俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
近場に用があるだけだから、一人でも大丈夫だろう。昼の
目的地が思ったよりも路地裏であり、建物と建物の間に挟まれるような狭い道を一人で歩いていた自分。この時から若干と視線らしき何かを感じていたものであったのだが、ふと背後から空き缶の転がる音が響き渡ったことによって、自分は確信と共にそちらへ振り返っていく。
すると、隅にあった脇道からは一人の男が姿を現してきた。彼はこちらを上回る筋肉質な体格をしており、濃い緑色のタンクトップに黒色のパンツという如何にもゴロツキな見た目をしてこちらへと歩いてくる。
また、彼は右手に鉄パイプを持っていた。それを左手に打ち付けるようにしながらこちらを見遣ってくると、スキンヘッドの頭部で開き直った顔をしながら鉄パイプを振り上げて、おもむろにこちらへと襲い掛かってきたのだ。
しまった。俺の命を狙っているという連中か……!?
いや、シュラのように俺の誘拐を目論んでいる鳳凰不動産の人間か……? という真相は二の次にして、自分は唐突な出来事に半ば頭を真っ白にしながら腕で防御する姿勢をとっていく。
だが、直後にも視界の右端から生えるように飛び出してきた銃口と共にして、この左耳には不敵に囁く男性の声が奏でられてきた。
「動かないでね」
え?
瞬間、右耳には特大の発砲音が轟いた。これには思わず叫び上げた自分だったが、それ以上に悲惨だったのが目の前にいた暴漢の有様というもの。
彼から見た右胸を撃ち抜かれたその男性。そこには、今まで映画でしか見たことがなかった生々しい赤黒い穴が開けられており、着弾と同時に男性は野太い悲鳴を上げてその場に倒れ込むと、激痛のままに地面をのたうち回りながらもこちらに対して助けを乞い始めてきたのだ。
……目撃するには、あまりにもショッキングな光景だった。目にした眼前の様子に自分は呆然と佇んでいくのだが、発砲した男性はと言うと今もこちらの左肩に手を乗せながら乗り出すように顔を出してきて、そして、この右肩越しに拳銃を構え続けながら不敵にそう喋り続けてくる。
「店から尾行してきて正解だったよ。君という特上の餌が単独で龍明の街を徘徊するんだ。これを好機として見逃さない強欲な人間が現れることは想像するに容易かったものだからね、僕は餌を狙う捕食者を狩猟する狩人ごっこをするために、わざわざ気配を殺しながら君の後をついてきていたんだ」
「く、クリス……?」
背後に存在していた、私服姿のクリス。殺し屋として三桁の対象を排除してきたらしい彼は不敵に笑みながらそれを口にしていくと、次にも猫背の姿勢で倒れた男性の下へと歩み寄って、その左脚を持ち上げながらこちらへと振り向いてそう訊ね掛けてくる。
「彼に用事ある? 訊きたいこととかあったら、今の内に申し出てね」
「いや……特にはないけど……」
「そう? じゃあもう、彼は用済みだね」
こちらの返答に、クリスは踵を返すように歩き出していった。そして彼は男性を引き摺りながら路地裏の死角へと向かっていき、曲がった道の角で姿を消していく。
……あー、あの場合って鳳凰不動産の人間かどうかを聞いておけば良かったのかな。
今更と至ったこの発想も、非日常に不慣れな自分からしたらすぐに思い至らない質問内容だ。ただ、これを思ってクリスを呼び止めようとした自分が一歩踏み出したその瞬間にも、路地裏の死角からは三発の銃声が響き出したのだ。
思わず足を止めていく自分。同時にして聞こえてきた絶叫は断末魔とも言える悲痛なものであり、リアルなそれに自分は静かな恐怖心でただただその場に留まってしまう。
直にも、拳銃を片手に持つクリスが歩いてきた。彼は何事も無かったかのような平然とした顔でこちらへと歩み寄ってくると、近くで目が合うなりクリスは不敵に微笑みながらそう呟いてきた。
「日頃から疑問に思っていることなんだけれども、人間って本当にか弱い生き物だよね。どうしてなのかな? 知性の発達には著しい進化があったんだろうけれど、一方で肉体の方は強靭とはとても言い難い。それが非常に惜しいなと思えてくるんだ。だって肉体も進化していれば、もしかしたら数発程度の銃弾は耐えられた未来もあったかもしれないからね。いや、そうであってほしかったな」
「…………と、とにかく、守ってくれてありがとう……」
「うーん、ちょっと違うかな。むしろ僕の方から、君に礼を言わせてほしい。いつもありがとう。君という存在のおかげで僕は、明確な正当性を以てして人を撃つことができるんだ。つまり君は、僕の生き甲斐でもあるんだよ。だからこれからも君は、僕に極上の生を実感させ続けてもらえると嬉しいな」
こちらの右肩に手を置いて、不敵な微笑と共にして歩き去ろうとするクリス。だが、次にも「あ」と端的に声を出していくと、彼は振り返りながらその言葉を掛けてきた。
「これから荒巻オーナーと会う予定があるんだけど、君も来る?」
「え、荒巻オーナーと?」
「探偵のお仕事のお手伝い。駅前のカフェで落ち合う予定なんだ。君もどうかな」
自分が行ってもいい内容なのだろうか。それを疑問に思いながらも、しかし好奇心という誘惑には勝てずに「じゃあ、クリスが言うならついていこうかな」と答えていく。
その返答にクリスは「決まりだね、それじゃ行こっか」と言って歩き出したものだったから、自分はその後をついていく形で暫しクリスとの二人行動を共にしたのであった。
クリスと肩を並べて歩く龍明の街中。昼過ぎの雑多な人混みを掻き分けるその足取りは、無意識にも怖いもの知らずな力強いものとなっていた。
ユノと同等の安心感。その方向性は違えども、彼がついてくれているだけで百人力という気持ちになれたのもまた事実。そんな感じで自分はクリスを頼りにしながら歩いていると、直にも隣の彼は喫茶店のテラス席を指差しながらそれを喋り出していったのだ。
「待ち合わせ場所が見えてきたよ。ただ、どうやら先客がいるようだね」
「先客?」
何のことだろう。そう思って自分は、クリスの指先を辿るように視線を投げ掛けていく。すると、喫茶店のテラス席にて荒巻と談笑するメーの姿を確認することができた。
二人とも私服姿であるその様子。だが、荒巻はゆったりとした薄い黄色のVネックシャツに、ストリート系の柄が特徴的な鈍い黄色のフード付きアウター。そして灰色のワイドパンツに白色のシューズというラフな格好でメーと会話をしていたものだ。
首に掛けている紐のような黒いネックレスと、常備しているサングラスも相まって、彼は一層とヤンチャな雰囲気に包まれていた。これに自分は荒巻を見据えながらテラス席へと歩み寄っていくと、クリスと共に姿を現したこちらを見て荒巻とメーが言葉を投げ掛けてきた。
「よーぅクリスちゃん!! ……と、カンキちゃぁん? なんだなんだ、話に聞いてねぇサプライズゲストまで連れてきちまってよぉ。まーなんだ、取り敢えず座んなお二人さん」
「やっほークリス。それとカンキ君も。お邪魔してま~す」
椅子に座ることを催促してくれた荒巻と、勝気な笑みでこちらに手を振ってくるメー。二人に迎え入れられる形で自分はクリスと椅子に座っていくと、クリスは不敵な声音のまま荒巻へとそれを訊ね掛けていった。
「この様子じゃあ、今日の依頼は既に済ませてありそうだね」
「ご名答! クリスちゃんの到着を待つべくオレちゃんここで優雅に紅茶を嗜んでいたらよぉ、同伴帰りのメーちゃんが偶然通りかかったってワケなのよ。で、ついでだからメーちゃんに今日の依頼を手伝ってもらって、今に至るってこった。だから、すまねぇなぁクリスちゃん。声を掛けておいてアレなんだが、完全な無駄足にさせちまった」
「バッティングセンターに勤める従業員の素行調査だったかな。違和感無く現場に潜入するための人選として、僕じゃなくメーを選んだのは正解じゃないかな」
「んま、おかげさんでメーちゃんとの恋人ごっこもできて? オレちゃん大満足!! っつーことでメーちゃん、次もまたお手伝い頼むぜ?」
陽気な調子でニッと笑んでみせた荒巻。これにメーは冗談気味に「オーナーと恋人ごっこ? 本気でそう思ってるんならマジでウケるんだけど」と言ってからタピオカジュースを啜っていく。その返答に荒巻は眉をひそめながらお手上げのジェスチャーでこちらに振り向いてきたものであったから、自分は何と返したらいいか分からずにただただ汗を流してしまった。
で、クリスはクリスで店員を呼びつけて「パンケーキ一つ」と注文を行っていく。この自由な空間も
「ねぇオーナー、それで私の約束は忘れたなんて言わないよね?」
「あぁ? 約束?」
「あーほら、やっぱり忘れてるー! バッセン行く前に言ったじゃん! オーナーのお手伝いをする代わりに、後でダンスの練習に付き合ってってさぁ!」
「あ、あぁーぁ。ぁ~……、そうだった。っけか?」
「オーナーさ~、なんか最近忘れっぽくない? もう歳だよ。おじいちゃんだよ」
「お、おいおい勘弁してくれよォ!! オレちゃんまだまだ三十代だぜ!? おじいちゃん呼びはまだ早ェっての!!」
「はいはいそうですか~荒巻おじいちゃん」
「うっはぁ!! 約束をちょこ~っと忘れていただけでこの仕打ちだぜ!! メーちゃんはホント容赦ねェなぁおい」
尤も、言葉とは裏腹に荒巻はものすごく嬉しそうな顔をしていたものだ。
そのやり取りを聞いていて、自分は「ダンスの練習?」と口にする。それを聞いたメーはこちらに振り向いてくると、勝気な瞳を向けながらそれを説明してくれた。
「そ、ダンスの練習~。今度、キャバレーのステージで踊ることになったからさぁ。それで今から練習してるってわけ」
「あぁ、そういうことか。いやそれにしても、お店のショーはいつ見てもクオリティが高くて毎回ビックリさせられてるよ。みんなの演技力や歌唱力とかがその道のプロみたいで、俺、キャバレーなのにショーの新作が楽しみで顔を出しに行く時だってあるもん」
「ちょ、ちょっとさぁ……今からハードル上げないでもらえる?」
「あ、あぁ、ごめん」
ついつい喋ってしまった。
目にするショーのクオリティに、思わず口走った感動でメーにプレッシャーを与えてしまう。これに自分は慌てて口を閉ざしていく脇では、荒巻が腕組みをしながら「店のホステスはオレちゃんが育てた……」と言いながら頷いていく。
が、これにメーが「ホステスを直々に育ててるのはユノさんだけどねー」と忖度の無いツッコミをかましていった。その返答に荒巻は眉をひそめながらお手上げのジェスチャーでこちらに振り向いてきたものであったから、自分は何と返したらいいか分からずにただただ汗を流してしまった。
で、クリスはクリスで注文したパンケーキを静かに食べていく。
これらの様子を前にして、いや本当に自由な人達だな……という内心を呟いた自分。まぁ、それも一旦置いといて、自分は気になっていた先ほどの話題を掘り返すように、メーへと食い気味にそれを訊ね掛けた。
「それでさ、メーのダンスの練習、俺もついていっていいかな?」
興味本位の問い掛けに、メーは明るい表情で「あ、カンキ君も来る? いいよ! 何なら一緒に踊ろ?」と返答してくれた。
その時にも彼女が見せてきた、パァッと広がる晴れやかなその笑顔。不意にも見せられたそれを前にして自分は思わず見惚れるように見つめてしまい、また、シュラのような太陽の如き快活さとは異なる方向の、宝石のように煌びやかな微笑みについつい胸をドキドキさせてしまう。
で、このわずかながらの動揺を悟ったのだろうメーは、次の時にもからかうような視線を向けてニッと悪戯に笑んでみせたものだった。
……あー、やば。惚れそう。
陥落寸前の感想文を内心で述べた自分。そんなこちらの反応に彼女はしてやったりな顔で見つめてくると、とても満足げな様子でドヤ顔をしてきたものでもあった。
スプレーで落書きされたコンクリートがとてもよく目立つ、ストリート系ご用達の広大なその広場。まるで龍明の治安を反映したかのような雰囲気の悪さに、他地域からやってきた人間はこの付近に近寄ろうとは思わないことだろう。
今もヤンチャなストリート系の男女が団体で会話を行っている光景と、広場に設けられた凸凹の地形でスケートボードを嗜む男達の様子がうかがえる。この空間に訪れた自分らも踊りやすい平坦な場所を確保していくと、荒巻とメーは準備運動を始めたりなど各々がのびのびと過ごしていたものだ。
そんな二人に、自分も混ざるように軽いストレッチを行った。また、この近くではクリスも脱力気味な体操で身体をほぐしていく様子が確認でき、割と念入りに身体を動かしている光景から彼も一緒にやるのかなと思いながら自分はストレッチを終えていく。
今も他所から流れてくるアップテンポな洋楽を耳にして、他の場所でも陽気なゴロツキ達がストリートダンスを楽しんでいる様子を横目で感じていた自分。この空気にどこか気分が高揚してきたその中で、荒巻はスマートフォンを片手に紐のネックレスを外しながらメーへと話し掛けていった。
「メーちゃん。いつものようにオレちゃんちょいとばかし準備運動すっからよ、この身体がきちんと温まるまで、華麗に踊るオレちゃんのことをしっかりその目に焼き付けておけよ?」
「とか何とか言ってさ、結局はカッコよく踊る自分を女の子に見てもらいたいだけでしょー?」
「へっ! むしろそれ以外の理由なんかね~よ。男ってのはなァ、自分のカッコいい姿を女の子に見てもらうことに悦びを覚える生き物なのさ」
「はいはい。ま、オーナーのダンスは私大好きだから、せっかくだし最後まで見届けてあげる。ただ、私の指導は忘れないでよ?」
「わーってるわーってるゥ!!! ッしゃあ!!! メーちゃんを惚れさせちまうオレちゃんの全力ダンス、いっちょぶちかましてやるかァ!!!」
ノリノリなサマで軽く跳ねていく荒巻。共にしてスマートフォンから軽快なアップテンポの洋楽を流していくと、それを付近に置いた次の時にも荒巻は、指を差す動作をキッカケにして突如と鮮やかな動きで踊り始めたのだ。
途端にして、力の緩急を活用した激しくも芸術的なキレを披露し始めた荒巻の姿。メリハリのある動作は熟練の域に達していることを認識させ、激しく荒々しい動作から突然と停止してポーズを決めていく様子は、極端な静と動が生み出す対極的な表現を美しく体現している。
ロックダンスというジャンルに分類される荒巻のダンスは、手首を巻き上げる動きのトゥエル、腕を身体の前で停止させるロック、指を差す動きのポイントや、横にパンチを打つような動きのペイシングなど、ロックダンスの代表的な技をふんだんに詰め込んだ、お手本に忠実である故か綺麗にまとまった踊りを表現していた。
体幹から指先まで意識が行き届いた身体の使い方。力を入れる部分と、力を抜く部分を理解して繰り出す彼の動きには異次元という言葉が相応しい。
荒巻のロックダンスが始まった途端にも注がれた、周囲からの視線。そうしてオーディエンスを味方につけた荒巻は心の底からの笑みを浮かべていくと、キックする動作やステップする動作を交えたダンスで自身の世界を展開していき、そして一分ほど踊ったところでピタッと動作を止めて、メーへと微笑みかけていったのだ。
大の大人が繰り出した、息切れを交えた渾身のドヤ顔。だが、今回ばかりはメーも素直に拍手を送りながら「いいよー、今のオーナー超カッコいいよ~」と言葉を掛けていくと、これに彼は気分を良くしながらも、ふと傍にいたクリスへと視線を投げ掛けるなりその掛け声を行ってきた。
「ハァ、ハァ、ッ、カモン!! クリスちゃん!!」
「だろうね。そのつもりでいたから準備は済ませてあるよ」
そう言ってクリスは着用していたノースリーブのロングコートを脱ぎ捨てると、退いた荒巻の立っていた場所へと歩いていくなりおもむろに軽いステップを刻み始めていく。
脱力的な面持ちとは裏腹に、きびきびとした動作で足を前後左右に出すステップを披露したクリス。そこから一定の動作とリズムで足技を繰り広げ、次第と身体全体を使って大きく左右に動き出してから、次にも彼は勢いに任せて地面に手をついていき、そこから屈んだ状態で素早く足を動かす技を披露し始めた。
屈んだ姿勢のまま、交互に出した足で横に弧を描くようステップを刻み出した彼のダンス。それはブレイクダンスと呼ぶに相応しいアクロバティックなものであり、躍動感に溢れたその身体は次にも側転するように跳ね上がると、背中や肩を地面につけていってから、跳ねた勢いのまま開脚した脚の遠心力で豪快に回転し始めたのだ。
まさかの、クリスも踊ることができるという新たな一面の目撃。しかもゴリゴリにド派手なブレイクダンス。
驚きのあまりに言葉を失う自分。それでいて、この脇では既に知っていたのだろうメーが「うはー、さすがだねー」と言いながらワクワクした表情でその様子を眺めており、踊っている彼はと言うと回転する勢いのまま足を折りたたんだ異なる技へと繋いで自身の世界を展開し続けていく。
そして、身体全体で両脚を持ち上げながら、両手と側頭部を地面についてピタッと動作を止める〆の技で最後を決めていったクリス。彼の不敵な存在感も相まって一連のダンスを目撃したオーディエンスがその独特な世界に引き込まれていくと、一気に空間を掌握した荒巻とクリスは互いに微笑を見せながら力強い握手を交わしていった。
熱気が冷めてきた広場の空間。ウォーミングアップを完了した荒巻は未だ噴き出す汗をタオルで拭いながら、佇むメーへと言葉を投げ掛けていく。
「ふふふ、ふはははははッ!!! オレちゃん今日も絶好調ッ!!! だからメーちゃん、今日は存分にこのオレちゃんを頼ってもらってもかまわないぜ??」
「いやー、さすがにダンスする時のオーナーには悪態つけないなぁ~。オーナーを唯一スゴイって思える場面でもあるから、不本意ながらもダンスに関してはオーナーのことを頼りにするね」
「おうおう!! なんつーか、言葉の節々に棘があるような気がしなくもねェが、この当たりが強い感じがまた最高に堪らねェからヨシ!!! っつーことでメーちゃんの特訓、さっそく始めていこうじゃねーか」
ホステス達は基本的に荒巻への当たりが強いものだけれど、何だかんだで噛み合った掛け合いはしているんだよなぁ。
そんなことを内心で呟いていく自分であったのだが、こうして呆然とするように突っ立っているこちらを荒巻は見遣ってくると、ニッと笑みながらも得意げな表情でそう言葉を掛けてきたものだ。
「カンキちゃんも、オレちゃんの雄姿を見届けてくれただろう? どうよ、オレちゃんの華麗なるダンステク。オレちゃんのオーナーの威厳が最高に炸裂していただろう??」
「正直ビックリしました。荒巻オーナーやクリスの洗練された動きはプロと見間違えるレベルでしたよ」
「だろう?? ッカー!!! 野郎にもモテちまうなんて、オレちゃんってばホント罪な男だぜ」
前髪を掻き上げる動作を交えて、荒巻は清々しい面持ちを見せてくる。一方で二人のダンスを目撃した自分はと言うと、今も一向に冷めやらない胸の内の高揚感に突き動かされるようにして、何かを探すかのよう自然と周囲を見渡してしまっていた。
現在もどこからか聞こえてくる、電子的な音が特徴的なダンスミュージック。その、自然とリズムを取りたくなってくるテンポを耳にしていると、次にも自分は無意識にも両脚を前後に出していくステップを刻んでいた。
両足がハの字と逆ハの字を繰り返す動作。それが身体に染み込んでいたからこそ流れるように自然と行うことができていて、且つ、突如と動き出したこちらを見遣る荒巻からはそんな言葉が掛けられたものでもあった。
「おぅ? なんだカンキちゃん、やけに軽快なステップを踏めるじゃねぇか。動きからしてもカンキちゃん、さては経験者だな?」
「経験者といいますか、現在進行形で嗜んでいる現役勢といいますか。すみません、俺も少しだけ踊らせてください。ちょっともう、我慢できそうにないです」
度々と他の団体と出掛けたりしていたその理由。自分もまたその芸術に惚れ込んでいたからこそ、目の前でその情熱を見せ付けられてしまうとついつい触発されてしまうのだ。
曲の始まりと同時にして跳躍したこの身体。そして着地と同時に地面の上を滑るようにして繰り出していく鮮やかなステップ。ノリノリなリズムに合わせてアドリブで行う不規則な足の動きは、先ほどのハの字を繰り返すステップであったり、歩くような動作で水平に滑るランニングマンといった足技を駆使して自分の世界を展開し始めていく。
そこから即席で横に回転していき、膝を持ち上げるように両脚を曲げてハの字を作り出しながら軟体生物のような動きでステップを行っていく。この間も高揚感に身を任せるようにして両腕を振っていき、時に両腕を交差したり回したり、両手で髪を掻き上げるような動作であったりなどの軽快な動きを交えて表現に彩りを与えていくのだ。
自分が踊っているダンスは、シャッフルダンスと呼ばれるものだった。最近は動画投稿アプリで流行り出したことで若者に注目されるようになったこのダンスは、音楽に合わせて高速のステップを踏んでいくことで、流れるような軽快さや鮮やかさを表現するジャンルとなっている。
荒巻の踊っていた、静と動のメリハリが特徴的なロックダンス。クリスの踊っていた、アクロバティックで豪快なブレイクダンスとはまた異なる世界を築き上げていく。この動作に荒巻とメーが「おぉー」と感嘆の言葉を零していき、クリスもまた地面に座った姿勢で不敵な視線を向けながら、こちらの様子を眺めていたものだ。
自分も、周囲のオーディエンスの視線を身に纏うことでこの世界に浸っていく。そして、芸術を全身で体現するこの爽快感に全てを委ねると、最後に十八番であるムーンウォークからのスピンで最後を決めていった。
……あぁー、やーばい。最っ高に堪らない。
脳内麻薬とも言える爽快感と、やり切った達成感で暫し放心状態となった自分。そんなこちらへとメーが駆け寄ってくると、こちらに飛び付くようにしてこの肩に右腕を掛けてきながら、彼女は煌めくような瞳でそう言葉を口にしてきた。
「なになになに、カンキ君もダンスできるのヤバすぎでしょ!! ねぇ、どうして今までこの特技のことを教えてくれなかったのさ~?」
「え、いや、わざわざ言う必要は無かったから……」
「ありまくりだし!! だってカンキ君のダンス、今ネットでめっちゃ流行ってるやつだもん!! しかも、動画で見てたようなやつと同じくらいスゴかった!! ねー、それ私も踊れるようになりたーい! 今度カンキ君のダンスも教えて~!!」
メーはイマドキな女の子が故に、流行りのものに敏感な反応を示してくる。これに荒巻は眉をひそめながら「っくぅ~ッ!! やっぱナウでヤングな若者の流行はリサーチしとかねェとモテねぇか……ッ!!」とひとり悔やんでいく。
それからというもの、彼は合間を縫ってはシャッフルダンスの動画を漁ったりなどして研究し始めていたものであった。
メーのダンス練習も終わり、夕方に差し掛かりつつあったその時刻。だが、せっかく珍しいメンツで集まったもんだから少し遊ぼうぜという話の下、自分は現在も一同と行動を共にしていた。
荒巻が乗ってきた車に搭乗し、四人で遊技場に訪れる。特にクリスが混じっているというこのメンツでやってきた遊技場においては、メーの独壇場であるボウリングや、射撃の腕で右に出る者はいないクリスのダーツ無双に、自分と荒巻で互いに励まし合いながら彼女らへと食い下がっていたものだ。
そして、おそらく皆が互角だろうビリヤードでは白熱の勝負が繰り広げられたりした。これには自分と荒巻も対抗できることの喜びに二人で打ち震えたりした中で、何だかんだで自分は、荒巻とクリスというあまり縁の無かった人物達との交流や共通点が増えていたことに気が付いていく。
奇跡的にもダンスという繋がりを見出した後から、心なしか会話が増えていたような気がした。気持ち的にもどこか荷が下りたような余裕も生まれたような感じがして、自分は積極的に荒巻やクリスに話しかけたりなどしていたかもしれない。
尤も、クリスは他人との交流に関心は無さそうだった。それでも彼は声を掛ければちゃんと受け答えはしてくれて、その対応にも自分はどこか救われていたところがあるのかもしれない。
……ホステス以外の人間とも、少しだけ距離が近付けたのだろうか。そんな充実感に満たされたこの一日も、最後に立ち寄った居酒屋で終わりを告げようとしていた。
夜になったその時刻に、今日の締め括りとして乾杯を交わしていった居酒屋の店内。男性陣が烏龍茶を頼んでいく中でメーだけがビールを飲んでいくその空間では、こちらの趣味に関する話題なんかもちょっとだけ出てきたりした。
既に酔いが回っていた隣のメーが、こちらに寄り掛かりながら「他になんかやってることとかあんのー?」と訊いてくる。それに対して「ダンスの他には、パルクールもやってるかな」と答えたりして、双方ともSNS上で知り合った仲間達と自由気ままに取り組んでいることを話していった。
それを聞いたメーが、お酒でふにゃふにゃになりながら「え~、いいなぁ~」と呟いてきた。これを聞いた自分が「今度メーも来る? みんなゲームやアニメ好きのオタクなもんだから、メーも話が合うかもしれない」と答えていくと、彼女は目を輝かせながら「え!! 行きたーい!!!」と言って乗り気な姿勢を示してきたりもした。
今日という日は、趣味の関係でとても充実した時間を送ることができた気がした。
共にして
尤も、この憂いは酔い潰れたメーを運ぶ際に吹き飛んでいった。
荒巻の車でアパート前まで送ってもらった自分ら。そしてメーをおぶった自分は、今も背中から香ってくるアルコールのにおいに「お酒臭いなぁ……」と内心で呟きながらも、メーをベッドまで運んで寝かせてあげて、そのまま自分も力尽きるように床で眠ってしまったものだった。