俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
第37話 Les inconnus 《得体が知れない者達》
頭上に広がる曇天模様。流れ込む冷気が冬の到来を知らせて、直に迫った年の暮れを実感させてくる。
休日の昼間である現在。龍明の駅前にいた自分とシュラは、二人で上着のポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
駅の敷地内にある広場で待つミネを目指す自分ら。足が疲れたということから少女をベンチで休ませて、自分はシュラの用事に付き合う形で二十分程度と広場から離れていた。
で、彼女の用事が済んだことからミネとの合流を目指していくその傍ら。自分は冷え込んできた季節に合わせたオレンジと黒のダウンジャケットを着込んでいる中で、シュラは出会った当時と全く変わらない露出だらけの私服姿で隣を歩いていたものだ。
だらしなく着用した緑色のパーカーは両肩を出していて、黒のキャミソールと青のホットパンツという格好でへそやくびれ、生足を見せびらかしている。そのホットパンツも相変わらず前を全開にしていたことから黄色のショーツがチラ見えしており、見る分には刺激的ながらも軽快な印象を受けたものなのだが……。
……いや、さすがに寒いでしょ……。
至極当然な感想を抱きながら、隣のシュラを見遣っていく自分。この視線を受けて彼女は振り向いてくるのだが、口元や肩をガタガタ震わせたサマで、縮こまるようにしながらも強がるようにそう喋り出してきた。
「な、なななんやぁニーチャァンッ……。そそそないなあ熱い視線で凝視されれるとウチ、ニニニーチャンのことをもももっとい意識してまううやなないかッ……」
「いや、熱い視線というよりは心配してる視線なんだけど……」
やっぱり大丈夫じゃなかったシュラの様子に変な汗を流してしまう自分。そんな彼女に見かねて自分はダウンジャケットを脱いでいくと、下に着ていた長袖の白いシャツ姿になりながら、パーカーを寄越すよう手で催促を行いつつ言葉を掛けていく。
「ほら、そのパーカー脱いでこれ着て。じゃないとシュラ、風邪ひいちゃうよ」
「な、なんやぁニーチャン、そないなことしたらニーチャンが風邪ひいてまうやないか。そないなことになったらウチ、女帝のネーチャンにしばかれるで」
「けど、シュラも体を資本に働いているんだし、俺よりもシュラの方がよっぽど忙しい激務をこなしているんだから、その分体を労わってもらわないと俺も気が気じゃないよ。ほら、早く着て。シュラに風邪をひかせるわけにはいかない」
「に、ニーチャァン……ッ!! ウチ、ニーチャンの神対応で今、めっちゃ嬉しい気持ちになったわぁ……!!! ニーチャンの優しさが身体の芯にまで染み渡って、もうこの気持ちだけで今年の冬を越せそうな気がするで……ッ!!!」
「あー……まぁ一応これ着ておいてくれるかな?」
ちょっと大げさな喜びを見せつつも、こちらの意図を汲んだシュラはパーカーを脱いでこちらに手渡してきた。
彼女のそれを受け取った後に自分はダウンジャケットを渡していき、シュラがそれを着込んで「ふぅ~……」と温もりで一息ついていく。その、快活で健康的な肌を持つ彼女の横顔をしっかり確認してから、自分は受け取ったパーカーを腕に掛けつつシュラへとそんなことを訊ね掛けていった。
「それにしても、急に肌寒くなったもんだね。冬が来たんだなってしみじみと実感するよ。龍明はこのくらいの時期になると一気に冷え込んでくるもんだけどさ、シュラの格好からして、関西とかの方はこの時期ってまだまだ寒くならない感じなのかな?」
喋っている間にも、口からは白い息が出始めていた大気中の気温。さすがにアウター無しでは寒くて仕方が無いという具合だったのだが、次にもシュラから飛び出してきた言葉に自分は一時的に寒さを忘れることとなる。
「関西? そないなことウチに訊かれても困るわ」
「え? あれ? いや、でもそれ関西の方言だよね?」
「せやな。せやけどウチ、関西出身やないで」
「え??」
「もっと言うとな、ウチ“此処”出身やねん。何なら、東京から出たこともないで。生粋の龍明市民や」
「え、ええぇ……??」
じゃあその喋り方は一体……????
告げられた新事実に、思わず思考停止してしまった。この様子にシュラは心から不思議そうな表情で首を傾げてきたものだったから、尚更と彼女の素性を謎に思えてしまえる。
そんな話をしている内にも、自分らはミネのいる広場に到着していた。
休日ということで、多くの家族が行き交う憩いの場。かと思われたが、どちらかと言うと不良のたまり場のようになっている、若くてヤンチャな印象を受ける少年少女が見られたその光景。
家族連れの御一行は、龍明の駅前という屈指の無法地帯を避けることだろう。それは、身内に危険が降りかかる可能性を考慮してのことなのかもしれないが、それ以上に龍明の学生は子供の教育にとても悪いケースが多いため、ほとんどのご家庭は龍明の駅前を避けて子供との外出に勤しむ。
で、馬のようなオブジェや踏み散らかされた花壇、ゴミが溜まったベンチという光景が広がるこの場所にて、自分とシュラは目の前の有様を見慣れたように周囲を見渡していった。
ミネはどこにいるかな。二人でうろつくようにして歩を進めていくその最中、シュラから「ニーチャン、おったで」という言葉を掛けられたことで自分はそちらへ振り向いていく。
そうして投げ掛けた視線の先では、同伴にも着てきた勝負服姿のミネが四名ほどの少年と話している様子がうかがえた。
同年代とも言えるだろう彼らは、黒色のレザージャケットや青色のジーンズ、ダボッとしたサルエルパンツやドクロマークのキャップといった、見るからにヤンチャな格好をしてミネと会話を行っている。そんな彼らを相手するミネは、どこかやり辛そうな表情を浮かべておりながらも、しかし揉め事のような雰囲気ではない様子で言葉を交わし合っていたようだ。
なんだろう、ナンパかな?
むしろ同学年? とも言える若さを放つ集団を視界に捉えながら、自分はシュラを連れてそちらへ歩き出していく。この靴音で一同が振り向いてくると、目が合ったミネがこちらに駆け寄りながらその言葉を掛けてきた。
「カッシー、シュラ。おかえり」
「ただいま。えっと、そっちの男子達は?」
「ん、気にしないで。クラスメートだから大丈夫」
何気無い喋り方ではあるものの、ミネはどこか彼らから隠れるような立ち位置で佇んでいく。
少女の様子に自分は「そうか、クラスメートか」と答えてから、彼らを見遣りつつそう話し掛けていった。
「話を邪魔したならごめんね。俺ら、彼女と合流する約束があったんだ。これから三人で出掛ける用事があるもんだから、これで失礼するけどいいかな?」
「あ、うっす。全然いいっす、全然。おれらも蓼丸のことを引き留めてすんませんっした。こっちは大丈夫なんで、三人で楽しんできてくだせぇ」
……なんか、腰が低い?
気のせいかな。と思いつつも、自分はミネの肩に腕を回しながら「それじゃあ行こうか」と言って踵を返していく。その際にも視線をシュラへと投げ掛けて立ち去ることを無言で告げていき、これにニッと微笑したシュラは去り際に彼らへとその言葉を残していった。
「悪いなぁ、自分らのマドモアゼルを取り上げるようなことをしてなぁ。やけどこのジョーチャン、ウチらの大切な“家族”でもあんねん。せやさかい自分ら、今日のとこはこれで堪忍してな」
家族。多少は大げさな表現だったかもしれないものの、ミネ本人はこの言葉にちょっとだけ嬉しそうな顔を見せていた。
シュラのセリフに、彼らが何度も軽く会釈するようにしながら「う、うっす。大丈夫っす」と返答してくる。それを最後に自分らは広場から離れていくと、少し歩いた先の駅前でミネがそのように切り出してきたのだ。
「……ありがと。ちょっと大変だったから、助かった……」
疲れたような声音のミネに対して、自分は「まぁ、何ともないみたいで良かったよ」と言葉を投げ掛けていく。
一方で、シュラはニヤニヤとした表情で少女の後ろから寄り掛かりつつ、女子特有の距離の近さで頭をくっ付けながらそれを訊ね掛けた。
「なんやなんや自分、えらくモテとったやないか~? 普段は平凡なJKアピールをしときながら、その裏じゃ男子達を虜にしとってぇ、さては自分、相当抜け目ないなぁ?」
「え、えぇ。違うよ、それは勘違い。絶対に無いって」
「アッハハハ!!! 謙遜すんなや~!! 自分でも解っとるんやろ? あれ、ウチ結構モテるんとちゃうか? ってなぁ」
「だから、それは本当に無いって! だってアタシ、前までアイツらに散々いじめられてたんだもん」
ミネの言葉を耳にして、自分とシュラは真面目な面持ちで少女を見遣っていった。
向けられた視線に、ミネはちょっと気まずそうな顔を見せていく。だが、自分達に打ち解けてくれた素直さから、少女は次にもそのことを話してくれたのだ。
「今でも忘れられないよ。アイツらとは小学校からの付き合いになるんだけど、その頃からアタシのことを困らせて遊んでた。アイツらに物を隠されることなんかいつものことだったし、大人の目が無い時はよく集団で殴られたり蹴られたりしてた。それで、中学に上がってからは陰口でアタシの悪いイメージを周囲に植えつけていって、校舎裏ではナイフやアイスピックで脅されて金を巻き上げられたこともあったんだよ……」
「……なんやそれ。犬のフンよりも価値が無い胸糞悪い連中やな」
「アタシも抵抗してアイツらと散々殴り合いの喧嘩をしてきたから、それで大人の男を素手で殴り倒せるようになったりもしたんだけど。でも基本アイツらには良い印象なんか全く無くって、むしろアタシの学校生活を台無しにした元凶だから憎く思えて仕方がなかったんだけどさ。……なんかよく分からないんだけど、いつからか急に態度が変わってアタシに手を出さなくなってきたんだよね……」
そういう連中に限って、そんなことがあるのか?
ミネの疑問に、同じく不思議に思った自分が「何か、心当たりは無いの?」と尋ねてみる。だが、これに少女は「うーん……どうだろ」と悩ましく答えて首を傾げたことから、自分とシュラもお互いに視線を合わせるようにしていく。
と、そこでミネはあることを口にしてきた。
「そう言えば……アイツらが手を出してこなくなったのが確か、半年前くらいだったかな……? 夏休みに入る直前みたいなとこで、急に味方面してくるようになったのがすごく気持ち悪かったのを覚えてるから」
「半年前? と言うと……時期的にちょうど俺とミネが出会ったりした頃か」
「そうかも。そんくらい」
その頃に一体、何が起こったとでも言うのだろうか。
ミネに危害が加えられなくなったのは喜ばしい限りであるのだが。しかし、彼らの動機が不明瞭であることもまた確か。
……このことをユノさんに相談でもしてみるか?
内心で色々と考えを巡らせている間にも、自分の脇ではシュラがミネに抱き付いて、「辛い思いをする中で、ほんまよう頑張ったなぁ」と少女の頭を撫でる様子が繰り広げられていく。
まるで妹を労わるかのようなシュラの慰めに、ミネはちょっと困惑したサマで撫でられていた。で、次にもシュラは急に姿勢を正してくると、ミネの手を取りながらそれを切り出していったのだ。
「よし、決めたわ!!! ウチ、ジョーチャンに『幸せぇ~!』思うてもらいたい!! せやさかい自分ら、これからジョーチャンの大好物をたらふく食えるバイキングの店にでも行くで!!! ジョーチャン今なに食べたい!?」
「え、ええぇ?? ね、ねぇちょっと待って急すぎない?」
「ええから!!! 今なに食べたい!? ほなら持ち帰りでもええ!! せやさかい遠慮せずウチに言うてみ!! な?」
「っ…………じゃあ、ケーキ……」
「ケーキ!!! ええなぁ!! ほならニーチャン、寄り道するで!!! ウチが全額持つさかい、ウチがコンビニからお金下ろしとる間にニーチャン達は店探しを頼むわ!!」
爆速で進み始めた会話の内容に、自分はついていくのが精いっぱいといった調子で「え? あ、あぁ……!」と相槌を打つことしかままならない。
で、返答を聞くことなくコンビニへ駆け出していたシュラは、こちらへ振り返りながら「ええか! ケーキバイキングや!! ほな、頼んだで~!!」という大声を響かせて、その忙しない様子のまま走り去ってしまったものだった。
……何というか、嵐のような人だよなぁ。
取り残された自分とミネが、ポカンと唖然しながら暫し立ち尽くす。だが、困ったなぁという思いで少女と目が合うと、直にもお互いに苦笑が巡ってきて、次にも二人でスマートフォンを見ながらケーキバイキングの店を探し始めたのであった。
事前の予約が無くとも利用できるお店があって助かった。
宝石のようにキラキラと光る、可愛らしくて甘美なスイーツの数々。既に取り終えたそれらが皿に並んでいる光景は、この世における至福のひと時をもたらしてくれる。
ホテル内の一角で営業しているスイーツ専門店。高級感を醸し出す内装に囲まれた中で、自分らのテーブルの上に広がった多彩なケーキの数々にミネは瞳を光らせていく。
いつもの取り繕ったような不愛想も忘却した眼差し。どれを食べようか迷う視線と、今すぐに食べたいとうずうずしている様子が純粋無垢を思わせる。そんな少女に寄り添うよう隣に座っていたシュラがミネを見遣っていくと、穏やかな視線を投げ掛けながらそれを口にしていった。
「遠慮なんか要らへんから、好きなだけ食べやジョーチャン。なんやったら追加で新しいケーキを持ってきてもええし、それ含めて残った分は全部持ち帰るさかい、今はジョーチャンが食べたい思うたケーキを存分に堪能するとええわ」
「わぁ、すごい……っ夢みたい……! ……でも、持ち帰るのって個数毎に別料金かかるでしょ……?」
「んなもん気にせんでええって。せやから、はよ食べや。な?」
「あ、ありがと……!! それじゃあ……いただきます!」
透明なピンク色のナパージュが可愛らしいケーキを取って、それをフォークで食べ始めたミネ。そうしてスイーツを口に入れた瞬間にも、少女は左手で頬を押さえながら、幸せの絶頂とも言える蕩け顔で満足げに堪能し始めた。
ミネってこんな顔もするんだなぁ。
落ちそうな頬っぺたを持ち上げているような動作。これに内心でそう思いながらも、自分は少女の食事をまじまじと眺めていく。
で、その最中にも穏やかな面持ちのシュラがこちらを見遣ってくると、次はこちらへと言葉を投げ掛けてきた。
「ニーチャンも遠慮なんかせんで、ぎょうさん食べや。何せ今日はウチの奢りやからな!」
「あぁ、そうするよ。ありがとうシュラ。……ただ、懐的に大丈夫なの? バイキングは安くなんかないからさ」
女性に奢らせてしまうのも、ちょっと気が引けてしまうところがある。
それを思って、ついつい確認してしまったこちらの問い掛け。これに対してシュラは微笑してくると、「そないなこと気にせんでもええって」と返答してから次にもそう喋り続けてきたのだ。
「んまぁ、ウチのこと気に掛けてくれてありがとなぁニーチャン。やけど、ウチの心配なら要らへんよ。如何せんウチ、ホステスとは別にちょっとした副業もしておって、そこでたんまり稼いどるからなぁ」
「副業?」
「せや、副業。……ここだけの話な、ウチ、その界隈でけっこうな有名人なんやで??」
「へぇ、そうなんだ。どんな副業なんだろう。ちょっと気になるなぁ」
ハッキングの技術に長けたシュラのことだから、その知識を活かしたコンピューター関連の副業でもしているのかな。
すぐに思い付いた予想を脳裏に浮かべながら、自分は目の前でiPadを弄り出したシュラを見遣っていく。その彼女が端末を見つめながら「ニーチャンのチャットに送信しといたで」と教えてくれたものだったから、シュラの言葉通りに自分はSNSを開いて彼女との会話画面を開いていく。のだが……。
……そこに届いていたURLを見て、あまりにも予想外すぎる文字列から自分は暫し唖然としてしまったのだ。
それは、世界規模で展開される大手のアダルト動画サイト。大人向けの動画を自由に投稿できるサイトの名前を三度見ほどしてから、自分はうかがうようにシュラへと訊ね掛けていく。
「えっと……シュラ、送るURLを間違えたりしてないかな……?」
「? 別になんも間違っとらんで?? それがどないした??」
「いやでも、これ、アダルトサイトでは……?」
「そうやで?? ニーチャンもオトコなら知っとるやろ??」
「ま、まぁ、利用したこともあるけどさ……」
どうやら、URLは間違っていないようだった。
本人の確認を取り次第に、自分はURLを開いてその内容に目を通し始めていく。
個人のチャンネルと思われるそのページ。ここでは、アカウントのアイコンや投稿された動画などが表示されているのだが、そのアイコンがとても見慣れた人物の黒マスク姿であることが容易に分かってしまえて……。
「…………これ、もしかしてシュラ?」
「おぉ!! ニーチャン察しがええなぁ!!! せやで、それウチのアカウントやねん。どうや?? ウチのアダルティなナイスバディ、猛烈に炸裂しとるやろ!!」
動画のプレビューで流れてきた、健康的な裸体の女性が一人行為に浸るその様子。ソロプレイの動画で埋め尽くされた投稿履歴が目立つアカウントであり、それらの中には生配信とも思われるだろう長時間の動画も混ざっていて、再生回数も動画によっては六桁などに到達している。
……いや、一人行為の動画で七桁に達しているものも見受けられた。
「なるほど……副業って“コレ”のことだったのか……」
「なんやニーチャン、そないな顔をして。今も世界を虜にするウチのえっちぃ姿が見放題なんやで?? それも、目の前にはご本人降臨済みや。せやから、もぉ少し喜んでもらえるとウチは嬉しく思うんやけどなぁ~」
「いや、ずっとシュラに魅力を感じていたから、正直に告白するとやっぱり嬉しい気持ちは否めないところがあるよ。ただ、食事中に見るべきじゃなかったかなって思って……」
「あぁぁ!! それもそうやな!!! 気が利かのうてすまんかったニーチャン!!! どーしてもニーチャンにウチのこと知ってもらいたい思うて、つい先走ってもうたわ!!!」
今もプレビューで流れている、玩具を使用して快楽を得ている卑猥な映像。動画のつくり自体は、明るいハイライトがとても綺麗であり、映っている個室も清潔感が溢れるもこもことした女子の部屋というもの。如何せんそのモデルの身体がしなやかなボディラインを象っており、モザイク処理によって大切なトコロはぼやけているのだが……。
……まぁ食事中であることも確かなので、このことに関してシュラは両手を合わせ、本気で謝りながら必死に頭を下げていた。
これに対して、自分はなだめるようにしながら「大丈夫だよ」と許していく。それを受けて彼女はパーッとした表情で安堵のサマを見せていくと、次にもなんだかすごく嬉しそうな顔をしながら思い付いたように言葉を口にしてきた。
「ほんまか!? ありがとぉニーチャン!!! あ、せっかくの機会やからニーチャンにお願いしたいんやけど、気が向いた時にでもニーチャン、ウチの動画再生してくれへんかな??」
「動画を? それは構わないけど、なんか俺に見られるのってシュラとしては気まずくない……?」
「そないなことあらへんって!!! むしろな、ニーチャンにならウチの裸舐め回すようにぎょうさん見てもらいたい思うとるし、何なら毎日オカズにされたいとも思うとるくらいなんやけど……ニーチャン的にはどないやろ? やっぱあかん、かな……?」
「いやいや、シュラが気にしないならまぁ。それじゃあ目を通させてもらおうかな……?」
「ほんまか!? ありがとぉぉニーチャァン!!! んまぁ、動画広告の収益で稼がせてもうてるから、ニーチャンにそのお手伝いをしてもらえたら嬉しいなぁとも思っとったんや」
「あーそういうことか。これがシュラのご飯に繋がるのなら、喜んで再生させてもらうよ」
「ほんまか!!! うはぁ!! ほんま、ニーチャンには感謝してもしきれへんなぁ!!! こないに寛容やとウチ、ニーチャンのこともっともっと好きになってまうわぁ~!!!」
なんというか、シュラは思ったことをそのまま口に出すタイプなのかな……とも思えてきた。
シュラという人物のことが、少しずつ分かってきた気がする。心なしか感じられた進展に自分の中で納得しながら、この時間はミネとシュラの二人と甘美なひと時を過ごしたものであった。
ケーキバイキングを終え、手に提げた持ち帰りのスイーツの袋と共にアパートを目指す一向。その道中でもミネとシュラがガールズトークに勤しんでいたのだが、ふとミネは真剣な表情を見せていくと、ちょっとカクカクとした動作でこちらに振り返りながらそれを告げてきた。
「……あの。えっと……と、トイレ……っ!!!」
「え? あーっと……ちょうどいい、あそこにコンビニがあるから行っておいで」
「あ、ありがとカッシー……! い、行ってくる!!!」
けっこう切羽詰まってる。内心でそう思った時には既に、高速で建物に駆け込んでいたミネの姿。
確かに、ケーキすごいいっぱい食べていたもんなぁ。ミネは大食いでもあるから、異次元のような胃袋で料金以上のスイーツを平らげていたものだったけれど……。
それを心の中で呟きながら、シュラに「近くで待とっか」と伝えて二人でそちらに歩み寄っていく。で、その最中にも彼女は思いついたようにしながら「あ、せやったらウチ、軽く晩酌のおつまみセット買ってくるわ!!」と言って、その足でコンビニへと入っていった。
自分は入り口で待機していよう。それを思って、監視カメラの前にあるガードパイプに腰を掛けて空を見遣っていく。そうして視界に広がった曇天模様を眺めていると、ふと、ひしひしと迫り来るような気配を感じられたのだ。
すぐさま、気配の方向へと視線を投げ掛ける。すると、その先から真っ直ぐとこちらを目指してきた“中高生くらいの人物”が、男女の区別もつかない中性的な声音で喋り掛けてきたのだ。
「やぁどうも。こんにちは、お兄さん」
「どうも。……えっと、君は?」
百六十二くらいの背丈である人物。黒色のキャップを深く被っていることから、その目元が隠れてしまっている。
幼い容貌を思わせる顔の輪郭と、雪のように色白な柔肌。それ以上に特徴的だったのが、ガラス細工のように透き通った銀色のショートヘアーというものであり、それのもみあげが胸元辺りにまで伸びている。
人物の全体像はと言うと、着ているアウターは腕部分が膨れ上がった黒色と灰色のスタジャンに、前を開けているそこからは水色のTシャツと、ジャラジャラと首にさげたチェーンのようなネックレス。また、身に付けている膝丈までの黒い短パンはメンズものであり、しかし防寒の黒色タイツからうかがえる細身の脚が、どこか女々しさを思わせる。
他、黒色と水色の運動靴に、腰にもジャラジャラとつけたチェーンのアクセサリー。後は、左手の五本指すべてに銀色の指輪が嵌められていたりなどなど、ヤンチャなストリート系という印象をうかがわせる風貌の人物が、いきなりこちらに声を掛けてきたのだ。
加えて、その喋り方はどこか仰々しい。いや、貴族風の喋り方とでも言えるのだろうか。放たれている雰囲気も王子様を想起させ、余計に中性的な印象を与えてくることから目の前の人物が計り知れなくなる。
だが、その人物が歩いてきた先を見て、自分はある程度と情報を得ることができた。
先ほどにも出会った、ミネのクラスメートという四名の男子達。ついさっき顔を合わせたメンツと目が合ったことから、向こうは腰の低い感じに会釈を行ってくる。
投げ掛けていた視線を彼らから戻していって、再び目の前の人物へと向けていく。そんな一連の動作を見ていた目の前の人物は、次にもキャップのツバを右手で摘まむようにしながら喋り出してきた。
「急にすまないね。ボクの仲間が、キミ達に無礼を働いていなかったかだけを確認したくてね。その真偽は本人達からうかがった方がより正確だと考えたんだ」
「特にこれといったことはされていないよ。ただ、俺の連れが彼らに良くない印象を持っている」
「蓼丸菜子のことだね」
ミネもとい、菜子を知っている人物。返ってきた言葉に自分は一瞬だけ口を噤んでから、次はこちらから問い掛けていく。
「君は菜子ちゃんのクラスメート?」
「あぁそうさ。尤も、彼女とはそれほど面識も無い、飽くまで同じクラスの生徒という程度の関係性であるのだけどね」
「率直に聞くけれど、君も菜子ちゃんをいじめていた連中の一人なのか?」
「ボクが菜子を? それは誤解さ。ボクは、やられたらやり返すのを信条としているのだけどね、その中で菜子に因縁を吹っ掛けられたことは一度として無いな。つまり、ボクは菜子に対して”報復”を行ったことなんか一度も無い。これは本当のことさ。そもそもとしてボクと菜子は、入学してから全く会話を交わしたことがないからね。向こうがボクを避けていることも含めて、ボク達はほぼ赤の他人のような関係性なのさ」
「…………」
喋り方も相まって、それが真実かどうかの区別がつきにくい。
だが、ここで疑ったところで何も進展しないだろう。そう考えた自分は「まぁ、分かったよ」と答えていくと、この返答に目の前の人物は「理解してくれてありがとう。キミの寛大な姿勢に、心から感謝するよ」と、どこかで聞いたようなお礼を告げられた。
すぐにも、その人物は踵を返すようにしていく。そして直後にも、こちらへ振り返るようにしながらそのセリフを放ってきたのだ。
「キミと話ができて本当に良かった。また後日、キミの下に顔を出すとしよう。その時はもっと、周りのみんなと一緒に踏み込んだ話ができるといいな。そういうことだから、日を改めてまた会おうじゃないか。キミもそれでいいかな? “柏島長喜の息子さん”」
「……ッ!?」
その言葉を耳にして、咄嗟に立ち上がって警戒した自分。そして、既に仲間の彼らへと向かって歩き出していたその人物の背を見遣りながら、自分は途端に巡ってきた緊張感に冷や汗を流し始めていった。
……俺の親父の名前を出してきた。それも、俺が柏島長喜の息子であることも認知している……。
鳳凰不動産か? それともまた別の裏組織か?
巡る疑念が一層と、背を向けて歩き去る得体の知れない存在を捉え続けていく。そうして深追いせず自分はただ立ち尽くしている間にも、“それ”は待たせていた仲間と共にこの場を後にして、ゆっくりとその姿を消していった。
……自分が知らない間にも、柏島歓喜という存在は今、現在進行形で裏の社会に知れ渡り続けている。
それを改めて実感すると共にして、あのような素性の知れない人物が、再びこちらの前に現れることを宣告してきた恐怖感に苛まれた。
これに自分は、身の毛がよだつ思いをしていく。しかし、こちらの思いとは裏腹に運命というものは実に数奇なもので、この宣告からそう遠くない内にも自分は再び、“あの人物”と出会うこととなったのだ。