※この作品はR-18です。

俺のハーレムはワル女子だらけ 貸出ホステスと暮らす新生活   作:祐。

41 / 82
第41話 Personne abominable 《憎まれ役》

 夕暮れの時刻、キャバレーに相応しき煌びやかな照明が灯されたLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の店内。その開店時刻が間近に迫る最中にも、開店前にお邪魔していた自分の下へと一人のホステスが駆け付けてきた。

 

 いつもの席に座り、業務の内容を確認するホステスらを眺めていた自分。この視線の先では、タキシード姿のユノが凛々しいサマで一同へと活を入れており、そこに加わるラミアやミネが同じくタキシード姿で佇んでいる。

 

 と、開店前準備に取り掛かり始めたホステスらがばらけるように動き始めたその時、“ある少女”が銀嶺の如き銀髪を揺らしながら真っ直ぐとこちらへ駆け寄ってきて、中性的な声音でそれを喋り掛けてきたのだ。

 

「やぁ柏島歓喜! なぁ、どうだい? この衣装、ボクに似合っているものかな!」

 

 貴族風の喋り方が特徴的である、王子様のように透き通る清々しさが印象的なその少女。彼女は自身に“ノア”という源氏名を名付け、仮の名前としてこちらに接してきたものであったのだが……。

 

 自分と同じくして、特別なお客様として扱われていた少女の姿を見つめていく。そうして今も眼前に佇む彼女が身に付けていたタキシード服を見て、自分は頷きながらそう答えていった。

 

「やぁノア。ノアのタキシード姿、とてもよく似合っているよ。それにしても、ホステスになれて本当に良かったね。おめでとう」

 

「キミからの直々の祝言、身に余る光栄とはこの事を言うのかもしれないね! それはそれとして、ボクのイメージカラーとして水色のシャツが支給されたんだ。どうだい? ボクに似合っているものかな?」

 

 ユノに影響されてなのだろう独特な言い回しで喋るノアだが、今も褒めてほしいと言わんばかりに得意げな顔をしながらシャツを強調してくるその様子は、年相応とも言うべきだろうか。

 

 現役の高校生である少女は、タキシードから覗かせた水色のシャツの襟を摘まみながらこちらに見せつけてくる。そんなノアの衣装を見ながら「一番ノアらしい色だね。ノアのイメージにピッタリだ」と返答していくと、次にも少女は気取った王子様フェイスから一転として、一瞬だけニマッと素の笑みを垣間見せてから再び涼しげにそれを喋り出してきた。

 

「あはは、そうかそうか! キミがそう断言してくれるのであるならば確実だね! ……柏島歓喜のおかげで、ボクの闘志が段々と燃え滾ってきたよ。より一層と自信が湧いてきた。さて、今日からボクがこの店のナンバーワンだ。今の気持ちならば、相手がユノであろうとも負ける気がしない。そういうわけで、喧嘩以外でもボクが最強であることを証明してみせるからさ。だから、柏島歓喜。キミには、この店で繰り広げられるボクの快進撃を、最も近い特等席で見守ってもらえると嬉しいんだ」

 

 清涼感のある声音と、透明感のある柔らかい微笑み。加えて、自信に満ち溢れた力強い眼光で不敵に口角を吊り上げてくると、次にも少女はこちらへと紳士的に手を差し伸べながらそれを要求してきたのだ。

 

 ……な、なんかカッコ良く見えてくるぞ。

 男さえも惚れさせるたくましさ。喧嘩上等な威勢の良さがまた、パワフルに突き進む屈強さをうかがわせる。

 

 さすがは、極道の組長の娘。ミステリアスな雰囲気からは想像もできないほどの喧嘩好きな一面と、そこから来る自信家な性格がまた、ノアという少女を形作る一つの個なのかもしれない。

 

 透明感のある微笑でこちらを魅了するノア。そんな少女が存在感をアピールしていると、その後ろからタキシード姿のミネがちょっと不機嫌そうな顔で歩み寄ってきた。

 

 イメージカラーである黄色のシャツを着用し、だいぶホステスらしい凛としたシルエットが目立っていた少女。だが、同じ学校に通う同学年の言葉に何か言いたげな顔をしながら歩いてくると、ノアへとその言葉を掛けていったのだ。

 

「なんか、やけに気合い入ってんじゃん」

 

「やぁミネ! そりゃあ当たり前なものさ! だってこの日から、ボクの新たなる挑戦が始まろうとしているのだからね! 新天地に臨むということであるのならば、もちろん、その頂点を目指したいと思うものだろう?」

 

「うーん、アタシにはその感覚ちょっとよく分かんないかも。でも、たださ……別にそれを宣言する相手はカッシーじゃなくても良くない?」

 

 ムスッとした頬と目つきで、不機嫌そうに喋るミネ。少女の言葉にノアは考えを巡らせるように口を噤んでいくと、次にも愉快げに「あっははは!!」と大笑いしながらミネへとそれを返していった。

 

「っははは、ふふ。ふぅ……っふふふ。いやいやごめんよミネ。そうだね。これはボクが悪かった。だってこれでは、この店にとって最も大切なお客様である柏島歓喜を、ボクが独り占めしてしまっているように見えるだろうからね!」

 

「は、ハァ……!? 別に……別に、それでいいんじゃない? だってカッシーは誰のものってワケでもないんだし……」

 

「そういうものなのかい? それじゃあこれからは、彼の注目をボクが独占してしまっても良いということだね?」

 

「ッ、別に、そんなこと、カッシーが勝手に決めることでしょ……。まぁ、カッシーは八方美人だから、どうせ一人にこだわらないでみんなに気を配るだけだろうけど……」

 

 と言って、不機嫌な顔をしながらこちらに視線を投げ掛けたミネ。かと思えば少女は気に食わないと言わんばかりの表情を露骨に見せ始めて、しかし真っ直ぐと見つめる瞳が、なんだか助けを求めるようにこちらをしっかり捉えてくる。

 

 ……これに自分は、何て声を掛けようかと悩んでいく。そうして思考を巡らせるこちらの脇で、ノアはテーブルに腰を掛けながら透明感ある微笑みでミネへと喋り出していった。

 

「意地悪をしてしまってすまなかった、ミネ。キミの反応が中々に面白くて、ついついからかってしまう。だが、それも少々と度が過ぎてしまったのかもしれないね。だって柏島歓喜という存在は、キミにとって魂の救世主のようなものだろうから。云わば心の拠り所を与えてくれた彼に対して、感謝などの特別な感情を持つキミからすると、そんな彼が誘惑などで弄ばれるその姿を快く思わないだろうからね」

 

「なっ、ッ、だ……だから何なの!!? か、感謝の一つくらいして何か悪い……!? てか、そういうことをわざわざ言葉にしてくるとこも意地悪で、アタシからすれば悪趣味に見えてくるんですけど……!!」

 

 気恥ずかしい。そんな気持ちがとてもよく伝わってくるミネの怒り方。

 自身の気持ちを隠すかのようにノアへと怒鳴っていくその傍ら、少女二人のやり取りを好機とばかりに“彼女の右手”はこちらの肩へ伸ばされてきた。

 

 この右肩に乗せられた、褐色の肌が艶めかしいその手。それの温もりに自分は振り返っていくのだが、その振り返った方とは逆の左肩から伝わってきた柔らかい感触に、自分の心臓は一瞬だけ飛び跳ねていく。

 

 服越しからでもよくわかる、たわわに実った乳袋。これまでにも当てられてきたからこそ理解できたこの感触に「え?」と言葉を零していく最中にも、無防備となっていたこの左耳には欲情を誘うレダの甘い囁き声が響いてきた。

 

「隙だらけねぇ~、カンキ君。そんなに不注意だと、敵にも、わたしにも襲われちゃうわよ~?」

 

「れ、レダ?」

 

 左へと振り向いた自分。その瞬間にも待ち伏せていたレダの唇が、こちらの唇を鮮やかに奪い去っていく。

 

 刹那に塞がれた口と、身体の芯から火照り始める人肌の感触。瞬く間にキスされたこちらの様子にミネとノアが振り返ってくる中で、自分は私服姿のレダと短くありながらも濃厚なキスを交わしてからそれを訊ね掛けていった。

 

「……急でビックリした。レダ、今日はオフだったよね? どうしたの?」

 

「ウフフ、暇を持て余しちゃったからカンキ君を誘惑して遊ぼうと思ったのよ~。そうしたら部屋にあなたがいないんですもの。だ・か・ら、ここにいると思ってお迎えに来ちゃった」

 

 紅鼠(べにねず)の赤みがかった鼠色ワンピースに巻かれた、黒色のウエストベルト。それ以外は、華やかな白色のレースが入った黒色のサイハイソックスに、モコモコとした黒色のブーツと、白衣を黒色にしたようなコートといういつもの服装。彼女はウエストベルトで強調された豊満な乳を見せ付けるように屈んでくると、褐色肌の微笑みで妖艶な雰囲気を醸し出しながらそのセリフを口にしたものだ。

 

 彼女の誘惑に思わずソコが疼いた自分。同時にして、付近からはミネの不愉快極まりない視線が投げ掛けられていたものであったのだが、レダは少女を煽るように向かい側の席に腰を掛けていくと、傍にいたノアを含むようにそれを口にしていった。

 

「そういうことだから、お子ちゃま達は自分達のお仕事だけに専念してちょうだ~い? 大丈夫、あなた達の代わりにわたしが、カンキ君のことを虜にしてあげるから。それも、カンキ君が二度と他のオンナに目移りできなくなるような、とびっきりに熱々で、濃密で、甘々なオトナの夜を過ごしてみせるから……」

 

 ボディとフェロモンで容易く男を堕とす存在。同業者としてこの上ない強敵に、ミネは言葉にならない怒りを沸々と浮かび上がらせて、ノアは一層と気合いが入った自信に満ちた表情を見せてきた。

 

 共にして、あと数分で開店時間ということから持ち場に戻ることになった二人。少女達はレダを敵視するように背を向けて、ノアは「じゃあ行ってくるとするよ。またあとで!」と清々しく、ミネは「……カッシーの変態」とご機嫌斜めな表情で歩き出していった。

 

 二人に対して、自分は「ミネ、ノア。今日も応援しているよ。頑張って」とささやかなエールを送っていった。そうしてタキシード姿のホステス達を見送ってから、自分は向かいの席にいたレダへと視線を投げ掛けながらそれを訊ね掛けていく。

 

「えっと……それで、どうする? アパートに戻る?」

 

「ウフフ、カンキ君がノリ気であるのなら今すぐにでも帰りましょう? ……でも、そうねぇ」

 

 左手で頬杖をつき、店内を見渡していくレダ。彼女が暫しと眺めるその視線を無言でうかがっていくと、次にもレダはこちらへ振り向き、フッと笑みを浮かべながらそれを口にしてきた。

 

「そう言えば、この店をお客様として利用したことは一度も無いわねぇ。せっかくの機会でもあるから、今日はカンキ君と一緒にお客様ごっこでもしてみようかしらぁ」

 

「レダもお客として此処に居てみる? もしかしたら、今までに見えなかった景色が見られるかもしれないもんね。それが今後の活動で役立つようなアイデアに繋がれば尚更良いと思うし」

 

「ウフフ、こういうのもたまには悪くないでしょう。そういうことだから、今日はわたしとカンキ君のカップルでお店を訪問しました~って設定でよろしくね?」

 

「ま、まぁそういうことで……」

 

 以前にも夫婦ごっこみたいなことをやったしなぁ……。

 レダからダーリンと言われていたことを思い出して、それも悪い気がしなかったことからカップルという設定も容認できてしまえたこの内心。また彼女と過ごせる時間を喜ばしく思いながらも、他のホステスに喧嘩を売るレダの行動に少しばかりと不安が募っていたこともまた事実だった。

 

 

 

 

 

 時間は経過して、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)はキャバレーとして多くの客で賑わっていた。

 

 主に会社帰りのサラリーマンという客層が目立つその中で、ユノが接客する席には仕事終わりのOLが見受けられる。そうしてホステス達が各々の方針や個性を活かしながら客と談笑する光景を、自分はレダと一緒に眺めていたものだった。

 

 つい先ほどまでは、別のホステスがこちらの席を担当してくれていた。だが、そのホステスが指名されたことで彼女はこの席から離れてしまい、自分達は現在ホステス待ちの状況に置かれていた。

 

 尤も、プライベートではあるもののレダがついてくれていたため、店側もそれを把握してか従業員を他のテーブルに回していたものだ。

 

 それもそのはずで、本日の営業も大いに繁盛して多忙を極めていた。

 実質的な何でも屋として、ホステスを借りることができる。そんな店のシステムの都合上、出勤できる従業員がどうしても不足してしまうらしい。これによって本日はメーとシュラを含む多くのホステスが同伴に駆り出されていて、店では一人のホステスが複数人を相手するという場面が見受けられていた。

 

 みんな忙しそうだな……。

 その笑顔の裏にある疲労を、毎日のようにアパートの部屋で見る自分。時には死んだように眠る彼女らの素顔を知る一方で、今の状況に対して心の中で労わりの言葉を掛けることしかできない自分にもどかしさを感じてしまう。

 

 これが表情に表れていたのだろうか。ふとこちらに向いてきたレダが、頬杖をついたサマで淡々と喋り掛けてきた。

 

「カンキ君がそんな顔をしなくてもいいのよ? 此処は主に、社会復帰の見込みがある罪人が何かしらのキッカケで引き寄せられてきて、自分の過去を清算するためにあらゆる奉仕を尽くすべく汗を流す場所なのよ。こんなに忙しい労働だって、今までに経験してきた修羅場と比べれば序の口な方でしょう。だから、あなたがそんな顔をしないでちょうだい。わたし達に同情という言葉は要らないのよ」

 

「社会的に見れば、確かにそうなのかもしれないけど。でもやっぱり俺は、此処の人達と共にした時間がそれなりに長かったりするものだから、どうしてもみんなのことを知人の一人として見ることしかできなくて、みんな大変そうだなって、労わりとして俺に何かできないかなって、そんなことばかり考えちゃうもんだよね」

 

「わたしが懸念しているのは、それによってあなたが疲れてしまうことにあるの。みんなのためを想ってくれるその気持ちは、わたし達にとって身に余るほどの温もりでもあって、素直に嬉しく思えるものであることは確かよ。ただ、それによってあなたが不幸を被れば、それはわたし達の責任にもなるの。みんなに迷惑を掛けたくなんかないでしょう? なら、あまりこの店の従業員に肩入れしない方がいいわよ」

 

「俺の身を案じてくれてありがとう。でも、これが俺の性分なのかもしれない。責任云々はこの店の共通認識であるのかもしれないけれども、もし俺に万が一の事が起こっても、それはみんなの責任なんかじゃない。……ってことにしたいんだけどなぁ」

 

 こちらの言葉を耳にして、レダは頬杖をついたその状態で素っ気ない視線を向けてきた。

 彼女にしては珍しく、妖艶さの欠片もうかがわせない。どこか冷めたような瞳もしていて、さぞこんな自分のことを愚かしく思っていたことだろう。

 

 暫しして、レダは鼻でため息をついていく。そしておもむろに立ち上がっていくと、次にも彼女はそれを提案してきたのだ。

 

「ちょっと思い出したことがあって、少しだけ控室に寄りたいのよ。カンキ君、あなたを一人にするわけにもいかないし、これからわたしと一緒に来てくれないかしら~?」

 

「……いかがわしいことのお誘いじゃないよね?」

 

「違うわよぉ。衣装。わたしのタキシードを取りに行きたいの。今着ているやつをクリーニングに出したいなぁって思ったのよ。意外とかさばるから、荷物持ちがいてくれると助かるんだけどぉ~?」

 

「なるほど、荷物持ちね。それなら喜んでついていくよ。俺にできることなら手伝いたいからさ」

 

「ウフフ、カンキ君ならそう言ってくれると思ったわぁ」

 

 こちらへ歩み寄り、妖艶に笑んでみせたレダ。彼女は獲物を捉えるような瞳で誘惑的に視線を投げ掛けてくると、テーブルにソッと添えた右手を滑らかに動かしつつ、しかしどこか卑猥な印象を与える指の動きでこちらへと手を差し伸べてきた。

 

 

 

 控室に向かうべく、レダと共に店内を歩き出した自分。

 その際にも、彼女は周囲に見せ付けるようこちらの手を引いて先導してくれていた。これによって周囲からやけに注目を集めてしまい、自分は何か思われそうだなと、そんな不安を少し抱いてしまいながらもレダのあとをついていく。

 

 と、真っ直ぐ控室を目指していた進路の先にて、凹型の業務用ソファで接客を行っていたラミアのテーブルを通り過ぎる。……かと思いきやレダはそこで足を止めて、振り返るなりそのテーブルで談笑を交わしていた六名ほどのサラリーマンのグループへと、欲情を煽る声音で喋り掛けていったのだ。

 

「あらぁ、随分と楽しそうにしているじゃな~い? 何のお話しをしていたのかしらぁ?」

 

 レダの声に、一同が振り向いてくる。この視線を受けてなのか、次にもレダは近くに座っていた一人の男性の背後へと回り込み、直後にも彼の背中にその豊満な乳を擦り付けながら、男性の頬を右手で艶やかに撫で掛けつつ言葉を続けてきた。

 

「自分の娘さんくらいの女の子とお話しすることも楽しいのでしょうけれども、やっぱりお父さん達も立派なオトナなんですから、こういう男女の色欲でしか得られない刺激なんかも時には欲しくなったりするんじゃな~い?」

 

 背中のたわわな感触に、男性は気恥ずかしさから俯いてしまった。

 この誘惑を前にして、ラミアが「あのー、ちょっとレダさーん。今日はオフなんですから、ウチのお客を取らないでくれますー??」と若干キレ気味に呼び掛けていく。これに対してレダは意地悪な微笑を見せてくると、自身の乳袋を一層と擦り付けていきながら、男性の耳元で艶やかに囁いてみせたのだ。

 

「ウフフ……あなた、さては童貞でしょう? 反応とか雰囲気とか、あと匂いで何となぁく、わかっちゃうのよねぇ。……ねぇお兄さん。次に来店してくれた時にぃ、もしわたしのことを指名してくれたらぁ~……わたし、同伴先でしてあげちゃおうかな~? お兄さんの、筆おろし。……ウフフ、どう? 約束してくれる~?」

 

 ウブなオトコが好物と言うだけあって、レダは直感で発見した獲物へとかぶり付くようそれらの言葉を浴びせていく。この耐え切ることなど不可能に等しい刺激的な誘惑に男性は、顔を赤らめながらも控えめな声で「ぁ、ハイ……まぁ、じゃあ、指名します……次……」と言って、更に俯いてしまった。

 

 レダの誘惑に、周囲の男性陣もノリ気な様子を見せていく。そうしてセクハラまがいの言葉が飛び交うレダの領域があっという間に出来上がったことによって、この場を支配していたラミアは敵対する眼差しを彼女に向けながらそれを喋り始めた。

 

「ちょっとレダさん。お客の横領はウチの売上に影響出るんでやめてください。アレですね。他人のお客を、ご自慢のおカラダで誘惑するコトでしか、ごジブンのお得意様を集められないなんて、レダさんもとんだヘタレさんになっちゃったモンですねー。こーいうモノは人間性で真っ向勝負するモンですよ??」

 

「あらごめんなさぁい、ちょっと大人げなかったかしらぁ? ウフフ、わたしも罪深いオンナになっちゃったわねぇ。男性諸君を魅了することしかできないカラダだなんて、あーあ、日常的にいかがわしい目を向けられて本当、困っちゃ~う」

 

 屈んでいた姿勢を持ち上げて、乳をユサッと意図的に揺らしながら佇み始めたレダ。その表情は優越感に浸っており、彼女の様子にラミアは余計にその額へ血管を浮かばせていく。

 

 だが、敵対心丸出しなラミアを他所にして、次にもレダは先ほどの男性の両肩に両手を乗せながら、再度と屈んで目の高さを合わせ、囁くというよりは周囲に聞こえるような声でそれを喋り出していったのだ。

 

「でもねぇ、抱き心地の良さで言ったら、あのコもわたしに劣ってなんかいないわよぉ? そりゃあ出るべき場所は出ていないけれども、あのコはこのお店で一番とも言えるほど自分磨きに徹している、根は真面目なタイプなの。だから、お肌はツヤツヤで若々しいし、スタイルも幼げを売りにした合法ロリ体型だし、お胸は控えめだけど乳首の色は薄いピンク色でとても綺麗だし、やっぱり一番は“アソコ”の清潔感でしょうねぇ。同伴でいつ誰に見られてもいいようにって、ラミアはカラダのケアを欠かしたことが一度も無い律儀なホステスなんだから。まぁ、もちろんわたしが一番でしょうけれども、男性諸君、良かったらラミアの相手もしてあげてちょうだいねぇ?」

 

 考える間もなくスラスラと言葉を述べてきたレダのプレゼン。ラミアを理解しているからこその自然な売り込みを急にぶっ込んできた彼女の行為に、自分もラミアも呆然といった表情でただただレダのことを見遣ってしまう。

 

 で、レダのプレゼンを耳にしてからか、男性陣の意識は次第とラミアに向かい始めていく。特に合法ロリ体型という言葉は彼らに背徳的な刺激を与えたらしく、ラミアとの同伴を望む声が次々と挙がり出していた。

 

 その様子を外野で眺めていたレダは、最後にウブな男性へと「あなたからの指名、待ってるわよ」の一言を残してから、待たせていた自分を連れて存在感を消すよう音も無く控室へと歩き出していった。

 

 後日になって聞いた話では、この日で一番の売上を記録したのがラミアだったとのこと。それを聞いて真っ先と思い浮かんだ場面が、先にも交わされたレダとのやり取りだった。

 

 そうして控室に到着した自分らは、レダが持ってきたタキシード入りのガーメントケースだけを持って会場へと引き返していく。その道中でも、見渡すばかりのテーブルで接客が行われていく光景を目にしながら進んでいくと、そこで通りすがろうとした女性客の集まるテーブルの真横まで来て、レダはまたしても足を止めていった。

 

 女性客を専門とするユノのテーブルには、凹型の業務用ソファに五名程度のOLというキャバレーとしては珍しい景色が広がっていた。そこには、女帝の如き威厳ある美しいホステスから与えられる安心感で癒されようという、知る人ぞ知る癒しスポットとして常連の女性客が並んでいたものだ。

 

 この日も、ユノの凛々しくありながらも親身となって聞き役に徹してくれる接客態度に、女性客はお酒の入ったコップを片手に笑ったり、泣いたり、時には怒ったりなんかもしていた。それは主として、職場や家庭などで蓄積した鬱憤をユノに聞いてもらい、それに対してユノは女性客に共感し、労わりの言葉を投げ掛けてから、今の気分に合った飲み物を勧めたり、時には頭を撫でたりなどして絶対的な安心感をもたらしていくというもの。

 

 女性客が抱く日頃の不満と真正面から向かい合ってくれるその姿勢が、女性客にとっての救いになっていたことだろう。常に店内売上の上位を独占するユノの商売方法は、そうして客に寄り添うスタイルで成り立っていたこともまた事実。

 

 そんなユノのテーブルでレダが立ち止まり、自分は内心で「また何かするつもりなのかな……」という不安を呟いていく。そして、予想通りとも言うべきかレダはその席に近付いていくと、コップを手に持って泣いていた女性客と、彼女の隣に座るユノへと言葉を投げ掛けていったのだ。

 

「ユノさんも大変ねぇ。今日もずっと相談に付き合わされて、さぞお疲れでしょう~? そんな商売で売上一位を出し続けていても、こんな、愚痴を延々と聞かされる毎日なんかを送っていたら、いずれはあなたが病んでしまうかもしれないわねぇ。そうしたらもう、あなたはこのお店で大好きな一位でいられなくなるでしょうに。身を削ってまで、よくやるわよ。本当に」

 

「レダ。それが私に対する労わりの言葉であるのならば、道徳に沿った意味合いを含む言葉を選びなさい。敢えて毒を孕んだその物言いは、耳にした第三者にあらぬ誤解を持たせることになるわ」

 

「ウフフ、いいわねぇ大人気のホステスさんは。心にも余裕がある分、こうして要らない説教も垂れてくるんだから」

 

 どこか憎まれ口な調子で喋るレダは、その視線をユノから隣の女性客へと向けていく。

 泣いていた彼女は、レダのことを快く思わない目で見ていたものだ。しかしレダはお構いなしと言わんばかりに、妖艶ながらも悪だくみをするような表情で言葉を投げ掛けていった。

 

「聞こえてきたわよぉ? 何やら気になるお相手がいらっしゃるのだとか。……でも、お出掛けにお誘いする勇気を出せない自分に嫌気が差して、自己嫌悪に陥っているみたいじゃない。まぁ当然よねぇ。誘えないだけで泣き出しちゃうほどの奥手なその性格、あなたは正真正銘の臆病者よ」

 

 人格が変わったかのように、女性客へと攻撃し始めたレダ。これにユノが「レダ、口を慎みなさい」と鋭い調子で注意を行ってくるのだが、そうして横から口を出してきたユノへと向いたレダは次の瞬間にも、ソファに座る彼女へと後ろから覆い被さり、そしてあろうことか客の目の前でユノの唇を奪ってみせたのだ。

 

 ユノの顔を手で無理やり持ち上げて、強引に絡めた舌で上を向かせた女帝の口をこじ開けていく。ユノはユノでレダの熱烈なアプローチに応えるようそのキスに興じていき、二人は客の目の前でありながらも、液体が交わる音を響かせる濃密な口づけを交わしていったものだ。

 

 暫しと続いた、ホステス同士の官能的な接吻。加えて、ユノのシャツへと手を伸ばしたレダは赤色のそれのボタンをゆっくりと外していき、ユノの黒色のレースのインナーへと手を突っ込んでから、何の躊躇いもなく彼女の乳を揉みしだき出す。

 

 あまりにも唐突な出来事を前にして、周囲の女性客は理解が追い付かないと言わんばかりに、ただただ眼前の光景を見守る他なかった。

 

 しばらくして、共に満足したのだろう二人の唇がゆっくりと離れ出していく。

 二人の間には、双方を繋ぐ唾液の糸が引いていた。それが照明の輝きによってキラキラと光を帯びていた中で、恍惚とした表情のユノがレダに対し、凛々しくありながらも声量を抑え込んだ調子でその言葉を口にしていった。

 

「……レダ、場所を弁えなさい」

 

「ウフフ。とても引き締まっていて、ハリと弾力のある柔らかな唇……。ユノさんとのキスは心地良くって、わたし大好きよ~。そういうわけで、ご馳走様」

 

 女帝に引けを取らないとも言うべきか。レダの行為に周囲はちょっとだけ彼女の見る目を変えていくのだが、一人だけ、レダの行いに穏やかじゃない様相の人物が存在していた。

 

 ユノの隣に座っている、先ほどまで泣いていたその女性客。レダに辛辣な言葉を掛けられた彼女は魂が抜けたような表情で硬直してしまっており、そんな女性客を見遣ったレダは彼女の肩に手を置きつつ、淡々とした調子でそれを喋り出していった。

 

「奥手な自分に嫌気が差す気持ちくらい、わたしにもよく分かるわよ。けれども、自分がそうして行動を躊躇っている間も、時間や相手はあなたのことを待ってくれているわけじゃない。勇気が出せずに踏み出せないでいる間にも、あなたが想う相手はもしかしたら、他の誰かと結ばれるかもしれないのよ。だから、後になって後悔するくらいならば今、この時だけでも勇気を出して、その相手を遊びに誘ってみてもいいんじゃないの……って、わたしは思うけれどね」

 

 レダから掛けられたその言葉と、真っ直ぐ向かい合っていった女性客。彼女は瞬きすらも忘れたその意識でレダを直視していくのだが、レダは言いたいことを言い終えると共にして置いていた手を彼女の肩から離していき、淡泊な表情のままユノのいるテーブルから歩き去っていく。

 

 レダはすぐにも、少し遠くで待っていたこちらと合流して「さぁ、戻りましょう?」と艶やかに喋り出してきた。これに自分も「わ、わかった」と返事をしてから、彼女と一緒に自分達の席へと向かっていった。

 

 その間にも、後ろの席からはユノを同伴に誘う女性客の声が聞こえてきたものだ。

 

 

 

 

 

 一連の出来事を介しながら、自分らの席に戻ってきた自分とレダ。持ってきたガーメントケースを脇に置き、二人で椅子に腰を掛けてから一息ついて落ち着いていく。

 

 ……こうして一段落した空気になったところで、自分はレダへとそれを話し掛けてみた。

 

「レダ、自分を悪者として仕立て上げなくてもいいんじゃないかな」

 

「……ウフフ、何のことかしら?」

 

 こちらに向いてきたレダが、不敵に微笑んでくる。その目つきや口元が艶やかに色気を放ってくる中で、自分は一連の出来事で思ったことを言葉にしていった。

 

「相手を敢えて煽ったりしているのって、その相手を後押しするためにやっていることなんだよね。それをわざわざ遠回しな手段でやっているのを見ていてさ、そんな、代わりにレダが嫌われるようなことは別にしなくてもいいんじゃないのかなって、俺は思っちゃったんだけど……」

 

「その役が、わたしにお似合いなだけなのよ。わたしは憎まれ役。このカラダで嫉妬を向けられて、身に覚えのない恨みを買って評判を下げられるだけの負のオンナ。周囲はわたしという存在のことを、疎ましく、そして気に食わなく思っていたでしょうね。……誰かのためを思って起こした行動も、見た目が不純だからって理由で感謝どころかあらぬ疑いをかけられてきた。前にもそんなことをカンキ君に話したりしたけれど、わたしのこれまでの人生はね、憎まれ役というレッテルによって成り立っていたものだったのよ」

 

「だからって、そんな卑下しなくても……」

 

「卑下? 違うわよ。事実よ、事実。少なくとも、これまで生きてきた中ではそのような経験しかしてこなかったから、それ以外の手段や方法なんか知らないし、今の状況から変わろうとも思えない。いえ……もう、変われないのよ。わたしはこの先も憎まれ役として生きていく。そう、相場が決まっているのよ。世間じゃあね」

 

 嘲笑混じりに喋るレダは、一通りと喋った後に視線を逸らして口を噤んでいく。その際にも見せた虚しげな表情の横顔がやけに印象的だったことから、自分はそこから暫しと考えを巡らせた後に、唐突でありながらも彼女へとそれを提案してみたのだ。

 

「レダ、同伴しない?」

 

「同伴? ウフフ、カンキ君から誘ってくれるだなんて、なんだか珍しいじゃな~い?」

 

「レダと二人だけで過ごす時間が欲しくなっちゃってさ」

 

「ウフフ、そう? それじゃあ~……しましょっか、同伴。カンキ君はどんなアプローチで夜のお誘いをしてくれるのかしらぁ。カンキ君のデートプランが今から楽しみだわ~」

 

「まぁ……レダがその気でいてくれるのなら、そのつもりでどこかお出掛けしよっか」

 

 艶やかに話すレダを見て、自分は改めて彼女を大切にしようと決心した。

 

 レダが楽しいと思える場所に連れていってあげよう。レダが満足できるような何かを体験させてあげよう。彼女の要求にはできる範囲で応えてあげたいし、それで彼女が笑ってくれれば自分としても喜ばしく思えてくる。

 

 自分に何ができるかなんて分からない。ただ、自分から手を差し伸べたことによって、もしかしたらレダは何かを発見できるかもしれない。そんな可能性に賭けてみたいなと思った時には既に、自分から同伴のお誘いをしてしまっていた。

 

 久方ぶりとなる、レダとの同伴。その提案をしてからというもの、自分とレダは何処に出掛けるかなどの話し合いで、この日の夜を過ごしたものだった。

 

 次回はレダとの同伴だ。それも、メーに続く濃厚な夜の予感がする同伴になることだろう……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。