俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
夜の
黒色のタキシードという気品あふれる店の制服。それに身を包んだミネは、イメージカラーなのだろう黄色のシャツも着こんだその格好で自分の接待に臨んでくる。
今回で二回目になるミネの接客だが、初日のガチガチな緊張感を目の当たりにした自分としては、既に何度か回数を重ねてきた彼女のこなれた様子に安堵したものだ。
強いて言うならば、不良少女であるミネのムスッとした不愛想な表情が、ちょっとだけ気になったくらいか。尤も、取り繕う素振りも見せない堂々としたその自然体こそが、ミネの個性や魅力になっていたのかもしれないが。
それでいて、現役の女子高生という売り文句からミネの人気はまずまずだという。特に、アルバイトとして加入したばかりのホステスとしては、とてもうまくやれているらしい。
これを本人から聞いた自分は、実の親戚として誇らしく思えた。しかし、この気持ちが表情に表れていたらしく、ちょっとだけ自慢げにニヤついたこちらの反応にミネは、今も二人用の丸テーブルを挟んで向かい合うこの状態でキレ気味に言葉を投げ掛けてきたのだ。
「な、なんなのその顔……っ!! 今アタシのことをからかったでしょ……っ!?」
「いやいやそんな。慣れない環境の中で上手くやっていけてるんだなって思ってさ。菜子ちゃ……じゃなくてミネの初日を相手した身として、日頃からたくましく成長しているんだなぁってしみじみ思っただけだから気にしないでね」
「なっ……! だ、だからそういうのが……ッ!!! ッ、アンタってホントさぁ……!」
怒りたいけど怒れない。
複雑な心境で歪ませた表情とは裏腹に、受け取った言葉に頬を赤らめていく彼女。これにギリギリと歯ぎしりするようなサマを見せてくると、次にもミネは口を尖らせながらそっぽを向きつつ、ちょっとだけ縮こまった様子でそう喋り出してきた。
「…………まぁでも、成長はしてる、のかな……。ちょっとずつだけど、前に進めてる感じはする……。これも、さ。たぶんだけど、最初にアンタが相手してくれたおかげ、かもだし。だから、その……ッありがと……。アタシの相手をしてくれて……」
胸の内にある自分の気持ちを言語化するべく、それを探りながら小さく喋るミネ。少女の健気な様子を前にして自分は思わず、『あっ護らねば』と思えてしまった。
不良を気取る女の子が、頑張って素直な気持ちを喋ろうとするその姿。それに親心のようなものも芽生えた自分は、「俺で良ければ、いつでも相手になるからね」と、親戚のお兄さん目線でそんな返答を行っていく。
そんなもんだから、こちらの反応にミネは再び「だ、だからさぁ……っ!!! その、なに、よくわかんないけどアンタ、アタシのことなめてるでしょっ!?」と逆ギレをかましてきたものだった。
これには自分も、声を荒げる彼女をなだめるべく平謝りしていった。
両手で「落ち着いて」と軽く振っていくこちらのサインに、ミネは照れ隠し的な頬の赤みで不機嫌な表情を見せてくる。その彼女の様子に自分はホッとしながら深々とイスに座っていくと、そんなこちらのやり取りを見計らうように、他所からタキシード姿のラミアが歩み寄ってきたのだ。
あからさまにニヤニヤした顔。ラミアのそれにミネがカーッと顔を赤くしながら目を見開いていくその脇で、閉店準備をしていたラミアは片手に箒を持ちながら言葉を掛けてくる。
「どーも、カンキさんにミネさん。今日もお勤めご苦労様でーす。それにしましても、相変わらずの仲の良さですねー。遠目から見ていても、お二人さんの仲睦まじい様子がよくわかりましたよー」
と、ミネを直視しながら口にしたラミア。
確信犯とも言えるラミアのそれに、ミネは「仲睦まじい……?! アタシが、コイツと……!?」と言葉を発しながらこちらを指差してくる。しかし、直後にも差した指を引っ込めながら「あ、ごめん……」と口にした彼女は、自身の行いに落ち込むようしょんぼりとしたサマで俯いてしまったのだ。
何というか、色々と複雑な時期なんだなぁ。
そう思いながら、自分は「いいよいいよ、気にしないで」と返していく。それから自分はラミアへと向いて「ラミアも今日一日お疲れ様」と口にすると、ラミアはニッと笑みを零しながらそれを伝えてきたものだ。
「あーハイ、お疲れ様でーす。それはそれとしてですね、カンキさんにお呼びがかかっておりますよー」
「俺に?」
「そーです。アチラにいらっしゃる荒巻オーナーからですねー」
店の奥へと手で促したラミア。それを自分とミネが視線で追っていくと、そこには荒巻を始めとして、ユノ、メー、レダという面々が集まっていた。
真剣な話というよりは、和やかな雰囲気が見て取れる談笑の様子。ユノだけが荒巻に対して微妙な表情を向けていくその光景に、自分は「俺に何の用なんだろう」と言いながら立ち上がってそちらへ向かい出していく。
それと共に、ラミアとミネがついてきた。
一緒に歩いていくその最中、ラミアはこちらに引っ付くような距離で足並みを揃えてくる。これにミネは不思議そうな視線を暫し送っていたものであったのだが、直にもハッとするなり彼女は一人で顔を真っ赤に染めていった。
何というか、見ていて飽きない少女だなぁ。
とても呑気な感想を内心で抱いていく自分。それとはまた別にラミアは、ミネの様子にからかうような視線を向けつつそれを訊ね掛けていく。
「おや?? おやおや?? ミネさんどーかされましたかー??」
「えっ? あ、いやっ、別になんでもないけどっ……」
「んー?? そう仰られる割にはミネさん、なんでもあるようにうかがえますよ?? まるで、ウチとカンキさんという組み合わせに反応なされたように見えましたけど、一体ナニを想像なされたんでしょうかー??」
「へっ、ッ。ぁ、いや、だって。だって、さ。その……」
「あー、心配には及びませんよ?? “あの夜”カンキさんは、ウチのコトをとっても優しく扱ってくれましたからねー」
「ッ……そ、そうなん、だ……っ? へ、へぇ……ッ」
「ココだけの話ですけど、カンキさんは舌の使い方がとってもお上手でした。その滑らかな温もりでウチのいろんな場所をたっくさん愛撫してくれましてねー、それはもう天にも昇る気持ちを堪能したモンですよ」
「ぇッ、ぁ、ぇっ……へ、へーぇ……し、舌で……っ、舌で…………。う、ぅぅ……」
脳内に流れてきたであろう濃密な光景に、純真な心を持つミネは呂律の回らない調子で顔を真っ赤にしてしまった。
想像しなければ良かった。そんな、自滅したと言わんばかりの気弱な声。恥ずかしいあまりにふにゃふにゃになったミネが目をグルグルにして俯いていくと、ラミアはすぐにも「あーすみません、ミネさんの反応が可愛らしくってついからかっちゃいました」と慰めるように彼女の頭を撫でていく。
まぁ、無理もない……。
ミネは、自分がラミアと“致した”ことを聞いていたのだろう。そんな存在が二人揃って自身の真横で並んでいるのだから、耐性が無い人間にとっては意識せざるを得ない状況であることもまた確か……なのかもしれない。
そんなミネは、ものすごく恥ずかしそうにそっぽを向いていった。それに対してラミアは適当な調子で謝りつつも、女同士のノリでミネに抱き付きながら彼女の頭を撫で続けていたものだ。
このやり取りを交わしていく内にも、自分らは荒巻らの下に到着した。
合流したこちらに、荒巻、ユノ、メー、レダが振り向いてくる。そしてホステスらがそれぞれの調子で「お疲れ様」と挨拶を口にしてくる中、荒巻はこちらと目が合うなり指をパチンッと鳴らしながら突拍子もなくそれを訊ね掛けてきたのだ。
「よーぅカンキちゃん!! 突然ではあるんだけどよぉ? ちょいとばかしオレちゃん達の話に付き合ってくんねぇかな?」
「えぇ、皆さんのお力になれるのならば是非……?」
「そうかいそうかい!! そいつぁ助かるぜ!!」
普段通りの陽気な調子で荒巻は喋っていくと、同時にして彼はこちらの肩に左腕を掛けてくるなり、口元に手をあてがいながら耳元でそれを問い掛けてくる。
「なぁカンキちゃん……オマエさんも好きだよなぁ? バニーガール……」
「え? バニーガール……??」
あまりにも唐突すぎる同意を求められ、自分は堪らず呆然としてしまった。
この様子に、ユノは鼻でため息をつきながら荒巻へと言葉を投げ掛ける。
「オーナー、柏島くんを困らせないでちょうだい。彼は私達にとって最も大切なお客様よ。彼を困らせることそれ即ち店の恥であることを知りなさい」
「んまぁいいじゃねぇかこれくらいよぉ? ってなこった。ななっ、カンキちゃん。やっぱオマエさんもバニーガールが好きだろ? なぁ??」
「そ、そうですねー……何と言いますか、嫌いではない、です……?」
「だろぉ?? やっぱ男って生き物はバニーガールに魅了されるようにできてる生き物なんだよなぁ!!!」
途端にしてハイテンションになった荒巻。彼の言葉に尚更と状況を呑み込めずにいた自分が首を傾げていくと、こちらの様子にメーがそう説明してくれたのだ。
「あは、案の定困っててほんとウケる。あのねカンキ君、私達は今、お店でやる次の企画について話し合っていたところだったんだよ」
「お店でやる次の企画? あー……そういえば前に、シャンパンフェスとかやってたっけ?」
「そーそー! そんなかんじで、店では定期的にちょっとしたイベントを開催したりしててさ。今も、次はどんなイベントをしようかーって談義をしてたところだったんだよね」
「なるほど。……ん? でもそれじゃあ、それとバニーガールってどんな関係が……?」
尚更とよくわからなくなった。
顎に手を添えながら天井を見遣った自分。これに対してレダがそう答えてきたものだった。
「次のイベントでね、一時的にわたし達の衣装を変えてみない? って話が出てきたのよ~」
「一時的にホステスの衣装を変える? えっと、それってつまり……そのイベント期間中はタキシードじゃない格好で接客するってことなのかな……?」
「ウフフ、呑み込みが早くて助かるわぁ。そう、わたし達の衣装を一時的にタキシード以外のものにしてみないかって案が出てきて、これにみんなが賛成したからその内容について考えていたところだったのよ」
レダの説明に「なるほど」と納得した自分。
と、直後にも再びこちらの肩に左腕を掛けてきた荒巻。その百八十八の高身長からなる身体が圧し掛かってきた衝撃に思わずフラついていく中で、荒巻は陽気な調子でひたすらに同意を求め続けてくる。
「まぁそういう話なモンだからよぉ、なぁカンキちゃん、オマエさんもみんなのバニーガール姿を拝んでみたいと思わないモンかね??」
「な、なるほど……みんなのバニーガール姿、ですか……」
荒巻にそそのかされるように周囲の面々を見遣っていく自分。
……あーーー、見てみたいかもー……。美女が揃う光景に心が揺らいだ自分は静かにその日を楽しみに思えてしまえたものだった。尤も、こちらの視線を受けたミネは、軽蔑するような目を向けて「……最低」と呟いてきたものでもあったが。
また、こちらの真横では確信めいた表情でニッと笑んでみせた荒巻。そんな彼に対してユノはジッとした目を向けていくと、しかし寛容的な声音で凛々しくそれを口にし始めてくる。
「……バニーガールは有力な候補の一つでしょうね。衣装の雰囲気と、キャバレーという色気を伴う店の形態と噛み合っているところが評価できるわ。尤も、これを提案したのがオーナーであることに不本意極まりなく思うものだけれども」
「ふっふっふ……。オレちゃんだってなぁ、伊達にキャバレーのオーナーをやっているわけじゃないのよユノちゃん」
「貴方の場合は店の利益やお客の反応を鑑みての提案ではなくて、ただ単純に自分が見たいから提案しただけに過ぎないでしょう。勝手なエゴを持ち出しておきながら何を得意げになっているの。寝言は寝てからいいなさい」
「ぐほぁっ!! なんてパンチの利いた返答なんだ……っ!! この容赦ない辛辣さがまた、オレちゃん最高に堪らない……ッ!!」
「…………」
オーバーリアクションで仰け反りながら先のセリフを口にした荒巻。それにユノが冷ややかな視線を向けて心から蔑んでいくと、彼女はすぐにも切り替えるように目を瞑ってからこちらへ振り返り、凛々しいサマでそう訊ね掛けてきたのだ。
「それで、柏島くん。オーナーの提案とはまた別にして、貴方からも意見をうかがいたいと思っていたのだけれども、もし柏島くんが良ければ今この場で貴方の意見を求めてもいいかしら?」
「あハイ、俺の意見ですか。そうですね……お店の利益やお客の反応ですか……」
「どんなものでも構わないわ。柏島くんは来店するお客様の立場にあるものだから、私達のような店の従業員にはできない、客目線の柔軟かつニーズに合った発想なんかが思い浮かんでくるかもしれないわね」
そ、そう言われるとプレッシャーになるんですけど……。
これを悪気なく、純粋な期待の面持ちで訊ね掛けてくるユノであるからこそ、自分は余計に緊張を伴いながら真剣に思考を巡らせたものだ。
……皆からの視線が注がれる中、暫し思考に耽って無難な返答を考えていく。
と、ここで自分は周囲の顔色をうかがうようにしながら恐る恐る言葉を口にした。
「……お店の雰囲気に合うかは分かりませんが、メイド服とかどうでしょうか……?」
メイド服という提案に、ラミアとメーが食い付きの良い反応を見せてきた。レダなんかは「あらぁカンキ君、そういうのがお好みなのかしらぁ?」と新しい玩具を見つけたかのような眼差しを向けてきて、ミネは「……アンタ、そういう趣味あるの?」と引き気味な調子でうかがってくる。
これ、何が正解だったんだろ……。
悶々とする内心の中、ユノは数回と頷いてからそれを問い掛けてくる。
「柏島くん、もし貴方が良ければなのだけど、その案を出すに至った理由や経緯なんかも説明してもらえるかしら? もちろん、言語化できる範囲で構わないわ。こういうものはフィーリングも重要ですもの」
「一応、説明はできます。まず、キャバレーなどのお店に訪れるお客様は主に、可愛い女の子に接待してもらいたい方々だったりすると思うんです。それで、そういう方々ってきっと、人と会話したいという気持ちであったり、人と楽しく過ごしたいって願望があると思うんですね。で、人間その考えに至る時って大体が寂しい気持ちの時であったり、心が疲れてしまっている時だと思うんです。主に俺がそうだったんですけど」
「えぇ、続けてちょうだい」
「あぁハイ。それでですね……そんな、気持ち的にもしんどくて、なんだか疲れちゃったなぁって思った時にメイド服の可愛い女の子に出迎えてもらえたら、なんだか嬉しいなって。そう思えただけ……です」
「ふむ」
「まぁ、これでは実質メイド喫茶のようなものになってしまうかもしれません。ですが、お酒が飲めたりショーを楽しめるメイド喫茶と考えますとそれはそれで珍しい形態かと思えますし、普段はタキシード姿でビシッと決めているホステスさん達が可憐なメイド服を着ているっていうギャップなんかも、俺のような常連客からしたら最高だなって思います。やっぱこう、新鮮さも欲しくなってきますよね」
無難な返答はできたのかな。ひとまずの安堵でホッと一息をついていく自分。
で、こちらの提案を聞いていたユノがひとり頷きながらメモ帳につらつらと文字を記入していくと、しばらくして彼女は顔を上げながら凛々しいサマでそうお礼を述べてきたものだ。
「来店客の立場から見た視点と、現実的な仮装の提案。それに、他企業との差別化点や、個人の主観を交えた一客としての率直な感想。……いいわね。これくらい本人の意図が明確になっていると、採用した際のイメージがつきやすくてとても助かるわ。柏島くんのような返答を期待していたのよ。さすがは柏島オーナーの息子さんね」
と言いながら、ユノは荒巻を見遣っていく。その視線に対して荒巻は陽気にニヤつきながら手を振ってきたものであったから、ユノは頭痛を伴うかのように頭を押さえる仕草を交えてから再びこちらに向き直ってきた。
「柏島くんの提案も、候補の一つとして検討するわ。急なお願いだったにも関わらず、オーナーのお手本になるような回答をしてくれて本当にありがとう。おかげさまで助かったわ」
オーナーのお手本に、の部分だけ強調しながら感謝を伝えてきたユノ。
尤も、彼女の言葉に続くよう口を開いた荒巻は、「そいつぁ名案だなぁカンキちゃん!! だったらよぉ、いっそのことバニーガールとメイド服の両方を採用しちまえばいいんじゃねーか!?」と得意げに喋り出してきたものだったから、ユノは諦めたような調子で「……検討するわ」の一言を告げたのであった。
業務終わりの
仮装するイベントの話の後にも、今日の業務で起きた出来事なんかを皆で交わし合う和気藹々としたその空間。他のホステス達も通り際に会話に参加してきたりなどの和んだ様子を自分は見ていると、ふとレダの表情が変化したことに気が付いていく。
共にして、周囲を見渡すような素振りを見せた彼女。これに自分が「レダ、どうしたの?」と訊ね掛けていくと、次にもレダは真剣な声音でそう喋り出してきたのだ。
「……知らない靴音。ねぇ、誰の足音……!?」
どこか焦りさえもうかがわせたレダの反応に、皆が彼女に注目した時のことだった。
エントランスに繋がる廊下から響いてきた、カツカツというヒールのような靴の音。それへと一同が振り返った頃には、“その人物”は既にこちらの近くにまで歩み寄っていたものだ。
それは、ヒール込みで百六十八ほどの身長である女性。活気に溢れた活発的な表情が印象に残る彼女は緑色のキャップを被っており、活力でキラキラさせながら見開いた黒色の目と、膝丈まで伸ばしたミルクティーベージュの長髪を低い位置で結んだツインテールにしてあるその容貌。
服装は、膨らみのある緑色のパーカーをだらしなく着こなすことで肩を出しており、へそ出しで背中の開いた黒色のキャミソールを着用している。また、青色のホットパンツのボタンを敢えて開けておくことで黄色のショーツをチラ見せする大胆なコーデをしており、薄い黄色のヒールサンダルと、首に掛けた緑色のヘッドフォンというその外見でこちらに姿を現してきていた。
右手には大きめのタブレットを持ったその佇まい。そして直にも彼女は流暢な方言でそう喋り出してきた。
「いやぁ~、実際に来てみるとめっちゃ派手な内装やねー!! どこを見渡してもギラッギラしとんのがまたザ・キャバレーってカンジやなぁ!!」
挨拶代わり、とも言えるのだろうか。それを口にしながらニカッと笑んで左手を振ってきた彼女。その素性の知れない人物に、ラミアとメーがこちらと遮るよう自分の目の前まで歩いてくる。
こちらの命を狙う刺客かもしれない。この警戒からレダもまた注視する様子を見せていき、ユノは付近のホステスへと目配せを行っていく。ミネも不審に思う素振りで首を傾げていく一方で、荒巻は彼女のくびれに「ほほぉ……」と注目していたものだったから、これにユノは呆れた表情を見せた後に侵入してきた彼女へと言葉を投げ掛けていった。
「お嬢さん、もしもお客様としてご来店なさったのでございましたら、生憎ですが本日の営業は終了したため後日改めてお越しいただけますと幸いです。しかし、お嬢さんの目的がそれ以外であるのならば……店内の警備や監視カメラの目を潜り抜けてここまで辿り着いた貴女という存在を、我々は侵入者と見なさざるを得ないことになるわ」
丁寧な対応を交えながらも、凛々しいサマから繰り出される威圧の眼差し。声も低いユノのそれに、女性は繕ったような仰天を行いながらこう返答してきたのだ。
「おーおー、なんやおっそろしい!! その迫り来る気迫、さすがは“龍明の女帝”って言われとっただけはあるなぁ。せやけど、そんな目で見んとってなー。ウチは別に、みんなが思うほどの怪しいモノやないで!!」
龍明の女帝。この言葉にユノは一層と警戒する目を向けていく。
尤も、その女性はユノからの鋭利な視線を気にすることもなく、むしろ右手に持っていたタブレットを操作しながらそう話し始めてきたものだ。
「ただなぁ、ウチのような“ハッカー”に容易く侵入されるようなザル警備の自分らがいけないんちゃうか? 特に自分ら、裏の連中に目をつけられとるのに、コンピューター関連のセキュリティがごっつ甘いで。まぁウチにかかればどないなコンピューターも簡単にハッキングできるけどな。それにしてもこんなセキュリティじゃ、自分らが“知られたない思う連中”にも情報が筒抜けになるで」
活発的でありながらも淡々と喋る彼女は、何気ないサマでそのタブレットの画面をこちらに見せてくる。
そこには、店内の様子を映し出した複数の映像が流れていた。その色合いが若干とモノクロ調であることだったり、今も自分らと謎の女性が映し出されている様子から鑑みて、この映像は
そのリアルタイムの映像が、彼女が持つタブレットの画面に収まっていたのだ。
これに一同が息を呑んでいく。そんなこちらの反応に女性は得意げな表情を浮かべていくと、次にも彼女はユノを見遣りながら言葉を投げ掛けてきた。
「どうや? ウチのハッキング能力、中々やろ? できることはハッキングだけやないで。ウチはITにも強いから、接客だけやのうてエンジニアも担当できると思うねん」
「……実践も兼ねることによって、自身の能力も証明していく。貴女の主張で、ここに訪れた大方の意図は汲み取れたわ。貴女、この店の従業員になることを希望しているのでしょう」
「あぁ大体そんなかんじや!! 自分、呑み込みが早くて助かるわぁ!!」
彼女の返答に警戒の視線を向け続けるユノ。だが、その彼女は眩しいほどのニカッとした笑顔を見せながら指を差してくると、見せていたタブレットを下ろしながら帽子の位置を直す仕草を交えつつその言葉を口にしてみせる。
「ハッキングのついでになぁ、この店のコンピューターに記録されていたデータを全部抜き取ったりもしたんや。ほんでそのデータを一通り拝見してみたら、この店におけるスタッフの採用条件が、犯罪経歴があることとか書いてあるやんか。それやったら、ウチも犯罪ができることを証明せぇへんといけないやん? せやから、ハッキングっちゅうウチの十八番でアピールしてみたんや。どうや? ウチもこれで合格やろ? ウチもこの店の従業員になれるやろ? な??」
「待ちなさい。貴女、今、店のコンピューターに記録されていたデータを“全部抜き取った”と、そう言ったわね?」
彼女のアピールなんて二の次。それ以上に聞き捨てならない言葉を耳にしたユノが、凛々しいサマでありながらも真剣な声音で彼女へと問い掛けたものだ。
これに対してハッカーの彼女は、「そうやでー」と軽い調子で答えながらそう喋り出してくる。
「いやぁー、採用試験の参考にと思うて、つい拝見してもうた! ほんなら、この店に勤める自分らの知られたない個人情報がぎょうさんと載っとったりしとってなぁ。自分らの濃厚な経歴にほんま仰天したでー。この店、元銀嶺会直系葉山組組長やった女帝のネーチャンがおったり、三桁は確実に殺っとる一流の殺し屋ボーイなんかもおったりするし、ほんで、かの柏島長喜の息子となる“カレ”っちゅう存在も関わっとるときた。特にウチ、柏島長喜の息子っちゅうカレにごっつ興味を惹かれたわぁ」
そう言って、こちらを真っ直ぐと見つめてきた彼女。
目が合った。そう思った直後にも、ラミアとメーが守るように立ち塞がってくる。これにハッカーの彼女は冗談めいた調子で「ごめんてごめんて!」と笑い飛ばしていくと、すぐにもユノを見遣りつつ話を戻してきた。
「ほんで、ウチも採用になるやろ? そこんところ、どないなっとる? 次は契約書でも書かされるんか?」
「犯罪経歴や技術は申し分ないでしょうね。これで接客もこなせるのであるならば、即戦力も期待できるでしょう」
「やったら、ウチもこの店の従業員にー」
「でも、貴女という存在は未だに得体が知れないわ。我々はまず、対象の素行調査を不備なく済ませた上で採用面接を行うという慎重な手順を踏んでいるの。その素行調査を済ませていない素性の知れない人間を即決で採用するわけにはいかない。それは、雇用する我々にとっての多大なリスクになり得るからよ」
ハッカーの彼女から寄せられる期待の眼差しに反して、冷静な声音でその説明を行っていったユノ。そんな彼女の隣では荒巻が腕を組みながら「うんうん」と頷いていたものだ。
こりゃもう、どっちがお店のオーナーなのか分からないな……。
内心で汗を流した自分。だが、ユノの説明にハッカーの彼女は、失望感に満たされた残念そうな表情を見せながらユノとの会話に臨んでいく。
「なんや、すぐホステスになれるわけとちゃうんか。オマケに、素行調査とやらも必要ときた。まぁ、自分らの店の方針は理解したで。やけど、素行調査は絶対にさせられへん」
「素行調査を拒む限りは、貴女を
「そんなん、ウチの正体が知れたらそれこそ、自分らはウチのことを目の仇にしてくるからや」
「それじゃあ尚更、貴女という存在を迎え入れるわけにはいかないわね」
突き放すように言い切ったユノ。それを前にしてハッカーの彼女は『困ったなぁ……』と言わんばかりの顔をしてみせると、ふと何かを閃いたように目を見開いてくるなり、ユノの顔色をうかがいながらそれを喋り出してきたのだ。
「……なぁ自分。今、自分らがどんな立場に立たされとるか自覚あるんかいな?」
「…………」
「おっ、イタいとこ突かれた顔をしたな? せやで、ウチは今、“自分らの機密情報”を掌握しとるんやで? せやから、今ここでウチを門前払いしたらどうなるかわかっとんのか?」
「脅迫しても無駄よ。貴女は既に籠の鳥。貴女に逃げ道なんて用意されていないわ」
「素直に返すつもりもないっちゅうことやな。なら好都合。実はなぁ、ウチのアクセスが一時間途絶えた瞬間にも、自分らの情報がネットの海に放流されるプログラムを仕組んであるんや。あー、無暗に解除を試みようとするのはやめとき。間違ったパスワードを一度でも打ち込むと、その瞬間にも放流される仕組みになっとるし、パスワードを吐かせるべくどんな拷問を仕掛けてもウチは絶対に口を割らへん。だって、一時間耐え凌ぎさえすればウチの勝ちやさかい、どんな生き地獄を見せられたとこでウチの勝ち逃げ確定や」
……あれ、実はお店の危機だったりする……?
裏社会と通ずる店の実態。それを人質のように振りかざされた今の状況に自分は、最大のピンチを感じ取っていく。
もちろんこの危機感を抱いていたのは自分だけではなく、ラミアやメー、レダやミネ。また、周囲で様子をうかがうホステス達や、荒巻やユノまでも冷や汗を流していたその様子から容易に察することができたものだ。
四方八方から注がれた突き刺さる視線。だが、それらに囲まれてもなおハッカーの彼女は確信めいた笑顔を見せてくると、次の時にも余裕ある佇まいでユノを見遣りながら、左手の人差し指を立てつつその言葉を投げ掛けてきたのであった。
「ウチからの条件は一つだけや。それは、今この場でウチをホステスとして雇用すること。ほしたらウチ、自分らの機密情報を返したる。だって、身内を苦しめるわけにはいかへんからなぁ。それに、ITに強いスタッフも新規で加わるんやで。ハッキングもできて、接客もできる。なぁ? バリバリの二刀流で心強いことこの上ないやろ? 今日の仕打ちの罰として、ウチのことをバシバシ使てもうてもかまへん。せやさかい、どうかウチをココで働かせてもらえへんか? なぁ、頼むで自分~」