素肌に触れていく。こうして下着のみとなったラミアを抱き上げて、そんな彼女の目の前で自分もまた衣類を脱いでみせたことにより、互いに晒し合う状態となって向かい合っていった。
もう、この欲望を押さえることは叶わない。
理性を伴った高揚感。今も張り裂けそうなくらいに脈打つ心臓を抱え込んだ自分は、白のレースが大人びた印象を与える紫色のインナー姿の彼女をこの腕でしっかり抱きしめていく。
そして、その小さな身体を大切にするように抱え込んでいくと、今も物欲しげな眼差しを向けていた彼女の期待に応えるように、本番前のディープキスを自分から行っていったのであった。
この夜、ラミアとは甘く蕩け合う至福のひと時を過ごすこととなる。
裸の付き合いとはよく言ったもので、言葉通りの状態でラミアと行為に及んだこの一夜は、自分にとって永遠に忘れられない特別な時間となったものだった。
半年もの時間をかけて築き上げていった信頼関係。そこから来る距離感がまた、彼女と一つになれたという実感に拍車をかけてくれたのである。
そんな彼女が見せてくれたあられもない姿がまた、瞼の裏に焼き付いて離れなかった。
全身をくまなく愛でていく過程でも切ない表情を見せていた彼女は、本番の行為によって悩ましい声音を上げ続ける非常に破廉恥なサマを披露してくれたのだ。
それに加えて、事前にもメーから教えられていた彼女の好きなもので攻めていく。この知識が活かされることによって彼女が快楽に悶え続ける姿を終始眺めることができ、普段は絶対に見せない彼女の姿にそそられた自分もまた、彼女の快楽を優先した献身的な行為に浸っていった。
惹かれるようにくっ付いたお互いの身体。性欲が織り成す関係性が両者の欲望を満たしていく中、自分らは尽きない欲望に身を任せ、数え切れないほどの行為の回数と様々なアプローチによって、夜遅くまで共に達し続けていく。
それはもう、充実感と満足感に満たされた一夜になった。
今でも、彼女と過ごしたあの時間が夢のように感じられる。尤も、彼女はまた応じると乗り気で言ってくれたため、それがいつになるかまでは未定であるものの、自分はこの時にも、より一層の深い闇へと落ちた気がしてしまえたものでもあった。
まぁ、それでもいいか。それよりも今は、全身が悦びに満ちている。
心が歓喜しているこの感覚に全てを委ねた自分は、既に疲労して眠りについてしまっていた彼女の隣に寝転がっていく。そして、裸体のままである彼女に寄り添うようにして、その小さくて可憐な身体を抱きしめるように腕を回していってから、自分もまた深い眠りへとついていったのであった。
【chapter 3に続く…………】