俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
快晴となった空を見て、天気の心配が無くなった。
ミネとの同伴当日を迎えたこの朝。部屋の窓から眺める晴れやかな青空を見て、自分は内心でホッと息をついていく。
本当に良かった。本人は表に出さないよう平静を取り繕っていたものだったが、ミネ自身は遊園地に行くことをすごく楽しみにしていた様子であったため、自分としても当日の悪天候が何よりの懸念点として心配してしまっていた。
既に晴れやかとなったこの気持ちに、自分は自然と笑顔がこぼれていた。そんなこちらを見た寝間着姿のメーが、ベッドに寝転がった状態で言葉を投げ掛けてきた。
「見事な快晴だねー。ミネちゃん、今日をすっごく楽しみにしてたみたいだったから良かったよ」
「ね。予報じゃあ降水確率五十パーセントとか言われてたから、それがもう不安で不安で仕方無かったんだ……」
「ミネちゃん、毎日のように遊園地のことを話したりしてて、ほんとに楽しみにしてたのが私達にも伝わってきてたからねー。これの何が面白いって、本人はそのワクワクを上手く隠し通せてると思い込んでるところ。不良っぽい態度で例のお姉さんの真似をしているんだろうけど、中身はほんとに純粋な女の子だよねぇ」
と、捲れたシャツから腹とへそを出しながら喋るメー。片手には音ゲーを起動させたスマートフォンを持っていて、髪も解いたその長髪で勝気な表情を見せてくる。
まぁ、確かにミネは純粋無垢な女の子だな……。と、メーを見てそう思った自分が彼女へと視線を投げ掛けていると、洗面所の方からは寝間着姿のラミアが歯磨きをしながら歩いてきてそれを喋り出してくる。
「責任重大ですよーカンキさん。あれほど楽しみになさっていたミネさんの期待を、カンキさんは背負っているんですからねー」
「いやいや……そんな急にプレッシャーを掛けないで……」
「プレッシャーと言いますか、同伴に慣れてきたカンキさんに今一度と適度な緊張感を持ってもらいたいだけです。如何せんミネさんは、ホステスとして初の同伴に臨む新人さんなんですから」
「あー、確かにそうだね。同伴に慣れたあまりにミネへの配慮が欠けてしまったら、ミネが可哀相だ。ありがとうラミア。俺も初心に戻って、今日の同伴に臨むとするよ」
「まーそもそもとしまして、これだけホステスの立場で物事を考えられるお客さんもカンキさんくらいですからね。そんな、ホステスを道具のように扱う輩とは全然違うカンキさんが最初の相手というのも、ウチとしましては実践経験的に不安に思ったりするワケなんですけど」
「なんか、複雑な問題だね……」
ホステスという職業も、苦労が絶えないんだな……。
お勤めご苦労様ですと内心で呟いていく自分の脇で、上半身を起き上がらせたメーがあぐらをかきつつ勝気な目で言葉を掛けてくる。
「カンキくんー。今日の同伴で私達のミネちゃんを失望させたら、私達が許さないぞー?」
「なんか思い出したようにプレッシャーをかけてきたな……」
「ミネちゃんは私達にとって弄り甲斐のある有望な後輩なんだぞ! だから、今回の同伴でお店辞めるなんて言ったらカンキくんのこと許さないからなー?」
「有望の基準が弄りやすさってのがね……」
見ていて飽きない、という点では同感だけども。という思いと共にして、歯磨きをしているラミアが適当な調子で「本人の意思とは裏腹に、ミネさんは生粋の愛され体質ですからねー」と言ってくる。
こんな会話をしていると、不意を突くように部屋のインターホンが鳴らされた。
響き渡ったそれを受けて、玄関先の映像を確認する自分。そうして映し出されたミネの姿を見てから、自分はラミアとメーに言葉を告げながら玄関へと歩き出していった。
「ミネが来たから、俺は行くよ。ラミアは昼からのシフト頑張ってね。メーはせっかくの休日だからしっかり休んで。じゃ、そういうことでまた」
ラミアとメーに見送られながら、自分は玄関の扉を開いてミネとの合流を果たしていく。
インターホンを鳴らした少女が玄関先で佇んでいたその様子。だが、そこでこちらを待っていたミネの姿は、普段着とは異なるコーディネートが施されていた。
白色のジャンパーに、襟付きの黄色いニットベスト。白色のミニスカートに膝丈までの白色ブーツというその格好。また、提げている茶色のショルダーバッグは学校の鞄の要領で肩に掛けており、両手をジャンパーのポケットに突っ込んだ佇まいでこちらを見遣っている。
いつもの不機嫌そうな表情も、むしろチャームポイントと言えただろう。扉を閉めて少女を向かい合った自分はミネの格好を見て、その言葉を掛けていった。
「ミネ、とてもよく似合ってる」
「っ! だ、だから何……! わ、悪い!? アタシがこういう格好してちゃ……!」
「悪くなんかないよ。むしろ、ミネの新しい一面を見ることができて嬉しく思ってるよ」
「っっ……!!」
不愉快そうな表情を作ろうとしながらも、恥ずかしさが滲み出た顔の歪みで赤面していくミネ。そしてプイッとそっぽを向いて暫し沈黙していくのだが、次にも少女はこちらの顔をうかがうように視線だけを投げ掛けながら喋り出していく。
「……行くなら早くいこ。遊べる時間が減っちゃうから……」
「そうだね。ここで立ち話するよりも、歩きながら話そっか」
「……うん」
ムスッとしながらも、素直に頷いてくるミネ。そうして自分が歩き出していくと、ふと少女は「っ、ねぇ!」と唐突に呼び止めてきた。
振り返るこちらへと、ミネは気まずそうな目で話してくる。
「……今日は、その。……で、デート、みたいなもん、でしょ……? 一応……」
「まぁ、名目としては同伴という
「……じゃあ、さ。今日のアタシは、その。ほ、ホステスとしてのアタシじゃなくって、普段のアタシとして見てくれると、う、嬉しいな、って……」
「??」
最初は、少女の言葉の意味を理解することができなかった。しかし、ホステスとしての自分じゃない、普段の自分を見てもらいたいという意図から、自分なりに意味を解釈してその言葉を掛けていった。
「分かった。それじゃあ今日は、ミネじゃなくて蓼丸菜子とお出掛けする感覚でやっていくとするよ。そういうわけで行こうか、
「! ……うん!」
いま目の前にいる少女は、ホステスのミネではなく親戚の蓼丸菜子だ。
こちらから差し出した手を取った菜子は、本人の意図しない満面の笑顔に満ちていた。だからこそ自分はこの娘を守りたいと思えてしまったものだし、これから望む同伴兼デートにおいても、少女が満足できるお出掛けにしたいとも誓えたものだった。
目的地に到着した現在でも、快晴の天気は健在となっていた。
晴れやかな青空の下、活気と感動で賑わう遊園地の入り口まで訪れた自分と菜子。さながら夢の国とも呼べるだろうアトラクションに富んだテーマパークを前にして、隣の少女は瞳を輝かせながら歩いていた。
最も信頼していた姉の失踪以来、ずっと孤独感と戦ってきた子だ。だから、年相応の遊びに憧れていたのであろう菜子の様子に、自分が先導する形で共に遊園地へ入っていく。
今も目の前に広がる、ファンタジー世界に迷い込んだかのような建物や花壇の光景。流れる音楽もファンシーで可愛らしくも夢と希望を与えてくれるような明るい曲調であり、それらに迎え入れられた菜子は思わず感極まって硬直してしまっていた。
あ、泣きそうなのを我慢しているのかな。傍から見て感じた少女の様相に、自分は菜子のペースに合わせる形で遊園地を巡っていった。
メリーゴーランドやジェットコースターなどの豊富なアトラクションが稼働している景色を脇に、自分らは遊園地の空間を楽しむように園内を歩き進めていく。その間にも菜子が指差したものについての話を行ったり、園内を歩いているマスコットキャラクターとの写真撮影なども行ったりして、自分と菜子は大いに遊園地を楽しんでいた。
そうして巡っている内にも、自分と菜子は無意識にも手を繋いで歩いていたものだ。正確には、人混みに呑まれてはぐれないようにという意味合いを兼ねた手繋ぎであったのだが、それにしては自然な流れで繋いだ手であり、これに気が付いた自分はふと急に意識してしまって見遣ってしまう。
で、この視線に菜子は視線を下ろしていくと、ようやくと気付いた自分らの手に少女は目を真ん丸にしながら赤面していった。
……ファンシーな遊園地の中、二人の間に気まずい空気が流れ始める。だが、次にも菜子は取り繕った不愉快そうな顔でこちらを見遣ってくると、歯を食いしばりながら頬は赤らめたままのその表情で、視線を逸らしながらボソッとそれを喋ってきたものだった。
「…………で、デート、だもんね。そうだよ、だって、これはデートなんだもん……っ」
「……自分に言い聞かせてる?」
「う、うっさいなっ!!!」
グイッ、と引っ張られた手。突然の力に自分は体勢を崩すようによろけていくと、そんなこちらにお構いなしといった具合に菜子は歩き出して振り返ってくる。
「い、いこ!!! まだアトラクションに乗ってないもん!!! こんなことで時間を無駄になんかできないしっ!!! 早くして!!」
「お、おっけおっけ!! わかったから引っ張らないで!!」
菜子ちゃん、意外と力が強いんだよなぁ……。
青年の図体をも引っ張る腕力に、内心で呟きながら少女に追い付く自分。それと共に二人で歩き始めていき、目についたメリーゴーランドの列に並んで順番を待っていた時のことだった。
二十分待ちの行列で佇む自分らが、あともう少しでメリーゴーランドに乗れそうだというその場面。マップを手に持つ自分が、次はどのアトラクションに行こうかと話している最中にも、その少女の顔色が急に悪くなっていたことに気が付いていく。
浮かない表情というよりは、何かを我慢しているかのようなやつれた感じの顔。これを見て自分は「だ、大丈夫……?」と声を投げ掛けていくと、こちらの声に菜子は青白い顔でそれを喋り出してきたのだ。
「き、気持ち悪い……っ」
「え、気持ち悪い? だ、大丈夫!? 具合悪くなっちゃった!?」
「は、吐きそうかも……っ」
「まずいな……! 急いで救護室に向かおう!! 歩けそう!?」
「でも、せっかくここまで並んだのに……」
「菜子ちゃんの体調が最優先だって!! 別に、また列に並べばいいだけだし、何なら後日また此処に来ればいいだけなんだから、今は菜子ちゃん最優先で動くよ!」
「うぅ……っ」
やつれた表情で眉をひそめる菜子の手を引き、自分は列から抜け出して少女と園内を駆け回っていく。
それから無事に救護室へとありつけた自分らは、菜子の体調が落ち着くまで暫しそこに滞在することとなったのだ。
昼下がりの遊園地にて、レストランのテラス席で遅めの昼食をとっていた自分と菜子。二人でカレーライスを頼んでいたこの状況で、菜子は申し訳なさそうな顔をしながら俯いていた。
食が進んでいない様子から、自分は顔色をうかがうように菜子へと訊ね掛けていく。
「大丈夫? まだ体調が良くなっていないなら、遠慮せずに言って?」
「う、ううん。もう平気、大丈夫だから……」
とても落ち込んでしまった少女に、自分は少し間を置いてから話し出していく。
「まぁ、ひとまず何ともなくて安心したよ。体調を崩した原因が、“遊園地が楽しみすぎたから”っていうことも解ったもんだし、ちょっと張り切りすぎちゃったかもしれないけれども、これから一つずつゆっくり楽しんでいけばいいだけの話だからさ」
「…………アタシ、ホントにダサいよね……」
「ダサくなんかないよ。経緯としては楽しみすぎて体調を崩したってものだったけれど、高揚感から来る緊張で吐き気を催したって話だったから、緊張で吐き気がするなんて誰にでも当てはまる事柄なんだし、気にしなくても大丈夫な事だと俺は思うよ」
「…………ありがと」
ボソッと呟くように口にしたその言葉。少女からのそれに自分は微笑んでみせると、菜子は顔を上げてくるなりこちらの目を見据えながらそれを喋り始めてくる。
「……こんなに色々してくれてるのに、それでもアンタ呼びなのは失礼だよね」
「菜子ちゃんが呼びたいように呼んでくれればいいよ。そこは強要させたくないから」
「そういうとこ、ホントにズルい」
「え、ズルいこと言ったかな……。気を悪くしたのなら、ごめん」
「……別に」
口を尖らせて、そっぽを向いた菜子。少女の様子に自分は頭を抱えていく中で、菜子が再び向き直ってきてそれを話し出してくる。
「……柏島、だよね。苗字」
「そうだね。柏島」
「じゃあ、カッシー」
「カッシー?」
「ニックネーム。いい?」
「いいね、カッシー。どこかのご当地マスコットキャラクターの名前みたいで気に入ったよ」
「なにそれ。変なの」
その時にも、菜子は呆れたサマでフフッと微笑んでみせた。
不良っぽい見た目の少女が見せた、心からの純粋な笑み。これまでにも、不愛想な表情にもどこか愛らしさをうかがわせていた少女の表情だったが、今この時にも見せてきた菜子の笑みは、天真爛漫とも言える穢れ無き生粋の笑顔であったとも言えた。
菜子ちゃん、そういう顔もできるんだ。
呆れ気味に眉をひそめながらも、自然に吊り上げた口角と柔らかい微笑み。それはまるで清純を司る精霊が降臨したかのような清く美しいものであり、可憐でありながらも健気な振る舞いのように見えて尊く思えてしまえる。
少女の表情に見惚れるような視線を送ってしまっていた自分。そんなこちらの視線に、菜子は頬杖をつきながら不機嫌そうに「……何?」と言葉を投げ掛けてくる。
それに対して自分は「いや、今の菜子ちゃんすごく可愛かった」と、素直な感想を口走ってしまった。すると菜子は一瞬だけポカンと呆気にとられるなり、すぐにも不愉快そうな顔を繕って「なにそれ。なめないで」と静かな怒りを込めた低音ボイスで言葉を返してきたものであった。
それからというもの、体調が回復した菜子は吹っ切れたように大はしゃぎで遊園地を巡っていた。
先ほど乗れなかったメリーゴーランドを楽しんだ自分らは、その足でジェットコースターやウォータースライダーへと赴いた。そこで菜子と一緒になって声を上げたりなど自分も大はしゃぎでアトラクションを楽しんでいく中で、自分は菜子との距離感が縮まったことを実感していく。
また、中央のハンドルで回転するコーヒーカップでは、自分と菜子は全力でそれを回していた。おそらく周囲で一番回転していただろうそれに乗っていた自分らは、しばらく動けなくなるほどのめまいで従業員に心配されてしまったものだ。
続けて赴いたお化け屋敷では、菜子が終始と悲鳴を上げながらこちらに引っ付いてきた。その際にも少女は不愛想を取り繕う余裕もなく、ずっと泣きそうな顔でこちらを見遣ったりしていた。
また、遊園地の中で行われるショーを菜子と一緒に眺めていき、踊っているキャラクターに興味津々な少女を写真に収めたりなどしてこのひと時を存分に楽しんでいった。
そして、夕暮れを迎えた時刻。沈み始めた夕日を背景に観覧車に乗っていた自分らは、ようやく落ち着いたと言わんばかりに疲労感を滲ませながらも、頂点から拝む景色に見惚れていた時のこと。
あとは、お土産を見て帰るだけかな。そう思いながら景色を眺めているこちらへと、向かい側に座る菜子が微笑混じりに言葉を投げ掛けてくる。
「あーあ、毎日がこんなに楽しければいいのに。また明日からいつものつまんない日常が始まっちゃう。こんなに楽しい時間がずっと続けばいいのになぁ」
「たまに遊びに来るからこそ楽しめている、とも考えられるかもよ」
「カッシーってポジティブだよね。生きてて苦しいとか思ってなさそう」
「ポジティブに考えないとやってられない時もあるからね」
「ふーん。まぁいいけど」
だいぶ柔らかい対応を取るようになった菜子の調子に、自分はちょっと新鮮に感じて少女の方へと向いていく。
で、そこに映っていたのはおもむろに脚を開いて座っていた菜子の姿だった。少女はミニスカートという勝負服をしていたために、自分は指差しながら指摘していく。
「菜子ちゃん。脚」
「え? ……あっ」
サッと脚を閉じていく菜子。共にスカートも押さえるようにして、赤面しながら上目遣いでこちらを見遣ってくる。
「……見えた?」
「ちょっとだけ」
「…………サイアク。お嫁にいけない……っ」
「大丈夫だよ。これから意識していけばいいって」
「…………」
気まずいというよりは、ちょっと悶々とする空間であったことは否めない。
心なしか、高揚感を覚えてしまった。
尤も、相手は親戚の高校生。この気持ちに自分が気恥ずかしくなってしまって視線を逸らしてしまったその中で、菜子はとても穏やかな声音でそれを喋り出してきたのだ。
「……この服ね、ユノさんと一緒に見に行って買ってきたんだ」
「ユノさんと一緒に見てきたんだ。あの安心感は尋常じゃないよね」
「わかる。すっごく不安に思うことも、ユノさんと一緒だとできる気がしてくる。服選びだってそうだったんだ。アタシ、コーディネートとかに疎くて、同伴の時の服装に悩んじゃってた。でも、そんな時にユノさんが付きっ切りになって一緒に考えてくれて、一緒に見に行ってくれて、親切にアドバイスしてくれてた」
頂点にいた地点から、段々と下がり始めた観覧車。同時にして夕日も沈んできた暗闇を二人で迎えていきながら、それを背景に菜子は喋り続けていく。
「……カッシーは知ってた? ユノさん、お姉ちゃんと付き合ってたんだって」
「詳しくは知らなかったけど、そうらしいよね」
「でもね、ユノさんとお姉ちゃんの関係、なんか変だったんだよ」
「変だった?」
「付き合っては別れてを数え切れないほど繰り返したんだって」
「確かに、世間的にはあまり聞かない付き合い方だね」
「ね。お互いに他の人と付き合っては、そこと別れたらまた二人で付き合い始めて、で、また別れたらお互いに違う人と付き合い始めて、またそこで別れたら二人で付き合って……ってことを繰り返してたみたい」
「なんというか、互いを信頼しているからこそできる自由な付き合い方だよね」
「お姉ちゃんは男の人と付き合ったりしてて、ユノさんはその時からビアンに目覚めてたから女の人と付き合ったりしてたみたい。てか、ユノさんがビアンに気付いたのはお姉ちゃんの影響だったらしいし」
「ヒイロ姉さん、周囲へ与える影響が本当に大きい人だったなぁ。まぁ、良い意味でも悪い意味でも……」
菜子と共通する話題に耽る自分ら。だが、そこで菜子は俯き気味にそう話し出してくる。
「……アタシは、そんなお姉ちゃんのことが大好きだった。ろくでなしの両親とは違ってお姉ちゃんは誰よりも義理堅くって、行動力や発想力が豊かで、小さかったアタシをずっとずっと楽しませてくれてた。アタシにとって唯一の家族とも言える存在だったから、アタシ、お姉ちゃんのようになりたいと思って、お姉ちゃんを目標に頑張って生きてきたんだ」
……震え始めた少女の両手。共にして肩も震わせていくと、次にも菜子は大粒の涙をボロボロと零していった。
「っ……お姉ちゃ、ん。お姉ちゃんっ……会いたいよ……っ。何処に行っちゃったの……っ。アタシを置いてかないでよ……っ」
「菜子ちゃん……」
静かに少女の傍に移動する自分。そして号泣する少女の背をさするようにしながら、暫しと菜子を慰めていったのであった。
虫の声が心地良い夜の龍明。閑静な住宅街を歩き進める自分は、眠りについた菜子をおぶった状態でアパートへの帰宅を果たしていく。
そして、菜子が住む部屋のインターホンを鳴らしていった。
間もなくして、扉が開かれていく。すると、いつもの私服姿であるユノが穏やかな笑みを見せながらこちらを迎え入れてくれたのだ。
「お疲れ様、柏島くん。彼女に代わって私から、心からの敬意と感謝を貴方へ送るわ。最後まで彼女の面倒を見てくれて本当にありがとう」
「いえ、親戚としての義務を果たしたまでです。菜子ちゃんをベッドまで運びましょうか?」
「貴方に手を煩わせるつもりは毛頭ないけれども、せっかくだから貴方のご厚意に甘えようかしら」
「遠慮は要りませんよ。では、少しだけお邪魔します。……そうだ、皆さんにお土産も買って参りましたので、ユノさんにもお渡しいたします」
尤も、土産の袋も手に提げていたために、自分は手間取りながら彼女らの部屋に上がったものだ。
初めて踏み入る二人暮らしの部屋。ピンク色のカーペットや水色のカーテンという可愛らしい女の子の部屋であるその内装もきっと、菜子の好みで選んだものなのだろう。
それらを横目に自分は菜子をベッドに寝かせて、ユノへと一礼してからそそくさと退散していく。だが、そうして玄関まで来た自分の背へと、ユノはその言葉を投げ掛けてきたのだ。
「柏島くん」
「はい、なんでしょうか」
「貴方に大変不便を掛けてしまうかもしれないけれども、もしも貴方の余裕が許してくれるのであるならば、これからも菜子ちゃんの世話と面倒を一任してもいいかしら」
その申し訳なさそうな表情も、凛々しく華麗に思えてくるユノという存在。相変わらず女神みたいな人だなぁという内心を抱きながらも、自分は即答するようにそう言葉を返していった。
「元からそのつもりでいました。菜子ちゃんは、俺にとっても数少ない身内の一人ですから。似たような境遇に置かれた親戚として、俺は菜子ちゃんの支えに全力を尽くしたいと考えています」
「心強いわね。さすがは柏島オーナーの息子さん。私にも手伝えることがあったら、遠慮なく声を掛けてちょうだい。私にとっても、彼女は特別な存在。……心から愛した人の妹さんでもあるのだから」
「むしろ、ユノさんに頼りっぱなしになってしまうかもしれません。まぁ、あれです。二人で菜子ちゃんを支えていきましょう」
「ありがとう、柏島くん。貴方という存在と巡り会わせてくれたこの運命に、心から感謝しなければならないわね」
「菜子ちゃんやヒイロ姉さん、そして俺の親父といった関係者との接点がありまくりですからね。ここまで来るともはや必然とも言えるかもしれません」
この時にも、自分も
明日からはまた、命を狙われるいつもの日常が始まる。しかし自分は、この理不尽で無情な世界を生き抜いてみせると改めて決意した。
これも全ては、ミネというホステスに。そして、菜子という一人の少女に人としての幸せを感じてもらいたいと願ったものであったから……。