※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第30話 L'obéissance ou la mort 《服従か死か》

 男性客の団体が愉快げに笑うLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の店内。

 

 夜の煌びやかな世界に、今日も訪れていた自分。それでもって、いつもの二人用の席でホステスを待ちながら水を飲んでいると、ふとドタドタ響き渡ってきた足音と共にして活発的な女性の声が投げ掛けられてきた。

 

「ニーチャァーーーンッ!!!」

 

 思わず振り返る自分。だが、その時には既に接近を果たしていた彼女は、次の時にも衝突する勢いでこちらに突っ込んできた。

 

 眼前の突撃に反して、上半身に巡ってきた衝撃は「むぎゅうっ」という熱烈なハグ。だが、抱きしめる力が強すぎる故に自分は「ぅげぇッ」と声を上げていくと、彼女はハッとしながら力を弱めて、流暢な方言でそれを喋ってくる。

 

「ああぁすまんなぁニーチャン!! ウチ、ニーチャンに会いたいっちゅう気持ちが抑え切れんくて、思わず突っ込んでもうたわぁ」

 

「しゅ、シュラ……! だよね……!? 名前……っ」

 

「せやでぇ!!! ウチのこと覚えててくれてありがとぉ!!! これは再会の喜びのハグやぁ!!」

 

 方言混じりでありながらも、甘えるような声音でギュッと抱きしめてくるシュラ。その経緯はハッキングによる脅しが発端ではあったものだが、今では彼女もLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に勤めるホステスの一員としてタキシードを身に纏っていた。

 

 黒色の正装に、緑色のシャツというイメージカラー。その身長はヒール無しで百六十三ほどのものであり、活力でキラキラさせながら見開いた黒色の目と、膝丈まで伸ばしたミルクティーベージュの長髪を低い位置で結んだツインテールが特徴的だ。

 

 以前にも店で問題を起こした彼女は、悪びれることもなく自身の頬をこちらの頬に擦り付けていた。そのあまりにも近すぎる距離感に自分は困惑していく中で、くっ付いていたシュラは引っ張られるように離れていく。

 

 そんな彼女の後ろには、襟を掴んで引き剥がしたタキシード姿のレダが佇んでいた。表情も呆れ気味とも言える困り顔でシュラを見遣っていると、直にもレダは息を切らした様子でシュラと会話を行っていく。

 

「ちょ、っと……!! 待ちなさいって……っ! ハァ、ハァ……っ、ねぇ、カンキ君との接触は禁止……!! まだあなたの疑いが晴れたわけじゃないんだから、いい加減に自重してちょうだい……っ!!」

 

「なんでやぁぁああ!!! なんでそないにウチを邪険に扱うんやぁ!!!」

 

「あなたの第一印象が最悪だったからよっ……!! ただでさえカンキ君は命を狙われているんだから、彼を不安がらせるようなことは控えてほしいんだってば……っ!」

 

「ぐぬぬぬぬぬぅ……」

 

 ぷくーっと膨らませたシュラの頬。だが、レダは揺るぎない断固たる意志で怒りの顔を見せ付けてきたことから、シュラは諦めたようにしょんぼりしながら向かいの席に座っていった。

 

 で、これに対してもレダから「なにしれっとカンキ君の接待をしようとしてるのよ」と突っ込まれる。それを受けてシュラは「ウチだってホステスなんやし、お客さんの接待をするのは当たり前やろ?」とケロッとした顔で答えていく。

 

 返ってきた言葉に、レダは頭を抱えながら「……じゃあ、わたしも付き添うから、そこで大人しくしていなさい」と言って他のテーブルから席を持ってきた。

 

 なお、レダの言動にシュラは不満そうな顔をしながら「闇医者のネーチャン過保護すぎんかー?」と口にしてくる。これを聞いたレダは、疲れた表情をしながら「あなた、自分の立場くらい認識したらどうなの?」と言ってイスを置いていたものだ。

 

 

 

 

 

 それから時間が経過して、場面は閉店した深夜の店前へと移っていく。

 

 Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の入り口付近で、他のホステスと会話を行っていた自分。三名の彼女らと軽い談笑を交わしていき、龍明の駅を目指して歩き出した彼女らへと手を振っていくのだが、ふと背後の気配に自分は何気なく振り返っていったものだ。

 

 すると、店の裏側から駆け付けてきた私服姿のシュラが、活力に満ち溢れた明るい顔で「ニーチャァーーーンッ!!!」と言葉を投げ掛けてきた。

 

 緑色のキャップを被っていて、だらしなく着こなした膨らみのある肩出し緑色パーカーと、へそ出しで背中の開いた黒色のキャミソール。ボタンを外して黄色のショーツをチラ見せさせた青色のホットパンツという大胆なコーデで、薄い黄色のヒールサンダルと、首に掛けた緑色のヘッドフォン、そして左手に携えたiPadという一式で彼女は真っ直ぐとこちらを目指してくる。

 

 うわ、また突っ込んできた。眼前の勢いに自分は思わず身構えていくのだが、直後にもシュラの背後からはレダの手が伸びてきて、彼女は襟を掴まれたことでその動きを急停止していった。

 

 引き留められたことで、両手と両脚をシャカシャカさせながらその場でジタバタしていたシュラ。そんな彼女に私服姿のレダが呆れ気味にため息をついていくと、こちらへと歩み寄りながらシュラへと言葉を掛けていった。

 

「あなた、カンキ君のことを相当気に入っているみたいだけど、だからって性懲りもなくずっと同じことを繰り返されたら、わたし達やカンキ君はただ困るだけなのよ……!」

 

「なんでやぁぁああ!!! もうそろそろウチのこと許してくれてもええやろぉ!? なぁぁ頼むでほんまぁ!!」

 

「誰もがあなたを信用していない以上、まだあなたのことを許せるわけがないじゃない」

 

「そんなぁ!!! 闇医者のネーチャンの意地悪ーーーっ!!!」

 

「いちいち闇医者って言わないでちょうだい!!」

 

 もはや見慣れてしまったそのコンビ。シュラの暴走を食い止めるレダという光景が日常にも思えてきた自分が汗を流していく中で、彼女らの下には凛々しいサマのユノが歩み寄ってくる。

 

 この気配に、レダとシュラは二人で振り向いていった。

 共にして、ユノからは「二人共、今日はお疲れ様」と言葉を掛けられる。その労わりに二人も「お疲れ様です」、「お疲れさーん!」と返事を行っていき、ユノは続けてこちらへと振り向いて微笑を浮かべてきたものだ。

 

「柏島くん。今日も私達を最後まで見守ってくれて、本当にありがとう」

 

「いえ、今日も楽しい夜を過ごさせてもらいましたので、むしろこちらがお礼を述べたいくらいですよ」

 

「貴方という大切なお客様にそう言っていただけることに、私達はこの上ない喜びを見出すことができるの。他に代え難いこの至高なる感情、光栄の限りだわ」

 

 穏やかな調子で、胸に右手を添えながらそれを口にしたユノ。これにシュラは首を傾げて「女帝のネーチャンの言葉、ウチにはようわからんわぁ」と口出ししたものだったから、レダは慌てるように「余計なこと言わないの」と言ってシュラを引っ張っていく。

 

 このやり取りを横目に、ユノはこちらへと訊ね掛けてきた。

 

「わずかながらの感謝の形として、今宵も貴方を部屋まで送らせてもらいたいのだけど、いいかしら?」

 

「お疲れのところすみません。今日もよろしくお願いします」

 

「気にしないでちょうだい。貴方という尊い命を守るためであるならば、私はこの命に代えてでも貴方を守護してみせるから」

 

 あ、相変わらずの重さだ……。

 いつものユノ節に、自分は言葉を詰まらせるようにしていく。だが、その脇ではシュラがまた「なんや、女帝のネーチャンはニーチャンに心酔してるんか??」と口出ししてきたものであったから、これにレダがまたしても「だから余計なことは言わないで」と焦り気味にシュラを引っ張ったものだ。

 

 尤も、シュラを気にする素振りなどは全く見せないユノ。しかし、次にも口にしたシュラの言葉には、ユノも反応を示すこととなる。

 

「んでんで、これからニーチャンのアパートに行くんか?? ならウチもついてくわぁ!!! な、な! そろそろええやろニーチャン!!」

 

 これにはレダ、「なに言ってるの。あなたはダメに決まってるじゃない」と言い聞かせていく。これにシュラは不服そうな顔で見つめ返していくのだが、一方でユノの「いいわよ」という快諾にレダは思わず言葉を投げ掛けていった。

 

「ちょっとユノさん!? あなたまで何を言ってるの!? こんな得体の知れない危険な人物を、カンキ君の部屋に上げるわけにはいかないわ!!」

 

「えぇ、多少の素性は既に判明しているものであるけれども、依然として得体が知れないことに代わりないわね」

 

「素性とかはわたし達は聞かされてないから何とも言えないけれど、だからって、どうしてシュラをカンキ君の部屋に上げるというの!?」

 

「理由は後々わかるわ。そういうことだから、彼女を彼の部屋に上げる代わりとして、私と貴女で柏島くんを付きっ切りで護衛する。いいわね?」

 

「っ……」

 

 こちらの身を本気で案じてくれているからこそ、レダはユノの提案に暫しと歯を食いしばるような表情を見せていた。

 

 まぁ、脇では大喜びではしゃぐシュラがいたものだ。これによってレダは渋々といった具合に「……えぇ、いいわよ」とユノの提案を受け入れていく。それでユノが凛々しいサマで「ありがとうレダ。それじゃあ、行きましょう」とアパートの方向へ歩き出していくと、彼女に続くようにレダとシュラは歩き始めていった。

 

 シュラの、「ニーチャンの部屋に邪魔するの、ウチめっちゃ楽しみにしとったんやぁ!」という言葉に対して、レダは突き放すように「調子に乗らないでちょうだい」と言っていく。と、今もそんなやり取りが交わされているその後ろにて、部屋の主を差し置いて勝手に話が進んでいた現状に自分は、ただただ頭を掻きながら彼女らの後を追っていたものだ。

 

 

 

 

 

 店から徒歩で十五分の道のり。その短時間が故に最寄りの宿として使われてきた自分のアパートに、三名のホステスを招き入れていく。

 

 特に、自分の部屋に上がりたいと言っていたシュラは、キラキラと目を輝かせながら「うわぁ!!! ニーチャンの部屋ぁ!!!」と大声を上げていき、履いていたヒールサンダルを脱ぎ捨てるようにして駆け込んでいったものだ。

 

 彼女の落ち着かない行動に、ついてきたレダはやれやれといった具合の顔でその様子を見遣っていく。で、ユノもまた凛々しいサマでこちらへと「お邪魔します」の言葉を掛けてくるのだが、次の時にもシュラは部屋のど真ん中でパーカーを脱ぎ捨てたかと思えば、あろうことかホットパンツにも手を掛けてそれを下げ始めていったのだ。

 

 彼女の行いに、自分は思わず焦りながら「いやいやいやいや!!! ちょっとちょっと!!」と声を掛けていく。これにシュラは不思議そうに振り返ってくると、黄色のショーツで半ケツを見せてきた脱ぎ掛けの姿でそう喋り出してきた。

 

「なんや? ニーチャンどないした?」

 

「いやいや……どうしたも何も、人の部屋でいきなり脱ぎ出すのはちょっと……」

 

「なんや、そないなことか。ええやん別に、他のホステスもここで着替えたりするやろ?」

 

「それはそうだけど、知り合ったばかりの男の前で急に脱ぎ出すのも女性としてデリカシーが無いというかさ……」

 

「せやけど、相手がニーチャンならウチは気にせんよ? 何ならウチ、家じゃあバリバリの裸族やねん。これがウチにとってのフツーや、フツー」

 

「だとしても、せめて初日だけは控えてもらえると嬉しいんだけどなぁ……」

 

「なんやぁニーチャン、ノリ悪いなぁ。ええやんか別にぃ。ウチとニーチャンの仲やろ?? なぁ? ニーチャンもウチのナイスバディ見たいやろ?? なぁなぁ~」

 

 半ケツ状態で快活に喋るシュラを見て、レダは腕組みをしながら「ここはカンキ君の部屋なんだから、カンキくんに従いなさいよ。じゃないと力ずくで追い出すわよ」と辛辣な言葉を投げ掛けていく。これにシュラが渋い顔をしつつ「ぐうぅっ、しゃあないなぁ……」と返答していく中で、自分はレダを見遣りつつ脳裏にとある光景を思い浮かべていた。

 

 ……無断で人のシャツを借りて、素っ裸の状態でそれを着用していたレダの姿。おまけに彼女は誘惑的な視線を向けてくると、それの裾を捲り上げることで黒色のショーツを見せ付けて、鼻血を噴くこちらの反応を楽しんでいたものだ。

 

 また、アパートの裏にある夜の公園で、野外プレイも行ったことがあるその記憶。これがよぎってくる最中にもレダがシュラを咎める様子が眼前で繰り広げられていたものだったから、自分は内心で「いや、レダもレダで人のことは言えないから……」とツッコミを入れていく。

 

 で、彼女らのやり取りを見ていたユノが、クールビューティな面持ちでそれを口にしてきた。

 

「彼が特別な存在である以上、自身の全てを曝け出してでも彼に熱烈なアピールを行いたい気持ちは十分に理解できるわ。けれども、シュラ。貴女には太陽のようにハツラツとした貴女独自の魅力があるのだから、性欲を煽る方法ではなくて持ち前の人間性で誘惑した方が、柏島くんからしても貴女の姿がより美しく映えて、彼を心から虜にすることができるでしょうね」

 

「????? ……女帝のネーチャンが言う言葉の意味はウチにはよぉ分からへんけど、まるで普段のウチの方が魅力的やって褒められとる気ぃするから、せやったら女帝のネーチャンの言う通りにいつものウチでニーチャンをメロメロにするわ!!」

 

 と、脱ぎ掛けのホットパンツをキュッと上げて振り返ってきたシュラ。そして太陽のように眩しい笑みでニッと笑んでみせたものだったから、彼女の微笑みに自分は堪らずと見惚れるようにして頬を赤らめてしまった。……尤も、ユノの説得を耳にして、自分はとある光景を脳裏に浮かべていたものでもあったが。

 

 それは、ミネの歓迎会で遠出したホテルの浴室で、シャワーを浴びていた自分の下に姿を現した全裸のユノ。それでいて、物珍しげなこちらの“モノ”を弄りに弄って最高潮の射出を行わせてきた上に、自身の下腹部にかかった“ソレ”を指に取って、あろうことか興味本位で舐めとることで味まで確認してきた彼女のその行動。

 

 ……ユノさん、貴女も大概ですからね。

 彼女を見遣る自分の視線は、無意識とジト目になってしまっていた。だが、そんなこちらの内心など彼女らは知る由もなく、ユノの説得で服を着たシュラが落ち着きを取り戻したところで、自分らは小腹を満たすために夜中の小さな宴会を開いていくこととなる。

 

 

 

 

 

 背の低いテーブルに広げられたピザとチューハイの缶。龍明の中でも指折りの美女が揃うLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)のホステスも、夜分遅くにこのような食事を行うことに自分は意外性と親近感で満たされる。

 

 で、部屋に充満したアルコールのにおいと、程よく酔った三名のホステスが他愛ない話を行う空間に滞在していた自分は、自分一人だけが酔っていないその中で三人の話に耳を傾けていた時のことだった。

 

 あぐらをかいているシュラや、正座でいるレダと、ベッドに寄り掛かる形で右膝を立てた姿勢のユノを眺めていく。そうしてほろ酔いの彼女らを見遣っていく最中にも、ユノはシュラへとその言葉を掛けていったのだ。

 

「ところで、シュラ。今この場にいる面々は、貴女にとっても実に好都合なメンツだと思うのだけど、そろそろ話してみたらどうなのかしら」

 

「んぁぁー、なんやぁ? 好都合??? 何の話??」

 

「今は、自身の素性を語るに相応しい状況ということよ。特に、柏島くんとレダ、そして私というこのメンツは、貴女の正体を詳しく知るに適した人物達であるでしょうから」

 

 唐突とぶっ込んできたユノの言葉を耳にして、シュラは一瞬にして酔いが覚めたように目を見開いてユノを見遣っていく。そして彼女は「あちゃー」といった具合に天井を仰いでいくと、少し間を置いてから視線を戻してそのようなことを喋り出したのだ。

 

「なんや、ウチをニーチャンの部屋に招き入れたのは、これを喋らすのが狙いやったってことなんか」

 

「今の貴女は、袋の中のネズミ。店のサイバーセキュリティも強化された以上は、得意のハッキングを用いた方便も既に通用しないわよ」

 

「前にハッキングで抜き取った情報も、一部がガセのデータになっとってどれが本物のデータか見分けつかなかったしなぁ……してやったりと思っとったウチが恥ずかしいくらいや。……で、それにしたって自分、オーナーのニーチャンの調査でウチの素性くらい調べ尽くしとるんやろ? せやったら今更ウチの話を聞いても意味ないやろ」

 

「それを本人の口から聞かせてもらいたいのよ。私達が集めた情報は、周辺地域で見聞きしただけの推測にすぎない曖昧な領域のもの。しかしその情報が本人の口から語られることによって、それはれっきとした真相へと変貌する。せっかく荒巻オーナーが苦労して集めてきた情報なんですもの。答え合わせくらいさせてもらえないと、彼の労力が報われないわ」

 

「せやからってわざわざ、当時の関係者で囲った環境で本人に白状させるのも中々にエグいで自分。やけど、まぁしゃあないなぁ。ウチとしても、懐疑的な視線を向けられ続けるのは不本意やしな~」

 

 と言って、チラッとレダを見遣るシュラ。この目にレダは不信な視線を返していくと、シュラは観念したように自身の素性を喋り始めていったのだ。

 

「最初に断言しておくけどなぁ、まずウチは自分らに敵意は無いで? それを念頭に置いてから聞いてもらいたいんやけどな。まぁ、言ってしまえばウチは、『鳳凰不動産』っちゅう組織から送られてきたスパイ的な人間っちゅうとこやな」

 

 鳳凰不動産?

 以前にも聞いたことがある。それを思った自分は、先日にも公園で出会ったホームレス達の姿を脳裏に浮かべてその時の場面を思い出していく。

 

 そこで説明されたのは、『鳳凰不動産』という企業と繋がりを持つホームレス狩りに襲われていた時期があったという内容の話だった。だが、同時期にて鳳凰不動産を追っているという探偵の柏島長喜が姿を現して、彼は相棒だった荒巻と共に、そのホームレス狩りを撃退してホームレス達に安寧をもたらしたという。

 

 ホームレス達から聞いた話と照らし合わせると、今もシュラが言っていた鳳凰不動産という組織は間違いなく、危険を孕んだただならぬ組織であることがうかがえる。だからこそ自分は、そんな企業からスパイとして送り込まれてきたと白状したシュラに、驚きを隠せずにいたものだ。

 

 そんな彼女に自分以上の反応を見せてきたのが、レダだった。彼女はすぐにも怒りを露わにして立ち上がっていくと、拳を握り締めながらシュラを睨みつけていく。

 

「鳳凰不動産……!! っ、あなた、鳳凰不動産の一員なの……!? この、ッ、あの時はよくも、わたしの仲間達を散々な目に遭わせてくれたわねッ!!」

 

「ちょい待ちぃ!!! 確かにウチは鳳凰不動産に所属しとったけど、ウチはエンジニアとして本部で働かされとったもんやさかい、ウチは自分らに暴行なんかしとらんで!!!」

 

「関係者である以上は同罪よ!!! 彼らは、学校と家を追い出されたわたしという存在を邪険せずに受け入れてくれた、命の恩人とも言える大切な人達なのよ!! ホームレス狩りに襲われた時だって、あの人達は身を挺してわたしのことを庇ってくれたんだから!!! そんな大切な人達を襲ったホームレス狩りとグルだったあなたのことを、わたしは絶対に許さないッ!!!」

 

 激昂のままにシュラへと言葉を浴びせていくレダへと、ユノは冷静な声音で「そこまでにしなさい」と口にする。これにレダは口を噤んでユノを見遣っていくと、歯をギリギリと噛みしめながらもゆっくりとその場に腰を下ろして座っていった。

 

 これにはシュラも、申し訳なさそうな顔を浮かべて暫し俯いていく。その間もレダから鋭利な視線を注がれていくと、シュラは意を決したように顔を上げてそれを喋り始めたのだ。

 

「ウチが自分らに接触したのは、鳳凰不動産に指示されてスパイとして送り込まれたからや。せやけどウチはな、スパイとか鳳凰不動産とか、そないなことは別にどうでもええと考えとる。ウチは今まで、生まれてきた環境を理由に仕方なく連中のエンジニアとして働かされとったんやけどな、最初から最後までウチ、鳳凰不動産っちゅう組織にはついていけへんなと思っとった」

 

 シュラのセリフに、レダは静かな声音で「あなたの言い方じゃあまるで、鳳凰不動産を辞めたような口ぶりに聞こえるんですけど?」と口を挟んでいく。これにシュラは力強く頷いていくと、次にも「ウチはそのつもりでおる」と答えてきたのだ。

 

 彼女の返答に、レダは未だ懐疑的な視線を送り続けていく。だが、シュラはレダの反応を受け入れながらも真剣な眼差しで喋り続けていった。

 

「スパイとして自分らの店に送られたもんやけどな、ウチは元からスパイの仕事をこなすつもりなんて微塵にもあらへんかった。むしろな、この仕事は鳳凰不動産から抜け駆けするのに都合がええとも思っとる。ウチはもう、鳳凰不動産っちゅう金と権威と復讐しか頭に無い、人を傷付けんと気が済まない連中のやり方に懲り懲りなんや」

 

 自分が静かに話を聞いていく傍らで、ユノはシュラへと「一つ訊ねたいのだけれども、貴女が指示された諜報活動の内容をうかがってもいいかしら」と訊いていく。

 

 これに対してシュラは、ユノへと向きながらそれを話し出していった。

 

「ウチに指示された活動の内容は、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)のデータベースに保管されとる機密情報の収集や。ほんなら、ハッキングすればええだけやんと思うやろが、面倒な仕事を増やしたくない思うてウチ、ハッキングが得意っちゅうことは連中に明かしとらんくてな。まぁせやから、こうしてスパイとして現地に送り込まれたっちゅうワケやな。で、問題はな、できたらでええと言って指示されたもう一つの活動があるんやけど……」

 

 そう言って、こちらへと向いてくるシュラ。彼女と目が合った自分が首を傾げていくと、シュラは真っ直ぐとこちらを見据えながらそれを口にしていったのだ。

 

「……それがな、柏島長喜の息子である柏島歓喜の誘拐っちゅうものやねん」

 

「え……?」

 

 誘拐……?

 しかも、俺? という驚きのままに唖然としてしまう自分。これにユノは鼻でため息をつきながらそう喋り始めていった。

 

「既にこの世を去った柏島オーナーへの報復、といったところかしら。誘拐という指示から見るに、まず誘拐した柏島くんをダシにすることで、柏島オーナーが建てたLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)という遺物を自分達の気が済むまで傷物にしてから、柏島くんを餌に誘い出した我々を始末するという陰湿な算段でも企てていそうね」

 

「ビンゴやで、女帝のネーチャン。柏島長喜っちゅう報復の対象が姿を消した今でもな、連中は鳳凰不動産っちゅう組織を一度破滅へと追いやったその元凶の幻影を盲目的に追い続けとる。元は連中の自業自得と言えどもな、連中の逆恨み的な執念は日に日に増している一方なんやで。特に、柏島長喜の活動に協力した元相棒のニーチャンと、女帝のネーチャン。それと、あの殺し屋のニーチャンに、蓼丸ヒイロっちゅうウチにはよぉ分からんネーチャンと、ついでで闇医者のネーチャンが抹殺対象になっとる」

 

 蓼丸ヒイロ……?

 鳳凰不動産が追い続けている親父の協力者リストに、蓼丸ヒイロの名前も載っているのか。そんな意外性のある名前に意識が持っていかれていると、次にもユノは胸ポケットから電子タバコを取り出して吸い始めていき、煙を吐きながら凛々しいサマでシュラへと言葉を掛けていった。

 

「集めた情報を基に荒巻オーナーが立てた、鳳凰不動産の諜報員という仮説と一致するわね。いいわ、シュラ。貴女の動機が真実であることを認めると共にして、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)のホステスとして我々の組織に正式に所属することを許すわ」

 

「ほ、ほんまか!? 助かるでぇ女帝のネーチャァンっ!!」

 

「ただ、一つだけ条件があるわよ」

 

 口からゆっくりと煙を吐き出すユノ。同時にして向けられた冷徹な視線は彼女の色白な肌よりも冷たく、恐ろしい。

 

 瞳の奥に宿らせた、氷よりも凍てついた水晶体の不気味な輝き。その、眼光だけで人を殺せるんじゃないかというおぞましい威厳を孕んだそれに、目にしたシュラは凍り付いた表情で音もなく姿勢を正していく。

 

 そして、かしこまったシュラを視界の中央に捉えていったユノは、次の時にも静かな声音で彼女へとそれを提示していったのだ。

 

「シュラ。貴女はこれからも、鳳凰不動産との接触を継続しなさい」

 

「ほ、鳳凰不動産との、接触の継続……?」

 

「えぇ、そうよ。それが、我々の仲間として貴女を認めてあげられる唯一の条件。シュラ、二重スパイとしてLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に貢献しなさい。そうでなければ、命は無いわ。さぁ、条件を呑むか呑まないか、今この場で決断してちょうだい」

 

「うわぁぁー……服従するか死ぬかの二択ってことやなぁー……。まぁ、ウチもとっくに腹を括っとるんや。せやからウチの返答は服従の一択やで。二重スパイ? やってやろうやないか!!」

 

 心なしか、ちょっとだけ声が震えていたシュラ。だが、覚悟を伴ったその返答にユノは再度と電子タバコを吸っていくと、ふぅっと煙混じりの息をつきながらシュラへとその言葉を掛けていったのであった。

 

「貴女の覚悟、しかとこの目で見届けさせてもらったわ。我々にとっても因縁深き敵組織の鳳凰不動産。そこに属していた人間である以上は、我々としても相応の条件を呑んでもらわないと信用できないというものよ。同時にして、この二重スパイを完遂したその時こそは、私達、特にレダを始めとしたホームレス達に対する貴女なりのケジメにもなるの。だから、シュラ。私達と共に、鳳凰不動産と戦いましょう。今も見守ってくださっている柏島オーナーに、心から安心して眠ってもらうためにも、ね」

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