※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

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第38話 De Nouvelles beautés 《新たな美女その3》

 煌びやかな照明の下、今宵のLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)も多くの客で賑わっている。その空間に混じる当事者の自分もまた、接待してくれていたタキシード姿のメーと他愛ない会話を交わしていたものだ。

 

 ラミアやユノと同様に、半年以上もの付き合いとなった彼女。しかし話は尽きることなく、中身の無いやり取りで互いに笑い合ったりなどすることで、お客以上の親密な関係を築いていたのかなと思えていた。

 

 そんなメーと話していく中で、微笑を見せていた彼女は一呼吸置くように「はぁ~」と口にしてから喋り出してきた。

 

「いやぁ~、それにしてもあれですなー。やっぱりカンキ君が相手だと気楽にやれるから、束の間の休息って感じでお仕事って実感が湧いてこないんだよね~。所謂ボーナスステージってやつ?」

 

「うーん、それって良いことなのかな……?」

 

「良いことでしょ。だって、いつもしてるようなお話しをしてるだけでお給料が発生するんだもん。そんなんだから、カンキ君の接客は取り合いみたいになってるんだよ? 主にラミアとかレダとか、いつもの面子とね」

 

「裏でそんなことになってたの? 嬉しいような、ちょっと複雑に思えてくるというか」

 

 そりゃあ、気の知れた知人と会話しているだけで給料が発生するなら喜んで飛び付くよな。

 

 彼女達の気持ちがよく分かるなぁと、内心でひとり頷いていく自分。その間もメーへと視線を向けていると、次にも彼女は急にこちらをうかがう瞳を見せてくるなり、勝気でありながらもしおらしいサマでそれを訊ね掛けてきたのだ。

 

「……ねぇカンキ君」

 

「メー、どうしたの?」

 

「あー……あは、いやぁなんでも? たださぁ~……また付き合ってくれると嬉しいなぁ? なんて思っていたり?」

 

「同伴? 一応、今月分のノルマは達成できたんだよね?」

 

「それは先月の話だってば」

 

「え? あぁそうか。あの日は月末とかで、今は既に月を跨いでたか」

 

 メーと夜を共にした、あの日の同伴。彼女の言葉によって当時の記憶が巡ってくると、脳裏で再生されたメーのあられもない姿を思い出すなり、自分はちょっとだけ気まずくなって俯いてしまった。

 

 こちらの反応に、メーもまた苦笑いで誤魔化してくる。だが、様子を見るような互いの視線が合わさったことで暫し見つめ合っていくと、次にも熱を帯びた声音でメーからそれを話し始めたものだった。

 

「……あは、ちょっと何なのその目。んも~、カンキ君のえっち」

 

「え、俺?? むしろ、酒で酔っ払いながら誘ってきたメーの方がエロいと思うんだけど」

 

「だぁぁあああ!!!! その話はダメだって!! 禁止カード!! ズルい!!!」

 

「メーから誘ってきたのに、あの夜はずっと俺に責められてばっかりだったよね。所謂、誘い受けってやつかな?」

 

「んなぁぁああぁ!!!! ねぇちょっと待ってよカンキ君それ恥ずいからダメだって~……」

 

 苦笑交じりの返答だったが、メーは満更でもなさそうな表情でちょっと恥ずかしそうにしながら言葉を続けてくる。

 

「……控えめに言ってね、最っ高に気持ち良かった。いつものえっちとは全然違くって、あの日はすっごい興奮しちゃってたなぁ」

 

「自分でもちょっとやりすぎかなって思うくらいに襲ったもんだけど、あれで興奮してたんならメーはやっぱりMなのかもしれないね」

 

「正直、それ自覚し始めてるトコある。まだ信じられない部分はあるし、私にいじられるのが大好きっていうM気質なお客の相手が多かったから、なんかされる側は慣れないところもあるっていうかさぁ」

 

「まぁこれから慣れていけばいいんじゃないかな」

 

「それ、遠回しに私のこと求めてくれてる?」

 

「メーが嫌じゃなければね」

 

「ふーん? じゃあまた、私の同伴に付き合ってもらおっかなぁ~?」

 

 テーブルに肘をつき、手に頭を乗せて勝気な笑みを見せてきたメー。彼女の様子に自分も微笑を浮かべてから、ふとそれを訊ね掛けていく。

 

「あのあと朝にもシたけれどさ、あれってやっぱ、メー的には不快に思ったりしたもんなのかな……?」

 

「あー、寝起きの私に興奮して襲ってきたやつのこと? 別に? むしろすっごい興奮したから特に気にしてないけど?」

 

「そっか、それなら良かった。いやね、寝起きのメーがやけにエロく感じられてつい」

 

「あれ、朝なのに夜の時よりも激しくてマジ笑っちゃった。でも私もね、『カンキ君、私のこと本気で孕ませに来てる……』って考え始めちゃったりもしたんだよね。だから私もあの時すっごく気持ちよくなってきちゃって、今もあれ思い出すだけでお股疼いたりしてくるんだよ? ……あぁそうそう。あの時はごめんね。噴いちゃったやつ、目に入ったりしたよね?」

 

「あぁ全然、気にしなくてもいいよ。ただ本当に噴水みたいになってたね」

 

「私、噴きやすい体質なんだよね~。それが悩みでもあるんだけどさー、相手からはむしろ興奮するって言われてるから、これって良いのか悪いのか……」

 

 もはや、このような会話をすることにも抵抗が無くなってしまった自分。

 半年前の自分にこのことを説明しても、絶対に信じてもらえないだろうなぁ。と、心の呟きを交えながらメーとお喋りに興じていた時のことだった。

 

 せかせかと歩み寄ってきたボーイが、メーへとハンドサインを送って彼女に耳打ちを行っていく。これにメーは「おっけー」と言ってからボーイはこちらへと一礼し、足早にこの場を去っていった。

 

 続いて、メーは椅子から腰を上げながらこちらへと言葉を掛けてくる。

 

「ごめんねカンキ君、指名が入ったからそっち行ってくる」

 

「大丈夫だよ。頑張ってきて」

 

「はいはーい。さ~てと、ちょっくら頑張ってきますかぁ~。それじゃあねカンキ君、また後で」

 

「また後で」

 

 手を振ってきたメーへと手を振り返して、これに勝気な表情で笑んでみせた彼女は背を向けてから、他のテーブルへと歩き出していった。

 

 メーを見送った自分は、一息つくように烏龍茶を飲んでいく。そのコップをテーブルに置いてからふぅっと息をついていき、次に店内を見渡すことで今も接客に勤しむホステス達へと内心でエールを送っていく。

 

 だが、直後にも自分の下に“ある人物”が訪れた。

 

 それは、あまりにも唐突だった。

 どこからともなく感じられた人の気配。これに違和感を覚えると同時にして、こちらへと歩み寄ってくる一つの存在が目についた。

 

 百六十二くらいの背丈である人物。黒色のキャップを深く被っていることから、その目元が隠れてしまっている。

 

 幼い容貌を思わせる顔の輪郭と、雪のように色白な柔肌。それ以上に特徴的だったのが、ガラス細工のように透き通った銀色のショートヘアーというものであり、それのもみあげが胸元辺りにまで伸びている。

 

 着ているアウターは腕部分が膨れ上がった黒色と灰色のスタジャンに、前を開けているそこからは水色のTシャツと、ジャラジャラと首にさげたチェーンのようなネックレス。身に付けている膝丈までの黒い短パンはメンズものであり、しかし防寒の黒色タイツからうかがえる細身の脚が、どこか女々しさを思わせる。

 

 他、黒色と水色の運動靴に、腰にもジャラジャラとつけたチェーンのアクセサリー。後は、左手の五本指すべてに銀色の指輪が嵌められていたりなどなど、ヤンチャなストリート系という印象をうかがわせる風貌の人物……。

 

 ……以前、コンビニの前で接触してきた存在だ。

 こちらのことを『柏島長喜の息子さん』と呼んできた、自分の正体を知る不敵な人物。未だ計り知れない眼前のそれに自分が警戒を強めていくと、その存在はこちらにお構いなしといった具合に中性的な声音で喋り出してきたのだ。

 

「やぁ、こんばんは。とても楽しそうに会話をしていたね。彼女とはどんな話をしていたのかな?」

 

「…………っ」

 

 明らかな緊張感が相手にも伝わっていたのだろう。ジリジリとするこちらにその存在は足を止めていくのだが、次にもこのテーブルに腰を掛けながら言葉を投げ掛けてきたのだ。

 

「大丈夫さ、そんな露骨に警戒しないでくれ。ボクはキミに対して敵意など持ち合わせていない。友好的なんだ。少なくとも今はね」

 

「……そういうところが胡散臭いんだけどな」

 

「やっぱりキミもそう思うのかい? うーん、困ったものだな。よく周囲からそのような言葉を掛けられるのだが、ボクにはまるで心当たりが無くてね。どうしたものか」

 

「それで、何しに来たんだ? 少なくともここはあんたの席じゃないはずだ」

 

 テーブルに座ってきたその存在を見上げる形となった今の状況。そうして向けたこの視線からは、帽子のツバで隠れていた相手の目元がしっかりと見えていた。

 

 水晶のように透き通った、清涼感のある水色の瞳。宝石の如く輝くその球体は、美しいがあまりに向いている方向の景色を鮮明に反射していた。

 

 向かい合う自分の顔が、その水色の瞳にしっかりと映し出されている。

 まるで鏡だ。濁りなく反射してくるそこには、緊張と恐怖に染まる自分自身を確認することができた。だからこそ余計に動揺したこちらの様子を見て、その存在は付け入るように言葉をぶつけてきた。

 

「そんなつれないことを言わないでくれよ。先日にもボクは伝えたはずだ。『また後日、キミの下に顔を出すとしよう。その時はもっと、周りのみんなと一緒に踏み込んだ話ができるといいな。そういうことだから、日を改めてまた会おうじゃないか』と。あの日に交わした会話の内容は、一語一句違わずに覚えているよ」

 

「そんなに会話の内容を覚えているのなら、俺がまだそれに同意していないことも覚えているんじゃないのか?」

 

「キミの返事を待っていたら、時間切れになってしまうかもしれないからね。少々と強引なやり口になってしまったものだが、どうか許してくれ。ボクには、キミとの親睦を深める時間も残されていなかった。今はそれほどまでに、一刻を争う状況なんだ」

 

「……何の話をしているんだ?」

 

 次の時にも、こちらへ接近する別の靴音がコツコツと鳴り響いてきた。

 

 店内で聞き慣れた、床で反響するように伝う音。これだけで悠々とした人柄を想起させてくると、直後にもそうして歩み寄ってきたタキシード姿のユノが言葉を掛けてきたのだ。

 

「他のお客様の迷惑になる行為は固く禁じております。今すぐに元の席へお戻りください」

 

 凛とした声音に、自分と相手がユノへと振り向いていく。

 

 かと思えば、テーブルに座るその存在は感極まったようにそう喋り出していったのだ。

 

「あぁ……! ユノ……!! 久しぶりだね……っ!! 三年ぶりとも言えるだろうか……! キミに会いたかったよ……!」

 

「ここは貴方が来るべき場所ではないわ。代金は私が肩代わりするから、即刻去りなさい」

 

「久方ぶりの再会だと言うのに、そんな冷たい態度でボクのことを突き放さないでくれよ……! ボクはずっと、キミに会いたいと思っていたんだ……!!」

 

 どこか仰々しく喋る相手に対して、ユノは目を細めながら威圧のオーラを放っていく。

 

 ユノさんの知り合いなんだろうか。そう思って自分は眺めていると、ユノに続いてその後ろからはスーツ姿の荒巻がのこのこと歩いてきたのだ。

 

 前を開けっ払ったスタイルで、物珍しげな視線をサングラス越しに向けながら彼も話し出していく。

 

「おぉ? なんだなんだ。揉め事かと思って顔を出してみりゃあ、とんだサプライズゲストがお目見えになってるじゃねぇか」

 

 ズボンのポケットに手を突っ込んだオーナーの彼を見て、テーブルに座っていた相手は身を乗り出すようにしながら荒巻との会話に臨んでいく。

 

「やぁ! 会うのは久しぶりだね荒巻!!」

 

「おう、オマエさんにも色々と世話になったな。……だが、オマエさんがこの店に来てるっつーのは、ちとオレちゃんにとって不都合とも言えるもんよ。ってことで悪いが、さっさと出てってくれねぇか? 世間話なら表で付き合うからよ」

 

「荒巻までそんなつれないことを言わないでくれよ。ボクはこのお店に用があって来たんだ」

 

「この店に用って……オイオイオイ待ってくれや、だからっつってオマエさんがこんなとこにいるとな、万が一これを“オヤジさん”に知られた時がおっかねぇ。娘の教育に悪いとか因縁吹っ掛けられて店を物理的に潰されたりしたら敵わねぇんだからよぉ」

 

「むしろその逆さ。オヤジはボクを“この店に預けたがっている”」

 

「んあ?? 預けるだぁ??」

 

 後頭部を掻くようにする荒巻。これを聞いていたユノが軽く腕を組みながら相手を見遣っていくと、冷たいというよりは淡々とした調子でそれを訊ね掛けていったものだ。

 

「どんな理由があろうとも、貴方はカタギとしてこの店に関わるべきではないわ。……それとは別にして、“貴方のお父さん”は何故この店に愛娘を預けようとしているのかを伺ってもいいかしら」

 

「その様子だとキミ達、“銀嶺会”の近況に相当疎いらしいね。いいよ、そこの説明から始めようじゃないか」

 

 銀嶺会?

 龍明を拠点にして活動を行っている、関東一のヤクザ組織。突然と出てきた組織の名前に意識が向いていくと同時にして、ユノという人物が元銀嶺会本部若頭補佐という経歴を持っていたことを思い出した。

 

 自身の組も持っていた彼女は、表情を険しくしながらテーブルに座る人物を見遣っていく。その隣で荒巻も直視するように佇んでいた。

 

 ……あれ? というかユノさん、今、この人物に対して“愛娘”という言葉を使った……?

 

「銀嶺会は近々、抗争を起こすつもりでいるんだ。ユノなら何度か経験しているだろう? 龍明の街中で火炎瓶やダイナマイトとかを投げ合うあの派手な戦いのことをさ」

 

「銃火器も使用されて、お互いの勢力に多数の死者をもたらすろくでもない争いよ。この抗争の影響で龍明の悪名が全国に広まったようなものだけれども、今年もそれを引き起こすつもりでいるのね」

 

「ユノが去った後の銀嶺会は、目に見えて弱体化してしまったからね。だからこの三年間は、それを好機と見た多数の裏組織が銀嶺会を潰すべく躍起になっている。その影響でどうしても抗争の回数が増えてしまうんだ」

 

「私のことはともかくとして、例年通りとも言える争い事でしょう。ならば、貴女がこの店に預けられる理由との関連性を感じられないわ」

 

「で、ここからが本題だ。ユノ、こうしてボクが預けられるに至った経緯はね、その今回の抗争相手にあるのさ」

 

「だからとは言え、銀嶺会でしょう? 関東一の巨大な勢力を相手にして、貴女の身柄が預けられるほどの脅威をもたらす組織だなんてそれこそ…………。……っ」

 

「気が付いたみたいだね。そうさ、銀嶺会が今回かち合う相手は、例の“鳳凰不動産”さ」

 

 答え合わせと言わんばかりの返答を耳にして、自分らは一斉に表情を変えて深刻な視線を向けていった。

 

 鳳凰不動産も、裏組織と繋がりを持っているなどの話を何度か聞いていた。それでいて、現在進行形で俺はその鳳凰不動産に狙われている身分でもある。

 

 加えて、柏島長喜の息子である自分を拉致する計画で、実際にシュラがこの店に送り込まれていた。そういった今現在でも因縁のある組織の名前に緊張感が漂い始めていくと、この空気に銀髪の少女は清涼感ある笑みを浮かべながら喋り続けてくる。

 

「ユノと荒巻が知る通りに、柏島長喜の活躍を以てしてもなお、鳳凰不動産は懲りずに未だ龍明の支配を目論み続けている。むしろ、彼に邪魔されたことによる復讐心で、一層と勢力を増した様子だ。それで、ボクら銀嶺会も彼らとは以前から争い続けているものだけれどね、でも最近はその勢いが急激に増していて、とても手が付けられない状況に置かれている。何なら、正直いつ銀嶺会本部が落とされてもおかしくない圧倒的劣勢に立たされているとも言えるね」

 

 極道でもない、一般企業としての面を持つ鳳凰不動産。だが、その裏では関東一のヤクザ組織をも追い詰めるほどの力を持っているだなんて、これほど恐ろしい話はそうそうない。

 

 圧倒的な劣勢とも言える少女の説明を聞いて、荒巻がそれを問い掛けていく。

 

「っつってもよぉ、パワーダウンしたとはいえ銀嶺会もこの三年間は上手くやっていけてたもんじゃねぇか。それがよ、次の抗争で急に。それも、よりにもよってユノちゃんのいる場所に“組長の娘”が預けられる話が出てくるなんてよ、それこそオレちゃん裏を勘ぐっちまうね。要は、とにかくこの店に入り浸って、その間にあーだこーだと促すことでユノちゃんを銀嶺会へ連れ戻そうって魂胆でいるんだろ?? 銀嶺会がなめられるようになったのも、ユノちゃんが組織を去ってからだもんなぁ?」

 

「もちろん、ユノが銀嶺会に戻ってきてくれるなら大歓迎さ!! あの時は仕方なかったとはいえ、オヤジはユノに破門を言い渡したことにしばらく落ち込んでいた様子だったよ。惜しい人材を失ったってね。だからユノ、この際だからぜひとも銀嶺会に戻ってきてくれないかな? そしてもう一度、銀嶺会にあの頃の輝きと活力をもたらしてもらいたい!!」

 

 熱烈に語る少女は、仰々しい言動でユノへと右手を伸ばしていった。

 

 その左手を胸に当てた、まるで映画などで見かける愛の告白のワンシーンのようなそれ。ロマンチックというか大げさというか、演者のような少女は清涼感あふれる存在感でヘッドハントを行うのだが、これを受けてユノは「嫌よ」と即答したものであった。

 

 ユノの返事に、少女はガクッと肩を落としながら残念がっていく。そんなユーモアを交えながらも少女はキャップの位置を直すようにしていくと、再び顔を上げながら仕切り直すように喋り出していった。

 

「まぁあれだよ、今回の目的は本当にユノのヘッドハントではないことは理解してもらえるかな。何だったら、ボクのオヤジに直接問い合わせてもいいくらいだ。それくらいオヤジは本気で、ボクの身を案じてくれている。……荒巻なら解ってくれるだろう? 以前にも大規模な抗争が勃発した際に、オヤジは目の仇にしていた柏島長喜にボクを預けた。あれも三年くらい前の出来事だったかな」

 

「結局、銀嶺会だけじゃあどうにもならなくなっちまったあの抗争だな。当時の本部若頭が頭から血を流しながら探偵事務所に駆け込んできやがって、そこで救援要請された柏島さんとオレちゃんと、破門させられて行き場が無かったユノちゃんの三人で加勢に加わったあの戦闘だ。そこでユノちゃんに差し向けられた殺し屋のクリスちゃんも依頼主に見捨てられて、それからこっち側についたことでしばらく四人で行動してたモンだったな……」

 

「ボクの推測に過ぎないけれどね、今回の抗争はおそらく、その三年前のよりも熾烈な争いになりそうな予感がするんだ。何せ、前回と違って今回の銀嶺会は、龍明に留まらず関東中の傘下のヤクザに参加を呼び掛けているからだ。そんな、もはや戦争とも言えるだろう争いが直に龍明で繰り広げられる可能性がある中で、オヤジはボクの安全を最優先にして色々と考えてくれたんだ」

 

「そこで下した決断が、三年前の抗争の劣勢をたった四人でひっくり返した、オレちゃんユノちゃんクリスちゃんのレジェンズに預けるっつーモノだったワケか……」

 

 しれっと、とんでもない会話が展開されていたような気がした。

 

 三年前にも起こったという大規模な抗争。これは自分の記憶に留まらず、日本で起きた大事件として記録に残された、歴史的な出来事の一つでもあった。

 

 当時も龍明に住んでいた自分は、避難勧告によってシェルター付きの公民館に誘導されたことがある。その時点では最初こそ、『いつものヤクザ同士の抗争なんだからここまでするのは大げさだろう』と高を括っていたものだ。

 

 しかし、いざ開戦となると状況は一転。それは戦争とまるで違わない戦闘音が絶えない抗争となり、銃火器の発砲音や爆発音がそこら中で響き渡った空間において、当時は本気で死ぬ覚悟をしながらその数時間を過ごしたものでもあった。

 

 警察も介入できないほどの激しい抗争。歴史に刻まれたその事件は『龍明抗争』と名付けられて、中学校の歴史の教科書に載せられているらしい。

 

 今回こうして立ち会った会話の内容は、おそらく学校の教科書にも載っていないものだった。それでいて、たった四人の人間が劣勢をひっくり返しただなんて事実も、未だ事件を掘り返し続けるニュースでも一切報道されていない。

 

 ……しかも、その四人のメンツの内の三人がこの店に集結していて、残る一人に関しては自分の父親…………。

 

 運が良いのか悪いのか分からない。願わくば、自分はその因果と無関係であってほしい……。

 

 段々と憂いに思い始めてきた自分。その間にも目の前では三人の会話は進められていて、最初は否定的だったユノも次第と眉をひそませて仕方なさそうな雰囲気を醸し出してきたことから、荒巻は後頭部を掻く動作を交えつつそれを言い渡してきたのだ。

 

「ったく、しゃあねぇな~……。事実、この店を建てるにあたって銀嶺のオヤジさんから多少もの資金援助を受けちまったモンだしよぉ。それが諸々のお礼としての金だったとしても、そのおかげで開業できた以上は愛娘さんの保護くらいはしてやらねぇとかねぇ……」

 

「本当かい!? それは助かるよ!! あぁ、このことをオヤジに伝えてあげたらきっと安心してくれる!! これでようやく、オヤジは目の前の仕事に集中できるハズだ!! ユノ、荒巻。ボクという存在を受け入れてくれて本当にありがとう! 二人の世話になる以上は、感謝の意として精いっぱい働かせてもらうからね!!」

 

「あー……いや、盛り上がってるところ済まねぇが、従業員にするかどうかはまた別だ。如何せんウチは曰く付きの人間だけを受け入れるアンダーグラウンドの世界でな……」

 

「犯罪経歴が必要なんだろう? ならば問題無いさ。これでもボクは喧嘩に自信があるからね。他校の不良達とたくさん喧嘩をしてきて、たくさん病院に送ってきたんだ!! だから、相手の骨を折ることは常だったし、時には鼻の穴を一つにしてあげたり、戦利品の金でプラスチック爆弾を作ってそれを連中の溜まり場に投げつけてやったこともあるんだよ!! あとは、みんなに習って相手に“エンコ”を詰めさせたりもしてるんだ! 全部、自分達から仕掛けてきたケジメをつけてもらうためにね!」

 

「…………こりゃ一次面接は通過だな」

 

 やれやれ、といった調子で両手を上げた荒巻。向けられた視線にユノが困り顔を見せてくる中で、彼女はテーブルに座る少女を見遣りながらそれを口にしていく。

 

「貴女の雇用は即断できないけれども、貴女の身柄を預かることであれば私も荒巻オーナーも容認するわ。現時点では飽くまで、優先すべきお客様として私達は貴女という存在を受け入れる。それでいいわね?」

 

「十分さ! あぁ、こうして再びユノと同じ屋根の下で過ごせる日々をボクは夢見ていた。幼きボクの憧れでもあったキミと、また不変なる日常を共にできるこの幸せ。……もしかしたらボクは、この時まで運命の女神に生かされ続けていたのかもしれない」

 

「大げさね。私が銀嶺会に所属していた頃から、貴女はすぐ周囲の影響を受ける人間だったわ。今の喋り方もきっとそれによるものなんでしょうけれど、相手をする立場から言わせれば貴女の仰々しい物言いは些か奇抜な印象を受けるわね。もう少し標準的な喋り方を取り入れなさい」

 

 預かることを同意してもなお否定的な視線がうかがえたユノだったものの、その表情からは懐かしさが伝わってきた。言葉や表情とは裏腹に、ユノとしてはこの少女のことを放っておけない様子であることが理解できる。

 

 ……ただ、周囲の影響を受けやすいという点においては一つだけ気になったことがあった。

 

 その仰々しい物言い。多分それ、少なからずユノさんの影響を受けているものだと思うんだ……。

 

 

 

 

 

 閉店時間となり、一足先にLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)から出た自分と銀髪の少女。時刻は深夜であるにも関わらず、少女はこのあと実家である“銀嶺会本部”に戻るということで、自分はその見送りに出てきたようなものだった。

 

 本部そのものが自身の家というのも、ちょっと複雑なものだろう。なので、自宅は別にないのかを問い掛けたりしてみたのだが、少女からの返答は「いつの間にか本部と自宅が融合していた」というものだったため、その歳からヤクザ社会と隣り合わせだなんて大変そうだなと同情さえしてしまっていた。

 

 尤も、本人はその環境を楽しんでいる様子でもあった。喧嘩などの物騒な話を楽しげに話す少女に自分が変な汗を流しながら聞いていく中で、少女は満足したのだろう一息をついていくとそんなことを喋り出してくる。

 

「さて、それじゃあボクはそろそろ実家に帰るとしようかな。遅くまでボクの話に付き合ってくれたキミに、心からの感謝を送らせてもらいたい。柏島歓喜、今日はどうもありがとう! キミと過ごした時間はとても楽しかったよ!」

 

「お礼までは大丈夫だよ。俺としても未知の世界を知ることができて、正直ちょっと面白く感じたりしたところもあるし」

 

「本当かい!? あはは、そう言ってもらえると嬉しいなぁ! また、キミが喜びそうな喧嘩の話を作って持ってくるとするよ!!」

 

「あー……いや、俺のために作らなくてもいいからね……?」

 

 仰々しくありながらも、喜びに満ちたその声音はいたいけな純粋さを垣間見せていく。今も軽快に微笑してみせた少女は愉快げにこちらを見遣ってくると、少女は被っていたキャップを取り除くようにしてから、バラついた前髪を流すように首を振りつつ自身の素顔を晒してきたのだ。

 

 幼い容貌を思わせる顔の輪郭。雪のように色白な柔肌。ガラス細工のように透き通った銀色のショートヘアーと、胸元辺りにまで伸ばしたもみあげ。そこまでは先ほどと変わらない特徴であったのだが、キャップを取り払った少女の素顔は声に違わぬ中性的なものであり、男とも女とも見て取れる非常に凛々しい雰囲気が印象的だった。

 

 また、水晶のように透き通った清涼感のある水色の瞳は宝石のように輝いていて、美しいがあまりに少女が向いている方向の景色を鏡のように反射していた。

 

 向かい合う自分の顔が、その水色の瞳にしっかりと映し出されている。だが、先ほどとは違って打ち解けた安堵の顔が反射されていたことから、自分は自分に対して安心してしまえたものでもあった。

 

 改めて、帽子を取った少女と向かい合っていく。これによって暫し少女と目を合わせていくと、次にも少女はクールでありながらも無邪気に笑んで、その言葉を掛けてきた。

 

「柏島歓喜。ボク達はきっと、それなりに長い付き合いになるだろうね。しかし、キミから見たボクの姿はおそらく、ヤクザ組織の令嬢として映っていることだろう。だが、どうか心配しないでもらいたい。ボクは敵ではない存在に対して義理堅く在りたいと心から願っている。だからボクはキミに対して、敬意を持って親密な関係を築き上げていきたいと思っているんだ」

 

「まぁ、最初の印象こそは良くなかったけれど、ユノさんや荒巻オーナーとの親しさを見ていたらその疑いも少しは晴れたかな。それに今の所は、あんた自身は悪い人格の持ち主ではなさそうだなとも思ってるよ。……喧嘩が好きなことは除いてね」

 

「変に不安を煽ってしまったようであるのならば、謝罪したい。すまなかった。けれど、ボクという存在はきっと、キミの護衛に一役買うことだろう。そう自負できる程度には、この腕っぷしに自信があるんだ。何なら武器の扱いもある程度と心得ている! だから柏島歓喜、ボクのことを存分に頼ってもらっても構わないからね! 何せボクも、れっきとしたユノ達の仲間の一員なのだから!」

 

「んー……でもまだ、ホステス採用の合否発表はされていないからなぁ……」

 

「そんな細かいことは気にしないでくれよ!! せっかくボク、ホステスになるつもりで源氏名まで考えてきたと言うのに!!」

 

「源氏名まで?」

 

 けっこう気合い入っているなぁ。というか、店に訪れた時には既にホステスになる気満々だったのか……。

 

 色々と巡る疑問はあるものの、少女を呼ぶために源氏名だけでも知っておきたい。そう考えた自分は「良かったらその源氏名、俺に聞かせてもらえる?」と訊ねてみると、次にも少女は待ってましたと言わんばかりのウキウキとした様子で、高らかに宣言するように自身の源氏名を口にしたのであった。

 

「よくぞ聞いてくれたね!! いいだろう! では、第二のボクともなるその源氏名を、ユノ達よりも先にキミに教えようじゃないか!!! ……ズバリ、“ノア”だッ!! 言わずもがなではあるだろうけれども、ノアの方舟(はこぶね)が由来になっている! ボクは、家族を乗せて天空を駆ける雄大な存在になりたい。その願いを込めて、自身をノアと名付けた。さぁ、ボクの想いを心で感じ取ってくれたまえ! 柏島歓喜。今日からキミも、ボクの家族だ」

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