俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活 作:祐。
深夜の
すぐにも店の裏から、オーバーオールの上に灰色のマウンテンパーカーを羽織った私服姿のミネがトコトコと歩いてきた。
少女の隣には、“特別なお客様”であるノアの姿もうかがえる。そのノアはとても親しげな様子でミネに喋り掛けていたのだが、一方でミネはとてもやり辛そうな微妙な表情を浮かべていて、足早に真っ直ぐとこちらを目指していたものだ。
銀嶺会の組長の愛娘という素性を持つノア。加えて、その少女はミネと同じ高校に通うクラスメートでもある。
同じ学校の人間が、反社会的な夜の店で顔を合わせるだなんて、これほど気まずいシチュエーションは無いことだろう。尤も、ヤクザの世界に染まっていたノアはこの状況に何の疑問も抱くことなく、ミネに親しく話し掛けていたものでもあったが。
既に視線で助けを求めていたミネを見て、自分は「二人とも、今日はお疲れ様」と呼び掛けたことでノアの意識をこちらに向けていく。これにノアが清涼感ある笑みを浮かべてくると、ミネと共に歩み寄りながら貴族風の喋り方で自分へと話し掛けてきたのだ。
「やぁ柏島歓喜、さっきぶりだね! 労わりの言葉は隣の蓼丸菜子に掛けてあげてくれ!」
「ノア。この店では一応、彼女はミネという名前でやっているから」
「あぁ、そうだった! ボクとしたことがうっかり本名を口走ってしまったようだ。すまない、ミネ。キミのプライバシーを脅かすような真似をしてしまったボクのことをどうか許してほしい」
中性的な声音と、透き通るような存在感が、その口調に謎の“らしさ”を思わせる。
ホステス採用の合否が未だ出ていないノアだが、彼女はお客として席に座っていただけでも周囲の女性客から注目されていた。その中性的な顔立ちと透明感ある雰囲気が、女性客の感心を引くのかもしれない。
で、ミネに仰々しく謝罪の言葉を掛けたノアに対して、ミネは眉をひそませながらちょっと視線を外してそう喋り出していく。
「う、うん。別にいいから。大丈夫。……たださ、“銀嶺さん”。アタシと関わっても、特に面白いことなんか何も無いと思うんだけど……」
「ミネ、そんな卑下しないでくれよ。実を言うとね、ボクは入学当初からキミという存在に強く惹かれていた部分があったのさ。何としてでもミネという人物をボクのグループに招き入れ、保護下に置いて面倒を見てあげたい。その想いはね、日を追う毎に段々と強くなっていたものだ。尤も、本人であるキミからは常に避けられていたものだったから、なかなか声を掛けられずにいたのだけれどね」
「銀嶺さんはいじめをしないタイプだってことは、何となく分かってたけれどさ……。でも銀嶺さんはスクールカースト最上位の人間だし、アタシ、銀嶺さんが面倒見てるグループの連中にずっと酷い目に遭わされてきたからさ。やっぱりちょっと近付けないっていうか。なんていうか、銀嶺さんとお話しするのは気持ち的に難しいよ。色々と……」
「そのことは、本当にすまないと思っている。キミが、ボクの仲間からいじめを受けていることをもっと早く知ることができれば良かったと後悔しているよ。そもそもとしてボクは、“報復”の信念を掲げて連中を率いていた。だから、自ら他者を傷付けに行く行為はタブーだと常日頃から論じてはいたのだが……それも、ボクの認識が甘かっただけのようだった」
「なんかもう、別にいいよ……。いじめ自体は銀嶺さんと出会う前から続いてたことだったし、それに多分これからは一緒に働くことになるだろうから、仕事仲間としてやっていければそれでいいからさ……」
「……許しがたい心境の中で寛大な言葉を掛けてくれるミネという存在に、ボクは心からの敬意を表したいと思っているよ」
「そういうのはいいってば。てかさ、アタシ、銀嶺さんからは特に酷いことされてないもん。だからそこで割り切れるトコがあるっていうか……とにかく、アタシのことは気にしないで。そういうことだから、この話はこれでおしまいにしよ」
「ミネ……」
まだまだ言いたい。そんな言葉を呑み込むような顔で、視線だけを投げ掛けるノア。銀髪の少女から向けられたそれをミネは意識するように無視していく中で、ノアは穏やかな調子でその話を切り出してきたのだ。
「蓼丸ヒイロ。キミのお姉さんのことは、ボクもよく知っているよ」
「……お姉ちゃんのこと、知ってるの?」
「彼女はよく、ユノの様子を見るために銀嶺会を出入りしていたものだからね。本当に、彼女という存在は規格外の一言に尽きる。だって普通、関係者でもない一般人が何食わぬ顔でヤクザの本部を出入りすると思うかい? おかげさまで、蓼丸ヒイロという人間は銀嶺会の中で有名になったものさ。今でも彼女という存在は、組織内の奇妙な都市伝説として語り継がれているものだよ」
すっごく簡単に想像できるなぁー……。きっと、大量に麩菓子を詰め込んだ袋を引っ提げて、道行くヤクザに喧嘩代わりのジャンケンを吹っ掛けていっては、自分に勝った相手には景品としてそれを手渡しながらユノさんの下へと向かっていたことだろう……。
という、彼女を知る人間からすれば容易く脳裏に浮かべられる光景に、実の親戚である自分が納得できてしまう。それでいて実の妹であるミネはちょっとだけ嬉しそうな顔を見せてくると、ノアもまた清涼感ある笑みでミネと向かい合いながら話を続けてきた。
「彼女は本当に不思議な人物だったものさ。特に、関東一のヤクザ組織にも臆さない勇敢な……いや、とても無謀な勇気を持ち合わせていて、やると決めたことは絶対に最後までやり遂げる力強い意思……いや、信念を曲げたがらない頑固な思考回路が印象的だった。彼女の解決方法が基本的に豪快でね、時にはヤクザに拳を振るうことも厭わない顧みずな姿勢は、反面教師として多くの学びを得られたよ。しかし、とても不思議なものでね。彼女という存在が心から笑ってみせると、その相手がヤクザであろうとも周囲の人間は皆つられて笑顔になってしまうんだ」
「……アタシのお姉ちゃん像と解釈一致する……」
「実際にボクがこの目で見てきた事実を述べたまでのことだよ。蓼丸ヒイロという人間は、純粋で、破天荒で、そして奇天烈だ。暴れ回る姿は怒れる龍をも想起させたものだったが、皆と打ち解け合った姿は愛嬌の化身とも言える可愛げに満ちていた。そんな愛され体質も含めて、彼女はカリスマ性に溢れた人間だ。だからね、ボクはユノに憧れると共にして、蓼丸ヒイロという人間もリスペクトしながら生きてきたのさ」
ノアの話に聞き入っていたミネ。その瞳は宝石のようにキラキラと光らせていて、唯一の家族に対する特別な気持ちを募らせていたことに違いない。
その話をしていると、コツコツという靴音を奏でながら私服姿のユノが歩いてきた。黒色のコートを身に纏った凛々しい彼女が、軽く腕を組んだサマで話に混じってくる。
「貴女は、銀嶺会に訪問してきたヒイロにだいぶ懐いていた様子だったわね。時には彼女を街に駆り出して、出先で随分と無茶をしてきた悪友のような関係性にも見えたものだけれども」
「やぁユノ! そうだね。何せヒイロは多方面からのヘイトを酷く買っていた人間でもあったものだから、彼女についていくだけでお手軽に喧嘩へ有り付くことができたんだ! それ以外でもボクは、ヒイロにたくさん面倒を見てもらったよ」
「ヒイロが銀嶺会に訪れた際には、真っ先に彼女へ飛び付いていた貴女の姿もまるで昨日のことのよう。あれから五年もの歳月が経過しているというのに、時の流れを実感させないほどにまで、ヒイロという存在は常に鮮明と、私達の記憶の中で生き続けているのでしょうね」
懐かしむ瞳で、呟くように口にしたユノのセリフ。ぼんやりとした眼差しが彼女らしくない懐古を思わせたものだったから、自分は内心で「ユノさんもこういう顔をするんだなぁ」と考えながら話に聞き入ったりしていた。
そうして会話をしていると、続けて店の裏から出てきた私服姿のラミアとメー、少し遅れてレダが合流してきた。それぞれ、黒色のボアジャケットや膨らみのあるアイボリーのマウンテンパーカー、白衣を黒色にしたようなコートといった冬物を身に付けてこちらに顔を見せてくる。
皆が各々の調子で「お疲れ様でーす」と口にして、自分らも「お疲れ様」と言葉を投げ掛けていく。ノアも既に顔合わせを済ませていたためなのか、このメンツに自然と馴染むようにホステスらへと挨拶を行っていたものだ。
で、更に店の裏から私服姿のシュラが駆け寄ってきた。さすがに深緑のロングパーカーを着ていた様子だったが、開けっ払ったそこからはへそ出しの黒いトップスにいつものホットパンツが見えていて、やはり露出が多い。
そんな彼女は、有り余った元気を放出するように「ニーチャァーーーン!!!」と言いながらこちら目掛けて突っ走ってくる。もはやいつもの光景であるシュラに自分は受け入れるように両手を広げていくのだが、寸前まで来た時にもシュラは、途端に方向を変えるなり佇むユノへと背後から突っ込んでいったのだ。
「と思わせてぇ~……隙ありや女帝のネーチャン!!!」
伸ばされた両手。ユノの脇の下を通り抜けたそれらは次の時にも、あろうことか彼女の乳をガッシリと鷲掴みにしていく。
いやそれはさすがに、おいたが過ぎる……!!!!
命の危機すら感じてしまえたシュラの行動に、一同が瞬間的にヒヤッとした視線を投げ掛けた。だが、直後にも響いたユノの声音を耳にして、その寒気すらも吹き飛ぶほどの唖然を皆が迎えることになる。
自身の胸を揉みしだいてきた両手。この感触がもたらされると同時にして、あの凛々しいユノが蕩けるように艶めかしく「あんっ」と喘ぎ声を上げていったのだ。
表情も威厳あるサマから一転して、快楽に浸り出した悩ましいものを垣間見せていく。これには思わず悪戯したシュラすらもビクッと驚いてから目を点にして、様子をうかがうように彼女を見遣っていくのだが……。
……振り向いてきたユノと目が合うシュラ。その時にも合わさった視線の先にて、飢えた野獣の眼光と、恍惚とした表情で頬を不敵に赤らめた捕食者を前にして、シュラは咄嗟に手を離しながら弁解し始めていった。
「ちょ、ちょお待ってぇ!!! そ、そないに敏感な反応をするなんて思っとらへんかったんや……!!! だって女帝のネーチャン今日、酔っ払ったオトコの客に乳揉まれたっちゅうのに、その時のネーチャンこないな反応せんで豚を見るような眼で威圧していたやないか……!!! せやからてっきりおっぱいじゃ感じない思うて、せやったらちょこ~っとだけイタズラしてみよう思うただけやったんやけどぉ……」
「あのように野蛮で粗暴な男性客の温もりでは、私の気持ちは昂りもしないわ。けれども、その感触が乙女の柔肌によってもたらされたものであれば話は別。……貴女が悪いのよ、シュラ。貴女が私を、その気にさせた。ただそれだけの話なの」
「ちょ、ちょお待ってぇ……! ウチまだレズの経験はあらへ……ッ」
影のように伸びた女帝の手が、うろたえる獲物を捕らえて引き寄せていく。
高揚した猛獣に抗うこともままならない。
なんて命知らずな行為に走ったのだろうと一同が見守るその中で、次にも店前ではシュラの「アッーーー!!!」という天にも昇る淫らな断末魔が響き渡ったものであった。
店前での戯れが済んでから、自分らは仕事終わりの和気藹々とした雰囲気でアパートを目指していた。
深夜の道中も、集団で歩いていれば何も怖くなかった。それどころか、ユノ、ラミア、メー、レダ、ミネ、シュラ、ノアという七人のホステス達と歩くその道のりは、怖いものなしとも言える心強ささえも感じてしまえていた。
帰路を辿り、無事に到着したいつものアパート。本来であればここでユノとミネの二人と別れるのだが、何故だか今日は自分の部屋に上がる話となっていたことで扉の前までついてきている。
というか、こんな大所帯を招き入れること自体が初めてだった。
部屋、絶対に入り切らないだろ……。という不安が巡る中、自分が鍵を開ける前にもラミアが合鍵を使って扉を開いていき、勝手に入っていく始末。そこからメーやレダ、シュラが躊躇いもなくぞろぞろと入っていき、既に玄関が靴で埋め尽くされた状況の中で、自分はユノとミネ、ノアに「どうぞ」と手で入室を催促していった。
で、彼女ら三人も招き入れたこの部屋は、ホステスでぎゅうぎゅう詰めになった余裕の無い光景を展開していく。
さすがにすごい状態だな……。と、内心で呟きながら廊下で佇む自分。各々が上着を脱いだりバッグからスマートフォンを取り出したり、座って休憩したり会話を交わしたりと様々な様子が繰り広げられていたその中で、ノアが廊下のキッチンに興味を示したようにそちらへ歩み寄っていくと、流れるように設備の確認をし始めたのだ。
冷蔵庫の中も確認して、ホステス用の大量のお酒などが詰め込まれたそれを一通り把握していく。これに少女は納得したように頷いていくと、こちらに振り向いてくるなりそれをおもむろに提案してきた。
「基本的な調理器具や調味料は揃っていて、冷蔵庫の中にはカット野菜や中華麺なんかが入っている。なぁ柏島歓喜。キミが良ければ、みんなの夜食をボクに作らせてもらえないかな?」
「え? あぁいいよ、大丈夫。むしろお願いしちゃってもいいかな?」
「もちろんさ! ボクに任せてくれたまえよ。これでもボクはね、幼い頃からオヤジのために毎日お手製の料理を振る舞ってあげていたんだ。だから腕には自信があるんだよ!」
「本当? だとしたら尚更と助かる……! 俺もたまにしていたんだけど、最近ちょっと面倒になっていて材料を余らせていたんだ。冷蔵庫の中にあるやつ全部使ってもらっても構わないから、今日も激務をこなしてきた彼女達に美味しい夜食を振る舞ってあげてほしいな」
「彼女らを労わる夜食か。いいね。俄然、やる気が出てきたよ! もちろんキミの分も作ってあげるから、ボクの料理を楽しみにしてくれたまえ!」
「ありがとう、ノア」
ノアは料理ができるらしい。
まぁ、昼夜のシフトに接客や同伴などでみんな忙しいから、料理を行うための時間や気力が残らないのだろう。その中でミネは、ユノから料理を教わったりなどして着実に腕を上げつつあったものだ。
そこに現れた、ノアという新星。既に手際良くキッチンを使用していたことから、何の心配も要らないなと思った自分は邪魔にならないよう部屋に移動していく。
その部屋がもう、ホステスでごった返しになっていた。
ギリギリ皆が入り切るか。というのもあってその空間には余裕の文字なんか無く、メーとシュラはベッドの上であぐらをかきながら、床でストーブを占領するラミアやミネと会話を行ったりしている。
彼女らの横で、呆れたような顔をして前方の光景を眺めるレダと、そんな彼女に苦笑を見せつつ何か言葉を投げ掛けるユノ。この何気無い日常の景色を見渡したことで、自分は
……
最初に関わったユノを始めとして、ラミア、メー、レダ、ミネ、シュラ、そしてノアの七名とは、それなりに長い付き合いになる予感がした。
しばらくは、この七名と過ごす日常を送ることになることだろう。また、将来的にも新たなホステスが増える機会があるのだろうが、それは当分先にもなりそうな予感がする。
今は、七人のヒロイン達と過ごす日々を大切にしていこう。
心の内で静かに決心した自分。その間にも前方ではレダが、ラミアとメーの二人へとその言葉を投げ掛けていく。
「それじゃあ、わたし先にお風呂入らせてもらうわよ」
「あー!! レダさん抜け駆けズルイです!! お部屋冷えてるからってお風呂を使うのは反則ですよー!!」
「そうだそうだー! レダ、お風呂とかいうチートアイテムの独占は禁じ手だぞー!」
「あなた達ねぇ……ストーブや布団を占領しながら言わないでちょうだい。それに、順番的に今日はわたしが最初の日なんだから文句言わないで」
「ですけど、なんか今日はヒトが多いですよ?? ですから、入るならさっさと出てきてくださいね。みんな入れなくなってしまいますから」
ラミアの言葉を耳にして、レダは見渡すようにしながら「え、もしかして此処にいるみんなお風呂使うの……?」と口にする。
ここでユノが、「私やミネは自室で済ませられるから気にしないでちょうだい。ノアもこちらの浴室を使用すれば問題ないでしょう」とフォローを入れてくる。これに安心したような様相を見せたレダだったが、そこでシュラがベッドから立ち上がってレダへと歩き出しながらそう喋り出してきたのだ。
「やけど、一人一人律儀に入っとったらラチ明かへんわ。闇医者のネーチャン、ネーチャンと一緒にウチも入るでー!!」
「え? は? ねぇちょっとどういうこと」
「なんか組長のジョーチャンがご飯作ってくれとるらしいしなぁ。ウチ腹空いとるし、その前にササッとお風呂だけ済ませときたいんや。な?」
「な? って……だからってわたしとシュラが一緒に入る必要は無いでしょ?」
「んなこと、ええからええから! ほら行くでネーチャン! これもハダカの付き合いっちゅうもんや!」
「だから、ねぇちょっと!」
気さくな笑みを浮かべたシュラに引っ張られていくレダ。若干の抵抗を見せつつもそのまま浴室へと連れていかれたレダを皆で見送り、その間も洗面所から聞こえてくる二人のやり取りに耳を傾けていく。
「ちょおネーチャン狭いってぇ! そないなおっぱいしとるから余計に場所食うんや!」
「仕方ないでしょう!? それを言ったらあなただって大概じゃない!!」
「なんやネーチャン、ウチのこと褒めてくれとるんか? いやぁ照れるわぁ~」
「あぁもう!! なんでわたしがシュラと一緒にお風呂入らないといけないのよ!?」
ガチャンッと浴室の扉が開かれる音。それが閉まってからも壁を挟んだ向こう側からは、二人のやり取りがしばらくと絶えずに聞こえていたものであった。
この部屋に私物を持ち込んでいるラミア、メー、レダ、シュラの四人が、風呂上がりの寝間着姿でホカホカしながら夜食を待ち望んでいく。
直にも、焼きそばが盛られた大きな皿を持つノアが、「お待たせ!」と言いながらテーブルにそれを置いてきた。
ツヤのある茶色の麺。カット野菜やベーコンがふんだんに使用された贅沢さと、ふりかけられた黒コショウや青のりというアクセントが見る者に元気を分け与えてくれる。
有り合わせの材料で、プロが作ったような焼きそばを生み出してくれたノアの腕前。口に入れずとも既にモリモリ元気が湧いてくるスタミナ炒めを目の前にして、一同は食い入るようにそれを見つめて腹を鳴らしていった。
夜食で食べるには勿体無い。普通に夕食としてガッツリ食べたいと思えるほどの想定外なクオリティに、仕事を頑張った皆に食べてもらおうと考えていた自分さえも箸を伸ばしたくなってくる。
で、もう我慢できないといった具合にメーがノアへと訊ね掛けていった。
「え、やば!! なんかめちゃ美味そうなんだけど!! ね、これ食べていいんだよね!? いいんだよね!?」
「あぁもちろんさ! 四人前だから少々と物足りないかもしれないが、皆で分け合って存分に堪能してもらえると嬉しいな!」
「うはぁ!!! やったぁ!! いただきまーす!!」
メーが小皿に焼きそばを盛り出した様子を皮切りにして、ラミア、レダ、ミネ、シュラも目を輝かせながらこぞって群がっていく。そして皆が「美味しい!!!!」と口を揃えて絶賛し、お世辞抜きの言葉通りに焼きそばはみるみると減少していった。
自分の料理を取り合うような食い付きに、ノアは得意げな表情をしながら鼻を擦っていく。その脇では、少女が褒められたことにちょっと誇らしげなユノの様子もうかがえたりもした。尤も、焼きそばはホステス達があっという間に平らげてしまったため、自分の分は残されていなかったものなのだが。
……正直、ちょっと食べてみたかったな。
皆を眺めながら、内心で呟いていく自分。そんなこちらに気が付いたのか、ノアはこちらへ歩み寄りながらその言葉を掛けてくれたのだ。
「そんな顔をしないでくれたまえ、柏島歓喜。次はキミのために腕を振るってみせるから、次回を期待してもらえると嬉しいな」
「あぁ、ありがとうノア。……えっと、料理を振る舞ってくれる云々で思い出したんだけど、ノアもこれからは此処に泊まる感じになるんだっけ?」
そう言えば、お店に預けられたノアは寝泊まりとかどうするのだろう。
この疑問自体は、ユノがノアを預かる意向を固めた際にもその場で話し合われたりしていた。その時にも、この部屋に泊まり込みになるのかどうかの話が出たりしていたものなのだが……。
そんなこちらの急な問い掛けに対して、ノアはニッと笑みながらそう返答してくる。
「あぁ、そのことについてなんだけどね。ユノやミネと話し合った結果として、店に預けられている期間中は彼女達の部屋で寝泊まりすることに決まったんだ。とはいえ、同じ屋根の下の住人であることに代わりはない。だから、これからはボクもこちらに訪問して、夜食なり朝食なり、いろんな料理を振る舞ってみせるつもりでいるよ!」
「確かに、言われてみれば同じ屋根の下だよな……。まぁあれだよ、料理以外のことでも気軽に顔を出してもらって構わないからさ。お互いに色々と大変な時期だと思うけれど、しばらくの間はよろしくね、ノア」
「あぁ! 改めてよろしく頼むよ、柏島歓喜」
透き通るような存在感で、清涼感ある微笑で応えてくれたノア。その涼しげなサマがまた、この少女の魅力とも言えたことだろう。
夜食も済んで、後は寝るだけとなったこの日の夜。だいぶ遅い時間までお邪魔していたからということで、ユノ、ミネ、ノアは自身らの部屋へと戻るべくこの場を後にしていった。
玄関先で彼女らを見送った自分が、扉を閉めて部屋に引き返していく。そうして視界に広がった四人のホステスの様子と共にして、これから展開される本編のオマケ的なやり取りに身を投じていくこととなる。
ベッドの上でうつ伏せになりながらテレビを観ていたラミアと、彼女の上に乗り掛かるように寝転がっていたメー。テーブルの脇で静かにチューハイを嗜むレダと、あぐらで床に座るシュラが一緒になってテレビを眺めていた彼女らの日常的な光景。
……この人達ほんと、自宅のようにくつろいでいるな……。
部屋の中も、心なしかホステスの香りで満たされているような気がした。一方で、『ここ、俺の部屋なんだけどなぁ』という思いを募らせていきながらも、自分は「お布団出すから、テーブルとかどけてもらえるかな?」と言葉を掛けていく。
これを聞いたレダが、こちらに向いてくるなり艶やかな表情を浮かべてきた。そして、まるで獲物を捉えたような眼差しを投げ掛けてくると、彼女はおもむろに立ち上がってからこちらに歩み寄りつつそう喋り出してきたものだった。
「ウフフ、ねぇカンキく~ん。今日は同じお布団で一緒に寝ましょうよ~? その方がお布団の準備の手間も省けて楽チンよぉ~?」
チューハイを片手に、酔っ払っていたレダは絡むようにこちらへ抱き付いてきてから、意図的に豊満な乳を押し付けてこちらの了承を促してくる。
自身の身体を埋め込むようにして、魅惑的な肉厚でむぎゅうと悩殺してきた彼女のアプローチ。それは、香るアルコールの匂いが余計に煩悩を掻き立ててくる強烈な攻撃ではあったものの、レダの言葉を耳にしたシュラが横槍を入れるようにすぐさま食い付いてくる。
「なんや、そんならウチもニーチャンと一緒に寝るで!! 三人でぎゅうぎゅう詰めなって、ニーチャンを
「ちょっと、なんでそこであんたが乗ってくるのよ。あんたも入ってきたら布団がもっと狭くなるじゃない。というか
「そないな冷たい目を向けんとくれや! それになぁ自分、寝るスペースが無いから言うて、こないに夜遅い時間にウチだけ家に帰らせるのも中々に酷な話やと思わんか??」
「わたしは構わないわよ? 今日はあなたの泊まる番じゃないじゃない」
「ウチだけハブとか絶対イヤやぁぁぁぁああ!!! そんで仮に根性で家帰ってきた言うても、家じゃあオ〇ニーくらいしかやるコトあらへんもん! せやったらウチもニーチャンの部屋でみんなと楽しく過ごしたいんやぁーーー!!!」
こらこら。
内心でなだめるように呟いた自分。これにはレダも、迷惑そうな顔をしながら「わ、分かったから少し静かにしてちょうだい……!」と口にしていく。
で、そんな彼女らの会話を耳に挟んだラミアは、ふと思いついたようにシュラへと喋り掛けていった。
「あの、オ〇ニーで思い出したんですけど、シュラさんオ〇ニー配信で稼いでいるらしいじゃないですか。それ実際どのくらい稼げたりしているんですか??」
こらこら、そんな軽率に口にする言葉じゃないって。
乙女達が躊躇いも無くはしたない言葉を連呼する様子に、変な汗さえ流してしまった自分。だがこちらにお構いなしとシュラは返答を行っていく。
「お? 気になるんか自分?? せやねぇ~……動画の広告とか生配信中の投げ銭、あとはチップなんかが収入に繋がってくるんやけどなぁ。まぁザッと計算しただけでも……ウチの場合は最低でも月に百五十は稼いどるのかなぁ?」
月に百五十……!?
思わぬ額に、一同がシュラを見遣っていく。特にラミアは本気で驚いたように口をあんぐりしながら言葉を返していった。
「ひゃ、百五十ですか!? もうそちらを本業にしてもイイくらいじゃないですか!! と言いますか、余裕で暮らせますよねソレ。なんでわざわざこんな仕事してるんですかアナタ」
「いやいやウチがホステスやっとるのは収入目的やないから。それに、そないに驚くことでもあらへんで。これでもウチの稼ぎは周りより少ないくらいやからなぁ」
「えー、オ〇ニー配信ってそんなに稼げるモンなんですか……」
「自分も気になるんか?」
「当たり前ですよそんなの。だってオ〇ニーするだけでお金を稼げるんですよ?? こんなのやらない方がバカみたいじゃないですか」
「せやったら紫のネーチャンも配信するか?? ネーチャンの身体もごっつ需要あると思うからなぁ、ネーチャンもきっと、ぎょうさん稼げると思うで!!!」
「シュラさんがそう仰るのならば確実ですね。いやホント、オトコのオカズになるだけでお金が稼げるなんてイイ時代になったモンですねー」
観ていたテレビを放置して、手に持ったスマートフォンをたぷたぷと操作していくラミア。完全に乗り気となった彼女が端末に食いついていく一方で、ラミアに乗りかかるように寝転がっていたメーがシュラへと訊ね掛けていく。
「聞いてて思ったんだけどさ、じゃあその稼いだお金ってシュラはどうしてるの? せっかくそんな大金があるんならさ~、私に何かお高いアクセを買ってくれたりてもいいんじゃないかな~? とか思ったりして~」
「言うてもウチ、稼いだ金はほとんど募金につぎ込んどるからあまり手元に残っとらんで?」
「え? 募金?」
「そうやで、募金や」
「なんで? せっかくたくさん稼いでるのに」
「ウチ、飽くまで好きでオ〇ニー配信しとるだけやさかい、ぎょうさん金貯め込んだところで明確な使い道とかあらへんしなぁ。せやったら、この余らせた金を必要としとる他の連中に使うてもろた方が無駄にならなくてええやろ?? 金の使い方っちゅうか、本来の在り方っちゅうか、そないなカンジにな」
「ははぁ~……。シュラの考え、立派すぎか……? 卑しいおねだりをした自分が恥ずく思えてくるレベルの聖人っぷりだわ……」
「言うても、やっとることはただのオ〇ニーやけどな!!!」
募金という使用用途を聞いて、メーは悟ったような顔をしてラミアに寄り掛かっていく。これにむぎゅうと押し潰されたラミアが適当に「うにゃー」と声を出していく中で、シュラはレダへと向いてくるなり快活な調子でそう言葉を投げ掛けたのだ。
「んま、そういうことやからウチも今日はニーチャンと一緒に寝るで!! な!? ええやろ!? な!?」
「……全く関係の無い話題だったのに、募金してるなんて聞かされたらどうしてこうも許せる気持ちになっちゃうのかしらねぇ……」
「あっははは!!! 闇医者のネーチャンほんまチョロいなぁ!! ま、そういうことやからニーチャンはよ布団出そー! ニーチャン抱き枕にしてイイ夢見るでー!!」
太陽のように明るい満面の笑みを浮かべて立ち上がったシュラ。彼女はそのまま押し入れに直行すると、その戸を開いて布団を引き出し始めていった。
その間にもベッドの方では、メーがラミアに寄り掛かりながら「どんなオ〇ニーしてくー?」とはしたない問い掛けを行ったりなどしていて、何というか彼女らの日常を覗き見したような気分のひと時を過ごしたものだった。
本当に何気無い日常の様子。これに充実感を覚えながら、自分もまた渋々とした表情のレダと共に就寝の準備へと取り掛かったのであった。